バッドエンドの未来から来た二人の娘   作:アステカのキャスター

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1日空きました。
バイト先の送別会で書く時間が無かったのですみません。
さて、いよいよフィールちゃんの本領発揮です!では行こう!!

良かったら感想・評価お願いします!!




第4話

「ここ……は……」

「フィールさん、大丈夫ですか!?」

 

 

 目を覚ますと暗い空間だった。

 首筋に残る痛みと両手両足を縄で縛られた後に【スペル・シール】で魔術起動が出来なくなっている。ルミアに関しては危害を加えられた様子は無い。

 周りを見渡すと転移方陣の設定を弄り、膝をついている男が居た。それは前任者であったヒューイ先生だ。

 

 

「ルミア……私どのくらい寝てた?」

「多分2時間くらい……良かった、フィールさんが無事で!」

 

 

 涙を流しながらも安堵するルミア。

 首筋の痛みから気絶させられてた事を認識し、状況を再認識する。この場所にヒューイ先生がいると言う事は……

 

 

「……貴方がスパイだったんですね」

「はい、残念ながらそうです」

「何を企んで私とルミアを攫おうとしたのかは知りませんが、この中途半端な法陣を見る限り、白魔儀【サクリファイス】──―換魂の儀式。ロクでもないことを考えているのはわかります」

「おや、凄いですね。これだけでそこまで言い当てる生徒がいるとは思いませんでした。教育者として優秀な生徒がてくれて嬉しく思います」

 

 

 換魂の儀式【サクリファイス】は自身を生贄として数十倍の魔力を一時的に引き上げる禁忌の魔術だ。大昔の戦争でそれを多用していた事もあったと言う話だ。更にそれに連動してフィール達の周りには五つの魔方陣で描かれた結界が張られてある。

 

 

「ヒューイ先生この魔方陣を解いてください。仮にも先生ですよね?」

「元、ですよ。フィールさん、今はテロリストをしています」

「『天の智慧研究会』……貴方がそうしたくてしてるんですか?」

「……はい」

「……狡い人、嘘が苦手ですね」

 

 

 フィールは征服の袖から自家製の魔導具のナイフを取り出した。教室で万が一の為に忍ばせておいたのだ。両手を縛られている縄を切り、【スペル・シール】にもナイフを突き刺す。すると【スペル・シール】は初めからなかったかのように消え去っていた。

 

 

「そのナイフ……まさか魔導具を忍ばせていたとは、ですがどうやって【スペル・シール】まで解除したんですか?」

「このナイフは私の魔術特性(パーソナリティ)を起源としてナイフに付与出来るものです。簡易的な魔術なら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()魔導具ですよ」

 

 

 ただし簡易的な魔術限定だ。4節以上の魔術による結界や、方陣にはこれは通用しない。『イヴ・カイズルの玉薬』の効果を薄めただけの劣化魔導具に過ぎないが……それでも縄や簡易的な魔術を破るには充分だ。

 やる事は既に決まっている。この結界を破壊する。

 

 

「ルミア。全力で防御魔術展開しといて。この魔方陣を破壊する」

「それはさすがに無理ですよ。その魔方陣はいわば結界だ。物理的に破壊するとしても神殺しの術式を用いないことには話になりません」

「そう、普通じゃ無理。だから使うのは……」

 

 

 

 幸い、結界にはヒューイ先生も入る事が出来ない。その為、今からやる魔術は邪魔されない。下手に詠唱を省略しなくていい。フィールは詠唱を開始する。

 

 

「《──―我は神を斬獲せし者・我は始原の祖と終を知る者・其は摂理の円環へと帰還せよ》」

「その魔術は……!?」

 

 

 個人で使う魔術でも最高峰の力を誇り、詠唱出来るだけでも驚愕とされている。対象を問答無用で根源素(オリジン)に分解消滅させる究極の攻性呪文(アサルトスペル)。200年前の魔導大戦でセリカ=アルフォネアが生み出した神殺しの術式。

 

 

「《五素より成りし物は五素に・象と理を紡ぐ縁は解離すべし・いざ森羅の万象は須らく此処に散滅せよ・遥かな虚無の果てに》」

「それはアルフォネア教授しか使えない筈!?」

「────吹き飛べ有象無象!!」

 

 

 この世で使えるのはフィールを除いて2()()()()だ。詠唱が終わり、右手を抑えながらその魔術は完成した。

 

 

「黒魔改【イクスティンクション・レイ】!」

 

 

 膨大なマナをかっ喰らいながら赤黒い魔術式を作り出したフィールはその魔術を行使した。その威力はすさまじく、一瞬で自分の視界が真っ白に変わる。転移塔の分厚い壁は崩れ去り、結界は跡形もなく消滅している。

 

 

「す、凄い……こんな魔術を使えるなんて」

「ハァ……ハァ……とは言え魔力半分は持ってかれるから燃費が悪いけどね……」

「……僕の負けですか。」

「……ええ、残念ながら」

 

 

 フィールがヒューイの元へと近づく。

 右手にナイフを持ちながら、ゆっくりと近づく。ルミアが止めようとするが、フィールは止まらない。

 

 

「……なんで私を攫おうとしたのか、聞いていいですか?」

「『天の智慧研究会』からは、貴女は『時渡り』に成功した存在だと聞かされているからです」

 

 

 フィールの眉が上がった。

 何処でそれがバレている。この世界に来てから誰にも話していない筈だ。どうしてそれを知っているのか知りたかったが、この人は恐らく何も知らないのだろう。

 

 

「私は……何を間違えてしまったのですかね?」

「……組織を抜け出せなかった事は同情します。宮廷魔導師も、戦う者も学ぶ者も全て未来の為に戦うんだ。貴方はそれをしなかった。だから覚悟してください」

「……好きにしてください。私は生徒のために組織を裏切ることをできなかった。ですが、この結末には満足しています。結果として学院の生徒達は無事だった。フィールさんとルミアさんにも酷いことしましたね。すいませんでした」

 

 

 何だ。やっぱり優しい先生じゃないか。

『天の智慧研究会』なんか辞めて、先生としていればどれだけ幸せな世界があったのか。だがそれはもう遅い。手遅れな所まで来てしまった。

 

 

「『テメェの不始末くらいテメェでカタつけろ』って、多分先生ならそう言ってた筈ですよ。だから、歯を食い縛ってください」

 

 

 ナイフを持つ右手ではなく、何も持たない左手でヒューイ先生を殴り飛ばした。魔術も使わない拳で殴り飛ばしたとは言え、脳が揺れて動く事は出来ないようだ。

 

 

「ハァ……ハァ……っっ……!!」

「フィールさん!?」

 

 

 フィールの口から血が吐き出される。

 この世界に来てからフィールは強力な魔術行使が出来ない。いや、使えはするが身体にダメージが負荷される。『時渡り』の代償と言うべきか、()()()寿()()を代価にしたが、身体に関する回路(パス)がこの世界に来てからやはりボロボロになっている。そんな状態で強力な魔術を使用すれば当然こうなる。

 

 

「早く治療を……!」

「いや言ってる場合じゃない。こんな派手な魔術をこんな場所で使ったら、敵の援軍が……」

「【イクスティンクション・レイ】、200年前の魔導大戦でセリカ=アルフォネアが生み出した神殺しの術式を再現する事が出来るだなんて」

 

 

 階段から上がってきたのは仮面を被った髪の長い女性。だが声色からフィールはレイク以上の警戒をする。顔が見えない中で気持ちが悪いと思ったのは未来の世界以来だ。

 

 

「ますます興味が湧きますわ! フィール=ウォルフォレン」

「っっ……《雷槍よ》!」

「《霧散せよ》」

 

 

 初手の【ライトニング・ピアス】を打ち消した。

 実力は恐らくレイクと同等、もしくはそれ以上だ。そしてこの狭い空間で戦うのは不利。

 

 

「ルミア、掴まって!」

「は、はい!」

「《吠えよ炎獅子》!!」

 

 

 黒魔【ブレイズ・バースト】を二反響唱(ダブルキャスト)しながら放つフィール。まさか二反響唱(ダブルキャスト)をしながら使うとは思わなかった仮面の女は光の障壁【フォース・シールド】でそれを防ぐ。

 

 

「まさか二反響唱(ダブルキャスト)まで、興味が湧いて尽きませんわ!」

 

 

 爆炎が消えると2人はいない。

 ブチ破った壁から逃げたのだろう。風を纏い、連続起動する事で使える行動技術【疾風脚(シュトロム)】をルミアを抱えたまま使いこなしている。

 

 昂る興奮の中、仮面の女は同じように【疾風脚(シュトロム)】でフィール達を追いかけた。

 

 

 ────────────────────

 

 

 ルミアを抱えたまま【疾風脚(シュトロム)】で転移塔から逃げるフィール。幸いな事に、自動防衛のゴーレムは停止していて敵の気配もない。黒魔改【ストーム・グラスパー】で風を掌握して感知しているが、大した戦闘は行われていない。

 

 

「《出でよ赤き獣の王よ》!」

「……っ! 《光の障壁よ》!」

 

 

 追ってきた仮面の女が【ブレイズ・バースト】を放つが、フィールは【フォース・シールド】で防いでいた。フィールは追ってきた敵に罠魔術【フレア・クリフ】で炎の罠を仕掛けるが、躱された。

 

 

「……やっぱり追ってきたか」

「ええ、逃すつもりはありませんよ?」

「ルミア、下がって!」

「う、うん!」

 

 

 仮面の女の膂力もそうだが、【疾風脚(シュトロム)】を使って追ってきた。間違いなく手練れだが、今のフィールには分が悪い。先程結界をブチ破る為に使用した【イクスティンクション・レイ】で魔力は半分以下、最大の切り札の力は奥の手中の奥の手。外道魔術師に見せびらかせば、今後が危険だ。

 

 

「《極滅の雷神よ・世界を駆けろ・彼方の果てへ》!」

 

 

 軍用魔術B級の攻性呪文(アサルトスペル)【プラズマ・カノン】を放つが、仮面の女はそれを避けながら右手をこちらに向ける。あの速度の魔術を避けるとかどんな怪物だと内心舌打ちしながら、次の一手を考える。

 

 

「《走れ凍てつく氷狼よ》!」

「《紅蓮の炎壁よ》!」

 

 

 黒魔【アイス・ブリザード】を唱える仮面の女に対して、フィールは【ファイア・ウォール】でそれを防ぐ。氷と炎の空気膨張により、辺りが煙に包まれる。フィールの纏っている【疾風脚(シュトロム)】で煙を吹き飛ばす。

 

 

「(魔力殆ど残ってないってのに……! あと使える大技は2回くらい、それまでに決着をつけないと……!)」

「《おいでませ》ー《嗚呼・おいでませ》ー《おいでませ》」

 

 

 その瞬間、仮面の女が呪文を唱え始める。

 フィールの魔力は半分以下から【疾風脚(シュトロム)】を連続起動させながら【プラズマ・カノン】などの燃費が悪い魔術だ。長期戦で此方に得はない。圧倒的に不利だ。

 

 

「《夜霊の呼び声に・応じませ》ー《応じませ》ー《応えませ》」

 

 

 虚空に開かれる門。溢れ出る瘴気。門より現れる無数の人影達。むせ返るほどの死臭。フィールの周囲に、新手の使者達が凄まじい勢いで次々と召喚されていく。ルミアは思わず気持ち悪さで吐きそうだ。

 

 

「コレまさか……冥界(ゲヘナ)関連の魔術!? 貴女、まさか死霊魔術師(ネクロマンサー)か!?」

「《彼の血が肉が・汝等慰みたもう・潤したもう》ー《いざ・いざ・召され》!」

 

 

 その詠唱に応じて、四方八方からの腐肉の敵が津波のようにフィールに襲いかかる。その敵達をフィールは冷静に見つめながら、呪文を唱える。魔術はあと二回が打ち止め、故に速攻で決める。

 

 

「《風の巨人よ・我を大地に・その足を踏みしめろ》!」

「っ……!! 即興改変しましたか!」

 

 

 フィールの改変魔術。黒魔改【ストーム・スタンプ】が腐肉の壁を風の断層で吹き飛ばし、仮面の女の体制が僅かに揺れる。その瞬間をフィールは見逃さない。

 

 

「《赤き暴龍よ・太陽の如き・己が大地を焦土と化せ》!」

 

 

 軍用魔術B級の【ソル・リーネア】が周囲の敵全てを焼き払う。熱量は【ブレイズ・バースト】の倍はある中で、仮面の女が取る手段をフィールは読んでいた。

 

 炎の嵐を突っ切って最後の魔力で【疾風脚(シュトロム)】を最大にして仮面の女に向かって踏み込んだ。

 

 

「なっ……!」

「流石にあの熱量、退避するのは読める!!」

「くっ……《出でよ赤き獣の––––!》」

「遅い!!」

 

 

 仮面の女が唱えようとした筈の魔術が起動出来ない。

 フィールが隠し持っていた切り札の一つ。左手には『()()()()()()()』が握られていた。

 

 グレンの固有魔術(オリジナル)である【愚者の世界】は自分の魔術特性(パーソナリティ)の『変化の停滞、停止』を一定効果領域内に使う事で魔術を封殺する事が出来る。

 

 だが、フィールの魔術特性(パーソナリティ)は『万象の逆転、逆流』である為、本来なら『愚者の世界』は使えない。だが、フィールは一定効果領域内に自分の魔術特性(パーソナリティ)である『万象の逆転、逆流』を使う事でそれを補っている。

 

 時間と言うものは必ずしも前へ進むものだ。進む力は一定で世界は歪みを許さない以上、例外を除いてそれは絶対の法則だ。

 フィールはその時間の流れを一部だけ掌握し、同等の力を逆流させる事で、()()()()()()()()()()()()()()調()()し、その空間に『停滞、停止』の起源を生み出す事が可能なのだ。

 

 

「ああああああぁぁ!!」

 

 

 魔術が使えない仮面の女に防ぐ術は無い。

 フィールは右手のナイフを【疾風脚(シュトロム)】の加速を乗せて加速の女の心臓部に突き刺した。

 

 血が流れ、生々しい感覚に顔が歪む。 

 この世界に来てから殺しなど、久しぶりだと言うのに……

 

 

 

「魔術の封殺まで、何から何まで興味が湧いて仕方ありませんわ、フィール=ウォルフォレン様!!」

「っっ!? 嘘でしょ……!?」

 

 

 急所は外してないのに仮面の女は平気な顔をして立っている。咄嗟にナイフから手を離し、距離を取るフィール。だが今ので魔力は使い切り顔色が悪い。マナ欠乏症に陥っている。これ以上魔術は使えない。

 

 まだ切り札はあるが()()()()()()()()()()使()()魔術だ。それに今使った後の反動が酷い為、マナ欠乏症の状態のフィールが使えば確実に死ぬ。

 

 

「くっ……不死身……いや、異能力……による再生!?」

「さあ、さあ! 私をもっと楽しませてくださいませ!!」

「《––––吠え狂え》!」

 

 

 仮面の女の横から【ブレイズ・バースト】が放たれた。

 仮面の女は油断していたのか、それを防げずに身体が焼き焦げる。だが、身体は焦げても再び再生する。

 

 

「おや、レイク様は失敗したようですか」

「っっ……! グレン先生、セラ先生!?」

 

 

 セラの黒魔改【スウィフト・ストリーム】で【ラピッド・ストリーム】を他者にかけ、擬似的に【疾風脚(シュトロム)】を使える事で、グレン達は転移塔から離れていた2人に追いついた。

 

 

「よく耐えたな黒猫。お前が何でアレだけ戦えるのかは後で聞く」

「今は私達に任せて」

「っっ……」

 

 

 涙が出そうになる。けど、それは後だ。

 咄嗟に『愚者のアルカナ』をポケットに仕舞い、それでも戦闘体制を崩さない。仮面の女がつけている仮面が半壊している。その見えた眼は実験動物を見る様なおぞましい眼だ。

 

 

「元とは言え帝国宮廷魔導師団の《愚者》と《女帝》ですか。些か分が悪い様なので退かせていただきます」

「逃すか!!」

「《爆》!!」

 

 

 黒魔【クイック・イグニッション】で最速の爆破がグレン達の前に襲うが、砂埃を払い敵を見るとそこには仮面の女は居なかった。

 

 

「……逃げられたか」

「そうみたいだね、でもテロリストは制圧したし、今は2人と、生徒達の方が先だね」

 

 

 フィールはマナ欠乏症、ルミアは精神的疲労で疲れ果てていた。この世界に来てから未来の敵となんの遜色も無い強さを誇る敵と戦ったのだ。フィールはまだ15歳、本来ならまだ闇を見るのは早過ぎる年齢だ。

 

 

「2人とも怪我は無い?」

「私は大丈夫です。フィールさんは……」

「マナ欠乏症だな? ったく、世話の焼ける奴だな」

「ちょっ! グレン君! フィールちゃん達が必死に耐えてたのにその言い方!!」

「わ、悪かったって!」

 

 

 フィールは顔色が少し悪い中、2人の様子を見る。グレンに関しては全身に少し浅い切り傷、セラに関しては少し腕に切り傷があるが【ライフ・アップ】で回復しているのだろう。

 

 

「……セラ先生達は……大丈夫ですか?」

「俺はまあ少し傷を負ったが、白猫とセラに助けてもらったよ」

「私は大丈夫。生徒達も無事だよ」

「……良かった」

 

 

 両方の意味で安堵した瞬間、自分の視界が遠のいていく。

 この世界に来てからの初めての戦闘がまさか不死身の相手と誰が予想出来ただろうか。三人が声を掛けているようだがもう聞こえない。精神的疲労とマナ欠乏症による身体への負担でフィールの意識は再び途絶えた。

 

 

 ────────────────────

 

 

『お前はセラの才能を受け継いだんだな』

『お母さんの?』

『ああ、セラはな。風の魔術が上手いんだ。制御だけなら私以上にな』

『ホント!? セリカ叔母よりも!?』

『ああ。フィールの髪はグレンと同じ黒髪なのに、母親似でセラにも似ている。ただ、そうやって目を輝かせてるのはグレンそっくりだ』

 

 

 フィールが居た未来の数少ない大切な思い出。幼い頃にグレンを拾って母親の様にグレンを愛した彼女は、若かった頃のグレンの様にフィールの頭を優しく撫でる。

 

 

『お前の夢は何なんだ?』

『んー、正義の魔法使い! って前までは考えてた』

『前までは? どう言う事だ?』

『だって正義の味方ならみんな平等に守らなきゃいけないじゃん! 私はお母さんを守るんだもん!』

『……フッ、アハハハハハ!!』

 

 えっへん! と胸を張るフィールにセリカは思わず爆笑する。そう言う所が可愛いのだとばかり思い、頰をムニムニと弄りながら抱きしめる。爆笑されたフィールは頰を餅のように膨らませ、そっぽを向く。

 

 

 

『むー、何がおかしかったの?』

『いやいや、良い夢だな。お前の夢は』

『セリカ同じさんはどんな夢なの?』

『私はな–––––』

 

 

 知りたいんだよ、自分が何者なのか。と小声で言った。フィールは首を傾げてセリカの頰を触る。優しく、まるで子供が悪戯するかの様に。それがセリカにはグレンの面影を少しだけ感じさせていた。

 

 

『セリカ叔母さんはセリカ叔母さんでしょ?』

『……そうだな』

『なら約束! セリカ叔母がどこの誰であっても!』

 

 

 無邪気な笑顔でフィールは約束の言葉をセリカに伝えた。『永遠者(イモータル)』であるセリカに約束など誰かが見たら鼻で笑うだろう。

 

 

『私の前ではセリカ叔母さんでいる事!!』

 

 

 フィールにとってセリカが誰であろうと関係ない。セリカはお父さんの母親なのだから、フィールにとって永遠にセリカ伯母さんなのだろう。その言葉を聞いたセリカが笑った。

 

 

『……そうだな、私はお前のセリカ叔母さんだ。約束するよフィール』

『うん! セリカ叔母さん大好き!!』

『ハハハ! 私も––––お前が大好きだよ。フィール』

 

 

 それが最後に交わした2人の会話だった。そして約束をした一週間後、セリカ叔母さんは『タウムの天文神殿』で行方不明になったとフィールの耳に聞かされていた。

 

 

 ────────────────────

 

 

「…………ここは……」

「保健室だよフィールちゃん」

「セラ……先……っっ!?」

 

 

 セラが持っていたロケットを瞬間的に奪い取る。よく見ると自分の胸の辺りにロケットが無い。中身が見られないように隠していたのに。身体に怪我がないか調べていたのだろう。上半身のシャツのボタンが取れている。

 

 

「中身……見たんですか?」

「う、ううん。見てないよ。ごめんね、大事な物だった?」

「……命の次くらいに大事な物です」

 

 

 ロケットの中には二枚の写真がある。

 1枚目は2人の結婚の時に撮られたお父さんとお母さんの写真、2枚目は私とセリカ叔母さんとお母さんの写真だ。この世界では絶対に手放せない物で、でも見られるわけにはいかない物だ。

 

 

「……マナ欠乏症で倒れたんですね」

「うん。もう少し寝てようね? アレだけ激しい戦闘があったんだから」

「……グレン先生は?」

「とりあえず上からの指示で学園長室に居るよ」

「……ねぇ、セラ先生」

 

 

 フィールは目を瞑りながらセラに質問する。

 単純にこの世界でセラに自分から話しかけるのは初めてかもしれない。

 

 

「セラ先生はグレン先生の事、どう思ってるんですか?」

「ふぇ!?」

「……相棒、と言うにはセラ先生はちょっと違いますよね」

「か、顔に出てた?」

「バッチリ出てますよ」

 

 

 この世界でフィールは生まれない。

 けれど、セラが生きている以上、グレンの事をどう想っているのか知りたかった。自分が生まれない時点で並行世界のセラにこんな質問しても意味などないのに。

 

 

「……グレン君はダメダメな人で、ロクデナシで、馬鹿な人なんだけど、それでも夢を諦めずに前に進む所が私は好き……かも……」

「あっ、グレン先生」

「ひょわ!?」

「……冗談ですよ」

「もおおおおぉぉ! フィールちゃん!!」

 

 

 クスクスと笑いながらセラを揶揄うフィール。

 例え並行世界のセラであっても、フィールには変わらず優しいお母さんだった頃と変わらない。そんな人だった。

 

 

「……失礼するぞ」

「あっ、セリカさん!」

「セリ……アルフォネア教授」

 

 

 保健室のドアをノックして入ってきたのはセリカだった。腕を組みながらフィールの様子を見つ少し安堵する。どうやら用事があるのはフィールのようだ。

 

 

「セラ、済まないが席を外して貰えるか。この子と2人きりで話がしたい」

「それは構いませんけど……グレン君は?」

「アイツなら教室にいる。お前も行ってやれ」

「はーい」

 

 

 セラは子供のような返事を返し、グレンの居る教室へと早足で向かって行った。セリカは指を鳴らすと保健室に防音の結界を張った。万が一の盗聴を防ぐ為だが、詠唱無しに出来るとは流石の一言に尽きる。

 

 

「さて、フィール=ウォルフォレンだったか?」

「……はい」

「お前の狙われる理由をヒューイが吐いた。お前は『時渡り』に成功したんだな?」

「……っ……その事をグレン先生達は?」

「話していない。単刀直入に聞こう。お前は何者だ?」

 

 

 セリカが真剣な表情で聞いてきた。

 誤魔化しきれない。この人は人類最高峰の階梯である第七階梯(セプテンバ)の魔術師だ。フィールは観念したかのように、少し悲しい顔で制服を手に取り、ポケットに入れたままの物を取り出す。

 

 フィールが出したのは『愚者のアルカナ』だ。この魔導機は生涯でグレンが一枚しか作成していなかった専用の魔導機だ。

 

 

「なっ、それは……!」

「これは私のお父さんの形見だと言われて、お母さんに渡された物です」

「なっ……それはグレンしか持っていない専用の魔導機だ! それを何故お前が!?」

「『時渡り』……と言えばもう分かりますか? 分からないなら、これを見てください」

 

 

 フィールはロケットをセリカに渡す。

 セリカはそのロケットを開くとそこには2つの写真が入れられていた。その事にセリカは酷く驚愕する。真実を知ってしまったのだ。その形見が誰のものであるのか。

 

 

「じゃあお前は……まさか……!」

「私は並行世界の10年後の未来から来ました」

 

 

『愚者のアルカナ』『時渡り』そしてフィール自身の容姿からセリカはフィールが何者なのか悟った。フィールは悲しい顔でセリカに本当の事を告げる。

 

 

「私の本当の名前はフィール=レーダス。グレン先生とセラ先生の2人の子供です」

 

 

 セリカは目を見開いて驚愕した。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 アルザーノ帝国魔術学院で起きたテロ事件は無事に解決した。

 関わった組織の事もあり、社会的不安に対する影響も考慮して内密に処理され、破壊された教室も魔術実験の爆発ということで公式に発表された。

 そして今回の事件の後、政府上層部は事件の要因となったルミアの素性をグレン、システィーナ、フィールに打ち明かした。

 

 

「(しかし…ルミアがあの三年前病死したと言われていたエルミアナ王女だったとはな…)」

 

 

 ルミアは三年前に病死したエルミアナ王女。

 異能者であるルミアは政治的事情によって帝国王室から放逐され、三人は事情を知る側としてルミアの秘密を守る為に協力することを要請された。

 

 

「(はぁ…この学院色々抱えてる奴ら多すぎるでしょうに…)」

 

 

 ルミアだけではなく、フィールも何か隠している。それにセラが言うには神殺しの黒魔改【イクスティンクション・レイ】まで使用したのだ。明らかに学生のレベルでは無い。だが、帝国宮廷魔導師団にフィールと言う名前の人間は存在していない。

 

 

「……まあセリカが聞きにいってんだ。問題ねぇか」

 

 

 グレンは学院東館の屋上にいた。鉄柵にもたれ掛かりながら呟いていた。そう言えば、あの時三色のお団子をくれて、魔術について少しだけ語ったのはあの時だけだった。

 

 

「悪い奴じゃない……か」

 

 

 それだけはグレンの中で他の人と共通するフィールの印象だった。

 

 

 

 




 フィールの【愚者の世界】

・フィールの魔術特性(パーソナリティ)は『万象の逆転、逆流』である為、本来なら『愚者の世界』は使えない。グレンのように『変化の停滞、停止』を一定効果領域内に張り巡らせる事は出来ない。

 フィールは一定効果領域内に自分の魔術特性(パーソナリティ)である『万象の逆転、逆流』で時が進む流れを一部だけ掌握し、一部の流れを逆流させる事で進む力に対して進む力の逆流をぶつける事でその場に停滞を促している。

 簡単に言うならグレンの【愚者の世界】は0を生み出す物だとするならば、フィールは+1ずつ進む世界に–1をぶつける事によって0の数字を生み出すと言う事。ただこれは緻密な計算と魔力制御がないと使えないし、停滞は世界を歪める原因になる為、長く使えない。フィールにとって使い勝手がいいと言うものでは無い。

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