バッドエンドの未来から来た二人の娘   作:アステカのキャスター

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 今回短いです。
 良かったら感想評価お願いします。


第34話

 

 

 風が吹いた気がした。

 気が付けば自分は草原の上に立っていて、空は青く澄んでおり、風が吹けば草原が揺れる。心地いい場所だった。

 

「………!」

 

 振り返ると小さな黒髪の自分と、腕を組んで笑っているセリカさんと、木こりに座ってそれを笑顔で眺めているセラ先生の姿があった。どうやら魔術を教えているようだ。初歩的な風の魔術を何回も練習しているのを見て、セラ先生は少し懐かしむように眺めてた。

 

 

「……ここは……私の……」

 

 

 それは幼い、まだ思い出せない自分の記憶。

 それは、とても懐かしく愛おしく思えるくらいに尊いもので、小さな私は笑顔に溢れていた。

 

 ずっと、こんな光景が続けばいい。

 

 そう、思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 風が吹いた。

 先程の心地いい風ではない。

 

 

「……っ!?」

 

 気が付けばソコは地獄だった。

 乾いた血と、焦げた匂いが蒸せ返る世界、辺り一面は火に覆われ焼き焦げる。人と言う人は誰一人として存在せず、空は曇天に包まれた世界に私は立っていた。

 

 

「……う…ぷっ……」

 

 

 吐き気がした。

 自分が立っている所すら死体の山の上。ごろりと転げている炭になりかけた肉塊の感触。妙にリアルなその感覚に胃の中の全てを吐き出したいと思えるくらいに。

 

 

「ひっ……!」

 

 

 抑えた手が真っ赤に染まっている。

 気が付けば自分の服が変わっていた。聖リリィの制服から藍色の帝国のコートに変わっていた。

 

 

『どうして?』

 

 

  『何故殺した?』

『嫌だ』 『また消えた』 『また死んだ』

 『お前が殺した』 『殺した』 『殺された』

『死ねよ』 『地獄に堕ちろ』 『救えない』

 『見殺しにした』 『なんで存在してるの』

『助けてもらえなかった』 『見捨てた』

 『死ね死ね死ね』 『偽善者』 

『何もできない』 『救えない英雄』

  『ただ殺す事しか出来ない殺戮者』

 『存在する価値のない正義の味方』

『助けてもらえなかった』 『間に合わない』

 『嫌だ死にたくない』 『殺されたくない』

 

 

 

「ハッ……ハッ……」

 

 

 これが咎。フィール=■■■■の罪。

 壊れる。壊れるような情報量、耐え切れずに崩壊してしまうような感情。今のフィール=ウォルフォレンに耐えられるものではない。過去も未来も詳しくは知らない中途半端な彼女には壊れている事を許容していたフィール=■■■■の在り方を否定してしまう。

 

 受け入れなければ記憶を取り戻せないのは分かっている。けど、これはあまりにも残酷で、いっそ滑稽と思えてしまうほどの悲劇と絶望の感情がフィール=ウォルフォレンから大切なものをガリガリと削っていく。

 

 

「あ、ああ……」

 

 

 気が付けば自分は剣で金髪の天使を刺していた。

 手に滴る血の生温かさと肉を抉った感触が絶望していた。正義の味方も、銀髪の猫も、蒼色の剣士も、風の巫女も、もう一人の愚者も全員が血濡れて横たわる。

 

 私の……私のせいで、死なせる運命になってしまったのなら。

 

 

『今の貴女じゃ、何も救えない』

 

  

 どろり、と金髪の天使の顔が崩れる。

 銀色の髪と金色の瞳の天使が血濡れた手で頰に触れる。

 

 

『ああ、また救えなかった』

 

 

 バシャ、と血の海に斃れていく。

 血で染まった手に震えて、目の前の絶望に叫ばずにいられなかった。

 

 フィール=ウォルフォレンでは何も救えない。

 それが、壊れた私からの最後の通告だった。

 

 

 

 ★★★

 

 

「ああああああああああああああっ!!!?」

「いったぁ!?」

 

 

 目が覚めると同時に銀色が額に当たる。

 ガツンと額に衝撃が広がり血が流れる。何故か目の前にいるシスティーナは額に手を当てゴロゴロと寝転がり痛みに悶絶している。

 

 悪夢にうなされたフィールを起こそうとしたシスティーナだが、いきなり起き上がるとは思わなかったようで、思いっきり額を打った。あまりの音にセラも焦ったように心配する。

 

 

「ちょっ、今すっごい音がなった気がするんだけど!?」

「いったたた、ってフィール!?血!」

「……ハァ……ハァ……」

 

 

 額から血が流れているのを呆然としたまま手で抑える。

 ヌルッと、掌が血で濡れる。気が遠くなったままそれを見たフィールは激しい動悸と共に逆の手で口元を押さえた。

 

 

「っ……うっ」

「ちょっ、セラ先生!エチケットの袋!!」

「いや、トイレの方が早いかも!」

 

 

 それを見た瞬間、自分の夢の記憶がフラッシュバックした。今のフィールの倫理と常識、良心などが崩れていくような感覚に吐き気がした。今のフィールは人を殺すほどの倫理観を持ち合わせていない中、人を殺す事が当たり前だった前のフィールに近づく事が怖いと思ってしまっている。

 

 本来ならそれでいい。

 その恐怖は間違っていない。

 

 だが、それではいつまで経ってもフィールは自分を肯定できずに記憶を取り戻せない事もまた、理解していた。

 

 

 ★★★

 

 

「試験明日だろ?リィエル、大丈夫か?」

「……まあ、教えられる分は教えましたけどリィエル次第ですかね」

 

 

 エルザの感想にグレンはため息をつく。

 リィエルのノートの一部をエルザから見せてもらったが、大分成長はしている。必勝のハチマキを巻いてフィールに教わりながら勉強しているリィエルを見る。

 まだ計算が苦手な部分はあるがこれなら少なくとも半分以上は取れるし大丈夫だろう。

 

 

「……?レーン先生、なんかありました?」

「ん?いや別に……いやちょっとあるわな」 

「……?」

 

 

 グレンはフィールを避けている。

 と言うより逆も然りだ。フィールもグレンを避けている。グレンは今どう接すればいいのか分からず、フィールはフィールでグレンを信用出来る相手じゃないと認識して距離を置いている。

 

 

「フィール、ここの変換式教えて」

「………」

「フィール?」

「ん?ああ、ごめん。変換式だよね?」

 

 

 条件に当てはまる【ショック・ボルト】の出力問題。

 地味に魔力調整率を覚えていなければかなり難しい。比率の式を教えるが、リィエルは首を傾げる。

 

 

「……分かんない」

「まあ意外と難しいしね。答えの出力はこんな感じ、《雷精よ––––》」

 

 

 実際に魔術を行使して出力を覚えてもらう為、魔術を使おうとした次の瞬間。

 

 

「–––––––っ」

 

 

 自分の手が一瞬真っ赤に染まった幻覚を見た。

 目の前がドス黒い光景と、死体だった親友の記憶に目を見開いた。それに怯んだせいで、魔術は不発に終わり教わっているリィエルは首をまた傾げた。

 

 

「フィール?」

「ああごめん、《雷精よ・紫電を以って・打ち倒せ》」

 

 

 出力が下がった【ショック・ボルト】が上に放たれた。  

 今、一瞬とはいえ攻性呪文を撃つ事に戸惑った。今日の自分は()()()()()()()()()()()()感覚がある気がするのだ。

 

 

「比率は40%以下。まあ、今ので覚えて」

「うん。分かった」

「エルザ。ごめん、少し任せていい?」

「あっ、うん分かった!」

 

 

 申し訳なくもフィールはエルザに託して教室を出た。

 グレンもフィールの姿を直視しなかったから分からなかったが、フィールの手は少しばかり震えていた。

 

 

 ★★★★

 

 

 

「《雷精よ––––––」

 

 

 再び手が赤く染まる幻影を見た。

 やはりだ。夢がトラウマになって魔術を使うのに躊躇ってしまっている。殺傷力があるわけでもないのに、撃つ時にトラウマを抱えてしまっている自分に嫌になる。

 

 

「……《風よ––––》」

 

 

 唯一大丈夫なのは風の魔術だけ。

 風の魔術を使う抵抗は全く無い。それは自分が風使いだからか、それとも………

 

 

「お母さん……」

 

 

 母が使っていた魔術だからか分からない。

 ただ、精神が疲弊している。自分はこんなに脆い人間だったのかと、自分で自分を卑下していく。

 

 

「私は…ワタシは……わたしはダレなの?」

 

 

 フィール=■■■■ならもっと上手くやれた。

 自分は偽物で、本物の皮を被った不良品。いずれ消えなきゃいけない事も分かっている。

 

 だが、心の中でもう答えは出てしまった。

 エルザやセラ、この場所が暖かいと感じている。

 

 

「……なんで、失いたくないって思っちゃうんだよ!偽物のくせに!!」

 

 

 いずれ消えなくてはいけないのに。

 心の何処かで偽物としての自分を失いたくないという思いにまた自分を嫌悪し、ただ責めるように偽物の自分に叫んだ。

 

 

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