バッドエンドの未来から来た二人の娘   作:アステカのキャスター

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 最終話のコラボとなります。
 完結!エクソダスさんありがとうございました!!

 良かったら感想評価お願いします!エクソダスさんの方にもお願いします!!では行こう!!



番外編 彷徨う過去の《愚者》との出会い 後編

 

エルレイ「ねぇ、フィーちゃん」

フィール「ん、どうしたの?」

 

 

 突然エルレイが話しかけてくる。

 フィールは少しだけ緊張をほぐしながら応答する。

 

 

エルレイ「フィーちゃんはどうして、特務分室に?」

 

 

 いつも道理、眠たそうだがその目には明らかに鋭い光を感じた。

 

 

エルレイ「どうしても…そんな子には見えなくて…」

 

 

 確かにエルレイからしたらフィールの性格上、特務分室に所属する理由がわからない。どちらかと言えば、フィールは人殺しに向いていない。躊躇こそしていないものの自分から関わりたいとはエルレイから見たら思ってはいないのだろう。

 

 

 

フィール「……別に、私には合ってただけ」

 

 

 エルザを背負いながら歩き出す。

 特務分室が合っているとはどう言う意味なのか首を傾げるエルレイ。

 

 

フィール「【愚者の世界】に【女帝の世界】、二つを駆使すれば魔術師にワンサイドゲーム。私以上に魔術師殺しに適した人間は居ないから、私はその場所に居るだけ」

 

 

 魔術師殺し(メイガス・キラー)であるフィールの強みは魔術の逆算から付与された魔術を解除し、魔術を使おうとすれば魔術を封じ、封じた空間で自分だけが魔術を起動させる。

 

 フィール以上に魔術師に対する特攻が強い人間はこの世界の何処にも存在しないだろう。

 

ミアル「命を枯らす為に魔術を使うなんて、魔術に対する冒涜だ、そう言っていたよね」

 

 ミアルは少しため息をつく。

 確かにあの時、フィールが口にした言葉には怒りと明確な嫌悪感があった。

 

 

ミアル「それをわかってて魔術師殺しをするの?」

フィール「……うん。魔術は凄いものだよ。使い手次第じゃ善にも悪にもなれる。けど、それでも命を枯らしてまで使う魔術は嫌い。そうやって目の前で、自分が犠牲になってでも敵を倒そうとした馬鹿な天使を知ってるから」

 

 

 フィールが小さかった頃、そうやって自分を犠牲にして全て救おうとした人間がいた。『正義の魔法使い』のように見えた彼女は偽善を張り続けた。みんなと一緒に居たいと言う想いを封じ込めて命を捨てる覚悟で挑んだ彼女は、目の前で全てを奪われたような顔をしていた。

 

 全て奪われた彼女の敵を倒したのは子供だった自分だが、彼女は私を憎んだ。いや、憎んではいないのかもしれないが、どうして早く現れなかったのか、と言う眼でフィールを見たからだ。

 

 当時6歳、背丈も小さく、子供である私が何を言おうが聞いてくれない状況で、唯一生き残った私が油断した背中を貫く刃となった。

 

 命を枯らすと言う事は誰かを置いていくしかない選択しか取れないのだ。残された者は失った命にどう思うのか、痛いくらい理解している。

 

 もしも、お母さんが生きているなら……

 

 

フィール「理由なんて……ただの自己満足だよ」

 

 

 奪った連中を許す事なんて出来ない。

 力ある者である私の義務だから、私は2人の娘だから。

 

 『正義の魔法使い』の偽善者でいい。 

 それが、私が、2人が共に目指し、叶わぬ夢を追う2人が残した希望なのだから。

 

 

エルレイ「……」

 

 エルレイはその言葉を聞いて、普通なら、自己満足でそんなことをするのはおかしいだとか、理由がなってなさ過ぎるとか、そう言うだろう。

 

 しかし……

 

 

ミアル「リィエル、どう思った?」

エルレイ「パーフェクト回答」

フィール「ほらエルザ、起きなさい。起きないと深いヤツしちゃうよ?」

 

 

 フィールがペチペチと頬を叩くが目を覚ます様子はない。

 そろそろライネルがいると思われる場所に到達するのに、背負われたままでは困る。

 

 

フィール「おーい」

ミアル「起きそうにないかな?」

 

 

 ミアルがエルザの顔を覗き込む。

 

 

エルレイ「あ、マリアンヌ」

ミアル「………その名前は出さないの」

フィール「3秒で起きないと深いのやっちゃうよー?」

 

 

 3、2、1と数えて目が覚さないエルザにフィールは何の躊躇いもなくエルザの鼻を摘み、キスをしていた。ずちゅうううううううううと言うか効果音が聞こえて如何にも百合に見えるがそうではない。

 

 

エルザ「〜〜〜〜!〜〜〜!?!?」

 

 

 エルザは顔を赤くしながら顔を青くしていた。

 フィールはエルザの空気を吸い込んで呼吸を封じていたのだ。苦しくなったエルザはたちまち目が覚めて、フィールの胸を押して引き剥がす。

 

 

エルザ「ぷはあっ!?し、死ぬかと思っ…ゲホッ!ゲホッ!!」

フィール「よし」

エルザ「よし、じゃない!!乙女の純潔弄ばないの!?」

フィール「敵の領域で気を失って早く目覚めないエルザが悪い」

 

 

 うぐっ、と蹲るエルザ。

 実際は死ぬ可能性が高いこの場所で気を失って早く目覚めないのは確かに危険だ。だがキスで殺されかけた人間の気持ちも考えてほしいものだ。

 

 だが2人は……

 

 

「「──────っ?!?!」」

 

 

 その光景を見てミアルとエルレイは何故か真っ赤になりながら声になっていない叫び声を上げた。

 

 

ミアル「ちょちょちょちょ!!何やってるのかなフィールちゃん?!?!と、突然ききき、き、キスなんて?!いくら女の子同士でも、べ、別に二人の仲を否定したいってわけではないんだよ?でもね?えっとえっと…TPO弁えてというかなんというか、いやここには女の子しかいないし少し薄暗くてシチュエーション的には───」

 

エルレイ「おかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしい、私とシュウもルミアとロクサスもディープまでいくのは相当時間を費やしたのに、というかELSAが、フィーちゃんとき、き、き、キ…ス?お、落ち着け落ち着け落ち着け私落ち着け、ここで冷静にならなくてどうする?先ずはキスの定義を考えなければいけない、あれはキスとしては分類されても好意のキスではない…ハズ、そもそも────」

 

 

 同時にブツブツと言い始めている。二人共顔が恐ろしいほど真っ赤だ。どうやらこの二人はこの手の話題はとことん苦手のようだ。先程までの、落ち着いている大人っぽい二人は何処へやら…

 

 

フィール「この方法の『ぱーふぇくと秘伝書』に書いてあった」

 

 

 フィールは全く動揺する事なく告げる。

 因みに2人には恐らくロクデナシの顔が浮かんだであろう。

 

 

エルレイ「グレン……」

 

ミアル「レーダス……」

 

 二人は思い出した、この二人の世界でもある男が『ぱーふぇくと秘伝書』などというふざけた物を持っていて、その男の妻に大目玉を食らっていた話を……。

 

─────

 

『白猫っ!!死に際のやつにはこれを使え!!名付けて、『ディープキッス♥リヴァイヴァー』だ!』

 

『このロクでなしぃぃぃぃぃ─────!!!』

 

─────

 

 

 

「「何処がパーフェクトなの何処がっ!!!」」

 

 

 二人の声は割と響き渡った……だがフィールは2人に呟いた。

 

 

フィール「いや執筆者はセリカ伯母さんだけど」

 

 

 そっち!?と2人はフィールを振り向く。

『ぱーふぇくと秘伝書』に書かれていたのはかなり大人向け。よくよく考えればグレンを女学院に潜入させる為にかなり濃厚なディープキスをしたのはセリカだった。

 

 この世界では既に行方不明だが、やっちゃったぜ☆と言わんばかりの顔をして親指を立ててサムズアップしていた。

 

 

ミアル「あれ…執筆者、アルフォネア教授だったんだ…」

エルレイ「今思うと、なんで私達、あの環境下でグレなかったんだろう…」

 

 

 二人はハイライトが亡くなった目で、何もない所(セリカの幻影が見える所)でミアルは苦笑いをして、エルレイはサムズダウンをした。

 

 

 ────────────────────

 

 

フィール「《ぶっ飛べ》」

 

 

 フィールは一節で黒魔【ブラスト・ブロウ】を撃ち、扉を強引にこじ開ける。そこに居たのは、余裕の笑みを浮かべて、笑うライネルがそこに居た。

 

 

エルレイ「こんにちは兄さん、私のこと覚えてる…?」

 

 

 くつくつと笑いながら研究所のパネルに寄り掛かり、侵入者を見下しているライネル。エルレイを嫌味ったらしく見下しながら吐き捨てた。

 

 

ライネル「覚えてるに決まってるじゃないか。リィエル」

 

 

 何せ俺が量産させてるんだし。とくつくつと軽い下卑た笑みを浮かべてエルレイを見るライネル。

 

 

フィール「ライネル=レイヤー。第二団《地位》を持つ量産兵リィエルの製造者。お前を拘束しに来た」

 

 

 フィールは臆する事なく銃を構え、ライネルに告げる。

 ライネルは怖い怖いとまだ余裕の笑みを浮かべている。その笑みにフィールもエルレイ達も警戒していた。

 

 

エルレイ「……一応シオン兄さんの気持ちは汲んでおく………私の妹たちの量産をやめて」

 

 

 エルレイは警戒したままライネルに向かい、問う、やめてほしいと。だがそんな事を言った所で奴は止まらな–––––

 

 

ライネル「いいよ?別に」

 

 

 だが返ってきた返答は予想外のものだった。

 

 

ライネル「リィエルの量産なんて心苦しいしね。9割段階とは言え、もう完成したし」

フィール「完成?」

ライネス「ほら、出ておいで俺の最高傑作」

 

 

 パチン!と指を鳴らすとライネルの後ろに厳重に管理されていたような機械の中から高威力の魔術によって粉砕し、現れた綺麗な金髪の女性。

 

 

フィール「……………えっ?」

 

 

 フィールは震えた。

 震えて、動揺する。その姿を見た。子供の頃に何度も見た。いつも自分の我儘で甘えて、でも頭を優しく撫でる優しい過去の記憶。

 

 居るはずがない。だってあの人は何も告げずに自分の目の前から消えていった。だが、あの姿は紛れもなかった。

 

 長い綺麗な金髪。

 女神と思わせるような身体付き。

 そして炎を連想させるような紅い瞳。

 

 その姿は……間違いない。

 見間違える筈のない本物と同じ姿をしていた。

 

 フィールは驚愕しながらも弱々しく呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

フィール「セリ…カ……伯母さん………?」

 

 

 そこに居たのは紛れもない。

 伯母であるセリカの姿だった。だが、あの人はあの日から帰ってこない。いや、厳密には死亡扱いされている。まるで死者が蘇ったように、自分の前にセリカが居るのに現実を受け止め切れないで口元を抑える。

 

 

ミアル「フィールちゃん、大丈夫…?」

 

 

 ミアルはフィールの背中を擦った。

 青い顔をしているフィールはセリカを見つめる。だが、やはり似ているとかそんな次元じゃないのは知っていた。

 

 

エルレイ「……はぁ…」

 

 

 エルレイはため息をついた。

 

 

エルレイ「まさかセリカの力を、完全にインプットしてある…とでも言いたい?」

 

 

 エルレイは決めつけた、セリカを完全にコピーできるわけがないと。当然ながら現代の魔術師を瞬殺出来るセリカだが、それ故に高次元な存在だ。永遠者(イモータル)にして第七階梯(セプテンデ)の魔術師、そんな人間を超越した存在のコピーなど不可能だ。

 

 

ライネル「まあ完全には不可能だね。永遠者(イモータル)までは再現出来なかったとは言え……やれ」

 

 

 虚な瞳のセリカのコピー体は右手を突き出すと、微かに聞こえた詠唱で黒魔【プラズマ・カノン】黒魔【プロミネンス・ピラー】を撃ち出した。

 

 

「「「「っっ!?」」」」

 

 

 どちらもB級軍用魔術、打ち消し(バニッシュ)は出来ない為、フィールは【女帝の世界】で重ね掛けした強化でエルザを抱えて躱し、エルレイは【フィジカル・ブースト】をいち早くかけてミアルを抱えて回避していた。

 

 

ライネル「魔術技能に関しては生前と同じ力を使えるように引き出した」

 

 

 確かに今のは第七階梯(セプテンデ)のセリカとしての魔術技能だ。『万理の破壊、構築』と言う魔術特性(パーソナリティ)を持つセリカの実力は詠唱する理論を破壊して自分の規則(ルール)に再構築すること。

 

 

フィール「ッ………!」

 

 

 フィールはそれを見て悲痛な顔をしていた。

 同じ顔なのだ。優しかったあの人と同じ顔なのに、何故戦わなければいけないのかと思うくらいに悲しかった。

 

 

エルレイ「っ!」

ミアル「リィエル!!時間稼ぎお願い!」

 

 

 エルレイはミアルの言葉に強く頷く。

 

 

エルレイ「エルザ!!コイツはやばい!フィーちゃんを連れて逃げて!」

 

 

 エルレイはそう叫びながら大剣を片手に持ち、コピーのセリカに突進する。

 

 

エルレイ「いいぃぃやぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 斬りかかるエルレイにセリカのコピーは右手に剣を錬成し、エルレイの一撃を受け止める。そして、弾いたかと思うとまるで剣の姫のような鮮やかな剣舞でエルレイを後退させる。

 

 

エルザ「【ロード・エクスペリエンス】!?でもあの剣はエリエーテの……!?」

フィール「違う。錬成した剣でそれはあり得ない。だから打ち込まれたんだよ。量産兵と同じ剣の神エリエーテのデータを……」

 

 

 そう。今のセリカは『Project:Revive life』で生み出された感情無き人形。リィエルの量産兵と同じ理論で原初の魂に干渉出来るなら、エリエーテのデータを入力するくらい不可能ではない。

 

 

エルレイ「っ…ひめっ!!」 

 

 

 エルレイがそう叫ぶとエルレイの目が少し鋭くなる。まるで別人になったかのように。

 

 

エルレイ?「フィーちゃん!……だっけ?このセリカもどきは僕とミアルでやる!!二人はライネルを!」

 

 

 そういうとエルレイの剣が何故か黄昏の光を発しているように見えた。

 

 

エルレイ?「大丈夫!僕は一人のほうが強い!そしてミアルもね!」

 

 

 セリカのコピー体の剣技がエルレイから変わった姫の剣技で応戦する。互いにの剣技は僅かながらエルレイの方が押しているが、致命傷に至らせるような傷を許していないセリカのコピー体。

 

 攻めきれない。オリジナルは()()()な筈なのに。

 

 

エルレイ?「っ…かったい…はは…こんな苦戦久々」

 

 

 そう言いながらエルレイはミアルの元へ軽やかに下がる。

 

 

エルレイ?「ルミア!!」

ミアル「わかってます!!《灼爛殲鬼(カマエル)》《(メギド)》─!!!」

 

 

 ミアルそう叫ぶとミアルの元へ大きなさせる炎をまとった戦斧の形をした物が空からミアルの手に落ちてきて、砲台の形に変形する。

 

 

ミアル「…いけっ!!!」

 

 

 ミアルがそう叫ぶと砲台からコピーセリカへ向け、炎の巨大な弾が発射される、見るだけで黒魔改【イクステンション・レイ】よりも威力が高いことが分かる。

 

 だが……

 

 

フィール「駄目だ!2人共下がれっ!!!」

 

 

 セリカの左手には懐中時計に似たものが握られていた。その瞬間、誰もが動きを封じられた。いや、本人は封じられた事すら気付いていないだろう。

 

 離れていたフィール達は兎も角、接近していた2人も、放った炎も、剣技も全てが停止する世界。

 

ミアル「()()()()()()

 

 

が、何故か動いている、ミアルは片手に古式の拳銃をもって、後ろには大きな懐中時計のような金色の物体がある。

 

 

ミアル「時間停止……()()()おはこですから」

 

 

 そう言いながらミアルはコピーセリカに向けて、狂気的にほほ笑んだ。

 

 

(…カッコつけてるところ悪いけど、ここからが問題よ?)

 

ミアル「……わかってる」

 

 

 そう、ミアルにとってはここからが問題。どんな能力を使ったとしてもミアル自身にセリカを倒すほどの実力はない。

 

 

ミアル「ナムルス。詠唱しておいて」

 

 

 ミアルは姿が見えない者にそう言った後…足を踏み出した。

 

 

ミアル「はあああああああああああぁぁぁ!!!!!」

 

 

  刹那───。

 大きな戦斧となった灼爛殲鬼(カマエル)を片手で軽々と振り回し突進する。その威力はまさに災害の如く、生半可の人間では受け流すことさえ不可能なパワーを秘めている…しかし。

 

 

ミアル「…っ!!」

 

 

 多少の傷は付くものの、致命傷までは至らず、誰も動かない。二人だけの空間で膠着状態が続いていた。

 

 

(…よし、ルミア!!変わりなさい!!!)

 

ミアル「10-4了解っ!!!」

 

 

 そう言ってミアルは目をつむると、髪の毛の金髪に銀色のグラデーションがかかったようになっていて、『黄金の鍵』、そしてもう一方に大きな大剣を持っている。これこそが、ミアルの中にいるもう一人の人格である。

 

 

ミアル?「さあ来なさい、(セリカ)の偽物。遊んであげるわ」

 

 

 そう言ってミアルらしき者は黄金の鍵を握りしめながら大きな大剣を振り回す。

 

 

ミアル?「はああああああああああああああああぁ!!!」

 

 

 瞬間───。

 コピーセリカの目の前からいなくなったかと思うと、突然目の前に現れ、斬られかける所を如何にかセリカは避けた。

 

 

ミアル?「…ちっ」

 

 

 ミアルらしき者は舌打ちをした。ここまで【ロード・エクスペリエンス】を再現しているとは思わなかった。しかも肝心の黄金の鍵がうまく機能しない。これでは手の出しようがない。

 

ミアル?「…仕方ないわね、一旦下がるしかないわね…」

 

 

 

 

 

「…………」

 

 セリカの固有魔術【私の世界】

 世界の事象の全てを停止させ、時間すら停止させる究極の魔術領域。

 そして突如として時間が動き出す、いつの間にかある程度傷を負った、コピーセリカと、フィールとエルザの所までは後退していたミアルがいた。

 

 しかし……

 

 

ミアル?「…ちっ、思ったより完成度高いじゃないの」

 

 

 ミアルと思われるものは髪の毛の金髪に銀色のグラデーションがかかったようになっていて、片手には古式の拳銃ではなく、何故か『黄金色の鍵』を持っていた。

 

 

ミアル?「空間切断できる大剣で斬っても駄目、術式は時が止まってるから動かないし、そもそも私の『黄金の鍵』が上手く作動しない、ったく」

 

エルレイ?「いや、それはルミアの体だからナムルス、君の能力は使いづらいだけじゃ……」

 

ミアル?「は?なんか言った?」

 

 

 時が動いたと同時にセリカは再び時計を握る。

 それを見た二人は目を見開いた。

 

 

フィール「なっ……!連発!?」

 

 

 

 セリカ本人であっても【私の世界】は連発する事が出来なかった筈だ。魔力容量もそうだが、マナバイオリズムが急激にカオス状態に陥るからだ。【リズム・キャンセル】を使えば連発出来なくはないが、それ程の魔力はない筈だ。

 

 

エルレイ「いいいいいいいいいいいいいいぃぃぃやあああああああああああああぁ!!!」

 

 

 刹那───。

 コピーセリカが【私の世界】を使った。瞬間、エルレイは、動いていない時の中、セリカに自分の用いるすべての剣技で応戦した。『天つ風』『旋風』『暴風』『東風』『霜風』ありとあらゆる親友から教わった抜刀術を使い、そして自分自身の【ロード・エクスペリエンス】をフルに活用し、コピーセリカに応戦する。

 

 

ミアル「もう!!『0の因果』使うんならさっきのに間に合わせてよ!」

 

エルレイ「ごめっ……ん!!」

 

 

 そう言ってエルレイはコピーセリカの片腕を軽々と切り落とした。コピーセリカは警戒し、すぐさま数歩下がる。

 

 

ミアル「リィエル…やっちゃう?」

 

エルレイ「応答…やっちゃいます」

 

 2人はまるで友達と笑いあっているかのような笑顔で互いに笑いあった。二人とも自分の得物を持ちながら…。

 

 

 『0の因果』エルレイが時間操作に対抗できる唯一の手段だ。そしてミアルも時の停止に介入した。2人そろった…

 

 これでこの2人に負けはない、負けることなどあり得ない

 

 ……ハズだった。

 

 

「…………」

 

 

 しかし……

 

 次に眼を開けた瞬間……

 

 フィールが目を開けるとそこには血だらけで倒れているミアル。その隣には『黄金の鍵』が無残に転がっていた。そしてエルレイも傷だらけで部屋の端にクレーターの真ん中で横たわっている。二人共場所は移動していて、まるで時間の動いていない時に戦っていたかのようだった。

 

 

フィール「っ!エルレイ、ミアル…!?」

 

 

 セリカの左腕は斬られていたようだが、2人は致命傷こそ避けているがそれでも重傷だ。

 

 

ライネル「はははっ!驚いただろう!僕が生み出した怪物の強さを!!魔力はこの場所なら他の人形共からコイツに送れる!つまり今君達の目の前にいるのは全盛期を超えた怪物、セリカ=アルフォネアなのさ!」

 

 

 ライネルがこの圧倒的な力に嗤う。

 今のセリカは全盛期の魔力容量を持ち、外部から魔力まで補給出来るということだ。

 

 けど、そんな事はフィールにとってどうでも良かった。

 

 

フィール「………エルザ、2人をお願い」

エルザ「フィール?!」

 

 

 倒れている2人の前に立ち、悲しそうな表情でセリカのコピー体を見る。傷付きながらも無表情に此方を見据えているセリカのコピー体にフィールは辛そうだった。

 

 

フィール「あなたはもう……セリカ伯母さんじゃないんだね」

 

 

 優しい記憶。

 唯一の支えとも呼べる優しい記憶の中にいた人間はもう居ないのだ。分かっていた。どれだけ待とうが、どれだけ泣こうがあの人は帰ってこない事は分かっていた。

 

 

フィール「だからごめんなさい、セリカ伯母さん」

 

 

 右手に魔剣を持ち、2人は互いを見据えいる。

 無表情のセリカのコピー体だが、データにはない感情が、400年の記憶の一部に存在した僅かな記憶が警鐘を上げていた。

 

 コイツは危険だと、そう告げていた。

 

 

フィール「私は貴女を–––––––––殺す」

 

 

 明確な殺意と、その覚悟だけで乗り越えた男を知っている。ノイズのように頭の中に流れるその記憶は今のセリカには理解出来ない。

 

 

エルレイ「……ぁ…が……フィーちゃん……にげ…て」

 

 

 エルレイはか細い声で、痛みで全身が震えるのを必死に我慢しながら立ち上がる。

 

 

エルレイ「そいつは……危険すぎる……っ……全部……先生がやるっ……、全部やるからっっ……」

 

 

 エルレイの悲痛そうな叫びがフィールの耳元に届く、エルレイが心から叫んでいるのだ。戦わないでと、傷つかせたくないと…。

 

 

ミアル「そう……だよ、全部。汚い大人の……っ私達にっ……任せて」

 

 

 そう言った2人にフィールは振り向かずに問う。

 

 

フィール「そうやって他人に全部任せて汚させたいと思ってるの?」

 

 

 他人に全て任せて、自分は綺麗なままでいたいと思われているなら、フィールはそれを否定する。元よりこの身は闇へと堕ちた身、汚れなど今更の話だ。

 

 

フィール「悪いけど、こっから先は私がやる。2人は傷を治して、私が死にかけたら、援護でもして」

 

 

 いつも憧れだった存在に私は今日、初めて挑む。

 世界に名を轟かせた『灰塵の魔女』『世界』『第七階梯(セプテンデ)』と呼ばれたセリカ=アルフォネア。

 

 いつだって、私は忘れなかっただろう。

 

 

「いくよ……セリカ伯母さん」

 

 

 だからこそ、私の手で終わらせる。

 それがせめてもの手向けだから。家族として、いつも優しかったあの人に届くように。

 

 

「––––起動【女帝の世界】」

 

 

 フィールはセリカに向かって地を駆け出した。

 

 

 ────────────────────

 

 

ミアル「っ……《我……目覚めるは……》──!」

 

 

 ミアルは体の震えを抑えながら詠唱を開始した。

 

 

エルレイ「っ……汚れるのは……私だけで十分だ、下等生物……!エルザ…!イルシアのコピーを…一体ここまで持ってこれる……?」

 

 

 エルザはそれを拒否した。

 理由は分からないが、魔術とは別の外法を使おうとしているのだろう。文字通り命を削る魔術で。

 

 

エルザ「……2人とも回復に専念して」

 

 

 エルザも魔術を使い、ミアルを回復させている。

 エルザの魔術センスは高くはないが、ある程度の軍用魔術は使用可能だ。ミアルに触れて身体を癒していく。

 

 

エルザ「今のフィールは……あの人でも勝てないから」

 

 

 エルザはフィールの方を見る。

 覚悟を決めたフィールは誰よりも強い。それは長年相棒をやっていたエルザが確信を持っていたからだ。

 

 

 ────────────────────

 

 

 セリカは片腕ながらもエリエーテの剣技でフィールに応戦していく。魔剣エスパーダはまだ使えない。防げると確信した瞬間にしか勝機はない。

 

 互いに剣を交じり合い、後方へ下がる。

 

 

フィール「《極滅の––––》」

 

 

 フィールは詠唱を省略した【プラズマ・カノン】を撃とうとした瞬間、セリカは極光の障壁である【インパクト・ブロック】を構えて迎え撃つ。

 

 障壁は崩れずに、防ぎ切られセリカは詠唱を始める。あの詠唱はセリカの十八番、【イクスティンクション・レイ】だ。フィールはその詠唱を聞いた瞬間、セリカに更に近づく。

 

 

フィール「遅い!!」

 

 

 左手に握られたタロットカード。

 それは愚者のアルカナ。セリカの唯一の弟子が生み出した魔術封殺の魔術。【愚者の世界】だ。

  

 その瞬間、セリカに対して強化した身体能力に魔剣を構えて振り抜く。防ごうとしたセリカは剣を斬られ、咄嗟に躱したとは言え、脇腹を切り裂かれた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

エルレイ?「…すごい…」

ミアル?「あの歳であの実力……世も末ね」

 

 

 二人は素直にフィールの戦闘に驚いた、二人共、長年人間と殺し合いをしてきたが、ここまでの人間がいたであろうか…。

 

 エルザは少し驚く、また別人のようになっているのだから。驚かないほうがおかしい。

 

 

エルレイ?「僕たちのことは気にしないで、大丈夫、リィエルとルミアはちゃんと眠って、体力回復してるから」

 

 

 ────────────────────

 

 

フィール「浅い……!」

 

 

 脇腹を斬り裂いたが、欲を出せば今ので決めたかった。

 フィールが発動している【愚者の世界】を把握し切れていない今なら、勝機はある。

 

 だが、そんな考えはすぐに崩された。

 

 

フィール「っっ!?」

 

 

 セリカに再び斬りかかろうとした瞬間、右手に【プロミネンス・ピラー】の魔力を溜めてフィールに放ってきた。身体強化の重ねがけで逃れる事は出来たとは言え、【愚者の世界】があっさり破られた。

 

 

フィール「もう逆算から再構築したのか…!?」

 

 

 セリカは『変化の停滞』であるこの空間の逆算をし、魔術式を破壊した後に再構築する事で【愚者の世界】を破ったのだ。それでも早過ぎる。

 

 

フィール「《三度の厳冬よ》!!」

 

 

 フィールは黒魔【アイシクル・コフィン】でセリカの足元を凍らせるが、それも予想済み。【トライ・レジスト】と【フォース・シールド】を指を鳴らしただけで発動させる。

 

 

フィール「………はは」

 

 

 相変わらず滅茶苦茶だ。

 どんな天才も即座に終わらせる事が出来る怪物。知っていたが、改めて再認識する。この人は強い。

 

 そして、再びセリカは時計を握ろうとする。

 フィールはそこまでは読めていたが、ここからが本当の勝負。

 

 

フィール「(ここからが大博打!覚悟を決めろ!!)」

 

 

 フィールは懐から取り出した球体を地面に投げつけると、球体が爆発し煙が広がる。視界は遮られ、見えなくなるが、セリカは【私の世界】を発動した。

 

 

 キィン!と止まった時の中、煙の中を突き進んでセリカは歩く。

 

 時間が止まれば勝ち目はない。そこで止まっていたフィールの魔剣を奪うと、セリカはフィールの首を狙い、剣を振り下ろす。

 

 しかし……

 

 

「っっ!?」

 

 

 セリカのコピー体は後退した。

 フィールが時間を停止した空間で僅かながら唇が動いていたからだ。止め切れていない?そんな馬鹿な。この魔術は完璧……と思考していたセリカのコピー体は突如、血を吐き出す。

 

 

「っっ!?–––––––––––––!?」

 

 

 何が起きたのか理解できないだろう。

 5秒が経ち、フィールの時間は動き出す。フィールは口元を抑えるが、フィールも膝をついて崩れ落ちる。

 

 

エルレイ?「い、今のは……っ?!リィエル!まだ休め!」

 

 

すると、エルレイの口調と目つきがすべて戻る。

 

 

エルレイ「ひめ!うるさい!!!」

エルザ「エルレイ!まだ休んでなきゃ駄目!」

エルレイ「黙れっ!!私に指示するな下等生物!!」

 

 

そう怒鳴り声を上げながらフィールの元に駆け寄る。

 

 

エルレイ「フィーちゃん!!」

フィール「っっ!近づくな!!」

 

 

 フィールが近づいてくるエルレイに叫ぶ。

 エルレイは直感的に何かに気付いて足を止める。セリカのコピー体が倒れたのを見て、ライネルが叫び出す。

 

 

ライネル「な、何をした……何をしたんだお前は!?」

 

 

 突如、時が止まりセリカのコピー体がフィールを始末したと思ったらセリカのコピー体の方が倒れていたのだ。だがフィールも無事ではない。身体の至る所が紫色になって身体を蝕んでいた。

 

 

フィール「……煙の中に…毒を仕込んでおいた」

 

 

 時が止まる寸前に投げたあの煙玉。

 アレは視界を封じる為に使った訳ではない。

 

 

フィール「セリカ伯母さんの…戦闘スタイルは超パワー型……だからこそスピードで翻弄する…相手には必ず使うと思ったよ……」

 

 

 フィールの時は止まり、セリカは動くのであれば、セリカはフィールが毒に蝕まれる何倍も先に蝕まれる。時が止まった世界が仇となって、セリカを苦しめる時間を長くしてしまったのだ。

 

 

フィール「この毒は即効性、私は多少抗体はあるけど、それでコレ……そっちはどうかな?毒は一呼吸で死に至る、何回呼吸したのか知らないけど、私が倒れる前に必ずそっちが倒れる」

 

 

 抗体のあるフィールでさえ、コレなのだ。

 血を吐いて、今にも倒れそうなくらい苦しい。なら抗体がない人間はどうだ?セリカのコピー体は口を開いて呼吸が出来ずにいる。

 

 

フィール「乱暴な賭けだったけど……私達の勝ちだ!」

ライネル「ば、馬鹿な!毒だと!?そんな程度で倒れるな!動け!動いてコイツらを殺せ!!!」

 

 

 ライネルが指示を飛ばすと、セリカのコピー体は電流が走ったかのように無理矢理立ち上がる。立ち上がって魔術を使おうとしていた。

 

 

フィール「嘘でしょ……まだ……」

 

 

 解毒薬は既に飲んだが、解毒には時間がかかる。

 

 

「《–––目覚めろ》!」

 

 

 身体が麻痺しているフィールは無理矢理風を使って剣を握り、魔術を撃つ前に先に斬りかかろうとする。毒に蝕まれながらもセリカは魔術を発動しようとした瞬間。

 

 セリカのコピー体の右手が投げられた剣に斬り落とされる。

 

 

フィール「ああああああああああっ!!!」

 

 

 フィールの華奢な手に握られていた魔剣がセリカを捕らえた。斬りかかかる寸前、腕を失ったセリカのコピー体は焦りもせず、だが動きもしなかった。諦めて、軽く微笑んだ。

 

 

フィール「っっ!ああああっ!!」

 

 

 フィールの剣がセリカの胸を貫いた。

 心臓部に一刺し、セリカのコピー体は血を吐き出してフィールを見た。セリカのコピー体は少し詠唱をすると、落ちた右腕が繋がっていた。それを見たフィールは力一杯、魔剣を突き刺す。魔術を使われたら殺される。

 

 だが、フィールに魔術を放つと思われた右手はフィールを優しく撫でていた。

 

 

フィール「………えっ?」

 

 

 フィールは必死の形相からセリカを見た。

 血を吐きながら笑っていた。笑いながらフィールの頭を軽く撫でていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……おお…き……くな…った…な……フィー…ル」

 

 

 最後に見たその微笑みと辛うじて聞こえたセリカの声を聞いた瞬間、セリカは軽く微笑んだまま倒れた。その後、無意識に流れていた涙と共に、毒の激痛に耐え切れず、フィールも倒れていた。

 

 

 

 ────────────────────

 

 

エルレイ「はぁ……はぁ……結果…オーライ」

 

 

 あの時、セリカが魔術を使う前に剣を投げていたのはエルレイだった、エルレイは即座にもう一度剣を生成する。

 

 

ライネル「ば、馬鹿な?!もうお前にはそんな力を────」

 

 

 すると、エルレイはその場からいなくなっていた、ライネルは必死に見渡すが、どこにもいない、いない、いない、いな……。

 

 

「後ろだ、下等外道生物」

 

 

 そのままエルレイはそのまま片足を切り落とした。

 

 

ライネル「────っがぁぁぁぁぁああああぁぁ!!!!」

 

 

 ライネルは斬られた片方の足を抑えながら苦しんでいる。

 

 

エルレイ「エルミアナ様……最高の゛慈悲゛のご許可を」

 

ミアル「駄目です、出来るだけ痛ぶりなさい、それをフィールちゃんにセリカさんをぶつけた慈悲とします」

 

エルレイ「かしこまりました」

 

エルザ「でも殺しちゃ駄目だからね!」

 

 

 そう言ってエルレイは残っている片方の足を、足首、膝、股部分、関節に的確に入れて。できるだけ痛みを与えた。

 

 

ライネル「っ!?ぁぁぁあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁあっ────!!!!」

 

 

 聞こえたのはただの男の絶望の叫び声だった。

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 エルレイがライネル(だったもの)を処理した後、倒れたフィールに膝枕をしていた。エルザが既に解毒薬を服用させていたので、単純な精神的疲労もあったのだろう。

 

 

フィール「……っ」

エルレイ「!よかった…、目が覚めた…」

 

 

 フィールは目が覚めるとエルレイに優しく抱きしめられていた、周りを見渡すと。エルザもミアルも無事のようだ。

 

 

エルレイ「……ほんとにすごいよ、よく頑張ったね」

 

 

 そう言いながらエルレイはフィールの頭を撫でた。

 

 

フィール「セリカ伯母さん……は?」

エルレイ「……っ」

 

 

 エルレイは少し悲しそうな顔をした。

 震える微かな声でエルレイは目を逸らした。

 

 

ミアル「あれは、アルフォネア教授じゃないよ、それに似た何か」

フィール「……分かってる。別人だって事くらい。けど、あの時だけは、間違いなくセリカ伯母さんだった……もう、居ないんだよね?」

 

 

 フィールは悲しそうな顔をしながらエルレイを見た。

 エルレイはただ沈黙する。それが答えだった。フィールは無理矢理起き上がり、セリカに見せようとしたあの魔導具を取り出した。

 

 

フィール「……《私は世界を欺きし者・魔力を練り上げ知識を基盤に彼方を幻想せよ》」

 

 

 フィールは両手を重ねて詠唱を開始する。

 あの頃の約束、どうやら果たせそうにないけれど。

 

 

フィール「……《真実のヴェールで覆いし者よ・今一度聖歌の幻想を・我が命脈に従い・奇跡と彼方の巡礼を》」

 

 

 フィールを中心に綺麗な花が咲き、空には満天の星空にオーロラ、それを照らすかのように花は光り、幻想的な空間を生み出す。

 

 

フィール「セリカ伯母さん……もし……貴女がまだ何者か探してるなら……やっと、旅を終えたんだね……」

 

 

 フィールは冷たくなったセリカのコピー体に触れる。

 無理矢理接合した右手は冷たくなっている。その右手にフィールは優しくその魔導具を握らせた。

 

 

フィール「–––––おかえりなさい。セリカ伯母さん」

 

 

 フィールは涙を流し、そう告げた。

 魂は、此処にあの時確かに帰ってきたのだ。だからフィールは振り返らない。セリカはもう……居ない。けど、私の前に一瞬だけ帰って来てくれたから。

 

 

エルレイ「それは…セリカに見せるものだったんだね…」    

 

 

 エルレイはそう言いながら、もう一度優しく抱きしめる……、強く……何もかもを包むように強く……。

 

 

エルレイ「きっとセリカは、探す旅なんてほっぽりだして…フィーちゃんをずっと見守ってたんだと思うよ」

 

 

 エルレイは優しくフィールの背中を擦った。

 フィールは少しだけ、エルレイに顔を胸に預けて涙を流していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フィール「…………!」

 

 

 フィールは泣き腫らした顔を擦り、ライネルが調べていた研究を全て見た。だが、その中にはセリカの研究データこそあるが、世界を渡る術式のデータは存在していなかった。

 

 

フィール「……ライネルが主犯じゃない?」

エルザ「えっ?違うの?」

フィール「データはない。手紙についても……じゃあまさか、天の知恵研究会は意図的に2人を転移させた訳じゃなく、偶然見つけたからライネルは狙ったって事?」

 

 

 それでは矛盾する。

 一体何の目的で2人をこの世界に呼んだのか。

 だが……そう考えていると、エルレイの頭上にヒラヒラと何かが落ちてきた。

 

 エルレイはそれを手に取る、それは手紙のようだ。

 

 内容は……

 

《満足はしたか?》

 

 というものだった。

 

 

エルレイ「……ちっ」

 

 

 エルレイは小さく舌打ちをした。ミアルはエルレイの撮った手紙を横目で見る。

 

 

ミアル「…いちいち尺に触る書き方をする」

フィール「黒幕は……判明は出来なさそうね」

エルザ「帰り方は分かるの?」

 

 

 エルザがエルレイに聞いてみるとエルレイは首を縦に振る。

 

 

エルレイ「多分、これに帰りたいと望めば、前みたいになる」

 

 

 そう言いながらエルレイは手紙をひらひらとさせる。何処か納得行かないような顔で。

 

 

エルレイ「……けど」

 

 

 エルレイはそういうと手紙を天高く投げて、刀を生成させ、そのまま手紙を…。

 

 バシュッ!!!バシュッ!!!バシュッ!!!

 

 切り刻んでしまった。あたりに紙らしき物が飛び散り、地面につくと光って消滅する。

 

 フィールもエルザも目を見開いた。

 唯一の帰る手掛かりである手紙を切り刻みなんて正気の沙汰ではない。

 

 

エルザ「ちょっ!?帰る方法!?」

フィール「馬鹿なの?」

エルレイ「馬鹿だよ?」

 

 

 エルレイはそう言いながら微笑んだ。ミアルもよくやったと言わんばかりに笑っている。どうやら気に食わなかったようだ。呼び出した人間に。

 

 

エルレイ「フィーちゃん達のおかげで力は溜まった。勝手に帰れるから大丈夫」

 

 

 そう言いながらエルレイはエルザとフィールにいちごタルトを差し出した。

 

 

エルレイ「おたべ?任務終わったならいいでしょ?」

フィール「……貰ってはおく。今はそんな気分にはなれないし」

 

 

 別人とは言え、身内を殺したのだ。

 それに身体の毒がまだ抜け切っていない。精神的にも身体的にも今食べれる気がしない。だが、エルレイは優しい顔をしてフィールにいちごタルトを持たせていた。

 

 

エルレイ「ん、良かった、貰ってくれて」

ミアル「それで、準備は?」

エルレイ「万端。いつでもどうぞ」

 

 

 そう言いながらエルレイは小さい赤いクリスタルのような物を取り出した。

 

 

フィール「……行くのね」

 

 

 フィールはため息をつきながら割り切る。

 まあ、未だに疑いもあるし、信用出来ない所もある。

 

 だけど、任務を一緒に駆け抜けた時は僅かながら楽しかった。だからまあ、親友程度には別れを見送るのも悪くないだろう。

 

 

フィール「さよならね。エルレイ、ミアル……いや、エルレイ先生とルミアさん、がいいかな?」

 

 

 エルレイは驚いた表情をしていた。

 だってあの時、先生に任せてって言っていたし。

 

 

フィール「世界線は違えど、多分また会える気がするよ。だから、また逢おう、逢って話が出来るように……約束」

 

エルザ「私も」

 

 

 2人はエルレイ達の前に拳を突き出していた。

 そしてエルレイ達が光に包まれ始める。フィールは最後に2人に叫んだ。

 

 

フィール「エルレイ、ミアル!」

 

「「?」」

 

フィール「貴女達が何で命を削ってまで魔術を使うのか分からない。どんな悩みがあるのか分からない。けど、2人なら乗り越えられるって信じてるから!だから……!」

 

 

 フィールは最後に笑った。

 それは年相応の少女のような笑顔で笑った。

 

 

フィール「生きる事を諦めるな!戯言であっても、生きたいと思えるような!!そんな素敵な人生でありますように!!そら、私の呪いだ!受け取れ!!」

 

 

 フィールはポケットから2人に投げ付ける。

 投げ渡されたそれを見ると、そこには『JOKER』と書かれた黒と赤のトランプだった。それはある魔導具の失敗作、大した力はないが、その2枚のカードがフィールの加護と思えるような、そんな呪いを込めた最大の贈り物だった。

 

 

エルレイ「…ふふっ、フィーちゃんらしい」

ミアル「祝でも、祈りでもなく、呪いね…ますます気に入ったよ、フィールちゃん」

 

 

 そういうとエルレイ達もカードを投げ渡す。そこに書かれていたのは。年期の入った。

 

 執行官ナンバー7 《戦車》と

 執行官ナンバー000 《破壊者》のカードだった。

 

 

エルレイ「こっちは、不…かな」

ミアル「頑張ってねフィールちゃん、必ず何処かで見守ってるよ」

 

 

 そう言い残した二人は光へと包まれて、姿を消していった。

 

 

 

 

 ────────────────────

 

 

「フィールちゃん!ご飯だよー!」

「今行きます……!だから少し待って!」

 

 

 フィールは愚者のアルカナの調整をしていた。

 最近連発し過ぎて手入れを怠っていた気がする。専用の魔導機である以上、ちゃんと使うのがフィールの心情だ。

 

 

「あれ……?このカード……」

 

 

 2枚のカードがあった。執行官ナンバー7《戦車》と執行官ナンバー000《破壊者》と書かれたアルカナが存在していた。

 

 

「そうか……そう言えば昔……あの人に会ってたんだね」

 

 

 このアルカナは以前に会った2人からもらったものだ。今まで何故忘れていたのかは分からない。けど、あの人達なら多分大丈夫だと思った。誰かに恋をしていたようだしね。

 

 

「フィールちゃーん!!」

「はいはい、今行きますよ!!」

 

 

 2枚のアルカナを調整していた愚者のアルカナの横に置き、一階にいるセラの所へ向かった。その時、机に置かれていた三枚のアルカナはまるでフィールとミアル、エルレイを表しているように見えた。

 


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