バッドエンドの未来から来た二人の娘 作:アステカのキャスター
すまん。社交舞踏会編飛ばします。
今回で第五章は終わりとなります。あと二章か……意外と大変だなぁと思いながらも書いていきたいと思います!!
何故か読まれた後に評価が減ると言う謎現象があったからぴえんしかけましたが、気合いで書きました。
良かったら感想評価お願いします。それではどうぞ!!
「フィール!おい、しっかりしろ!」
グレンがフィールを支えながら軽く揺する。
ただ聞こえたのは規則正しい寝息だ。魔力を使い果たし、おまけにあれ程の力を解放したのだ。ホッとしながらもフィールを背に抱え始めた。
フィールは正体を明かした。
フィール=レーダス。時渡りに成功し、未来でセリカの弟子であり、そして……
「(セラと……俺の……)」
在りえざる世界から時を渡り、ここまで辿り着いたのがフィールだ。抑止力が介入したのも、グレンやセラの接触がこれ以上は危険と判断したのか、時を渡ったペナルティが発生したのかは分からない。
けど、グレンにはもう分かってしまった。
まるで、過去の自分を見ているようだったから。
『どうやら、その子は運命と戦う未来を選んだのね』
「っっ……!」
グレンの目の前に現れたのはナムルスだった。
全員が警戒しながら、戦闘態勢に入るがナムルスは首を横に振った。戦う気がないのだろうが、警戒する事を止めない。
『もう私に抑止力の力は無いわ。その子にも貴方達にも何にもできない』
「んな話信じるとでも……」
『信じるかどうかは勝手にしなさい。けれど、一つだけ忠告しておくわ。グレン』
ナムルスの顔には悲しみがあった。
それは、この子供の存在だ。この子は間違いなく存在している事自体が異常なのだ。この世界でフィールが産まれていない時点で、フィールは生まれるはずのない異物のようなものだ。
『その子の存在は奇跡そのものよ。ただし、それは
「なっ……!?」
「っっ……!」
異物はやがて処理される。
抑止力や運命、そして
セラは知っていた。
フィールが長くない事は分かっていた。けれども、何も出来ない。フィールの死を止める事はどんな手を使っても覆せない。
邪神の力で時間を跳躍し、世界の真理に触れ、いずれ来たる日を終えた瞬間、フィールは必ず死に至る。
そして、その来たる日すら待たずして抑止力がフィールを殺そうとする。なんと皮肉な運命か。
『その子を少しでも長く生かしたいのなら、あの力を使わせないで。ただ、それだけよ』
「ちょっ、おい!?」
自壊する力を使えばその日にさえ保たない。
ナムルスはただ警告するかのようにグレンに告げた後、目の前から消えていた。
長くない、そう不穏な言葉を残して……
★★★
遺跡調査は終わり、星の回廊から帰還したグレン達はアルザーノ帝国学院に戻る事になった。フィールはその間、目を覚まさない。身体に相当な負荷が掛かったのか眠りから覚めなかった。
「セシリア先生、フィールの方は大丈夫なんですか……?」
「……大丈夫とは言い難いですけど、今はゆっくり寝てれば治ります」
フィールの手を握りながらセラは寄り添う。
あの戦いでだいぶ無茶をして、死の淵まで立たされたのだ。セラは手を握りながらセシリア先生の報告を聞いた。
「フィールさんの回路や霊魂体、精神体を調べてみたのですが、まず回路から。この子の回路は修復できないくらいに
「劣化?」
「魔術を使い過ぎると回路が傷付いたりしますよね?それに似ているように思ったのですが、全く違います。彼女の回路は時間によって経年劣化されたようになってます。まるで
「!」
多分それが時を渡った代償の一つなのだろう。
魔術師の回路は経年劣化が始まるのは六十を超えた辺りからだ。フィールの場合は、時間を越えた故の代償で回路が老化現象を起こしているのかもしれない。
「霊魂体についてですが、傷付いているのは一部です。これは自然治癒に頼るしかありません。まあほんの一部ですから一ヶ月もあれば元に戻るでしょう」
「良かった……」
「ただ、おかしな点が一つ。彼女の霊魂とは別に、全く別のの霊魂が彼女の手から検出されました」
グレンもセラもそれについては知っていた。
暴走していた時に顔を出した全く別の高次元な存在。手の甲に蝶のような羽の紋章が浮かび上がっているからだ。
多分だが、あの力には意思がある。
それだけは何となくわかっていた。
「二つに関してはそれ以上の問題はありませんが、問題は精神体については、彼女の精神体はかなり異常と呼べるでしょう。本当に15歳なんですかと匙を投げたいくらいに摩耗しています。精神体が擦り減るなんて普通はあり得ません」
「それが擦り減ってるって事は……」
「彼女の精神は、本来なら
精神体が摩耗するなんて、本来は有り得ない。
絶望し、精神に深い傷を負い、閉ざしてしまう事については珍しくない。けれども、摩耗するというのはまた違う話だ。
もう死にたいと思える絶望に身を焦がし続けて、誰にも頼れなかったのかもしれない。
「とりあえず、今は眠ってもらって回路を私の方でなんとか修復は致します。途切れ途切れ回路の異常はあったりしますし、霊魂も一部損傷している以上、絶対安静です。私の方でなんとかしましょう」
「でもそれなら教会で治療させた方がいいんじゃないか?」
「いや、止めておけ。フィールの存在は間違いなく異端だ。教会で存在がバレれば『
『
異端を狩る異端者は聖伐と言う名の下に処理する。それは避けた方がいい。教会関連でフィールの情報が伝わったりしたらそれこそ国が敵に変わる可能性もある。
教会の方が治療は早いかもしれないが、セシリア先生は法医魔術のプロだ。下手に預けるよりよっぽど早いだろう。
「教会もダメか……ってアルベルト!?何でいやがんだ!?」
「俺だけじゃないぞ」
「どうも、グレン先輩、セラさん……」
「クリストフくんまで……」
アルベルトとクリストフがいつの間にかアルザーノ帝国魔術学院に来ていたのにグレンが驚きながら距離を取る。クリストフの手にはフルーツバケットとアルベルトの手にはケーキが入った綺麗な箱を持っていた。
「任務帰りで立ち寄ってこいと室長と翁からの指示だ。これは見舞い品だ」
「ゾッとしねぇな……妙に律儀なのが余計」
「《金色の雷獣よ––––」
「ちょっ、おま【プラズマ・フィールド】は止めろ!」
アルベルトも自覚はあった。
こんな大男が女子に人気なケーキ屋で並んで買うなんて似合わなすぎる自覚はあった。
「そもそも、この見舞い品を選んだのはイヴだ」
「あっ?あのヒス女が?」
「ちょっとグレンくん?女の子にそんな事言っちゃ"めっ'だよ」
「子供扱いすんな白犬!」
「犬って言わないで!」
「重傷者の前だ。静かにしろ」
アルベルトが二人に拳骨をかまし、ため息をついた。
少なからず、暫くは目が醒めないだろう。彼女の霊魂も精神も酷く傷付いて、肉体的にも死ぬ程に辛かった筈だ。
「僕については生存確認の魔術を結んでおこうと思っただけです。セラさんやグレン先輩はどうしますか?」
「かけ直してもらってもいい?」
「俺も頼むわ」
フィールの髪を3本だけ貰いグレンとセラ、クリストフは小指に巻きつけて魔術をかけた。きっとまた無茶をしたら今度こそ自分達が助けに行くと決意し。
★★★
一ヶ月が経った。
一ヶ月の間には色々な事があった。社交舞踏会によるルミアとフィール暗殺計画は特務分室の活躍により防ぐ事が出来た。何せフィールが眠っている医務室にはあらゆる情報をシャットアウトして断絶結界を張るセリカが居た以上、解決は容易な話だったらしい。
事件は終わり、終息を迎えたその矢先……
「グレン先生!セラ先生!」
「〜〜っ、セシリア先生?授業中っすけど」
「フィールさんが目を覚ましました……!」
「っっ……!」
授業中の速報にグレンは生徒達を見る。全員が行ってこいと言う顔をしていたので、グレンはセラよりも早く教室から駆け出した。セラも追いかけようとしたが、グレンが見に行ったのだから問題ないと思い、セシリア先生にフィールの容態を聞いた。
「フィールは大丈夫だったんですか?」
「身体的には……ですが…」
「何か、あるんですか?」
「それが……」
セシリア先生も言い淀んでいる。
セラは覚悟がある瞳を向け、セシリアの話を聞き始めた。
★★★
「フィール!」
窓の外を見ていたフィールの肩がビクッと震えた。
息切れをしながら彼女に近づく。伝えたい事も叱らなければいけない事も沢山ある。
けど、今はそれ以上に彼女の心配をした。
目が覚めて苦しくはないからとか、まだ不調かと聞きたい事が妙に緊張して出てこない。
「大丈夫、なのか?」
「?」
「傷……とか、霊魂とかさ……」
「……完治、してるとは聞いてます……」
その言葉にホッとしてフィールに近づく。
だが、フィールはどこか怯えているように見えた。黙っていた事を叱る未来でも予想したのか、苦笑いしながらグレンは頭を掻く。
「いやー、良かった良かった。全く、心配かけさせやがって」
「………」
「特務分室の奴等も心配してたんだぜ?セリカなんて過保護が天元突破する勢いだったしな」
「………」
グレンが不器用ながら励まそうとするが、フィールは終始無言だった。圧巻されたかのような無言ではなく、まるで話が理解できないかのような無言にグレンは首を傾げた。
「フィール?」
「あの…………」
フィールは口を開き、グレンに質問した。
それは、グレンにとって予想から外れた悲しい質問を。
★★
「そんな……」
「お辛い気持ちは分かります。ですが、確認したところ、確定でしょう」
教室にいたセラにセシリア先生は告げる。
その言葉を聞いたクラスメイトも全員、動揺と混乱をしていた。
「そんなのって……」
「精神体が傷付き、長い間放置されていた結果なのかもしれません。向き合うものが過酷だったからかは分かりません」
セシリア先生はフィールの症状を告げた。
「フィールさんは……」
「あなたは………誰ですか?」
唇から紡がれる声、それが確かな音と意味を結び、グレンの脳に浸透する。名前を質問されたから?誰かと質問されたから?
違う。嘘だ。ありえないと混乱する。
彼女がそんな質問をするはずがない。だって、世界が違ったとしても彼女は自分の………
その言葉にただ呆然と立ち尽くしていた。
セシリア先生が告げた言葉はとてつもなく残酷な現実だった。グレンにもセラにも、事情を知っているクラスメイトでさえ……
彼女が告げた問いはグレンには余りにも残酷な言葉だった。その言葉を聞いたセラも子供のように涙を流して泣いていた。
『彼女は……殆どの記憶の一切を失っています』
偽りでも、全く違う世界であろうが漸く繋がろうとしていた家族の絆は、運命が拒絶するかのように再び二人からフィールを引き裂かれた。