原作二巻の修行内容をベースにしつつ、これまでハク達と鍛えてきたイッセーなので、その辺りを踏まえて色々と変更しています
あと大神家、しばらく合宿所になります
道場に結界張っておいて本当に良かった……
それではどうぞ!
ライザーとの特別試合まで十日
朱乃がリアス先輩の
「……これ、本当に十日分だよね?」
タオルの束を抱えた
「そのはずなんだけどなぁ」
「十日でこの量なの?」
「そこは俺に聞かれても──」
「あら、何か言った?」
「何も言ってません、リアス先輩」
背後から聞こえた声へ振り返るより先に答えると、猫音が肩を揺らして笑い始める
「お兄ちゃん、そういう時だけ反応早いね」
「生きるために必要な能力なんだよ」
「誰から生き延びるつもりなのかしら?」
「さあ?」
「ハク?」
「荷物運んできます!」
この十日間、リアス先輩達には大神家へ泊まり込んでもらうことになっている
学校についてはリアス先輩が必要な手続きを済ませ、試合までは修行へ集中することになったらしい
毎日それぞれの家へ戻って翌朝また集まるより、道場も裏山もある大神家へ纏めてしまった方が遥かに効率がいいし、黒歌と白音は元からここにいるため都合もいい
猫音は今回の試合とは関係ないが、ここはこいつの家でもあるのだから当然普段通り生活するし、何かと手伝ってくれるらしい
唯一クオンだけは普通に学校へ通い、放課後になったら様子を見に来ると言っていた
「ご主人、これはどこに置けばいいにゃ?」
「それリアス先輩の荷物だろ、客間」
「分かったにゃ」
「姉さま、それ私の荷物です」
「似たようなものにゃ」
「全然違います」
「白音、黒歌に持たせた時点で諦めろ」
「兄さまが姉さまに頼んだのでは?」
「俺のせい!?」
そんな調子で朝から騒ぎながら荷物を片付け、全員が道場へ揃ったところでようやく修行開始──とはならなかった
「リアス先輩、先に頼んでたやつお願いします」
「ええ、朱乃」
「分かっているわ」
二人が道場の四隅へ移動し、足元へ魔法陣を展開する
俺やイッセーだけなら昔から使っている場所だから力加減も分かっているが、今回はリアス先輩に悪魔となったばかりの朱乃、それに
何もせずここで魔力を撃ち合えば、十日後どころか今日中に道場がなくなりかねない
床へ浮かんだ魔法陣から淡い光が広がり、壁を伝って天井まで覆った後、今度は道場そのものへ溶け込むように消えていく
「これで道場を覆う防護結界は完成よ、魔力や衝撃に対してかなり強くしておいたわ」
「かなり?」
イッセーが嫌そうに聞き返すと、リアス先輩が俺を一度見てから答えた
「ハクが本気を出さなければ問題ないと思うわ」
「なんで俺基準なんですか」
「ご主人だからにゃ」
「理由になってないだろ」
「兄さまの場合、念のためということだと思います」
「白音まで!?」
「裏山で使う訓練区画にも同じ系統の簡易結界を張っておくわ、そちらは地形そのものを壊さないためのものね」
「助かります」
「その代わり、結界があるからって好き放題していいわけじゃないわよ?」
何故かリアス先輩の視線が俺とイッセーを順番に通過した
「俺も!?」
「昔山に穴開けた実績あるだろ」
「お前だって色々やってるだろ!」
「だから二人ともよ」
「はい」
「はい……」
初っ端から釘を刺されたところで、ようやく全員を道場の中央へ集める
リアス先輩、朱乃、木場、アーシア、イッセー
今回の特別試合へ実際に参加する五人に、外部協力者として俺が加わる
黒歌と白音は本番へ参加出来ないものの、序盤は人数差を作るための訓練相手になってもらう予定だ
「最初に言っとくけど、この十日で全員を急に何倍も強くするとか、そういうことは考えてないからな」
「じゃあ何すんだ?」
肩を回していたイッセーが不思議そうに聞いてくる
「今持ってる力を、集団戦でちゃんと使えるようにする」
「俺達、今までも一緒に戦ってただろ?」
「戦ってたな」
「だったら──」
「昨日のお前、ライザーしか見えてなかったけど」
「うっ」
分かりやすく言葉が止まった
「ライザーがミラに命令して、ミラが動いたのにも反応が遅れて、気付いた時には腹に入れられてただろ」
「……うぐっ」
「しかもお前、仙術で周囲の気配を拾えるのに」
「それ言われると何も返せねぇ……」
イッセーは昔から仙術を使える
周囲の気を感じ取り、それを身体へ巡らせて身体能力を強化し、闘気を纏い、気弾を飛ばすところまで何年も前からやっている
つまりミラを感知出来る能力がなかったわけじゃない
問題はそこじゃない
「お前の場合、周りが見えないんじゃなくて、頭に血が上がると一人だけに意識持ってかれて、入ってきてる情報を自分で捨てるんだよ」
「自分で捨ててるって言われてもなぁ」
『だが事実だ、相棒』
「ドライグまで!?」
『昨日は我から見ても分かりやすかったぞ』
「くそぉ……」
「というわけで木場」
「うん」
木場が用意していた木刀を一本イッセーへ渡し、自分も軽く構える
「イッセー君、まず僕とやろうか」
「おう!」
「ただし僕の剣だけ見ちゃ駄目だよ」
「剣術の練習でいきなりそれ言う!?」
「剣を見る、僕を見る、それから周囲も見る、僕の剣を受けることだけに集中しない」
「簡単に言うなぁ」
「慣れだよ」
「木場までハクみたいになってきた!」
「それ失礼じゃない?」
「否定しづらいのやめろよ」
言い合っている間にも木場は待たず、そのまま一気に距離を詰めた
正面から振られた木刀をイッセーが受け、二撃目を横へ流し、続く三撃目には仙術で強化した身体を沈めて対応する
木場が速いのは昔からだが、俺達と一緒に特訓するようになってから、その速度はさらに磨かれている
とはいえイッセーだって何年も一緒に鍛えてきた
一対一なら簡単に圧倒されるほど弱くはない
「おらっ!」
「いいね、でも──そこ」
「ぐっ!」
木場の肩が僅かに下がった直後、木刀がイッセーの脇腹へ滑り込む
「いてぇ!」
「今、僕の木刀しか見てなかったよね」
「振ってくるんだから見るだろ!」
「僕の肩や腰も見れば、どこへ振るかもっと早く分かるよ、武器だけが勝手に動いてるわけじゃないからね」
「肩と腰……なるほど」
「じゃあもう一回いくよ」
「おう!」
今度は木場自身も視野へ入れるように意識したらしく、数合は綺麗に受け、木場の重心が変わった瞬間に一歩下がる
「よし!」
「イッセー先輩」
「へ?」
声がした時には、白音がもう懐へ潜り込んでいた
小柄な身体をさらに低く沈めたまま、ほとんど助走もなく拳が身体の中心へ突き刺さる
「ぐぉっ!?」
「また腹ぁぁぁ!?」
昨日とほとんど同じ場所を押さえてイッセーが後退し、白音は何事もなかったように構えを戻す
「空いていました」
「昨日もそこやられたんだぞ!」
「ですから今日も確認しました」
「確認しなくていい!」
「いや、してもらえ」
「ハク!」
「白音みたいに小柄な相手が懐へ入った時、お前そこ空く癖あるぞ」
「兄さま」
「何?」
「次はもう少し強くしても大丈夫ですか?」
「待て待て待て!」
「いいぞ」
「良くねぇ!!」
そこからは木場だけでなく白音まで加わり、正面から木刀が振られたと思えば、その下を潜るように白音が懐へ入り込んでくる
さらに数分も経たないうちに黒歌まで楽しそうに混ざり始め、今度は視界の外から妖術まで飛んでくるようになった
「右にゃ」
「分かってる!」
「イッセー先輩、下です」
「そっちも──うおっ!」
「イッセー君、前」
「木場まで!」
目だけで全部を追っていた最初のうちは、一人へ対応する度に残り二人から攻撃を受けていたが、何度も繰り返すうちにイッセーの意識が少しずつ変わっていく
視界だけじゃなく、昔から鍛えてきた仙術で周囲の気配を拾い、木場の木刀を受けるのと同時に白音の踏み込みを察知し、そこへ黒歌の妖術が飛んでくる前に身体をずらす
「よし!」
「今の全部分かった!」
「なら次行くよ、イッセー君!」
「来い!」
木場が一気に速度を上げ、イッセーの横を抜けたままさらに前へ出る
その速度自体は流石と言えるが
「祐斗!」
リアス先輩の声が飛び、木場が足を止めた
「前に出すぎよ!」
「あ……」
振り返れば他のメンバーとかなり距離が開いている
「木場はそっちだな」
「僕?」
「一人ならその速度で押し切ってもいいけど、今回はチーム戦だろ、一人だけ前へ出たら周りから囲んでくれって言ってるようなもんだ」
「なるほどね」
「速度を捨てる必要はない、ただ味方がどこにいて、自分がどこまでなら戻れるのかは意識しろ」
「分かったよ、ハク君」
「それとリアス先輩」
「私?」
「今みたいなの、次から俺より先に止めてください」
リアス先輩は少しだけ目を丸くしたものの、すぐに俺の意図へ気付いたらしく、小さく息を吐いて頷いた
「そうね、本番で指示を出すのは私だもの」
「俺は途中から敵役にも回るんで、俺の指示を待つ癖がついたら逆効果です」
「分かったわ」
「あらあら、リアスも修行するのね」
「朱乃もですよ」
「私も?」
「全員」
「ハクもでしょう?」
「…………」
「ご主人だけ安全なところにいるのはずるいにゃ」
「兄さまも鍛錬するべきです」
「お兄ちゃん、頑張って」
いつの間にか飲み物を持ってきていた猫音まで混ざり、四方向から攻撃される羽目になった俺は、とりあえず全員纏めて聞こえなかったことにした
午前中いっぱい使ってそれぞれの癖を洗い出した後、昼を挟んで今度は朱乃の調整へ移る
朱乃は昨日まで悪魔ではなかった
元々人間と堕天使の混血として雷も光力も扱っていたところへ、昨日リアス先輩の
何か新しい力を一から覚えるというより、今までと同じ感覚で動かした時にどれだけ差が出るのかを確かめる方が先だった
「これくらいなら──」
朱乃の指先へ雷が集まり
バヂッ!!
「朱乃!」
「あら」
想定していたより太い雷が床へ走るが、朝のうちに張ってもらった結界が淡く光っただけで、床そのものには傷一つ残らなかった
「おお……結界張っといてよかった」
「そこ?」
「家壊れたら修行どころじゃないからな」
「ごめんなさい、少し出すぎたわね」
朱乃自身も少し驚いたように自分の掌を見る
「昨日までより明らかに出力上がってるな」
「ええ、同じ感覚で流すと一段大きくなるみたい」
「ならまずそこから合わせるか」
「そうね」
もう一度、今度は慎重に雷を集めながら朱乃がイッセーへ視線を向ける
「魔力は単純に力を押し出せばいいというものではないの、どう動かすか、どんな形にするか、頭の中でしっかりイメージを作ることが大切なのよ」
「イメージねぇ」
イッセーが自分の掌へ魔力を集めながら首を傾げ、暫く考えた後で俺を見る
「これ、気を練る時とちょっと似てないか?」
「俺も思った」
「やっぱり?」
「全く同じものではないにゃ」
いつの間にか黒歌が隣へ座っており、その横には白音までいる
「仙術は自分の生命力だけで完結するものじゃないにゃ、周囲にある自然の気も感じて、その流れへ自分を合わせながら使うものにゃ」
「魔力とは根本的に別物です」
白音が掌へ薄く気を集めながら続ける
「ただ、力の流れを感じて、それを無理やり動かそうとしないという部分は似ています」
「うん、私もそう思う」
今まで道具を片付けていた猫音も自然にこちらへ混ざり込み、イッセーの掌を覗き込む
「仙術の時も、力任せに動かそうとするとすぐ崩れるよね」
「猫音も最初それだったな」
「お兄ちゃんもでしょ」
「まあね」
「神楽舞しながらやらされた時、本当に大変だったんだから」
「それは俺も一緒だったから母さんに言って」
「お兄ちゃんも止めなかったじゃん」
「俺も被害者側なんだよ」
そんな俺達の会話を聞きながら、イッセーは今度こそ集中するように目を閉じた
悪魔になって得た魔力を扱う経験そのものは浅いが、力を感じて身体の中へ巡らせる訓練なら何年もしている
仙術で気を練る時と同じように自分の中を探り、掌へ固めていた魔力を少しずつ腕全体へ広げていくと、最初は揺れていた魔力が徐々に薄い膜のように安定し始めた
「おっ」
「出来た!」
「まだ粗いけどな」
「一回くらい普通に褒めろよ!」
「出来ると思ってたし」
「それ、褒めてるようで褒めてねぇからな!」
『相棒、今の感覚を覚えておけ、力は外へ撃ち出すだけのものではない』
「分かってるって、ドライグ」
「案外早かったにゃ」
「何年仙術やってると思ってんだよ」
「小学生の頃、何回逃げようとしたっけ?」
「全部ハクに捕まったんだよ!」
その日の夜は、朝から動き続けていた全員が流石に疲れ切っていた
道場を出れば終わりではなく、大神家で合宿している以上、そのまま風呂、夕食、そして食卓を囲んだ反省会へ続いていく
「お兄ちゃん、タオルこれで全部?」
「多分、ありがと猫音」
「飲み物も補充しとくね」
「助かる」
「ご主人、夕飯まだかにゃ」
「黒歌は手伝え」
「私は味見担当にゃ」
「一番いらない担当だろ」
「姉さま、既に三回味見してます」
「白音、数えてたにゃ?」
「はい」
「黒歌ちゃん、それ明日の分だから食べないでね」
「猫音ちゃんまで厳しいにゃ……」
そんな賑やかなやり取りが落ち着いた後、リアス先輩が昼間の訓練を一人ずつ振り返っていく
祐斗は速度を殺す必要はないが、味方との距離を見失わないこと
アーシアは負傷者だけを見るのではなく、そこへ向かうまでの道や自分自身の安全も見ること
朱乃は新しく増えた魔力へ身体の感覚を合わせること
そしてリアス先輩自身も、自分で戦いながら全員を見ること
「イッセー」
「はい!」
「周りを見る」
「今日それ何回目っすか部長!?」
「出来るようになるまでよ」
「明日も言われそう……」
「多分明後日もな」
「ハクは黙れ!」
翌日も、その次の日も同じことだけを繰り返したわけじゃない
一つ出来るようになれば、その分だけ次の課題が見えてくる
朱乃は新しい出力へ少しずつ慣れ、木場は自分一人だけで前へ出ることが減り、アーシアも怪我人が出た瞬間に考えなしで飛び出すことはなくなっていった
そんな中、三日目の午後になって、魔力を身体へ纏わせる練習をしていたイッセーが朱乃の雷をじっと見つめ始めた
「なあ朱乃」
「何?」
「その雷って、俺の魔力に混ぜられないのか?」
「私の雷を?」
「雷魔法を覚えるんじゃなくてさ」
イッセーは上手い言葉を探すように腕を見ながら続ける
「雷そのものを貰うんじゃなくて、雷っぽい性質だけ俺の魔力に乗せるっていうか」
「能力を貰うんじゃなくて、性質だけ自分の力に乗せるのか」
「そう、それ!」
『面白い発想だな、相棒』
「ドライグもそう思う?」
『お前は仙術で力の流れを感じ取ることに慣れている、性質まで見分けられるなら試す価値はある』
「よっしゃ、朱乃!」
「待てイッセー」
「なんだよ!」
「最初から朱乃の雷を全力で入れてもらうなよ」
「そんな馬鹿じゃねぇ!」
「昔ドラゴンショットで山抉った奴が何言ってんだ」
「あれ何年前の話だよ!」
「後始末した側は忘れねぇんだよ」
「あらあら、喧嘩はそこまでにして」
朱乃が本当に小さな雷を指先へ集め、イッセーの手へ触れる
「いてっ!」
「普通に感電したな」
「見りゃ分かる!」
「イッセー、今のだと雷そのものを自分へ入れようとしてるにゃ」
黒歌が覗き込みながら言う
「相手の気を読む時、相手の気を全部自分へ吸い込むわけじゃないにゃ」
「あ」
「どういう性質の力なのかを感じるだけです」
白音も続け、猫音もイッセーの腕へ視線を向ける
「それと、自分の魔力の流れを崩さない方がいいと思う、さっき一回乱れてたよ」
「猫音も分かるのか?」
「魔力そのものは分からないけど、イッセーの気が乱れたのは分かった」
「なるほど、じゃあもう一回頼む朱乃」
「ええ」
二回目、三回目と何度か失敗しているうちに、朱乃から流された雷をそのまま保持しようとするのではなく、雷という力がどういう性質を持っているのかをイッセーが捉え始める
やがて朱乃の指先から離れた後も、イッセー自身の魔力に細い雷が走った
「お?」
「出来た!」
「そのまま籠手」
「おう!」
左腕へ
『Boost!!』
瞬間、雷の性質を帯びたイッセー自身の魔力が一気に膨れ上がる
「うおっ!?」
「イッセー!」
「大丈夫!」
慌てて出力を落とし、雷を消したイッセーが自分の腕を見つめた
「今の……出来たよな?」
「ああ、朱乃の雷を増幅したわけじゃない、お前が受け取った雷の性質を自分の魔力へ乗せて、その状態のお前自身をBoostした」
「エンチャントみたいなもんか」
「それだ!」
「名前までそのままなんだな」
「分かりやすいだろ!」
「なら僕の魔剣でも試せるかもしれないね」
木場が手を伸ばすと、そこへ炎を纏った魔剣が形作られる
「火属性」
「おお……」
それを消すと次は水、さらに風、土と順番に属性の違う魔剣が現れ、最後に木場が少し笑った
「他にも光と闇が作れるよ」
「そんなにあんのか!」
「魔剣そのものや僕の能力を使えるようになるわけじゃないよ」
「分かってる、魔剣から属性だけ受け取るんだろ」
イッセーが炎を纏った魔剣へ籠手を触れさせ、仙術で相手の気を読む時と同じように火の性質を探っていく
熱や燃える感覚を自分の魔力へ重ねていくと、籠手を覆っていた魔力が徐々に赤く揺らぎ始めた
「出来た!」
「試してみるか?」
「おう!」
イッセーが昔から使っている気弾を作り、そこへ魔力と火の属性を重ねる
『Boost!!』
「ドラゴンショット!」
放たれた気弾が標的へ直撃した直後、予想以上の炎が一気に広がった
「おおおっ!」
「ご主人」
「何?」
「燃えてるにゃ」
「……木場、水!」
「はい!」
「待て待て! 次の練習ついでに消火させる気だろ!?」
「丁度いいじゃん」
「絶対今考えた!」
水属性を受け取った二発目でどうにか火は消え、その後も風、土、闇と順番に感覚を確かめていく
風は気弾や踏み込みの流れへ影響し、土は魔力に重さや硬さを与え、闇は悪魔となった今のイッセーには比較的馴染みやすい
そして最後、木場が光の魔剣を出したところで
「よし、次──」
「待てイッセー」
「なんだよ」
「お前今悪魔」
「…………あ」
ようやく気付いたらしい
「あら、光は他の属性と同じようにはいかないわね」
『相棒、我も現段階では勧めん』
「ドライグまで」
「光属性を自分の魔力へ纏わせるんだぞ、下手したら自分で自分焼くからな」
「今日はやめます!」
「賢明だね、イッセー君」
「でもいつかはやる!」
「そこは諦めないんだな……」
個人の課題が見え、属性エンチャントの原型まで出来たところで、四日目からはそれまで別々にやっていた訓練を纏め始めた
朝のうちにリアス先輩と朱乃が裏山の一角へ簡易の防護結界を張り、その範囲内を使って木々の間を移動しながら攻撃を避け、仲間の位置を確認し、誰かが遅れれば速度を合わせる
その中でも一番苦戦したのは、敵を倒す訓練ではなく、アーシアを守ったまま全員で指定地点まで撤退するというものだった
「逃げるのか?」
イッセーが少し嫌そうな顔をすると、リアス先輩が首を横へ振る
「撤退よ、不利な状況なら一度下がって態勢を立て直す、それも戦術でしょう?」
「でも敵倒した方が早くないですか?」
「倒せるならね」
「人数差がある、負傷者がいる、相性が悪い、そんな状況でも毎回真正面から全部倒すつもりか?」
「……無理だな」
「なら覚えろ」
「追う側はご主人と私と白音かにゃ?」
「そう」
「楽しそうにゃ」
「姉さま、遊びではありません」
「白音もちょっと楽しそうだけどな」
「気のせいです」
最初は散々だった
俺がアーシアへ向かった瞬間、イッセーが完全に俺だけを追い始める
「ハク待てぇぇぇ!!」
「俺を追ってどうすんだ!」
「アーシア狙っただろ!」
「敵だからな!」
「イッセー、戻って!」
「でも部長!」
「戻りなさい!」
「っ……はい!」
イッセーが俺への意識を切った直後、逆方向から黒歌がアーシアへ回り込み、その横から白音まで低い姿勢で入ってくる
「隙だらけにゃ」
「祐斗、黒歌を止めて!」
「はい、部長!」
「朱乃は白音!」
「任せて!」
一度目は失敗、二度目は木場が先行しすぎて孤立し、三度目はアーシアが負傷したイッセーへ一直線に走ろうとしてリアス先輩に止められた
「アーシア、待って!」
「でもイッセーさんが!」
「祐斗が戻すわ、あなたが一人で前に出たら次に狙われるのはあなたよ!」
「……はい!」
失敗するたびに戻り、また最初から繰り返す
その度にリアス先輩の判断が早くなり、木場は自分だけが先へ出ることをやめ、アーシアも怪我人へ向かう前に周囲を見るようになっていった
そして何度目かの挑戦
「右!」
「見えてる!」
「イッセー先輩」
「腹はもう空けねぇ!」
「なら足です」
「そっちかよ!」
「朱乃!」
「ええ!」
「祐斗、戻って!」
「はい!」
「アーシアはそのまま!」
「はい!」
最後の一人まで指定地点へ入り込んだ瞬間、イッセーがその場へ倒れ込む
「撤退だけでなんでこんな疲れるんだよ!」
「相手見ながら下がる方が難しいからな」
「追う方は楽しかったにゃ」
「姉さまは完全に楽しんでいました」
「はい、お水」
待っていた猫音が水筒を差し出し、俺も受け取って一気に飲む
「お兄ちゃん達、まだ試合まで六日あるんだよね?」
「あるよ」
「その前に全員倒れないでよ」
「ちゃんと調整するって」
「本当に?」
「……多分」
「私も見張っとこ」
「信用してくれ!」
そんな四日目が終わり、翌朝
「イッセー、
「今?」
「今」
「戦うのか?」
「いいから」
イッセーが一度深く息を吸い、左腕を前へ出した
「
その声へ応えるように
『Welsh Dragon Balance Breaker!!!』
赤い光がイッセーの全身を包み込み、次の瞬間には真紅の
「よし」
「で?」
「その鎧、正確にどれくらい維持出来る?」
「…………」
『…………』
「ドライグ?」
『測ったことはないな』
「お前ら……」
「戦闘中に何時間着てられるかなんて考えねぇよ!」
「だから今日から測る」
「どうやって?」
「生活」
「…………は?」
「解除されるまでそのまま」
「待て」
「飯も」
「ハク?」
「休憩も」
「おい」
「修行も」
「待てって!」
「それと起きてる間は仙術の身体強化も維持」
「そっちまで!?」
「全開じゃなくていい、最低限でいいから切らすな」
『合理的だな、相棒』
「ドライグ!?」
「本番で鎧出した途端に仙術切るわけじゃないだろ、だったら両方維持した時の負担を知っとく必要ある」
「それはそうだけど!」
「寝る時は仙術切っていいぞ」
「お、そこは──」
「鎧はそのまま」
「優しくなかった!」
昼には早くも問題が出た
「食いづらい!!」
「茶碗割るなよ」
「この手で箸持つの難しいんだって!」
「イッセー先輩、落としました」
「白音取って!」
「自分で取ってください」
「冷たい!」
「イッセーさん、こちらなら持ちやすいですよ」
「アーシア優しい……」
「こっちの湯呑みも小さいよ」
「猫音ちゃんまで天使に見える」
「アーシアがいるだろ」
「そういう意味じゃねぇ!」
午後になっても鎧は解除させず、低出力のまま維持しながら仙術で身体を強化し、普段なら意識せず出来る動作まで一つずつ確認していく
鎧に意識を持っていけば仙術が薄れ、仙術へ意識を向ければ今度は鎧の出力が上がりすぎる
「仙術切れてるぞ」
「分かってる!」
「鎧に意識持ってかれすぎ」
「二つ同時って思ったより面倒なんだよ!」
「だから今やってるんだろ」
俺も仙術で身体を整えたまま、イッセーの拳を真正面から受けず半歩ずれて外へ流す
肩へ手を添え、力の方向を変えながらそのまま背後へ回った
「こう」
「簡単そうにやんなよ」
「簡単だから」
「お前基準にすんな!」
「……今の」
「ん?」
声の方を見ると、学校帰りの
いつ来たのか、猫音の隣へ荷物を置きながらさっきの動きをじっと見ている
「なんか私もやれそう」
「…………」
「なんで黙るの?」
「クオン、見るのとやるのは違うぞ」
「分かってるよ、軽くでいいから組手してみたい」
「武術やったことないだろ?」
「ないけど、今のハク見てたらなんとなく身体が動きそうで」
その言葉を聞いた瞬間、少し嫌な予感がした
この前病院へ運ばれた時のことが頭を過る
原因は結局分からないままだ
「無理しないこと」
「分かってる」
「変だと思ったらすぐ終わり」
「ハク、心配しすぎ」
「病院行った奴が言うな」
「……はい」
「久遠さん、お水ここに置いておきますね」
「ありがとう、猫音ちゃん」
仮面は出さない
俺も普段の稽古と同じ程度に仙術で身体を整え、道場の中央でクオンと向き合う
「好きに来ていいぞ」
「うん」
最初の踏み込みは普通だった
拳も遅く、軽く払えばそれで終わる
二度目は少し速くなったものの、まだ問題ない
ところが三度目、踏み込む直前にクオンの重心が変わった
「……」
さっき俺がイッセーへ見せた足運び
それを真似するように身体が滑り、右手を払えばその力へ逆らわず回転し、そのまま左の掌が伸びてくる
「クオン?」
「え?」
本人も分かっていない顔をしている
「もう一回来い」
「うん」
今度は仙術で気配を細かく拾いながら見る
踏み込みがさっきより明らかに速い
拳を逸らしても動きは止まらず、そのまま身体を沈めたと思った瞬間、鋭い蹴りが跳ね上がってきた
「──っ!」
速い
俺が想定していたクオンの速度を明らかに越えている
反射的に仙術の出力を一段上げて後ろへ退くと、蹴りが鼻先を抜ける
「ハク!?」
朱乃の声が聞こえたが、クオンはまだ止まらない
着地した足がそのまま次の一歩へ繋がった
まずい
一瞬だけ遠慮を捨て、こちらから距離を詰める
手首を取り、肩へ手を添え、勢いを殺しながら身体を回し、床へ触れる寸前で止めた
「…………」
「…………」
クオンが目を瞬いている
俺も似たような顔をしていると思う
「ご主人」
「何?」
「今、一瞬本気で動いたにゃ?」
「仙術の出力は上げた」
「ハクが?」
朱乃まで驚いた顔をしており、白音もクオンをじっと見ている
「速かったです」
「クオン、今のどうやった?」
「分かんない」
「見ただけ?」
「ハクがやってたから、同じ感じで動けば出来そうって──」
立ち上がろうとしたクオンの顔が突然固まる
「いたっ」
「ん?」
「……いたたたたた!?」
「クオン!?」
そのまま座り込み、足、腕、背中と次々に痛みを訴え始めた
「全部!?」
「なんか急に……いたた……!」
「アーシア!」
「はい!」
アーシアがすぐに
「筋肉が凄く疲れてるみたいです」
「筋肉痛?」
「多分……」
「早くない?」
「私に聞かないでよ……」
数分前まで俺へ蹴りを飛ばしていたクオンは、結局その後暫くまともに動けなくなった
猫音がすぐ布団を持ってきて寝かせ、水まで用意する
「久遠さん、無理に起きないでください」
「うん……ありがとう猫音ちゃん」
「水いる?」
「いる……」
「ハク」
「ん?」
「私もやれそうって言ったの、取り消していい?」
「遅い」
「だよね……」
単純に力が上がっただけじゃない
見ただけの動きを身体が再現し、その出力に身体そのものが追いついていないように見える
病院の時から何かが変わっているのは確かだと思う
けど、今の俺にはそれが何なのか分からない
そしてその日の夜
「ガシャッ」
「…………」
「ガシャッ」
「…………」
「ガシャッ」
「イッセー!」
「仕方ねぇだろ鎧なんだから!」
「寝返りする度にうるさいにゃ!」
「俺だって脱ぎたいんだよ!」
「まだ維持出来てるから駄目」
「ハクぅぅぅ!」
「イッセー先輩、皆寝られません」
「白音まで!」
「お兄ちゃん、明日からイッセーさんだけ別の部屋にした方がいいと思う」
「隔離すんな!!」
鎧が解除されたのは夜中だった
真紅の鎧が消えた瞬間、イッセーはそのまま布団へ沈み込み、翌朝になってもう一度鎧を出せと言った俺を本気で睨んできた
「鬼」
「本番は待ってくれないぞ」
「正論で殴るな!」
「ほら、出せ」
「くそぉ……
『Welsh Dragon Balance Breaker!!!』
赤い光と共に
「……昨日より楽かも」
『僅かだが無駄が減っている』
「なら次いくぞ」
「嫌な予感しかしねぇ!」
五日目までと違って六日目からは、鎧を維持出来ればそれで終わりじゃない
低出力で
「最初から全部最大にするなよ」
「分かってる!」
『力を増やすことだけを考えるな、相棒』
「ドライグ?」
『必要な力を、必要な瞬間に使え』
「了解!」
朱乃の雷を受け取り、仙術を維持したまま自分の魔力へ雷属性を乗せ
『Boost!!』
「うおっ!?」
踏み込みが本人の予想以上に伸び、危うく前のめりになる
「仙術強すぎ!」
「今落とす!」
「属性も一回切れ!」
「忙しいんだよ!」
「実戦はもっと忙しい!」
「正論ばっかり!」
木場の風属性でも同じだった
魔剣から風の性質を受け取り、仙術で強化した脚と鎧の出力まで重ねて一気に踏み込む
「速っ──」
「止まれねぇぇぇ!!」
「イッセー君!?」
「馬鹿!」
俺が仙術で追いついて肩を掴み、二人纏めて軌道を変えたことで木へ突っ込まずには済んだものの、地面を派手に抉ったところで訓練区画の結界が淡く光った
「……結界張っといて本当によかった」
「今それ言う!?」
「家と山は大事なんだよ!」
「俺も大事にしろ!」
「捕まえただろ!」
「そういう意味じゃねぇ!」
火、水、風、土、闇
属性によって変わるのは攻撃だけじゃない
だから七日目になる頃には、新しく出来ることを増やすよりも、既に出来るものを必要な時だけ切り替える訓練の方が多くなっていた
鎧は低出力で維持し、仙術は切らさない
攻撃直前に属性を纏い、Boostし、攻撃が終わればすぐに出力を落とす
それを一人でやるだけじゃなく、リアス先輩の指示を聞き、木場や朱乃の位置を見て、アーシアを守りながら続ける
最初は全部を重ねた瞬間に自分の出力へ自分が振り回されていたイッセーも、ようやく力を使うことと力を制御することが別だと身体で理解し始めていた
その日の夜はいつもより訓練を早く切り上げ、食卓で翌日からの模擬戦について確認する
「明日から黒歌と白音は模擬戦には参加しない」
「了解にゃ」
「はい」
「なんで?」
イッセーが首を傾げる
「本番に二人はいないから」
「あ」
「八日目と九日目は、本番に出る五人と俺だけでやる」
「相手は?」
全員が俺を見る
「俺」
「…………」
「なんで黙る」
「嫌な予感しかしねぇ」
「明日は鉄扇だけ」
「明日は?」
「九日目は刀も使う」
「聞かなきゃよかった!」
「その前にもう一度ライザーについて確認するわ」
リアス先輩が机の上へ簡単な配置を書きながら、フェニックスについて話し始める
炎と共に身体を再生する力
倒しても立ち上がる相手
それでも戦う本人の消耗や精神まで完全な無限というわけじゃない
「つまり」
イッセーが拳を握る
「倒す」
「再生する」
「また倒す」
「また再生する」
「また倒す!」
「……イッセーには分かりやすいわね」
「だろ?」
「問題はライザーまで辿り着くことだけどね、イッセー君」
「十五人いるもんな」
「俺はライザー本人へ直接攻撃出来ないから、眷属を削る、救助する、道を作る、そこまで」
「最後にライザーを倒すのは」
リアス先輩が顔を上げ、全員を見る
「私達よ」
翌日、裏山の訓練区画へ全員が揃う
黒歌と白音は見学
猫音も飲み物とタオルを持って二人の横へ座り、放課後にやって来たクオンも今日は大人しくその隣にいる
「クオン」
「何?」
「組手したいとか言うなよ」
「言わないよ!」
「本当に?」
「まだあの筋肉痛覚えてるからね!?」
「ならよし」
「お兄ちゃん、今日はクオンさんより自分の心配した方がいいんじゃない?」
「俺?」
「皆凄い顔してるよ」
確かに完全に戦闘前の顔だ
ならこちらも応える
意識を向けると、
仙術で身体能力を引き上げ、周囲の気配を拾い、闘気を全身へ巡らせる
右手には鉄扇
今日はそれだけだ
「……本当に雰囲気変わるね」
クオンの声が聞こえる
「久遠殿」
「は、はい」
「その場より動かれぬよう」
「うん……じゃなくて、はい」
鉄扇を開く
「リアス殿」
「ええ」
「本日は某を敵と思われよ」
「最初からそのつもりよ」
「結構」
ここからは助言しない
先生ではなく、敵として動く
「では──参る」
最初に狙うのはアーシア
治療役を先に潰すのは当然だ
「来るわ!」
「イッセー!」
「分かってる!」
真紅の鎧がすぐアーシアとの間へ入り、仙術による身体強化も切れていない
なら右へ回る
木場が入る
「祐斗、深入りしないで!」
「はい、部長!」
上から朱乃の雷
鉄扇へ闘気を纏わせて流し、その先に待っていたリアスの滅びの魔力を身体を沈めて避ける
「イッセー、今!」
『Boost!!』
雷を纏った拳が来る
重い
鉄扇で正面から止めず、外へ流し、その勢いのままイッセーの体勢を崩す
「正面のみを見てはならぬ」
「分かってる!」
言葉通り、イッセーの視線は某だけを追っていない
木場、朱乃、アーシア、リアス
全員の位置を拾いながら動いている
「……見事」
「今褒めた!?」
「戦の最中であるぞ」
「うおっ!」
籠手を弾き、崩れたところへ入ろうとすれば木場が即座に間へ入る
「祐斗、二秒だけ!」
「はい!」
以前なら一人を崩せばそのまま連鎖していた
今日は一人を崩せば次が入り、アーシアへ向かえば前衛が戻り、木場を孤立させようとすればリアスが止める
ならばさらに崩すだけ
「まだ甘い」
「まだ上げるの!?」
「戦の最中であるぞ、赤龍帝」
「急に赤龍帝呼びすんな! 怖ぇよ!」
八日目の模擬戦は、結局某へ一撃も届かないまま終わった
それでも何度崩しても陣形が完全には切れず、初日とは比較にならないほど長く持ちこたえていた
仮面を収納する
「ふぅ……いやぁ、結構粘ったな」
「急に戻るなよ!!」
「何が?」
「さっきまで某とか言ってただろ!」
「仮面収納したから」
「喋り方まで一緒に収納すんな!」
「便利な仮面にゃ、ご主人」
「兄さまは昔からこうです」
「お兄ちゃん、見てる側でもちょっと怖かったよ」
「猫音まで?」
クオンもこっちを見たまま少し考える
「五日目に私とやった時とは全然違うね」
「そりゃ仮面も出してるし、仙術も普段より上げてるからな」
「明日は刀も?」
「使う」
「見学に徹します」
「賢明」
そして九日目
昨日と同じ訓練区画で仮面を顕現する
ただし今日は右手の鉄扇だけじゃない
腰には刀
「昨日までと同じと思われぬことだ」
「刀あるだけで圧が違ぇ……」
「イッセー、集中」
「はい部長!」
「本日の条件は一つ」
刀の柄へ手を添える
「某へ一撃届かせれば、そなたらの勝ちとしよう」
「一撃でいいの?」
「されど」
抜刀
「昨日より容易とは思われぬよう」
最初に来たのは木場だった
速い
だが昨日までとは違う
一人で某へ届くための速さではなく、進路を限定し、後ろの仲間へ繋げるための速度
「祐斗、右を塞いで!」
「はい!」
木場の剣と刀がぶつかり、その直後に朱乃の雷が落ちる
鉄扇で逸らせばリアスの魔力が待っている
刀で斬り払い、僅かに出来た隙へ
「イッセー!」
『Boost!!』
真紅の鎧
仙術による身体強化
そして木場の風属性魔剣へ一瞬だけ籠手が触れ、風の性質を自分の魔力へ重ねたイッセーが一気に距離を詰めてくる
「はぁぁぁぁ!」
速い
昨日より明らかに
拳を刀で受け、そのまま正面で止めず外へ流す
「属性切り替え!」
「おう!」
風を切る
次は朱乃
「イッセー!」
雷の性質を受け取り、魔力へ乗せる
『Boost!!』
「それを待っていた」
「なっ!?」
鉄扇で手首を逸らす
そこへ木場
「任せて!」
刀が止まる
「朱乃、今!」
「ええ!」
上から雷が落ちる
避けた先にはリアスの滅びの魔力
なるほど
逃げ道を塞いでいるのではなく、某が逃げる場所を決めている
「アーシア!」
「はい!」
後方から治癒の光
アーシアは前へ出てこない
必要な相手だけを治し、すぐ周囲へ意識を戻している
「イッセー、まだ!」
「分かってます!」
飛び込まない
待つ
木場が刀を止め、朱乃が鉄扇側を塞ぎ、リアスが全員の位置を見ながらタイミングを測る
「今よ!」
「おおおおっ!」
イッセーが踏み込む
雷を纏った拳
刀を返そうとした瞬間
「祐斗!」
木場の剣がこちらの刀へ重なり、一瞬だけ動きを止める
なら鉄扇
そう判断した先へ朱乃の雷が落ち、軌道を変えざるを得ない
その僅かな隙へイッセーの拳が伸び
籠手の先が肩を掠めた
「…………」
「入った?」
「入った!」
「やった!」
肩を見る
単純にイッセーが強かったから届いたわけじゃない
木場が止め
朱乃が塞ぎ
リアスが繋ぎ
アーシアが後ろを維持した
全員がそれぞれの役割を果たした結果だ
「……見事」
「勝った!?」
「定めた条件においては、そなたらの勝ちである」
「よっしゃぁぁ!!」
「イッセー」
喜ぶイッセーとは違い、リアスだけはまだこちらを見ていた
「まだ終わってないわ」
「え?」
「ハクが仮面を外してない」
その通り
勝敗はもうついた
だからここからは別だ
この十日間の最後に一つだけ、こいつらが今どこまでなら対応出来るのか確認しておきたい
刀を静かに構える
「さて」
全員の表情が変わる
「一瞬だが某も本気で参ろうか」
「……マジ?」
刀身へ水が纏う
仙術で操った水ではない
さっきまで纏わせていた闘気とも違う
仮面を顕現した時だけ、何故か自然に扱える水
どうして使えるのかは今も分からないが、こちらの意思へ応じるように刀身を包んだ水が、刃に沿って細く研ぎ澄まされていく
「……お兄ちゃん?」
猫音の声
「ハク、それ……」
クオンも息を呑む
「全員構えて!」
リアスの声が飛び、イッセーが前へ、木場がその横へ入り、朱乃が雷を集め、アーシアは後方で全員を見る
「参る」
刀を振り抜いた瞬間、水の刃が真っ直ぐイッセーへ走る
返した刃から二つ目が木場へ飛び、身を捻って放った三つ目が朱乃へ向かう
リアスが防御を叫ぶより早く四つ目がその正面へ走り、最後の一閃が後方のアーシアまで届く
ほとんど一瞬
五方向へ放たれた水の斬撃が、それぞれの防御より僅かに早く身体へ届き、水が一斉に弾けた
「ぐっ!」
「きゃっ!」
「っ……!」
次の瞬間、立っているのは俺だけだった
訓練区画を覆う結界が遅れて淡く揺れ、五つの斬撃が周囲へ流した衝撃を吸収していく
「…………」
見学していた黒歌、白音、猫音、クオンまで綺麗に黙っている
「……何、今の」
「兄さま」
白音が倒れている五人と俺を交互に見る
「それ、稽古で使う技なんですか?」
「ご主人、大人気ないにゃ……」
「訓練ゆえ」
「便利な言葉にゃ」
「くっ……!」
イッセーが鎧姿のまま地面へ手をつき、震える膝で立ち上がろうとする
「まだ……!」
「見事である」
「ハク……」
「されど、本日はここまでだ」
刀を下ろし、仮面を収納する
「いやぁ、結構頑張ったな」
「そのテンションで戻ってくんなぁぁぁぁ!!」
「元気あるじゃん」
「どこがだよ!」
「お兄ちゃん」
「ん?」
「さっきの水、威力は落としてたんだよね?」
「もちろん」
「……そういう問題じゃないと思う」
「猫音ちゃんに同意」
「クオンまで?」
「ご主人はたまに本当におかしいにゃ」
「今更?」
「自覚はあったんですね、兄さま」
「酷くない?」
それでも、倒れている五人を見れば初日との差ははっきり分かる
八日目ならもっと早く崩れていた
今は一人を崩しても次が埋め、アーシアへ向かえば全員が戻り、木場は一人で走らず、イッセーも一人だけを追わない
何よりリアス先輩は、最後まで全員へ指示を出し続けていた
「リアス先輩」
「何?」
「十分ですよ」
「最後に全員纏めて倒した人から言われると複雑ね」
「でも本当です」
イッセーが仰向けになったまま息を吐く
「最初だったら絶対ハクに一発入れられなかったな」
「イッセー君、初日は僕の木刀しか見てなかったからね」
「言うな木場!」
「腹も空いていました」
「白音まで!」
「今日は空いていませんでした」
「それ褒めてる!?」
「はい」
「よっしゃ!」
「そこ喜ぶところなのかにゃ?」
翌朝
十日目だけは誰も走らせなかった
「今日は休み」
「…………」
「なんで全員黙るの?」
「ハクが休みって言った」
「言うだろ」
「走らない?」
「走らない」
「模擬戦は?」
「しない」
「鎧は?」
「解除していい」
「よっしゃぁぁぁぁ!!」
真紅の鎧が消えた瞬間、イッセーが畳へ倒れ込む
「軽い! 普通の身体最高!」
『相棒、鎧の維持も仙術との併用も随分安定した』
「なら鎧生活した甲斐あったな」
「ハク」
「何?」
「二度とやらねぇ」
「必要になったらまたやるぞ」
「やらねぇ!!」
「次は二週間」
「増やすな!」
「冗談」
「お前の冗談は笑えねぇんだよ!」
今日は本当に主要メンバーへ負荷を掛けない
身体を軽く解し、装備を確認し、明日の動きを最後に確認するだけ
それでも皆の修行をずっと見ていたせいか、昼前になって猫音が俺の袖を引いた
「お兄ちゃん」
「ん?」
「私、少しだけ相手して」
「軽くな」
「分かってる」
道場の中央で向き合い、いつもの稽古程度に数合だけ合わせる
俺が手を出せば猫音が避け、猫音が返せば俺が受ける
何か特別なことをするわけでもなく、本当に普段通りの軽い稽古だ
「前より安定したな」
「本当?」
「ああ」
「じゃあもう一回」
「休養日って知ってる?」
「私は明日試合に出ないもん」
「それ言われると弱いな」
「ふふ」
結局もう数合だけ付き合い、それで終わりにした
夕方にはクオンも顔を出し、夜になる頃には大神家の食卓へ全員が揃った
試合に出る奴も、出ない奴も、訓練相手になった奴も、見学していた奴も、この十日間ずっと同じ場所にいた
「明日ね」
リアス先輩が静かに言う
「ええ」
朱乃が微笑み
「絶対勝ちましょう、部長」
イッセーが拳を握る
「もちろんだよ、イッセー君」
「私も頑張ります!」
「アーシア」
「はい、部長さん」
「明日も今日までと同じよ、自分一人で全部やろうとしないこと」
「……はい!」
十日前とは違う
誰か一人だけが別人みたいに強くなったわけじゃない
木場の速さと魔剣
朱乃の雷と魔力
アーシアの治癒
イッセーの
それぞれが元々持っていた力が、ようやく一つの流れとして繋がり始めた
「ハク」
「ん?」
「明日はよろしくね」
「もちろんです」
「でも」
「はい?」
「ライザーを倒すのは私達よ」
「分かってますよ」
俺は笑って答える
「俺はそこまでの道を作ります」
「ええ」
十日間の合宿は終わった
明日
グレモリーとフェニックス
婚約を賭けた特別試合が始まる
イッセー、ついに禁手の鎧を着たまま生活させられる
ドライグ
『合理的だな、相棒』
イッセー
「お前どっちの味方だよ!?」
ハク
「継続時間測るだけだから」
イッセー
「寝る時まで着せる必要ある!?」
そしてクオンさん
見て真似しただけなのに、ハクが一瞬出力を上げないといけない動きをするのは流石におかしいですねぇ……
本人はその直後に筋肉痛で動けなくなりましたが
まだ身体が追いついていない模様
そして最後のハク
「一瞬だが某も本気で参ろうか」
五人
「聞いてない」
なお水については、現時点ではハク本人も何故使えるのか分かっていません
その辺りはまたいずれ
次回!
グレモリーVSフェニックス
婚約を賭けた特別試合、開幕です!