バッドエンドの未来から来た二人の娘   作:アステカのキャスター

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 久しぶりに書きました。
 良かったら感想評価お願いします。では行こう。





第24話

 

 

「ぐっ……!?」

 

 

 真っ逆さまに落ちていくフィール。

 確かナムルスに罠にかけられ、急に地面が無くなりこの状況だ。随分と深く落ちている。下には地面が迫ってきている。

 

 

「《傾け天秤》!」

 

 

 身体の体勢を立て直し、【グラビティ・コントロール】で着地するフィール。魔力は然程問題ない。武器も問題ない。その事を確認し、フィール辺りを見渡す。どうやらあの最下層である事に間違いはない。

 

 何故ならば……

 

 

『来たか。黄昏の魔術師よ』

「……つくづく思うけど私ってやっぱりツイてないな」

 

 

 抑止力の力を得た魔人がフィールの目の前にいるのだから。

 

 

 ★★★

 

 

「おわっ!?」

「きゃっ!?」

「っっ!グレン、セラ!」

「あたた、システィ大丈夫?」

「な、なんとか……」

「クソッ!」

 

 

 同じ時間、フィールから離されたグレン達は滑り台のように流されてグレンを下敷きに女性陣が乗りかかる。

 

 セリカ達も嵌められた。

 グレンとセリカはルミアの力を借り、再び星の回廊に向かおうとするが、モノリス版は全くと言っていい程反応しない。

 

 

「開かない!?」

「なんで……!?」

 

 

 モノリス版はピクリとも動かない。

 まるで機能が停止したか、何かに()()()()()()()()()()()

 

『私は世界に対して警報を踏みました。禁止事項に触れれば触れる程、世界は私に牙を剥く。だから、先生には何も話せないし、話す事で歴史が変わりかねない』

 

「っっ……まさか、抑止力そのものが俺達をフィールから遠ざけてるのか?」

 

 

 グレンの推測は当たっていた。

 あの扉の前は()()()()()()()()()()であり、フィールに対してあの場所は逸脱者の狩場。抑止力に関連しないものを遮り、抑止力が働く存在に対して排除を行う空間だ。

 

 故に隔絶された。

 グレン達はフィールがいる所に向かえない。

 

 

「っっ……!」

 

 

 その中で唯一、フィールの現状が分かったのはルミアだった。

 頭の中で見える光景に震える右手を抑える。()()()()()()()()()。フィールが戦っている光景が断片的に。

 

 

「ルミア……?」

 

 

 システィーナは異変に気付いたが、ルミアはその手を握りしめる。今の自分にはただ、フィールの現状を見る事しか出来ない歯痒さにルミアは歯を食い縛りながらも、どうするべきなのかを模索し始めた。

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

「はああああっ!!」

『フッ!』

 

 

 フィールは精霊剣舞を使い、二刀の魔人と対峙している。

 精霊剣舞は一から八までの流れるような剣撃、流麗なダンスのような華麗な足捌きと、エルザの型を参考にしたフィール独自の剣撃。風の魔術で動きを阻害させて紡ぐ追い風の中、魔人はその剣撃を受け切る。

 

 六撃、七撃が終わる。

 八撃目を予測されたのか既に魔刀がフィールに向いていた。

 

 

『っっ!?』

「《雷槍》!」

 

 

 八撃目を()()()()()()()()()()()()フィールは魔剣エスパーダを離し、躱すと同時に【ライトニング・ピアス】で魔人を撃ち抜く。だが嫌な予感がしたのか魔剣を拾い、距離を取るフィール。

 

 

『流石は抑止力が動くだけある。我が命が一つならばここで終えていただろう』

「……完全に急所に入った筈なのに……!」

 

 

 心臓を撃ち抜いて死なないとはどう言う事か。

 不死性、いや命をストックする事が出来る存在。おまけに魔剣エスパーダは本来()()()()()()()()()()()()()()()魔剣だ。その効果によって本来なら魔人の持つ剣が砕ける筈。

 

 黒き魔刀・魂を喰らう魔刀

 紅き魔刀・魔を殺す魔刀

 そして命にストックがある存在。

 

 

「魔煌刃将アール・カーン……」

『ほう。我が真名に辿り着くか。そしてその若さでそれほど練り上げられた力に敬意を表する』

 

 

 作者ロラン=エルトリアが描いた『メルガリウスの魔法使い』では、主人公の敵役として『魔王』、そしてそれを守護する『魔将星』たちが登場する。存在する雷霆、罪刑、白銀、鉄騎、炎魔の中で()()()()()()()()()()()のが魔煌の称号を持ったアール・カーンだ。

 

 邪神に課せられた十三の試練を乗り越え、十三の命を手にした魔人。そして、

 

 

「っっ……あと3つか」

 

 

 命のストックは物語で七つ失っている。

 セリカが二回殺し、今一回殺した事で失い合計十の命のストックが削れた。三つと言えど、相手にしているのは魔王に仕えた正真正銘の英雄。

 

 恐らく、『精霊剣舞(ソード・ワルツ)』はもう通用しないだろう。ここからが正念場。【女帝の世界】も短期決戦型、3分しかもたない以上、使い所が限られる。

 

 

「(あの魔刀は魔術殺し(ウィザイア)、片方が魂喰らい(ソウル・イーター)なら黒は絶対に喰らっちゃいけない)」

 

 

 魔剣を構え、迎撃態勢に入る。

 ここからは瞬き一つすら命取りだ。身体強化を絶えずかけて、魔人の動きを見計らう。

 

 

「っっ…!速い!」

 

 ガギギギギギッ!と剣と剣が斬り結ばれる。

 ただの【フィジカル・アップ】では反射速度が遅い。だが、ギリギリ追い縋り、剣を弾いて距離を取る。

 

 

「《魔槍よ》」

『児戯』

 

 

 瞬間、間合いを詰められ魔術式そのものを斬り裂かれた。

 だが、フィールのそれは陽動(ブラフ)。アール・カーンの足元から獄炎の炎が起動される。黒魔【フレア・クリフ】により設置型の炎陣を踏ませる。

 

 

『児戯だと言った』

 

 

 起動し切る前に魔刀で斬り裂く。

 一体どんな反応速度だと悪態をつくが、魔刀で斬り裂いた分隙が出来る。黒き魔刀を魔剣エスパーダで滑らせてアール・カーンの鎧に触れた。

 

 

「《燃えろ》!」

『ヌウッ!?』

 

 黒魔【ブレイズ・バースト】が直撃する。

 至近距離なら灰燼にする火力だが、やはりストックがある以上身体が消滅する事はない。だが今ので二つ。あと二回殺せば……

 

 

「っっ!?」

 

 考える暇を与えないように赤き魔刀がフィールの首を狙われる。体を剃って躱し、距離を取る。本来なら執着する意味も無ければ逃げる事も不可能ではないが、抑止力が介入しやすいこの場所で、果たして外に出られるかと言う点だ。

 

 逆に抑止力はこの空間のみでしか働いていない。

 抑止力を殺せば次の抑止力が来るまでの時間に脱出出来る。故にアール・カーンに立ち向かうと言う最悪の選択肢しかなかったのだが。

 

 

『《■■■––––》』

 

 

 距離を取ったことにより、魔人は魔術を使用する。

 かつて、魔人は追い詰められた時に魔術を使用したと著作には書いてあった。その道理が正しければ––––

 

 

「させない」

 

 

 フィールの【愚者の世界】は通用する。

 魔人アール・カーンの太陽の如き球体は一瞬にして霧散した。

 

 

『何っ!?』

「《雷槍よ》!」

 

 

 それと同時に【女帝の世界】を発動する。

 黒魔【ライトニング・ピアス】が心臓を貫く。フィールだけが使える【愚者の世界】と【女帝の世界】によるワンサイドゲーム。だが、魔人の本質は剣技にある。故にこの瞬間、この三分間で最後の一つを削り切る。

 

 

「《魔槍よ–––打ち砕け》!」

 

 

 計二十、並行起動で魔人の周りに展開される【ライトニング・ピアス】の魔方陣が放たれる。毎秒八万キロス突き進む雷槍が魔人を襲うが、逃げる方向全ての魔方陣を黒い魔刀で斬り裂いた。

 

 逃がさない。

 身体能力を極限にまで上げたフィールの剣技がアール・カーンを追い詰める。スピード、パワーで圧倒する事が出来るフィールの切り札にアール・カーンは追い縋る。

 

 

『ぐっ…ぬぅ!!』

「はあああああああっ!!」

 

 

 風を流麗に使い、黒魔改【ライアブル・ドライブ】で動きを加速する。所々傷をつけられているが、命を奪うまでに至らない。だが、剣技を力で圧倒している。体感で一分、あと二分で仕留め切れると思った矢先、思いもよらない事態が発生した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っっ……ぐっ…かはっ……!?」

 

 

 フィールが吐血し出したのだ。

 攻撃を中断し、距離を取るフィール。身体が、心臓が揺さぶられるような嫌な感覚、身体の負担によって膝をつく。

 

 【女帝の世界】の維持出来る時間が予想以上に減っていたのだ。フィールは数々の無茶をしてきたせいか、魔力容量(キャパシティ)がジャティスと戦った時より大分減っていた。

 

 だからって、これは()()()()()()()()

 

 

「あの…時…………!」

 

 

 ナムルスの時にほんの僅かに解放した力。

 あの瞬間、魔力をゴッソリと持っていかれていたのだ。慣れない力、御し得ない力は身体に大きな負担を掛ける。特にあの力は()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()巨大な力だ。一個人で扱うとなれば、代償は必要になってくる。

 

 

「くっ……」

 

 

 フィールは【女帝の世界】を解除した。

 これ以上は恐らく十秒も保たないだろう。だが、身体の負担が大きい自分に【女帝の世界】無しで勝てるのか?疲労感とマナがかなり減った事による身体のパフォーマンスは低下している。

 

 

『練り上げられたその技。愚者の民にしては中々のものだ。だがそれもここまでの話』

「……いいえ、それは違う」

 

 

 フィールはポケットから圧縮した刀を取り出した。

 名は無いが、かつて地獄を生き延びてきた相棒が使っていた業物。フィールは腰にそれを携え、構える。

 

 

「《罪深き我・逢魔の黄昏に独り・汝を偲ぶ》―――」

 

 

 刀には共に高め合った経験が蓄積されている。

 ならば、この一閃は消される前に魔人を斬り裂けばいい。魔力は今あるものをありったけ注ぎ込んでも【女帝の世界】は五秒と保たないだろう。

 

 

『来るがいい!』

「っ!はあああああっ!!」

 

 

 フィールが放つその抜刀は超神速の抜刀術、東方剣士(サムライ)が使う秘奥義は本来振る速度の四倍、相棒の『春風一刀流』は剃刀のように薄く鋭い刀剣を様々な体術・術理を尽くしてひねり出した常識を逸した『力』と『速度』をまったく減衰させずに刀に乗せ、魔力で増幅エンハンスすることで、遠間を斬り裂く風の刃を繰り出す絶技。

 

 あくまで抜刀は風を斬り裂いて放つ遠距離技だ。

 だが、確実に殺す奥義として、相棒とフィールが考案したのが超至近距離からの抜刀。

 

 抜刀の速さに対抗すべくアール・カーンは刃を振るう。

 このままではフィールが先に斬り裂かれる。その未来を()()()()()。間合いは魔術を使われる前に潰すものだ。だが、同じ達人同士だと同じ考えを持つ。

 

 フィールは残り少ない魔力で【女帝の世界】を発動する。

 起動するブラックストーンに触れていない中で、フィールが見た因果が一つの未来では、到達できる可能性は少ない。故に()()()()()()()()()()()()()()

 

 アール・カーンに何千何万と斬り裂かれる因果の中に、必ずフィールが先に斬り裂く因果がある。フィールの『万象の逆転・逆流』から導き出したその因果を渡り、斬られた未来から斬る未来へ因果を渡る。

 

 

『何っ!?』

「ああああああっ!!」

 

 

 それは()()()()()()

 フィール達が生み出した必勝の剣技。因果を超え、相手を斬り裂く結果を先に反映させる。神速の抜刀術を使う者と因果を遡る者がいなければ成立しない。その技の名は––––

 

 

「––––風雷神・零式!!」

 

 

 神を超えた風をここに織りなす。

 かつて二人で編み出した技でフィールはアール・カーンを斬り裂いた。その剣の一閃は魔人が持つ二刀すら超えて、命を奪った。

 

 

「っ……はっ……」

 

 

 居合を抜けたフィールはその勢いが止まらずに倒れ込む。流石にありったけの魔力を【女帝の世界】と【ロード・エクスペリエンス】に注ぎ込んで魔力は空っぽだ。

 

 

 

 

 

「っっ……なんて馬鹿力してんの()()()

 

 

 あまりの抜刀の速さに()()()()()()

 エルザの剣技はその世界のエリエーテと並ぶ剣才の持ち主。特に抜刀に至ってはフィールがどれだけ魔術を重ねようと()()()()()()()()()超神速の一閃。

 

 ()()()()()()()()()()()()程の果てしない技量。

 帝国宮廷魔導師団だった自分と組んでいた相棒はどれだけの存在か今し方改めて痛感する。

 

 

「ハァ…ハァ……これで」

 

 

 これで四つ殺した。

 アール・カーンの身体が消滅する。物語の通り、魔煌刃将アール・カーンの命のストックは完全に切れた筈だ。

 

 

「……はっ?」

 

 

 唖然。

 後ろを振り向くと、そこには消える筈の魔人が立っている。先程の居合で斬り裂いた胴体は砕けない。

 

 

「まさ…か……」

 

 

 立ちながら消滅するならまだわかる。

 だが、そんな様子には見えない。いや、()()()()()()()()。立っているアール・カーンがフィールの方へ向く。

 

 

『……影とは言え、我が本来の状態ならばこの場で消えていただろう。だが、我は抑止力にて召喚され、貴様を排除する為に呼び出された存在』

 

 

 斬り裂かれた筈の身体はすでに()()()()()()()

 フィールが残した傷は既に魔人から失われていた。魔人はフィールが持つ希望を叩き折るかのように現実を告げる。

 

 

 

『故に今の我は全盛期、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 その言葉にフィールは絶句した。

 本来失われた命は7つ、たった一人で4つ殺せただけ奇跡だというのに、あと7つもあるなんて馬鹿げた話、あってほしくなかった。

 

 アール・カーンは十三の命を持っていたのだ。

 

 魔力は殆ど枯渇。

 身体に負担を強いた上に折れた右腕。

 

 勝ち目すら見当たらない。 

 今の状況で自分が打てる最善策を考え、無数の因果を導き出しても、フィールが生き残れるビジョンが見えない。

 

 

『貴様はよくやった。故に我が攻勢にて、消えるがいい』

「っっ……!」

 

 

 折れた右腕に握られた刀で魔人の剣技に追い縋る。

 右腕から血が吹き出す。黒に警戒して弾いた所で紅き魔刀がフィールを斬り裂く。追い縋る事も出来ない。身体は既に限界の一歩手前、むしろよく追い縋れたと称賛できるほどにフィールは頑張った。

 

 右腕に握られた刀が弾かれた。

 魔術も、武器も、あらゆる手段が間に合わない。

 

 

『逝ね』

 

 

 それは走馬灯のように見えた。

 どれだけ考えようが、どれだけ足掻こうがもう遅い。

 

 打てる手段はもう残されていなかった。

 アール・カーンが振るうその黒き魔刀が––––

 

 

「………ぁ……」

 

 

 フィールの胴体を深く斬り裂いた。

 血が吹き出し、身体から妙な浮遊感が生まれ、支えていた重心は崩れ去る。力も、魔力も、意識すらも身体から遠退いていく。

 

 身体が動かない。

 熱が、命の鼓動が溢れるかのように倒れた場所は血に染まる。

 

 

『さらばだ。黄昏の魔術師よ』

 

 

 アール・カーンの黒き魔刀が心臓に突き刺す。

 それでフィールは絶命する。黒き魔刀は魂を喰らう、そんな事をしなくてもフィールは勝手に死ぬだろう。だが、最後まで油断しないアール・カーンができる最後の慈悲だったのだろう。

 

 アール・カーンは黒き魔刀を振り下ろ––––

 

 

 

 

「させるかああああああああっ!!!!」

 

 

 ––––す事が出来なかった。

 木霊する声と、怒りが含まれた叫びと共にアール・カーンに対して発砲した人物。

 

 抑止にて隔離されていたグレン達が突如、姿を現した。

 

 


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