ハイスクールDxD 〜うたわれるもの〜   作:フォートナー

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原作一巻相当のお話です

……相当のはずです

どうしてこうなった


Life . 12 神父です!アーシアです!禁手(バランス・ブレイカー)です!?

 

アーシアと出会ってから数日が経った

 

あの日教会まで送ったあと、リアス先輩には教会に複数の堕天使がいることとアーシアのことを話しておいた

 

少し前には天野夕麻と名乗っていた堕天使に一誠が襲われている

 

だから一応警戒はしておいた方がいいだろうという話にはなったのだが、だからといって教会に乗り込むわけにもいかない

 

相手が何かしている証拠があるわけでもないし、そもそも悪魔であるリアス先輩達が教会に乗り込んだら、それだけで面倒なことになりかねないからな

 

まぁ俺と一誠は人間なんだけど

 

そんなこともあってしばらく様子を見ることになったのだが、その数日後、今度は別の問題が起きた

 

「最近、私達と契約している人間が何人か殺されているの」

 

放課後のオカルト研究部でリアス先輩がそう切り出した

 

「契約者が?」

 

「うん、連絡が取れなくなって、僕達が確認に向かった時にはもう殺されていたんだ、それが何件か続いてるんだ」

 

木場が補足してくれる

 

悪魔は人間と契約して願いを叶え、その代わりに対価を受け取る

 

リアス先輩達も普段からそうやって契約を取っているわけだが、その契約者が何人も殺されているとなれば流石に偶然とは考えにくい

 

「犯人は分かってるんですか?」

 

一誠の質問にリアス先輩は首を横に振った

 

「まだ分からないわ、ただ殺されているのは私達と契約している人間ばかりよ」

 

「悪魔じゃなくて契約者を狙ってるってことか……」

 

「その可能性もあるわね」

 

なるほどな

 

はぐれ悪魔なら何度も相手にしてきたが、今回みたいな事件は今までなかった

 

それにこの時期に契約者殺しとなると俺には一人心当たりがある

 

フリード・セルゼン

 

原作でも悪魔と契約していた人間を殺して回っていたはぐれエクソシストだ

 

……いや待て

 

もうあいつ動いてるのか?

 

原作が始まった以上いつ出てきてもおかしくはないんだけど、こっちは一誠が死んでないせいで既に原作と状況が違うんだよな

 

「ハク、どうした?」

 

「ん? いや、なんでもない」

 

危ない危ない

 

また原作知識だけで決めつけるところだった

 

前にも考えたばかりじゃないか

 

フリードだと決まったわけじゃないし、今は現実に起きてる事件を追った方がいい

 

「それで相談なのだけど、ハクとイッセーにも調査を手伝ってもらいたいの」

 

「俺達もですか?」

 

「えぇ、二人とも戦闘経験があるのは知っているでしょう? 犯人が契約者を狙っているなら、今後契約に向かった先で遭遇する可能性もあるわ」

 

「分かりました、俺も手伝います」

 

「俺もいいですよ」

 

こうして俺と一誠も契約者殺しについて調べることになった

 

それから何日か俺達も契約者の所を回ったり、リアス先輩達から聞いた情報を確認したりしていたのだが、犯人に繋がりそうな手掛かりは中々見つからなかった

 

そしてその日も放課後に何ヶ所か回っていたところ、リアス先輩から一人の契約者と連絡が取れなくなったと連絡が入った

 

「ここか?」

 

「あぁ、住所は合ってる」

 

俺と一誠は教えられた住所まで来ていた

 

目の前にあるのは特に変わったところもない普通の一軒家だ

 

インターホンを鳴らしてみるが返事はない

 

「……ハク」

 

「あぁ」

 

家の中から人の気配がする

 

ただ普通じゃない

 

それに僅かだが血の臭いもする

 

「入るぞ」

 

「おう」

 

警戒しながら中に入り、人の気配がする方へ進んでいく

 

そしてリビングに入った俺達が見たのは――

 

血まみれで倒れている男と、その近くに立っている神父だった

 

「おやおやぁ? 悪魔ちゃんが来ると思ってたんですけどねぇ、まさか人間ちゃんが二人も来るとは思いませんでしたよぉ」

 

白い髪に神父服、そしてこのふざけた喋り方

 

やっぱりお前かよ!

 

フリード・セルゼン!

 

「お前がやったのか?」

 

一誠が倒れている男を見ながら聞く

 

「えぇえぇ、そうですよぉ? 悪魔なんぞと契約しちゃってる悪い人間ちゃんだったのでぇ、神に代わってこのフリード・セルゼンが粛清してあげたってわけですよ!」

 

やっぱり契約者殺しの犯人はこいつか

 

「ふざけんなよ、悪魔と契約しただけで殺したのか?」

 

「だけ? だけって言いましたぁ? 悪魔と契約するようなクソ人間ですよぉ? 死んでもらって当然でしょうが!」

 

一誠の顔が険しくなる

 

こいつには一番通じない考え方だな

 

少し前、一誠は自分を殺そうとした堕天使を相手にして、それでも種族だけで敵味方を決めるのは違うと言った

 

そんな一誠からすれば、悪魔と関わったというだけで人間を殺すなんて考え方は理解出来ないだろう

 

「悪魔だからとか神父だからとか知るかよ」

 

一誠が倒れている男を見る

 

「この人を殺したのはお前だろ」

 

「で?」

 

フリードが笑う

 

「悪魔と契約してたんですよぉ? 殺されて当然でしょうが!」

 

「だからそれがふざけんなって言ってんだよ!」

 

「おぉ怖い怖い、それでそっちのお兄さん達は何者なんです? 悪魔ちゃんと一緒に動いてるくせに人間みたいですけど」

 

「少なくとも今は人間だ」

 

「俺もだぞ」

 

「……なんで?」

 

こっちが聞きたいわ

 

「まぁいいや! 悪魔ちゃんのお仲間ならまとめて殺しちゃえば問題なし!」

 

フリードが懐から銃を抜いた瞬間、俺と一誠は左右に分かれた

 

直後に光の弾がさっきまで俺達がいた場所を通り抜ける

 

「いきなり撃つなよ!」

 

「殺すつもりなんだから当たり前でしょうがぁ!」

 

こいつ本当に話が通じねぇな!

 

一誠が左から距離を詰めるとフリードは銃口を向ける

 

しかし撃たれるより先に一誠が腕を弾き上げ、そのまま腹へ拳を叩き込んだ

 

「ぐっ!?」

 

吹き飛ばされたフリードが壁にぶつかる

 

「いってぇなぁ! なんなんですかお兄さん! 人間の動きじゃないでしょうが!」

 

「ハクに何年鍛えられたと思ってんだ!」

 

「俺のせいにするな!」

 

いやまぁ俺のせいなんだけど!

 

フリードが立ち上がり、今度は懐から一つの柄を取り出す

 

「じゃあこいつならどうですかねぇ!」

 

柄から光の刃が伸びた

 

エクソシスト用の光の剣か

 

一誠の左腕に赤い籠手が現れる

 

『Boost!』

 

「赤い籠手……って、お前赤龍帝(せきりゅうてい)!?」

 

流石に知ってるか

 

「だったらなんだよ!」

 

一誠が再び踏み込む

 

フリードも光の剣を振るうが、一誠はそれを避けて懐に入る

 

そのまま拳を叩き込もうとした時だった

 

「いやぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「「っ!?」」

 

女の子の悲鳴が家の中に響いた

 

この声

 

「アーシア!?」

 

一誠が真っ先に反応する

 

なんでアーシアがここにいる!?

 

声がした方を見ると、そこには見覚えのある金髪のシスターが立っていた

 

「一誠さん!? ハクさん!?」

 

アーシアも俺達を見て驚いている

 

その視線が床に倒れている男へ戻ると顔を青くした

 

「そ、そんな……どうして……」

 

「おんやぁ? 助手のアーシアちゃんじゃないですかぁ、結界はもう張り終わったんです?」

 

助手?

 

そうか

 

そうだった!

 

原作でもアーシアは事情を知らされないまま、こいつらと一緒に行動させられていた

 

「アーシア、こいつの仲間なのか?」

 

一誠が聞くとアーシアは慌てて首を横に振る

 

「ち、違います! 私は怪我をしている人がいるかもしれないからと言われて、それで……」

 

やっぱりアーシアは何も知らなかったみたいだな

 

「フリード神父……どうしてこんなことを……」

 

「どうしてって、悪魔に魅入られたダメ人間だからですよぉ? こんなの殺して当然でしょう?」

 

「そんな……」

 

「それよりアーシアちゃん、そこのお兄さん達と知り合いなんです?」

 

「はい……以前、道に迷っていた私を助けてくれて……」

 

「へぇぇ、悪魔のお仲間とシスターちゃんがお友達ですかぁ! 面白いですねぇ!」

 

「俺達は人間だって言ってるだろ」

 

「悪魔とつるんでる時点で似たようなもんでしょうが!」

 

フリードが光の剣を振るう

 

一誠が受け流し、そのままフリードを殴ろうとする

 

だが

 

「やめてください!」

 

アーシアが二人の間へ飛び込もうとした

 

「アーシア!?」

 

「危ない!」

 

俺がアーシアを引き寄せた直後、フリードの光の剣が目の前を通り過ぎる

 

「何してんですかアーシアちゃぁん!」

 

「こんなの間違ってます! 悪魔と関わったからって人を殺していいはずありません!」

 

「はぁ!?」

 

フリードの顔が歪む

 

「悪魔は敵でしょうが! そんな当たり前のことも分からないんですかぁ!?」

 

「でも……だからって……」

 

アーシアが震えながらもフリードを見る

 

それを見た一誠がアーシアの前に立った

 

「もういい」

 

「一誠さん?」

 

「こいつに何言っても無駄だ」

 

「おやおや、カッコつけちゃってぇ!」

 

フリードが笑いながら銃を向ける

 

その瞬間だった

 

『Boost!』

 

赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)から今までより強い力が溢れた

 

「一誠?」

 

俺も思わず見る

 

いつもと違う

 

赤い力が左腕だけじゃなく肩の辺りまで一瞬広がり、何か形を作ろうとして消えた

 

『……相棒』

 

「ドライグ?」

 

『今の感覚を覚えておけ、もう少しだ』

 

「何がだ?」

 

『その時になれば分かる』

 

……おい

 

まさか

 

いや、まだだ

 

まだ禁手(バランス・ブレイカー)にはなってない

 

でもこいつ、もうそこまで来てるのか?

 

「なんなんですかねぇ! さっきから気持ち悪いんですよその籠手!」

 

フリードが光の弾を連射する

 

一誠はアーシアを庇いながら避ける

 

俺も前へ出ようとしたが、その時外から複数の気配が近づいてきた

 

「ハク!」

 

「分かってる!」

 

リアス先輩達だ

 

フリードも気付いたらしい

 

一瞬だけ窓へ視線を向ける

 

「ちっ、増援ですかぁ……だったら!」

 

フリードが懐から何かを床へ叩きつけた

 

「っ!」

 

強烈な光がリビングを埋め尽くす

 

同時に破裂音が響き、床や壁の破片が飛び散った

 

「アーシア!」

 

俺は咄嗟にアーシアを庇う

 

「ハク!」

 

「俺はいい! フリードを!」

 

一誠が追おうとする

 

だがその進路へフリードが光の弾をばら撒いた

 

「くそっ!」

 

一誠が弾いた僅かな隙に、フリードは窓を突き破って外へ飛び出した

 

俺も追おうと思えば追えた

 

だが腕の中にはアーシアがいる

 

それに外から近づいてきているのはリアス先輩達だ

 

ここで俺まで飛び出してアーシアを放り出す訳にもいかない

 

「逃げ足だけは速ぇなあいつ!」

 

「正面から勝てないと思った瞬間に逃げやがったな……」

 

戦い方が汚いというより、逃げ慣れてると言った方が正しいかもしれない

 

しばらくしてリアス先輩達が家へ入ってくる

 

「イッセー! ハク!」

 

「リアス先輩!」

 

リアス先輩は倒れている契約者を見て表情を険しくした

 

「……間に合わなかったのね」

 

「すみません」

 

「二人のせいではないわ、それより犯人は?」

 

「フリード・セルゼンです」

 

俺が答えるとリアス先輩の表情が変わった

 

「フリード・セルゼン……はぐれエクソシストね」

 

「知ってるんですか?」

 

「名前だけはね、教会から破門された危険人物よ」

 

やっぱりか

 

「それで逃がしたの?」

 

「……はい」

 

「ハクがいて?」

 

「……はい」

 

「ハクがいて?」

 

「二回言わないでください!」

 

仕方ないだろ!

 

アーシアまでいたんだから!

 

「でもハクがいたからアーシアも無事だったんですよ」

 

「それなら仕方ないわね」

 

ほら!

 

いや別に褒められるようなことでもないけど!

 

リアス先輩の視線がアーシアへ向く

 

「それで、あなたがアーシア・アルジェントね」

 

「は、はい……」

 

アーシアが少し緊張する

 

悪魔であることは分かっているんだろう

 

だが逃げることはなかった

 

「あなたはフリードと一緒に?」

 

「……はい、ですが私はこんなことをするなんて知らなくて……」

 

「分かっているわ」

 

リアス先輩はアーシアを責めなかった

 

ただ

 

「あなたがいる教会には堕天使もいるのでしょう?」

 

アーシアの肩が僅かに震えた

 

「……はい、何人か……黒い翼を持った方達がいます」

 

それだけで十分だった

 

やっぱり繋がってる

 

フリード

 

堕天使

 

そしてアーシア

 

「アーシア、もう少し聞きたいことが――」

 

リアス先輩がそう言いかけた時だった

 

「え?」

 

突然アーシアの足元に光が広がった

 

「アーシア!」

 

一誠が手を伸ばす

 

俺もすぐに動いたが、それより早く光がアーシアの身体を包み込んだ

 

「一誠さん! ハクさん!」

 

「アーシア!」

 

一瞬だった

 

光が消える

 

そこにいたはずのアーシアの姿も消えていた

 

「……転移?」

 

リアス先輩が表情を険しくする

 

「恐らく教会へ戻されたのでしょうね」

 

「勝手にかよ!」

 

一誠がアーシアのいた場所を見る

 

「アーシア自身が使ったようには見えなかったわ、あの子に何か仕込まれていたのか、それとも向こうから転移させたのか……どちらにしても、私達と長く話をさせるつもりはないみたいね」

 

なるほどな

 

フリードが逃げたあとも何もしてこないから妙だとは思ったが、向こうはアーシアを放置していたわけじゃなかったらしい

 

というか

 

監視されてる?

 

その可能性が高いな

 

原作通りならこの先何が起きるか俺は知っている

 

だが今の一誠は原作の一誠じゃない

 

俺もいる

 

リアス先輩達も俺の知っている原作とは違う

 

それに今ので向こうも、こっちの動きを見ている可能性が高くなった

 

だったら同じ結果になるとは限らない

 

……いや

 

だからこそ気をつけないとな

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

その日の夜

 

俺は久しぶりに仮面を着けていた

 

ここからは大神白じゃない

 

アザゼルが知るオシュトルだ

 

「総督殿、一つお聞きしたいことがあるのですが」

 

「……なんだ、また千里眼か?」

 

「今回は違います」

 

「今回はってなんだよ」

 

何故そこで残念そうな顔をする

 

俺の千里眼はお前の娯楽じゃないぞ

 

というか存在しないんだけどな!

 

「最近、この街で悪魔と契約している人間が何人か殺されています」

 

「悪魔の契約者が?」

 

アザゼルの表情から笑みが消える

 

「犯人はフリード・セルゼン、教会を破門されたはぐれエクソシストです」

 

「フリード……あぁ、あいつか」

 

やっぱり知ってるか

 

「そしてフリードが現在行動を共にしていると思われる者達の中に、複数の堕天使がいるようです」

 

「……ほう」

 

「少し前には天野夕麻と名乗った堕天使が、赤龍帝(せきりゅうてい)である兵藤一誠を狙いました」

 

アザゼルの眉が動いた

 

「赤龍帝を?」

 

「はい」

 

「で?」

 

「総督殿の指示であるのか確認しておきたく」

 

「違う」

 

即答だった

 

「少なくとも俺はそんな命令出してねぇよ、赤龍帝を殺せなんて指示もしてないし、フリードと組んで悪魔の契約者を殺せなんて馬鹿な真似をさせた覚えもない」

 

やっぱりか

 

原作を知っている俺からすれば予想通りではある

 

だが予想と確認は違う

 

今のこの世界で実際にアザゼル本人から聞けたということに意味がある

 

「左様であるか」

 

「そいつらの所属までは分かってるのか?」

 

「いえ、某が確認出来ているのは今申し上げたことだけです」

 

原作知識を全部話す訳にはいかない

 

この時点ではまだ、俺が知っている名前を口に出す理由もない

 

「分かった、こっちでも調べておく」

 

「お願い致します」

 

「とはいえ、まだ本当にうちの連中かどうかも分からねぇけどな」

 

「はい」

 

「だが堕天使が絡んでる可能性がある以上、放っておく訳にもいかねぇ、何か分かったら知らせる」

 

「感謝致します」

 

「それとお前もあんまり無茶すんなよ」

 

「某が?」

 

「わざわざ俺に確認しに来るくらいなら、お前も何か嫌な感じがしてんだろ」

 

「……心得ております」

 

「ならいい」

 

これで聞きたかったことは聞けた

 

少なくともアザゼルの指示ではない

 

後は向こうの調査を待つしかないだろう

 

「……それと総督殿」

 

「なんだ、まだあんのか?」

 

「もう一つお願いがあるのですが」

 

「言ってみろ」

 

「刀を一本、融通していただけませんか?」

 

「刀?」

 

アザゼルが意外そうな顔をする

 

「はい、出来ればある程度リーチのある得物を」

 

「お前、素手で十分強いだろ」

 

「それは否定致しませんが、今回フリードと戦いましてな」

 

相手は光の剣を使っていた

 

あれくらいなら素手でも対処出来る

 

出来るんだが、出来ることとやりやすいことは別だ

 

それに俺が持っているオシュトルの戦闘技術には、当然刀を使うものも多い

 

「今後も得物を持った相手と戦うのであれば、某にもリーチのある武器があった方が都合が良いかと」

 

「なるほどねぇ」

 

アザゼルが俺を上から下まで眺める

 

「それで俺なら一本くらい持ってるだろうと?」

 

「お持ちではないので?」

 

「ある」

 

あるんかい

 

いや、あると思ったから聞いたんだけど

 

「ちょっと待ってろ」

 

そう言ってアザゼルが奥へ引っ込んでいく

 

しばらくして戻ってきたその手には、一振りの刀があった

 

「ほら」

 

「……よろしいので?」

 

「いいって言っただろ」

 

受け取ってみる

 

少し重い

 

だが嫌な重さではない

 

鞘を握り、少しだけ刀身を抜いてみる

 

「…………」

 

かなり古い

 

新品ではないどころか、何度も手入れされてきたことくらいは俺にも分かる

 

それでも刃は綺麗に整えられていた

 

「随分古い物ですな」

 

「骨董品だよ、昔骨董市で見つけてな」

 

「骨董市で?」

 

「俺こういう古い物とか珍しい物、見つけると欲しくなるんだよ」

 

あぁ

 

なんか分かる

 

神器(セイクリッド・ギア)をあれだけ研究してる奴だし、珍しい物を見つけたら取り敢えず調べたくなるタイプなんだろう

 

「ただ古いだけじゃねぇぞ、物は悪くない、それに買ってからもちゃんと手入れはしてた」

 

「総督殿が?」

 

「なんだその顔」

 

「いえ、少々意外だったもので」

 

「俺をなんだと思ってんだお前」

 

神器研究馬鹿

 

「総督殿です」

 

「今絶対違うこと考えただろ」

 

「気のせいでしょう」

 

刀を鞘へ戻そうとしたところで、アザゼルが思い出したように言った

 

「そういやそいつ、ちょっと変わってんぞ」

 

「変わっている?」

 

「あぁ、買った時に状態を見るために柄を外したんだが、茎(なかご)に何か刻まれてる」

 

「銘ですか?」

 

「多分な」

 

「多分?」

 

「読めねぇんだよ」

 

思わずアザゼルを見る

 

「総督殿にも?」

 

「俺だって世界中の文字全部読めるわけじゃねぇよ、ただ俺が知ってる古い文字とも合わなかった」

 

ほう

 

少し興味が湧いて、俺も柄を外して見せてもらう

 

確かに何かが刻まれている

 

文字

 

……だと思う

 

「…………」

 

読めない

 

全く分からん

 

形を見ても何語なのかすら見当がつかない

 

「どうだ、千里眼で読めたりしねぇ?」

 

「無理です」

 

「即答かよ」

 

無いものに期待するな

 

「由来は分からないのですか?」

 

「そこまではな、ただ刀身と拵え(こしらえ)で時代が合ってねぇ部分もあるし、何度も修理や手入れをされてきた跡がある、長い間誰かから誰かへ渡ってきた物なんじゃねぇかとは思ってる」

 

「なるほど」

 

誰が作ったのか

 

誰が使っていたのか

 

何故読めない文字が刻まれているのか

 

今の俺達には分からない

 

ただ

 

もう一度柄を戻し、軽く構えてみる

 

「…………」

 

妙だな

 

初めて持ったはずなのに、やけに手に馴染む

 

長さも重さも丁度いい

 

「どうだ?」

 

「……良い刀ですな」

 

「だろ? 俺も気に入ってたんだ」

 

アザゼルが笑う

 

「お前なら腐らせることもないだろ、持ってけ」

 

「感謝致します、総督殿」

 

刀を鞘へ戻す

 

「ただし壊すなよ?」

 

「善処致します」

 

「そこは絶対壊しませんって言えよ!」

 

善処はする

 

善処は

 

俺は刀を鞘へ戻し、傍らへ置く

 

これでこちらの用件は一通り済んだ

 

後はアザゼルの調査で何か分かるのを待つだけだろう

 

「それでは、先程の件はお願い致します」

 

「おう、分かってるよ」

 

アザゼルはそう答えたものの、すぐに面倒そうに頭を掻いた

 

「ったく、また調べることが増えたな……」

 

「何か?」

 

「いやな、大体なんだって話だよ、赤龍帝を狙う奴が出たと思ったら、今度ははぐれエクソシストの近くに堕天使までいるかもしれねぇ」

 

アザゼルはそのまま椅子へ深く座り直す

 

「まだうちの連中と決まったわけじゃねぇけど、もし本当にそうなら何やってんだって話だろ、こっちは人手が余ってるわけじゃねぇんだぞ、勝手に人間界で遊んでる暇があるなら仕事しろってんだ」

 

「総督殿」

 

「なんだよ」

 

「某に愚痴られましても」

 

「聞けよ! 部下の不始末を教えに来たんだから最後まで聞いてけ!」

 

「ですから、まだ総督殿の部下と決まったわけではないでしょう」

 

「分かってるよ! だからこれから調べんだろうが!」

 

アザゼルは盛大に溜息を吐く

 

「神器の調査だの組織の仕事だの、ただでさえ山ほどあるってのに……」

 

何故俺が総督の仕事の愚痴まで聞かされているんだ

 

まぁ調査を頼んだのは俺なんだけど

 

そんな話をしていると、不意に柔らかな香りが漂ってきた

 

「二人とも、少し休憩したら?」

 

声のした方を見ると、江留瑠羽(エルルゥ)さんがお茶の入ったカップを持ってこちらへ来るところだった

 

「あれ、まだ起きてたのか?」

 

「あなたがいつまで経っても戻ってこないからでしょう?」

 

「仕事の話してたんだよ」

 

「途中から愚痴になってたじゃない」

 

聞かれてたのか

 

アザゼルが露骨に視線を逸らした

 

「オシュトルさんもどうぞ」

 

「某にも?」

 

「えぇ、今日は少し疲れてるみたいだったから、落ち着けるものを何種類か合わせてみたの」

 

差し出されたカップからは今まであまり嗅いだことのない香りがする

 

「これは?」

 

「ハーブティーよ、薬草やハーブを使ったお茶を作るのが好きなの」

 

「へぇ、美味いぞこれ」

 

先に飲んだアザゼルがそう言うと、江留瑠羽さんが少しだけ呆れた顔をした

 

「あなたはもう少しゆっくり飲んで、香りも楽しみなさい」

 

「飲み方まで怒られんの?」

 

「せっかく作ったんだから」

 

俺も一口飲んでみる

 

口に入れた瞬間、独特の香りが広がった

 

確かに落ち着く

 

「……美味しいですね」

 

「良かった」

 

江留瑠羽さんが嬉しそうに笑う

 

………………

 

前から思っていた

 

顔

 

声

 

名前

 

それだけでも十分エルルゥに似ている

 

そこへ

 

薬草

 

ハーブ

 

お茶

 

………………

 

いや

 

待て

 

まだ増えるの?

 

「どうかした?」

 

「……いえ」

 

落ち着け俺

 

薬草やハーブが好きな人なんて世界中にいくらでもいる

 

お茶を作る人だって珍しくない

 

顔と声と名前まで似てるのは……

 

………………

 

考えるのやめよう

 

「そういえば最近はお茶だけじゃなくて、ハーブを使ったアロマも作ってるのよ」

 

追加するな!

 

これ以上一致項目を増やすな!

 

「オシュトル?」

 

「何でもありません」

 

「お前なんか顔引きつってない?」

 

「気のせいでしょう」

 

絶対に気のせいだ

 

そういうことにしておこう

 

「それよりアザゼル」

 

「ん?」

 

「仕事が山ほどあるのよね?」

 

「……まぁ」

 

「だったら愚痴を言ってないで片付ける」

 

「これはオシュトルから報告を受けて――」

 

「報告は大事よ」

 

「だろ?」

 

「その後ずっと愚痴ってるのは?」

 

「…………」

 

「人手が足りないなら自分も働く」

 

「はい」

 

「調べ物を後回しにしない」

 

「はい」

 

「仕事を溜めない」

 

「……はい」

 

総督がどんどん小さくなっていく

 

強い

 

この人やっぱり強い

 

「オシュトルさんも」

 

「はい?」

 

突然こっちへ来た

 

「アザゼルが余計な話を始めたら止めてくださいね?」

 

「某がですか?」

 

「放っておくとすぐ余計なことを始めるから」

 

「おい、俺は総督だぞ」

 

「だったら仕事してください」

 

「はい」

 

また負けた!

 

「……承知致しました」

 

「オシュトル!?」

 

「総督殿」

 

「なんだよ!」

 

俺はもう一度ハーブティーを口に含む

 

「お仕事をなさってください」

 

「お前どっちの味方だよ!」

 

知らん

 

ただ

 

何故だろう

 

この人の小言には逆らわない方がいい気がする

 

俺の知識がそう言ってるだけなのか

 

それとも単に江留瑠羽さんが強いだけなのか

 

多分後者だろう

 

……多分

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

その後も俺と一誠は何度かアーシアと会った

 

最初は偶然だった

 

街でアーシアを見つけて一誠が声をかけた

 

その次は向こうから俺達を見つけた

 

そして気がつけば普通に一緒に話すようになっていた

 

「一誠さん、ハクさん!」

 

「おう、アーシア」

 

「こんにちは」

 

アーシアは俺達を見つけると嬉しそうに駆け寄ってくる

 

話してみれば本当に普通の女の子だ

 

少し世間知らずではあるが、優しくて困っている人を放っておけない

 

そして何度か話しているうちに、アーシアは自分のことも少しずつ話してくれるようになった

 

昔は聖女と呼ばれていたこと

 

聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)で多くの人を治してきたこと

 

そしてある日、怪我をしていた悪魔を治したことで教会から追放されたこと

 

「悪魔を治しただけで?」

 

一誠が聞く

 

「はい……悪魔を癒すことが出来る力は異端だと……」

 

「でも怪我してたんだろ?」

 

「はい」

 

「なら助けるだろ普通」

 

「……え?」

 

アーシアが目を丸くする

 

「悪魔だからって怪我してる奴を放っておく理由にはならねぇだろ」

 

一誠は本当に何でもないことのように言った

 

「俺もこの前堕天使に殺されかけたけど、だからって堕天使全員が悪い奴だとは思わねぇし」

 

こいつの場合、朱乃の父親が堕天使だからな

 

昔からバラキエルさんを知っている一誠にとっては、堕天使だから悪い奴なんて考え方の方が不自然なんだろう

 

「一誠さん……」

 

「アーシアが助けたかったなら、それでいいんじゃねぇの?」

 

アーシアはしばらく黙っていた

 

そして

 

「……ありがとうございます」

 

小さく笑った

 

うん

 

やっぱりこの二人相性いいな

 

原作でもそうだったけど、今の一誠だと余計にそう思う

 

そんな何度目かのことだった

 

「それで一誠さん、その……学校というのはどんなところなんですか?」

 

「どんなって言われてもなぁ、普通だぞ?」

 

「普通が分からないから聞いているのでは?」

 

「ハク、そういう正論はいらねぇから!」

 

「そうです! 私、普通の学校というところに行ったことがありませんから!」

 

アーシアが楽しそうに笑う

 

こうして話しているだけなら、本当に普通の女の子なんだけどな

 

教会

 

フリード

 

そして堕天使

 

今のアーシアを取り巻いているものは、普通とは随分離れている

 

「アーシア」

 

不意に女の声が聞こえた

 

「っ」

 

アーシアの肩がびくりと跳ねる

 

さっきまで楽しそうに笑っていた表情が一瞬で強張った

 

俺と一誠もほぼ同時に声のした方を見る

 

そこに立っていた女の顔を見た瞬間、一誠の表情が変わった

 

「……お前」

 

左腕を僅かに前へ出す

 

いつでも赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を出せる体勢だ

 

当然だ

 

自分を殺そうとした相手の顔なんて忘れるわけがない

 

「……レイナーレ様」

 

アーシアが小さくその名前を呼ぶ

 

レイナーレ

 

当然俺はその名前を知っている

 

だがこれでようやく、俺達がこの世界でその名前を知る理由が出来た

 

「こんなところにいたのね」

 

「……すみません」

 

「そろそろ戻るわよ」

 

「……はい」

 

アーシアの返事は小さい

 

やっぱり

 

この二人の関係

 

どう見ても普通じゃないな

 

「天野……夕麻」

 

一誠が低い声で呼ぶ

 

レイナーレの視線が一誠へ向いた

 

「あら、その名前で呼ばれるのは久しぶりね、兵藤一誠」

 

「やっぱりお前か」

 

一誠の左腕へ力が集まり始める

 

「一誠さん……?」

 

アーシアが不安そうに俺達を見比べる

 

「レイナーレ様と、お知り合いなんですか……?」

 

「……まぁな」

 

「少し前に会ったことがあるだけだ」

 

「そうなんですか?」

 

「えぇ」

 

レイナーレが何でもないことのように答える

 

「ちょっとした行き違いがあったのよ」

 

殺人未遂を行き違いで済ませるな

 

一誠も同じことを思ったらしく、こめかみが引きつっている

 

「てめぇ……」

 

「一誠」

 

俺が声をかける

 

「分かってる」

 

一誠も周囲を確認した

 

買い物袋を持った人

 

学校帰りの学生

 

俺達の横を通り過ぎていく会社員

 

まだ日も高い

 

人通りの多い街中だ

 

「レイナーレ」

 

「……何かしら?」

 

「こんな日中の、人の往来のど真ん中で始める気か?」

 

「…………」

 

レイナーレが俺を見る

 

「俺達は構わないけど、そっちも都合が悪いんじゃないか?」

 

「随分物騒なのね」

 

レイナーレが薄く笑う

 

「誰のせいだよ」

 

「さぁ?」

 

「てめぇ……!」

 

「一誠」

 

「……分かってるって」

 

一誠は左腕から力を抜いた

 

だが警戒までは解いていない

 

俺も同じだ

 

ここで戦闘を始めるつもりがないだけで、信用したわけじゃない

 

「アーシア、行くわよ」

 

「……はい」

 

アーシアは小さく返事をすると、俺達の方を見る

 

「一誠さん、ハクさん……それでは、また」

 

「……おう、またな」

 

「あぁ、また」

 

アーシアがレイナーレのところへ歩いていく

 

そのまま二人が離れていく

 

レイナーレは一度だけこちらを振り返った

 

一誠を見る

 

次に俺を見る

 

そして何も言わず、アーシアと共に去っていった

 

「……ハク」

 

「ん?」

 

「アーシア、あいつのこと怖がってなかったか?」

 

「……俺にも、そう見えた」

 

「だよな」

 

一誠が二人の消えていった方を見る

 

「しかもあいつ、俺を殺そうとした奴だぞ」

 

「あぁ」

 

レイナーレ

 

一誠を襲った堕天使本人が、今もアーシアのすぐ近くにいる

 

それもアーシアの反応を見る限り、良好な関係とは言い難い

 

「リアス先輩にも報告しておこう」

 

「あぁ、アーシアのことも――」

 

その時だった

 

「ハク!」

 

「っ!」

 

一誠の声と同時に横へ跳ぶ

 

直後、さっきまで俺達がいた場所へ光の槍が突き刺さった

 

「……今度はなんだよ!」

 

一誠の左腕に赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)が現れる

 

『Boost!』

 

俺も光の槍が飛んできた方を見る

 

そこには三人の男女が立っていた

 

男が一人

 

女が二人

 

顔には見覚えがある

 

原作知識なら名前も知っている

 

だが今の俺が知っているはずはない

 

「避けたか」

 

男がつまらなそうに呟く

 

「レイナーレが赤龍帝一人仕留め損ねたって聞いた時は、随分腑抜けたものだと思ったけど」

 

金髪の少女が笑う

 

「こんな奴らの何に手間取ったんだか」

 

「ミッテルト、油断しない方がいいわ」

 

隣の女がそう言った

 

「カラワーナは心配しすぎなんだって」

 

…………はい

 

二人判明

 

そして男の名前だけ分からない

 

まぁこの流れなら――

 

「ドーナシーク、あなたもそう思うでしょう?」

 

「くだらん、赤龍帝だろうと人間だろうと始末すれば済む話だ」

 

よし

 

全員判明

 

いやだから襲われてる場合に何を喜んでるんだ俺は

 

「お前らもレイナーレの仲間か」

 

一誠が低い声で聞く

 

「仲間?」

 

ミッテルトが鼻で笑う

 

「一緒に行動してるだけよ、それよりあんたが赤龍帝?」

 

「だったらなんだよ」

 

「別に? レイナーレが腑抜けただけだったって確認しに来たの」

 

その手に光の槍が形成される

 

「だって、こんな奴らどう見たって雑魚じゃない」

 

「…………」

 

一誠が俺を見る

 

「ハク」

 

「なんだ?」

 

「俺、雑魚らしいぞ」

 

「奇遇だな、俺もそうらしい」

 

「……やるか」

 

「向こうから襲ってきてるしな」

 

「なに余裕ぶってんのよ!」

 

ミッテルトが光の槍を投げる

 

一誠が半歩ずれて避けた

 

「遅ぇ」

 

「は?」

 

次の瞬間、一誠が懐へ入る

 

「おらぁ!」

 

「きゃっ!?」

 

一発

 

ミッテルトが吹き飛んだ

 

「ミッテルト!」

 

カラワーナが光の槍を一誠へ向ける

 

俺はアザゼルから受け取った刀を抜く

 

光の槍が振るわれる

 

それを刀で逸らす

 

「っ!?」

 

軽い

 

いや

 

槍が軽いんじゃない

 

俺の動きが妙なくらい自然に繋がる

 

初めて実戦で使うはずなのに、刀が邪魔にならない

 

むしろ最初からそこにあったみたいに――

 

「余所見してていいのか?」

 

そのまま踏み込む

 

刀の峰(みね)を使ってカラワーナの腕を打つ

 

「くっ!」

 

光の槍が手から落ちる

 

そのまま足を払い、体勢を崩したところで首元へ刃を突きつける

 

「動かない方がいいぞ」

 

「っ……!」

 

「貴様!」

 

ドーナシークが俺へ光の槍を振るう

 

身体をずらして避ける

 

そのまま柄で腹を打つ

 

「がっ!?」

 

ドーナシークの身体が折れる

 

もう一撃

 

今度は足を払う

 

そのまま地面へ転がった

 

「…………」

 

「…………」

 

一誠と目が合う

 

いや

 

本当に弱いな

 

こいつら

 

原作の一誠ならともかく、何年も俺達と一緒に鍛えてきた今の一誠にこの程度の相手をぶつけてもなぁ……

 

「……嘘」

 

地面に倒れたミッテルトが呆然と俺達を見る

 

「なんなのよ……あんた達……」

 

「雑魚じゃなかったのか?」

 

「言ってない! 私はそんなこと言ってない!」

 

「言ってただろ!」

 

さっき言ったばっかりだぞ!

 

カラワーナも俺の刀を見ながら表情を険しくしている

 

「……レイナーレ、これを知っていたのね」

 

「だから仕留め損ねたんじゃないのか?」

 

「うるさい!」

 

なんで俺が怒られるんだよ

 

ドーナシークも腹を押さえながら立ち上がる

 

まだやるか?

 

そう思って構え直したが、流石に力量差は理解したらしい

 

「……退くぞ」

 

「はぁ!? このまま!?」

 

「今ここで続けても無駄だ」

 

「っ……!」

 

ミッテルトは納得していないようだが、カラワーナも反対はしなかった

 

三人の背中から黒い翼が広がる

 

「覚えてなさいよ!」

 

「いや、また襲ってくるなら覚えてても同じだろ」

 

「うるさい!」

 

三人が空へ飛び上がる

 

「待て!」

 

一誠が追おうとするが、俺は肩を掴んだ

 

「一誠」

 

「なんだよ!」

 

「追わなくていい」

 

「でも!」

 

「居場所ならもう分かってる」

 

一誠が止まる

 

「……教会か」

 

「あぁ」

 

それに三人を追って、別の罠に飛び込む必要もない

 

今分かったことだけでも十分だ

 

レイナーレ

 

ドーナシーク

 

カラワーナ

 

ミッテルト

 

少なくとも四人の堕天使がアーシアの周囲にいる

 

そしてフリードもいる

 

これはもう偶然で済ませるような状況じゃない

 

「リアス先輩へ報告しよう」

 

「あぁ」

 

それと

 

アザゼルにもだな

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

数日後

 

俺は再び仮面を着けてアザゼルの前にいた

 

「また来たのか」

 

「お邪魔でしたか?」

 

「いや、前回の件だろ」

 

「はい」

 

俺は先日の出来事を簡単に説明する

 

アーシアと行動を共にしている女が、一誠を天野夕麻と名乗って襲った堕天使本人だったこと

 

その名がレイナーレであること

 

そしてその直後、別の三人の堕天使から襲撃されたこと

 

「名は?」

 

「ドーナシーク、カラワーナ、ミッテルト」

 

「…………」

 

アザゼルが片手で顔を覆った

 

「お心当たりが?」

 

「あるよ!」

 

即答だった

 

「思いっきりうちの馬鹿共だよ!」

 

やっぱりか

 

「では総督殿の指示ではないと?」

 

「前にも言っただろ! 赤龍帝を殺せなんて命令してねぇし、勝手に人間界で暴れろなんて言った覚えもねぇよ!」

 

「左様であるか」

 

「ったく……調べてみりゃ連絡もろくに寄越してねぇし、何してるかと思えば……」

 

アザゼルが盛大に溜息を吐く

 

「こっちでももう少し調べる、フリードと何やってんのかも含めてな」

 

「お願い致します」

 

これでようやく繋がった

 

レイナーレ達はアザゼルの命令で動いているわけじゃない

 

少なくとも総督の知らないところで勝手に何かをしている

 

なら尚更警戒した方がいい

 

「それとオシュトル」

 

「はい?」

 

「前にも言ったけど、無茶すんなよ」

 

「心得ております」

 

「お前の心得ておりますは信用ならねぇんだよなぁ」

 

「何故でしょう?」

 

「自分の胸に聞け」

 

知らんな

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

それからは今まで以上に警戒するようになった

 

アーシアと会うこと自体は何度かあった

 

だが以前とは違う

 

視線を感じる

 

近づいてはこない

 

攻撃もしてこない

 

それでも確実にこちらを見ている

 

堕天使の気配だ

 

当然か

 

レイナーレは一誠を一度仕留め損ねている

 

その後、ドーナシーク達三人も俺達に負けた

 

向こうももう、俺達を何も知らない学生だとは思っていないだろう

 

アーシアもそれには気付いていないようだった

 

いつも通り俺達と話して

 

一誠と笑って

 

そして教会へ帰っていく

 

だからこそ

 

嫌な予感は強くなるばかりだった

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

そしてその日の夕方

 

俺と一誠がアーシアと別れて少し経った頃だった

 

「ハク」

 

「ん?」

 

隣を歩いていた一誠が足を止める

 

「……なんかいる」

 

俺も周囲へ意識を向ける

 

確かにいる

 

堕天使の気配

 

だがアーシアのいる方向じゃない

 

反対側だ

 

「一誠」

 

「あぁ」

 

俺達はすぐに警戒する

 

次の瞬間、少し離れた場所で堕天使の気配が一気に膨れ上がった

 

「っ!」

 

「なんだ!?」

 

明らかに俺達へ気付かせるような気配

 

罠か?

 

そう考えた瞬間だった

 

背筋に嫌なものが走る

 

待て

 

こっちじゃない

 

「一誠! アーシアだ!」

 

「っ!」

 

俺達はすぐに引き返した

 

だが

 

遅かった

 

さっきまでアーシアが歩いていた場所には誰もいない

 

代わりに僅かに残っていたのは、複数の堕天使の気配だった

 

「……陽動かよ」

 

一誠が低い声で呟く

 

俺達に気付かせるためだけに別方向で気配を出した

 

その一瞬で別の奴がアーシアを連れていった

 

最初から俺達が近くにいることを前提に動いてやがったのか

 

……いや

 

違う

 

あいつらはもう知ってる

 

一誠を一度殺し損ねた

 

フリードも俺達から逃げた

 

ドーナシーク達三人で襲っても俺達を倒せなかった

 

だから正面から来なかった

 

最初から俺達をアーシアから引き離すつもりだったんだ

 

「アーシア……!」

 

一誠が拳を握る

 

くそっ!

 

警戒していた

 

リアス先輩にも話した

 

アザゼルにも確認した

 

俺達自身も気をつけていた

 

それでも

 

相手もこっちを見ていた

 

俺が原作を知っているからって、相手が原作通りに動いてくれるわけじゃない

 

当たり前じゃないか

 

俺達が変われば

 

向こうだって変わる

 

「教会だ」

 

「ハク?」

 

「あいつらの拠点は教会だ、リアス先輩に連絡するぞ!」

 

「おう!」

 

俺達はすぐにリアス先輩へ連絡した

 

事情を聞いたリアス先輩はすぐに動くと言った

 

ただし

 

全員で教会へ向かうわけではない

 

今回の相手はただのはぐれエクソシストだけじゃない

 

堕天使が四人も関わっている

 

ここでグレモリー眷属が教会へ乗り込めば、下手をすれば悪魔と堕天使、さらに教会まで絡んだ問題になりかねない

 

『私から上へ話を通すわ』

 

「上?」

 

『えぇ、魔王様へ』

 

あぁ

 

そりゃそうか

 

リアス先輩の兄は魔王サーゼクス・ルシファーだ

 

こういう時に話を通す相手としてはこれ以上ない

 

『朱乃からもお父様へ連絡してもらうわ』

 

『分かったわ、部長』

 

朱乃の父親であるバラキエルさんは堕天使の幹部だ

 

しかも今回動いているレイナーレ達は、アザゼルの命令ではないことを俺自身が確認している

 

なら悪魔側だけじゃなく、堕天使側にも話を通しておいた方がいい

 

「じゃあ俺達は?」

 

『先に行って』

 

リアス先輩の声が変わる

 

『アーシアを助けることを優先して』

 

「分かりました」

 

『ハク』

 

「はい?」

 

『無茶はしないで』

 

「善処します」

 

『…………』

 

「…………」

 

『今の間は何?』

 

「気のせいですよ」

 

何故みんな俺の善処を信用しないんだ

 

こうして先に教会へ向かうことになったのは

 

俺

 

一誠

 

木場

 

黒歌

 

白音

 

の五人

 

リアス先輩と朱乃はそれぞれ上への連絡を済ませ次第、俺達に合流することになった

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

教会へ辿り着き、扉を開ける

 

中へ入った瞬間

 

俺達は足を止めた

 

「いやぁ〜、いらっしゃいませぇ!」

 

聞き覚えのあるふざけた声が聖堂に響く

 

「……フリード」

 

「覚えていてくれて光栄ですよぉ!」

 

祭壇へ続く通路の前にフリードが立っている

 

だが

 

今回は一人じゃない

 

「本当に来たわね」

 

「懲りない奴ら」

 

「ここで始末する」

 

フリードの後ろから三人が姿を現す

 

ドーナシーク

 

カラワーナ

 

ミッテルト

 

先日俺と一誠を襲ってきた三人だ

 

「こいつら……!」

 

一誠の左腕に赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)が現れる

 

『Boost!』

 

「あらぁ、また会いましたねぇ赤龍帝のお兄さん!」

 

「どけ!」

 

一誠が踏み出そうとする

 

だが四人が通路を塞ぐように広がった

 

なるほど

 

こいつら

 

最初から俺達をここで足止めするつもりか

 

「アーシアはどこだ!」

 

「さぁて、どこでしょうねぇ?」

 

フリードが懐から光の剣の柄を取り出す

 

そこから光の刃が伸びた

 

その横ではドーナシーク達もそれぞれ光の槍を形成する

 

「そんなに会いたいならぁ、僕達を倒してから行けばいいんじゃないですかねぇ!」

 

「だったら――」

 

「一誠」

 

俺は前へ出ようとした一誠の肩を掴んだ

 

「ハク!?」

 

「お前は先へ行け」

 

「は?」

 

一誠が俺を見る

 

「でもこいつらが――」

 

「だから俺達が残る」

 

「ハク君の言う通りだよ」

 

木場が魔剣を作り出しながら俺の隣へ出る

 

「ここで全員が足止めされる必要はないからね」

 

「木場……」

 

「一誠君はアーシアさんのところへ行って」

 

白音も一歩前へ出た

 

「一誠先輩、ここは私達に任せてください」

 

「白音まで……」

 

「大丈夫にゃ」

 

黒歌が白音の隣へ並ぶ

 

「ご主人も白音もいるし、木場もいるにゃ」

 

「それに――」

 

黒歌が楽しそうに三人の堕天使を見る

 

「この三人、ご主人と一誠に一度負けてるんでしょう?」

 

「っ!」

 

ミッテルトの顔が引きつる

 

「だったら四人もいれば十分にゃ」

 

「言ってくれるじゃない!」

 

「事実です」

 

白音

 

地味に追撃するな

 

「ちょっと待ってくださいよぉ!」

 

フリードが俺達を順番に指差す

 

「なんですかその配置! そこの赤龍帝ちゃん一人通して、こっち四人で僕達四人を相手するんですかぁ!?」

 

「人数は同じだろ?」

 

「そういう問題じゃねぇでしょうがぁ!」

 

何が不満なんだ

 

四対四だぞ

 

公平じゃないか

 

多分

 

「一誠」

 

俺は刀を抜く

 

やはり不思議なくらい自然に手へ収まる

 

だが今はそれを気にしている場合じゃない

 

「行け」

 

「……分かった」

 

一誠が拳を握る

 

「ハク、木場、黒歌、白音」

 

そして

 

「頼んだ!」

 

「うん!」

 

「はい」

 

「任せるにゃ」

 

「任された」

 

一誠が走り出す

 

「行かせるか!」

 

ドーナシークが光の槍を投げる

 

その軌道へ刀を滑り込ませる

 

甲高い音が響き、光の槍が一誠から逸れた

 

「っ!」

 

「お前達の相手は俺達だ」

 

「邪魔を――」

 

ドーナシークが言い終わる前に踏み込む

 

「なっ!?」

 

一閃

 

刃は返す

 

斬る必要はない

 

刀の峰を脇腹へ叩き込み、そのまま崩れた体勢へ柄頭(つかがしら)を叩き込む

 

「がっ――」

 

ドーナシークの身体が床へ沈んだ

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

早い

 

いや

 

俺も思ったけど

 

黒歌までこっちを見るな

 

「ご主人」

 

「なんだ?」

 

「もう終わったの?」

 

「終わったな」

 

「こっちはまだ始まったばっかりなんだけど」

 

知らんがな

 

ミッテルトの顔が引きつっている

 

「ちょ、ちょっと待って! 前より早くない!?」

 

「一度戦った相手だからな」

 

前回で動きは大体見ている

 

それに今は急いでいる

 

アーシアがどうなっているか分からない以上、こいつらに時間を使っている場合じゃない

 

俺は倒れたドーナシークを一瞥してから、教会の奥を見る

 

「木場」

 

「うん」

 

「ここ頼めるか?」

 

木場はすぐに俺の意図を理解した

 

「任せて、ハク君も一誠君を追って」

 

「白音、黒歌」

 

「はい、兄さま」

 

「行ってらっしゃい、ご主人」

 

「フリードを逃がさないようにな」

 

「えっ」

 

フリードの顔が引きつる

 

「なんでそこで僕だけ名指しなんですかぁ!?」

 

「お前は逃げるからだ」

 

「ひどくない!?」

 

事実だろ

 

「じゃあ任せた!」

 

俺はそのまま一誠の後を追った

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「アーシア!!」

 

奥から一誠の叫び声が聞こえた

 

「っ!」

 

嫌な予感がする

 

俺はさらに速度を上げる

 

扉を抜けた瞬間

 

目に入ったのは一誠だった

 

その腕の中にはアーシアがいる

 

動かない

 

その向こうにはレイナーレ

 

そしてその手には光が浮かんでいた

 

聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)

 

「……間に合わなかったか」

 

知っていた

 

この展開を俺は知っていた

 

警戒した

 

リアス先輩にも話した

 

アザゼルにも確認した

 

レイナーレ達とも直接戦った

 

それでも

 

また間に合わなかった

 

「アーシア?」

 

一誠がアーシアの身体を揺らす

 

返事はない

 

「おい……アーシア」

 

それでも返事はなかった

 

「……嘘だろ」

 

「ふふ……素晴らしい力だわ」

 

レイナーレが聖母の微笑を見ながら笑う

 

「これさえあれば――」

 

『Boost!』

 

赤龍帝の籠手が鳴る

 

レイナーレの声が止まった

 

「一誠……?」

 

一誠がゆっくりと顔を上げる

 

「俺さ」

 

『Boost!』

 

「種族なんて関係ねぇって思ってた」

 

『Boost!』

 

「今でもそう思ってる」

 

赤い力が一誠の周囲へ溢れ始める

 

「お前が堕天使だから敵なんじゃない」

 

『Boost!』

 

一誠がアーシアを静かに床へ寝かせる

 

「アーシアを殺したお前が」

 

一誠が立ち上がる

 

「俺の敵だ」

 

『――Partner』

 

ドライグの声が響いた

 

今までとは違う

 

低く

 

重い声

 

『相棒、さっき掴みかけたものを覚えているか?』

 

「……あぁ」

 

『なら今度こそ届かせろ』

 

赤い力が一誠の左腕から肩へ広がる

 

「……まさか」

 

見覚えがある

 

契約者の家で一瞬だけ現れて、形になる前に消えた力

 

あの時ドライグは言った

 

もう少しだ、と

 

「おい……一誠」

 

今なのか?

 

ここで至るのか?

 

「力を貸せ、ドライグ」

 

『応とも』

 

赤い光が一誠の全身を包み込む

 

「赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)!!」

 

『Welsh Dragon Balance Breaker!!!』

 

赤い鎧が一誠の全身を覆った

 

「…………マジかよ」

 

もう禁手(バランス・ブレイカー)に至りやがった

 

「な……」

 

レイナーレの顔から余裕が消える

 

「なんなのよ……それ……」

 

俺は刀を構えかけ

 

止めた

 

これは

 

俺が割って入るところじゃない

 

一誠が一歩踏み出した

 

次の瞬間

 

消えた

 

いや違う

 

速すぎる!

 

「え?」

 

レイナーレの目の前に一誠がいた

 

「待――」

 

拳が振り抜かれる

 

それだけだった

 

レイナーレの身体が吹き飛ぶ

 

壁へ叩きつけられ

 

そのまま崩れ落ちる

 

もう動く気配はない

 

「…………」

 

いや

 

禁手になるとは思った

 

いずれなるとは思ってたよ

 

でも

 

なった直後に原作一巻のボスを一発で終わらせるなよ

 

俺の知ってる一巻どこ行った?

 

「……アーシア」

 

一誠はレイナーレを見ることもなく振り返った

 

赤い鎧が消える

 

そのままアーシアの傍へ膝をつく

 

「アーシア……」

 

その時

 

「イッセー! ハク!」

 

「リアス先輩!」

 

振り返るとリアス先輩と朱乃が駆け込んでくるところだった

 

上への連絡が済んだのか

 

リアス先輩は一誠の腕の中にいるアーシアを見た瞬間、表情を変えた

 

「アーシアが……」

 

一誠がそれだけ言う

 

リアス先輩はすぐに状況を理解した

 

「神器を抜かれたのね」

 

「部長」

 

一誠がリアス先輩を見る

 

「お願いします」

 

「……イッセー」

 

「アーシアを助けてください」

 

リアス先輩はしばらくアーシアを見つめる

 

そして

 

「……分かったわ」

 

その手に悪魔の駒が現れた

 

僧侶(ビショップ)の駒

 

駒がアーシアの身体へ入り、赤い光がその身体を包んでいく

 

死んだ人間を悪魔として転生させる

 

それによってアーシアを蘇らせる

 

しばらくして

 

「……ん」

 

小さな声が聞こえた

 

「アーシア!」

 

「一誠……さん?」

 

「良かった……!」

 

一誠が思い切りアーシアを抱きしめる

 

「い、一誠さん!?」

 

「良かった……本当に……」

 

アーシアも最初は驚いていたが、やがて小さく笑って一誠の背中へ手を回した

 

うん

 

良かった

 

本当に

 

「兄さま」

 

後ろから白音の声がする

 

振り返ると木場、黒歌、白音の三人もこちらへ来ていた

 

「そっちも終わったか?」

 

「うん、ただ……」

 

木場が少し困ったように笑う

 

「フリードには逃げられたよ」

 

「…………」

 

「ごめんね、ご主人」

 

黒歌も少し申し訳なさそうに言う

 

「あいつ、最初から逃げ道を用意してたみたいにゃ、追おうとしたら罠まで残してたにゃ」

 

「兄さま、すみません」

 

「いや、白音達が謝ることじゃない」

 

最初から逃げ道を用意していたのなら、捕まえる方が難しい

 

難しいんだが

 

「……三人いて?」

 

「ハク君」

 

木場が苦笑する

 

「そこは言わないでくれるかな」

 

「ご主人」

 

「なんだ?」

 

「この前自分が言われて嫌だったことをそのまま返すの、良くないと思うにゃ」

 

「…………」

 

そうだった

 

俺もリアス先輩に

 

ハクがいて?

 

って二回聞かれたんだった

 

…………なるほど

 

逃がした側ってこういう気持ちだったのか

 

リアス先輩

 

今度から二回聞くのやめよう

 

こうしてアーシアは人間から悪魔へ転生し、リアス先輩の眷属として戻ってきた

 

これで一件落着

 

……だと思っていた

 

「部長」

 

「何かしら?」

 

アーシアが落ち着いたあと、一誠がリアス先輩の前に立った

 

「もう一つお願いがあります」

 

「?」

 

一誠は少しだけ俺を見る

 

なんだ?

 

「俺も」

 

そして

 

「俺も悪魔にしてください」

 

………………

 

「は?」

 

俺の声とリアス先輩の声が綺麗に重なった

 

「ちょっと待て一誠!」

 

「なんだよハク」

 

「なんだよじゃねぇよ! お前今なんて言った!?」

 

「だから悪魔にしてほしいって」

 

聞き間違いじゃなかった!

 

「どうして?」

 

リアス先輩が聞く

 

一誠は少し考えてから答えた

 

「俺は今まで人間とか悪魔とか堕天使とか、そういうの関係なく付き合ってきました」

 

リアス先輩を見る

 

朱乃を見る

 

木場を見る

 

黒歌と白音を見る

 

「だから俺が悪魔になっても、俺は俺だと思うんです」

 

「イッセー……」

 

「それに」

 

一誠がアーシアを見る

 

「アーシアも、今は部長の眷属なんですよね」

 

「えぇ」

 

「だったら俺も一緒にいたいです、それに今まで部長達と一緒にやってきたのに、俺だけずっと外ってのも変な感じしますし」

 

「…………」

 

ん?

 

俺だけ?

 

「一誠」

 

「なんだよハク」

 

「俺も人間なんだけど?」

 

「…………」

 

「…………」

 

一誠が俺を見る

 

俺を見るな

 

確かに最近は仮面被ったり変な力使ったり、普通の人間から大分離れてる自覚はあるけど

 

まだ人間だからな?

 

「……悪いハク、忘れてた」

 

「十七年来の幼馴染を人類から除外するな」

 

「いや違う! そういう意味じゃねぇって!」

 

「じゃあどういう意味だよ!」

 

「だから! ハクはハクだろ!」

 

「余計に人類とは別枠みたいになってんじゃねぇか!」

 

「なんでだよ!?」

 

「こっちが聞きてぇよ!」

 

「ふふっ……」

 

アーシアが小さく笑う

 

一誠もそれを見て少しだけ表情を緩めた

 

「……まぁ、上手く言えねぇけどさ」

 

今度は少し考えてから、一誠がリアス先輩を見る

 

「ハクが人間のままなのは、ハクがそうしてるだけだろ?」

 

「まぁ、そうだな」

 

「だったら俺が悪魔になるのも、俺が決めていいと思うんです」

 

一誠はそう言ってから、もう一度アーシアを見る

 

「アーシアが悪魔になったから俺もならなきゃいけないとか、そういうんじゃなくて」

 

一誠は少しだけ照れくさそうに頭を掻く

 

「俺がこれからも部長達と一緒にやっていきたいし、アーシアとも一緒にいたい」

 

そしてリアス先輩を真っ直ぐ見る

 

「だから俺は、部長の眷属になりたいです」

 

「一誠さん……」

 

…………

 

なるほど

 

そういうことか

 

なら筋は通っている

 

人間の俺がここにいる以上、仲間でいるために悪魔になる必要なんてない

 

一誠だってそれは分かっている

 

その上で

 

自分で選ぶのか

 

「……後悔しない?」

 

リアス先輩が聞く

 

「しません」

 

即答だった

 

リアス先輩はしばらく一誠を見つめていたが、やがて小さく息を吐いた

 

「分かったわ」

 

その手に現れたのは兵士(ポーン)の駒だった

 

「それじゃあイッセー、あなたを私の眷属として迎えるわ」

 

まず一つ

 

兵士の駒が一誠の胸元へ近づいていく

 

だが

 

「……あら?」

 

駒は一誠の中へ入らなかった

 

「部長?」

 

「大丈夫よ、あなたの価値に対して駒が一つでは足りないだけだから」

 

リアス先輩はもう一つ兵士の駒を取り出す

 

二つ

 

それでも反応しない

 

「二つでも駄目なの?」

 

三つ

 

入らない

 

四つ

 

まだ入らない

 

「…………」

 

リアス先輩の表情が少しずつ怪しくなってきた

 

五つ

 

六つ

 

それでも兵士の駒は一誠を受け入れない

 

「部長、俺ってそんなに必要なんですか?」

 

「……そうみたいね」

 

「なんかすみません」

 

「謝らなくていいわよ」

 

そう言いながらリアス先輩が七つ目を加える

 

しかし

 

まだ反応しない

 

「…………」

 

「…………」

 

「……私も強くなったはずなのに」

 

リアス先輩が小さく呟いた

 

「リアス先輩?」

 

「何でもないわ」

 

いや聞こえたけど

 

というか気持ちは分かる

 

リアス先輩だって昔とは比べ物にならないくらい強くなっている

 

俺達と何年も一緒に鍛えてきたんだから当然だ

 

でも

 

一誠も同じだけ鍛えてきたんだよなぁ……

 

それどころかこいつ、ついさっき禁手に至ったばかりだぞ

 

「……ハク?」

 

「なんです?」

 

「今、何か失礼なこと考えてなかった?」

 

「気のせいですよ」

 

「そう」

 

危ない

 

リアス先輩は残っていた最後の兵士の駒を見る

 

これで八つ

 

全部だ

 

「……これで駄目だったらどうしましょう」

 

「えっ」

 

一誠が初めて不安そうな顔をした

 

「部長、俺悪魔になれないんですか?」

 

「まだ決まったわけじゃないわ、これで八つだから」

 

「全部?」

 

「全部よ」

 

「俺一人で?」

 

「あなた一人で」

 

「…………」

 

「…………」

 

「やっぱりなんかすみません」

 

「だから謝らなくていいわよ!」

 

そして八つ目の兵士の駒が加わった瞬間

 

それまで何の反応も示さなかった八つの駒が、一斉に赤い光を放った

 

「っ!」

 

「おぉ!?」

 

「反応したわ!」

 

八つの兵士の駒が一誠の周囲を回り、そのまま一つずつ身体へ入っていく

 

一つ

 

二つ

 

三つ

 

そして最後の八つ目が一誠の中へ入った瞬間、その身体から悪魔の魔力が溢れ出した

 

「……八つ全部」

 

リアス先輩が呟く

 

「本当に全部使ったのね……」

 

「部長?」

 

「何でもないわ」

 

「でも俺、悪魔になれたんですよね?」

 

「えぇ」

 

リアス先輩が小さく笑う

 

「兵藤一誠、これであなたも正式に私の眷属よ」

 

「はい!」

 

…………マジか

 

こうして兵藤一誠は悪魔になった

 

死んだからではなく

 

自分で選んで

 

そして必要だったのは兵士の駒八つ

 

原作と同じだ

 

…………いや

 

自分から悪魔になった時点で、もう原作と同じも何もないか

 

なんで原作より先に禁手になって、自分から悪魔になってるんだよ

 

大丈夫かこれ?

 

俺の原作知識

 

もう攻略本じゃなくて参考資料になってない?




文字数えぇ……

2万…2万て…

書いてたらなんか凄いことになりました

そしてようやく原作一巻相当終了です

一誠は原作より早く禁手に至り、死ぬことなく自分から悪魔になる道を選びました

……原作知識、もう本当に参考資料ですねこれ

あと今回から一部の固有名詞や読みづらい名前にルビを振ってみました
江留瑠羽を初見でエルルゥと読める人はいないと思うので……

次回から原作二巻相当へ入る予定です

それではまた次回!
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