バッドエンドの未来から来た二人の娘   作:アステカのキャスター

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フィール「………」

アステカ「フィールちゃん、どうしたの?」

フィール「エルレイさんと会ってみたい」

アステカ「えっと『ロクでなし魔術講師と帝国軍魔導騎士長エルレイ』の主人公の未来リィエルちゃんだよね?コラボって事?まあ出来なくはないけど、どうしたんだい急に?」

フィール「ただね、少しだけ私が居た世界とエルレイさんが居た世界について話してみたいなぁ」チラッ

アステカ「因みにこれ普通に考えて駄目じゃね?あちらの作者様に許可を取らずに宣伝しちゃ」

フィール「宣伝じゃない、拡散。ってエルレイさんが言ってた」

アステカ「……まあいっか。もしコラボするなら声掛けるよ」

フィール「よろしくねアステカ」

アステカ「……てかどうやってエルレイちゃんと繋がってるんだろ?未来仲間だからか?そうなのか?」

フィール「〜〜〜♪」

アステカ「まあいっか」


 『エクソダス』さん!いつかコラボ致しましょう!
 と言う訳で3話目、ダメ講師覚醒とテロリスト介入です!では行こう!



 


第3話

 

「グレン君、一緒に帰ろ!」

「はいはい、ちょっと待ってろ。調べ物だ」

 

 

 教員室のデスクで数枚の資料を漁っているグレン。教員室に置いてある砂糖を使ってコーヒーにたっぷり入れたものを飲みながら、資料を一枚一枚しっかり見ていた。

 

 

「わっ、グレン君が珍しく仕事してる!? 明日は雨かな?」

「んな訳あるか!? お座りして待ってろ白犬!!」

「犬じゃないって言ってるでしょー!!」

 

 

 プンプンと怒り気味に反抗したセラの言葉を無視して、資料を読み続けている。セラが興味本位でその資料を覗いてみると、その全てがフィール=ウォルフォレンに関するものだった。

 

 

「フィールちゃんの資料? 何でまた」

「いんや、別に大した理由じゃないけどな。ただ……」

 

 

 あの時、何故か涙を流して走り去っていた事に何かが引っかかっていた。別に大した事ではないし、何で泣いたかなんて聞くのは何処か気が引ける。資料では学年主席、提出されている魔術論文もグレンから見て優秀の一言に尽きる。

 

 だが、引っかかったのは、フィール=ウォルフォレンには()()()()()と言う事だ。家のお金は遠い親戚から負担して貰っているらしい。クールで魔術師としての視点は宮廷魔導師団のソレに近い。

 

 ただ、()()()()()()()()()()がグレンにとって少し不審に思った。

 

 システィーナやギイブル達は親が優秀なのもあり、魔術を使用するだけなら優秀だし、座学などの成績は上位に位置する。逆に親が居ないフィールにとって()()()()()()()()()()()()()()()引っかかる。まだ15歳の少女が親も居ない中で、これだけ優秀で、魔術師としての視野も広い。

 

 普通に考えて何処かキナ臭い。

 まるで、在り方が自分達に近いようで……

 

 

「フィールちゃんは悪い子じゃないよ?」

「まあ、確かにそう見えるけど……何かなぁ」

「……ただ」

「?」

「あの子、何処か私やグレン君を避けてる様な気がするの。意識的にと言うか、私達を見ると少しだけ悲しく笑うの」

 

 

 セラと目が合った時があった。

 その時のフィールの顔は何処か悲しい目をして、無理に笑っている様に見えた。会話をした時も、セラと目を合わせない。無意識と言うより、意図的なものを感じた。

 

 

「白か黒かで言えば?」

「白…だと思う。何かはあるけど、悪い子じゃないって思う」

 

 

 他人と一線引いている様な感じがしてならない。

 システィーナやルミアとは仲がいいように見えて、別に自分からあまり話たがらない。まあ、確実に何かはある事は否定しない。ただ、悪い子じゃないと言うのも同じく否定しないものだった。

 

 

 ────────────────────

 

 

 グレンは教室に気怠く入りながら辺りを見渡す。フィールの席だけが空いていた。昨日の涙の意味はついぞ分からなかった。

 

 

「ルミア、フィールは休みか?」

「えっと、多分。待ち合わせ場所に居なかったのでお休みだと思います」

「成る程、あと、白猫」

「……何ですか?」

「昨日は、すまんかった」

 

 

 システィーナは突如あのグレンが急に謝ってきて驚いていた。歯痒い感じにただ悪かったと反省している。

 

 

「まぁ、その、なんだ…………大事な物は人それぞれって言うか、俺は魔術は大嫌いだが、その…………お前のことをどうこう言うのは筋が違うって言うか…………やり過ぎたっつーか、大人げねえっつーか…………結局、えっと、なんだ、あれだ…………とにかく悪かった」

「…………はぁ?」

 

 

 システィはどういうつもりで謝ってきたのか分からず戸惑うグレンは謝り終えたつもりなのか、そのまま教卓へと向かい、教卓に立った瞬間、授業開始の鐘が鳴る。

 

 

「じゃ、授業を始める」

 

 

 グレンの言葉にクラス全員がどよめいた。

 どうせ、また寝るだけだろうと思っていたのに、ちゃんと授業開始と同時に授業を始めようとしてるグレンに誰もが驚きを隠せなかった。

 

 

「さてと、これが呪文学の教科書……だったっけ?」

 

 

 教科書を取り出すと、グレンはそれを────―

 

 

「そぉい!」

 

 

 事前に開けておいた窓から外へと投げた。

 その行動に、生徒たちはいつものかっと失望し、溜息を吐いて自習をしようとする。そしてそれを見た生徒たちはいつもの奇行に自習の準備を始めたのだが、グレン先生が口を開いた。

 

 

「あ~、授業を始める前に言っておくことがある」

 

 

 と言い出したので聞いてみると、グレンは呆れた様な口調で笑いながら告げた。

 

 

「お前らってほんと馬鹿だよな」

 

 

 いきなり暴言を吐いてきたのである。勿論生徒からは反論を受けるのだが、グレン先生はそれを遮りありのまま考えている事を言う。

 

 

「この11日間、お前らの授業態度を見てて分かったよ。お前らって魔術のこと、なんにもわかってねえんだな。分かってるなら呪文の共通語の翻訳の仕方なんて間抜けな質問する筈ないし、魔術式の書き取りをやるなんてアホなことする訳ないもんな」

 

 

 そういうとギイブル君が煽るように呟く。

 

 

「【ショック・ボルト】程度の1節詠唱もできない三流魔術師に言われたくないね」

 

 というが、グレン先生はどこか吹く風であり……そんな煽りを気にも留めずに続ける。

 

 

「それを言われると耳が痛い、俺は男に生まれながら魔術操作と略式詠唱のセンスが無くてね……だが、誰か知らんが【ショック・ボルト】『程度』とか言ったか? やっぱ馬鹿だわお前ら。ははは……自分で証明してやんの」

 

 

 ひとしきり笑った後、グレン先生は【ショック・ボルト】について話し始めた。

 

 

「まぁ、いい。じゃ、今日はその件の【ショック・ボルト】について話そうか。お前らのレベルなら、これでちょうどいいだろ」

 

「今さら、【ショック・ボルト】なんて初等呪文を説明されても……」

 

「やれやれ、僕達は【ショック・ボルト】なんてとっくの昔に極めているんですが?」

 

「はいはーい、これが、黒魔【ショック・ボルト】の呪文書でーす。ご覧下さい、なんか思春期の恥ずかしい詩みたいな文章や、数式や幾何学図形がルーン語でみっしり書いてありますねー、これ魔術式って言います」

 

 

 生徒の言葉を無視しグレン先生は話している。

 無視された事にイラッときたが、黙って聞いている。

 

 

「基本的な詠唱は《雷精よ・紫電の衝撃以て・撃ち倒せ》……知っての通り魔力を操るセンスに長けた奴なら《雷精の紫電よ》の1節でも詠唱可能、じゃあ問題な」

 

 

 問題だと言い、黒板に書いたのは《雷精よ・紫電の・衝撃以て・撃ち倒せ》と言った【ショック・ボルト】の詠唱文を3節から4節に区切って書かれていた。

 

 そしてグレンはクラス全員に問題を出した。

 

 

「3節の呪文が4節になると何が起こると思う?」

 

 

 何分か待っていても誰も分からないのである。それに気づいたグレン先生はギイブルに指を指す。

 

 

「では如何にもガリ勉らしい眼鏡君、答えをどうぞ!」

「その呪文はまともに起動しませんよ、必ずなんらかの形で失敗しますね」

「んなこったぁわかってんだよバーカ。必ずなんらかの形で失敗します、だってよ!? ぷぎゃーははははっ!」

「な─────」

「あのなぁ、あえて完成された呪文を違えてんだから失敗するのは当たり前だろ!? 俺が聞いてんのは、その失敗がどういう形で現れるのかって話だよ?」

 

 

 この術式は失敗前提のもの。

 なんらかの形で失敗するのは当たり前だ。その形を聞いていたのだが、ギイブルがまさかの撃沈、しかもうざいくらい煽ってくるので生徒のウェンディも負けじと返そうとする。

 

 

「何が起きるかなんてわかるわけありませんわ! 結果はランダムです!」

「ランダムぅ? お前、本気で言ってんのか? この術、究めたんじゃなかったのか? 俺を笑い殺す気かよ?」

 

 

 そう言ってグレンは大笑いをする。この時点でクラス中の苛立ちは最高潮に達していた。だが、なんらかの形が分からない。失敗することは分かるが、どう言った失敗が現れるのか。

 

 

「何だぁ? 全滅か? もういい答えは––––」

「失礼します」

 

 

 教室のドアが開くとそこには少し気怠げなフィールが入って来た。少しだけ眠たいような顔をして欠伸をしている。フィールが寝坊する時は偶にしかないが、今回ばかりはかなり眠たそうに見えた。

 

 

「お前まさか寝坊か? 優等生じゃなかったのかよ?」

「優等生でも偶に寝坊くらいしますよ。遅刻してすみません」

「ほうほう、じゃあ寝起きのお前に問題だ。まあ今、生徒全員が全滅してるけどな」

 

 

 フィールは黒板を見ると、【ショック・ボルト】の詠唱が3節から4節に区切られているのが見えた。クラス全員が分からなかったのは、授業で習うソレとは全く違うものだからだ。教科書通りにやっても教科書を超えられないのと同じ、言わば努力しても一定ライン以上に成長しない授業だったから分からなかったのだろう。

 

 

「簡単だ。【ショック・ボルト】の詠唱が3節から4節になった時、何が起きる?」

「右に曲がります」

「……へぇ」

 

 

 グレンは感心する。

 フィールが鞄を置く前に右手を出し、詠唱を開始する。単純に【ショック・ボルト】の詠唱を3節から4節に変えて魔術を起動する。

 

 

「《雷精よ・紫電の・衝撃以て・撃ち倒せ》」

 

 

 フィールの右手から放たれた【ショック・ボルト】が直線に進み、右に曲がった。その事にあり得ないとばかりにギイブルとウェンディが立ち上がり反論する。

 

 

「馬鹿な!?」

「あり得ませんわ!?」

「まあ欠陥のある【ショック・ボルト】だからね。効率のいい術式から敢えて外した術式を組むとこうなっちゃうんだよ」

「じゃあ次、5節にすると?」

「射程が落ちます。一部を消すと出力が大幅に下がるし。これ実は【ショック・ボルト】のルーン語を理解してれば然程難しくはないんだよ?」

「何だやっぱ主席は伊達じゃねえって事か。まあ極めたって言うなら黒猫くらいにやらないとな」

 

 

 チョークを回しながらも笑みを浮かべるグレン。

 フィールは鞄を持ち、その場で立ち止まったまま、グレンの魔術について聞いていた。

 

 

「魔術ってのは超高度な自己暗示だ。呪文を唱えるときに使うルーン語ってのは自己暗示(ソレ)を最も効率よく行える言語。人の深層意識を変革させ、世界の法則に結果として介入する。お前らは、魔術は『世界の真理を求める物』なんていうけどな、そりゃ間違いだ」

 

 

 そう言い、グレンは自分の胸を叩く。

 

 

「魔術ってのは人の心を突き詰めるもんなんだよ」

 

 

 その言葉に誰もが信じられないといった表情をする。

 魔術は確かに真理を追い求める物、それは確かに間違ってはいない。魔術の原点には真実が宿ると言われている物だから、実際は間違っていないが、魔術師を名乗るならグレンの言葉が正しい。

 

 

「信じられないって顔だな。じゃあ、証拠を見せてやる。…………おい、白猫」

「し、白猫って私のこと!? 私にはシスティーナって名前が––––」

「愛してる。出会った時からお前に惚れていた」

「にゃっ!?」

 

 

 突然のグレンからの告白に、システィは顔を真っ赤にする。

 きょとんとした顔になった黒猫が若干冷たい目で見ているが、グレンは気付かない。

 

 

「はい、ご覧の通り、白猫は顔を真っ赤にしました。見事、言葉が意識に何らかの影響を与えた。制御できる表層意識でもこの様だ。理性のきかない深層意識なんてうおっ! あぶね! おい、教科書投げるな!」

「馬鹿はアンタよ! この馬鹿馬鹿馬鹿!」

「先生、乙女にそれは無いですよ。刺されますよセラ先生に」

「はぁ? なんでセラに?」

「ハァ……」

 

 

 システィはグレンの嘘の告白により恥ずかしくなって、持っていた教科書を投げた。あははとルミアが苦笑いしてフィールはため息をついた。

 

 今更かもしれないが、セラとグレンは付き合っていない。フィールが居た未来では()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 なんらかの形で時間がズレたのか分からない。

 だが、ズレた以上。この世界は時間が居た世界のように()()()()()()()()()()。フィールがいる世界はグレンとセラが生きている()()()()()()()だ。

 

 

「まぁ、とにかくだ。魔術にも文法や公式があるわけだ。深層意識を望む形に変革させるためのな。要は連想ゲームだ。白猫と聞けば、猫を思い浮かべる様に、誰もが連想するように呪文と術式の関係も同じだ。つまり、呪文と術式に関する魔術則……文法と公式の算出方法こそが魔術師にとっては最重要なわけだ」

 

 

 魔術=神聖の文字を消し、魔術=人の心と書き記す。

 魔術理論が理解出来なければ魔術は使()()()()()()()()()()()()()()()()。それが今までやっていた魔術とやらだ。

 

 

「なのに、お前らと来たら、この部分をすっ飛ばし、書き取りだの翻訳だの、覚えることばっか優先しやがって。教科書も『とにかく覚えろ』と言わんばかりの論調だしな。呪文や術式を分かりやすく翻訳して覚えやすくすること、これがお前らの受けてきた『分かりやすい授業』であり、『お勉強』だったってわけだ。……もうね、アホかと」

 

 

 そう言い、グレンは鼻で笑う。

 今までの行動を全否定したが、生徒達は文句の一つも浮かばない。

 

 

「でだ、その問題の魔術文法と魔術公式だが、全部理解しようとしたところで、寿命が足らん。だから、お前らには基礎中の基礎、ド基礎を教える。これを知らなきゃより上位の文法を公式は理解不能だからな。これから俺が説明することが出来れば……そうだな、黒猫。お前なら出来るだろ?」

「ここで私に振るのやめて下さい。まあいいけど……」

 

 

 手のひらを横に向け、詠唱を口にする。

 単純に詠唱文が浮かばなかったので擬音でちょっと可愛げに、

 

 

「《バキュン》」

 

 

 呪文改変による一節詠唱で【ショック・ボルト】を起動させるフィールに生徒達だけではなくグレンも目を丸くした。

 

 

「マジか…………1節の呪文改変で精度を落とすことがねぇなんてな。天才っているもんだな」

「術式さえ理解出来ればこのくらいは出来ますよ。一説じゃなければ……うーん《痺れて・動きを・止めろ》」

 

 

 3節で実践したフィールに全員が再び驚く。

 術式改変とは言えあんな出鱈目な詠唱で起動するのが目の前で見ても信じられない。

 

 

「まあ、こんな感じだ。呪文改変に必要なキーワードさえ覚えればあの程度の改変は俺でも難しくない」

 

 

 自分達に見えてないものがある。それに気付かされた事でここに来て生徒たちのグレン先生を見る目が変わり始めていた。

 グレンはと言うとそれを知ってか知らずか、笑って授業を進める。

 

 

「今のお前たちは単に魔術が使えるだけの魔術使いだ。魔術師を名乗りたければ、自分に何が足らんのか考えろ。じゃ、そのド基礎を今から教えてやるよ。興味ない奴は寝てな」

 

 

 その言葉に少しだけ、フィールが笑っていたような気がした。

 

 

 ────────────────────

 

 

 フィールは昼休み、校舎裏に移動していた。

 ダメ講師グレンの覚醒の噂を聞き付け授業を受ける者はその質の高さに驚愕し、ダメ講師の噂から一転し、人気者となった訳なのだが、グレンに出汁にされた主席としての実力の高さから、授業の間の休憩時間でさえ質問の嵐がフィールに襲い掛かった。

 

 流石に昼休みくらいは静かに過ごしたいと思い、人気のない校舎裏で自作のサンドイッチを口に入れた。

 

 

「あっ、フィールちゃん!」

「……っ、どうもセラ先生……」

 

 

 よりにもよって1番会いたくない人に校舎裏で会ってしまった。今の時間は1人でいたかったのに、よりにもよってここで会ってしまうとは我ながら詰めが甘かった。

 

 

「1人でご飯食べてるの?」

「教室や食堂だと質問の嵐なので……」

「そっかー、隣座るよ?」

「……すみません。1人で食べたいので別の場所に移動します」

 

 

 本音を言ってフィールが立ち上がると、セラは手を掴んで止めた。その事に少し驚きながらセラを見ると笑顔でフィールを誘うように口にする。

 

 

「一緒に食べよっ!」

「……えっと、すみません。1人で」

「駄目……かな……」

「駄目って訳じゃ……わかりました」

 

 

 少し悲しそうな眼に負けて、フィールは大人しく座ってサンドイッチを口に入れた。

 軽く本を読みながらサンドイッチを食べる姿は同学年から見たらクールなお嬢様に見える。月当たりもよく、性格も優しくし、頭もいい。けど何処か抜けているような人柄にセラも興味を持っていた。

 

 

「フィールちゃん、それだけで足りるの?」

「お金を節約してるだけです。その、苦学生なので……」

 

 

 実際はいつも気を張ってるせいか食欲が無いだけだ。

 未来でかなり稼いだお金も無限ではない。あと5年間くらい働かなくてもいいくらいのお金は稼いだが、魔道具や、家の家賃、学費とかで色々何があるか分からないからだ。

 

 

「はい!」

「……セラ先生?」

「これあげる! 女の子なんだから、ちゃんと食べないと大きくなれないよ?」

「いや、受け取れないです……先生のですよね?」

「私はいいの。はい、どうぞ」

「……すみません、いただきます」

 

 

 セラの手作りのサンドイッチを食べる。

 少々スパイスが効いているお肉とシャキシャキのレタスにトマトの酸味がとても美味しさを引き出している。

 

 

「美味しい……」

「えっへへー、ありがとう。実は隠し味にね」

「ヨーグルト……ですよね」

「えっ!? 凄い! 何で分かったの!?」

「それは……」

 

 

 いつも作ってくれていたから、懐かしい味だからだ。

 肉を柔らかくする為にヨーグルトを使って柔らかくする隠し味、あの頃と変わらない。思わず涙が出そうになるが、セラの前で泣かないように水筒の中のお茶を飲んで誤魔化した。

 

 

「……私も、隠し味にヨーグルト使った事ありますから」

「へぇー、フィールちゃんって一人暮らしなのに偉いね。料理も出来て勉強も出来て、学校でも主席だし」

「別に……偉くなんかありません。私は––––」

 

 

 2人を死なせてしまった世界から来た人間なのだから。

 正体も明かせない、何も話す事が出来ない、ただ2人が幸せならどんな事もするし、手が血濡れたって構わない。

 

 

 そんな『愚者』の体現者のような人間なのだから。

 

 

 ────────────────────

 

 

 

 生徒達がすっかりと帰宅した放課後。グレンは一人学院の屋上で、閑散とした風景を見ていた。ふと、ここに非常勤講師としてやって来てからの日々を思い出す。

 何故か妙になついてくる、子犬みたいなルミア。逆に、妙につっかかってくる、生意気な子猫みたいなシスティーナ。そして、顔がチラついて離れない黒い猫のようなフィール。

 

 未だに若く、そして幼い彼女たちは何をやっているのか、どう成長していくのか。少なくとも手助けしてやりたいと思っている自分がいる。

 相変わらず、魔術は嫌いだ。こんなもの早くこの世から無くなるべきだ。この考えもこれから変わらないだろう。

 

 だが、こんなにも穏やかな日々なら──

 

 

「悪くない……か」

 

 

 気がつかないうちにグレンは笑みを浮かべていた。

 

 

「おー、おー、夕日に向かって黄昏れちゃってまぁ、青春しているね」

「……いつからいたんだよ? セリカ」

 

 

 そこには母親のようにグレンをニヤニヤとすまし顔で佇んでいたセリカが居た。まあ実際母親代わりなのだが。

 

 

「さ、いつからだろうな? 先生からデキの悪い生徒に問題だ。当ててみな」

「アホか。魔力の波動もなければ、世界法則の変動もなかった。だったら、忍び足で来たに決まってる」

「おお、正解。あはは、こんな馬鹿馬鹿しいオチが皆、意外とわかんないんだな。特に世の中の神秘は全部魔術で説明できると信じきっちゃってるヤツに限ってね」

 

 

 グレンの即答に、セリカは満足そうに微笑んだ。グレンは少しだけ真面目な表情をする。セリカには今朝、話していた。

 

 

「なあセリカ、フィール=ウォルフォレンの事なんだけど」

「今朝言っていた生徒の事か? 一応言われた通り調べたが、過去に事件や何かに属していたような情報は一切無かったぞ?」

「なのに【ショック・ボルト】や魔術について完璧に理解していたのが、どうにも引っかかるんだよなぁ」

「まあ……優秀な生徒だけど、他人と一線引いている。それについては同意する」

 

 

 セリカも、それに同じ意見だった。

 教授としての接し方ではなく、何処か悲しそうな顔で無理して笑っているように見える。セリカ自身に何がある訳ではなく、人間関係をあまり持たないようにも見えた。

 

 

「まあそうだな。あの子については魔術のセンスと才能が一線を画すからな。階梯で言えば間違いなく第五階梯(クインデ)レベルだ。魔力容量が7500、魔力濃度が250と言った所か」

「マジで!? 一流魔術師でも3000と150くらいなのに。アイツ、マジで天才なんだな……」

 

 

 ただ、とセリカは付け足すように口にする。

 

 

「だが、潜在的魔力容量(キャパシティ)は既にない。言ってしまえば()()()()()()()()()()()()()()()状態だ」

「やっぱ何か引っかかる事だけで終わりかよ」

「だが、悪い奴ではないぞ? それは私が保証する」

「……まっ、一々疑いを持っても面倒なだけか」

 

 

 フィール=ウォルフォレン。

 謎に包まれている存在ではあるが、悪い人間には思えない。何かは隠しているが、それは他人に言えないデリケートな事かもしれない。宮廷魔導師団の【愚者】だった時にいつも他人を疑ってしまっていた為、今では悪い癖だ。

 

 ただ……

 

「(じゃあ何で……あの時アイツは泣いてたんだ?)」

 

 

 その疑問だけがグレンが気になっていた。

 

 

 ────────────────────

 

 

 

「遅い! 遅すぎるわ! 最近真面目にやってると思ったら、すぐこれよ!」

 

 1ヶ月前に退職した前任のヒューイ先生によって授業に遅れがでている2組はこの5日間も授業がある。そして2組以外が休校にも関わらず、教室は満席であり後ろには立っている生徒さえいる。

 

 その理由としてはグレン先生の授業を受けたいためである。だが授業が開始されているにも関わらず、グレン先生どころかセラ先生も来る気配がなく。システィーナは少し怒っていた。

 

 時計を見ながらシスティーナは怒っている。システィーナもグレン先生やセラ先生の授業を聞いて評価を改めているようだ。

 

 

「でも、珍しいよね。ここ最近は遅刻しないように頑張っていたのに……」

「まさか、今日が休校だと勘違いしてるんじゃないでしょうね?」

「あはは……いくらなんでもそれはない……よね?」

 

 

 システィーナを宥めるルミアは断言はできなかったようだ。

 ロクデナシが売りのグレン先生に否定が出来ない様子だ。

 

 

「あいつが来たらガツンと言ってやらないと……」

 

 

 システィーナもなんだかんだ、グレン先生に好意らしきものを抱いてることがバレバレなのであるが本人は自覚していない為にルミアもどう返していいか分からないご様子。フィールは応援しないし、我関せずと羽ペンを動かしていた。

 

 そこから少し経った後教室の扉が開き、システィーナは説教しようと席を立つが入ってきたのはチンピラ風の男とダークコートを着ている男でクラス内の全員が硬直しているのを見て、チンピラ風の男が口を開いた。

 

 

「おーおー皆さん勉強熱心なことで、応援してるぞ若人諸君!」

 

 

 突然、現れた謎の二人組に教室全体がざわめき始めた。

 フィールも謎の2人組に警戒し、袖に魔導具を隠し持った。

 

 

「ちょっと……………………貴方達、一体、何者なんですか?」

 

 

 正義感の強いシスティーナが席に立ち、二人の前まで歩み寄ると臆せず言い放つ。ただこの時ばかりは蛮勇もいい所だ。あの2人からは人殺しの気配がする。

 

 

「ここはアルザーノ帝国魔術学院です。部外者は立ち入り禁止ですよ? そもそもどうやって学院に入ったんですか?」

「おいおい質問は一つずつにしてくれよ? オレ、君達みたいに学がねーんだからさ!」

 

 

 チンピラ風の男がそう答えるとシスティーナは苦い顔で沈黙した。ケラケラと笑いながら愉快に言葉を進めるチンピラ。

 

 

「まず、オレ達の正体ね。テロリストってやつかな? 要は女王陛下サマにケンカ売る怖ーいお兄サン達ってワケ」

「は?」

「で、ココに入った方法。あの弱っちくて可哀想な守衛サンをブッ殺して、あの厄介な結界をブッ壊して、そんざお邪魔させていただいたのさ? どう? オーケイ?」

「ふ、ふざけないで下さい! 真面目に答えて!!」

 

 

 クラス中のどよめきが強くなる。王女陛下に喧嘩を売ると言われた瞬間、ルミアの顔が強張った。狙いは恐らくルミアだ。フィールの中に緊張が走りながらも、自分が奇襲する瞬間を待っていた。

 

 

「あまりにもふざけた態度を取るなら、こちらにも考えがありますよ?」

「え? 何? 何? どんな考え? 教えて教えて?」

「…………っ! 貴方達を気絶させて、警備員に引き渡します! それが嫌なら早くこの学院から出て行って…………」

「きゃー、ボク達、捕まっちゃうの!? いやーん!」

「警告はしましたからね?」

 

 

 魔力を練る。呼吸法と精神集中で、マナ・バイオリズムを制御する。

 そして、指先を男に向け──―黒魔【ショック・ボルト】の呪文を唱えた。

 

 

「《雷精の────」

「《ズドン》」

「っっ! 《霧散せよ》!」

 

 

 その言葉には悪手という単語が脳裏を過り、咄嗟に黒魔【ライトニング・ピアス】を【トライ・バニッシュ】で打ち消した。だが、頬に擦りかけたシスティーナが腰を抜かす。

 

 

「【ライトニング・ピアス】!?」

「全員動かないで!! 相手は本物のテロリスト! だからパニックにならないで動かないようにして!!」

 

 

 怒号にも似た指示が生徒全員の緊張を走らせる。

 システィーナの前に立ち、テロリスト達に手を向ける。奇襲しようとした矢先に、咄嗟とは言え【トライ・バニッシュ】で打ち消してしまった為、奇襲は出来ない。

 

 

「……へぇ、凄え。この速度の詠唱を打ち消すなんて優秀優秀! 君がフィール=ウォルフォレンちゃんだね?」

「テロリスト、貴方達の目的は何……!?」

「簡単だよ。俺達の要求はフィールちゃんとルミアちゃんって子を攫いに来ただけ」

「させる訳––––!」

「動くな」

 

 

 フィールが魔術を使おうとする瞬間、レイクの忠告がフィールの動きを止める。気が付けばいつの間にか詠唱が完了しているレイクの後ろには5本の浮遊する剣が浮かばれていた。フィールは直感的に悟っていた。あの相手の強さは下手したらアルベルトさんを超える強さを持つ事に。

 

 レイクと言う男は魔力容量(キャパシティ)だけならフィールを超える。

 

 

「俺達の目的はフィール=ウォルフォレン、ルミア=ティンジェルの誘拐だ。幾らこの学園の主席である貴女でも、生徒を庇いながらは戦えまい」

「っっ……」

「両手を上げて此方に来て貰おうか」

 

 

 為す術も無くただ指示通りにレイクに近づく。

 手を上げたままのフィールに生徒達を護りながら戦う術は無い。1人ならまだしも2人とも手練れ。切り札を使えば片方は倒せても既に魔術を起動しているレイクには勝てない。

 

 

「がっっ……!?」

「手荒な真似をするつもりは無かったが、ジンの【ライトニング・ピアス】を打ち消せる程の力を持つ以上、貴女には眠っていただく」

「フィール!!」

 

 

 システィーナが叫ぶが既に気が遠い。

 目的はルミアな以上、バッドエンドだったシナリオが始まったのを痛感しながらも、レイクに首筋に強めの手刀を下され、フィールの意識はここで途切れた。

 

 




 感想くれた『エクソダス』さん、『影龍 零』さん、『朝日水琴』さん、『ばさっち』さんありがとうございます。
 
 良かったら感想、評価をよろしくお願いします。

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