バッドエンドの未来から来た二人の娘   作:アステカのキャスター

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 コラボ小説番外編中編です。
 なんと合計四万字以上ありました!ありがとうございましたエクソダスさん!!

 コラボ小説が終わった後も是非ご覧あれ!では行こう!!




番外編 彷徨う過去の《愚者》との出会い 中編

 

フィール「ふあああぁ、眠い」

 

 

 遅くまで起きたのに起きるのは早いのは、長く眠ると悪夢に魘されるからだ。エルザとミアルはまだ寝ている。まだ眠いし、今日は任務は無いが、それでも休み方とか分かる筈もなかった。 目を擦り、硬い床から起き上がる。

 

 

エルレイ「おはよ?」

 

 

 起きた瞬間に警戒したが一瞬で解いた。エルレイはもう起きていた、どこからか取り出したであろうおにぎりを握っている。

 

 

フィール「いや何してんの」

 

 

 意外と冷静に質問したフィールだが、少し動揺している。

 

 

エルレイ「これ? おにぎり握ってる」

 

 

 何か問題でも? といった表情をエルレイは見せる。

 問題だらけなのだが、軽くドヤ顔をしているエルレイにため息をつく。

 

 

エルレイ「大丈夫だよ、これさっき買ってきて炊いたやつ」

 

 

 フィールは昨日エルレイが自刃した腕を見る。

 眼はどうやら元に戻っているが、規格外の力を宿していた事を思い出し、考えるのをやめた。

 

 

 フィール「腕と眼は?」

 エルレイ「ちょっと痛いけど、どっちも動くよ?」

 

 

 そう言いながら握ったおにぎりをフィールに差し出した。 それを見たフィールは額に手を当て、シワが寄っていた。

 

 

 フィール「全く、1日で殆ど完治とかどうなってんだ」

 

 

 ヤケクソ気味におにぎりを口の中に頬張るフィール。

 中身は意外にも昆布や明太子、梅などで美味かった。

 

 その後、ミアルとエルザが起きてミアルは平然と食べている中、エルザは疑いながらもフィールが「毒味はしたから問題ない」と言ったら食べた。

 

 

フィール「んで? 未来から過去へ逆行する魔術だっけ? 端的に言えば不可能じゃない、が正解かな」

 

エルザ「どう言う事?」

 

フィール「正確に言うなら過去に自分の情報を書き込む。要するに本のしおりと同じ、しおりを挟んだ部分から未来を好きな形に変更出来る魔術は存在しなくはない。原理は【月読ノ揺リ籠(ムーン・クレイドル)】に似ているかな」

 

エルザ「世界に対して個人的な情報を入力すれば不可能じゃないって事?」

 

フィール「世界の根底を揺るがす歪みを許さないが、多少の歪みは許容範囲内だ。正確に言うなら過去そのものは変えられないが、個人の過去なら変えられる。原理的にはこんなものでしょ」

 

 

 まあそれがわかった所で、なぜエルレイ達が過去の世界に送られたのか、皆目検討もつかない。メリットはなんだ? 2人には確かに特別な力がある事は身に染みて理解した。

 

 だが、この2人がもし、意図的に召喚されたなら役目と言うものがある筈だ。

 

 

フィール「まあいい。今日は休日だ。適当に調べるしかないか」

エルレイ「? 二人は、拷問屋に渡したらお仕事終わりでは?」

 

 

 エルレイがまだそんなことを言っている。

 だが今回は2人を上層部に尚更引き渡せなくなった。

 

 

フィール「いや、引き渡しは無し。そもそも上層部さえ信用し切れないし、未来から来たなんて上層部に報告してみる? 最近一掃した連中のせいで今の上層部はピリピリしてんのに」

 

エルザ「まあ、1番怪しいイグナイト家の人間、室長は除いて妙にきな臭いしね。2人を渡したら敵に情報が回る可能性があるしね」

 

 

 絶対に知れ渡る。確信があった。大部分の情報を掴んだのに、逃げられるのは上の連中に裏切り者がいるからだ。まあ全員書類上は白だが、アリシア女王陛下以外は誰もが怪しいのだ。

 

 

ミアル「イグナイト家がきな臭い……か、どこも同じなんだね」

 

 

 そう言いながらミアルは苦笑いをした。

 どうやら、そちらの未来でもイグナイトには何かあるのだろう。

 

 

エルレイ「いや……ちゃんと普通の人もいる……いやいないか」

 

 

 そう言いながらエルレイはため息をつく。

 一応、この世界のイグナイトはイヴなのだが、悪友のイメージが強く確かに普通じゃない。

 

 

ミアル「……というか、上層部が信じられず、私達を受け渡しはなし、しかも情報は欲しいけど、拷問もする気配なし……」

 

エルレイ「……なんで殺さないのって疑問しかないよね……こっちとしては」

 

フィール「殺さない理由? コレだよ」

 

 

 フィールのポケットから取り出したのは黄色の球体だ。

 それを見たエルレイは自分のポケットを探るが、見当たらない。

 

 

フィール「身体検査をしている時に、これを見つけた」

 

 

 これはエルレイが持っていた白魔【イリュージョン・スフィア】を拡張させる為に作られた魔導具だ。それは未来でフィールに一時的に出会った時にフィールが忘れたものだ。

 

 

フィール「これは私がセリカ伯母さんに見せる為に作った最初の魔導具で、術式は少し杜撰とは言え、これ専用の詠唱をしなければ機能しない魔導具。明らかにこれは私の持つ魔導具と同じ」

 

エルザ「それって……未来でフィールから受け取ったから?」

 

フィール「そう。この術式は間違いなく私が描いたもの。それが二つも存在していると言う事は……貴女は未来で私に出会ってると言う証明にはなった」

 

エルレイ「……成程」

 

 

 エルレイは納得したようにポケットからいちごタルトを取り出して、頬張った。

 ミアルはさりげなく、いちごタルトを1枚盗んで頬張る。それに呆れているフィールは疲れもあって欠伸をしていた。

 

 

ミアル「ところで、適当に調べると言っても、あてはあるんですか?」

 

フィール「さっきも言ったように、人間そのものを肉体ごと過去に飛ばすのは原理上は難しい。回路や肉体が時間の奔流に流されて磨耗やボロボロになって最悪死ぬからね」

 

 

 今解明されている術式では、そんな事不可能に等しい。

 そもそも時間や概念をすっ飛ばしてそんな事をしたら肉体が塵になる。だが、とフィールは付け足す。

 

 

フィール「だけど、精神体、自分が生きていたという情報のみを過去に飛ばすなら肉体ごと飛ばすより難しくない。()()()()()()()()()()()()()()()()()があれば、仮初とは言え肉体が必ずついてくる。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ」

 

エルザ「つまり? 2人は霊体で、仮初の受肉で存在しているって事?」

 

フィール「まあそんな感じだね。そして、魂に関連する魔術師や、外道魔術師の通り名である程度は予測できる。こんな事が出来るのはシオンか、もしくはシオンの研究に携わった誰か」

 

 

 そんな事が出来る人物は1人のみ。

 シオンを殺し、魂に関連する研究データを盗み、イルシアを殺した人物で、この世界でいまだに捕まっていない人物。

 

 

エルザ「……ライネル=レイヤー?」

 

フィール「可能性は高い。アイツが今のコピー体を造る第二団(アダプテフ)地位(オーダー)》だし、恐らくはそいつと、もう1人黒幕がいる」

 

 

 ライネル以外に少なくとも1人、今のミアルやエルレイを連れてくる理由が存在する。いや、連れて来てメリットがある黒幕が存在する。

 

 

エルレイ「ライネル……もうその名は、聞かないと思っていたが」

 

 

 エルレイは少しいら立ちを抑える様に唇をかんだ。

 

 

ミアル「おちついて、リィエル、血が出ちゃう」

 

 

 それを見ていたミアルが落ち着かせようとエルレイの背中を摩った。

 

 

ミアル「そのライネルって人と、もう一人黒幕がいる可能性があるんだね?」

 

フィール「多分ね、ライネル単体でこんな事は出来ない。多分目的は……ミアル、貴女だろうね」

 

 

 推測とは言え、狙いは未来のエルミアナだと口にした。

 まあ理由は推測出来る。この人物もエルミアナ王女と同質の存在なら理由は一つ。

 

 

フィール「貴女は『王者の法(アルスマグナ)』が使えるよね?」

 

ミアル「! ……へえ、それを知ってるんだ、ということは情報がもう拡散されてるってことかな?」

 

 

 ミアルは少し驚いた後、首を傾げた。

 ミアルもといルミア=ティンジェルは異能持ち、それも特異な異能を宿している。

 

 

フィール「上層部なら誰でも知ってる。天の智慧研究会は最初から本質に気付いてるみたいだけどね」

 

 

 そして、何よりルミアの能力は昇華だ。強化ではなく、理論やルーンの強さをアップグレードさせる力だ。『禁忌教典(アカシックレコード)』を追う奴等にとって必要なピースだ。

 

 

フィール「だがもし、並行世界からその異能が使えるミアルを集めたら? この世界のライネルはミアルを使って更にコピー体を増やす事が出来る。そして、一定の上層部を瓦解させ、権力を握る事で得するのは1番怪しいイグナイトになる。そして、イグナイトの唯一の駒。世界に干渉する魔術師と言えば?」

 

ミアル「……そういう事」

 

エルレイ「……イグナイト家マジ……クタバレ」

 

 

 エルレイはいら立ちを抑えることなくそう吐き捨てた。

 

 

フィール「てか2人も心当たりがあるんじゃない? 元帝国宮廷魔導師団にいつの間にか居た人間で、イグナイト家の幻術使いの駒の名前」

 

 

 フィールはため息をつきながら聞いてみる。

 確か上層部の連中を一掃した中にも居た。あの時は幻影に惑わせて対象から外れたから捕まえられたが、上層部に引き渡した後に逃げられた。

 

 二人は少し黙り込んだのち……。

 

 

ミアル「忘れたよ…………イグナイト家の人間なんて」

 

 

 そう吐き捨てた。

 どうやらいい思い出はなさそうだ。

 

 

エルレイ「一つ言っておく、私達の世界ではイグナイト家は滅亡してるんだ、存在するとしたらそれはイグナイト家ではなくなった人間」

 

エルレイ「あと、あまりミアルの前で、イグナイト家の話はしないで、怒ったら怖いよ?」

 

フィール「……事情は聞かないけど、今回ばかりは貴女の協力も必要だ。あの魔術に対抗出来るのは『王者の法(アルスマグナ)』くらいだし。そもそも、魂に合わせた仮初の肉体が長く持つわけがない。放っておくと貴女達は死ぬ」

 

エルザ「なっ……!?」

 

フィール「()()()2()()()()()()()()()()()()()()()()んだから当然でしょ。時間が経てば綻びは修正されていくのが基本。長引けばいつ死ぬか分からないしね」

 

ミアル「そういう事なら協力します、死にたくはありませんからね♪」

 

 

 そのミアルの言葉にエルレイはため息をついた。

 

 

エルレイ「イグナイト家の話が無くなってからこの子明るく……まあいいや」

 

 

 エルレイはあきれ果てたように二人にいちごタルトを渡す。

 

 

エルレイ「はい、協力の証、二人は未成年っぽいからこれでいいよね、おたべ?」

 

 

 エルレイの言葉に三人とも一瞬硬直する、なぜ証明がいちごタルトなのか全員疑問なのだ。

 

 

フィール「いや要らないから。そもそも、何故かベッドの横にあったから食べたし。私はこれからイヴの所に行く。アイツならある程度はライネル達の動向を知ってるかもしれないからね」

 

エルザ「私はどうすんの?」

 

フィール「ぶっちゃければ休め。普通に筋肉痛で動きにくいでしょ」

 

エルザ「うっ」

 

エルレイ「じゃあ、エルザはお食べ?」

 

ミアル「あはは……こんな子でごめんね?」

 

 

 ミアルはエルザに目線を合わせて5個ぐらい積まれたいちごタルトを見ながら苦笑いし、それを横目にフィールは隠れ家から出ていた。

 

 

 ────────────────────

 

 

 フィールは帝国に提出した資料を片っ端から漁っていた。

 ライネル=レイヤー。そして、元帝国宮廷魔導師団《月》のイリアの動向を探る為にフィールは情報を見ては次にと繰り返していた。

 

 

イヴ「あれフィール? 貴女休みじゃなかったっけ?」

 

フィール「調べ物したら帰る」

 

イヴ「休日に調べ物するんじゃないわよ。昨日の任務があったでしょうが」

 

 

 イヴはヒョイっとフィールの持つ資料を奪った。

 そこに書かれていたのはライネル=レイヤーの情報。そして、《月》のイリアの動向について。

 

 

イヴ「今更の資料なんか漁って、どうしたのよ一体」

 

フィール「ライネルによるコピー体が増えた事に疑問が生まれてね。あり得ない事があり得るかもしれないから動向を探ってんの。それ返してよ」

 

イヴ「答えになってない」

 

フィール「答えにしてないし」

 

 

 相変わらず仲が悪い2人。

 フィールが調べているのはエルレイにも内緒だが、未来からの逆行。それはフィールが1番禁忌と考えもいる魔術だ。もし、そんなものが実在しているなら……

 

 そう考えている中で、イヴはため息をつきながら資料を置き始めた。

 

 

フィール「……なにこの資料は?」

 

イヴ「最新の奴等の情報よ。拠点を転々として回っているけど、貴女達が虱潰しに潰したでしょ?」

 

フィール「なんで知ってんの?」

 

イヴ「私を舐めないで。これでも室長なんだから」

 

 

 そこに書かれていたのは最近の動向を捕らえた《月》のイリアの資料だ。そいつは他人に化けながら何処かにいつも潜入していくのを目撃しているとの事。

 

 

イヴ「ただ、《月》のイリアは強力な幻術使い、発見しても突撃させれば返り討ちに遭うから、どの道貴女達に頼むつもりだったし」

 

フィール「それはイグナイトの為?」

 

イヴ「伝えてないわ。1番きな臭いのは私を含めたイグナイト家なんだから」

 

フィール「了解、んじゃ休日は明日に回してくれる?」

 

 

 仕方ないわね。とため息をつきながらイヴはフィールを見送る。奴等の動向は私達の休日も知っているからこそ、動いている。ならば今動く事が余程の異常事態となる訳だ。

 

 

フィール「直ぐに終わらせてやる」

 

 

 フィールは保管していた装備を手に取り、武器庫から自分の貯めていた装備を装着する。そして隠れ家へと向かい始めようとした。

 

 

ミアル「おわった?」

 

 

 突如声がして後ろに下がるフィール。武器庫を出ると同時に気配なくミアルがそこにはいた。

 

 

フィール「いやここ機密場所! 何で居るの……」

 

ミアル「ごめんなさい、でもどうしても貴女に忠告することがあったから、誰もいないここは都合がいいんだ」

 

 

 そう言いながらミアルは軽く笑った。

 

 

フィール「忠告?」

 

 

 フィールは首を傾げた。

 

 

ミアル「ま、むずかしいことじゃないよ」

 

 

 ミアルはフィールに顔を寄せた、その顔はどこか無表情で怒りを放っているような気がする、そんな顔だった。

 

 

ミアル「二度とリィエルを、人間ごときと一緒にするな」

 

 

 その鋭い殺気にフィールは一瞬顔が強張った。

 

 

フィール「へぇ、昨日の話、聞いてたんだ?」

 

ミアル「あの状況で寝れるほど……私はできていない」

 

フィール「じゃあ何? 人間と一緒にするなって事はアンタらは何なの? 人間じゃないとでも言いたいの?」

 

 

 不適に笑いながらもフィールは口にする。

 人間扱いするな。まるで人間じゃないような言い方。神様にでもなったつもり……いや、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだが……

 

 

ミアル「それは貴女が知らなくても良いこと」

 

 

 そういうとミアルはため息をついた。

 どうやら力については語ることは無いようだ。

 

 

ミアル「けど、詳しくは言えないけどあの子は人形として利用され続けてきた……そして私もね……」

 

 

 ミアルは一度俯いたあと、もう一度フィールに向き直った。

 

 

ミアル「その利用しか考えてない下等外道生物共と私の親友が同じだと言わないでほしい……それだけだよ」

 

 

 ミアルはそう言い放った瞬間。

 

 

 

フィール「ぷっ、あははははははははははははははははははは!!!!」

 

 

 フィールは耐え切れず腹を抱えて笑った。

 何がおかしかったのか顰めっ面でフィールを睨むミアル。

 

 

フィール「それアンタ人類皆同じとか言ってるのと同じだぞ!? 私がいつ外道魔術師と同じような人間と一緒にした!?」

 

 

 フィールは冷静だった仮面を外して笑う。

 その極端過ぎる持論に笑わずにはいられなかった。

 

 

フィール「私が言ったのはあくまで、人間と言う生物の生き方について、外道魔術師と比べた? そもそも比べてない。私は自己犠牲の塊みたいなアイツに怒っただけだ。外道魔術師と一緒にしたとは言ってない」

 

ミアル「つまり、貴女は外道魔術師と一緒にした訳ではないと?」

 

フィール「そもそも外道魔術師=人間って考えだろ? アンタが考えてる事。そりゃ間違いだ。そんな訳ないじゃん人間って。生きてりゃ誰だって人間。人形でも道具でもない。それだけの話だよ」

 

 

 フィールはカラカラと笑いながら口にした。

 そう、フィールがエルレイに語ったのはあくまで人間の生き方についてだ。外道魔術師と一緒にしたつもりはない。唯の人間の一般論に過ぎない。

 

 

フィール「って、お父さんが生きていたらそう言ってたと思うよ? 私はね?」

 

ミアル「……ふふっ、グレンせんせ……グレンさんみたいだねそれ、あ、No.0の愚者の人のことね」

 

フィール「……先生ねぇ。()()()()()()では助かったんだね。私のお父さんは」

 

ミアル「そっちの世界……か」

 

フィール「あはは、お母さんの言った通りか。まあいい。隠れ家に戻るよ。直ぐに終わらせようか。ミアルもエルレイも、手を貸してもらうよ?」

 

ミアル「わかってるよ、すぐに終わらせよっか《我目覚めるは・赤龍帝とデウスの力を許容する・名無しなり・異端を愛し・慈悲を捨てる・我が力を糧として・我に大いなる力を与えたまえ》」 

 

 

 ミアルが詠唱すると、熱が発生し、なくなると思ったら突如、何もない空間が裂け、そのヒビから人を押しつぶせそうなほどの大きな懐中時計のようなものが出てくる、その中は深淵で何があるのかわからない。

 

 

ミアル「こっちに、おいで」

 

フィール「いやいや、大丈夫なのそれ? 途轍もなく嫌な魔力を感じるんだけど」

 

 

 冷や汗をかきながらミアルに聞いた。

 空間がひび割れて出てきた懐中時計なんて怪しさと不快感が二重に襲いかかってくる。

 

 

ミアル「あ、大丈夫だよ、危ないものじゃ無いから………まあ使用者の寿命と魂削るけどね」

 

 

 そう言いながら最後にぼそっと苦笑いしながらつぶやいた。だが、フィールには聞こえてしまった。

 

 

フィール「…………私は命を粗末にする生き方が嫌いって言わなかった?」

 

 

 ミアルを少しだけ睨むが、ミアルは苦笑いしていた。

 それを見たフィールはため息をつきながらも、ミアルの額を軽く叩く。正直そんな魔術は気に入らないが、使ってしまった以上どうこうなる問題じゃない。

 

 

フィール「……行くよ」

 

ミアル「あはは、ごめんね、私達はそのあなたの嫌いな事を好きな人のためにするのが大好きなんだ」

 

 

 そういうとミアルはいつの間にか両手に古風の拳銃を二丁構えていた。そしてそのままフィールを抱き寄せる。

 

 

ミアル「《刻々帝(ザフキエル)》  《一の弾(アレフ)》」

 

 

 ミアルは銃を自分の頭に向けて容赦なく発射する。するとなぜかそこで意識が一瞬だけ刈り取られた。

 刈り取られたのは0,001秒程度だったが、気付くとそこは隠れ家で、瞬間移動でもしたかのような感覚だった。

 

 

ミアル「ただいま」

 

エルレイ「お帰り」

 

フィール「瞬間移動……ねぇ。《ショート・テレポ》じゃあるまいし」

 

エルザ「お帰りフィール。場所は特定出来たの?」

 

フィール「まあね。復興中のフェジテに神出鬼没で現れる人間。どう考えても怪しいでしょ。【ストーム・グラスパー】で探知して、探し出すから行くよ。刀は砥いだの?」

 

エルザ「バッチリよ。砥石はエルレイが錬金してくれたし」

 

エルレイ「砥石制作代償、エルザをモフらせることと、いちごタルトを食べてもらう事」

 

ミアル「はいはい。別に一触即発になったりはしてないんだね」

 

 

 そう言いながらミアルは苦笑いをした。

 エルザも既に装備は完璧だ。どうやら短期決戦な雰囲気を感じていたのはエルザも同じだったようだ。

 

 

フィール「んじゃ、行きますか」

 

エルザ「仕事は早く終わらせるに限るし……この構図だとダブルデート?」

 

フィール「男が1人もいないけどね」

 

エルレイ「デート………シュウいないけど、いいか」

 

ミアル「そうだね……さあ、リィエル、もう一度私たちの」

 

エルレイ「ん……私たちの」

 

 

「「「「戦争(デート)を始めましょう」」」」

 

 

 不敵な笑みでクールに決める4人。

 もはや敵など居ないに等しい。その背中は男顔負けの殺戮者の背中だった。

 

 

 

 

 

 

 

フィール「…………乗っかってみたけど、これ流行ってんの?」

 

ミアル「いや……」

 

エルレイ「うちの掛け声……ってだけ」

 

 

 エルザは苦笑していた。

 

 

 ────────────────────

 

 

 復興中のフェジテは建物が修繕されていき、半分とはいえようやく人が住めるほどにはなった。その中で神出鬼没の存在と言えば、1人しかいない。

 

 

フィール「見つけた」

 

エルザ「相変わらず、凄い感知力ね」

 

フィール「地下。空洞が存在してる以上、換気できるだけの場所は必要でしょ? 東に300メトラ、そこから異様に空気の流れが下に向かってる」

 

 

 黒魔改【ストーム・グラスパー】は周囲の風を全て把握し、支配下に置く力。風使いのセラの娘としての力を本領発揮するフィール。伊達にセラの娘ではない。

 

 

ミアル「この歳で良くここまで……」

 

 

 ミアルは珍しく素直にフィールに驚いた。

 これ程の技量は自分達がいた時代のシスティーナでも可能だったか分からない程、支配領域が大きいのだ。

 

 

エルレイ「それで、敵は?」

 

フィール「風だけじゃ人物までは分からないけど、ある程度は絞れた。恐らく一軒家の地下、そこに空洞を作って研究所を生み出してるんでしょうね」

 

エルザ「まあその場所に行って人払いの結界を張って、後は強行突破する? 罠ならフィールが感知出来るし」

 

フィール「それでもいいけど、そっちの2人は?」

 

エルレイ「罠感知なんで必要ない」

 

 

 エルレイはそう断言した。

 しまった。よくよく考えればコピー体も同じように突貫型だった。

 

 

エルレイ「突っ込めば勝て──」

 

どすっ!!! 

 

ミアル「それで大丈夫」

 

フィール「……死んだか」

 

エルザ「……死んだね」

 

ミアル「南無さん」

 

どすっ!! どすっ!! どすっ!! 

 

エルレイ「いくら何でも辛辣過ぎ」

 

フィール「昨日、手首勝手に切り落として【リヴァイヴァー】まで使った後に、縫合と回路(パス)の治療させた事、まだ怒ってるからね」

 

エルレイ「怒ってくれるんだ、フィーちゃんは優しいね、ありがとタルト」

 

 

 そう言いながらエルレイはいちごタルトを差し出した。

 だがフィールは冷静な顔をして、いちごタルトをエルレイから貰わずに告げる。

 

 

フィール「任務前は要らない」

 

エルレイ「!?」ガーン

 

 

 とまあ茶番をしながらも、目的地の場所まで駆け始めた。

 

 

 ────────────────────

 

 

フィール「この換気口の奥が、空洞になってる」

 

エルザ「じゃあこの近くに……」

 

フィール「いるね。民家を虱潰しに探したら流石に怪しまれるし」

 

 

 どうしようかなぁ、とフィールは考えている。

 仮にも《月》のイリアの幻術は、『王者の法(アルスマグナ)』でさえ覚醒が難しいのに、手っ取り早く地下の入り口さえ見つかれば楽なのだが……

 

 

ミアル「? 地下の入り口から入ろうよ、そのほうが楽だし」

 

 

 ミアルは首を傾げながらそう言った。

 だがそう言う問題ではないのだ。民家のどこにあるか分からない。

 

 

フィール「その地下の入り口がこの近くの民家の中の何処かにあるのよ。けど、それ以上は分からないし場所も密閉されている部屋とかに風の感知は無理だし。民家には人が住んでるのに、いちいち聞き回ったら勘付かれるでしょうが」

 

 

 ここはいっそ、この換気口の地盤を壊すか? 

 いやそんな脳筋な事をしたら始末書ものだ。絶対にやりたくない。

 

 

ミアル「……リィエル、見つけ出しなさい」

 

エルレイ「はっ、エルミアナ様の仰せのままに」

 

 

 エルレイはそう言うとしゃがみこんで、地面をトントンと叩き始めた。

 

 

フィール「洗脳?」

 

 

 精神掌握しているように見えるのは私だけか? 

 と言うか詠唱すら無しに精神掌握したぞこの人。

 

 

エルレイ「ごめん……今のはただの仕事のノリ、洗脳はされてない」

 

 

 エルレイは苦笑いをしながら地面を叩いていた手を止めて、立ち上がる。

 

 

エルレイ「こっち、ついてきて」

 

エルザ「えっ、分かるの?」

 

フィール「まさか……臭いで? 犬か?」

 

エルレイ「誰が犬、わたしは猫派」

 

 

 少しムッとしたエルレイに苦笑いしながらミアルが説明し始める。

 

 

ミアル「超音波だよ。今この子は地面を叩いて超音波を振動させて、ここの地形を把握してたんだよ、しかもその超音波は基本的にリィエルにしか聞こえない」

 

フィール「便利だね。成る程、リィエルの元のスペックなら納得か」

 

エルザ「ああ、確かに」

 

 

 この世界のリィエル? 

 ああ、剣の神エリエーテの斬撃を縦横無尽に放ってくる化け物ですよ? あんなの命が幾つあっても足りないくらい大変だし。

 

 

エルレイ「いこう、先陣は私が務める」

 

 

 そういうとエルレイは足音も全くたてず、まるでその場に居ないかのような体の軽やかさで移動し始めた。

 

 

フィール「仕方ない。エルザ、今回は後衛で。ミアルと行動」

 

エルザ「りょーかいよ」

 

フィール「罠を感知しながら行くから……ってエルレイ! 三歩目に罠!!」

 

 

 フィールがエルレイに叫んだ瞬間、エルレイは一歩後ろに下がった。

 

 

フィール「意外と面倒な……《滅せよ》!」

 

 

 フィールは罠の部分に【ディスペル・フォース】で無力化する。一度踏んだら肉体が焼かれる炎の罠魔術だ。アレをエルレイが踏んでいたら、致命傷は避けても、脚くらいは潰せただろう。

 

 

エルレイ「っ……と、ごめん、今のは気づかなかった」

 

 

 そう言いながら振り返るや否や、また走り出す。

 

 

ミアル「懲りてないのかなあの子……」

 

フィール「って待て!? ……五歩目と十二歩目! 上にも罠があるんだけど!?」

 

 

 指示する前に気付いたらエルレイは罠を踏んでいた。

 上から降ってくる針の雨、下から凍る凍結魔術。何とも悪質な罠が多い事だ。

 

 

フィール「《暴乱の塔よ》!」

 

 

 フィールは黒魔改【ライアブル・スクリーン】で全ての針をエルレイから逸らす。猪突猛進過ぎてフィールが即興で合わせなくちゃいけないのが精神的にしんどい。

 

 

エルレイ「ん、ありがと……」

 

 

 エルレイは優しい笑顔でフィールを見つめた、まるで自分の娘を見ているかのように……

 

 

 

 

 

 

エルレイ「んじゃ」

 

ミアル「んじゃ、じゃない」

 

 バシュン!!! 

 

 ミアルは容赦なく持っていた銃をエルレイの眉間にぶっ放した。

 

 

フィール「えっ? 躊躇無し?」

 

エルザ「別の意味で怖いんだけどミアルさん」

 

 

 銃を躊躇無く味方に撃った。ある意味、尊敬する。

 

 

ミアル「味方に撃つのを躊躇してたら、ツッコミ担当がいなくなるも同然だから」

 

 

 そんな話をしていると。さすがにエルレイが一度戻ってきた。

 

 

エルレイ「ルミア……痛い」

 

ミアル「あ、ごめんあそばせ? 射線上にいたもので」

 

エルレイ「流石、流石、ロクサスに鍛えられた理不尽は、言うことが違いますね」

 

ミアル「ふふっ、突っ込んで守るしか脳のないシュウくん見たいなリィエルには遠く及ばないよ?」

 

エルレイ「一本取られた。ふふっ」

 

ミアル「でしょ? あははっ」

 

「「はははははっ」」

 

 スチャ……、カチャン……

 

 バシュン!! ザシュ!! バシュン!! ザシュ!! バシュン!! ザシュ!! バシュン!! ザシュ!! バシュン!! ザシュ!! バシュン!! ザシュ!! バシュン!! ザシュ!! バシュン!! ザシュ!! バシュン!! ザシュ!! バシュン!! ザシュ!!

 

 

 

フィール「……エルザ、止めてきて」

 

エルザ「無理です」

 

 

 フィールはため息をつきながら、秒針を投げる。

 2人の首元に軽く刺さった瞬間、2人は膝をついて倒れた。

 

 

「「うっ……!?」

 

 

 地面と友達になれたようでフィールは頭を痛めながらも地味に強く首元に突き刺した。痛いだけで回復すればすぐ治る。

 

 

フィール「味方に撃つのを躊躇してたら、ツッコミ担当がいなくなる……だっけ?」

 

エルザ「麻痺毒……」

 

 

 解毒の針を腕に突き刺して、注射より痛い為2人は悶絶していた。

 

 

 ────────────────────

 

 

エルレイ「刺された瞬間、またシスティーナに止められたか、と思ってしまった」

 

 

 エルレイとミアルは首元を擦った。

 

 

ミアル「……今回はリィエルのせいだよ」

 

エルレイ「先に撃ってきたのはそっち」

 

フィール「次やったら致死性の毒」

 

「「はい、すいませんでした」」

 

 

※この二人はほとんど何されても死にませんが、唯一毒はまともにくらいます。

 

 

フィール「さて、罠は大分終わった筈だし、そろそろ広間に……」

 

 

 研究所に進むと大広間のような場所に出る。

 そこには『Project:Revive life』で生み出されたリィエルの量産兵の他に、別の人間の……第二団《地位》の人間の肉体すら存在している。

 

 

フィール「かつて《竜帝》レイクが蘇生したのと同じ、死んでも死なない矛盾はやっぱりこれか。コイツらは()()()()()()()があるって訳ね」

 

エルレイ「…………ちっ所詮外道下等生物か」

 

 

 エルレイは小さくそう呟いた。

 これは即座に壊した方がいい、そう判断した瞬間に水槽の中にいたリィエルのコピー体の水槽が壊れて、表に出始めた。その数は約8体。しかも服などなく全裸で。

 

 

フィール「自動防衛システムにでも引っかかったか。遠視で見ているようね? エルザ! 多分全員エリエーテのデータ打ち込まれてる!」

 

 

 コピー体達は即座に剣を錬金して襲いかかる。

 

 

エルレイ「《エクスマキナ》 《5の因果》」

 

 

 そう言いながら剣を掲げると空間がチャックのように裂け、人一人なら押しつぶせそうなほどの隕石がエルレイの周りに8つ浮かび上がる。

 

 

エルレイ「《殺れ》」

 

 

 エルレイがそう言って剣を振り下ろすと同時に隕石が全て動き出し、数秒後にはコピー体に激突する。その様子にエルザは純粋に驚いていた。

 

 

エルザ「凄い……」

 

フィール「いやまだ!」

 

 

 コピー体はダメージこそ負ったものの、致命傷を避けている。

 剣の姫エリエーテによる反応速度はゼーロスやエルザを超える。

 

 

フィール「《雷槍よ––––撃ち砕け》!」

 

 

 フィールが同時起動した8つの【ライトニング・ピアス】と同時にエルザが動き出す。無理矢理剣で防いだせいで生じた隙にエルザは抜刀【神風】をフィールの風で強化して、一気に2体の首を落とす。

 

 その瞬間にコピー体も動き出すが、フィールは赤い魔銃ペネトレイターで6連早撃ち(クイック・ドロウ)で一体の眉間を撃ち抜いた。

 

 

フィール「三体そっちに行ったよ!」

 

エルレイ「今ので仕留め損なった」

 

ミアル「詰めが甘かったね」

 

 

 そう言いながらエルレイは軽々とコピー体の攻撃を受け流し、的確に大剣を使い、仕留めていく。

 

 

エルレイ「ふっ……はっ……と」

 

 

 一体は完全に潰すために首を狩り、二体目は両手両足を確実に切り落とし。

 

 

ミアル「《ごめんね》」

 

 

 最後の一体はミアルの詠唱により、《イクステンション・レイ》のようなものが起動し、最後の一体も無残にも四散した。

 

 フィール達も最後の一体を魔剣エスパーダで斬り裂き、終わったがフィールはやはり疑問に思っている事を聞いた。

 

 

フィール「いや、アンタらどうなってんのその魔術。貸し与えられる上限を超えてるでしょ」

 

エルザ「どう言う事?」

 

フィール「原理は精霊魔術に近いんだけど、精霊の力を体内に宿して使用する稀な存在に近いけど、貸し与えられてるのって明らかに天使や精霊、悪魔を超えてる。まるで……」

 

 

 神霊に近いものを感じる。

 おかしいのだ。そんな力を人間の体内に宿せば過剰な力で内側から崩壊する。その筈なのに、この2人はそんな力を平然と使っている。

 

 

フィール「契約にしてもその力は絶対におかしい。寿命を対価にすると言ったけど、まるで()()()()()()()()()()()()ように見えるし。魔術理論もさっぱり、ただ願っただけでそうなったって言う古代魔術(エンシェント)にも似てるけど……」

 

 

 フィールが精々暴けたのはそれくらい。

 どんな魔術もフィールの魔術特性(パーソナリティ)で逆算できる筈なのに、暴けたのはその程度なのはおかしいのだ。

 

 

ミアル「ふふ、それは流石に言えない」

 

エルレイ「ん、ナイショ」

 

 

 そう言いながら二人は人差し指を自分の唇に押し付けた。

 

 

ミアル「まぁ、教えてあげるとしたら……この世には神様がいて、その神様にこの肉体と命を捧げている……それくらいかな」

 

 

 ミアルはそう言いながら苦笑いをした。

 フィールはため息をつきながらも、地味に核心に迫っていた。

 

 

フィール「まあいい。ただそれ、早死にするでしょ」

 

 

 フィールが確信めいた視線を向けると2人はただ沈黙する。どうやら当たりのようだ。

 

 

フィール「……私はそれを魔術とは認めない。命を枯らす為に魔術を使うなんて、魔術に対する冒涜だと言う事だけ、覚えておきなよ?」

 

 

 フィールとエルザは先に進み始める。

 そう言う魔術は気に入らない。自分を犠牲にする魔術は確かに存在する。だがその末路はどれも悲惨だからだ。だが、2人は……

 

 

エルレイ「早死……冒涜だってさ」

 

ミアル「どうでもいい」

 

 

 2人はそう吐き捨てた。

 

 

エルレイ「だよね、冒涜と言うなら、私達はそれを続けるのみ」

 

 

 エルレイはミアルを見ながらそう呟いた。

 

 

ミアル「私達は、ただ無意味に生きて、無意味に搾取してる人間……外道下等生物とは違う、好きな人の為に、命を枯らす。魔術に冒涜するなんて……」

 

「「ただの戯言」」

 

 

 エルレイ達は二人だけでそう話したあと、フィールとエルザの後を追った。

 

 ────────────────────

 

 

 次の広間に飛び込むと、一瞬にして自分達の周りの空間だけが真っ白に変わった。侵食する白い部屋、瞬間、フィールとエルレイは反射的にその部屋から抜け出そうとするが、反応が遅れたミアルとエルザは飲まれてしまった。

 

 

フィール「エルザ!!」

 

エルレイ「ルミアっ!!!」

 

 

 エルレイが悲痛の声を荒げた。

 白い部屋から抜け出した瞬間、エルレイとフィールは白い部屋に対して凍結魔術を放つが、白い部屋は壊れない。

 

 

フィール「くそっ……魔剣エスパーダ」

 

 

 フィールは強引に因果逆転の魔剣で部屋を切り裂いたが、そこから出てきたのは瞳が赤く染まり、操られている2人だった。

 

 

フィール「エルザ! ……っ……!?」

 

 

 エルザが斬りかかってきた。

 フィールは魔剣エスパーダでそれを受け止めるが、刃を滑らせて下段を狙われる。フィールは瞬時に【フィジカル・ブースト】で跳躍し、後退する。

 

 

フィール「どうやら、エルザには私が敵に見えてるようね」

 

エルレイ「……」

 

 

 何故か、エルレイは何も言おうとしない、硬直している。

 

 

フィール「エルレイ! ボーっとしないで! ミアル来てるけど!?」

 

 

 ミアルが氷の鎌を持ってエルレイに迫っている。

 

 

エルレイ「……」

 

 ザシュ!!! 

 

 エルレイは容赦なくミアルの両足を切り落とした。

 するとミアルは銃を取り出して、斬られた足に発砲、たちまちに時間が戻ったかのように足が元の姿に戻る。

 

 

エルレイ「これができるってことは本物だね……ルミアを洗脳……高く付くぞ、外道下等生物」

 

 

 エルレイそう吐き捨ててから、フィールに向かって叫ぶ。

 

 

エルレイ「おいっ!!! ルミアを助けるついででオマエの相方を助けるっ!!! 十秒時間稼げ下等生物!!」

 

 

 エルレイは今までで聞いたことのないほど怖ろしい叫び声を上げた。だがその命令にフィールが激怒する。

 

 

フィール「ふざけんな! 誰が下等生物だ誰が!!」

 

 

 フィールは【女帝の世界】を発動し、黒魔改【グラビティ・プリズム】で重力の檻を張るが、2人はそれでも動き続ける。

 

 フィールはその隙に麻痺毒が塗られた秒針をミアルとエルザに投げつけるが、エルザの装備は元々、状態異常に対するレジストがかけられている為、動き続ける。一方ミアルは効いているのか効いてないのか分からないが、止まっていない。

 

 

フィール「おい脳筋!! 麻痺毒じゃダメなのか!? さっき効いた筈だろ!」

 

エルレイ「誰が脳筋だ誰がっ!!!」

 

 

 エルレイはまたフィールに怒鳴りつける。

 

 

エルレイ「さっきの銃見てなかったの?! あれは 時間を自由自在に操る銃!! 今回復するためにルミアの時間が巻き戻ってるから毒が回らないの! 考えろ下等生物っ!!」

 

フィール「んな滅茶苦茶な! 《荒ぶる風壁よ》!!」

 

 

 フィールは黒魔改【ライアブル・テンペスト】で2人を吹き飛ばすが、壁に激突しようがすぐに体勢を治して襲いかかる。向かい風だと言うのに、風除けの魔術を使われている。

 

 

フィール「これならどう? 《進まぬ床よ》!」

 

 

 即興で錬金術式を組み直し、床を錬成し直す。

 地面が凍ったかのように踏ん張りが聞かずに2人は滑り転んだ。黒魔【スティック・スリップ】で2人の床の半径5メートルの摩擦係数を操り転ばせる。時間的には10秒経った筈だ。

 

 

フィール「まだか! 10秒は経った筈だろ!!」

 

エルレイ「……詠唱完了、フィーちゃん、さがって」

 

 

 エルレイはいつもの口調に戻り、一枚のカードを掲げる。

 

 

エルレイ「《展開》フルフェイスっ!!」

 

 

 エルレイがそう叫ぶと周りが真っ赤に染まる。するとエルレイの後ろにクリスタルのようなものがそびえ立ち。

 その光に惑わされるかの如く、ミアルとエルザの洗脳は解かれ、前に倒れていく。

 

 

フィール「エルザ……! 良かった、気を失ってるだけか」

 

 

 フィールはエルザを抱き抱えると、安心したように剣をしまう。

 

 

ミアル「……ふふふっ、思ったより遅かったね。リィエル?」

 

エルレイ「やっぱり、その場のノリに合わせてただけだったんだ、そりゃそうだよね」

 

 

 そう言いながらエルレイはため息をついた。

 

 

フィール「やっぱりミアルには幻術がかかってなかった訳か。まあ時間が戻るなら操られる前に戻るしね。よしそこに直れ、致死毒の後に【イクスティンクション・レイ】だ」

 

 

 キラーン! とフィールの右手に致死毒の秒針が手に握られていた。

 

 

ミアル「やめて。死なないって言ったって痛いものは痛い、ていうか本当に君、グレンさんに似てるね?」

 

 

 そう言いながらミアルは苦笑いをした。

 

 

フィール「まあそれはさておき」

 

 

 フィールは握られた秒針をエルレイの顔スレスレに投げつける。味方を誤認させ、同士討ちさせる幻術を使える人間なんて1人しか知らない。まあ、躱されたけど。

 

 

フィール「そこにいるんだろ。《月》のイリア」

 

イリア「……よくぞ見破った。私の幻術を」

 

エルレイ「なんだ、いたんだ」

 

 

 エルレイがせっかく一件落着したのにと言わんばかりのため息をついた。

 

 

フィール「アレだけの幻術使いは貴女しかいないしね。どうする? 投降するなら苦しまずに済むけど?」

 

エルレイ「……フィーちゃん、こいつが黒幕、かな」

 

 

 エルレイは眠たそうな目で呟く、エルレイの世界ではエルレイはある病気にかかり、イリアと実際に対峙したことはない。

 

 

フィール「《月》のイリア、世界を欺く幻術使い。それに付随する記憶すら捏造する幻術使いの頂点の魔術師」

 

イリア「いかにも、よくこの短時間で幻術を解いたものだ。隣にいるイルシアのコピー体の力か?」

 

フィール「アンタが知る事じゃない。アンタらの企みはこれで終わりだ」

 

イリア「ふっ、忘れたか? 私の幻術は––––ッ!?」

 

 

 イリアが【月読ノ揺リ籠(ムーン・クレイドル)】を発動しようとした瞬間、イリア達の視界は真っ暗になった。

 

 

フィール「よく合わせてくれたね。エルレイ」

 

エルレイ「別に合わせてない、フィーちゃんの頑張り」

 

 

 エルレイはそう言いながらフィールに向かって微笑んだ、先程の砕けた口調はまるでなかったかのように、とても安心する笑顔だ。

 

 

イリア「貴様……! 何をした!!」

 

フィール「黒魔【ダーク・カーテン】光を操作して一定範囲を暗闇がに変える結界魔術。あの乱闘中に、触媒を広げていた事に気づかなかったようね?」

 

 

 あの乱闘中に、自分の血を染み込ませた秒針を【ライアブル・テンペスト】と一緒に辺りに仕掛けていたのだ。

 

 

フィール「"あらゆる精神防御を貫通する"だっけ? ただタネは割れてる。対象に対して自分と言う記憶を植え付けれる反面、遠距離にいる人間や目視できない人間は操れない。遠くにいた私達を操れなかったのがその証拠さ。なら視界さえ塞げばそれは使えなくなる」

 

イリア「こんなもの! 貴様らも見えない以上、結界を解けば!?」

 

フィール「私が誰で、そのコンビにいつもどんな動きをさせてるのか忘れたのか?」

 

 

 暗闇の結界なんて、風使いたるフィールの動きを止めるほど甘くない。この程度、風のパラメータを全て支配下に置く【ストーム・グラスパー】を使うフィールに通用する筈もない。

 

 

フィール「今回はエルザの代わりだけど《駆けろ風狼》!!」

 

 

 速攻の詠唱で他人をサポートし、後ろから魔術で援護するのが、二人一組(エレメント)一戦術単位(ワンユニット)の基本だ。配役こそ変わったが、黒魔【スウィフト・ストリーム】で動き出したのは……

 

 

エルレイ「んっ」

 

 

 エルレイだった、エルレイは恐ろしいほどの速さで、イリアの目の前に現れ、イリアの腕を斬り飛ばす。

 

 

エルレイ「見えずらい、でも、匂いで簡単にわかる」

 

 

 そう言いながらエルレイは不敵に笑った。

 

 

イリア「ぐああああああああああああああああああっ!?!?」

 

 

 腕を斬り落とされた事に痛みの叫びを上げるイリア。

 フィールは冷静に暗闇の中でエルレイに指示する。

 

 

フィール「エルレイ、眼を布で覆え。眼が使えなければ能力は使えない」

 

 

 世界単位で欺く幻術だろうが、欺く為に自分と世界の位置を正確に把握していなければ使えない。見えなくなれば当然の事だ。目に見えるものが全てじゃないが、目に見えないものも全てじゃない。全てを把握するなら尚の事、視覚というものが必要不可欠なようだ。

 

 

エルレイ「10-4了解」

 

 

 エルレイはまるで暗闇の中ハッキリ見えているようにポケットから取り出した布で目を縛り上げた。

 

 

エルレイ「これでいい? 目潰し、しておこっか?」

 

フィール「潰すのは無しだ。コイツを餌に大物を釣る。能力がまだ使えるとわかったら上層部の裏の連中はどんな動きをするか。楽しみだ」

 

 

 このまま上層部に引き渡せば、能力がまだ使えるイリアというカードを取り戻す為に誰かが必ず動く。イリアの腕を止血して、【スリープ・サウンド】で眠らせた後、縄を何重にもして縛った。

 

 

フィール「これでよし」

 

 

 縛り方が亀甲縛りと言う超独特とだけ言っておこう。

 

 

エルレイ「……」

 

 ドス!!! 

 

 えるれいは、ようしゃなく、ふぃーるにボディブローを、くりだした!

 

 

フィール「グフッ!? ……何するのさエルレイ!?」

 

エルレイ「どんな教育を受けたら、この縛り方にする結論になるんだ、可笑しい」

 

 エルレイはそう言いながら少しキレ気味で今にも砕けた口調が出そうだった。

 

 

フィール「いやこれ『お父さんの極意』って書かれてた指南書に書かれてたんですけど……」

 

エルレイ「それよこせ下等生物、今すぐ破いてやる」

 

ミアル「あ、あははは……」

 

フィール「嫌ですよ。曲がりなりにも形見の遺品ですし」

 

エルレイ「遺品は遺品、参考書じゃな……っ」

 

 

 そう言っていたエルレイが突然口元を抑えた。

 吐血している。マナ欠乏症に陥ったようだ。

 

 

エルレイ「ごほっ……ごほっ……」

 

ミアル「大丈夫? リィエル?」

 

 

 ミアルはそういうと体を摩る。

 どうやらさっきの魔術?はかなり魔力を使ったようだ。

 

 

 エルレイ「ん……ちょっと能力広範囲にしすぎた」

 

 

 そう言いながらエルレイは苦笑いをした。

 

 

フィール「何をしたの? 明らかにマナ欠乏症だよね。そんな大規模な魔術だったの?」

 

ミアル「……まあ、この子なら教えていいか」

 

 

 ミアルは少し考えた後、説明し始めた。

 

 

ミアル「さっきこの子が使った『フルフェイス』あれは洗脳を解く力じゃなくて、逆に洗脳する力なの」

 

 

 「……?」とフィールは首を傾げる。

 

 

ミアル「リィエルは【月読ノ揺リ籠(ムーン・クレイドル)】に対抗しようと【|月読ノ揺リ籠《ムーン・クレイドル】自体、世界ひっくるめて概念そのものを洗脳したんだよ、そうだよね」

 

エルレイ「……無駄になったけどね」

 

 

 そう言いながらエルレイは苦笑いをした。

 

 

フィール「んな世界がカウンターを寄越しかねない魔術……。まあいいや。これ、使いなさいな」

 

 

 フィールは魔晶石を渡した。

 魔力を保存する技術は卓越したものでなければ造れない為、中々高価なものだ。

 

 

フィール「自作だし……使い物にならないと困るからね」

 

 

 多少のツンデレを含んだ物言いをした後、フィールは魔晶石を投げ渡し、周囲を風で調べていく。

 

 

エルレイ「ありがと、このお礼は、いつか必ず」

 

 

 そう言いながらエルレイは魔晶石を両手に持って吸収し始めた。

 

 

 

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