今回はいよいよ原作二巻、フェニックス編へ突入します
……突入するんですが
原作と同じメンバーで始まるとは一言も言ってない
むしろここまで来て原作通りに進む方がおかしい気がしてきました
それではLife.15、どうぞ!
「ハク、ちょっといい?」
放課後、鞄を持って教室を出ようとしたところでクオンに呼び止められた
声はいつも通りだが、俺を見る目が少しだけ真剣だ
「いいけど、どうした?」
「最近ちょっと気になることがあってさ」
……やっぱり来たか
アーシアが転校してきてから数日、クオンが時々俺達を見ながら何か考えているのには気付いていた
「アーシアちゃんって外国から来たんだよね?」
「ああ」
「でも日本語がすごく自然だし、転校してきた時にはもうハクとイッセーと仲良かったし、その次の日にはイッセーの家に住んでたでしょ?」
「そうだな」
「放課後になったら当たり前みたいに旧校舎へ行くし、リアス先輩達とも最初から知り合いみたいだったし」
「うん」
「それにハクとイッセーも、昔からリアス先輩達と妙に仲良いよね」
「まあ、長いな」
「ひとつずつなら、そういうこともあるのかなって思うんだけど」
クオンが少し困ったように笑う
「重なると流石に気になるよ」
何かを暴こうとしているわけじゃない
長い付き合いの俺達の周りに、自分の知らない何かがあると気付いただけだろう
「……何かある?」
少し考えてから頷く
「ある」
「やっぱり」
「ただ、俺だけの秘密じゃない」
「そっか」
「だから勝手には話せないんだ」
クオンは少し残念そうにしながらも、それ以上聞こうとはしなかった
「分かった」
「でも俺から聞いてみるよ」
「誰に?」
「リアス先輩」
「リアス先輩に?」
「ああ、たぶんクオンが気になってることの大半は説明出来る」
「……余計気になってきたんだけど」
「明日まで待ってくれ」
「仕方ないなぁ」
クオンと別れ、そのまま旧校舎へ向かう
部室へ入るとリアス先輩達は既に揃っていた
「リアス先輩、ちょっと相談があるんですけど」
「久遠さんのこと?」
「なんで分かったんです?」
「最近あの子、あなた達を見て何か考えていたでしょう?」
「見てたんですね」
「同じ学校にいるんだから、それくらい気付くわよ」
事情を一通り説明すると、リアス先輩は少し考えてから頷いた
「いいわ」
「本当にいいんですか?」
「久遠さんは中学生の頃からあなた達と付き合いがあるのでしょう?」
「中二からですね」
「それだけ長く一緒にいて、ここまで自然に気付いているなら無理に隠し続ける方が不自然よ」
「他言は?」
「もちろん禁止、それを守れるなら私は構わないわ」
「分かりました」
翌日の放課後、クオンを連れて旧校舎へ向かう
旧校舎そのものには何度か来たことがあるが、オカルト研究部の部室へ入るのは初めてらしく、扉の前で僅かに足が止まった
「そんな緊張しなくていいぞ」
「ハクがそういう時って、大体何かあるんだよね」
「酷くない?」
「経験則」
何も言い返せない
扉を開けるとリアス先輩を中心に、イッセー、祐斗、アーシア、朱乃、黒歌、白音が揃っていた
「……思ってたより多いね」
「俺もこんな人数になるとは思ってなかったよ」
「久遠さん」
リアス先輩が立ち上がる
「これからあなたに話すことは、一般には知られていないことよ」
「はい」
「聞いたあとも他の人へ話さないと約束出来る?」
「出来ます」
クオンは迷わず頷いた
「分かったわ」
次の瞬間、リアス先輩の背中から黒い翼が広がった
「……え?」
クオンの口が開いたまま止まる
その隣で祐斗、イッセー、アーシアも翼を広げる
「え?」
「俺、悪魔になったんだ」
「え?」
「私も少し前に悪魔へ転生しました」
「え?」
アーシアの説明を聞いたクオンの視線がゆっくり朱乃へ移る
「じゃあ……朱乃さんも?」
「私は悪魔じゃないわ」
朱乃の背中から黒い羽根が広がる
「父が堕天使で、母が人間なの」
「……悪魔の次は堕天使?」
「そうなるわね」
「待って待って待って」
クオンが額を押さえ、それから黒歌と白音を見る
「黒歌さんと白音ちゃんは?」
「猫又だにゃ」
黒歌の頭に猫の耳が現れ、その後ろから尻尾が伸びる
白音も少し恥ずかしそうにしながら耳と尻尾を見せた
「…………」
「クオン?」
「情報量、多すぎない?」
「分かる」
「ハクが分かるって言っちゃ駄目でしょ!?」
「俺だって最初から全部知ってたわけじゃないからな」
「じゃあハクは何なの!?」
「人間」
「この流れで!?」
「本当に人間だよ」
クオンの疑いの目が痛い
「ただ、
「せいくりっど……ぎあ?」
「人間に宿る特殊な力のことよ」
リアス先輩がクオンへ説明する
「全ての人間が持っているわけではないけれど、生まれつき特殊な力を宿している人間がいるの」
「特殊な力って?」
「能力は神器によって全然違う、例えばアーシアなら傷を治す力だな」
「私の
アーシアが両手を胸元で合わせる
「あの治療する光も、その神器っていうの?」
「はい」
「じゃあイッセーは?」
「俺はこれだな」
イッセーが左腕を上げると、そこへ赤い籠手が現れる
「
「ドラゴンまでいるの!?」
『いるぞ』
「喋った!?」
クオンが思い切りイッセーの左腕から距離を取る
「そんな驚くことか?」
「驚くよ!」
『随分威勢のいい娘だな』
「また喋った!」
「ドライグ、今は黙っててくれ」
『ふむ』
「会話出来るんだ……」
「慣れるぞ」
「慣れたくないんだけど」
「で、俺のがこれ」
意識した瞬間、白い仮面が顔へ顕現する
「…………」
完全に固まったクオンへ見せるように少しだけ顔を向け、そのまま仮面を収納する
「こんな感じ」
「待って、アーシアちゃんは傷を治して、イッセーはドラゴンが入った籠手で、ハクはその仮面?」
「そう」
「それで普通の人間って言うの!?」
「神器を持ってても種族としては人間だからな」
「なんか納得出来ない!」
「俺に言われてもなぁ」
暫く頭を抱えていたクオンがようやく落ち着いたところで、この世界の裏側について説明していく
悪魔
天使
堕天使
妖怪
その他にも、人間が神話や伝承として語ってきた存在の多くがこの世界には実在する
「じゃあ、アーシアちゃんの日本語がすごく自然だったのも?」
「あれはアーシアが悪魔になった影響だな」
「悪魔になると、相手へ話した言葉はその相手が理解出来る言葉として伝わるの」
リアス先輩が補足する
「外国語を聞く時も、自分が理解出来る言葉へ変換されるわ」
「……そんな便利なの?」
「便利だぞ」
「そこだけ急に雑じゃない、この世界」
気持ちは分かる
「あとクオン」
「まだあるの?」
「お前がこの前運ばれた病院のこと」
「病院?」
「あそこも今話した世界と無関係じゃない」
「……え?」
「グリゴリっていう堕天使側の組織と関係のある施設だ」
「……ん?」
クオンの声とは別に、周囲からいくつか声が上がった
「ん?」
リアス先輩
朱乃
イッセー
祐斗
黒歌と白音まで俺を見ている
アーシアも首を傾げていた
「何?」
「今、グリゴリって言ったわよね?」
「言いましたけど」
リアス先輩がじっと俺を見る
「どうしてハクが、グリゴリと関係のある病院へ久遠さんを運べるの?」
「ああ、それは――」
そういえば
……あれ?
「あと検査を頼んだアザゼルって人も、そのグリゴリの総督だ」
「総督!?」
クオンの声が部室に響く
「ちょっと待てハク!」
「ハク?」
「ご主人?」
「兄さま?」
今度は本当に一斉に声が飛んできた
「……何?」
「何じゃないわよ!」
リアス先輩に怒られた
「お前、堕天使の総督と知り合いなのか!?」
「まあ……うん」
「初耳なんだけど!?」
イッセーが驚いている
「言ってなかったっけ?」
「聞いてねぇよ!」
「私も聞いてないわよ、ハク」
朱乃は笑っている
笑っているんだが妙に圧がある
「アザゼル総督は、お父様の上司でしょう?」
「そうだな」
「いつから知り合いなのかしら?」
「小学生の頃から」
「小学生!?」
クオンだけじゃない
今度は何人かの声が綺麗に重なった
「待って、本当に何してたの小学生の頃!?」
「色々」
「色々で堕天使の総督と知り合いにならないよ!?」
「それは俺もそう思う」
「思ってるなら説明してよ!」
「正確に言うと、大神白として会ってたわけじゃないんだ」
「どういうこと?」
リアス先輩の問いに、もう一度仮面を顕現させる
白い仮面が顔を覆い、部室の空気が僅かに変わる
数秒だけその姿を見せ、すぐに収納した
「アザゼルと会う時はこの仮面を使って、オシュトルって名乗ってた」
「…………」
「…………」
「…………」
「ご主人、何してるにゃ?」
「当時は色々事情があったんだよ」
「だから色々で済ませないでよ!」
クオンの突っ込みがもっともだった
「元々は裏側の情報を調べるために、グリゴリの総督と個人的に話せないか頼んだのが始まりだ」
「誰に?」
朱乃が聞いてくる
「バラキエルさん」
朱乃の笑顔が止まった
「……お父様?」
「最初にアザゼルへ話を通してくれたのがバラキエルさんだよ、その時は俺の名前を伏せてもらって、仮面の神器持ちが話したがってるって伝えてもらった」
「へぇ……」
朱乃が笑う
さっきより笑っている
なんでだろう
怖い
「ということは、お父様は知っていたのね?」
「まあ、最初から知ってるな」
「そう」
バラキエルさん
すみません
今夜何かあるかもしれません
「それで、それ以来ずっと総督と?」
祐斗が聞いてくる
「ああ、裏側の情報を調べてもらったり、相談したりだな」
「小学生の頃から?」
「ああ」
「随分長い付き合いなんだね」
「まあな」
「ハク」
リアス先輩が額を押さえる
「あなた、私達にまだ何か隠してないでしょうね?」
「…………」
「今の間は何?」
「細かいことなら色々あるかなと」
「あとで聞くわ」
「え」
「私も聞くわ、ハク」
朱乃まで
「えぇ……」
その隣でイッセーが腕を組む
「俺も聞く」
「お前まで?」
「幼馴染なのに俺まで知らなかったんだぞ!」
やばい
クオンへの説明をしてたら俺の方まで掘られ始めた
「それでハク」
クオンがまだ混乱した顔で手を上げる
「結局、あの病院って普通の病院じゃなかったの!?」
「設備もちゃんとしてたし、検査も普通にやってただろ?」
「そういう意味じゃないよ!」
「まあ、グリゴリと関係ある施設ではある」
「全然普通じゃない!」
それはそうかもしれない
「じゃあ、あの時の体調不良もそっちが原因なの?」
「それは分からない」
「分からない?」
「ああ」
そこだけははっきり言っておく
「あそこがグリゴリと関係ある施設なのと、クオンの体調不良は別の話だ」
「うん」
「アザゼルにも原因は特定出来なかったし、俺が触れた時だけ検査の数値が変わったことも、今のところ何を意味してるのか分からない」
「そっか……」
「症状自体は治まってるし、そのあと少し身体が動くようになっただろ?」
「うん、自分でもちょっと変だと思うくらい」
「だからまだ調べてる途中だ、何か分かったらちゃんと話す」
クオンは少し考えてから頷いた
「分かった」
「悪いな」
「ううん、むしろ話してくれてありがとう」
そう言って笑ったあと、クオンは部室を見回す
「でもさ」
「ん?」
「ハクの周り、思ってた十倍くらい変だった」
「俺のせいじゃない」
「本当に?」
「……多分」
「今、間があった」
「それよりハク」
朱乃がにっこり笑う
「お父様の件、あとでね」
「俺が怒られるところある?」
「説明しなかった分はあると思うわよ」
「バラキエルさんの方じゃなくて?」
「両方」
「理不尽じゃない?」
その時、部室の扉が静かに開いた
「皆様、少々よろしいでしょうか」
銀色の長い髪
メイド服
そしてその姿を見たリアス先輩の表情が変わる
「グレイフィア……」
直接顔を合わせるのは初めてだ
だが俺はこの女性を知っている
グレイフィア・ルキフグス
魔王サーゼクス・ルシファーの妻にして、その眷属の
この時期にグレイフィアがリアス先輩を訪ねてくる
思い当たる話はひとつしかない
……いや
原作通りになると決めつけるのはもうやめたはずだ
俺もイッセーもリアス先輩達も、俺が知っている物語とはもうかなり違う
「リアスお嬢様に大切なお話がございます、皆様にも残っていただけますでしょうか」
「……嫌な予感しかしないわ」
リアス先輩が眉を寄せる
隣でクオンが俺を見る
「私も?」
「いや、今日はもう帰った方がいい」
「うん、私もそう思う」
「送るよ」
「ここからなら一人で大丈夫」
「でも――」
「ハク」
クオンが少し笑う
「私のことより、そっちの方が大事な話なんでしょ?」
「……まあな」
「じゃあまた明日」
リアス先輩達へ頭を下げ、クオンが部室から出ていく
扉が閉まったところで、俺は小さく息を吐いた
助かった
「ハク」
「ん?」
「あとでね」
朱乃が笑った
助かってなかった
「……私には婚約者がいるの」
「婚約者!?」
真っ先に反応したのはイッセーだった
「部長、婚約者いたんですか!?」
「私が望んだ相手ではないわ」
やっぱりこの話か
「悪魔の世界では純血の悪魔が減っているの、過去の戦争で多くの家系が失われたこともあって、古い家同士では今でも血統を残すことが重要視されているわ」
リアス先輩はグレモリー家を継ぐ立場にある
兄であるサーゼクス・グレモリーが魔王ルシファーとなった以上、その立場から逃れるのは簡単なことではない
リアス先輩が話し終えた、その直後
床に浮かんだ魔法陣が赤く輝いた
室温が一気に上がり、炎が魔法陣の周囲を舞い始める
その中心から一人の男が姿を現した
金髪
赤いスーツ
全身から隠す気すらない自信
ライザー・フェニックス
やっぱりこいつか
「リアス」
ライザーは俺達へ目を向けることすらなく、真っ直ぐリアス先輩へ歩いていく
「久しぶりだな」
「ライザー……」
当然のようにリアス先輩へ手を伸ばしたライザーとの間へ、イッセーが入り込む
「ちょっと待てよ」
「あ?」
「部長が嫌がってるだろ」
ライザーがそこで初めてイッセーを見る
「何だ、お前は?」
「部長の
「ほう」
グレイフィアが静かに前へ出る
「こちらはフェニックス家三男、ライザー・フェニックス様、リアスお嬢様の婚約者でございます」
「婚約者ねぇ……」
イッセーの顔が見るからに不機嫌になっていく
「私は結婚するつもりはないわ」
リアス先輩がはっきりと言い切った
「古い家を残す方法なら他にもある、私は自分の人生を家同士の都合だけで決められるつもりはない」
「またそれか」
ライザーの周囲に炎が揺らめき、同時にリアス先輩から紅い魔力が溢れ出す
周囲の空気が一気に張り詰めた
俺が動こうとしたところで、グレイフィアが二人の間へ入る
「お二人とも、そこまでに」
その一言でぶつかりかけていた魔力が止まる
「リアスお嬢様がどうしても婚約を拒まれるのであれば、両家より提示されている方法がございます」
「……やっぱり用意していたのね」
「はい」
グレイフィアは表情ひとつ変えず続ける
「公式のレーティングゲームは成熟した悪魔が行うものですが、両家の合意があれば、それに準じた形式による特別試合を行うことが可能です」
「試合で婚約を決めるってことか?」
「その通りでございます、兵藤一誠様」
条件は明確だった
「リアスお嬢様が勝利された場合、今回の婚約は白紙といたします」
そして
「ライザー様が勝利された場合は、予定通り婚姻を進めていただきます」
部室が静まり返る
「私は受けるわ」
リアス先輩は迷わなかった
「自分の人生だもの、自分の力で決める」
「いいだろう」
ライザーも余裕の笑みを崩さない
「ならば力の差を教えてやる」
そこでライザーが改めて部室の中を見回す
リアス先輩
朱乃
祐斗
アーシア
イッセー
黒歌
白音
そして俺
「ここにいるのがお前の下僕なのか?」
「いいえ」
リアス先輩が即座に否定する
「私の眷属は四人よ」
「四人?」
「祐斗、アーシア、イッセー、それとギャスパー」
ライザーが部屋の中をもう一度見回す
「ギャスパーという奴はいないようだが?」
「事情があって今は外へ出せないの、今回の試合にも参加させられないわ」
「なら実際に戦えるのは三人か」
「今はね」
リアス先輩がそう答えると、ライザーは小さく笑った
「そうか」
次の瞬間、部室の床へ複数の魔法陣が広がる
一つ
二つ
そんな数では終わらない
次々と人影が姿を現し、気付けばライザーの後ろには十五人の女の子が並んでいた
「……十五?」
イッセーが呆然と一人ずつ数えていく
「十五人!? しかも全員女の子じゃねぇか!」
「俺の眷属だ」
ライザーが得意げに笑う
悪魔の駒を使い揃えられた十五人の眷属
対してリアス先輩は四人
そのうち一人は参加出来ず、現時点で実際に戦場へ出られるのは三人
人数だけなら比較するまでもない
「どうだ、リアス?」
「人数が多ければ勝てるとでも?」
「強がりは相変わらずだな」
ライザーは笑いながら近くにいた女の子を抱き寄せ、その頬へ顔を寄せた
別の女の子まで当然のように身体を寄せる
イッセーのこめかみに青筋が浮かんだ
あ
まずい
「十五人全員女で、その上それかよ……!」
「イッセー」
「焼き鳥野郎! てめぇ!」
「イッセー、周り見ろ」
「分かってる!」
分かってない奴の声だな
左腕に
『Boost!!』
「そんな試合待つ必要ねぇ! 俺がここで――」
「ミラ、やれ」
「はい、ライザーさま」
ライザーの眷属から小柄な少女が前へ出る
白音と大して変わらないくらいの背丈
幼い顔立ち
その手には長い棍
ミラが棍を回しながら間合いへ入っても、イッセーの視線はまだライザーへ向いている
「イッセー!」
「っ!?」
気付いた時には遅かった
踏み込みと同時に棍が振り抜かれ、イッセーの腹へ叩き込まれる
「がっ!」
イッセーが大きくよろめき、その場へ片膝をつく
昔のイッセーならまともに倒れていただろう
でも今のこいつなら、本来なら避けるなり受けるなり出来る一撃だ
相手を見てさえいれば
「イッセーさん!」
アーシアがすぐに駆け寄り、腹へ手を当てる
淡い緑色の光がイッセーを包んでいく
「くっそ……!」
「だから相手しか見えなくなる癖、直せって昔から言ってるだろ」
「今それ言う!?」
「今だから言ってる」
「ハク!」
ミラが再び棍を構え、治療中のイッセーへ踏み込む
横薙ぎ
その軌道へ半歩だけ入る
「え?」
棍へ軽く手を添え、そのまま力の流れを横へ逃がす
振り抜かれたはずの棍は俺の身体の横を通り過ぎ、ミラ自身の身体が僅かに流れた
掴む必要もない
投げる必要もない
ただ方向を変えただけ
「そこまでにしてくれ」
一歩引くと、ミラも棍を構えたまま止まった
「今はまだ試合じゃないんだろ」
「……貴様」
ライザーが初めて俺をまともに見る
「何者だ?」
「
「人間?」
「私の古い友人よ」
リアス先輩が答える
「眷属ではないけれど、昔から一緒に戦ってきたわ」
「ほう」
ライザーは俺を見てからミラへ視線を移す
「俺の
「一度だけですよ」
「ハク、お前そういう時だけ謙遜すんなよ……」
「治療されながら喋るな」
「誰のせいだよ!」
「お前のせいだろ」
「ぐっ……!」
反論出来ないらしい
ライザーは俺達を暫く眺め、それからリアス先輩へ視線を戻した
「しかし三人か」
「何?」
「これでは流石に差がありすぎる」
余裕のある笑みを浮かべたまま、ライザーがこちらへ顎を向ける
「一人くらい外から連れてきても構わんぞ」
「……本気?」
「ああ」
「誰でもいいの?」
「好きにしろ、人間でも何でもな」
リアス先輩の視線が真っ直ぐ俺へ向く
……だよなぁ
「ハク」
「やっぱり俺ですか」
「お願い出来る?」
「まあ、断る理由はないですけど」
ライザーが僅かに目を細める
「……そいつか」
ついさっき自分の
その直後に助っ人を許可するのか?
俺の疑問が顔に出たのか、ライザーが鼻で笑った
「俺の
なるほど
見てなかったわけじゃない
それ以上に、自分達が負けるとは思っていないのか
十五人の眷属
さらにフェニックスの不死性
あれだけの自信にも一応理由はある
「ライザー様」
グレイフィアが口を挟む
「外部協力者を加えるのであれば、双方の合意による特別規定として正式に定める必要がございます」
「俺は構わん」
「私も異論はないわ」
「承知いたしました」
グレイフィアが俺へ向き直る
「大神白様はグレモリー眷属ではございませんので、今回のみ認められる外部協力者として扱います」
「分かりました」
「ただし、この試合はグレモリー家とフェニックス家の婚姻を決めるためのものです」
まあ、そこは何か制限が付くだろうな
「大神白様とライザー様による直接戦闘は禁止といたします」
「俺はライザーの眷属とは戦える?」
「可能でございます」
「救助や援護も?」
「問題ございません」
「でもライザー本人には直接攻撃出来ない」
「その通りです」
「逆にライザーも俺へ直接攻撃出来ない?」
「双方同条件といたします」
「なら大丈夫です」
「受けます」
「ありがとう、ハク」
「昔からの付き合いですから」
それを聞いたライザーが笑う
「リアス、試合は十日後でどうだ?」
「十日?」
「今すぐ始めても俺は構わんが、それではあまりにも面白くない」
「……いいわ」
「なら決まりだ」
グレイフィアが二人を確認して頷く
「試合日は十日後、その他の規定を含め、双方の合意として承りました」
「せいぜいその十日で足掻くといい」
「それは十日後に分かるわ」
リアス先輩は一歩も引かない
「私達が勝つ」
「楽しみにしているぞ」
ライザー達が魔法陣の光へ包まれ、十五人の眷属と共に部室から姿を消していく
グレイフィアも最後に一礼し、その場から転移した
静かになった部室で、イッセーが腹を押さえながら口を開く
「……十五人か」
「一人目にいきなり腹殴られた奴が言うと説得力あるな」
「ハクぅ!」
「だから周り見ろって」
「分かったよ!」
「本当に?」
「分かったって!」
アーシアが困ったように俺達を見ながら治療を続ける
祐斗は十五人が消えた場所を見ながら少しだけ表情を引き締めていた
朱乃もいつもの笑顔ではあるが、その目は真剣だ
「十日……」
リアス先輩が小さく呟く
「リアス」
朱乃が静かに呼ぶ
「今日は帰るわ」
「朱乃?」
「家で話しておきたいことがあるの」
その言葉を聞いたリアス先輩が何かに気付いたように朱乃を見る
「……分かったわ」
「また明日ね」
朱乃はそれだけ言って部室を出ていった
……うん
試合のことだよな?
多分
オシュトルの件じゃないよな?
side out ハク
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
side in 朱乃
「ただいま」
「おかえりなさい、朱乃」
家へ入ると、お母様がいつもの穏やかな笑顔で迎えてくれた
「今日は少し遅かったわね」
「リアスのところで話があったの」
「あら、何かあった?」
「ええ、お父様は?」
「居間にいるわよ」
「二人に話しておきたいことがあるの」
私の顔を見たお母様の笑みが少しだけ変わる
「分かったわ」
居間へ入ると、お父様もこちらを見る
「おかえり、朱乃」
「ただいま、お父様」
「朱璃から話があると聞いたが」
「ええ」
二人の前へ座る
まずは
「お父様」
「ん?」
「ハクがオシュトルって名前で、アザゼル総督と小学生の頃から付き合いがあるって今日初めて聞いたんだけど」
「…………」
お父様の動きが止まった
「あなた?」
お母様まで隣を見る
「……朱乃、その話をどこで?」
「ハク本人からよ」
「そうか……」
「知ってたの?」
「……知っている」
「最初に総督へ引き合わせたのもお父様?」
「……私だ」
「あなた?」
今度はお母様の声が一段低くなった
「朱璃、これはだな――」
「私も初めて聞いたんだけど」
「いや、当時はハク君本人から名前を伏せてほしいと頼まれていたんだ」
「それは今日聞いたわ」
「本人だけでなく大神家へ危険が及ぶ可能性も考えてのことだった、だから私も必要以上に話すべきではないと――」
「それは分かるわ」
「なら――」
「でも何年前の話?」
「…………」
お父様が黙った
「私、ハクとはずっと一緒にいるわよね?」
「そうだな」
「お父様もハクとずっと会ってるわよね?」
「……そうだな」
「その間、一度も話してくれなかったわよね?」
「…………」
「しかもハクがオシュトルとして今も総督と付き合っていることまで知ってたんでしょう?」
「知ってはいる」
「あなた?」
「いや、朱璃、待ってくれ」
「私にも話してませんよね?」
「それは……」
「お父様?」
「…………すまない」
お父様が目を逸らした
「てっきりハク君本人から話しているものだと……」
「今日まで誰も知らなかったわよ」
「…………」
「あなた?」
「……申し訳ない」
お父様が小さく頭を下げる
なんだろう
本当はもっと色々聞こうと思っていたのに、ここまで素直に謝られると少し困る
「まあ、ハクにもあとで詳しく聞くけど」
「そうしてくれ」
「お父様もまだ説明終わってないからね?」
「まだ続くのか?」
「続くわよ」
「あなたの分が一件増えただけでしょう?」
お母様の一言に、お父様が何も言えなくなる
少しだけすっきりした
「それで、もう一つ話があるの」
「……まだあるのか?」
「こっちが今日の本題よ」
「今までのは本題じゃなかったのか!?」
「リアスの婚約のこと」
お父様の表情が一瞬で変わった
「婚約?」
「ええ」
そこから今日部室であったことを最初から話していく
リアスに婚約者がいたこと
相手がフェニックス家の三男、ライザー・フェニックスであること
リアスが婚約を拒否したこと
十日後、婚約を賭けた特別試合を行うこと
「そうか」
話を聞き終えたお父様が静かに腕を組む
「それで朱乃はどうしたいんだ?」
「リアスの眷属になろうと思っています」
二人の表情が少しだけ変わった
それでもすぐに反対されることはなかった
「以前もリアスちゃんの眷属になる話があったでしょう?」
お母様の問いに頷く
「ええ、中学生の頃に一度ね」
あの頃も私は、リアスの眷属になること自体は嫌ではなかった
イッセーも一週間考えた末に、眷属になることを選んでいた
でも出来なかった
当時のリアスでは、私達を眷属として転生させることが出来なかった
「今のリアスちゃんなら出来ると思うの?」
「昔よりずっと強くなってるもの、今ならきっと」
「そう」
お母様はそれだけ言って微笑んだ
「なら私は反対しないわ」
「お母様」
「朱乃が何も考えずに決めたことなら止めるけれど、そうじゃないのでしょう?」
「うん」
「リアスちゃんのことが好きなんでしょう?」
「友人としてね」
その言葉を口にした瞬間、自分の中で決まったものがあった
「眷属だから友人になるんじゃない」
リアスだから一緒にいた
グレモリー家だからじゃない
悪魔だからでもない
「友人だから、あなたの眷属になるのも悪くない」
お父様が小さく笑った
「なら俺から反対することはない」
「ありがとう、お父様」
「ただ、眷属になる話とは別に、ひとつだけ聞いておきたい」
「何?」
「ハク君のことだ」
「ハク?」
お父様の表情は真剣だった
「お前は私の娘だ」
「ええ」
「悪魔になるかどうかに関係なく、人間より遥かに長く生きる」
その言葉に、少しだけ目を伏せる
分かっている
ずっと前から
「ハク君がこのまま人間として生きるなら、いずれお前とは生きる時間が大きく違ってくる」
「……分かってるわ」
「それでもか?」
「それと私がリアスの眷属になることは別よ」
迷わず答える
「私はハクに合わせるために悪魔になるわけじゃない」
逆も同じ
「私が長く生きるからって、ハクに悪魔になってほしいとか、人間をやめてほしいとか、そんなことを言うつもりもないわ」
「朱乃」
「ハクがどう生きるかはハクが決めることよ」
人間として生きるのか
別の何かを選ぶのか
それはハクが決めること
「私がどう生きるかは私が決める」
リアスの眷属になることも
ハクの隣にいることも
「だから、これは私が決めたことよ」
「そうか」
「ただし」
少しだけ笑う
「ハクから離れるつもりはないけれど」
「あらあら」
お母様が頬へ手を当てて楽しそうに笑う
「お母様?」
「何でもないわよ」
「絶対何でもない顔じゃないでしょう」
「朱乃も大きくなったなと思って」
「もう高校三年生よ」
「そういう意味ではないんだけどな」
お父様まで何とも言えない顔をしている
「お父様まで何?」
「いや……ハク君も大変だなと思ってな」
「どういう意味?」
「何でもない」
「二人とも何なの?」
結局答えてくれなかった
でも反対もされなかった
「……まあ」
ふと今日の部室を思い出す
「そもそもあのハクが、本当にずっと普通の人間のままなのかは今日ちょっと自信なくなったけど」
「…………」
お父様が黙った
「お父様?」
「いや」
「何?」
「それについては俺も何とも言えん」
「でしょ?」
「小学生の頃から仮面を被ってグリゴリの総督と渡り合っていた子供だからな」
「お父様」
「ん?」
「それ、また説明責任の話に戻っていい?」
「…………」
「あなた?」
「いや待て、今のは失言だ」
「何をどこまで知ってるのかしら?」
「朱乃、明日は学校だろう?」
「話を逸らさないで」
「あなた?」
「…………」
どうやら今日の話は、もう少し長くなりそうだった
side out 朱乃
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side in ハク
翌日の放課後
「リアス」
部室へ入ってきた朱乃が、いつもより少し真剣な声でリアス先輩を呼んだ
「話があるの」
「何?」
「私をあなたの眷属にして」
リアス先輩の目が大きく開く
「朱乃……」
「昨日、家でも話してきたわ、お父様もお母様も了承してくれた」
「でも本当にいいの?」
「ええ」
朱乃はいつものように笑う
「眷属だから友人になるんじゃないもの」
リアス先輩を真っ直ぐ見る
「友人だから、あなたの眷属になるのも悪くないわ」
「……そう」
リアス先輩が少しだけ目を伏せる
やがて顔を上げた時には、嬉しそうに笑っていた
「ありがとう、朱乃」
その手に現れたのは一つの駒
中学生の頃
朱乃自身は眷属になることを了承していた
それでも当時のリアス先輩には出来なかった
イッセーも同じだった
あの頃のリアス先輩では、二人を眷属として迎えるだけの力が足りなかった
でも今は違う
リアス先輩も何年も戦い、鍛えてきた
「今度こそね」
「ええ」
赤い光が二人を包んだ
「……っ」
朱乃の身体から一瞬強い力が溢れ、それがリアス先輩の魔力と混ざり合う
拒絶されない
止まらない
駒はそのまま朱乃の身体へ入り、周囲を包んでいた光が静かに収まった
「……成功した」
イッセーが小さく呟く
リアス先輩もしばらく何も言わなかった
昔は出来なかった
今は
それだけでも、リアス先輩があの頃からどれだけ強くなったのか分かる
「おめでとう、朱乃」
「ありがとう、リアス」
朱乃が自分の身体を確かめるように手を握ったあと、俺を見る
「ハク」
「ん?」
「昨日の件なんだけど」
嫌な予感
「女王になった感想じゃないの?」
「それもあとで聞くわ」
「じゃあ何?」
「お父様への説明責任追及、ちゃんとしてきたわよ」
「本当にやったの!?」
「もちろん」
「バラキエルさん大丈夫?」
「最終的にお母様も参加したわ」
「……今度何か持って謝りに行こうかな」
「ハクも説明する側だからね?」
「俺も!?」
「当たり前でしょう?」
「いやでも最初に名前を伏せてって頼んだの俺だけど、その後ずっと黙ってたのはバラキエルさんで――」
「ハク?」
「はい」
「あとでね」
「……はい」
イッセーが肩を震わせている
「イッセー」
「な、なんだよ」
「笑った?」
「笑ってねぇよ」
「こっち向け」
「嫌だ」
「お前昨日ミラに腹殴られた件、もう一回掘り返すぞ」
「卑怯だろそれ!」
「相手しか見えなくなる癖、直せって昔から言ってるだろ」
「またそれ言う!?」
「今日も言う」
「ハク!」
祐斗が苦笑し、アーシアは困ったようにイッセーを見る
「イッセーさん、でも昨日は本当に危なかったですよ」
「アーシアまで!?」
「その通りだぞ」
「ハクは黙れ!」
「さて」
リアス先輩が手を叩く
部室の空気が変わった
「昨日は試合へ出せる眷属が三人だったけれど、これで四人になったわ」
朱乃
祐斗
アーシア
イッセー
本来ならもう一人、ギャスパーもリアス先輩の眷属だ
ただしあいつは今も封印中で、今回の試合へ参加することは出来ない
そして俺は眷属ではなく、今回だけ認められた外部協力者
「相手は十五人」
リアス先輩の言葉に全員の表情が引き締まる
「それだけじゃないわ、ライザー本人はフェニックス、不死に近い再生能力を持っている」
「俺はそいつ本人には手を出せないですからね」
「ええ」
リアス先輩が頷く
「ライザーを倒すのは私達の役目よ」
その言葉を聞いたイッセーが左手を握る
「十日あるんですよね?」
「十日しかない、よ」
「同じことです」
イッセーが笑った
「強くなればいいんでしょ?」
昔なら勢いだけの言葉だったかもしれない
でも今のイッセーには
既に
それ以前に、何年も一緒に鍛えてきた
「まず周りを見るところからな」
「また言った!」
「重要だからな」
「ハク!」
「今回は相手十五人だぞ、一人だけ見てたら昨日の二の舞だ」
「ぐっ……!」
やっぱり反論出来ないらしい
「決まりね」
リアス先輩が立ち上がる
「明日から十日間、全員で徹底的に鍛えるわ」
十日後
グレモリーとフェニックス
リアス先輩自身の未来を賭けた特別試合が始まる
というわけで、ライザー・フェニックス登場です!
そして原作では既に眷属だった朱乃ですが、この作品ではここでようやくリアスの
中学生の頃には朱乃本人も眷属入りを了承していたものの、当時のリアスでは転生させることが出来なかったので、今回の成功はリアス自身がそれだけ成長した証でもあります
ちなみに試合開始時点の戦力は
リアス側が朱乃、祐斗、アーシア、イッセーの四人
ギャスパーはいるけど出られない
そして何故か外部協力者としてハクがいる
ライザーくん、自分から許可しちゃったよ……
ただし流石にハクとライザーが直接殴り合うと色々台無しになるので、そこは特別ルールで直接戦闘禁止です
そして今回、何気にかなり大きいのが
オシュトル=ハク、ついに身内へバレる
今までアザゼルと何年も付き合っていたことを誰にも話していなかった男
なお最初から全部知っていたバラキエルさんには、娘と妻から説明責任が発生しました
南無
あとイッセー
ハクが昔から言ってるでしょう
周りを見ろ
次回から十日間の修行編です
原作より既にかなり強い連中を、さらにどう鍛えるのか
そしてハクは外部協力者として何をするのか
次回もよろしくお願いします!