バッドエンドの未来から来た二人の娘   作:アステカのキャスター

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 長かった!ただただ長かった!(絶望)
 読者の皆様、お待たせいたしました!いよいよフィールの正体不明の力の一端が明らかに!!

 『坂田 歩』さん、『エクソダス』さん、『huntfield』さん、感想ありがとうございます!本当、作品を書く励みになっています!!

 良かったら感想、評価お願い致します!では行こう!!



 




第18話

 とある隠れ家に強力な結界が張られていた。

 それは外部からの侵入を一切許さない城塞結界。クリストフの張る結界魔術には及ばないが、魔術を使えない人間の侵入は許さないくらいの力はある。

 

 その結界の中で眠る銀髪の風の巫女。

 

時の奉天(クロノ・カタストロフ)】によって死ぬ筈だったシナリオから生きる事が出来た人間が……

 

 

「…………う……ん……?」

 

 

 今、目を覚まそうとしていた。

 

 

 ────────────────────

 

 

 ジャティスのシナリオからは逃げられない。配役も決まり、全員がそれに従って動かねばならない。

 

 奴等はセラを狙う。そうすればフィールは防衛に回らざる得ない。ジャティスのシナリオ通り、フィール=レーダスならシナリオ通りに防衛に回らざる得なかっただろう。

 

 だが、シナリオ通りに物事は進むとは限らない。

 計画や予測はその人間の気持ち次第で驚く程外れる。

 

 

「《雷槍よ––––》《打ち砕け》」

 

 

 同時起動した【ライトニング・ピアス】の十連射が放たれる。それはゲームオーバーからの起死回生の一手。全ての弾丸を撃ち落としたあの頃と同じ精度で撃ち砕いた。

 

 以前なら不可能だっただろう。弱さを持った少女では不可能だった。だが、弱さを、甘さを捨てた少女を凌駕した。()()()()()()()()()()()()()()()だ。

 

 

「間に合った」

 

 

 故に、今を凌駕したフィールはジャティスのシナリオを超えたのだ。紫色のマフラーを巻き、帝国宮廷魔導師団のコートを着た少女は空高くから見下ろす男を睨み付ける。

 

 

「––––漸く、此処まで来たぞ。ジャティス=ロウファン」

 

 

 血濡れた魔剣と魔銃を握り締め、ジャティスが殺そうとした2人の目の前に立ち塞がった。

 

 

 ────────────────────

 

 

「っ……! クソが……!」

「……ハァ……ハァ……!」

 

 

 とある裏路地で、グレンは右の二の腕の傷を左手で押さえながら建物の壁に座り込んでいた。隣でシスティーナが必死に治癒魔術を使っているが、本人も顔が青白く足元も於保ついていない。

 

 

「白猫……やっぱお前だけでも逃げろ……お前が戻ってきてくれた事だけで、俺は十分だ」

「嫌です!! 先生は一緒に帰るって言ったでしょ!!」

 

 

 システィーナは涙を流しそう言うが、それは恐らく叶わないだろう。

 最初はジャスティスとシスティーナとの協力によって戦うことが出来ていた。

 

 だが、ジャスティスが本気を出し始めた途端、手も足も出なくなったのは、ジャティスがグレン達の未来を()()()()()()()()()からだろう。想定外の修正力にグレン達は成す術なく力尽きていた。

 

 元々グレンは魔術師としては三流だ。固有魔術(オリジナル)の『愚者の世界』と周到な準備があって魔術師殺しとして戦える。

 

 しかし今はもう使える手は殆ど使い切った。魔銃ペネトレイターの弾は既に使い切り、『イヴ・カイズルの玉薬』も今のジャティスには当たらない。弾を込める前に殺される。

 

『愚者の世界』の魔術式が埋め込まれたタロットカードのみ。それにシスティーナもこれ以上魔術を使えるほど魔力も残っておらず、マナ欠乏症に至っている。

 

 

 

「さて……グレン、僕達の宿命に決着をつけようじゃないか?」

 

 

 ジャスティスはそう言いながら指をならす。

 ジャスティスの周りに四体の人工精霊(タルパ)

彼女の御使い(ハーズ・エンジェル)・銃刑】を呼び出した。その四体はマスケット銃を構えており、それらの狙いはすべて2人へと向いていた。

 

 

「ジャスティス……俺を殺すのは構わねぇ……ただ一つ頼む。こいつは生かしてくれないか?」

「っ!? 先生!!」

 

 

 システィーナがグレンに手を出させないように抱き締めているが、もうこの状況をひっくり返す事は出来ない。援軍も来ないのは全てジャティスのシナリオ通りに事が動いてしまっているからだ。

 

 

「良いだろうグレン。君の最後の願いだ、聞き入れよう」

 

 

 ジャスティスは指を少し動かすと、

彼女の御使い(ハーズ・エンジェル)・銃刑】の一体がシスティーナをグレンから引き離す。マナ欠乏症に陥っているシスティーナには何も出来ない。

 

 

「やめて! 離して!! 先生!!」

「悪いな白猫」

 

 

 一言だけ謝って、グレンは一度深く深呼吸した。

 手を伸ばすシスティーナに無情にも、諦めてしまったようなグレンの顔を見て叫び続ける。

 

 

「安心してくれ、グレン。そこの娘には手を出さない。そして君は苦しませずに一瞬で殺す。それが、かつて僕の正義を脅かした唯一無二の人間に対する、最大限の敬意と礼儀だ」

「……ありがとうよ。地獄に落ちろ」

「さよならだ。グレン」

 

 

 そう告げ、ジャティスが指を撃ち鳴らした。そして同時に、音が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はっ?」

 

 

 それは1年半前と同じ、マスケット銃から発射された弾丸が全て撃ち落とされた音が、グレンの目を見開かせた。それは1年前の遠距離から銃弾を撃ち落とすと言う離れ技。撃たれた弾丸計8発は降り落ちてきた紫電の閃光に全て砕け散る。

 

 

「なっ……カハッ……!?」

 

 

 2発がジャティスの胸と脇腹を貫く。

 何時も相手の思考を読み優位に立つジャティスが、予想外にも()()()()()()【ライトニング・ピアス】はジャティスの急所を外れたとは言え、小さな風穴が開いていた。

 

 

「ぐっ……! 誰だ……!!」

「間に合った」

 

 

 その姿を見たグレンは息を呑む。光を失った紅い瞳。宮廷魔導師団のコートは見る影も無いくらい血で黒く染まり、それはまるで『死』そのものを運んできた死神にも見えた。

 おびただしいほどの血。隠すこともできない死の臭い。本能的に怯えと恐怖を抱きながらも、システィーナは呟いた。

 

 

「––––漸く、此処まで来たぞ。ジャティス=ロウファン」

「……黒……猫?」

 

 

 思わず本人か疑ってしまうくらい、その眼は冷たくてまるで別人だ。血濡れた魔剣、血濡れた魔銃、血濡れて黒く変色した紫色のマフラーが嫌でも目に付く。一体どれだけ殺せば、コレ程の死の臭いが身体に纏わり付くのか考えたくも無い。

 

 

「ぐっ……! まさか、1年半前の援護は君の仕業だったとはね」

「ああ、悪いけど私の【ライトニング・ピアス】は()()8()()()()()、銃弾の速度と比べるまでもない。弾道も、撃ち込む場所も判れば撃ち落とすなんて訳ない」

 

 

 グレンはその言葉を一瞬理解出来なかった。

 無茶苦茶だ。口で言うのは容易いが、それは豆粒と同じくらいの銃弾に合わせて【ライトニング・ピアス】を撃ち込まなければ不可能な上に、それほど小さい的が同時射出された全ての弾丸を全て並列に撃ち落とすなんて、人間業ではない。

 

 

「ああ成る程……! 君は僕と同じ()()()()()()()()()()()()わけだ!! なら、逆算して此処まで辿り着いたと言う事か!?」

「セラ先生を守る為に防衛に回ると予測したようだけど、当てが外れたようだな。セラ先生を襲うように命令した中毒者は例外なくブチ殺した。()()()()()()()()()調()()()()()()

 

 

 それはフィールを見誤っていた故の崩壊。

 もう二手程有れば、フィールを止める事は出来ただろう。自分のシナリオから外れた時点で、いや最初から外れていた。

 

 

「あ、ああ──確かに予定外だ。想定外だ。だからこそ……だからこそ許さないッ! よくも、よくもあの成就の瞬間の邪魔を……ッ!」

 

 

 ジャティスは『人工精霊(タルパ)』を多数顕現させる。

 顔色を見れば分かる。魔晶石で魔力を補充したとは言え、フィールの魔力は半分以下。こんな短時間で中毒者の殲滅が出来た時点で分かっていた。フィールは既に一度【女帝の世界】を使っている。【女帝の世界】の負荷は大きい為、1日で2度は使えない。使えたのは全盛期、全盛期の半分以下のフィールではそれこそ命を削る行為だ。

 

 だが、それがどうした。【女帝の世界】は3分も保たずとも、その前にジャティスを殺す。目を瞑り、全ての意識を詠唱に集中する。

 

 

「《暴乱の牙よ・我が道を駆けよ・空を疾く舞い踊れ》」

 

 

 詠唱を唱えた瞬間、フィールはジャティスの目の前から一瞬にして()()()()()

 

 

「……はっ?」

 

 

 否、消えたと言うより一瞬にして()()()()()()()()()()()()()()のだ。気が付けば顕現した

人工精霊(タルパ)』の半分が消え去っていた。それは人間が引き起こせる加速を超えている。街を3次元的に動き回るフィールの加速は弾丸の速度を超えている程に早過ぎる。

 

 

「ぐうぅっ!?」

 

 

 通り風を感じた瞬間、ジャティスの身体が切り裂かれた。

 通り過ぎる突風と風の刃がジャティスの体を切り裂いていく。街の壁を踏みしめて立体的に動くそれは、さながら風刃の嵐だ。

 

 

「風使いなのは予測していたが、まさかコレ程とは……!」

 

 

 黒魔改【ライアブル・ドライブ】

 フィールのみが使用を許された【ラピッド・ストリーム】の改良型。それは身体に触れた風のパラメータを自在に操り、風の鎧を纏い空を駆ける風使いとしての究極の領域。

 

 自分の半径5メトラの周囲の風を掌握し、自身には風の鎧を、そして外側には旋回する強靭な風の刃がジャティスを襲う。

 

 フィールの使うそれは【疾風脚(シュトロム)】ではない。【ラピッド・ストリーム】を連続起動するそれとは全く違う。【女帝の世界】により生まれた魔術の重ね掛けによって可能にした風使いの本領。この荒れ狂う暴風は名を付けるなら【暴風脚(テンペスト)】と言うべきかもしれない。

 

 だが、ジャティスは不敵に笑った。

 

 

「ぐっ……! 確かに速いけど、それ【ブラスト・ブロウ】並みの強風を連続起動している時点で、魔力を大量に消費してるんだろう!!」

 

 

 確かに速い。目には追えないが、予測は出来る。

 ジャティスは風を逆算し、フィールが来るであろう軌道を予測している。咄嗟とは戦場の勘は伊達じゃない。

 

 そして長期戦になれば不利なのはフィールだ。ただでさえ【女帝の世界】で身体に負荷を強いている中て、2回目を使用しているのだ。本来【ライアブル・ドライブ】は【疾風脚(シュトロム)】同士の戦いの時や、極端に速い人間にしか使わない。そもそもこの世界では魔力容量(キャパシティ)が減っているのだ。時間にして1分も保たない。

 

 

「っっ!?」

 

 

 だが、フィールの狙いはそこではない。速さで翻弄したところでジャティスの固有魔術に捕まる事は分かっていた。ありとあらゆる風のパラメータを操作すると同時に、自身の纏う風の鎧と風刃の嵐はこの広くない路地で跳躍していけばどうなるか。

 

 

「『人工精霊(タルパ)』が……!?」

 

 

 ジャティスが呼び出そうとした『人工精霊(タルパ)』が召喚出来ないのだ。そもそも『人工精霊(タルパ)』の召喚は自身のトランスハイ状態で自分の等価交換の理論を逆手に取った錬金術の召喚、それは擬似霊素粒子粉末(パラエテリオンパウダー)があってこそ成立するものだ。

 

 

「乱気流……コレが狙いか!」

 

 

 そう、フィールの狙いはその乱気流にあった。擬似霊素粒子粉末(パラエテリオンパウダー)が風で流され、等価交換に必要な領域が成立していない。【ライアブル・ドライブ】で跳躍し続けたその場は、あらゆる方向から流れる風の奔流に流され拡散していく。

 

 

「終わりだジャティス」

「っっ!! 読めなくとも方向さえ分かれば……!」

 

 

 ジャティスは自分の周りの僅かな領域に重ねて擬似霊素粒子粉末(パラエテリオンパウダー)をばら撒く事で【彼女の護り(ハーズ・シールド)】を三体顕現する。

 だが、フィールは自身に纏う風を最大出力に着地した壁を【女帝の世界】で重ね掛けした強化魔術で抉り蹴る。右手に持つ魔剣エスパーダは因果逆転の魔剣。斬る現象の結果を先に反映させて放つ防御不可の一閃。

 

 

「死ね」

「なっ……!? ガッ––––––」

 

 

 ジャティスの呼び出した盾など意味がなく砕け散り、ジャティスの身体を真っ二つに斬り裂いた。ドシャと地に倒れ落ちたジャティスの身体から血が噴き出した。

 

 

 

「うっ……!」

「見るな白猫!」

 

 

 斬り裂かれたジャティスの臓物がぶち撒けられ、それを見たシスティーナは吐き気を催していた。フィールは冷たい瞳でジャティスの死体を確認する。

 

 

「…ハァ……ハァ…」

 

 

 ジャティスの最後の足掻きも砕け、フィールは斬り裂いたジャティスの方向を見る。見るからに即死だ。大量の血がジャティスの斬り裂いた半身から流れ、血の池を作り出している。

 

 

「ハァ……終わった……」

 

 

 別の世界の敵とは言え、エルザの仇を取る事も出来た。2回目の殺害もジャティスと言う人間が弱くない事を知っていて、長期戦が不利だと考えたフィールは短時間で倒すのに全力を注いでいたのだ。

 

 そして…身体にかかる負担の波がフィールを襲った。

 

 

「……ッ!! ゴホッ……ゴホッ!!」

「黒猫!!」

 

 

 口から少なくない量の血を吐き出した。

 無理もない。【女帝の世界】を2回使ったのだ。心臓が揺さぶられたかのような動悸と汗、激しい息切れと目眩が身体を襲う。【女帝の世界】の使用はこの世界では一回が限界だったのを二回無理して使ったのだ。マナ欠乏症の代償と肉体的負荷は想像以上に身体にダメージを送っていた。

 

 

「フィール、大丈夫なの?」

「コレ全部返り血だから……システィーナ達は?」

「魔力が殆ど無いけど、私は怪我はないわ……グレン先生は」

「俺は白猫の【ライフ・アップ】でなんとかな……済まなかったな、巻き込んじまって」

「グレン先生が巻き込んだ訳じゃない。ジャティスが起こした騒動ですよ。そんな自分のせいみたいな顔しないでくださいよ」

 

 

 グレンは申し訳無さそうに自責の顔をしている。

 ジャティスとの戦いにフィールやシスティーナを巻き込んだ事に負い目があるのだろう。

 

 

「とりあえず、クリストフさん達の所に向かいましょう。時間もかなり経ったし、殲滅が終わって–––––」

 

 

 

 この後の方針を決めようとした瞬間、フィールとグレン、システィーナの間に突如現れた葡萄のようなものが浮かんでいた。

 

 

 

「–––––えっ?」

「–––––はっ?」

「っっ!? 《吹き飛べ》!!」

 

 

 マナ欠乏症に陥っている中で、フィールは2人に向けて【ゲイル・ブロウ】を放つ。葡萄は今の魔力では吹き飛ばす程の威力は出せない。2人を葡萄から引き離す事は出来たが、フィールは生前出来て【トライ・レジスト】が精一杯だった。

 

 葡萄–––いや、【彼女の怒り(ハーズ・レイジ)】はフィールの至近距離で爆発した。

 

 

「ガッ–––––!?」

 

 

 数十メトラ吹き飛んだフィールは直ぐ様体制を整えようとするが、左腕が嫌な方向に折れていた。

 

 

「『人工精霊(タルパ)』……!?」

 

 

 ジャティスの方を見る。

 ジャティスの死体はある。にも関わらず『人工精霊(タルパ)』が現れたのに驚愕する。激痛が走り顔を顰めるフィール。折れた左腕が酷い為、殆ど無い魔力で【ライフ・アップ】をかけようとした。

 

 だが、次の瞬間……

 

 

「ぐっ……!? ああああっ……!!?」

 

 

 フィールの身体の至る所が無残に切り裂かれた。

 飛び散る鮮血と、身体中を走る痛み。幸い目や首は斬れていない。だが、身体に相当な負荷がかかっていた状態で、コレだけの血の量は生命維持に影響が及ぶ程だ。

 

 

「黒猫!?」

「フィール!?」

 

 

 攻撃された原因が分からない。剣で打ち合った訳でもない、風の刃に切り裂かれた訳でもない、まるで見えないナニカに切断されたかのような……

 

 

「いやぁ、まだ生きているとはね。それは()()()()()()

 

 

 余裕のある表情で拍手を送る男が現れた。

 先程、【彼女の怒り(ハーズ・レイジ)】が爆発したその場所に現れたのは、先程フィールが確実に殺した筈の男。黒いシルクの帽子を被り、フロックコートを羽織り、切れ長の目と色白の肌の男。

 

 

「ジャ……ティス……ロウ……ファン……!?」

「君は誇っていい。この僕を()()()()()()()のだから」

 

 

 グレンは目を見開いた。

 ジャティスは一度殺された。グレン達の目の前でフィールが斬殺していた筈だ。死体だってまだそこに存在する。にも関わらず、ジャティス=ロウファンはそこに存在しているのだ。

 

 

「何でテメェが生きてやがる!? 黒猫が殺した筈だ!?」

「見くびるなよグレン。僕は錬金術師だ。自分の肉体の複製くらい朝飯前さ」

「だったら肉体はまだしも精神と霊魂はどうした!? どうやって持ってきた!? まさか、『Project:Revive Life』──ッ!?」

「それこそ、まさか。アレで出来上がるのは本質的に別人……あんな粗悪なものと一緒にしないでくれよグレン。僕は、正真正銘、本物のジャティス=ロウファンさ……」

 

 

 ジャティスは戯けて言った。

 フィールは驚愕した。気付いてしまったのだ、ジャティス=ロウファンが生きている理由。ジャティスが一体何をやったのか思わず絶句した。

 

 

「まさか…存在体質を……二つに……割った……!?」

 

 

 フィールは目を見開いた。

 確かに未来でもジャティスを殺した筈なのに、突如現れた死んだ筈のジャティスがエルザを殺していた。ただ、人形と自分を魔術で入れ替えたと思っていた。だが違う。この男は……

 

 

「そう……僕自身の存在体質……霊魂を二つに割って、二つの身体に分けた……それだけさ。何、僕自身が()()()()()()()()()()()()()こんな事をしたのは初めてだったが、どうやら必要な代償だったらしいね」

 

「ふざけんな……! お前の自我はそのままじゃねぇか!? この世界で唯一無二の自己存在を自ら二つに分けるなんて……分けたとしても、その二つはそれぞれが等しくお前自身……ッ! それをお前、確証もない直感で割るなんて……!?」

 

 

 そう、存在体質(アイデンティティ)を二つに分けると言う事は、感情も信念も文字通り半分になる。正義を行いたいと言う気持ちすら半分となっている筈なのに、今存在するジャティス=ロウファンはオリジナルのジャティス=ロウファンと何の遜色もない。

 

 あり得ないのだ。オリジナルの自分を半分に分けたのにオリジナルと同等の自分が存在するのがあり得ない。

 

 だが、この男は……

 

 

「それが『正義』だからさ」

 

 

 まったく揺らがず、ジャティスが嗤いながら言った。

 この男はたった1%の可能性の為に、自分の未来を捨てたのだ。馬鹿げている。そこまで駆り立てるこの男の『正義』とは何だ。

 

 

「ああ、確かに僕は死んだ……だが、僕は生きて『正義』を成す……ッ! 確かに僕の意思が、僕自身の意思で邪悪を滅ぼすッ! そこに何の問題があると言うんだい!?」

 

「そんな外法使って代償がないと思ってんのか!?」

 

「代償なんて百も承知さ──この外法は魂に多大なるダメージを与える。……僕の本来の寿命の半分、約30年かな……きっと、これからも減るだろう……だが、充分だ」

 

 

 答えは変わらない。狂っている。

 未来で予測した死ななかった未来を度外視して、ありもしない、確証もない直感で存在体質を二つに割るなんて人間じゃない。予測していたにも関わらず、自分が死なない事を大前提に置くのが人間だ。それをわざわざ、死ぬかもしれないと言うありもしない予測した未来の為に寿命を犠牲にしてでも備えるなんて、一体どんな精神があれば可能なのだろうか。

 

 

「ぐ……うう……!」

「まだ立つのかい。華奢な身体をしているのに案外タフだね」

「黒猫、もうやめろ! 無理して戦えばお前が……!」

 

 

 グレンの忠告を聞かずにフィールはマナ欠乏症の中、使える最後の魔力で【フィジカル・ブースト】を使い、魔剣エスパーダを右手にジャティスに襲いかかる。軋む身体、流れ落ちる鮮血の中、ジャティスに向かったのは見事と言わざる得ない。

 

 だが……

 

 

「遅いね」

「ガッ…………!」

 

 

 ジャティスの仕込み杖に隠された細剣(レイピア)にフィールの背中は深く斬り裂かれた。

 

 

「アレに比べれば遅いし、動きが単調だ。だから読みやすい」

「フィール!!」

 

 

 視界が暗転していく。

 斬り裂かれた背中から大量の血が飛び散り、激痛が走る。フィールは身体中の力が抜けたかのように魔剣エスパーダを手放し意識を失い、地面に倒れ伏していた。

 

 

「くそっ!? ジャティスゥゥウゥゥゥ!!」

 

 

 グレンがジャティスに向かっていこうとする。魔力も武器も援護もない。だが教え子が殺されそうになったのを黙って見過ごすなんて出来ない。

 

 

「ガッ……!?」

 

 

 走り出したグレンの足が撃ち抜かれる。

 ジャティスの上には『人工精霊(タルパ)』の銃刑兵が顕現していた。風使いが消えた事によりジャティスの優位性が復活していた。

 

 

「君はよくやったよ。僕のシナリオを崩し、剰えこの僕を一度殺す事が出来、自分の命を顧みずにグレン達を守る為にその身体で僕に挑んだ。その最大限の敬意と返礼として僕自らの手で殺そう」

 

 

 ジャティスの細剣(レイピア)の刃が倒れ伏すフィールの首元に置かれていた。意識の無いフィールはただピクリとも動く事なく、見下ろされたジャティスに対して何も出来ない。意識があった所でフィールでは勝てないだろうし、何も出来ないだろう。

 

 

「フィール! 《大いなる––––キャッ!?」

 

 

 システィーナが殆ど無い魔力で【ブラスト・ブロウ】を使おうとした瞬間、システィーナの近くに【彼女の怒り(ハーズ・レイジ)】が召喚され、システィーナは数十メトラ吹き飛ばされた。

 

 

「白猫!? ぐっ……クソッタレ!!」

 

 

 グレンはジャティスの召喚した『人工精霊(タルパ)』に押さえつけられた。グレンも魔力も仕込み道具も銃弾も切れている以上、腕力で退ける事は出来ない。

 

 

「さよならだ、フィール=ウォルフォレン」

「フィール!!!」

「黒猫ォォォォ!!!」

 

 

 ジャティスの細剣(レイピア)は振り下ろされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

「っ……」

 

 

 気が付けば、フィールは何もない、どこまでも蒼い空だけの世界に一人立っていた。傷だらけの体、折れた左腕、枯渇した魔力を感じながらもフィールはただそこに立っていた。

 そこには時間も上下左右の概念もない。ただ遠く果てない無限に広がる蒼い空で完結したその世界。

 

 そんな世界を見渡し、後ろを振り返る。

 

 振り返った先に瞼に焼き付けたのは、白い極小の衣装を身を包み、異形な翼、いや、蝶の羽のような紫の翼、その身体の所々がジグソーパズルのピース抜けのような小さな穴が空いて、不完全であるがそれは……

 

 

「ル……ミア……さん……?」

 

 

 明らかにルミアの形をしていた。両手を広げて脱力し、その翼や両手両足、全身を無数の鎖で雁字搦めに戒められている。

 

 

『……ようやく顔を合わせられたわね、フィール』

「……誰……ですか……?」

 

 

 無数の鎖で繋がれながらもその陽だまりのような笑顔でフィールに話しかけるルミアの形をしたナニカに、嫌悪感が隠せなかった。

 

 

「っっ……!?」

 

 

 気が付けば右腕が鎖に繋がれていた。

 身体から流れ込んでいく情報と、たった一本とは言え鎖に縛られ身動きが取れないフィール。傷ついた身体では振り切る事は出来ず、ただ雁字搦めになっていたルミアが右腕だけ鎖が消えていた。

 

 まるで、自分に成り代わるようなそんな感覚。右腕が解放されたルミアはフィールの頰を撫でる。

 

 

「……貴女に……なれれば……あの2人を救えるの?」

『ええ、だから……あとは任せて? ……ね?』

 

 

 その手を取れば、2人も、友達も救う事ができる。簡単だった。フィールはただ手を取ればいいだけ、手を取れば全てが解決する。

 

 

『だから、ね? ……貴女の身体を私に頂戴?』

「っっ!」

 

 

 フィールは撫でられた手を折れた左腕で振り払った。

 助けられるなら、友達と、二人を救えるならどんな代償も厭わないフィールでも、その手だけは取れなかった。

 

 

「ふざ……ける……な……人を救う……人間はそんな……顔をしない」

 

 

 陽だまりのような笑顔に嫌悪感しか湧かないフィール。人を救う人間は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。自分を犠牲にする事を厭わないフィールは聖女に見えるかもしれない。だが、フィールは決して聖女じゃない。

 

 フィールは欲張りな存在だ。今が大切だから自分を犠牲にするのではない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()為に全力を尽くしているだけだ。自分の知る現実を捻じ曲げる。これを傲慢と言わずして何というのか。

 

 

『……あら、残念。けど……もう()()()よ』

「何を……ぐっ!?」

 

 

 ルミアの右腕がフィールの胸元を貫いた。

 血は出ていない。ここは精神世界だ。だが、フィールは貫かれた事で、何かの一線を超えてしまうかのような感覚と、自分という存在が殺されてしまうような痛みが身体を支配する。

 

 

『安心して、ジャティス=ロウファンは倒して2人を守ってあげるから。だから貴女はここで……お終い』

 

 

 意識が遠くなる。

 頭に流れ込んでくる情報、自分の体に今まで感じていなかった強大な力が、貫いたルミアの腕に流れ込んでいくみたいで、強い不快感と、自分が無くなるような悲しい痛みに、フィールはかろうじて保っていた意識は暗転した。

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

 ザシュ! と振り下ろした細剣(レイピア)から聞こえてきた。首を跳ねられ、フィールは絶命しているだろうとその場にいる誰もがそう予想せざる得ない状況だった。

 

 だが……

 

 

「……はっ?」

 

 

 フィールは細剣(レイピア)の刃を()()()()()

 未だ意識は回復しているように見えない。にも関わらず、無意識の状態、目覚める筈のないその状態でフィールは膝立ちし、細剣(レイピア)()()()()()

 

 

「っっ……!?」

 

 

 ジャティスは数歩後退した。

 フィールから魔力は感じない。いや、感じているのは魔力とは全く別の存在。身体にビシビシと伝わる存在感がフィールから放たれている。

 

 

「何が……どうなっているんだい……」

 

 

 ジャティスの表情から笑顔が消えた。

 切り裂かれた身体、折れた左腕、枯渇した魔力。ジャティスと今の状態のフィールが圧倒的に有利、必ずフィールを殺せるだろう。

 

 だが、ジャティスの目に焼き付いたソレを見て叫ばずにはいられなかった

 

 

 

 

 

 

「何だ……何なんだ()()()は!?」

 

 

 右側から飛び出した()()()()()()がジャティスを前に圧倒的な存在感を放っていたのだ。否、()()()()()()()()()()()に感じ取れてしまったのだ。

 

 

「フィール……なの?」

 

 

 遠くに倒れ伏すシスティーナが呟いた。

 フィールの片目は瞑っているにも関わらず、右眼は()()()()()()()()()()()()。ほんの阿頼耶の時に目覚めた異形のナニカ。ジャティスの予測にも無かった想定外過ぎる想定外。

 

 

「っっ……!?」

 

 

 ジャティスが気が付いていた時には()()()()()()()()

 その存在の右手から放たれた光はジャティスの左腕を一片残さず灰塵に帰していた。一瞬だけ感じ取れたその魔力は今まで自分が感じ取った魔力量の比ではない。

 

 

「ぐっ……! 来い! 僕の奥底に眠る正義の具現! 僕だけの神、正義の神よ!! 目の前の邪悪を駆逐せよ……【正義の女神(レディ・ジャスティス)ユースティア】!」

 

 

 フィールから後退したジャティスは右腕を掲げて叫ぶ。

 それは今まで召喚してきた天使とは比べ物にならない程大きく、手には天秤と黄金の剣を携えていた。その姿はまさにお伽噺に出てくる天使と表現しでもいい程、強大な存在がフィールの目の前に現れた。

 

 だがフィールはソレを見上げた瞬間、右手を掲げていた。

 

 

「行けェ! ユゥゥスティィァァアア!!!」

 

 

 召喚された女神が振るう黄金の剣がフィールに振り下ろされる。しかし、フィールはソレを見ても焦る事も、回避しようとする行動すら起こそうとしない。

 

 

《–––■■■》

 

 

 フィールが呟いた次の瞬間、羽ばたかせた翼から()()()()()()()()()()()()()()()()。ソレはまるで、()()()()()()()()()()()()()()()滅びの概念そのものが一瞬にしてユースティアを呑み込んでいた。

 

 

「なっ……! 物理的な破壊じゃない!? 滅びの概念そのものなのか!?」

 

 

 ジャティスはその存在の在り方を辛うじて捉えていた。

 今のフィールはフィールではなく、()()()()()()だと言う事と、フィールが使用している全てに関連している事を断片的に理解していた。

 

 

「(……理屈は分からない。だが、関連しているのは間違いなく『()()』の()())」

 

 

 ソレならば説明がつく。

 全てにおいて、フィールが使っている全てに『()()()()()()()()()()()()()()なら、今までの力の正体の鱗片を理解する事が出来る。だが、それと同時にジャティスは別の回答に辿り着く。

 

 

「(待て……時間? ……時間、時渡り……そして風使い……? …………ッッ!!??)」

 

 

 ジャティスは震えた。

 何故ジャティスがフィール=ウォルフォレンを気に入らないと思ったのか。それは()()()()()からだ。その在り方はまるでグレンのようで、それと同時にセラを連想させるナニカがあった。

 

 パズルのピースが当て嵌まったかのようにジャティスの中で辿り着いた答えに狂ったように笑い始めた。

 

 

「ふ、ふふふはははははは! アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」

 

 

 何故今まで気付かなかったのか不思議なくらいだ。

 ジャティスの中で超えるべき壁はグレンだけではない。この答えが真実なら、超えるべき壁はもう一つ存在していた事に。

 

 

「そうか……! 君はそうだったのか!! ハハハハハハ! 成る程、()()()()()()()()()()と言う訳か……!!」

 

 

 フィールはジャティスに迫るが、ジャティスは生み出した天使に乗り、フィールから離れていく。フィールの身体はボロボロ、自分を使い潰すように身体の事など気にせずにジャティスに向かう。

 

 

「今回は退くとしよう。だが、いつか必ずまた会おう。フィール=ウォルフォレン! 僕の超えるべき存在よ!!」

 

 

 ジャティスは空高くに消えていく。

 それを見たフィールは激昂したようにズタズタの右腕をジャティスが消えていく方向に向ける。

 

 

《jtpjmw■■■■––––》!!

「もういい! 止めろフィール!!!」

 

 

 グレンは止めようと制止の声を叫ぶが、今のフィールは右腕から鮮血が噴き出そうとお構いなしだ。これ以上の出血はフィールが死ぬ。だがフィールは止まらない。右の掌に収束していく焼き焦がすような熱量の光をジャティスに放つまで止まらないだろう。

 

 

「くそっ……!!」

 

 

 グレンの【愚者の世界】で止められるか分からないが、近づこうとするが距離が遠い。50メトラしか機能しない【愚者の世界】で、今のフィールとの距離は訳70メトラ、足を撃ち抜かれて動けないグレンが近づくには遠過ぎる。

 

 

「フィール!!!」

「フィール! 駄目!! 

 

 

 グレンやシスティーナが叫ぶがフィールは止まらない。

 アレを放てばフィールは死ぬ。直感的に分かってしまうのに、グレン達の声は届かない。

 

 そして、掲げた右手から光は放たれ────

 

 

 

 

 

 

「駄目! フィールちゃん!!」

 

 

 

 

 放たれる瞬間、フィールの背中から誰かの声が聞こえた。

 フィールは気にも留めなかった背後に自然と顔が向いた。グレンやシスティーナの声が届かなかったのに振り向いたのは何故か分からない。

 

 そこに居たのは……

 

 

「これ以上、自分を傷付けないで!!」

 

 

 

疾風脚(シュトロム)】で急いで駆けつけ、腕に包帯が巻かれながらも、フィールを優しく抱き締めて止めるセラの姿がそこにはあった。

 

 血濡れていようが構わなかった。今のフィールがまるで泣いているかのように心の悲鳴をあげているようにセラは見えてしまったのだ。

 

 

 

「もう……大丈夫だから……」

 

 

 

 セラはそう言い聞かせると、フィールの右手の収束していた光が霧散し、それと同時に背中から飛び出した紫の翼は消え去り、瞳は金色に戻っていた。意識が戻ったようにフィールは片目のまま、セラを見た。

 

 夢を見ているように視界がぼやける。片目に血が入って見えやしない。捉えた輪郭からフィールはボロボロの身体で弱々しく呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………おか……あ……さ……ん……?」

 

 

 

 そう呟いてフィールの意識が途切れていた。

 ズタズタに切り裂かれた身体をセラに預けて、フィールは気を失っていた。流れ落ちる血に、そこに駆けつける宮廷魔導師団達、身体を引き摺って辿り着くグレンとシスティーナ達、その最悪な状態のフィールにアルベルト達は【リヴァイヴァー】をかける準備を始めていた。

 

 

 フィールの着ていたコートの内側から付けていたチェーンが切り裂かれていた。恐らくあの時に一緒に斬られていたのだろう。フィールがセラに身体を預けて気を失った瞬間、チェーンが耐えきれず千切れ、大事にしていたロケット・ペンダントがカツンと地面に落ちていた。

 

 

 

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