アーシアの学校生活もいよいよスタート
そして悪魔になったばかりのイッセーとアーシアには、悪魔として初めてのお仕事も待っています
それではLife.14、どうぞ!
Life . 14 転校生です!ホームステイです!魔法少女です!?
「今日は転校生を紹介する」
朝のホームルーム、担任が教室へ入ってくるなりそう言った瞬間、それまで眠そうにしていた連中まで一斉に顔を上げた
この時期に転校生とは珍しい
俺も何となく教室の前へ視線を向けると、近くにいる
あの病院で倒れてから少し経ったが、クオンの体調は今のところ落ち着いていた
熱もない
頭痛もない
立ち眩みもなくなったらしい
本人に聞いても、
「もう大丈夫だよ」
と笑っているし、見た感じも以前と変わらない
だからといって、あれだけ訳の分からない症状が出たものを本人が元気になったからで終わらせるつもりはない
アザゼルからも、症状が落ち着いてからもう一度調べたいと言われている
まぁ、それはまた後だ
「入っていいぞ」
「はい!」
担任の声に続いて扉が開いた
金色の髪が揺れる
その瞬間、教室のあちこちから小さなどよめきが上がった
外国人の女の子が突然転校してきたんだから、そりゃ目立つ
そして俺とイッセーにとっては見慣れた顔だった
「アーシアか」
「おぉ……制服だ」
イッセーが妙に感動した声を漏らす
何を感動してるんだこいつ
いやまぁ、気持ちは分からなくもない
少し前まで修道服姿しか見たことがなかったアーシアが、今はこの学校の制服を着て教壇の横に立っている
これまでは学校がどんなところなのかイッセーに聞いていたくらいだったのに、今日から本当に学生だ
緊張しているのか、アーシアは両手を身体の前で重ねながら教室を見渡していたが、一度小さく息を吸うと笑顔になった
「アーシア・アルジェントです、今日から皆さんと一緒に勉強させていただきます、よろしくお願いします!」
「へぇ……」
クオンが感心したように声を漏らす
「日本語、すごく自然だね」
「あぁ、そうだな」
そう答えながら教壇に立つアーシアを見る
まぁ、今のアーシアなら当然なんだけどな
悪魔になったことで得られるものは身体能力や寿命、魔力だけじゃない
言葉もその一つだ
悪魔が話した言葉は、聞いた相手にとって最も聞き慣れた言語として届き、逆に外国語を聞いても悪魔側には自分が理解出来る言葉へ変換されて聞こえる
つまり今クオンには、アーシアが何の違和感もなく日本語を話しているように聞こえている
「外国から来たばかりなんだよね?」
「まぁな」
「それなのにあれだけ自然に話せるって凄いね」
「……アーシアは覚えるのも早いからな」
嘘ではない
全部説明してないだけだ
流石にここで、
悪魔になったから言葉の壁がなくなったんだよ
なんて言えるわけがない
「アルジェントは外国から来たばかりだから、分からないことがあったら教えてやってくれ」
「はい!」
クラスの女子から何人か返事が上がる
担任が空いている席を指定し、アーシアがそちらへ向かおうとした途中だった
視線が俺達と重なる
「あっ」
さっきまで緊張していた顔が一気に明るくなった
「ハクさん! イッセーさん!」
「おう」
「おはよう、アーシア」
「はい、おはようございます!」
嬉しそうに頭を下げるアーシア
そして
「…………」
横から視線を感じた
クオンが俺とイッセー、それからアーシアを順番に見ている
「知り合いだったの?」
「あぁ、少し前にな」
「道に迷ってたところを俺とハクで案内したんだよ、そのあとも何回か会っててさ」
「そうだったんだ」
「はい、ハクさんもイッセーさんも、とても親切にしてくださいました!」
「そんな大したことしてねぇって」
イッセーが照れたように頬を掻く
分かりやすいなぁ
クオンも特に疑問を持った様子はなく、
「じゃあ知ってる人が二人も同じクラスにいて良かったね」
「はい!」
と笑った
それで話は終わった
外国から来た転校生と俺達が以前から知り合いだった
別にあり得ない話じゃない
むしろアーシアからすれば、初めて通う学校の初日に知り合いが二人も同じクラスにいるんだから安心材料になるだろう
そしてホームルームが終わった瞬間
「アーシアさんってどこから来たの?」
「髪すごく綺麗!」
「日本語上手だね!」
「えっ、あ、ありがとうございます!」
一瞬で囲まれた
「……すげぇな」
「転校生だからな」
しかも外国人で可愛い女の子
そりゃクラスの連中も興味を持つ
最初は突然囲まれて目を白黒させていたアーシアだったが、一人一人の質問へ一生懸命答えているうちに段々緊張も解けたらしく、しばらくすれば普通に笑って話していた
「大丈夫そうだな」
イッセーが安心したように息を吐く
「心配してたのか?」
「そりゃするだろ、アーシア学校初めてなんだから」
「まぁな」
少し前まで、
「学校というのはどんなところなんですか?」
なんてイッセーに聞いていたアーシアが、今は普通にクラスメイトの輪の中へ混ざっている
教会で暮らしていた頃とは何もかも違うだろう
時間割があって
授業があって
休み時間になれば友達と話して
昼になれば一緒に飯を食べる
俺達にとっては当たり前のことでも、アーシアには全部初めてだ
「楽しそうだね」
クオンが笑う
「あぁ」
良かったな、アーシア
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「ハク、危ない!」
「ん?」
昼休みへ入る少し前、廊下へ出たところで急に腕を引かれた
直後、プリントの束を抱えた男子生徒が俺のすぐ横を走り抜けていく
「あっぶね、廊下走るなよー」
「ご、ごめん!」
その背中を見送ってから、俺は自分の腕を見る
正確には、まだそこを掴んでいるクオンの手を
「ごめん、結構強く引っ張っちゃった?」
「いや、大丈夫だけど……」
「けど?」
「…………」
今の
ちょっと強くなかったか?
俺自身も鍛えているから引っ張られた程度でどうこうはない
ただ、昔から何度もクオンに腕を掴まれたり引っ張られたりしているから分かる
今の一瞬だけなら、以前より明らかに力が強かった
「どうしたの?」
「いや……何でもない」
「変なハク」
クオンが手を離す
本人は全く気付いていない
…………病院の件と関係あるのか?
それともただの気のせいか
今ここで考えても分からないな
やっぱり一度アザゼルのところへ連れて行った方がいい
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「学校って、とても賑やかなんですね!」
昼休みになってもアーシアは朝からずっと嬉しそうだった
昼飯を食べながら、今日初めて経験したことを一つずつ話している
「先生が黒板にたくさん文字を書いて、それを皆さんがノートに書いていて、それから移動教室というものもあるんですね!」
「そこからなのか……」
「だって初めてですから!」
「まぁそうだよな」
イッセーが笑う
俺達にとっては何でもない授業すらアーシアには新鮮らしい
「それに皆さん、とても優しくしてくださいました」
「朝すごかったもんな」
「はい!」
「良かったね、アーシアさん」
クオンがそう言うと、アーシアが嬉しそうに頷いた
「ありがとうございます、クオンさん」
この二人も普通に話せてるな
アーシアは誰とでも距離を縮めるのが早いし、クオンも人当たりがいい
相性は悪くなさそうだ
「ところでアーシア、放課後はどうするんだ?」
「部長さんのところへ行きます!」
「部長さん?」
クオンが首を傾げた
「オカルト研究部だよ」
俺が答える
「リアス先輩のところ」
「あぁ、ハク達がよく行ってるところだね」
「はい、私も部長さんにはとてもお世話になっています!」
「アーシアさんもなんだ」
「はい!」
クオンは少しだけ考えるような顔をした
昔から俺とイッセーがオカルト研究部へ出入りしていることは知っている
そこに今日来たばかりのアーシアまでリアス先輩と知り合いだった
とはいえ、それだけなら別に変な話でもない
そう思ったのか、それ以上は何も聞いてこなかった
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放課後になり、俺とイッセー、アーシアの三人で旧校舎へ向かう
「失礼します!」
勢いよく部室の扉を開けたアーシアの足が入口で引っ掛かった
「きゃっ!」
「うおっ!?」
イッセーが慌てて腕を伸ばし、転びそうになったアーシアを支える
「だ、大丈夫か?」
「はい……ありがとうございます、イッセーさん」
「初日から飛ばしてるなぁ」
「ハクさん!」
頬を膨らませるアーシア
「悪い悪い」
「笑ってましたよね?」
「ちょっとだけ」
「もう!」
イッセーが苦笑しながらアーシアを立たせる
そのやり取りをソファから見ていたリアス先輩が小さく笑った
「学校はどうだった、アーシア?」
「はい! とても楽しかったです、部長さん!」
「そう、良かったわ」
「皆さんとても親切にしてくださいました!」
リアス先輩も安心したように頷く
「あらあら、良かったですわね」
紅茶を淹れていた朱乃も嬉しそうに笑う
「はい!」
「イッセーくんも、随分安心した顔をしてるわね」
「なっ、別にそんなんじゃねぇよ!」
「ふふっ、そうかしら?」
「その辺にしてやれよ朱乃、顔赤くなってるぞ」
「ハクまで言うな!」
今日も平和だなぁ
なんて思っていると、リアス先輩が何か思い出したように立ち上がった
「ちょうどいいわね」
「何がですか?」
イッセーが聞く
「このままイッセーの家へ行きましょう」
「…………俺んち?」
「えぇ」
「なんで?」
「アーシアをあなたの家に住まわせるのよ」
「…………」
イッセーが固まった
数秒
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
うるさい
「ちょ、待ってください部長! 俺何も聞いてないんですけど!?」
「今言ったじゃない」
「そういう意味じゃなくて!」
「イッセーさん」
「ん?」
アーシアがおずおずと頭を下げる
「今日からよろしくお願いします」
「アーシアは知ってたの!?」
「はい」
「俺だけ知らなかったの!?」
「そうなるわね」
リアス先輩が当然のように頷く
横では朱乃が楽しそうに笑っている
「朱乃、お前も知ってたな?」
「あら、どうだったかしら」
「その顔絶対知ってただろ!」
「ふふっ」
イッセーが今度は俺を見る
「ハク」
「知らん」
「まだ何も聞いてねぇよ!」
「どうせ知ってたか聞くつもりだったろ」
「そうだけどさ!」
「あなたのご両親にはもう許可をいただいているわ」
「親まで!?」
「荷物も既に届いているはずよ」
「段取り良すぎるだろ!」
流石リアス先輩
イッセーの知らないところで全部終わってる
「ハク!」
「だから俺を見るなって」
「助けろ幼馴染!」
「何をどう助けるんだよ」
「なんかあるだろ!」
「アーシアに野宿させるか?」
「させるわけねぇだろ!」
「じゃあいいじゃん」
「…………あれ?」
納得した
単純だなぁ
「イッセーくん、ハクに言い包められてるわよ」
「朱乃は笑ってないで助けてくれよ!」
「私は賛成だもの」
「味方がいねぇ!」
アーシアが俺達を見て楽しそうに笑っていた
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「まぁまぁ! アーシアちゃん、可愛いじゃない!」
兵藤家へ着いてから数分
アーシアは完全にイッセーのおばさんに捕まっていた
「え、えっと……ありがとうございます!」
「遠慮しなくていいのよ、ここを自分の家だと思って!」
「はい!」
「好きな食べ物は?」
「えっと……」
「嫌いなものは?」
「特には……」
「朝はパン? ご飯?」
「母さん質問多いって!」
「何よイッセー、女の子と一緒に暮らすんだからちゃんとしなさいよ」
「分かってるよ!」
強い
やっぱりおばさん強いわ
おじさんも楽しそうに笑っているし、アーシアを受け入れることに何の抵抗もないらしい
玄関には既にアーシアの荷物が届いていた
リアス先輩、本当に全部準備済みだったんだな
「イッセーさんのお父様、お母様、よろしくお願いします」
アーシアが改めて深く頭を下げる
「こちらこそよろしくね」
「困ったことがあったら何でも言いなさい」
「はい!」
アーシアの顔が少しだけ緩んだ
教会を追放され
堕天使に拾われ
利用され
最後には一度命まで失った
そんなアーシアに
学校が出来た
友達が出来た
そして
帰る家が出来た
「……良かったな」
「はい?」
「何でもない」
「?」
イッセーも同じことを思ったのか、少し照れくさそうにアーシアへ向き直った
「まぁ、その……改めてよろしくな、アーシア」
「はい!」
アーシアが笑う
「よろしくお願いします、イッセーさん!」
その笑顔を見れば十分だった
うん
これでいい
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翌朝
「おはようございます!」
校門へ向かって歩いていると、後ろから聞き慣れた声が聞こえてきた
振り返る
イッセーとアーシアが並んで歩いていた
「おはよう」
「おうハク」
「おはようございます、ハクさん!」
同じ家から出てきたんだから、一緒に登校するのは当然だ
何もおかしくない
何も
「イッセェェェェェェェ!」
「貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
朝からうるせぇ
「うわっ!? なんだよ松田、元浜!」
二人が物凄い勢いでイッセーへ詰め寄る
「なぜアーシアちゃんと一緒に登校している!」
「説明しろ!」
「一緒に住んでるからだよ!」
…………あ
こいつ馬鹿だ
「「一緒に住んでるぅぅぅぅぅ!?」」
「ち、違います!」
アーシアが慌てて両手を振る
「ホームステイです! 昨日からイッセーさんのお家に泊めていただいているんです!」
「アーシアちゃん……」
「そんな……」
「松田さん、元浜さん?」
二人が膝から崩れ落ちた
「俺達の青春が……」
「終わった……」
「勝手に終わってろ」
「ハク冷たくない!?」
「朝っぱらから叫んでるお前らが悪い」
「だってよぉ!」
「うるさい松田」
そんなやり取りをしていると
「……え?」
後ろから聞き覚えのある声がした
「おはようクオン」
「お、おはようハク」
クオンの視線が俺からイッセーへ移り、そのままアーシアへ向かう
「アーシアさん、イッセーの家に住んでるの?」
「はい! 昨日からお世話になっています!」
「昨日から……」
「リアス先輩が手配したんだよ」
「リアス先輩が?」
「あぁ」
「……オカルト研究部の?」
「そう」
「へぇ……」
一瞬だけ
クオンの顔に何か考えるような色が浮かんだ
昨日転校してきたばかりなのに、俺とイッセーとは以前から知り合い
外国から来たばかりなのに言葉にもほとんど困っていない
リアス先輩とも知り合い
その日のうちにイッセーの家へホームステイ
しかも、その手配をしたのもリアス先輩
一つずつなら別に何もおかしくない
ただ、少しずつ同じところに繋がってきている
それでもクオンはすぐに笑った
「そっか、良かったねアーシアさん」
「はい!」
この時はまだ、それだけだった
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その日の放課後
「さて」
オカルト研究部の部室で紅茶を飲んでいたリアス先輩が、カップをテーブルへ置いた
「イッセー、アーシア」
「はい」
「はい!」
二人が揃って返事をする
「今日からあなた達にも、悪魔としての仕事を覚えてもらうわ」
「悪魔としての仕事……」
「契約ですね?」
「そうよ」
リアス先輩が悪魔の仕事について説明していく
人間から召喚を受け、その願いを叶え、その対価を受け取る
イッセーが真剣な顔で聞いている
なんか新鮮だな
昔からリアス先輩達と一緒にいて、はぐれ悪魔とも戦って、堕天使とも戦って、つい最近なんて
悪魔としては新人
アーシアも同じだ
「イッセー」
「はい」
「あなたは戦闘については、今さら私が一から教える必要はないでしょう」
「まぁ……はい」
「でも戦えることと、悪魔として仕事が出来ることは全く別の話よ」
「…………なるほど」
「アーシアも同じよ」
「はい、部長さん」
二人とも素直に頷く
「リアス、二人とも悪魔になったばかりだもの、最初は一緒に行かせた方がいいんじゃない?」
朱乃が紅茶を置きながら言う
「そのつもりよ」
リアス先輩も頷く
「最初は二人で行動しなさい」
「俺とアーシアで?」
「はい! 頑張りましょう、イッセーさん!」
「おう!」
一拍置いて
イッセーがこっちを見る
「ハクも来る?」
「行かねぇよ」
「即答!?」
「俺は人間だからな」
「こういう時だけ人間を主張するなよ!」
「こういう時も何もずっと人間だ!」
最近こいつ本当に俺の種族忘れてないか?
「ふふっ」
朱乃が口元を押さえて笑う
「イッセーくん、ハクに頼ってばかりでは悪魔のお仕事を覚えられないわよ」
「分かってるけどさぁ」
「アーシアもいるんだから大丈夫だろ」
「はい! 私も頑張ります!」
「アーシアの方が頼もしいな」
「おいハク!」
「本当のことだろ」
「否定出来ねぇ!」
その時
床に魔法陣が浮かび上がった
「あっ」
「早速ね」
リアス先輩が笑う
「召喚よ、二人とも行ってきなさい」
「はい!」
「おう!」
赤い光が二人を包んでいく
「変な客引くなよ」
「縁起でもないこと言うな!」
「イッセーさん、大丈夫です!」
「その自信どこから来るんだアーシア!」
そして二人の姿が消えた
静かになった部室で俺は紅茶を一口飲む
「大丈夫かしらね」
朱乃が笑う
「まぁ、イッセーもアーシアも人の話はちゃんと聞くし大丈夫だろ」
「ハク」
「ん?」
「それ、何か起きる前振りみたいよ」
「やめろ朱乃」
…………まぁ
流石にいきなりそこまで変なのは来ないだろ
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「ここみたいですね」
「でかい家だな……」
転移した先で、イッセーとアーシアは目の前にある家を見上げていた
二人で玄関まで歩き、イッセーが呼び鈴を押す
『はい』
返ってきたのは低い男の声だった
「悪魔の依頼を受けて来ました」
『待ってたにょ』
「…………にょ?」
イッセーの眉が動く
「可愛らしい話し方ですね」
「いやアーシア、声との組み合わせが気になるんだけど」
扉の向こうから重い足音が近づいてくる
そして
開いた
「いらっしゃいにょ」
「…………」
イッセーの思考が止まった
巨大な身体
鍛え抜かれた腕
盛り上がった胸板
どう見ても一般人より遥かに筋骨隆々な男
そしてその身体を包んでいるのは
フリルやレースのついたゴスロリ姿
「…………」
イッセーが黙る
「初めまして!」
アーシアが普通に頭を下げた
「アーシア・アルジェントです!」
「アーシア!?」
「どうしたんですか、イッセーさん?」
「いや……何でもない」
「ミルたんだにょ、よろしくにょ」
「はい、よろしくお願いします、ミルたんさん!」
「俺は兵藤イッセーです……よろしくお願いします」
「入るにょ」
二人はそのまま家の中へ通された
「それで」
何とか気を取り直したイッセーが依頼の内容を聞く
「俺達を呼んだ願いって何なんです?」
「よく聞いてくれたにょ!」
ミルたんが胸の前で両手を組む
その表情は
冗談でも
ふざけているわけでもない
本気だった
「ミルたんを魔法少女にしてほしいにょ」
「…………」
イッセーが固まる
アーシアも一度だけ目を瞬かせた
「魔法少女、ですか?」
「そうだにょ!」
「…………」
イッセーが頭を抱える
「いや……そう言われてもなぁ」
悪魔だから魔法を使えないわけじゃない
だけど人間を魔法少女にする魔法なんて知らない
「いっそ異世界にでも転移してくださいよ」
「それは無理だったにょ」
「試したの!?」
思わずイッセーが聞き返す
どうやらミルたんなりに色々やったらしい
「イッセーさん」
「ん?」
隣にいたアーシアが小さく袖を引く
「ミルたんさんは、本当に魔法少女になりたいんですよね」
「それは見れば分かるけど……」
「でしたら、もう少しお話を聞いてみませんか?」
「…………」
イッセーがミルたんを見る
見た目の衝撃が強すぎるだけで、本人は最初から真剣そのものだ
アーシアに言われるまでもなく、依頼人が本気なら最初から笑って終わらせるわけにもいかない
「……分かった」
イッセーが頭を掻く
「とりあえず話だけでも聞きます」
「ありがとうだにょ!」
そこからしばらく
ミルたんの魔法少女への熱意を二人で聞くことになった
しかし当然ながら、イッセーにもアーシアにも人間を魔法少女へ変える方法なんて分からない
「このままじゃ宿敵の悪魔さんにお願いするしかないにょ」
「宿敵の悪魔さん?」
アーシアが首を傾げる
「誰なんだよそれ……」
イッセーも同じく首を傾げた
そこからさらに話は続き
ミルたんの口から出てくるのは、イッセーが想像していた悪魔への依頼とは大分違うものばかりだった
「だからぁ! ミルたんは魔法が使いたいんだにょ!」
「お、落ち着いてください!」
「ミルたんさん、落ち着いてお話ししましょう!」
どうにか話を聞き続け
どうにか出来ないか考え
結局
契約は成立しなかった
その代わりに
「どうしてこうなった……」
「面白いですね、イッセーさん!」
「そうだにょ!」
三人並んでテレビを見ていた
画面に映っているのは、
『魔法少女ミルキー・スパイラル・フォルタナティブ』
悪魔の仕事へ来たはずだった
そのはずなのに
気付けばイッセーとアーシアは、ミルたんと一緒に魔法少女アニメを見ている
「イッセーさん、続きが始まります!」
「分かった分かった」
そして
長い夜が始まった
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
翌日の放課後
「それで?」
リアス先輩が机の向こうから二人を見る
「…………」
「…………」
イッセーとアーシアが揃って視線を逸らした
「契約は?」
「……成立してません」
「申し訳ありません、部長さん」
「何をしていたの?」
「話を聞いて」
「えぇ」
「どうにか出来ないか考えて」
「えぇ」
「それから……」
イッセーが止まる
「それから?」
「朝まで魔法少女アニメを見てました」
「…………」
部室が静かになった
「ふふっ」
最初に耐えきれなくなったのは朱乃だった
「朱乃! 笑うなよ!」
「ご、ごめんなさいイッセーくん、でも……ふふっ」
「ハクも笑ってんじゃねぇ!」
「いや無理だろ!」
「悪魔の仕事に行って朝までアニメ見て帰ってくる奴があるか!」
「仕方なかったんだよ!」
「何がだよ!」
「途中から普通に面白かったんだ!」
「悪化してんじゃねぇか!」
「ハクさん」
「ん?」
「とても素敵なお話だったんですよ」
「アーシアまで!?」
駄目だ
二人とも普通に楽しんで帰ってきてる
リアス先輩がこめかみを押さえながら小さく息を吐いた
「二人とも」
「はい」
「はい!」
「相手の願いを最初から馬鹿にしないことは大切よ」
「……はい」
「本気で願っていることなら、まず話を聞くことも間違ってはいないわ」
その言葉にアーシアが少し安心したように笑う
「ただし」
リアス先輩の視線が二人へ向く
「悪魔の仕事へ行ったことは忘れないようにね?」
「はい……」
「はい!」
返事の勢いが違うな
「ふふっ、良かったわねイッセーくん」
「朱乃は楽しそうだな!」
「楽しいもの」
まぁ
悪魔としての仕事が成功したかと言われれば失敗なんだろう
ただ
召喚した相手の見た目だけで逃げ出さず
妙な願いだからと笑い飛ばさず
本気で言っていることだけはちゃんと受け止めた
なら新人悪魔として経験にはなったんじゃないか
…………朝までアニメ見てた件を除けば
「ハク、今度一緒に見ようぜ」
「なんで俺まで巻き込まれるんだよ」
「普通に面白かったぞ?」
「ハクさんもきっと楽しめると思います!」
「アーシアまで勧めてくるな!」
「ふふっ」
「何だよ朱乃」
「いつものことだけど、賑やかになったなって」
そう言われて部室を見渡す
少し前まではいなかったアーシアがいて
イッセーも今では正式に悪魔としてリアス先輩の眷属になっている
同じ部室なのに、少しずつ変わっている
でも
悪くない
「そうだな」
この時の俺は
そんな新しい日常が、もう少し続くものだと思っていた
アーシア、無事に学校生活開始です!
そして原作ではイッセーが一人で出会ったミルたんですが、今作ではイッセーもアーシアも悪魔になりたてなので二人で行ってもらいました
見た目に圧倒されるイッセーと、普通にミルたんの話を聞くアーシア
この二人ならこうなるかなとw
なおクオンの方にも、前回の一件から少しずつ変化が出始めています
次回から第三章の本題も徐々に動き始める予定です
感想、誤字脱字等ありましたらよろしくお願いします!