バッドエンドの未来から来た二人の娘 作:アステカのキャスター
興が乗っちまって書いてしまいました。ちょっと下ネタありますのでご注意ください。
良かったら感想、評価お願いします!では行こう!
第27話
「……えっと、初めまして?ですか。フィール=ウォルフォレンです。記憶喪失…らしいのでまた仲良くしてくれると嬉しいです」
クラスメイトの全員が唖然としていた。
改めて自己紹介をされたクラスメイトの顔は険しいものだった。特に遠征に行った仲間は特に。
フィールは過去の記憶の一切を失っていた。
それどころか、魔術も自分が誰なのかすら分からない。
特に傷付いているのはグレンとセラ、セリカだ。
動揺こそ押し殺しているものの、未だに信じられないと思ってしまうほどに。
「ああ〜、まあお前らなら大丈夫だと思う。また、仲良くしてやってくれ」
「も、もちろんですわ!」
「お、おう!よろしくなフィール!」
空元気でクラスメイトが歓迎する。
フィールはそれを見て、記憶がなくなった自分を少しだけ憎んだ。多分、元のフィールはこんな顔させる人間ではないと、分かっていたのに。
★★★
次の日、看板に張り出しがあった。
グレンは欠伸混じりでそれを見たのだが……
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『緊急通達 アルザーノ帝国魔術学院 学院教育委員会
以下、一に該当する者を、二の通りの処分とすることを決定し、ここに通知する。
一.対象者:リィエル=レイフォード。
二.処分内容:
三.処分理由:生徒に要求する一定水準の学力非保持、故の在籍資格失効。
以上』
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「が、学院長!?どう言う事ですか!?」
「ど、ど、どぉいうことっすか、学院長ぉおおおおおお────ッ!?」
掲示板でそんな通達を発見するや否や、グレンとセラは猛烈な勢いで学院長室に駆け込み、執務室のリック学院長へ、机越しに身を乗り出すように詰め寄っていた。
「まぁ、そろそろ君が来る頃じゃとは思っていたよ……」
「確かに、こいつはマジモンのバカですよ!?今のところ、成績、ボロクソですし!」
「むぅ……バカって言うほうがバカ」
「リィエルちゃん、勉強苦手だったもんね……」
リィエルはグレンに後ろ襟首を摑まれぶら下げられながら、不服そうに言う。セラに手を掴まれたまま何故かフィールも駆け込む形になったのだが……それにも理由がある。
そもそも帝国政府によって公的に運営される魔術学院は富国強兵、基本的に実力至上主義だ。能力と意欲ある者は優遇するが、無能者、意欲なき者には厳しい。
よって、学業成績が著しく悪い生徒に対しては、学院教育委員会が『落第退学』という強制的に学院在籍資格を剥奪し、退学させる処分を下すことがあるのだが……
「一番成績に響く前期期末試験がまだだったんっすよ!?その結果すら待たず、指導も補習も追試も留年もすっ飛ばして、いきなり退学なんて、絶対おかしいっすよ!?」
「確かに……もしかして国軍省の強引なやり方を面白く思わない人達のせい?」
「まあ概ねその通りじゃ。器物損壊や成績不振につけ込んで退学を要求したのじゃろう」
ルミアの護衛に強引な手を使った手前で、それを納得出来ない人間はいる。陛下の一目置く宮廷魔導師団は特にそう言った面では逆らえないが、それを元にリィエルの性格で学院を荒らされても溜まったものではない。それらの責任が担任と学院の不手際でと言われて名誉を傷つけられたら尚更だ。
「てかセラは何で?」
「これっ!!」
「えっと……はっ?」
「フィールちゃんに名指しで短期留学の誘い、聖リリィ魔術女学院から。と言うか受理されてるし」
「何故に!?」
短期留学のオファーも既に受理されてるらしい。
セラも封筒と制服が届いた瞬間、フィールを抱えて『
「それに関しては学院の生徒体験留学期間と言うのがあってのぉ。首席や次席、成績優秀者数名なら暫くの名目で短期留学が出来るシステムがあるのじゃよ。まあアルザーノ帝国は他学院より優秀な故か参加する生徒は殆ど居なかったのじゃが」
「えっと……つまり私が短期留学オファーを……?」
「まあそう言う事じゃ、フィールちゃんは首席じゃったからのぉ」
「それ記憶を失くす前の…私が?」
「ああ、それは間違いなく」
おずおずしながらもフィールが確認する。
今のフィールは常時怯えてるようだった。フィールは周囲が少し怖いらしい。自分が知っていたものが知らない。自分がどう言った人間なのか理解出来ない。一体自分はどんな存在だったのか。知っているはずなのに知らない人に声をかけられるそのズレにフィールは少し恐怖しているらしい。
「記憶を無くす前のフィールが?何で?」
「分かりません。……その、私は宮廷魔導師団だったんですよね?…もしかしたら、『前』の自分が……何があるって思ってたのも」
「いや、フィールちゃんはどちらかと言うと嬉々としていたぞ?『行きたい行きたい!』と結構子供のように」
「私はまだ子供なんですけど……」
首をコテンと傾げる。
いつも冷静でクールなイメージのフィールが子供のように駄々を捏ねているなんてグレン達には想像が付かなかった。
「じゃあ……もしかしたら『前』の自分は何が想い入れがあったのかもしれません」
「……まさか、母校とか?」
「母校?どう言う事ですか?」
「ああいや……なんでもない」
グレン達は出来るだけフィールの正体を明かさないでいる。それは単純な話、フィールの精神的な病によって記憶喪失が引き起こされたのなら忘れていた方が幸せなのかもしれない。思い出してほしいと言う反面、傷付いてでも思い出してほしいと思わない自分がいる。
「と言うか学院長、リィエルの退学回避のなんか無いんですか!?」
「あるにはあるんじゃが、実はリィエルちゃんもオファーが来てるんじゃよ」
「なっ、何処っすかそこは!」
「奇妙な偶然なのじゃが、フィールちゃんと同じ聖リリィ魔術女学院から」
グレンとセラも何故と首を傾げる。
フィールの場合は既にオファーが来ていたからこそ手続きがあったが、その反面でリィエルに関しては関わりすらなかったのに。
「……なんでリィエルにも?フィールみたいに手続き無しでいきなり短期留学のオファーが……?いや!今はそんなことどうでもいい!リィエルに短期留学のオファーが来たってのは間違いないんすか!?」
「うむ。今回、反国軍省派のリィエルちゃんに対する攻撃点は、成績不振による学院在籍資格への疑問、その一点じゃ。つまり、それを覆してやればいい」
「そうっすね!他校への留学ってのは、総合成績評価に大きく加点される立派な『実績』だ!リィエルが短期留学を無事に成功させれば……誰も文句は言えねえ!」
そもそも聖リリィ魔術女学院はかなり有名だ。
アルザーノ帝国が首都、帝都オルランドより北西へ進んだ湖水地方リリタニアにある私立の魔術学院。いわゆる、女子のみが通える女子校であり、上流階級層の子女御用達の全寮制お嬢様学校だ。
学院の有名さで言えばアルザーノ帝国学院と同じくらい。
そこに短期留学を成功させれば実績に繋がり、退学を覆せるのだ。
だがそんな中、おずおずとフィールが手を挙げる。
「あの……話を進める前に…リィエルちゃんは…大丈夫なんですか?」
「大丈夫って?いや、短期留学すりゃリィエルは––––」
「いや…そうじゃなくて精神的な意味で……」
「はぁ?」
どう言う意味だ?とグレンが尋ねる。
その質問の答えをフィールがリィエルに直接聞いた。
「リィエルちゃん、貴女は短期留学出来る?」
「たんきりゅーがく?なにそれ……美味しいの?」
「一ヶ月くらい…学院を離れて一人で勉強出来る?」
「?何で離れなきゃいけないの?」
「そうしないと…学院に居られなくなっちゃうから」
リィエルが目を見開いて呆然とする。
そんな事をしたくないと、涙目になって身体が震える。それを見たグレンはギョッとする。
「……や、やだ……たんきりゅーがくも、居られなくなるのも……やだ」
「それは…なんで?どうして嫌なの?」
「グレンや、セラや、ルミアや、システィーナや、フィールと離れたくない……1人になるのが……怖い……だから……」
「……うん、怖いよね。おいで」
リィエルが震える手でフィールを抱きしめていた。
母親のようによしよしと撫でながら胸でリィエルの涙を受け止めていた。グレン達がそれを見ると苦い顔をしていた。そう、リィエルは精神的にはまだ幼い。記憶喪失のフィールでも分かるように、この学校や仲間に依存に近いレベルになってしまっている。
そんな子供をたった一人で行かせれば寂しいし怖いに決まっている。まだ環境に馴染めないフィールだから分かってしまった。
「そう言う事か……けど、どうすりゃいいんだよ」
「私は確定してる……んですよね?だったら、私とせめて二人くらいリィエルの友達は欲しいです。なんとかならないですか学院長?」
「そうは言ってものぅ」
「安心しろ。それなら可能だ」
学院長室の扉が開くと聞き慣れた声が聞こえた。
アルベルトとセリカ、システィーナ、ルミアが入ってきた。
「リィエルはあくまで護衛だ。なのでそれを逆手に二人に同行してもらうように《隠者》が既に工作に動いている。それが効率的だと上層部も判断し既に動いている」
「えっと……すみません貴方は?」
「宮廷魔導師団のアルベルトだよ。フィールは記憶失くしてっから知らないのは無理ねえけど」
「俺の事はいい」
現状、フィールはまだ帝国宮廷魔導師団・特務分室の《愚者》として在籍している。記憶喪失である以上、グレン達はフィールを除隊させるべきだと言ったのだが、下手にフィールを除隊させれば、除隊された理由から調べ上げられる可能性がある。
元々、フィールが軍に入ったのは『天の智慧研究会』の牽制と、単純にフィールが魔術殺しの駒として使えるからだ。
今のフィールは任務は与えられないが在籍している。言わば休隊と言った所だ。アルベルトも記憶を無くして幸せになるのならそちらを望みたいところではあるが……
「グレン、セラ、妙だと思わないか?」
「……妙?」
「リィエルの落第退学処分。これは、今の帝国政府上層部の勢力争いの状況を考えれば、あり得なくはないが…リィエルが落第退学処分になった途端の、この短期留学のオファーだ」
「偶然にしちゃ都合が良すぎる…ってこと?」
静かに頷くアルベルト。
リィエルは『Project:Revive Life』の成功例。かつての帝国魔術界の最暗部であり、天の智慧研究会すらも一枚絡んだ禁呪の成果だ。今回の一件、単なる上層部の勢力争いとは、また別の思惑が動いているのかもしれない可能性があるのだ。
「そして極め付けはフィールだ」
「私……ですか?」
「オファーの日程は大抵は決まっている。だが、この時期的には学院としてはおかしい。試験も近い中で、短期留学なんて本来は行われない。それについて《法皇》が調べたが、やはり
「……厄介ごとがある可能性が高いって事か」
フィールが目を細める。
過去の私は短期留学の日程の中に何かがあると分かっていた?グレン先生達は隠しているようだが、自分がどう言う存在なのか明かさない理由に繋がっている。
フィール自身、未来視が使えるわけじゃない。
けど、まるで未来を知っているかのように細工していた。
自分は一体何者なのか考えていた。
「グレンとセラは?」
「私は行けるよ?けど、グレン君は……」
「そもそも女子学院だろ。女の園に俺が行けるわけ……」
「いや。グレン、お前もアルザーノ帝国魔術学院から派遣された臨時講師として、リィエルに同行して貰う」
不意に、アルベルトが訳のわからないことを言い始めた。
そもそも性別で行けないと今言ったばかりなのに。流石に行けるわけがない。
「……お前、何言ってんだ?無理に決まってんだろ?俺、男だぞ!?」
「案ずるな、手は打ってある」
「そっ、私の出番ってわけ」
「セリカが?」
「おう。セラ、こっちゃこいこい」
「?」
セリカはセラを手招きして赤い瓶を渡して説明する。
セラは首を傾げたまま、セラに近づいて説明通りに行動する。
「セラ、この薬品を口に含んでくれ。ああ飲まないでな」
「えっ?あっ、はい」
「グレン、こっち向け」
「はっ?何する気––––」
「《行ってこい》!」
「きゃあっ!?」
「ぬおっ!?」
セリカがセラの背中を風の魔術で押す。
突き飛ばされたセラは薬品を口に含んだままグレンの唇にぶつかって押し倒すように倒れる。
「よし、セラは口に入った薬品を飲ませろ!口移しで」
「(ちょっ……!?セ、セリカさん///!?無理で–––)」
「《GO》!」
「(ちょっ、唇が離れねぇんだけど!?///)」
「口移しするまで終わらないぞー」
「あ、悪魔……///」
セリカの超高度な魔術で二人を磁石のようにくっつけて離さない。
フィールは羞恥心で手で目を覆いながらも、チラ見していた。それを聞いた瞬間、セラは術が解ける前に羞恥心に耐え切れる自信がなかった為、口移しする事にした。
押し倒しているグレンに口移しで薬品を飲ませる。
それが妙に艶めかしいのかシスティーナやルミアは混乱と困惑で頭が追いつかなかった。
「き、き、キス!?キスだなんて!?ずる───不潔ですッ!いきなり何やってるんですか、何やらせてるんですかセラ先生にアルフォネア教授~~ッ!あわ、あわわわわわわわわわ───」
「~~~~~~~ッ!?(うわぁ……)」
「……っ!(あれっ……このシチュどっかで見た?)」
ルミアも顔を真っ赤にして、両の掌で顔を覆い、その指の隙間から濃厚に唇を重ね合う2人を、穴が開くほどしっかりと凝視していた。フィールは逆に失った記憶を手繰り寄せるかのように頭を抱えていた。
「「ぷはぁ!」」
「あ、あの大丈夫––––」
「ちょっとセリカさん!?」
「いやぁ、孫の顔が楽しみだな。なっ、フィール?」
「え、えぇ、そ、そうですね……///」
「〜〜〜〜〜〜〜!!!///」
セラはその言葉に真っ赤になって学院長室の隅で膝を抱えて顔を隠す。子供、更には生徒の前で公開ディープキスなんてしたせいか記憶を殴って失いたいくらいの羞恥心に涙目になっていた。
「セリカてめぇ!!セラに何やらせて何飲ませたんだコラ!?」
「いや私よりセラが適任かなって、テヘペロ☆まあ痛くしないから大丈夫!《陰陽の理は我に在り・万物の創造主に弓引きて・其の躰を造り替えん》───ッ!」
そうしている間に、グレンの姿は立ち上る煙にすっかり覆われて見えなくなり…メキメキメキメキと不自然な音は鳴り続け…やがて……
「がぁあああああああああああああああああああああああああ――ッ!?」
固唾を呑んで見守るしシスティーナ達を余所に、グレンを包むように煙はゆっくり晴れていく。痛くはないが、嫌な音に少しだけ恐怖しながらもグレンを見つめる。
「げほっ、ごほっ…一体、何なんだよ?セリカ、お前、俺に何を……」
やがて、グレンが嫌そうに煙を振り払いながら、再び一同の前に姿を現す。
だが――セラも、システィーナも、ルミアも、フィールも、そして、あの何事にも動じないリィエルさえも…煙の中から現れたグレンの姿に、目を瞬かせて唖然としていた。
「……ん?何だよ、お前ら?俺の顔に何かついてるか…って、なんだ?俺の声、さっきから妙に甲高いな?風邪でも引いたか……?」
困ったようにグレンが頭をかくと、妙にほっそりした指に長い髪がさらりと絡まった。
「な、なんだこりゃ?髪がいつの間にか、こんなに伸びて…?なんか変だな?」
「あ、あのぉ…貴方、グレン先生…?ですよね……?」
「すっご……」
何を言っている?
妙な事を聞いてくるシスティーナがグレンが訝しむような表情を向ける。逆にフィールはその姿にそんな安易な言葉しか出なかった。
「はぁ?お前、一体、何言ってんだ?俺が俺以外の何に見えると……」
そう言いながら、グレンが自分の胸を叩くと……ぽにょん。普段はない感触が、そこにあった。思考が一瞬飛ぶくらいの柔らかな感触に目を見開く。
「……はい?」
グレンが自分の胸部を見下ろす。
シャツを布下から窮屈そうに押し上げる丘陵が二つ、そこにある。しかも中々に大きな……
「ふむ、俺の固有魔術【
グレンが目を剥いて、自分の胸を両手で掴み、揉み上げる。
本来なら掴んだだけで幸せと感じるたわわな巨乳は全く持って今は嬉しくなかった。
「なんじゃこりゃああああああああああああ–––っ!?オパーイッ!?」
「ちょ!?先生ったら、何揉んでるんですか!?女性の胸を無遠慮に揉むなんて、そんなこと許され――あ、あれ!?で、でもこの場合はいいの!?」
混乱するシスティーナを放置し、グレンは一同に背を向けて、股間に手を伸ばしていく。当然のように無くなっている自分の半身。絶句である。
「セリカ、てめぇ、一体、俺に何をしたぁ――ッ!?」
「変身魔術、白魔【セルフ・ポリモルフ】を応用して、お前を女にした!」
「さ、才能の無駄遣い……」
「才能があるからこんな事が出来るのさ!良かったな!これでお前も聖リリィ魔術女学院に臨時講師として…ぷっ…くっくっ…グ、グレンお前、なかなか美人じゃん!?あっはははははははははははは――っ!」
ゲラゲラと笑うセリカにフィールは若干引いた。
魔術をなんつーもんに使ってんだと頭を抱えていたが、超高密度な魔力制御で身体を望むままに作り替えるなんて思わなかった。
「協力、感謝する。元・特務分室の執行官ナンバー21《世界》のアルフォネア女史」
「テメェの差し金かッ!?」
「吠えるな。元より、上の作戦通りだ。お前は女性に変身して、リィエルと共に聖リリィ魔術女学院へと派遣される」
「ふっざけんな!?ナチュラルに俺を巻き込むんじゃねええええ――ッ!?」
「因みに、この作戦立案者は、特務分室の室長《魔術師》のイヴ=イグナイトだ」
「あのクソアマぁあああああ――ッ!?いつか絶対、泣かすッ!行き遅れろヒス女ああああ!!」
「静かにしろ。お前の同行は必要だと感じた上での決断だグレン。俺が単なる嫌がらせで、お前に変身する事を強要すると、本気で思うか?」
「いや…それは思わねえけど……」
「まぁ、半分は嫌がらせだが」
「うおおい!?アルベルトてめぇ…!?段々、いい性格になってきやがったなぁ!?」
グレン(女)とアルベルトが口論し合っている中で、フィールはハッ!と何かを思い出し、手のひらを叩いた。先程の違和感が取れたようにフィールは右手を目の前に持ってくる。
「《虚数の箱よ・閉ざされし宝は・汝の手に開かれん》」
フィールが詠唱を始める。
白魔【アラウンド・ボックス】指定した道具を自分が指定した空間に入れる事の出来る魔術。ただし正しく認識していなければ失敗する為、殆どは使われない高等魔術だ。
フィールは一冊の本を右手に召喚した。
そんな魔術は教えてないのにそれが使えると言う事は……
「フィール!?何か思い出したのか?!」
「これ……これの執筆者、セリカさんですよね。記憶に薄っすらと浮かんだんですけど……」
「ん?」
「何が書いてあんだ……?」
「えっと…題名は『ぱーふぇくと秘伝書』?」
グレンが真剣な顔で見つめる。
読み上げますか?とフィールが聞くと全員が真剣な表情で耳を傾けた。未来の参考書だ。何が記述されているかもしれない……
フィールは全員に視線で了承を貰い、読み上げる。
「えっと……読み上げますね。『この本を読んでいるとき、私は既にいないかもしれない。なので、とりあえずは教育用にと書いてみました。お年頃って言うと12歳から思春期って聞くのでまあ興味を持ってくれたら幸いです。参考はセラとグレンのを覗き見したから知識はバッチリだ。じゃあまず子作りについての方法ですが、簡単に言うと***に○○○をブチ込–––––」
「すとおおおおおおおおっぷ!!!???」
「『おっと、一回目の警告だぜ?2回目に止めようとすると発情する
「【愚者の世界いいいいっ!!!!】」
【愚者の世界】が発動し、呪いは起動しなくなる。
グレンとセラは悲鳴をあげるかのように読み上げるのを全力で阻止した。フィールは止められないままだったせいか羞恥心で崩れ落ちる。グレン(女)はセリカに近づいて、息切れしたまま無言でヘッドロックをかける。
まさか並行世界のセリカがフィールに残したものが、性的教育本(上級)だと誰が予想できたか。
「いだだだだだっ!!ちょ、何で私が食らってんだ、ちょっ!?た、タンマタンマ!?」
「元を正せばお前のせいだろうがあああああっっ!!つかあるのか!?この世界にも同じものがあるのか!?」
「いや似たようなものはあるけ、いだだだだだっ!!タップ!タップ!!誰かゴングを鳴らしてくれ!」
「今すぐ捨ててこいやああああああっ!!!」
【愚者の世界】が解けるまでの3分間、グレン(女)はセリカにセラの分の腹いせと理不尽なまでの並行世界のセリカに対する八つ当たりをぶつけた。そりゃあ並行世界とはいえ、営みを覗き見されて参考書にされて子供に渡されるなんて残酷過ぎる。
セラは羞恥心で顔を真っ赤にしながら、口移しの事を考えると気を失いかねないので何も考えず、『ぱーふぇくと秘伝書』を拾い上げ、【シュレッド・テンペスト】で千切りにするかのように切り裂いていた。