バッドエンドの未来から来た二人の娘 作:アステカのキャスター
まだだ、まだ戦いではない!!
とりあえずフィールちゃん、クリストフさんにフラグ建てました!単純にこの2人の絡みを書いてみたいのもあるが、それはまた今度!!
感想くれた『朝日水琴』さん、『坂田 歩』さん、『エクソダス』さん、『七日 八月』さん、『huntfield』さん、『MTST』さん、ありがとうございます!本当感想が僕の作品を書く生き甲斐となります!!
良かったら感想、評価をお願い致します。
あの魔導兵団戦から2日。
学院はレオスとシスティーナの結婚の話題で持ちきりだった。
だが、二組を含む何人かが、何かおかしいと感じており、システィーナに問い詰めても影のある笑顔でやんわりと結婚話を肯定するだけだ。
「やぁ、システィーナ。すいませんが式の打ち合わせが……」
「えぇ……」
二組の教室に訪れたレオスがにこやかな顔でシスティーナを連れて教室を後にする。その様子にリィエルは少し後ろ姿を睨んでいた。
「ルミア……アイツ……斬っていい? ……アイツは……きっと、敵」
「駄目だよ!」
リィエルはただ感情のままにレオスに突撃しようとしたリィエルをルミアが慌てて引き止める。ただ、感情を読み取るのに疎いリィエルにもシスティーナが何かされたのは理解できた
「……もう少しだけ待ってあげて……きっと先生やフィールさんが……」
ルミアは2日前、グレンにシスティーナの突然のレオスとの結婚に嫌な予感を感じ、グレンに直接相談したのだが──―
「でも、グレンは2日前からどっか行った。セラも重傷でその後行方不明、フィールも昨日からいなくなってるし……」
「……」
リィエルの言う通り、グレンは2日前から姿を消しており、セラは何故か重症だったらしく、目を覚さないと報告があったのち行方不明になった。フィールも何故か昨日から学院に来ていないのだ。家にも行ったが留守だった為、その足取りは不明のままだ。
「大丈夫……信じて待とう……」
ルミアは自身の不安を押し殺すように、リィエルに言い聞かせた。ルミアも少しだけ気付いていた。違和感と言うより、まるで蜘蛛の糸に引っかかっているような、そんな感覚が。
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とある隠れ家でフィールは魔導具を作っていた。
ジャティスの考えは大体分かる。未来を予測する同士、条件は五分と言ったところだが、ジャティス自身がフィールの戦闘能力を理解している訳じゃない。
魔術付与が終わり、次の道具に手を出す。
それを繰り返す前にフィールはため息をついた。
「……何で居るんですかバーナードさん」
「なあに、ただの休憩がてら美少女の顔を見に来ただけじゃ」
「クリストフさんまで、大丈夫なんですか?」
「普通は駄目です。まあ連絡する事と含めて30分だけなら、と考えました。いきなり訪問してすみません」
「いえいえ、大丈夫ですよ。クリストフさんなら」
「儂の扱い雑じゃない!?」
日頃の行いから言ってくださいと辛辣なセリフを吐いて、秒針に細かい魔術付与をしていくフィール。
突如、隠れ家に来たバーナードとクリストフ。何でも捜索中にフィールを見つけたので報告と言って部屋に上がってきた。紅茶は出したが帰る気配なし。バーナードさんが。
ジャティスが動くとするなら、システィーナの結婚式。レオスに化けているジャティスの近くにセラを置く事は出来ず、奴の思考回路からセラ先生を離すためにフィールが用意していた隠れ家にセラを寝かせていた。
「何で隠れ家の場所を知ってるのかは聞きませんけど。任務の方は?」
「大した進展無しじゃ。フィールちゃんが倒した奴等は間違いなく『
「……そうですか」
まあジャティスの事だ。用意周到なアイツが手掛かりと言う手掛かりを残す筈が無い。非常に気に入らないが、同じ未来を観測する同士、フィールにはジャティスの考えがある程度分かる。
「フィールちゃんや。そろそろ休んだらどうじゃ? 隈出来とるぞ」
「セラ先生が目を覚さない中で呑気に寝ていられる程尻軽な女じゃないんで、てかバーナードさん達も出した紅茶飲んだなら調査に行ってください。ここは喫茶店じゃないんですよ」
「……分かったわい。じゃあクリ坊置いておくからお爺ちゃん行ってくるわい」
「ちょっ!? バーナードさん!?」
フィールは半端聞く耳持たずに作業を続ける。
フィールから離れた所で耳打ちで抗議するクリストフ。セラが寝ている中で、フィールはワイシャツに長めのスカートを履いて、作業をしている中に自分を置いておく理由が分からない。
「何で僕を取り残すんですか! 調査や索敵ならバーナードさんより僕の方が上でしょう!!」
「馬鹿野郎! レディーを守ってこその
「それとこれとは話が別でしょうが! ならバーナードさんが残ってくださいよ!!」
「それこそお主は馬鹿か! こんな白髪のお爺ちゃんみたいなのが悩みに悩んでいる少女を慰めるなんて出来る訳ないじゃろうがあああああああ!!」
「……自覚あったんですね」
深いため息をついて哀れむクリストフにバーナードは泣いた。バーナードが過去にモテていた事はある(多分)。
だが、今は歳を取り、今や白髪で散りゆく髪を気にする年齢(多分)。そんなゴリムキ♡老人が可憐な少女フィールを慰めろとか、犯罪臭が凄い。警備兵待った無しだ。
「まあ、とりあえずフィールちゃんを休ませるんじゃ、精神的にも辛い状態であの調子だと倒れかねんしのぉ」
「でも、何で僕が……」
「単純にクリ坊が適任だと思っただけじゃよ」
単純にフィールは人と距離を置いている。
正確に言うなら深く踏み込まないし、一人で全て解決する事が出来るだろう。それはいい事でもあるが、同時に誰も信用していないし期待していないとも取れる。
そう言った人間の末路をバーナードは理解していた。クリストフやアルベルトは信頼はしているのだろう。
だが、信用ともなれば話は別だ。信頼と信用は全く別。信用していないのはあくまで、結末を知っているからこそ、誰かが裏切るのかもしれない疑心暗鬼の状態だからこそかもしれない。
だが、今は仲間である以上任務で殺されたなんて事は聞きたくない。バーナードは分かっていた。
「まあ、後は任せい。何かあったら連絡するし」
「ハァ……分かりました。気を付けて行ってください」
「了解じゃ……あっ、あとクリ坊」
「?」
「手は……出すなよ?」
「さっさと行け! エロジジイ!!」
思わず素が出てしまったクリストフ。
そのギャップにフィールが思わず作業の手を止めてクリストフの方を見ていた。目はトロンとした顔で眠たそうだ。目を瞑れば直ぐに寝てしまうんじゃないかと言うくらい。
「……クリストフさんってそっちが素なんですね」
「……恥ずかしながら」
「まあカッコいいとは思いますけど」
「へっ?」
椅子を立って次の作業に入ろうとした瞬間、景色がぐらついた。頭が回らないし、考える事が辛くなってきた。睡眠不足や、ジャティスの策略から外れているか分からない状態でずっと警戒し、不眠不休で魔導具作成なんてしていればこうなる。
倒れそうになるのをクリストフが支える。どうやら、フィールも限界らしい。
「だ、大丈夫ですか!?」
「あー、少し眠気が……ただあと少しだけ……」
「無理しないでください。ちゃんと睡眠もとって無いですよね?」
「……まだ、でも……」
「戦う時に倒れたら元も子もありません! それに、セラさん達が無理をさせてると知ったらどう思うか、分からない貴女でも無いでしょ!?」
その言葉を聞いてフィールは道具に伸ばしていた手を下ろし、クリストフに身体を預けたまま眠ってしまっていた。精神的にも辛かったのだろう。セラが死にかけて、それを考えないようにただ道具を作って気持ちを偽って、疲れていたのだろう。
「全く、無茶し過ぎですよ……幾ら地獄を見てきたからって、僕が言える事ではないですが、貴女はまだ子供なんですから」
全体重で倒れ込んだフィールの胸が当たり、少し頬を赤くしていたが、平常心を保ちながらクリストフは床にタオルを敷いて、フィールを運び、毛布をかけて寝かせていた。
ベッドはセラが使っているので仕方がないので床で寝かせるしかなかった。この家はテーブルはあるのにソファーのようなものがない。
ため息をつきながら家の周りに隠蔽工作の結界を張り、クリストフは自分のマフラーを外し、折り畳んでフィールの枕替わりにして作っていた魔導具を見ていた。
「……ん」
どうやら寝てしまっていたみたいだ。
二徹もすれば流石にこうなる。バッドエンドの世界では睡眠は1番気を付けていたのに……気を張り詰め過ぎていたみたいだ。
「……マフラーに、作り置き?」
自分が枕にしていたのが、見覚えのあるマフラーとキッチンにはまだ少し暖かいシチューが作り置きされていた。
「クリストフさんに……迷惑かけてたようね」
ベッドに寝る未だ意識の戻らないセラの額を撫でて、近くにあった簡潔に書かれていたメモを見る。『良かったら食べてください』とクリストフが作ってくれたのだろう。
フィールはコンロを捻り、シチューを温め直す。
ここは隠れ家だ。食材も大したものは無かった筈だが……
「……美味しい」
ただ少しだけ、その美味しさに驚いていた。
クリストフさんってやっぱり凄いんだなと再認識した瞬間だった。
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3日が経った。システィーナとレオスの結婚式だ。
二組の生徒たちが話し合っている中、結婚式の開始を告げる鐘が鳴り響いた。そして、ついにシスティーナとレオスの結婚式が始まった。
花婿姿のレオスと花嫁姿のシスティーナが祭壇の前に立つ。そして、司祭による聖書朗読が始まる。そして、粛々と式は進んでいき、誓約の儀へと移行する。
「レオス=クライトス。汝、健やかなるときも、病める時も、喜びの時も、悲しみの時も、富める時も、貧しき時も、これを愛し、敬い、慰め、助け、共に支えあい、その命ある限り、永久に真心を尽くすことを誓いますか?」
「誓います」
レオスが宣誓する。
ルミアもリィエルも納得がいかない状況の中、システィーナを見る。そこにあったのは笑顔ではなく観念だった。
「システィーナ=フィーベル。汝、健やかなるときも、病める時も、喜びの時も、悲しみの時も、富める時も、貧しき時も、これを愛し、敬い、慰め、助け、共に支えあい、その命ある限り、永久に真心を尽くすことを誓いますか?」
「…………誓います」
システィーナが一瞬の沈黙の後、俯きながら、小さく宣誓した。
「今日と言う佳き日に、大いなる主と、愛する隣人の立会いの下、今、此処に二人の誓約は為された。神の祝福があらんことを──ー」
そして司祭が締めの祝詞に入る。その時だった。
「異議ありじゃボケエエエエェ!!!」
突如、式場の扉がバンッ!! と開かれた。その大きな音に参列していた人々は一斉にその方へ向く。
そこには普段だらしなく着崩している魔術学院の講師用ローブをきっちりと着こなしたグレンの姿がそこにはあった。
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システィーナの結婚式の時刻に、フィールは隠れ家の前に佇んでいた。空を見ながら、ジャティスの考えをトレースする。客観的、状況的に考えたジャティスの策略を予測する。
「私の予想ならジャティスの狙いはグレン先生、そしてグレン先生はシスティーナを救う為に動く、クラスメイトにはリィエルが居るし、ルミアの守護でバーナードさん達が駆け付ける。そして私には」
ぞろぞろと中毒者達が現れていた。
その数は200はくだらないだろう。狙いはセラとフィール。フィールは単純に邪魔な存在、セラはグレンを戻す為の材料扱い。
「中毒者をぶつけて時間稼ぎ。グレン先生との対決の邪魔をさせないつもりね」
お互いそこまで
セラを守りながらの戦闘になれば、私を足止め出来ると思ったようだ。そして、
だからこそ、凌駕しろ。
今までの甘い考えを捨てろ。
世界の既存のルールに囚われるな。
『
ここがエルザの死と同じ『並行世界の事象』だ。立場や役者が変わっただけでジャティスはグレン先生を狙い、セラを殺そうとする野望は必ず止める。いよいよ全開だ。
「──さて、皆殺しだ」
その眼はまるで見ただけで凍てつかせるほど冷たく。そう決意した少女の目の前の光景は残酷で美しさすら思わせる狂気と共に血の嵐を撒き散らしていた。
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「クリ坊! フィールちゃんは!?」
「セラさんの防衛で多分家の近くです!」
リィエルが中毒者を退かせている中で、バーナードとクリストフ、アルベルトの三人はルミアの護衛の為、姿を現した。
結婚式は大波乱だ。グレン先生がシスティーナを連れ去った後にすぐさま『
「《雷槍よ》」
「《
アルベルト達はそれを的確に処理し、二組の生徒たちを避難させている。アルベルトもクリストフも直感的でしかないが嫌な予感がする。搦手に絡め取られているような嫌な感覚。
ジャティス=ロウファンの
「ちっ、数が多い」
「クリ坊! 索敵で何体くらい居るか調べい! 外から奇襲でもされたら流石に護りきれんぞ!!」
「は、はい!! 数の総数は大体300! 東に120、北80、南に100です! しかも確実に此方を目指してます!!」
「西は!?」
「現在は居ません! と言うより、さっきまで居たはずの生体反応が
それは被害地域が増えたと言う訳ではない。
単純に全ての反応が消えた理由は一つしか無い。もしやと思い、バーナードは通信用魔導具に魔力を込める。
「フィールちゃんやい! 今何処に居るんじゃ!?」
『……西の敵の大体200は殲滅した。北はやるので後は3人に任せます』
「ちょっ!?」
繋がったと思ったらそれだけ伝えて通信を切られた。
200体もいる中毒者をたった1人で殺し尽くしたのに、バーナードもアルベルト達も驚いていた。
「……フィールちゃんは北を担当するそうじゃ」
「でも、たった1人で……!」
「クリストフ、残念ながら今はそれが合理的だ。俺達も生徒たちを避難させながらの対処がある以上、人員を割く暇はない」
「分かってます! ただ……!」
バーナードが言った事が現実になるかもしれない。
フィールと言う人間が壊れてしまう可能性。今すぐに行かなければと言う衝動に突き動かされるが、冷静なアルベルトは言い放った。
「それでも、奴は死なない」
「ッ!」
「分かってるはずだ。壊れると言う訳じゃない。甘さを捨てると言う事だ。逆に言えば、任務遂行にはそちらが向いている」
それは恐らくイヴも同じ事を言うだろう。
壊れた程度で任務遂行出来ないなら最初から必要無い。だがフィールやグレンの場合は別だ。グレンの強みは《愚者》であった時の方が魔術師殺しとして強く、フィールの場合はこの世界に来てから本来の力の半分も出せず、自分の殺し方の修正に時間が掛かったのだろう。その修正している時にセラやグレン、クラスメイトが居たから修正が遅れていた。
優しさは刃を鈍らせる。
優しさを捨てれば人間として壊れてしまうが刃を尖らせる。
だが、優しさを持ちながらこの戦場を乗り切れる程、戦場は甘くない。故の壊れてしまう自分への許容が必要なのだ。
「……分かりました。避難を済ませて殲滅が終えたら援護に行きますよ」
「当然だ」
「何じゃクリ坊! フィールちゃんに惚れたか?」
「死ねクソジジイ」
「辛辣ぅ!?」
だが、許容するからと言って放っておくとは別案件だ。
中毒者の殲滅が終わればジャティス=ロウファンを捕らえる事と、グレン達を助ける為に3人は中毒者を退かせて生徒たちを守る為に全力を出し始めた。
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教会から離れ、システィーナと一緒に北の方へ逃げていた。『
いや、レオスの振りをしていた偽物。
「ジャティスゥゥウゥゥゥ!!」
「久しぶりだねぇグレン! 会いたかったよ!」
ジャティス=ロウファンは姿を現した。
レオスを殺し、ずっとこの時を待ちわびたかのようにジャティスは笑う。初めからこの男のシナリオ通りなのだ。システィーナの結婚も、セラを傷付けたのも、この状況も全てこの男の作り出した完璧なシナリオの中で自分達は転がされていたのだ。
「ふ、ふふふはははははは! そうか、漸く戻ったようだね! セラを傷付けた甲斐があったってものさ」
余裕の表情で笑い続ける。
その激しい憎悪にグレンは叫ぶ。グレンの凄まじい憤怒の形相に、システィーナは喉を小さく鳴らして後ずさった。
「テメェの狙いは俺だろ!! なんでわざわざこんな回りくどい真似をしやがった!! 何でセラや白猫を狙った!!」
蔑むように舌打ちするグレンに、今度は穏やかな表情でジャティスが言った。
「正義のためさ」
「は?」
思わず、ぽかんと口を開いて忘我するグレン。
意味がわからない。と言うより理解が出来ない。
「分かってないようだねグレン……僕がなぜ、一年余前、あんな事件を起こしたかわかるかい?」
話に全くついていけない。だがグレンはどうしようもなく理解した。この、目の前で誇らしげな顔をしている男は──
「正義のためさ」
意味がわからない。
だがジャティス=ロウファンはこんな地獄絵図が、この事件が正義の為だと本気で言い放ったのだ。片手に握られた『魔銃ペネトレイター』を握りしめ、怒りに震えていた。
「ふざけんなよ、テメェ……これが正義だと? レオスを
「ああ、正義さ。彼らは揺るぎない『正義』を証明する礎になれるんだ。痛ましいことだが……必要な犠牲だったんだ」
「俺達を襲った中毒者連中は何の罪も関係もない一般市民だったはずだ。そいつらを犠牲にしてでも歩む事が正義だと?」
「ああ、正義さ。例え、その歩む道がどんなに罪深く血に塗れていようとも、辿り着く先に理想が存在するなら、それは正しい道だ」
グレンの問いに余裕の表情で答えるジャティス。
それはまるで、今の惨劇が当たり前と言うように。
「俺達とはまるで関係のない、白猫を狙わせたのも」
「ああ、正義さ。ぬるま湯にいた君にはいい
「セラを襲わせたのも」
「ああ、正義さ」
激しい怒りに耐えきれずグレンは叫んだ。
「そんな正義があるかァァァァァアア!!」
それはまるで、グレン=レーダスの目指した『正義の魔法使い』を汚されているようで。土足で夢を踏みにじられたようで、そしてそのふざけた信念でセラを傷付けた事が許せなかった。
「いいやそれが正義さ!! グレン! 君は知らないだろうけどね。この帝国は滅びなければならないんだ!! この帝国は、とある邪悪な意思の元に創られた魔国なんだ。この世にあってはならない国なんだ。ある時、僕は気付いてしまったんだよ……この世界の真実に!」
グレンは顔を顰めた。
ジャティス=ロウファンは何かを知ったのだ。知ったからこそこんな事をしている。世界の真実に気付いた、一体何に気付いたのかグレンは理解出来なかった。
「本当の悪がなんなのか……気付いてしまったからには、それを見て見ぬ振りをするのは偽善者だ! ……そうだろう? それは僕の正義が許さない──!」
ジャティスの正義。
正義は崇高なモノだ。故に殺人は肯定される。善行と言う形をした悪は正当化され、悪を裁く裁定者となる。それがジャティスの正義。グレンの正義とは大違いだ。
「故に僕は一年余前、正義を執行した! この国を持ち上げ、与する偽善者達を、片端から始末することにした。やがて内部からこの国を滅ぼすために。まぁ焼け石に水だけど……善行とはまず、自分が出来ることから始めるべきだ。そうだろう?」
帝国政府の重鎮や宮廷魔導師を殺し尽くした。
この国に生まれたからには罪が無いと自称しようがお構いなしに悪と決めつけ断罪していく。
「だが、宮廷魔導師団にいた頃、君と任務をした時どうしようもなく思ってしまったんだよ!! ああ、この男は間違いなく『正義の魔法使い』としての僕と変わらない信念を持っていると!! 君ほど特異な魔術師はいない! 100回戦って99回負ける勝負でも君は必ず1回目で勝利する!! それを見て思った! 正義を貫いたこの僕が、この強大な壁を前にして正義を貫けるのか? とね!!」
この男は自分の夢と同じ信念を持った人間、つまりグレンを認めていた。認めていたからこそ気に食わないのだ。全てを守ろうとするグレンと犠牲を伴っても悪を殺すジャティスでは正反対。
いや、だからこそ……
「故にこれは『挑戦』なんだよグレン!! 君の正義と僕の正義、どちらが上か! 今回の君との戦いで証明する!」
ジャティスにとってコレは
『試練』であり、己が正義を証明する戦いなのだ。
「そして君を倒し僕は『
狂っている。
狂おしい程の正義感にシスティーナは震えていた。この男は狂人なのに何処か神聖さを醸し出し、それに畏怖している自分がいる。だがそんな自分を認めたくなくて、否定しようとすれば吐き気がする。
『正義の魔法使い』としてこの男は狂いながらも純粋なのだ。現実を考えればもしかしたらコレが正しい形の意味だとしたら、一体『正義の魔法使い』とは何なのか震えて仕方ない。
「悪いな、白猫。ここから去れ」
「え……?」
「済まなかったな。俺のツケでお前を巻き込んじまって、お前はここに居ていい場所じゃない」
「同感だ。むしろ消えてくれないか? 僕とグレンとの決着に邪魔するなら……殺す」
「ヒッ!?」
「此処は任せろ、行けっ!!」
グレンの叫びにシスティーナは背を向けて逃げてしまった。その背中を見て小さく「達者でな」と呟いたグレンはジャティスを見据え『魔銃ペネトレイター』を握りしめた。
「……今度こそ殺してやるよ! ジャティスゥゥウゥゥゥ!!」
「来いっ! グレン!!」
両者、一斉に駆け出す。
《愚者》と《正義》による2人の対決。
『正義の魔法使い』の信念をかけた殺し合いが今、幕を開けた。