バッドエンドの未来から来た二人の娘   作:アステカのキャスター

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 フィールの設定、この章が終わったら書きます。
 少しだけ待っててください。では行こう!!




第32話

 

 その戦場は余りにも血に塗れていた。

 多くの悪魔によって殺された騎士達の亡骸、多くの生贄として死んでいった魔術師や民達の遺体、其処に立っていたのはたった二人。

 

 深く斬り裂かれた右肩を抑え、膝を突きながらも剣に縋って倒れないでいる少女と、神父服でありながらも、しっかりとした豪奢な身体で、いかにも好々爺然とした老人が立っていた。

 

 

『馬鹿な………』

 

 

 だが、そんな老人に一振りの銀の剣が突き刺さる。

 それだけで崩壊していく。老人の身体が銀の剣を中心に崩れていく。

 

 

『馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な!?』

『っ……ハァ、ハァ』

『あり得ない。何故、私の身体が……!?』

 

 

 その名はパウエル=フューネ。

 第三団《天位》でありながら【神殿の首領(マジスタ・テンプリ)】を名乗り、ソロームの指輪の下、魔界の三十六悪魔将と666の悪魔軍団を従えし、世界最古にして現世最高の悪魔召喚士。

 

 それが今、滅びようとしている。

 フィールと、《正義》を受け継いだ少年の執念によって朽ち果てようとしていた。

 

 

『アイツが……最後に残した形見だよ。それがなきゃ、私は死んでたよ』

 

 

 銀の剣に組み込まれた浄化の術式。

 元、聖職者であった少年が、パウエルに対して有効な術式を組み上げ、死にゆく最中、その組み上げた術式を乗せた銀の剣をフィールに託した。

 

 

『悪魔召喚士でありながら、自身の身体までも悪魔の外法に染めたようだけど、核を破壊したんだ。悪魔も再生も出来ない』

 

 

 ソロームの指輪も破壊し、悪魔を呼び出せる触媒も根こそぎ潰した。パウエルは既に身体が崩壊し、魔術さえ使う事が出来ない。

 

 

『終わりだ。パウエル=フューネ』

 

 

 フィールはパウエルに死の宣告を口にした。

 仇は討った。これで少なからず、天の智慧の勢力は確実に削れた。そんな中、呆然と目を血走らせていたパウエルが嗤い出した。

 

 

『……は、はははははははははははッーー!!』

『……何がおかしい』

『私の負けだ。認めよう、貴女は魔王にさえ立ち向かう資格がある。貴女は取るに足らない正義の魔法使いの代役だと思っていたが、どうやらアテが外れたようだ』

 

 

 癪に触る負け惜しみにフィールは睨む。

 正義の魔法使いの代役、本来ならば……正義の魔法使いにふさわしいのは、誰なのか知っていた。

 

 

『私は終わる。だが、ただで終わる訳にはいかないよ』

『……っっ!?なっ……!?』

 

 

 パウエルの右手から発せられたドス黒い魔力が、フィールの中に入っていく。それを押し出すように、フィールは残った全魔力で対抗するが、ドス黒い魔力は肩の傷から体の中へ侵入していく。

 

 

『がっ……!?』

 

 

 身体の中から削れていく。

 真っ白だった魔力の中に、墨を垂らされたようなそんな不快感と、ガリガリと蠢いて削っていくような身体の苦しみがフィールを襲う。

 

 血を吐き出す。

 鉛になったかのように重く感じる身体。傷口が軽く黒い痣のように変色している。

 

 

『何を……した!』

『呪いさ。この私が、悪魔を従える私の最後の悪足掻きさ』

『呪い……だと?』

『君は死ぬ。遠くない内にね。君の未来を奪っただけでも良しとしよう』

 

 

 ただの呪いじゃない。

 悪魔が存在し始めた、概念や信仰が始まった原初に生み出された呪い。単純かつ高度な呪いは最早魔術という枠組みから外れた呪いだ。

 

 それがフィールに植え付けられた。

 悪魔らしい最後の悪足掻きに苦しみながらも睨みつけた。

 

 その表情を見てパウエルは嗤った。

 

 

『さらばだ愚者の牙よ。天の智慧に栄光あれ』

 

 

 そんな負け惜しみとも呼べる最後にフィールは笑う事さえ出来なかった。凱旋というには余りにも程遠い結果になってしまった。

 

 また、仲間を失って自分だけが生き延びた。

 また、勝てなかった。正義の魔法使いになれなかった。

 

 

 

 また、ひとりぼっちになった。

 

 

 

 ★★★

 

 

 

「えっと、その、大丈夫ですか!?」

 

 

 血を吐き出す現場を目撃して、しどろもどろになるミラは動揺しながらも心配の声をかけた。  

 

 

「ミラ…さん……?っっぁ…!」

 

 

 ズキリと右肩に痛みが走り、再び吐血した。

 身体が引き裂かれるような痛みに気を失わずに耐えているのだ。ミラは何かを察し、フィールの背中を摩った。

 

 

「だ、大丈夫なんですか!?待っててください!今保健室の法医士を!」

「っ、止めて!」

 

 

 ミラの腕を掴んで必死に止める。

 その様子にミラは困惑を隠せないでいた。

 

 

「で、でも……」

「いいから、いつもの事だから……」

 

 

 特に、グレンやセラにバレたらオファーから無理矢理帰らされる可能性がある。未だ記憶が戻っていない中、唯一の手掛かりはこの場所にあるのだ。まだ帰るわけにはいかない。

 

 

「あの……なら一つだけ、聞いてもいいですか?」

「……何?」

「……どうして、そこまで拘るんですか?あの人達にバレないように必死で隠してまで、どうして……」

「………」

 

 

 ミラから見て、友だちだとしてもそこまで必死に隠そうとするのはおかしいのだ。辛いなら辛いと言うし、吐血してまでここにいなきゃいけない理由などない筈なのに……

   

 

「……心配、かけたくない」

「………」

「私にも、分かんない。……あの人達がどういう存在だったのか」

 

 

 グレン先生も、セラ先生も、システィーナも、ルミアも、リィエルも、みんながフィールの事について語ってくれなかった。私がどういう存在だったのか、教えてくれなかった。

 

 私が、どういう存在であの人達をどう思っていたのかわからない。ただ、一つ分かる事は……

 

 

(フィール)は多分、あの人達が好きだったから……」

「!」

「だから、知りたい。ここでそれを見つけるまであの二人にバレたくない。……そんなちっぽけな理由だよ」

 

 

 今の私はあの二人が赤の他人にしか思えない。

 環境を、場所を、他人を、自分すら疑って、どんな自分が正解なのか模索して、笑顔を張り付ける事しか出来ない。

 

 今の自分が気持ち悪い。

 あの人達が大切だった筈だ。筈なのに……何処か距離を置いてしまっている自分が居る。

 

 あの人達もきっと自分達の知るフィールを待っている。

 

 フィール=ウォルフォレン(偽物)ではない。

 

 フィール=■■■■(本物)をきっと……

 

 

「…じゃあ貴女は?」

「えっ……?」

「待ってるかもしれない、待っているかもしれない貴女が居るのかもしれない。でも!記憶が無い今の貴女は!それでもいいの!?」

 

 

 ミラが感情を荒げてフィールに叫んだ。

 それじゃあまるで、フィール=ウォルフォレン(偽物)が消えるべきなんだと、自虐しているようなものだ。

 

 偽物としての、今の自分はどうしたいか。

 

 

「私にも……分からない」

 

 

 まるで道に迷う子供のようにそう呟く。

 ただ、そう答えるしかなかった。自分がどうなってしまうのかなんて考えた事もなかったから。

 

 

「……なら、私と友達になってください!」

「はっ?」

「今の貴女が在りたい理由に、私を入れてください!それなら!…それなら、まだ貴女が今のままでいたい理由に……なりませんか?」

 

 

 かああ、と赤面しながらも言葉にするミラ。

 今の自分、フィール=ウォルフォレンで在りたいと言う理由にミラの存在を入れる。なんて馬鹿な少女なのだろう。

 

 今日来たはずの、見ず知らずの他人にそんな事を言うなんて思わなかった。その言葉にフィールは耐え切れずに、笑った。

 

 

「ぷっ、アハハハハハッ!!」

「わ、笑わないでくださいよ!」

 

 

 肩の痛みに悶絶しながらも、笑ってしまった。

 馬鹿みたいだ。自分が消えたくない理由になる。そんな事をするメリットなど、ミラにはない筈なのに……

 

 

「いつつ……」

「ちょ!?もう……!」

 

 

 ミラは心配しながらも少し憤慨する。

 ほんの少し、ほんの少しだけ今の自分を許せる理由が出来た。ただ、それだけでフィールは少しだけ……

 

 

「でも、ありがとね……ミラ」

 

 

 ほんの少しだけ、救われた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それと、アレ止めてくださいね」

 

「……アレ?」

 

「強制的に使い魔にして酔わせるアレですよ!見てくださいよ!?首元噛まれたせいでキスマークみたいになっちゃったじゃないですか!?」

 

「あー、まあアレ…私が吸血鬼の特性を魔術に直した術式だから、吸血鬼みたいに他人に噛みつかないと…出来ないんだよね。まあ学生の固有魔術にしては強いけど……」

 

「この後の授業どうしてくれるんですか!?絶対変な目で見られますよコレ!?」

 

「まあ……喰われたって事で」

 

「何に!?」

 

「何にってナニに」

 

 

 ミラは顔を真っ赤にしてフィールから離れていった。

 この後、フィールはセラに少し説教され、ミラに関しては校舎裏で留学生と禁断の恋というとんでもない勘違いをされ、エルザやシスティーナ達が視線を露骨に合わせない事に地味に傷付いた。

 

 

 ★★★

 

 

 聖リリィ魔術女学院。

 カーテンを締めきった、薄暗い学院長室にて。

 

 

「……どうです?今日で三日ですが…見極められましたか?()()()は」

 

 

 学院長マリアンヌは、手を組んで執務室につきながら、二人の女子生徒に問いかける。

 

 

「……まだですね」

「今の状態じゃまだ無理ですよー」

 

 

 少女は、まるで銀鈴が鳴るような、凛と覇気に満ちた声ともう片方はお気楽に気が抜けてしまいそうな覇気のない声でそうボヤいた。

 

 

「先日、魔導戦教練の授業がありましたが…彼女は攻撃を封じられていた上に、本気すら出していませんでした。あれで彼女の底を見ることは、到底できない……それに、あの人もハンデがありながら、全く本気を出してなかった」

 

「まっ、今のお嬢様達じゃ二人を測れませんよ。マリアンヌさんも知っていたんでしょ?」

 

「まさか……やってみないと解らないものでしょ?」

 

 

 惚けたような様子で言葉を発するマリアンヌ。

 少女が左手を静かに眼前に掲げると、今の今まで何も持っていなかったのに、まるで手品のように、その左手には一振りの刀剣が握られていた。

 

 鉄線華の紋入りの丸い鍔、黒漆塗りの鞘に納まった、緩やかに湾曲した刀剣だ。菱状の目貫が、綺麗に一列に並ぶような柄巻きがなされた柄。

 

 

「帝国宮廷魔導師団・特務分室《戦車》《愚者》。そして、引退したとはいえ《女帝》まで居るもの。貴女にあの二人を倒せるかしら?」

 

 

 きちり。そっと、その鯉口を切る。

 するりと鞘から四寸ほどまろび出る刀身。剣材は玉鋼。その鎬造りの鍛え肌は板目状。燃え上がる炎のような刃文。

 

 磨き抜かれた鏡のような刀身に、少女の鋭き双眸が映る。

 それはただただ美しい。実用性と芸術性。相反する属性を高次元で融和させた業物。

 

 帝国では滅多に見られない拵え。

 

 その刀剣は――『打刀』

 

 東方に伝わる特有の剣である。

 

 

「……自信はあります。父が倒されて以来、私は彼女の打倒を目指し、地獄のような鍛錬をずっと続けてきました。けれど万全を期すため、もう少し彼女達を見ていたい」

「……そう。まぁ、精々、慎重になさいな…なにせ……」

 

 

 くすり、とマリアンヌが笑う。

 

 

「貴女には、()()()()()()があるのだから」

 

 

 その一言に、鏡の如き刃に映る少女の瞳…その眉間の間が、微かに曇った。赤い赤い忌避する呪い。かつて全てが燃えて消えたその呪いに打ち勝つ為に、少女はここに居る。

 

 

「……あら?気を悪くしちゃったかしら?ごめんなさいね…私はただ、貴女のことが心配だっただけなのよ…だって、貴女は私の大切な……」

「……どの口が言いますか」

 

 

 そう返す少女の表情は、感情こそ殺していたが、言葉の端が苛立っている。

 そんな心の乱れから目を背けるように刀を鞘に納め、鯉口を鳴らし、決意を口に告げる。

 

 

「黙って見てなさい、マリアンヌ。私は必ず彼女も、あの人も…斬る」

「好きになさい。貴女もバックアップを頼むわよ」

「はーい」

 

 

 お気楽に返事する少女の瞳が一瞬だけ変わる。

 締め切ったカーテンから溢れた光が当たり、瞳の色が明らかになる。それを見た隣の少女は少しだけその色に魅入られた。

 

 それはとても綺麗で、鮮やかな()()()をしていた。

 

 




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