十日間の修行でやってきたことが、本番でどこまで通用するのか
そしてイッセーはちゃんと周りを見ることが出来るのか
では、どうぞ
転移の光が収まると、目の前には見慣れた旧校舎の部室が広がっていた
机も椅子も、いつも朱乃が紅茶を淹れている場所まで同じで、窓の外には校庭や体育館も見えているが、人の姿だけが綺麗に消えている
今回の特別試合のために用意された、学校を再現した空間
分かってはいたが、普段過ごしている場所とほとんど変わらないせいで妙な感じだ
『それでは試合開始前に、特別規定について最後の確認を行います』
室内へグレイフィアの声が響く
『外部協力者である
「はい」
事前に決めた通り、俺はライザー本人には手を出せず、向こうも俺へ直接攻撃することは出来ない
なら、俺の役目も変わらない
「最後にもう一度だけ確認するわ」
リアス先輩が全員を見回す
「この十日間やってきたことを忘れないで、自分一人で全部やろうとしないこと、目の前の相手だけじゃなく味方と周囲を見ること、無理に倒そうとせず必要なら一度下がって立て直すこと」
「はい、部長」
「分かっています、部長さん」
木場とアーシアが頷き、朱乃もいつもの笑みを浮かべる
「ええ、リアス」
「任せてくれ、部長!」
最後にイッセーが左手を握った
「イッセー」
「……なんだよ」
「周り見ろよ」
「最後の最後まで言うのかよ!」
「大事だからな」
「この十日で何回聞いたと思ってんだ!」
「数えてない」
「俺も数えてねぇよ!」
アーシアがくすっと笑い、木場まで肩を揺らしている
「イッセー君、本当に大事だからね」
「木場まで!」
「でもイッセーさん、頑張りましょうね」
「お、おう!」
相変わらずアーシアには弱いな
まあいい
ここから先は、俺が横から何度も言うことじゃない
『双方、準備はよろしいでしょうか』
「ええ」
リアス先輩が即答すると、それまで僅かに残っていた軽い空気が消えた
『それでは──グレモリー家とフェニックス家による特別試合を開始いたします』
──────────────────────ー
校舎を出て暫く進んだところで、先頭を歩いていたリアス先輩が足を止めた
「来るわ」
俺にも気配は分かっている
正面から三人、向こうもこっちの位置を掴んだらしい
「祐斗は左、朱乃は上から見て」
「はい、部長」
「ええ」
木場が魔剣を作り出し、朱乃が空へ上がる
俺は少し後ろへ下がった
まずは見ておきたい
十日間やってきたことを、本番でも同じように出来るのか
前方から飛び出した一人を木場が受け止め、その横をもう一人が抜ける
狙いは後方のアーシア
治療役から潰したいのは当然だろうが、アーシアは相手が目の前まで来てから慌てることなく、自分から数歩下がって進路を空けた
「させないわ」
そこへリアス先輩の紅い魔力が走り、相手が反射的に横へ避ける
「朱乃」
「ええ!」
逃げた先へ上から雷が落ち、さらに進路を変えたところには既にイッセーがいた
『Boost!!』
「おらぁっ!」
拳を受けた相手が大きく吹き飛ぶ
だがイッセーは追わず、その場で身体を沈めた
直後、死角から振り抜かれた拳が頭の上を通り過ぎる
「見えてるぞ!」
イッセーが横へずれた瞬間、空いた場所へ木場が入り込み、魔剣を振るう
相手がそれを受け止めれば、今度は朱乃の雷が射線を変え、さらにリアス先輩が逃げ道を塞ぐ
誰か一人が一人の相手へ集中しているわけじゃない
木場が入ればイッセーが下がり、イッセーが前へ出れば朱乃が位置を変え、アーシアも怪我人だけを見ることなく、自分の周囲と全員の位置を確認している
修行を始めた頃には出来ていなかった動きだ
「イッセー!」
「おう!」
『Welsh Dragon Balance Breaker!!!』
赤い光と共に全身が真紅の鎧に覆われるが、最初から全部を出すわけじゃない
低い出力で鎧を維持しながら仙術で身体を強化する
朱乃が高度を落とした一瞬、差し出された手へイッセーの籠手が触れ、青白い雷が赤い魔力へ混ざる
必要な属性だけを重ねる
『Boost!!』
増幅するのは攻撃の瞬間だけ
「っ!?」
雷を纏った拳が相手の防御へ叩き込まれ、衝撃と同時に電撃が弾ける
大きく吹き飛んだ相手を今回もイッセーは追わず、そのまま身体の向きを変えた
「右!」
誰かに言われる前に自分で振り返り、三人目の攻撃を受け止める
……ちゃんと見えてるじゃん
「ハク!」
「ん?」
「今絶対何か思っただろ!」
「何も」
「その顔は絶対『ちゃんと周り見えてるな』って思った顔だ!」
「自分で分かってるならいいだろ」
「やっぱり思ってたんじゃねぇか!」
「イッセー君、前!」
「分かってる!」
木場の声で即座に意識を戻し、そのまま相手を押し返す
うん
もう俺が横から言う必要はなさそうだ
「祐斗、二秒だけ!」
「はい!」
木場が前へ出て相手の動きを止め、その間にイッセーが後ろへ下がる
「今よ!」
リアス先輩の声と同時に木場が退き、空いた場所へ紅い魔力が走った
直撃を受けた相手の身体が光へ包まれる
『ライザー・フェニックス様の
残った二人はその瞬間に距離を取った
「追う?」
朱乃が上空から聞く
「いいえ、深追いしないわ」
「了解!」
イッセーも迷わず足を止める
「随分嬉しそうね、ハク」
「そう見えます?」
「ええ」
「まあ、ちょっとだけ」
最初の頃なんて、俺相手に全員が好き勝手突っ込んできた
それを考えれば十分だ
「今ので向こうにも伝わったでしょうね」
「そうね、でもここからよ」
「はい」
──────────────────────ー
少し進んだところで、リアス先輩が一度全員を止めた
「ここから分かれましょう、祐斗は左側から回って、深追いはしないこと」
「はい、部長」
「朱乃は上から相手の位置を見て、ユーベルーナを見つけたら抑えてほしいわ」
「分かったわ」
「ただし他の眷属まで集まってきたら一度戻って、あなた一人で全部倒す必要はないから」
「ええ、リアス」
「イッセーとアーシアは私と一緒に」
「おう、部長!」
「はい、部長さん!」
最後にリアス先輩の視線が俺へ向く
「ハクは予定通り自由に動いて」
「了解」
元からそのつもりだ
俺が全部倒す必要はない
向こうの人数を少しでもこちらから逸らせれば、それだけで意味がある
それぞれが動き始めて間もなく、左側から金属同士がぶつかる音が聞こえた
少しだけ進路を変えて確認すると、校舎脇で木場とカーラマインが剣を打ち合わせている
「あなたがグレモリーの
「そういう君も
数合打ち合ったところで木場が一気に速度を上げる
そのまま追うかと思ったが、踏み込みの途中で僅かに身体をずらし、直後に横から飛んできた魔力弾が鼻先を通り過ぎた
「ちっ」
建物の陰にもう一人
「なるほど、一対一をさせてくれるわけじゃないか」
「当然でしょう?」
「なら僕も、それに合わせるよ」
木場の手に二本目の魔剣が現れる
問題なさそうだな
今の木場なら目の前の一人だけを追って、そのまま味方から離れることもない
俺はその場を離れ、校庭へ向かった
──────────────────────ー
グラウンドへ出たところで、こちらへ近づいてくる二つの気配に気付いた
一人は金髪の少女、レイヴェル・フェニックス
その横には、護衛するように剣を持ったシーリスが立っている
「あなたが、お兄様の認めた外部協力者ですの?」
「まあ、そうなるな」
レイヴェルが俺を上から下まで眺める
今は神器を顕現しているわけでもなく、見た目だけなら本当にただの人間だ
「……たかが人間が、悪魔同士の戦いへ出てくるなんて──」
「あ~あ……」
少し離れたところから聞き覚えのある声がした
別方向から校庭へ出てきたイッセーが、こちらを見ながら何とも言えない顔をしている
レイヴェルもそちらへ顔を向けた
「何ですの?」
「いや、そっちの二人終わったなって」
「は?」
眉を吊り上げるレイヴェルとは違い、その隣にいたシーリスは俺が一歩動いた瞬間に剣を抜いた
「レイヴェル様、下がって!」
流石に
「なっ──」
軌道だけを外へ逃がせば、剣を振り抜こうとした力はそのまま残り、前へ流れたシーリスの身体に合わせるように懐へ入り込む
「っ!」
鉄扇を腹へ叩き込むと、シーリスの身体から一気に力が抜け、そのまま光に包まれた
『ライザー・フェニックス様の
「シーリス!?」
レイヴェルが目を見開き、反射的に上げた手へ炎が集まり始める
「な──」
けれど、その炎が形になるより早く距離を潰す
「え?」
上がりかけた手首を鉄扇で外へ流し、空いた鳩尾へ掌底を打ち込むと、レイヴェルの膝がその場で崩れた
倒れるより先に身体が光へ包まれる
『続いて
数秒
それだけだった
「だから言ったのに」
「お前、『あ~あ』しか言ってないだろ」
「説明する前に終わったんだよ!」
「それ俺のせい?」
「お前以外の誰のせいだ!」
「ハクさん、速すぎます……」
アーシアまで少し呆然としている
「二人とも最初から俺を人間ってだけで舐めてたからなぁ」
「そういう問題か!?」
「かなり大きいだろ」
シーリスは途中で反応出来たが、それでもこっちの力量を知らない状態からの対応で、レイヴェルに至っては完全に初動が遅れていた
最初から悪魔相手と同じように警戒していれば、少なくともあんな距離で話してはいなかっただろう
side out ハク
──────────────────────ー
side in ライザー
『続いて
「…………」
戦況を確認しながら、俺は僅かに眉を寄せた
最初に眷属が一人落とされた程度なら気にも留めていなかった
十五人で始めた以上、一人や二人削られることくらいは最初から想定している
だが今の二人は違う
「レイヴェルとシーリスを……?」
ほとんど間を置かずに二人
それも、たった一人に
あの時、ミラの棍を軽くいなした人間
あの時点でただの素人ではないことくらい分かっていたが、それ以上でもそれ以下でもなかった
リアスの古い友人であり、神器を持っているとはいえ種族は人間
十五人という人数差を覆すほどの存在ではない
そう考えていた
「……なるほど」
椅子から立ち上がる
少なくとも人数合わせではない
レイヴェルとシーリスを一人ずつ、ほとんど何もさせずに落としている以上、放置していい戦力ではなかった
「
あの時は気にも留めなかった名前を、今度は明確な戦力として記憶する
俺から直接手を出すことは出来ない
なら、眷属を向かわせて止めるしかない
「お前達四人で、あの人間を抑えろ」
イヤホンマイク越しに指示を飛ばす
これ以上、好きに動かせるつもりはない
side out ライザー
──────────────────────ー
side in ハク
さっきまで別方向へ動いていた複数の気配が、明らかにこちらへ進路を変えた
「三……いや、四人かな」
「四人!?」
イッセーが声を上げる
「お前一人に!?」
「みたいだな」
悪くない
俺一人を止めるために四人使ってくれるなら、その分リアス先輩達へ回る人数は減る
「ハク」
「はい」
リアス先輩が真剣な表情で俺を見る
「このままお願い出来る?」
「もちろん」
「俺の相手にそれだけ人数割いてくれるなら、それはそれで助かります」
「……そうね、任せたわ」
「了解」
「おいハク!」
「ん?」
「無茶すんなよ!」
「それはお互い様だろ」
「お前と一緒にすんな!」
「どういう意味だよ」
「そのままの意味だよ!」
「行くわよ、イッセー」
「おう、部長!」
「アーシア、離れないで」
「はい、部長さん!」
三人が走り出すのを見送り、俺は近づいてくる四つの気配へ身体を向けて鉄扇を持ち直す
俺はライザーを倒せない
それでいい
あいつらがライザーまで辿り着くための道を作るのが、今回の俺の役目だ
「本当に四人来たなぁ」
正面に二人、左右から一人ずつ、綺麗に俺の進路を塞ぐ形で四人が広がっている
「レイヴェル様をよくも!」
「試合だからなぁ」
怒る気持ちは分からなくもないが、こっちだってリアス先輩の人生が掛かっている
ここで譲る理由はない
「悪いけど、ここから先は通さない」
鉄扇を構える
仮面はまだ必要ない
そもそも四人全員を倒す必要すらなく、こいつらを俺のところへ引き付けておけるなら、それだけで向こうの人数差を削れる
一人目が動き、それに合わせて残りの三人も左右へ広がった
どうやら今度は最初から俺を人間だからと甘く見る気はないらしい
それでいい
さっきと同じでは面白くない
side out ハク
──────────────────────ー
side in 朱乃
「ようやく見つけたわ」
上空で足を止める
私の正面には、いくつもの魔法陣を周囲へ展開した女が浮かんでいた
ライザー眷属の
ユーベルーナ
「あら、私を探していたの?」
「ええ、リアスからあなたを抑えるように頼まれているの」
答えながら周囲へ視線を走らせる
他の眷属がこちらへ近づいてくる気配はなく、今この場にいる相手はユーベルーナ一人だけ
「聞いたわ、あなた、リアス・グレモリーの
「ええ」
否定する必要もない
ユーベルーナの周囲へ増えていく魔法陣を見ながら、静かに片手を上げる
「それで私の相手をするつもり?」
「なったばかりなのは本当ですけれど──」
指先で青白い雷が弾け、次の瞬間には二人の間を埋めるように魔力が膨れ上がる
「不足かしら?」
雷鳴と爆発が同時に轟き、互いの魔力が上空で正面からぶつかった
イッセー、ちゃんと周り見えてました
そしてハクを「ただの人間」と思って油断するとこうなります
とはいえハクの役目はあくまでライザーを倒すことではなく、リアス達がそこまで辿り着くための道を作ること
次回は朱乃VSユーベルーナから続きます