過去と向き合う祐斗
聖剣を巡る戦いも、ついに最終局面へ
そしてその頃、ハクは――
携帯の充電はちゃんとしましょう
……マジで
あれから数日
盗まれた聖剣の捜索は続いているものの、これといった進展はなかった
フリードとヴァルパーがこの街にいることまでは分かっているけど、居場所までは分からないし、向こうだって素直に姿を見せてくれるわけがない
「今日も行くのか?」
「うん、昨日見られなかった場所もあるからね」
夕食を終えたイリナが立ち上がり、その隣ではゼノヴィアも細長いケースを肩へ掛けている
ここ数日はこんな感じだ
昼間は教会側との連絡や情報整理、日が落ちれば二人で市内を回って聖剣を探し、帰ってくる時間も日に日に遅くなっていて、俺が起きた頃にようやく玄関が開く日まで出てきた
「無茶するなよ、危ない相手もいるんだからな」
「分かってるよ」
「昨日みたいに怪しい場所を見つけても、二人だけで奥まで入るな」
「分かっている」
「本当か?」
「なぜ私だけを見る」
「昨日一人で先に入ろうとしたの誰だよ」
「入口までだ」
「同じだよ!」
イリナが横からゼノヴィアの肩を掴む
「今日はちゃんと止めるから!」
「イリナ、お前も一緒になって入ろうとしてただろ」
「…………」
「…………」
「二人とも俺の目見ろ」
揃って視線を逸らされた
おい
「まあまあハク、二人ともちゃんと帰ってきてるんだから」
隣にいたクオンが笑いながら間へ入ってくる
「結果論で許すな」
「でも、心配なのは分かるかな」
「別に心配してるわけじゃ──」
「ハク?」
「…………心配してます」
「素直でよろしい」
何で俺が怒られてるみたいになってるんだ
少し離れたところでは
当然、聖剣だの堕天使だのという話を聞かせるわけにはいかないから、
「お仕事、大変なんですね」
「まあね、ちょっと大事な探し物があって」
「早く見つかるといいですね」
「ありがとう、
イリナが笑顔を返し、ゼノヴィアと一緒に玄関へ向かっていく
「じゃあ行ってくるね」
「ああ、何かあったらすぐ連絡しろよ」
「了解!」
「分かった」
二人を見送ってから時計を見る
俺の方も、今日はまだ確認しておきたい場所が残っていた
「ハクも行くの?」
「ああ、何ヶ所か回ってみる、怪しい奴を見つけても追わずに連絡するから安心しろ」
「本当に?」
「何でお前まで疑うんだよ」
「今の二人に散々言ってた人だからかな」
「俺は入口までとか言わねぇよ!」
「……今ちょっと間があったよね?」
「気のせいだ」
クオンの目が細くなる
それから少しだけ考えるように首を傾け、椅子から立ち上がった
「じゃあ
「ん?」
「一人で行かない方がいいんでしょ?」
「いや、俺の場合は──」
「さっき二人に何て言ったかな?」
「…………」
「ハク?」
「分かったよ」
見事なブーメランだった
「じゃあ一緒に行くか」
「うん」
「お兄ちゃん、遅くなるの?」
台所から
「ああ、少しな、先に寝てていいぞ」
「分かった、気をつけてね」
「おう」
「ハクさん、
「ありがとう、
「行ってくるね、
原作知識があるとはいっても、場所も時間も正確には覚えていない
今の世界が俺の知っている流れと完全に同じになる保証もないし、祐斗だって昔みたいに復讐だけを見て一人で動いているわけじゃない
なら原作なら次はこうなると決めつけて待ち構えるより、今ある情報から探した方がいい
「行くぞ、クオン」
「うん」
二人で家を出る
この時の俺はまだ知らなかった
俺達が探していた相手が、もうこちらより先に動き始めていたことを
side out ハク
─────────────────────────
side in イッセー
「イッセー!」
「うおっ!?」
自分の部屋でくつろいでいたところへ、勢いよく扉が開いた
「ぶ、部長!?」
「すぐに支度して!」
部長の後ろにはアーシアもいる
部長もアーシアも今はうちで暮らしているから、二人が家の中にいること自体は何もおかしくない
問題は部長の顔だった
完全に仕事の時の顔になっている
「駒王学園で異常が起きたわ、ソーナから緊急連絡よ」
「学園で?」
「詳しいことは向かいながら話すわ」
「イッセーさん……」
アーシアも不安そうに胸元へ手を当てている
冗談じゃないらしい
「分かりました!」
携帯を掴んで立ち上がり、そのまま三人で階段を下りる
外へ出るまでの間にも部長は朱乃、木場、それから
そして最後にもう一件
「…………」
「部長?」
「ハクが出ないわ」
「え?」
「さっきから何度かかけているけれど繋がらないの」
「俺からもかけます」
一度電話を入れてみる
駄目だ
「何やってんだ、あいつ……」
「今は向かいましょう、朱乃達とは現地で合流するわ」
「はい!」
三人で兵藤家を飛び出す
学園へ向かう途中で聞いた話では、最初に異常へ気付いたのは生徒会側だったらしい
校内へ異常な力が入り込んだことを察知したソーナ達は、生徒会総出で学園を覆う大規模な結界を張った
ただし、何が起きても外へ被害を出さない絶対の壁じゃない
外へ漏れる被害を、少しでも抑えるためのものらしい
「そんなにヤバい奴がいるんですか?」
「ええ」
前を走りながら部長が頷く
「ソーナの使い魔が確認しているわ、十枚の黒い翼を持つ堕天使を」
「十枚……」
「グリゴリの幹部よ」
背中に嫌な汗が流れる
盗まれた聖剣に、十枚羽根の堕天使の幹部
嫌な組み合わせだ
「まさか……」
「まだ断定は出来ないけれど、急ぐわよ」
「はい!」
速度を上げる
学校が見え始めた頃には、遠目にも普通じゃないことが分かった
夜の駒王学園を、巨大な結界が丸ごと包み込んでいる
「……何だよ、これ」
学園へ着いた瞬間、思わず足が止まった
結界越しですら、内側から濃い力が伝わってくる
「リアス!」
「ソーナ!」
校門近くではソーナ達生徒会が既に動いていて、匙達が何ヶ所かへ分かれながら結界を維持していた
少し遅れて朱乃、木場、
「状況は?」
「良くないわ」
ソーナが学園を覆う結界へ目を向ける
「校内には複数の反応、その中に一つだけ明らかに格の違うものがある」
「やっぱり堕天使?」
「ええ」
ソーナの表情が硬くなる
「使い魔が姿を確認したわ、コカビエルで間違いない」
「……コカビエル」
部長の顔も険しくなる
「今は校庭付近にいる、既にかなりの力を解放し始めているわ」
「力を……?」
嫌な言い方だ
思わず聞き返すと、ソーナがこちらを見る
「勘違いしないで」
「え?」
「この結界があるから安全、というわけではないわ」
ソーナが結界へ片手を向ける
「私達がしているのは、被害を出来るだけ小さく抑えることだけ」
「それって……」
「コカビエルが本気で暴れれば、学園だけでは済まない」
一瞬、意味が分からなかった
「……は?」
「この街そのものが巻き込まれる可能性があるわ」
「街……?」
俺達の学校だけじゃない
俺の家も
ハクの家も
松田や元浜の家も
ここで普通に暮らしている奴ら全部
「ふざけんなよ……」
腹の底から熱いものが込み上げてくる
何のためだろうが知ったことじゃねぇ
こんな街全部を巻き込んでいい理由になるかよ
「そんなもん、好きにさせられるかよ!」
「ええ」
ソーナが静かに頷く
「だから私達はここへ残る」
周囲を見る
匙達生徒会の面々は、それぞれ結界の維持に集中している
「シトリー眷属は結界を維持し続けるわ、内部からどれだけ力が漏れても、出来る限り外への被害を抑える」
ソーナの視線が校舎へ向く
「私は、この学園をあの男の好きにはさせない」
「ソーナ……」
部長が小さく名前を呼ぶ
「リアス、あなた達は?」
「当然、中へ行くわ」
「相手はコカビエルよ」
「分かってる」
「分かっているなら、なおさら――」
「リアス」
朱乃の声が入った
いつもの柔らかい調子じゃない
「もうサーゼクスさまには連絡しましたわ」
「朱乃!?」
部長が振り返る
「どうして勝手に――」
「今回はハク達との訓練や、今までの戦いとは違うわ」
朱乃は笑っていない
「相手はグリゴリの幹部、あなた一人の問題でも、この街だけの問題でもありません」
「…………」
「リアスがサーゼクスさまへ迷惑を掛けたくないのは分かっています」
一拍置く
「でも、これは私達だけで片付けられる規模を超えているわ」
「……朱乃」
「魔王の力を借りましょう」
部長が何か言い返そうとして
やめた
大きく息を吐く
「……分かったわ」
その返事を聞いて、朱乃の表情が少しだけ緩んだ
「加勢が到着するまでは、およそ一時間だそうですわ」
「一時間……」
ソーナが眼鏡の位置を直す
「分かったわ」
結界へ魔力を流しながら、静かに息を吐く
「その一時間、私達シトリー眷属がこの結界を維持する」
「ええ」
部長も頷く
「なら私達は中へ入って、コカビエルをここへ釘付けにする」
「部長……」
楽な戦いじゃない
そんなの俺でも分かる
部長は俺達全員を見回した
「相手は幹部よ、今までみたいにはいかない」
俺、アーシア、朱乃、木場、
「でも誰一人、死ぬことは許さないわ」
「…………」
「全員で生きて帰る」
部長が学園を見る
「そして、またここへ通うのよ」
「……はい!」
木場が答える
「もちろんですわ」
朱乃が笑う
「当然にゃ」
「はい」
「私も頑張ります!」
アーシアも胸の前で拳を握る
「俺もやります!」
俺も拳を握る
絶対に守る
学校も
街も
仲間も
「その前に」
部長が携帯を取り出す
「ハクには?」
「繋がらないわ」
もう一度電話を入れたあと、部長はすぐにメッセージを打つ
『学園が襲撃されているわ、気付いたらすぐ連絡して』
送信
「私も先ほどから何度かかけていますけれど、応答がありませんわ」
朱乃も携帯を操作する
『ハク、学園で戦闘になりそうよ、気付いたら連絡して』
「僕も試してみるよ」
木場も電話をかけ、少し待ったあと首を横へ振る
「駄目だ、繋がらないよ」
そのまま木場も短くメッセージを送る
『ハク君、学園で異常事態だ、気付いたら連絡してほしい』
「俺からももう一回!」
電話をかけても、やっぱり繋がらない
「くそっ……」
すぐにメッセージを打つ
『ハク! 電話繋がらねぇ! 学園がヤバい! 気付いたらすぐ連絡くれ!』
送信
これで俺達全員から何度も連絡が入ってる
気付けば、絶対に分かるはずだ
「イッセー、今は待てないわ」
「分かってます」
ハクが来れば助かる
でも、ハクが来なきゃ戦えないなんて言ってられない
ソーナが全員を見回したあと、結界へ手を向けた
「一時的に通路を開くわ」
結界の一部が僅かに揺らぎ、人が通れる程度の隙間が生まれる
「内部へ入ったらすぐ閉じる、こちらは任せて」
「ええ、お願い」
「リアス」
「何?」
「無茶はしないで」
部長が一瞬だけ目を丸くし、それから小さく笑った
「ソーナもね」
部長を先頭に俺達が中へ入り、最後の一人が通った直後、背後で結界が閉じる
その瞬間、全身に嫌な感覚が走った
「っ……!」
「イッセーさん?」
「聖剣だ……」
ハクが近くにいる時とは全然違う
肌を刺すような神聖な気配が、学園の奥からまともに流れてくる
部長や朱乃も僅かに表情を歪め、木場と
「聖剣だけじゃないにゃ」
「上にいる奴、かなり嫌な感じするにゃ」
「上?」
視線を向けた瞬間、夜空へ黒い羽根が舞った
その数が増え、中心から一人の男がゆっくり姿を現す
背中には十枚の黒い翼
ソーナから聞いていた
それでも、実際に目の前へ出てくると身体が勝手に強張る
「……あれが」
部長が睨み上げる
「コカビエル」
グリゴリの幹部、コカビエル
さっきソーナが言っていた
本気で暴れれば、街ごと巻き込むかもしれない相手
「ほう」
上空の男がこちらを見下ろし、愉快そうに口元を歪めた
「サーゼクス・ルシファーの妹か」
「コカビエル!」
部長が睨み上げる
「何のつもり?」
「何のつもり、か」
黒い翼が広がり、その圧だけで周囲の空気が震える
「随分と平和に慣れたものだな、悪魔も教会も」
「……戦争を起こすつもり?」
「さてな」
答えになっていない
けど、その笑い方だけで嫌なものが伝わってくる
「少なくとも今夜は、少し退屈を紛らわせてもらうとしよう」
その視線は俺達だけじゃない
何度も校舎側へ向いている
「……何か待ってる?」
俺が呟くと、木場も小さく頷いた
「そう見えるね」
コカビエルはすぐに攻撃してこない
まるで俺達が何をするのか、それを眺めること自体を楽しんでいるみたいだ
「趣味悪ぃな」
『同感だ、相棒』
左腕からドライグの声が響く
相手はグリゴリの幹部
出し惜しみしていい相手じゃない
「部長」
「ええ」
部長もすぐに頷く
「最初から行きなさい」
「はい!」
一度深く息を吸い、左腕を前へ出す
「
『
赤い光が全身を包み、次の瞬間には
ただし最初から全部を最大にはしない
鎧は低い出力で維持しながら仙術で身体を強化し、必要な時だけ出力を上げる
十日間、散々ハクに叩き込まれたやり方だ
『無駄が減ったな』
「誰のせいで何日鎧着て生活したと思ってんだよ」
『成果は出ている』
「否定出来ねぇのが腹立つ」
「イッセー、来るわ!」
「はい!」
構えた、その時だった
「リアス!」
「!」
校舎側から声が飛んでくる
「イリナ!?」
走ってきたのはイリナとゼノヴィアだった
二人ともかなり息を切らしていて、ゼノヴィアは既に破壊の聖剣を抜いている
近付いてきた瞬間、ただでさえ嫌だった神聖な圧が一気に強くなった
「ぐっ……相変わらずキツいな」
「悪い、今は我慢してくれ」
ゼノヴィアが短く答える
「二人とも、どうしてここに?」
「フリードを追ってたの!」
イリナが校舎の奥を指差す
「結界が完成する前にあいつが学園へ入ったから、そのまま追ってきたんだけど途中で見失って──」
「奴はラピッドリィだけではなかった」
ゼノヴィアが言葉を引き継ぐ
「他の盗まれた聖剣も所持していた」
「……三本全部か?」
「おそらくな」
横を見ると、木場の拳が僅かに握られていた
「祐斗」
部長が呼ぶ
木場は一度目を閉じ、小さく息を吐く
「大丈夫です、部長」
目を開く
「一人では行きません」
「……分かったわ」
その返事を聞いた直後
「ヒャッハァァァァァ!」
聞き覚えのある笑い声が校舎の陰から響いた
「フリード……!」
「よぉぉぉぉ! 随分集まってんじゃねぇか!」
フリードが飛び出してくる
右手にあるのはラピッドリィ、その背にはさらに二本
本当に三本持ってやがる
「おいおい、そんな怖い顔すんなよ金髪イケメン君!」
「僕は君と親しくなった覚えはないよ」
「相変わらず冷てぇなぁ!」
フリードが笑った直後、姿が大きくぶれる
「速い!」
ラピッドリィ
でも今の俺なら見える
「木場、右!」
「ああ!」
ほぼ同時に木場も反応し、魔剣を振るう
甲高い音と共にラピッドリィと魔剣がぶつかった
「おっ?」
「前とは違うよ」
「言うじゃねぇか!」
フリードが力任せに押し切ろうとしたところへ、イリナのミミックが伸びる
「ミミック!」
鞭のように形を変えた刀身を飛び退いて避けたフリードの着地点へ、今度はゼノヴィアが回り込む
「逃がすか!」
破壊の聖剣が振り下ろされ、地面が大きく抉れる
「うぉぉぉっと!」
寸前で逃れたものの、フリードの体勢が崩れた
そこへ
「今にゃ!」
「分かってる!」
俺も距離を詰める
前なら木場はフリードだけを見て突っ込んでいたかもしれない
今は違う
イリナが入れば合わせ、ゼノヴィアが前へ出れば退路を切り、俺や
ちゃんと全員の位置を見ている
「ちっ……人数多すぎんだろテメェら!」
「お前が一人で出てきたんだろ!」
「うるせぇ!」
フリードが距離を取ると、左手で背中の別の聖剣を抜いた
「だったら増やしてやるよ!」
光が揺れ、次の瞬間にはフリードの姿が幾つにも増えていた
「なっ!?」
「夢幻だ!」
ゼノヴィアが叫ぶ
「正解ぃ!」
右手のラピッドリィ、左手には夢幻の聖剣
幾つものフリードが同時に走り出す
ただ増えただけならまだいい
ラピッドリィの速度で全部動かれると、一瞬の判断が狂う
「見た目に惑わされるな!」
「分かってる!」
「本物はそっちにゃ!」
「バレんの早ぇなぁ!」
フリードが舌打ちしながら大きく後ろへ下がり、夢幻の聖剣を背の固定具へ戻すと間髪入れず三本目を抜いた
「だったらこっちだ!」
「透明の聖剣!」
今度はイリナが声を上げる
次の瞬間、本物のフリードだけが視界から消えた
さっき作られた幻影はまだ残っている
見えるのは偽物、本物は見えない
「姑息な使い方しやがって!」
「褒め言葉どうもぉ!」
「右にゃ!」
気配まで完全に消えたわけじゃないから位置は分かる
でも、分かった時にはもう動いている
「速っ!」
透明になったままラピッドリィの速度で走られると、分かっていても間に合わない
「イリナ、後ろ!」
「っ!」
イリナが振り向き、ミミックを咄嗟に盾へ変える
ギィンッ!!
「きゃっ!」
ラピッドリィの一撃を受け止めるものの、その衝撃で体勢が崩れた
「イリナ!」
ゼノヴィアが動く
俺も走る
「もう一発ぅ!」
「させるか!」
見える
今度こそ間に合う
そう思ったところへ、残っていた幻影が視界を横切った
「くそっ!」
一瞬だけ反応が遅れる
その僅かな隙を突き、本物の刃が横から閃いた
「イリナ!」
「きゃあっ!」
血が飛び、イリナの身体が地面へ倒れる
その衝撃で握っていたミミックが手から離れ、地面を滑った
「イリナァ!」
「いただきぃ!」
フリードの方が速い
ラピッドリィで一気に踏み込み、地面へ落ちたミミックを拾い上げる
「あっ……ミミック!」
「ヒャハハハハ! 四本目ぇ!」
「返せ!」
「誰が返すかよぉ!」
フリードが大きく後方へ飛ぶ
ミミックは奪われた
だけど今は──
「イリナ!」
アーシアが真っ先に駆け寄る
「イリナさん、動かないでください!」
「だ、大丈夫……これくらい……」
「大丈夫じゃありません!」
アーシアの両手から緑色の光が広がり、イリナの傷を包み込む
「アーシア!」
「治せます! 傷は深いですけど、治せます!」
よかった
それを聞いた瞬間、少しだけ力が抜ける
「イリナ」
ゼノヴィアはフリードを睨んだまま破壊の聖剣を構え直す
「取り返すぞ」
「……うん」
イリナが悔しそうに頷く
俺もフリードから目を離さないまま携帯を取り出し、もう一度ハクへ電話をかける
繋がらない
「何で出ねぇんだよ……!」
すぐにメッセージを打つ
『イリナがやられた! アーシアが傷は癒したけど、ミミックを奪われた! 今学園で戦闘中だ! 気付いたらすぐ来てくれ!』
送信
「イッセー君!」
「っ!」
木場の声で顔を上げた瞬間、ラピッドリィが目の前まで迫っていた
「うおっ!」
赤い籠手で刃を受け止める
ギィンッ!!
「ぐっ!」
受け止めた部分から熱が走り、鎧の表面が僅かに焼ける
やっぱり聖剣
今の鎧でも、まともに何発も受けていいものじゃない
「ヒャハハハハ! 戦闘中に携帯弄ってる場合かよぉ!」
「うるせぇ!」
刃を外へ流して蹴りを返す
フリードが後ろへ跳んだ
その時
「フリード」
「あ?」
低い声が落ちる
笑っていたフリードが振り返った
「おっ、爺さん」
「ほう」
校舎の奥から一人の老人がゆっくり歩いてくる
白衣を着た細い身体、一見すれば穏やかそうにも見える顔
その視線は真っ先に、フリードが抱えている四本の聖剣へ向いた
「四本揃ったか」
イリナの顔が変わる
「ヴァルパー……!」
ゼノヴィアも破壊の聖剣を握る手へ力を込めた
そして隣にいた木場の呼吸が僅かに止まる
「…………」
「祐斗」
部長が静かに名前を呼ぶ
木場の手の中で魔剣が僅かに震えていた
怒鳴っているわけじゃない
取り乱しているわけでもない
それでも隣にいれば分かる
木場の中にずっと残っていたものが、今目の前に立っている
数秒の沈黙
木場は一度目を閉じ、ゆっくり息を吐いた
「……大丈夫です、部長」
もう一度目を開く
視線はヴァルパーから逸らさない
「約束しましたから」
魔剣を握り直す
「今度は、周りを見失いません」
その声は静かだった
さっきまで僅かに震えていた魔剣も、もう動いていない
ヴァルパーは一度こちらへ視線を向けたものの、すぐにフリードへ顔を戻した
「フリード、こちらへ来い」
「えー、もう終わり?」
「目的の物は揃った」
その一言にゼノヴィアが反応する
「まさか……」
フリードが持っている四本
盗まれていた三本
そして今奪われたミミック
「四本を……何に使うつもりだ」
「そう急くな」
ヴァルパーの口元が僅かに歪む
「すぐに分かる」
フリードがヴァルパーの側まで下がる
「では始めるぞ」
「待て!」
ゼノヴィアが踏み込もうとした、その瞬間
「邪魔はさせん」
上空からコカビエルの声が落ちた
「っ!」
空気が一気に重くなる
今まで戦いを眺めていたコカビエルが、初めて明確にこちらへ手を向けた
地面へ巨大な魔法陣が浮かぶ
一つ、二つ、三つ
「……おい」
まだ増える
四つ、五つ、六つ
「ちょっと待て」
低い唸り声が重なり、魔法陣の中から巨大な身体が這い出してくる
三つの頭、鋭い牙、赤く光る六つの目
「ケルベロス……!」
部長の声が響く
しかも一体じゃない
六体
「少しは楽しませろ」
「少しの数じゃねぇだろうが!!」
俺が叫んだ瞬間、六体が一斉に動いた
「来るわよ!」
部長の声
一体が木場へ、一体がゼノヴィアへ、二体が部長と朱乃の方向へ走り、一体が
そして最後の一体が、真っ直ぐ治療中のアーシアへ突っ込んでいく
「アーシア!」
「っ!」
考えるより先に身体が動く
地面を蹴り、一気に後衛へ戻った
「させるかぁ!」
横から頭の一つへ拳を叩き込む
『Boost!!』
衝撃で巨体が横へ流れる
「イッセーさん!」
「そのままイリナ治してろ!」
追撃しようとしたところで、別方向から爆音が響く
「イッセー!」
部長の声
振り向けば、二体を相手に部長と朱乃が押し込まれ始めている
アーシアは守った
次は部長達
「
「はい!」
「こいつ頼む!」
「分かりました!」
「姉さま!」
「こっちは任せるにゃ!」
なら、ここは任せられる
倒すまで俺が付き合う必要はない
「ドライグ!」
『分かっている』
『Transfer!!』
「っ!」
赤い力が
「任せた!」
「はい!」
返事を背中で聞きながら、もう次へ走っていた
「朱乃!」
「ええ!」
朱乃の雷がケルベロスの一体を止め、その隙へ部長の滅びの魔力が叩き込まれる
「イッセー、こっちはいいわ!」
部長の声
一瞬だけ足が止まりかける
でも
「了解!」
すぐに向きを変える
部長は戦える
朱乃もいる
なら次だ
ゼノヴィア側では破壊の聖剣がケルベロスの爪を真正面から受け止めている
「ゼノヴィア!」
「こちらはまだ持つ!」
「じゃあこれ使え!」
「何──」
横を通り抜ける瞬間、籠手でゼノヴィアの肩へ触れる
『Transfer!!』
「っ!?」
赤い力がゼノヴィアへ渡る
「これは……!」
「使えるなら使え!」
「雑だな!」
「忙しいんだよ!」
そのまま次を見る
木場
「はぁぁっ!」
魔剣が走る
三つの頭から繰り出される噛み付きと爪を避けながら、木場は一歩ずつ間合いを詰めている
ヴァルパーがすぐそこにいる
それでもそっちへ無理に飛び出さず、まず自分の前にいる一体へ集中していた
「木場!」
「こっちは大丈夫だよ、イッセー君!」
迷いのない声が返ってくる
「この一体は僕がやる!」
「了解!」
なら任せる
俺は再びアーシアを見る
「アーシア!」
「大丈夫です!」
イリナの傷はかなり塞がっている
けど、さっき俺が渡したケルベロスが
「またかよ!」
走る
「イッセー先輩!」
「見えてる!」
横から来た爪を身体を沈めて避け、そのまま腹へ拳を叩き込む
『Boost!!』
巨体が後ろへ押し戻される
そこで追わない
「
「はい!」
横から
巨体の向きが逸れ、三つの頭が完全にアーシアから外れた
俺はもう次を見る
部長、朱乃、ゼノヴィア、木場、
全員いる
全員動いてる
なら今必要なところへ行く
「イッセー!」
「今行きます!」
部長の声へ返し、再び走る
俺一人で六体倒す必要なんてないし、俺が全部やる必要もない
押されてるところを支えて、力が必要な奴へ渡して、アーシアを狙う奴がいれば止める
その間に他の奴が倒す
「……ハク」
一瞬だけ名前が口から漏れた
散々言われた
前だけ見るな
周りを見ろ
何度も何度も
「見えてるよ!」
今はちゃんと見えてる
その時
「はぁぁぁぁっ!」
木場の声が響いた
三つの頭の間を抜け、魔剣がケルベロスの身体を大きく斬り裂く
「グォォォォォッ!」
巨体が傾く
木場は止まらない
反対側へ回り込み、二本目の魔剣を生み出す
「邪魔を──」
二本の刃が交差する
「するなぁっ!」
ケルベロスの巨体が地面へ叩きつけられた
「木場!」
「大丈夫!」
木場が息を整えながら顔を上げる
その視線の先にはヴァルパーとフリード、そして四本の聖剣
ヴァルパーの足元では既に奇妙な術式が広がり、四本の聖剣が淡い光を帯びて脈動していた
「……始まってる」
木場の声が低くなる
何をしようとしているのかはまだ分からない
でも、あれを好きにやらせていいはずがない
それでも木場は飛び出さず、一度だけ周囲を確認する
「部長」
「行きなさい、祐斗!」
「はい!」
木場が地面を蹴る
俺達がケルベロスを止めている間に
今度は木場が
自分の過去へ向かって走り出した
side out イッセー
─────────────────────────
side in 祐斗
倒れたケルベロスの横を駆け抜ける
向かう先にいるのは、僕の過去を作った男
ヴァルパー・ガリレイ
「ヴァルパー・ガリレイ……!」
「ほう、私を知っているのかね?」
覚えていない
当然だ
あの男にとって僕達は、一人一人顔を覚える価値すらない被験体だった
「僕は――聖剣計画の生き残りだ」
「……ほう」
ヴァルパーの眉が僅かに上がる
「あの計画の生き残りか、生きていたとはな、数奇なものだ」
「数奇……?」
それだけか
あの日を、僕達が受けた苦痛を、仲間達が死んでいったことを
こいつは、そんな一言で済ませるのか
そして、その傍ではフリードが奪った四本の聖剣を前に笑っていた
「ジジイ、そろそろいいんじゃねぇのぉ?」
「ああ」
ヴァルパーが四本の聖剣へ手を向ける
魔法陣が重なり、エクスカリバーから放たれていた光が一つへ集まり始める
天閃
透明
夢幻
擬態
本来は別々の能力を持つ四本の聖剣が、強引に一つへ束ねられていく
「くくく……素晴らしい」
あの頃と同じだ
この男は、人の命も聖剣も、自分の研究材料としてしか見ていない
「ヴァルパー」
「何だ」
「一つだけ聞きたい」
剣を握る手に力が入る
「あの子達は……何のために殺された」
「何のため?」
ヴァルパーが首を傾げる
本当に分からないという顔だった
「決まっているだろう」
懐から小さな結晶を取り出す
淡い光を帯びたそれを見た瞬間、胸の奥が強く痛んだ
「聖剣を扱うための因子だ」
「……因子?」
「聖剣への適性を人工的に生み出すには、適性を持つ者から必要な要素を抽出すればいい」
「…………」
「一人では足りん者もいた、ならば複数から集めればよい」
「やめろ」
「必要なだけ集め、適性の無い者へ与える、それだけのことだ」
「やめろ……!」
「抽出に耐えられぬ者が出たところで、研究に犠牲は付き物だ」
頭の中で何かが切れた
毎日の検査も、薬も、痛みも、一人また一人と仲間がいなくなったことも
全部こいつにとっては、研究の途中で消えた数字でしかなかった
「僕達を……何だと思っていた」
「被験体だ」
迷いすらない
「そして成果は残った」
ヴァルパーが結晶を掲げる
「お前達から取り出したものは、こうして今も利用出来る」
「――っ!」
斬る
そう思った瞬間だった
「おっとぉ!」
横から聖なる光が迫る
地面を蹴って身体を捻り、斬撃をかわす
次の瞬間、四本あった聖剣が一つへ収束した
「ヒャハハハハッ! すっげぇなこれぇ!」
フリードの手に握られているのは、一振りの巨大な聖剣
四本分の力を無理矢理束ねた融合エクスカリバー
「剣士君よぉ、ジジイとの感動の再会中悪いけどさぁ!」
フリードが地面を蹴る
「俺ちゃんとも遊んでくれよぉ!」
「邪魔を……!」
魔剣を生み出そうとした、その直前
「もう不要だ」
ヴァルパーが手にしていた結晶を無造作に放った
「っ!」
反射的に手を伸ばし、地面へ落ちる寸前で掴む
その瞬間、淡い光が手の中から溢れた
「…………」
温かい
知らない感覚じゃない
いや
ずっと知っていたはずのものだ
僕は結晶を見つめる
これが、あの子達から取り出されたものなら
あの施設で一緒に笑って、一緒に泣いて、一緒に逃げようとした
僕の同志達が残したものなら
「みんな……」
ずっと僕は、みんなが復讐を望んでいると思っていた
だから生き残った僕がやらなければならないと
聖剣を壊し、計画を行った者達を倒す
それが僕だけ生き残った意味だと
でも
あの時、みんなが僕に託したものは
本当にそんなものだったのか
僕を逃がしてくれた
僕を生かそうとしてくれた
自分達の命が消える寸前まで
僕に、生きろと願ってくれた
「……そうか」
胸の奥に何年も刺さっていたものが、少しずつ解けていく
みんなは、僕に復讐だけをしてほしかったんじゃない
復讐を忘れる必要はない
あの日を無かったことにする必要もない
でも
僕の人生まで、あの日に置いていく必要はない
「でも、すべてが終わったわけじゃない」
目の前にいるヴァルパーを見る
こいつを止めなければ、また同じことが起きる
第二、第三の僕達が生まれる
それだけは
「させない……!」
「ふん、何を今更」
「僕はもう、自分だけのために剣を振るうんじゃない」
部長がいる
朱乃先輩がいる
イッセー君がいる
アーシアさんがいる
黒歌さんがいる
ハク君もいる
そして
僕が今ここに立っているのは、あの時のみんなが僕を生かしてくれたからだ
「僕は剣になる」
手の中の結晶が強く輝く
「部長、仲間達の剣となる!」
足元へ次々と魔剣が生まれ、その全てへ聖なる光が流れ込んでいく
「今こそ僕の想いに応えてくれ!」
聖なる光と悪魔の魔力
本来なら反発する二つの力が、互いを消すことなく混ざり始める
「
「なっ……!?」
ヴァルパーが初めて目を見開いた
「馬鹿な、聖と魔だぞ!」
違う
これは今までの魔剣じゃない
僕の神器が
今まで積み上げてきた全てが
そう教えてくれる
これは――昇華だ
神々しい光と禍々しい魔力
相反する二つの輝きが絡み合い、一振りの剣へ姿を変えていく
同時に、胸の奥でも何かが変わった
悪魔として生まれ変わったあの日から僕の中にあった何かが、今の僕へ追いつくように、音もなく形を変える
「――っ!?」
次の瞬間、身体の底から凄まじい魔力が溢れ出した
僕の魔力なのに、今までの僕とは量そのものが違う
「……祐斗?」
後ろから部長の声が聞こえる
「この魔力量……私と、同じくらい……?」
「部長……?」
「祐斗、あなたに何が起こったの?」
「僕にも……分かりません」
本当に分からない
でも今は、それでいい
手の中に生まれた剣を握る
聖と魔
その両方を有する一振り
「――
光と魔力が弾ける
「
剣を見つめる
みんなが繋いでくれた命と、今の僕自身が生み出した剣
「完成したよ、皆」
剣先をフリードへ向ける
「聖と魔を有する剣の力、その身で受け止めるといい」
「悪魔が聖剣だぁ!?」
フリードが目を剥く
「ふざけんなよぉ! んなもんアリかよ!」
「僕に聞かれても困るよ」
構える
「僕だって、今知ったところだからね」
「だったら試してやるよぉ!」
融合エクスカリバーが天閃の力で加速する
速い
けれど、見える
剣を合わせる
甲高い音と共に火花が散った
「チッ!」
フリードがそのまま聖剣を押し込んでくる
「悪魔なんだろぉ!? だったらこいつは死ぬほど効くよなぁ!」
「くっ!」
腕に衝撃が走る
重い
四本を統合しただけのことはある
けれど
「…………?」
来ない
悪魔になってから何度も感じた、聖なる力に触れた時の身体の内側を焼かれるような痛み
それが来ない
「よそ見してんなよぉ!」
刃が形を変え、横から伸びる
擬態
身を引くが、完全には避け切れない
「っ!」
肩口を浅く斬られ、血が飛ぶ
痛い
当然だ
剣で斬られた
でも、それだけだった
「……やっぱり」
「あぁ?」
傷口を見る
聖なる力は消えていない
むしろ融合前より遥かに強い
なのに
「聖なる力が……僕を焼いていない?」
「はぁ!?」
僕自身にも意味が分からない
もう一度踏み込み、二度、三度と融合エクスカリバーへ剣を合わせる
強い聖なる光を間近で何度浴びても、拒絶反応は起きない
押し込まれれば腕は痺れる
刃を受ければ傷もつく
なのに、悪魔を蝕むはずの聖なる力だけが僕を侵さない
「どういう……」
聖魔剣の影響か
さっき急に増えた魔力が関係しているのか
それとも別の何かなのか
分からない
「今は考えている場合じゃないね」
剣を握り直す
「終わらせるよ、フリード」
「調子乗ってんじゃねぇぞぉぉぉ!」
融合エクスカリバーが再び加速する
天閃
透明
擬態
そして夢幻
複数のフリードが視界を覆う
それでも、剣だけを見る必要はない
足、肩、呼吸、地面、仲間達の位置
全部を視界へ入れる
そして
本物
「そこだ!」
「なっ!?」
幻影の向こうへ踏み込み、聖魔剣を振り抜く
融合エクスカリバーが受け止めるが、聖と魔の二つの力が四本を束ねた聖剣へ食い込んでいく
「んな……馬鹿なぁぁぁ!」
刃に亀裂が走る
一つ
二つ
そして光が砕けた
「僕達は――エクスカリバーを超える!」
聖魔剣を振り抜く
「ぐぁぁぁぁぁぁっ!」
フリードの身体が大きく吹き飛び、地面を転がる
その手から砕けた聖剣の欠片が散り、何度か跳ねたフリードの身体はそのまま地面へ倒れ込んだ
「…………」
動かない
少なくとも、もう戦闘を続けられる状態じゃない
勝った
でも、終わってはいない
振り返る
「ヴァルパー・ガリレイ」
「…………あり得ん」
ヴァルパーは僕ではなく、聖魔剣を見ていた
「聖と魔が、一つに……?」
「ヴァルパー」
「本来なら反発するはずだ、均衡が保たれているなら成立するはずがない」
何かに気付いたように目を見開く
「……そうか」
「何?」
「くく……そういうことか」
ヴァルパーが笑う
「ならば説明がつく」
「何を言ってる」
「聖と魔、その均衡を保っていた存在が既に――」
閃光
「――っ!?」
僕の横を光が通り過ぎた
次の瞬間、ヴァルパーの胸から光の槍が突き出る
「が……っ」
血を吐き、その身体が崩れ落ちる
「ヴァルパー!」
駆け寄る
でも、もう動かなかった
「……コカビエル」
上を見る
十枚の黒い翼を広げ、堕天使が笑っていた
「そこまで辿り着くとはな」
コカビエルがゆっくりと降りてくる
「研究者としては悪くなかった」
「だったら何故殺した!」
「もう役目は終わった」
それだけ
必要だから使い、必要がなくなれば捨てる
ヴァルパーと何も変わらない
「さて」
コカビエルが僕達を見回す
「随分と予定外が多い夜になった」
side out 祐斗
─────────────────────────
side in イッセー
「木場……」
すげぇ
マジですげぇ
さっきまでとは明らかに違う
木場の魔力が、とんでもなくデカくなってる
しかも何だよ、あの剣
聖剣みたいなのに魔剣みたいでもあるって、頭が混乱するわ!
でも今は、それどころじゃねぇ
「全員、気を抜かないで!」
部長の声で全員の視線がコカビエルへ集まる
残っていたケルベロスも次々と倒され、散らされていた俺達ももう一度集まり始めていた
アーシアはイリナの傍、
朱乃と部長が中央、ゼノヴィアと木場が前
全員いる
「イッセーさん」
「大丈夫だ、アーシア」
アーシアの前へ一歩出る
前だけ見て突っ込んで、後ろを置いていくのはもうやらねぇ
でも、だからって前に出ねぇ理由にもならない
「行くぞ!」
『Boost!!』
地面を蹴り、一気にコカビエルとの距離を詰める
「ほう」
「うおおおおおっ!」
振り抜いた拳を、コカビエルは片腕だけで受け止めた
「っ……!」
「悪くない」
「まだだ!」
腕を引かれる前に身体を捻る
「木場!」
「分かった!」
右から聖魔剣
コカビエルが俺の拳を放し、身を翻した先へ
「ゼノヴィア!」
「ああ!」
破壊の聖剣が振り下ろされる
避けられた
でもいい
「朱乃!」
「ええ!」
『Transfer!!』
背後から落ちた雷をコカビエルが翼で受け、その反対側へ部長の滅びの魔力が飛ぶ
着地と同時に後ろを見る
アーシアは無事
イリナも後ろ
木場とゼノヴィアも動けてる
よし
見えてる
「随分と鍛えられているようだな」
コカビエルが面白そうに俺達を見る
「思っていたより余程厄介だ」
「だったらもっと驚け!」
もう一度前へ出る
今度は殴る
でも、そのまま一人では追わない
「
「はい!」
『Transfer!!』
俺の横を
「黒歌!」
「任せるにゃ!」
だが
「甘い」
光が弾けた
「ぐあっ!」
「きゃっ!」
まとめて吹き飛ばされ、地面を滑りながら体勢を立て直す
強ぇ
やっぱり今までの奴らとは桁が違う
「くっ……これでは足りないか」
ゼノヴィアが破壊の聖剣を地面へ突き立てる
「ゼノヴィア?」
「ならば、こちらを使う」
左手に破壊の聖剣を持ったまま、右手を宙へ広げる
空間が歪み、その奥へ右腕を差し入れた
「ペトロ、バシレイオス、ディオニュシウス、そして聖母マリアよ、我が声に耳を傾けてくれ」
空間の奥で何かを掴む
「この刃に宿りしセイントの御名において――」
一気に引き抜く
「我は解放する! ――デュランダル!」
瞬間
「ぐっ……!?」
圧倒的な聖気が校庭を満たした
全身を内側から焼かれるような感覚に、思わず歯を食いしばる
何だこれ!?
今までの聖剣とは比較にならねぇ!
部長と朱乃も顔をしかめ、アーシアが息を呑む
なのに
「…………」
木場だけが普通に立っている
「祐斗……?」
部長も気付いたらしい
「その聖気を浴びて……平気なの?」
「……はい」
木場自身も不思議そうに自分の身体を見る
「理由は、まだ分かりませんけど」
まただ
さっきエクスカリバーと打ち合ってた時も、聖なる力だけが木場に効いてなかった
マジでどうなってんだよ
「デュランダルか」
コカビエルの笑みが少し薄れる
「面白いものまで持ち出したな」
「こいつは少々扱いづらくてな」
ゼノヴィアが剣を構える
デュランダルから聖なるオーラが噴き上がる
少々ってレベルじゃねぇだろ!
「行くぞ!」
「おう!」
『Boost!!』
ゼノヴィアと同時に前へ出る
右からデュランダル
左から俺
さらにその後ろから木場
「はぁぁぁぁっ!」
振り下ろされたデュランダルを光の壁が受ける
激突した瞬間、その壁へ巨大な亀裂が走った
「今だ!」
拳を同じ場所へ叩き込み
「木場!」
「分かってる!」
さらに聖魔剣が突き刺さる
光の壁が砕け散った
「ほう!」
初めて、コカビエルが大きく後ろへ下がる
「まだ!」
部長の滅びの魔力と朱乃の雷
さらに
爆発
夜の校庭が真っ白に染まった
「やったか!?」
「イッセー君、それは言わない方が――」
「えっ」
煙の向こうで、十枚の黒い翼が開く
「なるほど」
立ってる
あれだけ叩き込んだのに
コカビエルの身体には多少の傷がつき、服も裂けている
でも、それだけだ
「これだけ揃えば、確かに少々面倒だ」
「少々って……」
ゼノヴィアまで顔を引きつらせる
「なら、少しはこちらも応えるとしよう」
コカビエルの笑みが消えた
全身が震える
黒い翼が大きく開き、さっきまでとは比べものにならない圧力が校庭を覆った
「……マジかよ」
今まで
本気じゃなかったのか
「その前に一つ、面白いことを教えてやろう」
「何をよ」
部長が睨む
「先程ヴァルパーが辿り着きかけた答えだ」
嫌な予感がした
理由なんか分からない
でも、すげぇ嫌な予感がする
「聖と魔が混ざり合うなど、本来ならそう簡単に起こるものではない」
コカビエルが木場の聖魔剣を見る
「だが、均衡を支えていた者達が消えれば話は別だ」
「…………」
「先の大戦で、四大魔王は死んだ」
部長の表情が僅かに硬くなる
そして
「聖書の神も死んだ」
「…………は?」
一瞬
誰も声を出せなかった
「神が……死んだ?」
「そうだ」
「……嘘」
後ろから小さな声が聞こえた
振り返る
アーシアに治療を受けていたイリナが、身体を起こしてコカビエルを見ている
「嘘……だよね?」
いつもの明るい声じゃない
震えてる
「そんなの……神様が、死んでるなんて……」
「嘘だ!」
ゼノヴィアが叫ぶ
デュランダルを握る手に力が入り、剣先が僅かに揺れた
アーシアも胸の前で両手を握りしめたまま、顔から血の気を失っている
「嘘ではない」
コカビエルが笑う
「神は先の大戦で死んだ」
「なら……」
イリナの声が掠れる
「今まで私達が信じてきたものは……」
「神が残したシステムだ」
コカビエルが両腕を広げる
「神が死んでも、あいつの造った仕組みまで消えたわけではない、今はミカエル達がそれを維持している」
「…………」
イリナが何かを言おうとして
声にならない
ゼノヴィアも黙ったままデュランダルを握りしめる
「アーシア」
思わず名前を呼ぶ
「……大丈夫です、イッセーさん」
声は震えていた
でも、アーシアは顔を上げる
「今は皆さんを治すことが、私に出来ることですから」
「……おう」
だったら俺も止まってられねぇ
「だから何だよ」
一歩前へ出る
「神様がどうとか、俺には難しいことは分かんねぇ」
拳を握る
「でも、お前が俺達も、この街の奴らも巻き込んで、また戦争始めようとしてんのは分かる!」
「イッセー!」
「それで十分だ!」
コカビエルが一瞬黙り
次に大声で笑った
「ハハハハハ! いいぞ、赤龍帝!」
「笑うな!」
『Boost!!』
真正面から一気に踏み込む
「うおおおおおっ!」
拳を叩き込む
コカビエルが受ける
止められる
それでも押す
「木場!」
「分かった!」
右から聖魔剣
「ゼノヴィア!」
「ああ!」
左からデュランダル
コカビエルが俺を弾き飛ばし、二本の剣を翼で受ける
着地と同時に後ろを見る
アーシアは後方
部長と朱乃も動ける
イリナもまだアーシアの傍にいる
全員いる
「朱乃!」
「ええ!」
『Transfer!!』
雷撃
「部長!」
「分かってるわ!」
滅びの魔力
もう前だけしか見えてないわけじゃねぇ
俺一人で倒す必要だってない
全員で繋げればいい
「しつこいな」
コカビエルの声が低くなる
光が集まった
今までの槍とは比べものにならない
「全員下がって!」
部長が叫ぶ
「アーシアを守れ!」
「はい!」
一度後ろへ飛ぶ
木場は聖魔剣を、ゼノヴィアはデュランダルを構えた
くそ
ハク
まだ気付かねぇのかよ
俺も、木場も、部長も、朱乃も何度も電話とメッセージを送った
だったら来る
気付けば絶対来る
「それまで!」
『Boost!!』
再び前へ出る
「俺達で持たせるぞ!」
side out イッセー
─────────────────────────
side in ハク
「今日も収穫なしか……」
山道を上がりながら、思わずため息が出る
ここ数日、手掛かりになりそうな場所を片っ端から当たっているが、今日もそれらしいものは見つからなかった
今日はクオンまで付き合ってくれた
「そう簡単には見つからないね」
「だな」
隣を歩くクオンも少し疲れたように肩を落とす
「悪かったな、遅くまで付き合わせて」
「気にしなくていいよ、
「そう言ってくれると助かる」
イリナ達も夜に出ていることが増えたし、向こうは向こうで探しているんだろう
結局何も掴めないまま門を抜け、家へ入る
「ただいまー」
返事はない
まあ時間も時間だ
靴を脱ぎながら、そういえば今日ほとんど携帯を見ていなかったことを思い出す
ポケットから取り出した画面は真っ暗
ボタンを押しても反応しない
「……げっ、電池切れてる」
「ハク?」
「携帯死んでた」
「充電しないとだね」
「だな」
居間へ入り、充電器を差す
少し待ってから電源を入れ
起動した瞬間
「…………は?」
通知が一気に画面を埋めた
リアス先輩
朱乃
イッセー
祐斗
着信
メッセージ
また着信
その数に嫌な汗が出る
「何だこれ……!」
通知欄には、開かなくても内容の一部が見えている
『学園が襲撃されているわ、気付いたらすぐ――』
リアス先輩
その下にはイッセー
『イリナがやられた! アーシアが傷は癒したけど――』
「……マジか!?」
それだけで十分だった
悠長に全部開いている場合じゃない
「クオン!」
「うん、見たよ」
クオンの顔からも、さっきまでの柔らかい表情が消えている
「学園へ行く」
「
「いや、でも――」
「ハク」
静かな声に言葉を止める
「今は急いだ方がいいかな」
「…………」
言い返している時間すら惜しい
「分かった、ただし無茶はするなよ」
「それはハクもね」
「善処します」
「もう」
部屋へ駆け込み、動きやすい服へ着替える
携帯をポケットへ突っ込み、そのまま玄関へ戻る
仮面はまだ出さない
詳しい状況は分からない
でも、学園が襲撃されている
イリナがやられ、アーシアが治療している
これだけでも十分すぎる異常事態だ
「行くぞ、クオン!」
「うん!」
玄関を飛び出し、夜の山道を駆け下りる
遠く
駒王学園のある方向の空が、一瞬だけ白く光った
「……冗談だろ」
嫌な予感しかしない
間に合え、頼むから、間に合ってくれ
俺とクオンは、駒王学園へ向かって走り出した
今回は祐斗回でした
原作の流れを残しつつ、ここまで積み上げてきた祐斗の成長をちゃんと反映したかったので、復讐一直線ではなく「過去を忘れないまま、今の仲間も見る」という形にしました
そしてついに双覇の聖魔剣へ到達
さらに、以前から仕込んでいた変化もここで一段階進んでいます
この辺りは今後も少しずつ効いてくる予定です
イッセーも今回はかなり動きました
前だけ見て突っ込むんじゃなく、アーシアを守って、必要なところへ走って、仲間へ力を渡して、それでも前線には出る
修行の成果がようやく戦い方として形になってきた感じですね
そしてコカビエルから、とんでもない爆弾発言
イリナ、ゼノヴィア、アーシアにとっては洒落にならない話です
なお、その頃ハクは――
携帯の電池が切れていました
リアス「電話した」
朱乃「電話しましたわ」
祐斗「僕もしました」
イッセー「何回も送ったぞ!!」
ハク「……げっ、電池切れてる」
全員「お前ぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
次回、ようやくハクとクオンが駒王学園へ向かいます
それでは次回もよろしくお願いします!