ハイスクールDxD 〜うたわれるもの〜   作:フォートナー

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前回、十年以上ぶりに再会したイリナと、初対面のゼノヴィア

今回はそのまま駒王町へ!

……無事に一日が終わるといいですね!


Life . 24 お泊まりです!事故です!聖剣です!?

 空港を出た俺達は、そのまま駒王町へ向かう電車に乗っていた

 

「懐かしいなぁ」

 

 窓の外を眺めながらイリナが楽しそうに呟く

 

「まだ駒王町にも着いてないだろ」

 

「いいじゃん、もう帰ってきたって感じするんだから!」

 

「そういうもんか?」

 

「そういうもんなの!」

 

 相変わらずだな

 

「駅前とか結構変わってるぞ」

 

 隣にいたイッセーが会話に入ってくる

 

「本当?」

 

「店とか増えたしな」

 

「昔あった駄菓子屋は?」

 

「潰れた」

 

「えぇ!?」

 

「結構前にな」

 

「じゃあ、あの公園は?」

 

「ある」

 

「ハクの家は?」

 

「変わってない」

 

「イッセーの家は?」

 

「俺ん家だけ聞き方雑じゃね?」

 

「だってイッセーん家だし」

 

「どういう意味だよ!」

 

 十年以上会っていなかったとは思えないくらい普通に会話が続いている

 

 引っ越してからも連絡自体は取っていたとはいえ、昔と変わらない調子でイッセーと言い合っているところを見ると、離れていた時間なんてあまり関係ないのかもしれない

 

 まあ、俺も人のことは言えないけど

 

 そんな二人の会話を聞きながら、視線は前へ向けたまま意識だけを後ろへ回す

 

 一つ

 

 二つ

 

 三つ

 

 四つ

 

 ……まだいる

 

 というか普通に同じ電車乗ってきたぞ、あいつら

 

 少し離れたところにいるのは、朱乃、クオン、リアス先輩、アーシアの四人

 

 一応こっちから距離は取っているし、隠れているつもりらしいが、アーシアが他の乗客の後ろから半分くらい身体を出している

 

 見えてるぞ

 

 こっちの視線に気付いたのか、リアス先輩がアーシアの肩を引いて自分の後ろへ隠した

 

 いや、だから見えてるって

 

「ハク?」

 

「ん?」

 

「さっきから後ろ気にしてない?」

 

 イリナが不思議そうに俺を見る

 

「知り合いに似た奴がいた気がしてな」

 

「知り合い?」

 

 もう一度後ろへ意識を向けると、四つの気配が揃って微妙に動いた

 

「……気のせいだった」

 

「ふーん?」

 

 今捕まえても面倒だし、駅に着いてからでいいか

 

「そういや、お前ら駒王町でどこ泊まるんだ?」

 

「教会だよ?」

 

「…………教会?」

 

「うん、昔からあるところ」

 

「駒王町の?」

 

「そうだけど?」

 

 イッセーを見ると、向こうも俺を見返してきた

 

 どうやら同じ場所が頭に浮かんだらしい

 

「何よ二人して」

 

「いや……」

 

「何?」

 

「イリナ、あそこ今使われてないぞ」

 

「…………え?」

 

「廃教会になってる」

 

「…………」

 

 イリナの表情が固まり、隣で静かに話を聞いていたゼノヴィアも僅かに眉を寄せた

 

「聞いていないぞ」

 

「私も聞いてない!」

 

「現地の情報は確認してきたのではないのか?」

 

「協力してくれる人がいるから大丈夫って聞いてただけだもん!」

 

 ゼノヴィアは何か考えるように黙り、イリナは困った顔で俺達を見る

 

「本当に使えないの?」

 

「ああ」

 

 今度はイッセーが答える

 

「少なくとも泊まれる状態じゃねぇぞ」

 

「えぇ……じゃあどうしよう」

 

「ホテルは?」

 

「予約してない」

 

「ゼノヴィアは?」

 

「していない」

 

 完全に宿無しじゃねぇか

 

「なら俺んち泊まるか?」

 

「え?」

 

「部屋なら余ってるし、二人くらい増えても問題ない」

 

「いいの!?」

 

「駄目なら言わねぇよ」

 

「やった! ありがとうハク!」

 

「ゼノヴィアもそれでいいか?」

 

「ああ、助かる」

 

「じゃあ決まりだな」

 

 そう答えた瞬間、背後から妙な圧を感じた

 

 見なくても分かる、絶対あの四人だ

 

「ハクん家に行くの久しぶりだなぁ」

 

「何年ぶりだと思ってんだよ」

 

「昔はよく遊びに行ったじゃん」

 

「まあな」

 

「道場もまだある?」

 

「ある」

 

「じゃあ後で見せて!」

 

「勝手に見ればいいだろ」

 

「ハクも一緒に!」

 

「何でだよ」

 

「久しぶりなんだからいいじゃん!」

 

「はいはい」

 

「返事が適当!」

 

 こういうところは昔から変わらない

 

 その横でゼノヴィアが一度だけ俺を見る

 

「何だ?」

 

「いや」

 

「?」

 

 それ以上は何も言わず視線を戻したが、空港から何度か似たような目を向けられている

 

 まあ、心当たりがないわけじゃないし、今は放っておくか

 

 ──────────────────────

 

 駒王町へ着き、駅を出たところでイリナとゼノヴィアが足を止めた

 

「私達、一回協力者のところ行ってくるね」

 

「ああ、教会の件も確認した方がいいだろ」

 

「うん!」

 

「それほど時間はかからないと思う」

 

「なら俺は駅前で待ってる」

 

「分かった!」

 

 イリナが手を振り、ゼノヴィアも俺へ軽く頭を下げる

 

「大神(おおがみ)、世話になる」

 

「気にすんな」

 

「ああ」

 

「じゃあまた後でね、ハク! イッセー!」

 

「おう!」

 

「じゃあな」

 

 二人が人混みの向こうへ消れ、その姿が完全に見えなくなったところで小さく息を吐く

 

「……で」

 

「ん?」

 

 横でイッセーが首を傾げた

 

「出てこい」

 

 しばらく何の反応もなかったが、俺がそのまま黙って待っていると、少し離れた柱の陰から四人が順番に姿を見せた

 

「やっぱりバレてました?」

 

 朱乃が楽しそうに笑っている

 

「家出て少しした辺りからな」

 

「あらあら」

 

「あらあらじゃない」

 

 その隣からクオンも何事もなかったように出てくる

 

「最初から分かってたんだね」

 

「ほぼな」

 

「なら早く言えばよかったのに」

 

「尾行してる側が言うな」

 

「それもそうだね」

 

 素直に納得するな

 

「リアス先輩も何してるんですか」

 

「偶然同じ空港へ行って、偶然同じ電車へ乗っただけよ」

 

「四人揃って?」

 

「世の中には不思議なこともあるわ」

 

「便利ですね、その言葉」

 

 アーシアだけは俺と目が合った瞬間、申し訳なさそうに俯いた

 

「ご、ごめんなさいハクさん……」

 

「アーシアはいい」

 

「えぇ!?」

 

 イッセーが素っ頓狂な声を上げる

 

「何でアーシアだけ許されんだよ!」

 

「一人だけ本気で反省してるから」

 

「他の三人は!?」

 

「してない」

 

「しているわよ」

 

「してますわ」

 

「……まあ、ちょっと楽しかったかな」

 

「ほら」

 

「してないな!」

 

 そこはお前でも分かるか

 

「そもそも何しに来たんだよ」

 

「それは……」

 

 リアス先輩とアーシアはイッセーを見て、朱乃とクオンはこっちを見る

 

 分かりやすいな

 

「朱乃とクオンは俺、リアス先輩とアーシアはイッセー、違うか?」

 

 誰も答えない

 

「図星じゃねぇか!」

 

 何故かイッセーが嬉しそうに叫んだ

 

「だって部長とアーシアが俺の幼馴染気になって来たんだろ!?」

 

「イッセー」

 

「はい」

 

 リアス先輩が笑顔を向けた瞬間、イッセーの姿勢が伸びる

 

 学習してるな

 

「それでハク」

 

 今度は朱乃がにこにこと俺を見る

 

「嫌な予感しかしない」

 

「今夜は幼馴染の女の子を泊めるのね?」

 

「言い方」

 

「しかも二人」

 

 クオンまで続ける

 

「お前まで言い方!」

 

「あら、間違っています?」

 

「間違ってないから余計悪いんだよ!」

 

「ハク」

 

「今度は何ですかリアス先輩」

 

「あなた、本当にそういうところよね」

 

「どういうところですか!?」

 

「それが分からないところよ」

 

「理不尽!」

 

 横を見ると、今度はイッセーがアーシアに捕まっていた

 

「イッセーさんも、イリナさんとは昔から仲が良かったんですよね?」

 

「え? あ、まあ」

 

「とても楽しそうでした」

 

「アーシア?」

 

「何でもありません」

 

「アーシア!?」

 

 向こうも大変そうだな

 

「とにかく、気になるなら普通に来い、何で尾行するんだよ」

 

「でも」

 

「でもじゃない」

 

「じゃあ次はそうするね」

 

「次がある前提で話すなクオン」

 

「ふふ」

 

「笑うな」

 

 朱乃は楽しそうで、リアス先輩も悪びれていない

 

 クオンも反省しているようには見えず、アーシアだけがまた申し訳なさそうにしている

 

「はぁ……もういい、反省しない奴に説教しても疲れるだけだ」

 

「あら、終わりですか?」

 

「終わりだ」

 

「あらあら」

 

「褒めてないからな」

 

 携帯を取り出して時間を確認すると、イリナ達が戻るまでにはまだ少しかかりそうだった

 

「俺は二人から連絡来るまでここで待つ」

 

「じゃあ俺も――」

 

「お前は帰れ」

 

「何で!?」

 

「リアス先輩とアーシアも帰るんだろ?」

 

「ええ」

 

「なら一緒に帰れ」

 

「いや、別に俺も待って――」

 

「イッセー」

 

「はい部長」

 

 早い

 

「帰るわよ」

 

「はい」

 

「切り替え早すぎだろ」

 

「生存本能だ」

 

「何と戦ってるんだよ」

 

 イッセー達が帰り始めると、クオンも一度自分の家へ戻るらしく同じ方向へ歩き出す

 

「ハク、また後で」

 

「……また来るのか?」

 

「うん、猫音(ねこね)ちゃん達のところ行こうと思って」

 

「一回家帰るんだろ?」

 

「うん、それから行くね」

 

「そういうことか」

 

 近所だから出来る動きだな

 

「じゃあまた後で」

 

「おう」

 

「ハクさん、また明日」

 

「またなアーシア」

 

「では、また明日」

 

「今度は普通に来てくださいねリアス先輩」

 

「考えておくわ」

 

「そこは約束してくださいよ」

 

「朱乃もな」

 

「分かってますわ」

 

「本当か?」

 

「あらあら」

 

「絶対分かってないだろ」

 

 最後まで反省しているようには見えない連中を見送り、俺は一人駅前へ残った

 

 イリナ達が戻るまでまだ少しかかるだろう

 

 そこでようやく、家に何も連絡していないことを思い出す

 

「……先に言っとくか」

 

 携帯を取り出し、御上猫音(みかみ ねこね)へ電話を掛ける

 

 数回呼び出し音が鳴った後、すぐに繋がった

 

『もしもし、お兄ちゃん?』

 

「悪い猫音(ねこね)、今日二人泊まる」

 

『……また?』

 

「またって言うな」

 

『だって最近多いもん』

 

「俺が好きで増やしてるみたいに言うな」

 

『違うの?』

 

「違うわ!」

 

 何だその認識

 

『それで、誰が来るの?』

 

「俺とイッセーの幼馴染と、その連れ」

 

『女の子?』

 

「二人ともな」

 

『…………』

 

「何だその間」

 

『別に』

 

「絶対何か思ってるだろ」

 

『思ってないよ』

 

「本当か?」

 

『うん』

 

 信用出来ない

 

「まあいい、客間二人分使えるか?」

 

『使えるよ、用意しとくね』

 

「助かる」

 

『何時くらいに帰ってくる?』

 

「まだ分からん、イリナ達が用事終わるの待ってるところ」

 

『分かった』

 

「じゃあまた後で」

 

『はーい、気を付けて帰ってきてね』

 

「おう」

 

 電話を切る

 

 これで宿の方は大丈夫だろうし、後は二人が戻ってくるのを待つだけだ

 

 ──────────────────────

 

 しばらくして携帯が震えた

 

『終わったよ!』

 

 イリナからだ

 

 指定された場所へ向かうと、二人とも既に待っていた

 

「どうだった?」

 

「やっぱり教会は使えないって」

 

「だろうな」

 

「協力者の人も情報が古かったみたい」

 

「そっちも知らなかったのか」

 

「うん」

 

 結局、最初に聞いていた情報自体が古かったらしい

 

「今日はハクの家にお世話になっていい?」

 

「もう家には連絡しといた」

 

「早っ!」

 

「泊めるって決めたのに連絡しない方がおかしいだろ」

 

「それはそうだけど」

 

「大神(おおがみ)」

 

「ん?」

 

「改めて、世話になる」

 

「気にすんな」

 

「ああ」

 

 ゼノヴィアはそう答えた後、一度だけ俺をじっと見る

 

「…………」

 

「何だ?」

 

「いや」

 

 またそれか

 

 何か言いたそうではあるけど、向こうから聞いてくる気はないらしいし、なら俺から聞く必要もないだろう

 

「じゃあ帰るか」

 

「おー!」

 

 何故かイリナが先頭を歩き始めた

 

「何でお前が先頭なんだよ」

 

「久しぶりだから!」

 

「道覚えてるのか?」

 

「…………」

 

「おい」

 

「ハク、案内よろしく!」

 

「やっぱ覚えてないんじゃねぇか!」

 

 ──────────────────────

 

 大神家

 

「ただいま」

 

「おかえり、お兄ちゃん」

 

 玄関を開けると猫音(ねこね)が出迎えてくれた

 

 その呼び方が気になったらしく、俺の後ろにいたイリナが猫音(ねこね)と俺を一度見比べる

 

「さっき電話した二人」

 

「あ、この人達なんだ」

 

「はじめまして! 紫藤イリナです! ハクとは小さい頃からの幼馴染!」

 

「ゼノヴィアだ、世話になる」

 

「御上猫音(みかみ ねこね)です、よろしくお願いします」

 

「よろしくね、猫音(ねこね)ちゃん!」

 

「ちゃん?」

 

「駄目だった?」

 

「ううん、別にいいよ」

 

「じゃあ猫音(ねこね)ちゃん!」

 

 そこでイリナが少し首を傾げた

 

「そういえば、さっきハクのことお兄ちゃんって呼んでたよね?」

 

「うん」

 

「二人ってどういう関係なの?」

 

「私、お兄ちゃんの義妹だよ」

 

「義妹!?」

 

 今度は勢いよく俺を見る

 

「ハク、妹いたの!?」

 

「義妹な」

 

「そこ重要なの!?」

 

「重要だろ」

 

「何で教えてくれなかったの!?」

 

「聞かれてないから」

 

「普通教えるでしょ!」

 

「どういう会話したら急に義妹の話になるんだよ」

 

「なるよ!」

 

「ならん」

 

「なる!」

 

「お兄ちゃん、玄関で騒がないで」

 

「俺だけ?」

 

「イリナさんも」

 

「あ、ごめん」

 

「ほら」

 

「何がほらなの」

 

 そんなやり取りをしていると、奥から話し声と一緒に何人かの気配が近付いてきた

 

「ご主人、おかえりにゃ」

 

「兄さま、おかえりなさい」

 

「おかえりなさい、ハクさん」

 

 大神黒歌(おおがみ くろか)、大神白音(おおがみ しろね)、久住瑠璃(くじゅう るり)の三人が顔を出す

 

 イリナは三人を順番に見た後、ゆっくり俺へ顔を向けた

 

「ハク」

 

「何だ」

 

「女の子多くない?」

 

「第一声がそれかよ」

 

「だって多いよ!」

 

「事情があるんだよ!」

 

「どんな事情!?」

 

「話すと長い」

 

「大神(おおがみ)」

 

 ゼノヴィアまで周囲を見回す

 

「確かに多いな」

 

「お前まで乗るな」

 

 猫音(ねこね)が少し呆れたように俺を見る

 

「とりあえず中入ろ?」

 

「そうだな」

 

 いつまでも玄関で騒いでいるわけにもいかないので、二人の荷物を中へ運び、そのまま居間へ向かう

 

「猫音(ねこね)」

 

「ん?」

 

「二人の部屋とか家のこと、その辺頼めるか?」

 

「いいよ」

 

「俺は鍛錬してくる」

 

「帰ってきたばっかりなのに?」

 

「身体動かしたい」

 

「また?」

 

「またって何だよ」

 

「毎日やってるから」

 

「日課だよ」

 

「はいはい」

 

「何だその返事」

 

 イリナとゼノヴィアの方を見る

 

「分からないことあったら猫音(ねこね)に聞いてくれ」

 

「了解!」

 

「ああ」

 

 道場へ向かおうとしたところで、後ろからイリナに呼び止められる

 

「ハク!」

 

「ん?」

 

「後で道場見せてね!」

 

「好きに見ろって」

 

「一緒に!」

 

「分かった分かった」

 

「絶対だからね!」

 

「はいはい」

 

「また適当!」

 

 昔と変わらない声を背中で聞きながら、そのまま道場へ向かった

 

 side out ハク

 ──────────────────────

 side in イリナ

 

 ハクが道場へ向かった後、猫音(ねこね)ちゃんに案内されて居間へ入る

 

 さっき玄関ではほとんど挨拶だけで終わってしまったから、改めて皆と向き合うことになった

 

「改めて、御上猫音(みかみ ねこね)です」

 

「紫藤イリナ! よろしくね、猫音(ねこね)ちゃん!」

 

「うん、よろしく」

 

 義妹かぁ

 

 ハクに妹がいるなんて知らなかったし、引っ越してからもずっと連絡は取っていたのに、一度も聞いた覚えがない

 

「ゼノヴィアだ、よろしく頼む」

 

「よろしくお願いします」

 

 続いて、さっき玄関まで出てきてくれた皆も順番に自己紹介してくれる

 

「大神黒歌(おおがみ くろか)、よろしくにゃ」

 

「大神白音(おおがみ しろね)です、よろしくお願いします」

 

「二人とも大神(おおがみ)?」

 

「そうにゃ」

 

「じゃあ白音(しろね)ちゃんもハクの妹?」

 

「はい、兄さまの妹です」

 

「へぇー!」

 

 本当にもう一人妹がいた

 

「黒歌(くろか)さんは?」

 

「私は妹じゃないにゃ」

 

「でも同じ大神(おおがみ)なんだ?」

 

「色々あって一緒に暮らしてるにゃ」

 

「色々……」

 

 その色々がすごく気になる

 

「久住瑠璃(くじゅう るり)です、よろしくお願いします」

 

「瑠璃(るり)ちゃん!」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

 改めて部屋を見回す

 

 義妹の猫音(ねこね)ちゃんに白音(しろね)ちゃん、それに同じ大神(おおがみ)姓の黒歌(くろか)さん

 

 瑠璃(るり)ちゃんまで自然にこの家に馴染んでいて、昔私が知っていたハクの家とは随分賑やかになっている

 

「大神(おおがみ)は随分と賑やかな生活をしているのだな」

 

 ゼノヴィアが真顔で言う

 

「だよね!」

 

「ああ」

 

「そこ意気投合するところ?」

 

 猫音(ねこね)ちゃんが少し困ったように笑った、その時だった

 

「お邪魔します」

 

 玄関の方から女の子の声が聞こえる

 

「あ、久遠(くおん)さん」

 

 猫音(ねこね)ちゃんがすぐに立ち上がった

 

 少しして居間へやってきたのは、私と同じくらいの年に見える女の子だった

 

「今日は来たんだ」

 

「うん、一回家に戻ってから来たよ」

 

「家近いんだ?」

 

 私が聞くと、その女の子が笑って頷く

 

「すぐ近くだよ、戸倉久遠(とくら くおん)、よろしくね」

 

「紫藤イリナ! よろしく、久遠(くおん)さん!」

 

「さん?」

 

「嫌だった?」

 

「ううん、別に嫌じゃないよ」

 

「じゃあ久遠(くおん)さん!」

 

「うん」

 

「久遠(くおん)さんはよく来るよ」

 

 猫音(ねこね)ちゃんが当たり前みたいに言う

 

「そうなんだ?」

 

「うん、もうほとんどいつものことかな」

 

 久遠(くおん)さんも自然に答える

 

 近所に住んでいて、こうして気軽に遊びに来るくらいにはハク達と仲がいいらしい

 

 ……やっぱりハク、女の子多くない?

 

 ──────────────────────

 

 自己紹介が一段落した後、猫音(ねこね)ちゃんが私達を廊下の奥へ案内してくれた

 

「こっちの部屋使ってください」

 

「広い!」

 

 案内されたのは畳敷きの客間で、二人で使っても十分な広さがある

 

「布団は押し入れにあります、別々がよかったらもう一部屋空いてますよ」

 

「私はどちらでも構わない」

 

 ゼノヴィアが荷物を置く

 

「じゃあ一緒でいいよね!」

 

「ああ」

 

「決まり!」

 

「何か足りなかったら言ってくださいね」

 

「ありがとう!」

 

 私も荷物を下ろして大きく伸びをする

 

 飛行機に電車、その後は協力者のところまで行ったせいか、さすがに少し疲れた

 

「猫音(ねこね)ちゃん」

 

「ん?」

 

「お風呂って借りてもいい?」

 

「いいですよ、場所案内しますね」

 

「ありがとう!」

 

 猫音(ねこね)ちゃんの後ろについて部屋を出る

 

 廊下を歩いているうちに、ふと空港で久しぶりにハクと会った時のことを思い出した

 

 見つけた瞬間は昔と同じように抱きついただけだった

 

 その時は何とも思わなかったのに、離れてちゃんと顔を見てから、昔とは全然違うことに気付いてしまった

 

「…………」

 

 何で今更なんだろ

 

「イリナ?」

 

「な、何でもない!」

 

「そうか」

 

 ゼノヴィアが不思議そうに首を傾げる

 

 何でもない

 

 うん、本当に何でもないから!

 

 side out イリナ

 ──────────────────────

 side in ハク

 

 しばらく道場で身体を動かし、素振りと型を一通りこなした後、最後に気の流れを確認する

 

 余計なことを考えず身体を動かすのは昔から嫌いじゃない

 

 空港から色々あったせいか、いつもより少し長く身体を動かしていた気もする

 

「ふぅ……」

 

 木刀を元の場所へ戻し、タオルで汗を拭う

 

 結構汗かいたな

 

「風呂入るか」

 

 タオルを肩へ掛け、そのまま母屋へ戻る

 

 居間の方から何人かの話し声が聞こえ、クオンの声も混ざっていた

 

 駅で言っていた通り、一度家へ帰った後こっちへ来たらしい

 

 まあ、いつものことだ

 

 特に気にせず脱衣所へ入り、汗で張り付いた上着へ手を掛ける

 

「暑っ……」

 

 上着を脱ぎかけた、その時だった

 

 ガラッ

 

「ふぅー、さっぱりし――」

 

「…………」

 

「…………」

 

 時間が止まった

 

 風呂場から出てきたイリナと、上着を脱いでいる途中の俺の目が合う

 

「…………」

 

「…………」

 

 待て

 

 何でいる

 

 いや、いるに決まってる

 

 俺が泊まれって言ったんだから

 

 そうじゃない

 

 今じゃない

 

 タイミングがおかしい

 

 何でよりによって俺が風呂入ろうとした瞬間なんだ

 

 落ち着け、まず落ち着け俺

 

 ここは俺の家で、イリナは客だ

 

 客が風呂を使うこと自体は何一つおかしくない

 

 ……いや、今ここで鉢合わせてるのはおかしい

 

 というか、どこ見ればいいんだ

 

 壁か、天井か、床か

 

 どこ見ても意識してるみたいになるんだけど!?

 

「ハ、ハク?」

 

「お、おう」

 

 声裏返りかけた!

 

 落ち着け俺!

 

 前世込みならこういう時くらい冷静に――

 

 無理だ

 

 身体が全然言うこと聞かない

 

 心臓うるせぇ!

 

 空港の比じゃないぞこれ!

 

「な、なんでいるの!?」

 

「俺ん家だよ!」

 

「そうじゃなくて!」

 

「俺だって今来たんだよ!」

 

「声かけてよ!」

 

「風呂入るのに何で毎回宣言しなきゃいけないんだよ!」

 

「それは――」

 

 言い返そうとしたイリナが一歩下がった瞬間、足を滑らせる

 

「きゃっ!?」

 

「危なっ!」

 

 考えるより先に身体が動き、咄嗟に腕と肩を掴んで支えた

 

「ひゃっ!?」

 

「っ!」

 

 転倒は防いだ

 

 防いだんだけど

 

「…………」

 

「…………」

 

 近い

 

 近い近い近い!

 

 しかも何か、いい匂いが――

 

 ……って何考えてんだ俺!?

 

 何でこのタイミングでそんなところに意識向けてんだ!

 

 空港の時だって十分おかしかっただろ!

 

 何で今さらに悪化してんだよ!

 

 というか何でこのタイミングで反射神経だけ完璧に仕事するんだよ俺!

 

「ハ、ハク……」

 

「動くな」

 

「え?」

 

「今動いたらまた滑る」

 

「わ、分かった……」

 

 返事まで妙に近くから聞こえる

 

 駄目だ

 

 これ絶対、状況だけ見たら誤解される

 

 早く離れ――

 

 ガタンッ

 

「あ」

 

 さっき動いた拍子に洗濯籠が倒れ、嫌な音が家中へ響いた

 

「今の音なに!?」

 

 猫音(ねこね)の声が聞こえる

 

「待て!」

 

 続いていくつもの足音が近付いてきた

 

 一人じゃない

 

「待て待て待て!」

 

 ガラッ

 

「お兄ちゃん!?」

 

「違う!」

 

 猫音(ねこね)が固まる

 

「……まだ何も言ってないよ」

 

「その顔で分かる!」

 

 その後ろから黒歌(くろか)が顔を出した

 

「ご主人〜?」

 

「やめろ」

 

「兄さま……」

 

「白音(しろね)までやめろ!」

 

 さらに瑠璃(るり)までやってくる

 

「だ、大丈夫ですか?」

 

「瑠璃(るり)はそのままでいてくれ!」

 

「?」

 

 ゼノヴィアは俺達を見て、小さく頷いた

 

「なるほど」

 

「何もなるほどじゃない!」

 

「つまり、イリナが転倒しかけ、それを大神(おおがみ)が支えた結果――」

 

「ゼノヴィア! 説明しなくていいから!」

 

 イリナの顔が一気に赤くなる

 

 そして最後にクオンが来た

 

「…………」

 

 俺を見る

 

 次にイリナを見る

 

 もう一度俺を見る

 

 何も言わない

 

「……クオン」

 

「…………」

 

「何か言え」

 

「…………」

 

「無言の方が怖いんだよ!」

 

 クオンは何も言わず、ただじっと俺を見ている

 

「違うからな!」

 

「…………」

 

「本当に転びそうになったから支えただけだからな!」

 

「…………」

 

「信じろ!」

 

「お兄ちゃん」

 

「何だ猫音(ねこね)!」

 

「久遠(くおん)さん、何も言ってないよ」

 

「だから無言が一番圧あるんだよ!」

 

「ご主人、必死だにゃ〜」

 

「黒歌(くろか)!」

 

「ふふふ」

 

「笑うな!」

 

 白音(しろね)が俺とイリナを交互に見た

 

「……仲良しですね」

 

「「違う!」」

 

 綺麗に声が重なった

 

 最悪だ

 

「と、とにかく! 私は部屋戻るから!」

 

「お、おう!」

 

「ハクも早くお風呂入れば!?」

 

「入るよ!」

 

「じゃあね!」

 

「おう!」

 

 イリナは逃げるように廊下の向こうへ消えていった

 

 残った六人が一斉に俺を見る

 

「……何だよ」

 

「お兄ちゃん」

 

「何だ」

 

「イリナさんがお風呂使ってるって言おうと思ったんだけど」

 

「聞いてない」

 

「だって聞かれた時にはもう道場行ってたもん」

 

「……じゃあ俺が知るわけないだろ!」

 

「うん、だから事故だね」

 

「最初からそう言ってる!」

 

 黒歌(くろか)は肩を震わせ、白音(しろね)は無表情

 

 瑠璃(るり)は未だに何が起きたのかよく分かっていないらしく、ゼノヴィアは何故か納得したように頷いている

 

 そしてクオンはまだ俺を見ていた

 

「…………」

 

「まだ見るの!?」

 

「…………」

 

「頼むから何か言ってくれ!」

 

「…………」

 

「だから無言怖ぇって!」

 

 もう駄目だ

 

「……俺、風呂入ってくる」

 

「今は誰も入ってないから大丈夫だよ」

 

「その言い方やめろ!」

 

 後ろから笑い声が聞こえたが、俺は振り返らなかった

 

 浴室へ入り、扉を閉める

 

「…………はぁ」

 

 ようやく一人になれた

 

 身体を洗ってから湯船へ沈むと、張っていた力が一気に抜けていく

 

「疲れた……」

 

 空港へ迎えに行っただけのはずなんだけどな

 

 幼馴染と十年以上ぶりに再会して、何故か四人に尾行されて、その幼馴染を家へ泊めることになって、最後は脱衣所で鉢合わせ

 

 何だ今日

 

 情報量多すぎるだろ

 

「…………」

 

 さっきの光景が一瞬頭に浮かび、反射的に顔まで湯へ沈める

 

 忘れろ

 

 今すぐ忘れろ

 

 事故だ

 

 完全に事故なんだから余計なこと考えるな

 

 というか匂いまで意識したのは本当に何なんだ俺

 

 身体が先に反応することがあるのは分かってるけど、もう少し空気読んでくれないかな俺の身体

 

「…………」

 

 駄目だ

 

 思い出すだけ逆効果だな

 

 何も考えないようにしよう

 

「ハク」

 

「っ!?」

 

 突然脱衣所の方から声が聞こえ、危うく湯船の中で滑りそうになる

 

「クオン!?」

 

「うん」

 

「何でそこにいるんだよ!」

 

「通りかかったから」

 

「ならそのまま通り過ぎろ!」

 

「ハク」

 

「何だよ!」

 

「……ゆっくり入ってね」

 

「その一言に何の意味があるんだ!?」

 

「別に」

 

「じゃあ呼ぶな!」

 

「ふふ」

 

 小さな笑い声の後、足音が遠ざかっていく

 

「…………」

 

 絶対わざとだ

 

 あいつ絶対楽しんでるだろ

 

「はぁ……」

 

 湯船の縁へ頭を預ける

 

 今日のクオン怖ぇよ

 

 ──────────────────────

 

 風呂から上がって居間へ戻ると、既に夕食の準備が始まっていた

 

「お兄ちゃん、遅い」

 

「誰のせいだと思ってんだ」

 

「私じゃないよ」

 

 猫音(ねこね)が並べていた皿を見ながら平然と答える

 

「事故だったんだろ?」

 

「そうだけど」

 

「なら私悪くないもん」

 

「正論なのが腹立つ」

 

「お兄ちゃんだから仕方ないよ」

 

「どういう意味だよ!」

 

 テーブルの向こうでは黒歌(くろか)が肩を震わせている

 

「ご主人、随分長風呂だったにゃ〜」

 

「やめろ」

 

「あら、何も言ってないにゃ」

 

「その顔で分かる!」

 

「さっきも同じこと言ってたね」

 

 クオンまでしれっと会話に入ってくる

 

「お前は黙ってろ!」

 

「今は喋ってるよ?」

 

「そういう意味じゃない!」

 

 白音(しろね)が俺を見て小さく首を傾げる

 

「兄さま、顔が少し赤いです」

 

「風呂上がりだからだ!」

 

「そうですか」

 

「その間やめろ!」

 

「あの……」

 

 瑠璃(るり)が困ったように俺達を見回している

 

「結局、何があったんですか?」

 

「何もない!」

 

「そうなんですか?」

 

「そう!」

 

「は、はい」

 

 駄目だ

 

 瑠璃(るり)だけは巻き込むな

 

 このまま何も知らないでいてくれ

 

「ハク」

 

「ん?」

 

 声の方を見ると、イリナが皿を持ったまま立っていた

 

「これどこ置けばいい?」

 

「ああ、それならこっち」

 

「分かった」

 

 一瞬だけ目が合う

 

「…………」

 

「…………」

 

 そしてほぼ同時に逸らした

 

 気まずい!

 

 何でお互い気まずくなってんだよ!

 

 事故だろ!

 

 事故なんだから普通にしろ俺!

 

「ハク?」

 

「何だ?」

 

「そこ邪魔」

 

「あ、悪い」

 

 ゼノヴィアに言われて横へ退く

 

「何をしているんだ?」

 

「何もしてない」

 

「そうか」

 

「その納得の仕方やめてくれる?」

 

 ゼノヴィアは気にした様子もなく料理を運んでいく

 

 本当にマイペースだなこいつ

 

 しばらくして全員分の料理が並び、俺達も席へ着いた

 

「いただきます!」

 

 イリナの声に続いて、それぞれ箸を取る

 

「美味しい!」

 

「それならよかった」

 

 猫音(ねこね)が少し嬉しそうに笑う

 

「猫音(ねこね)ちゃんが作ったの?」

 

「皆でだよ」

 

「白音(しろね)ちゃんも?」

 

「はい」

 

「黒歌(くろか)さんも?」

 

「当然にゃ」

 

「ご主人の分だけ味付け変えようかと思ったけどにゃ〜」

 

「何する気だったんだよ」

 

「愛情を増やそうかと」

 

「絶対違うもの増やすつもりだっただろ」

 

「失礼にゃ」

 

 俺の横から伸びてきた箸が唐揚げを一つ持っていく

 

「おい」

 

「ん?」

 

 クオンが何事もなかったように食べる

 

「それ俺の」

 

「まだあるよ?」

 

「そういう問題じゃない」

 

「ならもう一個食べればいいんじゃないかな」

 

「……まあいいけど」

 

 いつものことだし

 

 反対側を見ると、猫音(ねこね)が何も言わず醤油へ手を伸ばしていたので、先に取って渡す

 

「はい」

 

「ありがと」

 

「兄さま、私もお願いします」

 

「ほら」

 

「ありがとうございます」

 

「ハクさん、そっちのお茶取ってもらってもいいですか?」

 

「おう、瑠璃(るり)」

 

「ありがとうございます」

 

「私も!」

 

「イリナは自分で取れるだろ」

 

「何で!?」

 

「目の前じゃねぇか!」

 

「猫音(ねこね)ちゃんには取ってあげてた!」

 

「あいつは届かなかったんだよ!」

 

「私だって届かないかもしれないじゃん!」

 

「腕伸ばせば余裕だろ!」

 

「試してみないと分かんないでしょ!」

 

「分かるわ!」

 

 何なんだこの会話

 

 昔もこんな感じだった気がする

 

「…………」

 

 ふと、イリナが静かになった

 

「どうした?」

 

「ん? 何でもないよ」

 

「そうか?」

 

「うん」

 

 そう言ってまた料理へ箸を伸ばす

 

 さっきまでと変わらない笑顔

 

 ただ、ほんの少しだけ部屋の中を見回していた気がした

 

 猫音(ねこね)と白音(しろね)が話して、黒歌(くろか)がそこへ茶々を入れる

 

 瑠璃(るり)が笑い、クオンが当たり前みたいにその輪へ入る

 

 いつもの光景だ

 

 俺にとっては

 

「賑やかだね」

 

 イリナがぽつりと呟く

 

「昔よりはな」

 

「うん」

 

 それだけ言って、少し笑う

 

「何だよ」

 

「別に」

 

「お前までそれ言うのか」

 

「何それ?」

 

「今日それ何回も聞いてる」

 

「ふふっ」

 

 笑ったならまあいいか

 

 ──────────────────────

 

 夕食が終わった後、各自で片付けを始める

 

「ハクさん、これ台所でいいですか?」

 

「おう、瑠璃(るり)はそこ置いといて」

 

「分かりました」

 

「お兄ちゃん、その皿こっち」

 

「はいよ」

 

「ハク、私は?」

 

「クオンは自分の家帰れ」

 

「酷くない?」

 

「冗談だよ」

 

「分かってるよ」

 

「なら聞くな」

 

 そんなやり取りをしながら片付けを終え、俺は押し入れから客用の毛布を一枚取り出した

 

「一応持ってくか」

 

 この時期なら必要ないとは思うけど、夜は少し冷えるかもしれない

 

 客間へ向かい、軽く扉を叩く

 

「イリナ、ゼノヴィア、入るぞ」

 

「はーい!」

 

「構わない」

 

 中へ入ると、イリナは自分の荷物を整理していて、ゼノヴィアは部屋の隅に置いてある細長いケースの傍に座っていた

 

 空港でも持っていたやつだ

 

「一応毛布置いとく」

 

「ありがとうハク!」

 

「使わないならそのままでいい」

 

「ああ、助かる」

 

 ゼノヴィアの横を通り、押し入れの近くへ毛布を置く

 

 その瞬間だった

 

「…………」

 

 ゼノヴィアが僅かに目を見開いた

 

「ん?」

 

「…………」

 

「どうした?」

 

「いや」

 

「またそれか」

 

 空港から何回目だよ

 

「俺何かした?」

 

「何もしていない」

 

「なら何だよ」

 

「……確認しているだけだ」

 

「何を?」

 

「気にするな」

 

「それ言われた方が気になるんだけど」

 

 ゼノヴィアは答えず、横に置かれたケースへ一瞬だけ視線を落とす

 

 やっぱりあれか

 

 原作通りなら、中に入っているのはおそらく破壊の聖剣

 

 ……まあ、今の世界でもそのままだと決まったわけじゃないけどな

 

 それより気になるのは、空港でも起きたあの反応だ

 

 俺が近付いた途端、イッセーが感じていた嫌な気配が明らかに弱くなった

 

 フリードが持っていた聖剣でも似たことが起きている

 

 あの時は仮面を出していたから、その影響だと思っていた

 

 けど空港では出していない

 

 そして今も、ゼノヴィアは何かを確かめるみたいにケースを見ている

 

 ……やっぱり何かあるな

 

「ハク?」

 

「ん?」

 

 荷物を整理していたイリナがこっちを見る

 

「どうしたの?」

 

「いや、ゼノヴィアがまた変な目で見てくる」

 

「変な目とは失礼だな」

 

「じゃあ何なんだよ」

 

「今はまだ分からない」

 

「今は?」

 

「そうだ」

 

 やっぱり何かあるじゃねぇか

 

「……まあいいけど」

 

 無理に聞いても答える気はなさそうだ

 

 こっちも今の段階で余計なことを言う必要はないだろう

 

「毛布ここ置いとくからな」

 

「ありがと!」

 

「ああ」

 

 部屋を出ようとすると、背中へまた視線を感じる

 

 振り返る

 

「…………」

 

「…………」

 

 ゼノヴィアと目が合った

 

「何だ?」

 

「いや」

 

「だからそれやめろ!」

 

 扉を閉める

 

 何なんだ本当に

 

 side out ハク

 ──────────────────────

 side in ゼノヴィア

 

 足音が遠ざかる

 

「…………」

 

 閉じられた扉をしばらく見つめた後、隣に置いてあるケースへ手を伸ばす

 

「ゼノヴィア?」

 

 イリナが首を傾げる

 

「どうしたの?」

 

「……やはり妙だ」

 

「何が?」

 

 ケースへ触れたまま、僅かに眉を寄せる

 

 つい先程まで、いつもより明らかに静かだった

 

 まるで何かを警戒して息を潜めるように

 

 そして大神(おおがみ)が部屋から出た途端、僅かに元へ戻っている

 

「ゼノヴィア?」

 

「いや」

 

「またそれ?」

 

「まだ確証がない」

 

「何の?」

 

「分かれば話す」

 

「気になるんだけど……」

 

 イリナが頬を膨らませる

 

 もう一度ケースへ視線を落とす

 

「…………」

 

 空港でも同じだった

 

 大神(おおがみ)が近付いた時だけ、明らかに反応が変わった

 

 偶然ではない

 

 少なくとも、そう考えた方が自然だ

 

「大神(おおがみ)か……」

 

「ハクがどうかした?」

 

「何でもない」

 

「絶対何かあるでしょ!」

 

「まだ話せない」

 

「ゼノヴィア!」

 

「確証がないことを話しても仕方ないだろう」

 

「むぅ……」

 

 不満そうなイリナを横目に、ケースから手を離す

 

 今のところ分かっているのは一つだけだ

 

 あの男が近くにいると、明らかに様子が変わる

 

 それだけだった

 

 ──────────────────────

 

 それからしばらくして、部屋の明かりを消した

 

「おやすみ、ゼノヴィア」

 

「ああ、おやすみ」

 

 布団へ入り、目を閉じる

 

 少し離れたところから布団の擦れる音が聞こえた

 

「…………」

 

 今日一日で色々あった

 

 明日からのことも考える必要がある

 

 なら早く休んだ方がいい

 

「…………」

 

 隣から何度か寝返りを打つ音が聞こえる

 

「イリナ」

 

「な、何!?」

 

「うるさい」

 

「ご、ごめん」

 

「寝ろ」

 

「分かってる!」

 

「ならいい」

 

 目を閉じる

 

「…………」

 

 また布団が動いた

 

 だが今度は何も言わないことにした

 

 side out ゼノヴィア

 ──────────────────────

 side in イリナ

 

「…………」

 

 寝られない

 

 何で?

 

 疲れてるはずなのに

 

 飛行機にも乗ったし、駒王町に着いてからも歩き回ったし、お風呂にも入った

 

 いつもならすぐ眠れるはずなのに

 

「…………」

 

 寝返りを打つ

 

 目を閉じる

 

 また開く

 

「…………」

 

 駄目

 

 全然寝られない

 

 理由は分かってる

 

 分かってるけど

 

「…………」

 

 思い出す

 

 空港で久しぶりに見たハクの顔

 

 昔よりずっと背が高くなって、顔つきも大人っぽくなっていた

 

 見つけた時は嬉しくて、そのまま昔みたいに抱きついた

 

 その時はまだよかった

 

 昔からやってたことだから

 

 でも、その後ちゃんと顔を見てから変になった

 

「…………」

 

 そして

 

 お風呂から出た時

 

「っ……」

 

 布団を口元まで引き上げる

 

 思い出すな私!

 

 事故だったんだから!

 

 ハクだって知らなかっただけだし、私だって知らなかったんだから!

 

 だから何もおかしくない!

 

「…………」

 

 なのに、頭から離れない

 

 昔とは全然違っていた

 

 肩も広くなっていたし、腕だってずっとしっかりしていた

 

 昔から道場で鍛えてるのは知ってた

 

 メールでもずっと続けてるって聞いてた

 

 だから変わってるのは当たり前なのに

 

「……あんなに変わる?」

 

 小さく呟く

 

 返事はない

 

 ゼノヴィアはもう寝たらしい

 

 何でこんな時だけ寝るの早いのよ

 

「…………」

 

 ハクは昔から落ち着いていた

 

 私やイッセーが騒いでても、一人だけちょっと大人みたいな顔をしていた

 

 でも見た目は同じくらいの子供だった

 

 だから何も気にならなかった

 

 幼馴染だったから

 

 今だって幼馴染なのに

 

「…………」

 

 今日会ったハクは、何というか

 

 昔と同じなのに

 

 昔と全然違った

 

「うぅ……」

 

 布団の中で顔を押さえる

 

 何でこんなこと考えてるのよ私!

 

 久しぶりに会ったから

 

 そう

 

 十年以上ぶりなんだから、成長した姿を見て驚いてるだけ

 

 それだけ

 

「…………」

 

 多分

 

 また寝返りを打つ

 

 今度は夕食の時の光景が浮かぶ

 

 猫音(ねこね)ちゃんがハクをお兄ちゃんって呼んで

 

 白音(しろね)ちゃんも自然に兄さまって呼んで

 

 黒歌(くろか)さんはご主人って呼んでいた

 

 瑠璃(るり)ちゃんも当たり前みたいに皆と一緒にいて

 

 それに久遠(くおん)さん

 

「…………」

 

 当たり前みたいにハクの横から唐揚げ取ってたな

 

 ハクも怒ってるようで全然本気じゃなかった

 

 いつものことって感じだった

 

「…………」

 

 何でそこ気にしてるんだろ

 

 皆、私が知らない間にハクと仲良くなった人達

 

 十年以上離れてたんだから当たり前なのに

 

「……別にいいじゃん」

 

 誰に言うでもなく呟く

 

 ハクが誰と仲良くしてたって私には関係ない

 

 私は幼馴染で

 

 ずっと友達で

 

 それで

 

「…………」

 

 何でこんなに気になるのよ

 

 分からない

 

 本当に分からない

 

「……っていうか私、何考えてるのよ」

 

 明日からちゃんと任務もあるのに

 

 こんなことで一人で悩んでる場合じゃないでしょ

 

「…………」

 

 そう

 

 今は任務

 

 ハクのことは――

 

「…………」

 

 またハクのこと考えてる!

 

「うぅ……」

 

 何で結局そこに戻るのよ!

 

 落ち着け私

 

 明日からはちゃんと切り替える

 

 任務に集中する

 

 ハクのことは一旦置いておく

 

「…………」

 

 また、脱衣所で目が合った瞬間のハクの顔が浮かぶ

 

「~~~~っ!」

 

 勢いよく布団を頭まで被る

 

 思い出すな!

 

 もう寝る!

 

 今日は寝るの!

 

「…………」

 

 目を閉じる

 

「…………」

 

 数秒後、また目を開ける

 

「……昔はこんなの気にしなかったのに」

 

 小さく呟いて、今度こそ布団へ顔を埋めた

 

 side out イリナ

 ──────────────────────

 side in ハク

 

「…………」

 

 目を開ける

 

 まだ目覚ましは鳴っていない

 

 カーテンの隙間から入ってくる光を見る限り、もう朝なのは間違いないけど

 

「……眠い」

 

 結局、あの後ほとんど寝付けなかった

 

 目を閉じても眠れず、ようやく意識が落ちたと思ったらすぐに目が覚める

 

 何やってんだ俺

 

「…………」

 

 理由を考えそうになって、すぐにやめる

 

 考えるな

 

 朝から昨日のこと思い出すな

 

 事故だ

 

 昨日何回言ったか分からないけど事故なんだ

 

 それで終わり

 

「…………」

 

 そう思ってるのに寝不足になってる時点で説得力ないな

 

 枕元のスマホを取る

 

 目覚ましが鳴るまであと三分

 

「もう起きるか……」

 

 布団から出て、洗面所へ向かう

 

 鏡を見る

 

「…………酷いな」

 

 いつもより明らかに目が重い

 

 顔を洗えば多少マシになるだろ

 

 冷たい水を何度か顔へ当て、タオルで拭く

 

「お兄ちゃん?」

 

「ん?」

 

 後ろから声がして振り返ると、猫音(ねこね)が立っていた

 

「おはよ」

 

「おう、おはよう」

 

「…………」

 

 俺の顔をじっと見る

 

「何だよ」

 

「眠そう」

 

「そうか?」

 

「うん」

 

「気のせいだ」

 

「目の下見れば分かるよ」

 

「朝から鋭いな」

 

「普通に見ただけだよ」

 

 そう言って猫音(ねこね)が洗面所へ入ってくる

 

「昨日遅かったの?」

 

「いや」

 

「じゃあ寝られなかった?」

 

「…………まあ、ちょっとな」

 

「ふーん」

 

「何だその顔」

 

「別に」

 

「最近その返し流行ってんの?」

 

「知らない」

 

 絶対何か分かってるだろこいつ

 

 昨日の事故を知ってるだけに余計腹立つ

 

「朝飯出来てるよ」

 

「分かった」

 

 猫音(ねこね)の後について居間へ向かう

 

 襖を開けると、既に何人か席についていた

 

「おはようございます、ハクさん」

 

「おう、おはよう瑠璃(るり)」

 

「兄さま、おはようございます」

 

「おはよう、白音(しろね)」

 

「ご主人、随分眠そうにゃ」

 

「朝一番からそれ言うな」

 

「図星にゃ?」

 

「違う」

 

「じゃあ元気?」

 

「眠い」

 

「図星じゃないかにゃ」

 

「うるさい」

 

 黒歌(くろか)が楽しそうに笑う

 

 その向こうではクオンが普通に味噌汁を飲んでいた

 

「おはよう、ハク」

 

「……お前元気だな」

 

「よく寝たから」

 

「そうですか」

 

 何でちょっと腹立つんだろうな

 

 そういや結局こいつ昨日そのまま泊まったんだった

 

 別にそれ自体はおかしくない

 

 家も近いし、昨日だって帰れと言ったのは完全に冗談だった

 

「…………」

 

 その時

 

 廊下から足音が聞こえる

 

「お、おはよう……」

 

 振り返る

 

「…………」

 

「…………」

 

 イリナだった

 

 目が合う

 

 止まる

 

 同時に逸らす

 

「……おう、おはよう」

 

「う、うん、おはよう」

 

「…………」

 

「…………」

 

 気まずい!

 

 昨日より気まずくなってるじゃねぇか!

 

 というか

 

「お前も眠そうだな」

 

「ハクに言われたくない!」

 

「何で俺だけ!?」

 

「だってハクも明らかに寝不足じゃん!」

 

「お前もだろ!」

 

「私はちょっと寝付けなかっただけ!」

 

「俺だってそうだよ!」

 

「…………」

 

「…………」

 

 言った後で二人とも黙る

 

 何だこれ

 

 何で俺達二人して寝付けなかったって告白してんだ

 

「二人とも」

 

 猫音(ねこね)が俺とイリナを交互に見る

 

「何だ?」

 

「何?」

 

「息ぴったりだね」

 

「「違う!」」

 

「ほら」

 

「違うって!」

 

「何が違うんだ?」

 

 いつの間にか部屋へ入ってきたゼノヴィアが首を傾げる

 

「全部!」

 

「私は何も言っていないが」

 

「ゼノヴィアは今は何も言わなくていいの!」

 

「そうか」

 

 納得するの早いな

 

 ゼノヴィアも席につき、全員で朝食を始める

 

「…………」

 

「…………」

 

 さっきからイリナと何度か目が合う

 

 その度にどちらからともなく逸らす

 

 朝飯くらい普通に食え俺

 

 昨日まで普通に幼馴染だったろ

 

 いや、今も幼馴染だけど

 

「……美味しい」

 

「よかった」

 

 猫音(ねこね)がイリナへ答える

 

「これ猫音(ねこね)ちゃんが作ったの?」

 

「お味噌汁は私」

 

「へぇ、料理出来るんだ」

 

「普通くらいだよ」

 

「十分凄いよ!」

 

 少しずついつものイリナに戻ってきた

 

 よし

 

 このまま普通に朝飯食って終わろう

 

「そういえば」

 

 イリナがクオンを見る

 

「久遠(くおん)さんも昨日泊まってたの?」

 

「うん」

 

 クオンが何でもないことのように答える

 

「昨日そのまま泊まったよ」

 

「そうなんだ……」

 

「どうしたの?」

 

「ううん、何でもない」

 

「そう?」

 

「うん」

 

 イリナが一度俺を見る

 

「…………」

 

「何だよ」

 

「え?」

 

「今こっち見ただろ」

 

「見てない!」

 

「いや見てたろ」

 

「見てないって!」

 

「どっちでもいいだろ」

 

 ゼノヴィアが黙々と朝食を食べながら言う

 

「よくない!」

 

「何故だ?」

 

「何でも!」

 

 何なんだ

 

 今日のイリナ忙しいな

 

「…………」

 

 イリナが箸を置く

 

「ねえ」

 

「ん?」

 

 俺を見る

 

 次にクオンを見る

 

 また俺を見る

 

「何だよ」

 

「ハクと久遠(くおん)さんって、付き合ってるの?」

 

「「え?」」

 

 俺とクオンの声が重なった

 

 …………何で?

 

「付き合ってないぞ」

 

「うん、付き合ってないよ」

 

 ほぼ同時に答える

 

「そ、そうなんだ」

 

「何で聞いた?」

 

「別に!」

 

「別にで聞く質問かそれ」

 

「ちょっと気になっただけ!」

 

「ふぅん」

 

 クオンがイリナを見る

 

「気になったんだ?」

 

「そ、そういう意味じゃないから!」

 

「まだ何も言ってないよ?」

 

「顔が言ってる!」

 

「どんな顔?」

 

「そういう顔!」

 

「そうかな?」

 

 クオンが少しだけ笑う

 

 こいつ絶対楽しんでるだろ

 

「昨日からお前は大神(おおがみ)のことばかり気にしているな」

 

「ゼノヴィアは黙ってて!」

 

「何故だ?」

 

「お願いだから!」

 

「そうか」

 

 また納得した

 

 ゼノヴィア強いな

 

「…………」

 

 それにしても

 

 俺とクオンが付き合ってる?

 

 今まで何度か勘違いされたことはあるけど、イリナにまで言われるとは思わなかった

 

 そのイリナは何故かさっきより少しだけ表情が緩んでいる

 

 気のせいか?

 

「そういや」

 

 これ以上続けると余計ややこしくなりそうなので話を変える

 

「俺らは学校あるから朝から出るけど、お前ら今日はどうする?」

 

「私達?」

 

 イリナがゼノヴィアを見る

 

「昼過ぎに出る予定だ」

 

 ゼノヴィアが答える

 

「それまではここを借りても構わないか?」

 

「別にいいぞ」

 

「私達もちょっと確認してから出るつもり」

 

「分かった」

 

 詳しいことは聞かない

 

 瑠璃(るり)もいるし、朝飯の席でする話じゃない

 

「じゃあこれ」

 

 ポケットから鍵を一つ取り出して、イリナへ差し出す

 

「え?」

 

「家の鍵」

 

「……いいの?」

 

「俺達が学校行ってる間、いちいち時間合わせるの面倒だろ」

 

 イリナが鍵と俺の顔を交互に見る

 

「駒王町にいる間は持ってていいぞ」

 

「でも」

 

「なくすなよ」

 

「なくさないよ!」

 

「ならいい」

 

「随分簡単に渡すんだな」

 

 ゼノヴィアが鍵を見る

 

「お前ら今ここに泊まってるんだぞ」

 

「それはそうだが」

 

「それにイリナは幼馴染だしな」

 

「…………」

 

 イリナが鍵を見つめる

 

「どうした?」

 

「な、何でもない!」

 

「今日何回目だよそれ」

 

「数えてない!」

 

「俺も数えてないけど多いぞ」

 

「うるさい!」

 

 鍵を大事そうに握る

 

 そんな大層な物じゃないんだけどな

 

「じゃあ帰る時間決まったら連絡する」

 

「うん」

 

「俺達が先に帰ってても気にしないで」

 

「ああ」

 

「ゼノヴィアも勝手に出入りしていいからな」

 

「承知した」

 

「…………」

 

「イリナ?」

 

「何でもない!」

 

「まだ何も聞いてないんだけど」

 

「なら聞かないで!」

 

「理不尽すぎる」

 

 朝食を終え、学校へ行く準備を始める

 

 クオンは制服を取りに一度自分の家へ戻るらしい

 

「じゃあ後でね、ハク」

 

「おう」

 

「いつものところで待ってるね」

 

「分かった」

 

 家が近いって便利だよな

 

 瑠璃(るり)も鞄を持って玄関へ向かう

 

「それじゃ行ってきます」

 

「いってらっしゃい」

 

 イリナが答える

 

「兄さま、忘れ物はありませんか?」

 

「多分」

 

「多分じゃ駄目ですよ」

 

「大丈夫だって」

 

「お兄ちゃん、弁当」

 

「危なっ!」

 

 猫音(ねこね)から弁当を受け取る

 

「ほら」

 

「助かった」

 

「やっぱり忘れてるじゃん」

 

「今思い出したから忘れてない」

 

「それは忘れてたって言うんだよ」

 

「細かいこと気にするな」

 

「お兄ちゃんが言う?」

 

 ごもっとも

 

「姉様、私達もそろそろ行きますよ」

 

「はいはい、分かってるにゃ」

 

 白音(しろね)が鞄を持つと、黒歌(くろか)も立ち上がる

 

「兄さま、先に行きますね」

 

「おう、気を付けてな」

 

「ご主人も遅刻しないようにするにゃ」

 

「誰のせいで遅れかけてると思ってんだ」

 

「誰のせいにゃ?」

 

「…………俺か」

 

「分かってるならいいにゃ」

 

 笑いながら黒歌(くろか)と白音(しろね)が一足先に家を出ていく

 

「ハクさん、私達も」

 

「今行く」

 

 靴を履こうとしたところで後ろから呼ばれる

 

「ハク」

 

「ん?」

 

 イリナが立っていた

 

「……いってらっしゃい」

 

「…………」

 

 普通の一言なのに、何故か一瞬返事に詰まる

 

「お、おう」

 

 何だ今の間

 

「行ってくる」

 

「うん」

 

 また目が合う

 

「…………」

 

「…………」

 

 今度はどちらからともなく逸らした

 

 駄目だ

 

 全然直ってねぇ

 

「ハクさん?」

 

「今行くって」

 

 先に外へ出た瑠璃(るり)を追って家を出る

 

 朝の空気がまだ少し冷たい

 

「…………」

 

 眠い

 

 学校着くまでに目覚めるかな

 

 ──────────────────────

 

「おはよう、ハク」

 

「おう」

 

 少し歩いたところで、制服へ着替えたクオンが合流する

 

「瑠璃(るり)さんもおはよう」

 

「おはようございます、久遠(くおん)さん」

 

「クオン、お前本当に元気だな」

 

「だからよく寝たって言ったでしょ?」

 

「羨ましい」

 

「ハクが寝なかっただけじゃないかな」

 

「寝なかったんじゃなくて寝られなかったんだよ」

 

「ふぅん」

 

「その顔やめろ」

 

「どんな顔?」

 

「朝イリナにしてた顔」

 

「そうかな?」

 

 絶対分かってる

 

「おーい、ハク!」

 

 前から声が聞こえる

 

 見るとイッセーが歩いてくる

 

「おはよ――」

 

「…………」

 

「…………」

 

 近付いてきたイッセーの顔を見る

 

 酷い

 

 明らかに寝不足だ

 

「イッセー」

 

「何だよ」

 

「お前もか」

 

「……お前も?」

 

 俺達はしばらく無言で見つめ合う

 

「奇遇だな」

 

「奇遇だな……」

 

「二人とも酷い顔だね」

 

 クオンが横から言う

 

「うるせぇ」

 

「ハクさんもイッセーさんも、本当に眠そうですね」

 

 瑠璃(るり)まで心配そうにしている

 

「ハク」

 

「何だ」

 

「俺、昨日ほとんど寝てねぇ」

 

「俺もだ」

 

「お前何があった?」

 

「聞くな」

 

「何でだよ」

 

「お前は?」

 

「…………」

 

 イッセーが遠い目をする

 

「夜中に部長とアーシアが俺の布団に潜り込んできた」

 

「…………」

 

「ああ」

 

「その全部分かったみたいな顔やめろ!」

 

「いや、大体分かるだろ」

 

「二人とも普通に寝てんだぞ!? こっちはあの状況で普通に寝ろって言われても無理だろ!」

 

「それは……まあ、寝付けないな」

 

「だろ!?」

 

「随分賑やかな夜だったんだね」

 

 クオンが言う

 

「賑やかじゃねぇ! むしろ俺だけ一人で必死に静かにしてたんだよ!」

 

「大変だったんですね……」

 

 瑠璃(るり)が本気で同情している

 

「瑠璃(るり)ちゃんだけだよ俺を分かってくれるの!」

 

「朝から大声出す元気あるなら大丈夫だろ」

 

「ハク冷たくない!?」

 

「眠いんだよ」

 

「俺も眠いわ!」

 

 同じ寝不足でも理由が全然違う

 

「で、お前は何で寝不足なんだ?」

 

「だから聞くなって」

 

「何で隠すんだよ」

 

「色々あったんだよ」

 

「色々?」

 

「色々」

 

 イッセーがじっと俺を見る

 

「…………」

 

「何だ」

 

「昨日、お前ん家にイリナ泊まってたよな」

 

「…………」

 

「おい」

 

「何もない」

 

「まだ何も言ってねぇよ!」

 

「なら言うな」

 

「怪しすぎるだろ!」

 

「事故だ!」

 

「何の!?」

 

「何でもない!」

 

「どっちだよ!」

 

 隣でクオンが口元を押さえている

 

「お前笑ってるだろ」

 

「別に?」

 

「絶対笑ってる!」

 

「朝から元気だね、ハク」

 

「誰のせいだと思ってんだ!」

 

「私(わたくし)何もしてないよ?」

 

「してる!」

 

「してないよ」

 

「昨日風呂場の前まで来ただろ!」

 

「…………風呂場?」

 

 イッセーの目が変わった

 

 しまった

 

「ハク」

 

「忘れろ」

 

「何があった?」

 

「何もない」

 

「今絶対何かあるって分かったぞ!」

 

「学校遅れるぞ」

 

「誤魔化すな!」

 

「ほら行くぞ」

 

「ハク!」

 

 イッセーの追及を無視して歩き出す

 

 後ろでクオンが笑っているのが聞こえる

 

 瑠璃(るり)は何が何だか分からない顔をしていた

 

「…………」

 

 眠い

 

 本当に眠い

 

 朝からこんなに疲れる予定じゃなかったんだけどな

 

 そのまま四人で、いつもの通学路を学校へ向かった

 

 その後は、いつも通り授業を受けた

 

 ……いつも通りと言っていいのかは分からないけど

 

 昨日ほとんど眠れていないせいで、午前中から何度か意識が飛びかけた

 

 昼休みにはリアス先輩から、放課後に部室へ来るよう連絡が入る

 

 理由までは書かれていなかったが、今日なら大体予想はつく。イリナ達も朝、確認することがあると言っていたし、空港でのあの反応もある

 

 多分――今日だ

 

 そして午後の授業も何とか乗り切り、放課後

 

「ハクさん、今日は部活ですか?」

 

「ああ、旧校舎寄ってくる」

 

 帰り支度をしていた瑠璃(るり)が頷く

 

「分かりました、それじゃあ先に帰っていますね」

 

「おう、気を付けてな」

 

「はい」

 

 瑠璃(るり)を見送り、俺も鞄を持つ

 

「クオンも行くんだろ?」

 

「うん、私(わたくし)も行くよ」

 

「イッセーさん、行きましょう」

 

「おう」

 

 俺達四人も教室を出て、旧校舎にあるいつもの部室へ向かう

 

「入るぞ」

 

 扉を開けた

 

「お疲れさま――」

 

「…………」

 

 ソファに座っている二人が目に入り、足が止まる

 

「あ」

 

 イリナと目が合った

 

「ハク!?」

 

「……もう来てたのか」

 

「それこっちの台詞!」

 

「何で?」

 

「何でハクがここにいるのよ!」

 

 ああ、そういう意味か

 

「それにイッセーまで!?」

 

「俺!?」

 

「久遠さんも!?」

 

「うん」

 

「何で三人とも普通に入ってくるの!?」

 

「普通に呼ばれたからだけど」

 

「そういうことじゃない!」

 

 その隣でゼノヴィアも俺達を順番に見る

 

「確かに妙だな」

 

「お前まで?」

 

 ゼノヴィアの視線がイッセーへ向く

 

「空港でもお前からは妙に強い気と、少し変わった気配を感じていたが、まさかお前達までこの部室へ普通に出入りしているとは思わなかった」

 

「まあ、色々あってな」

 

「またそれ!?」

 

 イリナが即座に食いつく

 

「便利なんだよ、この言葉」

 

「便利に使わないで!」

 

「ご主人は本当に色々あるから仕方ないにゃ」

 

 聞き慣れた声が横から飛んでくる

 

 見ると、黒歌(くろか)がソファの端で寛いでいて、隣には白音(しろね)もいる

 

「黒歌(くろか)さんと白音(しろね)ちゃんまで!?」

 

「昨日会ったにゃ」

 

「そういう意味じゃないの!」

 

「姉様、分かって言っていますよね」

 

「もちろんにゃ」

 

 白音(しろね)が小さく息を吐く

 

 部屋の奥にはリアス先輩と朱乃、祐斗もいる

 

「このままだと本題へ入る前に時間が掛かりそうね」

 

 リアス先輩が苦笑する

 

「まず、今ここにいる全員の立場を一度整理しましょうか」

 

「お願い」

 

 イリナが即答した

 

「もう誰が何なのか分からなくなってきた」

 

「まだ始まってないぞ」

 

「ハク達のせいでしょ!」

 

「俺?」

 

「ハクとイッセー!」

 

「何で俺まで!?」

 

「まず私からね」

 

 リアス先輩が話を戻す

 

「リアス・グレモリー、純血の悪魔よ」

 

「それは聞いている」

 

 ゼノヴィアが頷く

 

「そして祐斗」

 

「木場祐斗です」

 

 祐斗が軽く頭を下げる

 

「元は人間、現在は部長の眷属で、騎士(ナイト)です」

 

「次がイッセー」

 

「兵藤一誠だ」

 

 イッセーが自分を指す

 

「俺も元は人間で、今は部長の眷属の悪魔。兵士(ポーン)八個分で転生してる」

 

「…………」

 

 イリナが固まった

 

「え?」

 

「悪魔」

 

「…………」

 

「イリナ?」

 

「ええええええええっ!?」

 

「声でかい!」

 

「イッセーが悪魔!?」

 

「そうだよ!」

 

「いつ!?」

 

「少し前!」

 

「何で!?」

 

「色々あって!」

 

「またそれぇ!?」

 

「説明すると長ぇんだよ!」

 

「私がいない間に何があったのよ!」

 

「本当に色々あったんだって!」

 

 頭を抱えるイリナの横で、ゼノヴィアがイッセーをじっと見る

 

「なるほど」

 

「何がだよ」

 

「空港で感じた妙な気配の理由の一つは、それか」

 

「一つ?」

 

「まだ分からない部分もある」

 

「何だそれ」

 

 ゼノヴィアはそれ以上答えない

 

「次は朱乃ね」

 

「姫島朱乃よ」

 

 朱乃がいつもの笑みを浮かべる

 

「元々は堕天使の父と人間の母の間に生まれたハーフ。今はリアスの眷属として悪魔へ転生して、女王(クイーン)を務めているわ」

 

「堕天使と人間の……」

 

 イリナが目を瞬く

 

「それで今は悪魔?」

 

「ええ」

 

「情報が多いよ!」

 

「あらあら」

 

「朱乃、楽しんでるだろ」

 

「少しだけ」

 

「やっぱり」

 

「次は二人」

 

 リアス先輩が黒歌(くろか)と白音(しろね)を見る

 

「この二人は私の眷属ではないわ。黒歌(くろか)と白音(しろね)、種族は猫又」

 

「猫又?」

 

 イリナが首を傾げる

 

「こういうことにゃ」

 

 黒歌(くろか)の頭に猫の耳が現れ、同時に腰の後ろから尻尾が伸びた

 

「私もです」

 

 白音(しろね)も続いて耳と尻尾を出す

 

「…………」

 

 イリナの目が一気に輝いた

 

「本当に猫耳出た!」

 

「本物にゃ」

 

「尻尾も!」

 

「あります」

 

「触って――」

 

「イリナ」

 

 ゼノヴィアが横から止める

 

「今は説明の途中だ」

 

「……後でなら?」

 

「そこは本人達に聞け」

 

「姉様」

 

「私は別にいいにゃ」

 

「そういう問題ではありません」

 

 説明が済むと、二人はすぐに耳と尻尾を消した。学校では普段隠してるからな

 

「それでクオンは人間ね」

 

 リアス先輩が確認するように言う

 

「うん、私(わたくし)は人間だよ」

 

「そしてハク」

 

「俺か」

 

 全員の視線が集まる

 

「大神白(おおがみ はく)」

 

 一拍置く

 

「人間」

 

「…………」

 

 ゼノヴィアが黙って俺を見る

 

「何だよ」

 

「いや」

 

「本当に?」

 

「人間だよ!」

 

「何故お前だけそれほど疑われるんだ?」

 

 イッセーが笑う

 

「知らん!」

 

「日頃の行いじゃない?」

 

「クオン、お前まで言う?」

 

「冗談だよ」

 

「笑ってるじゃねぇか」

 

「まあ、ハクは昔からハクだから」

 

 イリナまで頷く

 

「それ説明になってないからな?」

 

「私もそう思う」

 

「ゼノヴィアは乗らなくていい!」

 

「そしてアーシアね」

 

 リアス先輩の声で、少しだけ空気が変わった

 

「はい」

 

 アーシアが立ち上がる

 

「アーシア・アルジェントです。元は人間でした」

 

「今は部長さんの眷属として悪魔へ転生して、僧侶(ビショップ)を務めています」

 

「…………」

 

 ゼノヴィアの表情が僅かに変わった

 

「アーシア・アルジェント?」

 

「はい」

 

「その名は知っている」

 

 アーシアの肩が僅かに強張り、イリナもさっきまでの表情を消してアーシアを見る

 

「かつて教会で聖女と呼ばれていた少女」

 

「そして、悪魔を癒したことで異端と判断され、教会を追われた――」

 

 ほとんど同時だった

 

 イッセーから気が溢れる

 

 悪魔の魔力だけじゃない。もっと奥にある赤龍帝――龍の気配が、僅かに部屋を震わせた

 

 そして俺も、気付いた時には抑えていた気を少しだけ解放していた

 

「……っ」

 

 空気が変わり、ゼノヴィアの目が俺とイッセーへ向く

 

「その先は」

 

 イッセーが低い声で言う

 

「言い方、考えろよ」

 

「ゼノヴィア」

 

 俺も続ける

 

「アーシアは俺達の仲間だ」

 

「イッセーさん、ハクさん……」

 

 ゼノヴィアは俺達を見たまま数秒黙る

 

「敵意はない」

 

 やがて静かに答えた

 

「教会に残されている記録と本人が一致したため、確認しただけだ」

 

「ゼノヴィア」

 

 イリナが少し眉を寄せる

 

「でも、今の言い方はよくないよ」

 

「……そうか」

 

 ゼノヴィアがアーシアを見る

 

「すまない」

 

「い、いえ……」

 

 アーシアが慌てて首を振る

 

「私は大丈夫です」

 

 それから俺とイッセーを見る

 

「二人も、もう大丈夫ですから」

 

「でもよ」

 

「イッセーさん」

 

「…………分かった」

 

 早い

 

「ハクさんもです」

 

「俺も?」

 

「はい」

 

 ……俺もか

 

「分かった」

 

「ありがとうございます」

 

「でも気に入らないもんは気に入らないからな」

 

「ハクさん……」

 

「俺もそれ」

 

「イッセーさんまで……」

 

 アーシアが困ったように笑う。それでも、少しだけ嬉しそうだった

 

 イッセーを見る

 

「引っ込めるぞ」

 

「おう」

 

 ほぼ同時に気を抑えると、部屋の空気も元へ戻った

 

 ゼノヴィアは何も言わず俺達を見ている。特に俺の方を少し長く

 

「何だよ」

 

「いや」

 

「人間だと言っていたな」

 

「言ったよ!」

 

「そうか」

 

「その顔絶対納得してないだろ!」

 

「では、こちらも改めて」

 

 ゼノヴィアが立ち上がる

 

「ゼノヴィア、人間だ。教会に所属するエクソシストで、今回の任務のためこの町へ来た」

 

「私は紫藤イリナ!」

 

 イリナも続いて立ち上がる

 

「同じく人間で、教会所属のエクソシストです!」

 

「これで全員ね」

 

 リアス先輩が頷く

 

「話を進めましょうか」

 

「賛成だ」

 

 ゼノヴィアが即答する

 

「原因の半分お前だろ」

 

「事実確認をしただけだ」

 

「お前、本当にそれ便利だな」

 

「事実だからな」

 

 強い

 

 イリナが横で額を押さえている

 

「ゼノヴィアって昔からこうなのか?」

 

「うん、昔から」

 

「大変だな」

 

「ハクに言われたくない!」

 

「何で!?」

 

 そこでクオンが小さく笑った

 

「今朝まで一緒にご飯食べてたのに、随分空気変わったね」

 

「……確かに」

 

 今朝まで同じ食卓を囲んでいたイリナとゼノヴィアが、今は教会側の人間として俺達の向かいに座っている

 

 なんとも変な感じだな

 

 全員が改めて席へ着く

 

 俺の隣にクオン、その向こうにイッセーとアーシア。反対側には黒歌(くろか)と白音(しろね)、祐斗はリアス先輩の近く。そして向かい側にイリナとゼノヴィア

 

「それでは改めて説明する」

 

 口を開いたのはゼノヴィアだった

 

「私達がこの町へ派遣された理由は、教会が管理していたエクスカリバーが盗まれたためだ」

 

 祐斗の表情が僅かに変わった

 

 昔なら、もっと露骨に出ていたかもしれない。今は膝の上で組んだ手へ少し力が入っただけだった

 

「盗難が確認された時点で、教会側も先行して調査員を何名か送っているの」

 

 今度はイリナが続ける

 

「神父やエクソシストが先にこの辺りへ入って、盗まれた聖剣の行方を追ってたんだ」

 

「あなた達はその後から?」

 

 リアス先輩が聞く

 

「ああ」

 

 ゼノヴィアが頷く

 

「私達は回収を主目的として後から派遣された」

 

「なるほど」

 

 イッセーが腕を組む

 

「じゃあ空港から別れた後に確認しに行った相手って」

 

「先行していた人達の一人だよ」

 

 イリナが答える

 

 それを聞いた祐斗の表情が僅かに変わった

 

「その先行組の一人が、数日前に襲撃を受けた」

 

 ゼノヴィアの言葉に祐斗が顔を上げる

 

「襲撃した相手は――フリード・セルゼンだ」

 

「…………」

 

 部室が静かになる

 

 イッセーの表情から笑いが消え、アーシアも身体を強張らせる。黒歌(くろか)の目が細くなり、白音(しろね)も真剣な表情でゼノヴィアを見る

 

「フリード……」

 

 イッセーが低く呟く

 

「あいつか」

 

「その神父」

 

 祐斗が静かに口を開く

 

「かなり酷い怪我をしていなかった?」

 

「ああ」

 

 ゼノヴィアが祐斗を見る

 

「木場、お前が助けた神父だ」

 

「……やっぱり」

 

 祐斗が小さく息を吐いた

 

「木場くん」

 

 イリナが祐斗を見る

 

「本当にありがとう。あの人が助かったから、こちらにも情報が上がってきたの」

 

「僕は当然のことをしただけだよ」

 

「だが、一つ分からない」

 

 ゼノヴィアが口を挟む

 

「木場、お前は悪魔だろう」

 

「そうだね」

 

「なら、何故教会の人間を助けた?」

 

 そりゃ、ゼノヴィアからすれば引っ掛かるか

 

 教会、堕天使、悪魔

 

 今はまだ、この三勢力が互いに睨み合っている冷戦状態だ。教会から見れば悪魔は敵対勢力で、悪魔から見ても教会は警戒する相手

 

 そんな状況で悪魔になった祐斗が教会の神父を助けたんだから、疑問に思うのも当然か

 

「怪我をしている人がいたからだよ」

 

 祐斗が静かに答える

 

「教会の人だからって、目の前で怪我をしている人を見捨てる理由にはならない」

 

「…………」

 

「それに」

 

 祐斗が俺達を見る

 

「僕の周りには、種族やどこに属しているかなんて関係なく、大切な友人がいるからね」

 

 悪魔も、人間も、猫又も。この部屋だけでも見事なくらいバラバラだ

 

「違う立場でも一緒にいられるって、僕は知ってる」

 

「だから、所属だけを理由にあの人を見捨てるつもりはなかったよ」

 

 ゼノヴィアは少しだけ目を細める

 

「聖剣についてもか?」

 

 祐斗の表情が僅かに変わった

 

「それは別だよ」

 

 声は穏やかなまま

 

 でも、はっきりしていた

 

「今でも聖剣は憎い」

 

「あの日のことを忘れたわけじゃない。多分、簡単に消えるものでもないと思う」

 

 祐斗が一度だけ息を吐く

 

「でも、それと目の前の人を見捨てることは別だ」

 

「…………」

 

「……そうか」

 

 ゼノヴィアはそれ以上何も言わなかった

 

 理解したのか、納得したのか、そこまでは分からない。ただ、さっきまでとは少しだけ祐斗を見る目が変わった気がする

 

 数日前、フリードと遭遇した翌日の部活で祐斗から報告は受けていた

 

 負傷した神父を見つけたこと。その直後にフリードが現れたこと。そして、奴が聖剣らしきものを持っていたこと

 

 フリードを追うことより負傷した神父の救助を優先したことも、途中で仮面を着けた俺が合流したことも、リアス先輩達には既に話してある

 

 ただ、教会側の人間だったとは分かっていても、その神父が何を追っていたのかまでは分からなかった

 

「つまり」

 

 リアス先輩が静かに口を開く

 

「祐斗が助けた神父は、エクスカリバー盗難を追って先行していた調査員」

 

「そうだ」

 

「そして彼を襲ったフリードが、聖剣らしきものを使用していた」

 

「ああ」

 

 ゼノヴィアが頷く

 

「神父本人からも報告を受けている。フリード・セルゼンが聖剣を所持していたこと、そして戦闘中に仮面を着けた人物が現れたこともな」

 

「…………」

 

 俺は何も言わない

 

 ゼノヴィアも俺を見ない

 

 神父はかなり消耗していたし、俺の正体まで分かっていたとは思えない。少なくとも、教会側が今ここで俺とオシュトルを結び付けている様子はない

 

「フリードが使用していた剣については」

 

 ゼノヴィアが続ける

 

「盗まれたエクスカリバーの一つである可能性が高いと見ている」

 

 祐斗は俯かず、目も逸らさない。ただ真っ直ぐゼノヴィアを見ている

 

 復讐心が消えたわけじゃない。それでも、もうそれだけに飲まれてはいない

 

 ……成長したな、本当に

 

 俺は視線を少し落とす

 

 盗まれたエクスカリバー。聖剣らしきものを持っていたフリード、先行していた教会側の神父、イリナの腕にある細い紐

 

 そして、ゼノヴィアの傍らに置かれた細長いケース

 

「…………」

 

 そういえば、部室へ入ってからイッセーは空港で見せていたような嫌悪感を一度も見せていない

 

 あの時は、近付きたくないとまで言っていたのに

 

 俺はゼノヴィアの傍らへ視線を向ける

 

 やっぱり静かになってる。空港と同じだ

 

 俺が近くにいると、あの中から感じる神聖な力の主張が明らかに弱くなる

 

 フリードの時は仮面を出していた。でも今は出していない

 

 それなのに、同じように聖剣が大人しくなっている

 

「…………」

 

 原作通りなら、あのケースに入っているのはおそらく破壊の聖剣

 

 それにイリナのあの紐も――

 

 いや、まだ決めつけるな

 

 今の世界が、そのまま原作通りに進む保証なんてどこにもない

 

 分かっていることと、実際に起きたこと

 

 まずはそこからだ

 

 俺はもう一度、ケースへ視線を戻した




2万5千だと……やりすぎました…

後悔は……してます…

そして本編ですね

事故です

事故なんです

ハク君は悪くないんです

多分

そしてようやく聖剣編が本格的に動き始めました!

原作とは少しずつ違う流れになっていますが、これからどう転がっていくのか

次回もよろしくお願いします!
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