ようやくハクも戦場へ到着しました
果たして間に合ったと言っていいのかは少々怪しいですがw
そして今回、戦いが終わったあとにも色々と動きがあります
それではLife.28、どうぞ!
夜の街を駆ける
普段なら人目を気にして抑えるところだけど、今はそんな余裕はない
屋根を飛び越え、人気のない道を選びながら駒王学園へ向かう
走るたび、家を出る時に持ち出した刀が腰で僅かに揺れる
鉄扇もある
何が起きているのか分からない以上、使わずに済むならそれでいい
でも、何も持たずに行く気はなかった
「クオン、大丈夫か?」
「うん、まだ平気だよ」
「……そうか」
返事をして、そのまま走る
数秒
「…………」
いや待て……おかしいだろ?
今の俺、普通の人間がついて来られる速度じゃないぞ!?
少しだけ横を見る
クオンは俺の隣より半歩ほど後ろ
息は多少上がっている
でも、それだけだ
足取りも乱れていないし、速度もほとんど落ちていない
「クオン」
「何?」
「本当に大丈夫なんだよな?」
「大丈夫だよ、どうしたの?」
「いや……」
前を見る
前にも似たことはあった
修行中、俺の動きを見ただけで真似してきた時
一瞬だけ、俺が本気で対応しないと危ないくらいの出力を見せた
ただ、その直後には身体がついていかなくなって筋肉痛で動けなくなった
あの時とは違う
今のクオンは、明らかに身体そのものが追いついてきている
そして以前の異常
突然体調を崩したこと
そのあとから少しずつ上がっている身体能力
神憑
頭の中に、その言葉が浮かぶ
あの時のクオンは
神憑が暴走していた状態だったんじゃないか?
それが今は……
一つに落ち着いた?
「…………」
もしそうなら
おそらく土神……か?
いや
まだ推測だ
名前が同じだからって、”うたわれるもののクオン”と何もかも同じだと決めつけるのは危ない
おばちゃんが言っていた「少し混ぜた」って言葉も、結局どこまでの意味なのか分かってない
「ハク?」
「ん?」
「何か考えてた?」
「ちょっとな、今は後回しだ」
「そう?」
「ああ」
今考えるべきなのは学園だ
視線を上げる
その直後
「……見えた」
駒王学園
いや
「おいおい……」
学園全体が巨大な結界に覆われていた
夜の中でも分かるほど濃い魔力
しかも内側からは、何度も強い力の波がぶつかっている
「これ……」
クオンの顔からも余裕が消える
「中で戦ってる」
「急ぐぞ」
「うん!」
さらに速度を上げ、校門近くまで一気に走る
「
声が飛んだ
「ソーナ先輩」
結界の前
生徒会の連中が何ヶ所かへ分かれ、魔力を送り続けている
中心にいるソーナ先輩も、額に汗を浮かべていた
「どうして二人がここにいるの!?」
「連絡に気付くのが遅れた」
「連絡……?」
「リアス先輩達からだ、中にいるんだろ?」
「……ええ」
その返事だけで十分だ
「通してくれ」
「駄目よ」
即答だった
「…………」
「
ソーナ先輩が結界から目を離さないまま言う
「でも今、中にいるのはグリゴリの幹部よ」
「コカビエルか」
「知っているの?」
「名前くらいはな」
「なら話が早いわ」
ソーナ先輩が俺を見る
「あなた達を中へ入れるわけにはいかない」
「イッセー達が戦ってる」
「だからよ」
「…………」
「リアス達でさえ、今は相手を抑えるだけで精一杯なの」
結界の向こうで、また大きな光が弾けた
「っ……」
ソーナ先輩の魔力が一瞬揺れる
周囲の生徒会も同時に踏ん張った
「この結界も完全じゃない、私達は外へ被害が漏れないよう維持するだけで手一杯なの」
「…………」
「事情を知っていることと、中へ入れていいことは別よ」
正論だ
ソーナ先輩からすれば、俺がどの程度戦えるのかなんて知らない
それどころか
隣にいるクオンなんて、完全に一般生徒にしか見えないはずだ
「分かった」
「……え?」
ソーナ先輩が少し意外そうな顔をする
「邪魔した」
「
「行くぞ、クオン」
「うん」
そのまま校門から離れる
背後から何か言われた気がしたけど、そのまま歩き続けた
しばらくして生徒会から完全に見えなくなったところで、クオンが俺を見る
「ハク」
「ん?」
「諦めたわけじゃないよね?」
「当然」
結界を見る
「正面から入れてもらえないなら、別の入り方をする」
「やっぱり」
「何だよ」
「ハクならそう言うと思っただけ」
「俺を何だと思ってるんだ」
「お節介かな」
「否定出来ない」
結界沿いを移動する
校門付近はソーナ先輩達が直接維持している
そこを無理に通れば邪魔になる
なら、もっと人目のない場所
校舎裏
さらに人目のない敷地の端まで回り込む
「ここなら誰もいないな」
「うん」
結界へ手を伸ばす
触れる直前で止める
「…………」
このまま力任せに壊すのは駄目だ
これを維持してるのはソーナ先輩達だ
壊したら中へ入るどころか、余計な仕事を増やすだけになる
なら
一ヶ所だけ
俺達が通れる分だけでいい
「クオン」
「うん」
「俺から離れるな」
「分かった」
息を吐く
意識を神器へ向ける
次の瞬間
顔を覆うように光が集まった
形を持ち
現れる
オシュトルの仮面
「…………」
隣でクオンが俺を見る
「……ハク」
いつもの声だった
でも、表情は違う
何をしに行くのか理解している顔だ
「心配するな」
「心配はするよ」
「即答か」
「当たり前でしょ?」
「……そうだったな」
一度だけ笑う
そして結界へ向き直った
ここから先
ハクとしてではなく
オシュトルとして動く
「クオン、某から離れぬように」
「うん」
結界へ手を触れる
流れている魔力を感じ取る
「……ここか」
破壊するんじゃない
流れを断つんでもない
ほんの一瞬
この一点だけを押し広げる
「開け」
結界が僅かに歪んだ
細い亀裂のような隙間が生まれ、それが人一人通れる程度まで広がる
「今だ」
「うん!」
先にクオンを通し、その直後に俺も中へ入る
手を離した瞬間、結界が元の形へ戻った
「よし」
壊れてはいない
これなら問題ない
「行くぞ」
「うん」
校庭の方角を見る
強い魔力
聖なる力
そして
何度も何度もぶつかり合う衝撃
間違いない
まだ戦っている
side out ハク
─────────────────────────
side in イッセー
「ぐっ……!」
コカビエルの一撃を受けた右腕が弾かれる
その瞬間
バキッ
「っ!」
赤い装甲へ新しい亀裂が走った
「またかよ……!」
魔力を流す
普段ならすぐに塞がるはずの亀裂
でも
僅かに赤い光が走っただけで、修復が止まった
「くそ……!」
もう追いつかねぇ
胸
肩
両腕
脚
鎧のあちこちが割れている
左肩なんて一部が完全に欠けていて、下に着ていた服が剥き出しだ
その服も裂けてるし、焦げてる
『相棒、出力を落とせ!』
「落としたら押し切られる!」
『だがこのままでは鎧が持たん!』
「分かってる!」
分かってるけど
止まれねぇ
「はぁぁぁっ!」
木場が横から入る
聖魔剣がコカビエルの翼へ当たるが
「遅い」
「っ!」
光が弾け
「ぐあっ!」
「木場!」
木場が地面を転がる
聖魔剣を地面へ突き立て、どうにか止まった
「祐斗!」
「大丈夫……です!」
大丈夫なわけねぇ
立ってるだけで精一杯じゃねぇか!
「朱乃!」
「分かっていますわ!」
雷が落ちる
だけど
さっきまでより明らかに細い
「この程度か」
コカビエルが片翼だけで雷を払う
「くっ……」
朱乃が膝をつく
「朱乃!」
「まだ……大丈夫よ、リアス」
部長も呼吸が荒い
滅びの魔力を何度も使ったせいで、さっきから一発一発の間隔が長くなってる
「皆さん……!」
後ろからアーシアの声
振り返る
顔色が悪い
イリナを治して、そのあとも俺達が怪我するたびに回復して
全然休めてない
「アーシア、無理すんな!」
「でも!」
「俺達はまだ動ける!」
そう言いながら
自分の脚が少し震えているのが分かる
情けねぇな
でも
まだ立てる
だったら立つ
「しぶといな」
コカビエルが笑う
「いい加減に沈め」
光の槍が何本も現れる
「来るぞ!」
「散開!」
部長の声
次の瞬間
光が降った
「うおおおっ!」
一発を腕で弾く
もう一発を避ける
三発目
「しまっ──」
「イッセー!」
ゼノヴィアが割り込んだ
「はぁぁぁっ!」
デュランダルが光の槍を斬り裂く
「ゼノヴィア!」
「前を見ろ!」
「っ!」
コカビエルが消える
「後ろだ!」
木場の声
振り向く
間に合わない
「邪魔だ」
「ぐっ!?」
コカビエルの一撃がゼノヴィアへ直撃した
「ゼノヴィアァ!」
身体が宙を舞う
同時に
デュランダルが手から弾け飛んだ
地面へ突き刺さり、そのまま数メートル先で止まる
「がっ……」
ゼノヴィアが地面へ落ちる
「ゼノヴィア!」
「来るな!」
「でも!」
「まだ……だ……」
腕を伸ばす
デュランダルへ
「…………」
でも届かない
身体を起こそうとして
肘が震える
「くっ……!」
膝を立てようとしても、上がらない
それでも
「まだ……終わって、ない……!」
地面へ指を立て
少しずつ
少しずつ前へ進もうとする
デュランダルへ手を伸ばし続けている
「…………」
何だよ
これ
もうみんな限界じゃねぇか
「終わりだな」
コカビエルの頭上へ光が集まる
今までとは違う
デカい
マズい
「立て……!」
脚に力を入れる
「動けよ……!」
バチッ
脚部装甲から赤い火花が散る
立ち上がれない
「くそっ……!」
『相棒!』
「動けぇぇぇぇ!!」
その時だった
「…………?」
何かの気配を感じて、顔を上げる
「何だ?」
コカビエルも同じ方向を見る
何かが
来る
side out イッセー
─────────────────────────
side in ハク
校庭へ出る
最初に見えたのは
赤だった
「…………」
イッセー
赤龍帝の鎧
でも
俺の知ってる状態じゃない
胸部には何本もの亀裂
右肩は大きく割れ、左肩は装甲自体が一部なくなっている
両腕も
脚も
まともな場所を探す方が難しい
亀裂の奥から見える服まで、裂けて焦げていた
「…………」
リアス先輩
肩で息をしている
朱乃は片膝をついている
祐斗も聖魔剣を支えにしなきゃ立てないくらい消耗してる
黒歌と白音はアーシアとイリナを庇う位置
白音にも傷がある
黒歌も明らかに仙術を使いすぎてる
アーシアは
顔色が真っ青だ
そして
「……まだ……」
少し離れた地面
ゼノヴィアが倒れていた
「…………」
その先
地面へ突き刺さっているデュランダル
ゼノヴィアは立てていない
それでも
震える腕を伸ばしている
「まだ……終わって……ない……!」
指先が地面を掻く
一センチでも
少しでも近付こうとして
デュランダルへ手を伸ばしている
「…………」
頭の中から音が消えた
イッセー
リアス先輩
朱乃
祐斗
アーシア
黒歌
白音
イリナ
ゼノヴィア
全員
ボロボロだった
「…………そうか」
声が
自分でも驚くくらい静かだった
次の瞬間
何かが切れた
──ドンッ!!
「っ!?」
空気が爆発した
いや
違う
爆発じゃない
抑えていた気が
圧が
一気に外へ吹き荒れた
地面の砂が巻き上がる
木々が大きくしなり
校舎の窓が一斉に震えた
仮面から溢れる力まで、それに呼応するように広がっていく
「なっ……!」
コカビエルの十枚の翼が大きく揺れた
その顔から
笑みが消える
「何だ……これは……」
イッセーが顔を上げる
「……おい」
割れた鎧の隙間へ、消えかけていた赤い光が僅かに戻る
亀裂が一気に消えるわけじゃない
でも
止まりかけていた修復が、ほんの少しずつ動き始める
「さっきのコカビエルの圧なんか……比じゃねぇぞ……」
「なのに……」
リアス先輩が自分の手を見る
「苦しくない……?」
朱乃もゆっくり顔を上げる
「魔力の流れが……少し、楽に……」
この圧を向けているのは
こいつらじゃない
当然だ
こいつらに
これ以上何かを背負わせるために来たんじゃない
「…………」
一歩前へ出る
「皆」
全員の視線がこちらへ向く
「よく持ちこたえた」
「……オシュトル?」
リアス先輩が呟く
その隣ではイッセーが目を見開いている
「お前……!」
答える必要はない
今は
それより先にやることがある
「クオン」
「うん」
「皆の退避を頼む」
一瞬だけクオンと視線が合う
「分かった」
「誰一人残すな」
「もちろん」
「クオン!?」
リアス先輩が驚いた声を上げる
クオンはそれに答えるより先に、ゼノヴィアの方へ走り出した
それを確認して、正面へ視線を戻す
十枚の黒い翼を広げたコカビエル
見た感じ、イッセー達の攻撃はあまり効いていない
気は少し乱れている
それでも、かなり余力が残っている
「貴様……何者だ」
「…………」
左手の鉄扇へ指を掛ける
「某はオシュトル」
鉄扇を開く
同時に
右手を腰の刀へ添えた
一息
鞘から刀を抜き放つ
左に鉄扇
右に刀
構える
「それ以上でも、それ以下でもない」
「……鉄扇と刀か」
コカビエルの目が細くなる
さっきまで浮かんでいた笑みは戻らない
「その程度の威圧で、この私を退かせるつもりか」
「…………」
さらに一歩
地面へ足を踏み込む
──ギシッ
「っ!?」
圧が跳ね上がった
コカビエルの翼が沈む
校庭の地面へ細い亀裂が走り、周囲の空気が低く唸った
「…………」
後ろからイッセーの声が聞こえる
「……マジかよ」
祐斗も息を呑む
「鉄扇だけじゃない……」
「……本気なのね」
リアス先輩の声
当然だ
この状態を見て
様子見なんてする気はない
刀身をコカビエルへ向ける
「ここからは──」
鉄扇を僅かに持ち上げる
「某に任せてもらおう」
side out ハク
─────────────────────────
side in クオン
「某に任せてもらおう」
そう言ったハクの声は、いつもと変わらないくらい静かだった
けれど、だからこそ怖い
怒鳴っているわけでも、声を荒らげているわけでもないのに、ハクの周りだけ空気が張り詰めているように感じる
「
リアスさんの声に振り返る
「ゼノヴィアをお願い」
「うん」
私はすぐにゼノヴィアさんのところへ駆け寄り、その身体を支えた
「……すまない」
「無理に喋らなくていいよ」
近くには傷だらけのイッセー君達がいる
服は裂け、身体のあちこちに傷があり、立っているだけでも辛そうな人までいた
それに比べて、向こうにいるコカビエルにはまだ余裕が残っているように見える
私はここへ来るまでの戦いを見ていない
それでも、みんなの怪我と目の前の相手を見れば、どれだけ激しい戦いだったのかくらいは分かった
「デュランダル……」
ゼノヴィアさんが地面へ手を伸ばす
少し離れた場所に落ちていた聖剣を拾い上げるのを待ってから、その腕を肩へ回した
「アーシアのところまで行こう」
「ああ……頼む」
身体を支えて歩き始めた、その時だった
「フン、随分と余裕じゃないか!」
コカビエルの周囲にいくつもの光が生まれ、次の瞬間、それらは無数の槍となってハクへ降り注いだ
「オシュトル!」
思わず声が出る
けれどハクは動じなかった
一歩、半歩と身体をずらして光の槍を避け、避け切れないものだけを鉄扇で横へ逸らしていく
その鉄扇の表面には、いつの間にか何か薄いもやのようなものが纏わりついていた
速い
でも、ただ速いだけじゃない
必要な分しか動かず、一本を避けた動きがそのまま次の一本を避ける動きへ繋がっている
そして右手の鉄扇だけじゃない
左手に持った刀の表面にも、同じものが薄く纏わりついているように見えた
煙とも霧とも違う、刀身の輪郭に沿うように揺らめく薄い何か
あれが何なのか、私には分からない
ただ、それを纏った刀が光の槍へ触れた瞬間、槍の軌道が大きく逸れた
「ほう?」
コカビエルの声が僅かに変わる
その時にはもう、ハクの姿がそこから消えていた
「っ!」
コカビエルが翼を動かす
ほとんど同時にハクが懐へ入り込み、鉄扇で腕を外へ払うと続けて刀が走った
「ぐっ──!」
コカビエルが後ろへ飛ぶ
その胸元には浅い傷が一本走っていた
「……速い」
ゼノヴィアさんが小さく呟いた
私も同じことを思っていた
以前にも、あの姿のハクが戦っているところは見ている
九日目の修行
仮面を顕現して、鉄扇と刀を使ってイッセー君達全員を相手にしていた時
「九日目より……速ぇ」
少し離れたところで、イッセー君が息を切らしながら呟いた
「……うん、僕もそう思う」
祐斗君もハクから目を離さない
その間にも私はゼノヴィアさんを支え、アーシアのいる方へ進んでいく
朱乃さん達も動ける人を支えながら、少しずつその場から距離を取っていた
「気に入らんな」
コカビエルの声が低くなる
さっきまでよりも強い光がその手の中へ集まり、すぐに先ほどまでの槍とは比べものにならないほど巨大な光の塊へ膨れ上がった
「これならどうだ!」
巨大な光が、真っ直ぐにハクへ放たれる
「オシュトル!」
今度は避けない
ハクは刀を構えた
その刀身を覆っていた薄いもやが、さっきより少しだけ濃くなったように見える
次の瞬間、ハクが刀を振り抜いた
巨大な光が真ん中から二つに割れる
「──っ!?」
分かれた光はそのまま飛び続けることなく、輪郭を崩しながらその場でほどけるように消滅していった
その中心に立つハクには、傷一つない
「嘘だろ……」
イッセー君が呟く
私も言葉が出なかった
何をしたのか分からない
刀に纏わりついている、あの薄いもやみたいなものが関係しているのかもしれない
でも、それ以上のことは私には分からなかった
「イッセー君も下がって」
「でも、まだ俺は──」
「ダメ」
思ったより強い声が出て、イッセー君が目を丸くする
「オシュトルが私にみんなを任せたんだから、今は下がって」
「……分かった」
少し悔しそうにしながらも、イッセー君は頷いた
そのまま私達はアーシアのいる方へ下がっていく
けれど、私はどうしても一度だけ振り返ってしまった
「……面白い」
コカビエルの周囲から、さらに強い圧が広がる
今までよりも明らかに力を上げていて、空気が震え、そこにいるだけで身体が押されるような感覚がする
なのに、その真正面に立つハクは何も変わらない
鉄扇と刀を持ち、静かにコカビエルを見ているだけ
いつも一緒にいるハクを知っているからなのかもしれない
怒鳴りもせず、威嚇もしない
ただ静かに立っているだけなのに──
私には、コカビエルよりもハクの方が怖く見えた
side out クオン
─────────────────────────
side in ハク
クオン達が十分に距離を取ったことを気配で確認する
これなら巻き込む心配もない
「さて」
正面ではコカビエルが十枚の黒い翼を大きく広げていた
先ほどまでよりもさらに強い力が集まり、その周囲を光が覆っていく
「人間如きが……調子に乗るなぁぁぁ!」
翼を羽ばたかせ、一気に空へ上がるコカビエル
その両手へ巨大な光が集まり始める
「消し飛べぇぇぇ!」
「遅い」
「な──」
地面を蹴る
コカビエルの目が大きく見開かれた時には、既に間合いの内側へ入っていた
一瞬のうちに刀が幾度も閃く
「──っ!?」
十枚の黒い翼が根元から斬り落とされ、宙を舞った
「がぁぁぁっ!?」
翼を失ったコカビエルの身体が、そのまま地面へ落下する
俺もその後を追って着地した
「ぐっ……貴様……!」
地面へ手をつきながら、それでも立ち上がろうとする
頑丈な奴だ
だが、もう十分だろう
刀を返す
「終いだ」
「──がっ!」
鳩尾へ峰を叩き込む
鈍い音と共にコカビエルの身体が地面を跳ね、そのまま倒れ伏した
少し待つが、起き上がる様子はない
気配はある
死んではいない
「これ以上は不要であるな」
刀を下ろした、その時だった
『相棒』
ドライグの声と同時に、上空から強い気配が近付いてくる
見上げれば、白い全身鎧に身を包み、光の翼を広げた一人の少年がゆっくりと降りてきた
「随分派手にやったな、オシュトル」
「白龍皇か」
ヴァーリ・ルシファー
アザゼルさんから話だけは聞いていたが、直接会うのはこれが初めてだ
ヴァーリは地面に倒れているコカビエルへ視線を向け、それから少し離れた場所で戦闘不能になっているフリードを見る
「俺が来る必要はなかったようだな」
「遅かったな」
「それは否定できない」
「ならばちょうどよい」
「何がだ?」
コカビエルとフリードへ視線を向ける
「そやつらはそちらで持っていけ」
ヴァーリが二人を見たあと、こちらへ視線を戻す
「いいのか?」
「某が抱えて帰っても仕方あるまい」
「それもそうだな」
僅かに笑うと、ヴァーリは頷いた
「そうするさ」
ヴァーリがコカビエルとフリードを回収する
そのまま帰ろうとした時、真紅の鎧に覆われたイッセーの左腕から声が響いた
『無視か、白いの』
『起きていたか、赤いの』
ヴァーリの白い鎧の宝玉も白く輝く
『せっかく出会ったのにこの状況ではな』
『いいさ、いずれ戦う運命だ、こういうこともある』
『しかし、白いの、以前のような敵意が伝わってこないが?』
『赤いの、そちらも敵意が段違いに低いじゃないか』
『お互い、戦い以外の興味対象があるということか』
『そういうことだ、こっちはしばらく独自に楽しませてもらうよ、たまには悪くないだろう? また会おう、ドライグ』
『それもまた一興か、じゃあな、アルビオン』
二体の会話が途切れる
イッセーは自分の左腕とヴァーリを交互に見ていたが、何か言うより先にヴァーリがこちらへ顔を向けた
「それとオシュトル」
「何用か」
「俺との手合わせの件だ」
……やはり来たか
「早く返事をくれ」
「……考えておこう」
「まだ待たせるつもりか」
「某にも都合というものがある」
ヴァーリは少し不満そうだったが、それ以上は追及してこなかった
「分かった、なら次に会う時には答えを聞かせてもらう」
「善処しよう」
「その言葉、信用していいんだろうな?」
「…………」
「おい」
何故だろう
アザゼルさんにも似たような反応をされた覚えがある
「まあいい、またな赤龍帝」
「ああ」
「オシュトルもな」
「うむ」
ヴァーリが光の翼を広げ、コカビエルとフリードを連れて夜空へ飛び去っていく
その気配が十分に遠ざかったところで刀を鞘へ収め、鉄扇を畳む
最後に仮面を収納した
「……ふぅ」
「ハク」
「ん?」
振り返ると、まだ赤龍帝の鎧を纏ったままのイッセーが、ものすごく言いたそうな顔をしていた
「なんで白龍皇がお前との手合わせの返事待ってんだよ」
「アザゼルさん経由」
「またアザゼルのおっさんかよ!」
「俺に言うなよ」
「いや、お前の人脈どうなってんだよ!」
「知らん」
「知らんで済ますな!」
いつもの調子で怒鳴るイッセーを見て、ようやく少しだけ力が抜ける
改めて周囲を見渡す
ボロボロではあるが、イッセーは自分の足で立っている
リアス先輩も朱乃も、祐斗もアーシアも無事だ
黒歌と白音もかなり消耗しているが、大きな怪我はない
イリナもゼノヴィアも生きている
そして、クオンもちゃんとそこにいる
「……まあ」
「何だよ?」
「全員生きてるなら、それでいい」
イッセーが一瞬だけ黙り、それから小さく笑った
「だな」
俺も息を吐き、みんなの方へ歩き出した
────────────────────────────
それから数日が経った
みんな、コカビエルとの戦いで負った怪我はアーシアの治療のおかげでほとんど治っている
あれだけ派手にやったにもかかわらず、学校も今では何事もなかったかのように授業が行われていた
裏側の人達、本当にこういう後始末だけは異様に早いんだよな
そして放課後
俺達はいつものようにオカルト研究部の部室へ集まっていた
リアス先輩、朱乃、イッセー、アーシア、祐斗、黒歌、白音
俺とクオン
そしてイリナとゼノヴィアもいる
「明日、私は本部へ戻ることになったよ」
イリナの言葉にイッセーが顔を上げる
「もう帰るのか?」
「うん、盗まれていた聖剣の件も一応は終わったからね」
「そっか……」
幼馴染がまた離れるからか、イッセーの声が少しだけ寂しそうだった
イリナはそんなイッセーを見て笑う
「そんな顔しないの、もう二度と会えないわけじゃないんだから」
「別にそんな顔してねぇよ!」
「してるしてる」
「してねぇ!」
この二人も昔から変わらないな
そんなやり取りを見ていると、隣に座っていたゼノヴィアが静かに口を開いた
「私は戻らない」
「え?」
イリナ以外の視線が一斉にゼノヴィアへ向く
イリナだけは既に知っていたらしく、少し寂しそうな顔をしていた
「今回の一件で、私は今まで信じていたものについて考える必要ができた」
ゼノヴィアが自分の手を見る
「神が既に亡くなっていることも知った」
部屋の空気が少し重くなる 、コカビエルが口にした事実
聖書の神は、もういない
俺は原作知識で知っていたが、ゼノヴィアやイリナ、アーシアにとっては人生そのものを揺るがす話だ
「だからといって、これまで信じてきたものが全て無意味だったとは思っていない」
「ゼノヴィア……」
「私は神を信じて戦ってきた、その気持ちまで嘘になるわけではないからな」
イリナが何も言わずゼノヴィアを見る
「だが、以前と全く同じように戻ることも出来ない」
「それで、戻らないって……」
イッセーの言葉にゼノヴィアが頷く
「ああ、本部には既に報告した」
「もう話したのか?」
「当然だ、何も言わずに所属を離れるわけにはいかないからな」
まあ、それはそうか
「それと、私が預かっていた
「デストラクションもか」
「あれは私個人の所有物ではない、教会から預けられていたエクスカリバーだからな」
「明日、私が本部まで持って帰ることになってるよ」
イリナが付け加える
なるほど
デストラクションの返還はイリナに任せるわけか
「じゃあ、デュランダルは?」
イッセーの問いに、ゼノヴィアは首を横に振った
「デュランダルは引き続き私が預かる」
「返さなくていいのか?」
「返したところで、現状まともに扱える者は前任者くらいしかいないからな」
「ああ……あれ、使い手を選ぶんだったな」
「そういうことだ」
……デュランダルも、エクスカリバー達みたいな反応をするんじゃないだろうな
「…………」
いや
考えるのはやめよう
嫌な予感しかしない
「報告も返還の手続きも済ませた、その上で私はここに残ると決めた」
そう言って、ゼノヴィアの視線がリアス先輩へ向いた
「リアス・グレモリー」
「何かしら?」
「頼みがある」
ゼノヴィアは一度だけ息を吐くと、はっきりと言った
「私を、あなたの眷属にしてもらいたい」
「はぁ!?」
真っ先に叫んだのはイッセーだった
「ゼノヴィア、お前悪魔になるのか!?」
「ああ」
「いや、ああって軽いな!?」
「軽く決めたつもりはない」
ゼノヴィアは真っ直ぐにリアス先輩を見る
「私はこの数日、考えていた」
教会にいた頃なら、悪魔は敵だった
話し合う相手ですらなかったはずだ
だが、この街へ来てからゼノヴィアが見たものは、それまで教えられてきたものとは少し違っていた
アーシアを守るイッセー
復讐に囚われながらも、最後には仲間を見ることを選んだ祐斗
そして悪魔であるリアス先輩達
「私はここで、悪魔だからという理由だけで信用出来ないとは思わなくなった」
「…………」
「それに」
ゼノヴィアが僅かに笑う
「私はまだあなた達と共に戦いたい」
「そこなんだな……」
思わず口から出た
「何か問題か、ハク」
「いや、ゼノヴィアらしいなと思って」
「そうか」
納得するところなのか、それ
リアス先輩はしばらくゼノヴィアを見つめていた
「一度悪魔へ転生すれば、簡単には元へ戻れないわ」
「分かっている」
「教会から見れば、今まで以上に難しい立場になる可能性もある」
「それも承知している」
「それでも?」
「ああ」
迷いのない返事だった
リアス先輩はその答えを聞くと、静かに笑った
「分かったわ」
その手の中に、一つの駒が現れる
祐斗と同じ駒だ
ただ──
「…………」
やっぱり普通の悪魔の駒とは少し違って見える
リアス先輩の手元に残っている駒は、以前から妙な変化を続けている
原因は未だに分かっていない
リアス先輩自身も何度か調べているらしいが、今のところ悪影響は確認されていなかった
「ゼノヴィア」
「ああ」
「今日からあなたを、私の眷属として迎えるわ」
ゼノヴィアが目を閉じる
リアス先輩の手にある
「っ……」
ゼノヴィアの身体を魔力が包む
人間だった気配が少しずつ変わっていく
やがて光が消えた
「……終わったのか?」
「ええ」
リアス先輩が頷く
「これでゼノヴィアは私の
ゼノヴィアがゆっくりと目を開く
自分の手を何度か握ったあと、身体の感覚を確かめるように視線を落とした
その背中から、一対の黒い翼が広がる
「なるほど……これが悪魔か」
「第一声それなの?」
イッセーが呆れた顔をする
「何か変か?」
「もうちょっとこう、感想あるだろ!」
「羽根が生えた」
「そっちかよ!」
「重要だろう」
「そうだけどよ!」
部屋に笑い声が広がる
その中で祐斗がゼノヴィアの前へ出た
「これからよろしく、ゼノヴィア」
「ああ、こちらこそよろしく頼む」
同じ
少し前までなら、まず考えられなかった組み合わせだな
「ゼノヴィア」
イリナが呼ぶ
「イリナ」
二人が向き合う
「……本当に行くんだね」
「ああ」
「そっか」
少しだけ寂しそうに笑ったあと、イリナはゼノヴィアへ手を差し出した
「じゃあ、今度会う時は敵にならないでよ?」
「それはこちらの台詞だ」
二人の手が重なる
「私は私の道を行く」
「うん」
「イリナも自分の道を行け」
「もちろん」
立場は変わった 、種族も変わった
それでも、二人の間にあるものまで変わるわけじゃない
その光景を見ながら、俺は小さく息を吐いた
聖剣を巡る騒動は、これでひとまず終わりだ
祐斗も自分の過去と向き合い
ゼノヴィアは悪魔として新しい道を選んだ
そして──
────────────────────────────
翌日
「じゃあ、ここまでだね」
空港の出発ロビー
俺とイッセーは、イリナの見送りに来ていた
ちなみに
空港へ向かう途中から、俺達の後ろには四つの気配がついてきている
朱乃
クオン
リアス先輩
アーシア
……前にもやったよな、お前ら
特に隠れるのが下手な奴まで混ざっているせいで、気付くなという方が無理がある
イッセーは今のところ気付いていないようだし、わざわざ言うのも面倒なので放っておくことにした
「ほんとに一人で帰るんだな」
「仕事だからね」
「まあ、お前なら大丈夫だろ」
「なにその雑な信用」
「褒めてんだよ!」
「はいはい」
イリナが笑う
俺も小さく息を吐いた
「次に来る時はもう少し平和な用事にしてくれよ」
「それは私に言われても困るよ、ハク」
「そりゃそうか」
「でも」
イリナが少しだけ表情を柔らかくする
「今回は来て良かったと思ってる」
「そうか?」
「うん」
ゼノヴィアのこともある
祐斗のこともある
色々ありすぎた数日間だったが、イリナなりに得るものはあったんだろう
「じゃあね、イッセー」
「おう、またな」
「ハクも」
「ああ、また──」
言い終わる前に、イリナが一歩近付いた
「ん?」
そして
頬に柔らかな感触が触れた
「…………」
身体が先に固まる
一瞬遅れて、心臓が大きく跳ねた
「…………」
俺も
イッセーも
固まった
イリナが俺から離れる
「…………え?」
ようやく、それだけ声が出た
待て
今
何された?
落ち着け
まず落ち着け俺
頬だ
頬にキスされただけだ
ただそれだけ──
いや、ただそれだけで済ませていいのかこれ!?
「イ、イリナ?」
イッセーまで目を丸くしている
だが、当の本人は平然としていた
いや
口元が完全に笑っている
「じゃあね、ハク」
「いや、ちょっと待て」
「次に会う時まで、ちゃんと覚えててよね」
「何を!?」
イリナは答えない
その代わり
少し離れた柱の方へ、一瞬だけ視線を向けた
「…………」
そこには、さっきから俺達を尾行している四人が隠れている
……おい
何でそっちを見た?
まさか
イリナは楽しそうに笑う
そして、柱の向こうへ向けて
ほんの僅かに
挑発するような笑みを浮かべた
「…………お前」
まさか今の
「それじゃ、またね!」
「待てイリナ!」
答えを聞く前に、イリナは出発口へ歩いていく
俺はその後ろ姿を見送りながら、頬へ手を当てた
「…………」
いや待て
今の絶対わざとだろ
しかもあの視線
明らかに後ろの連中へ向けて──
「ハク」
「なんだ」
「お前……」
イッセーの顔が引き攣っている
「何だよ」
「帰り道、気をつけろよ」
「は?」
「なんかさっきから、向こうからすげぇ殺気がする」
「…………」
ようやく気付いたか
そりゃそうだろうな
俺にも嫌というほど伝わってきている
ものすごくよく知っている気配が二つ
しかも
とても機嫌が悪そうだ
ゆっくり振り返る
柱の陰から最初に姿を見せたのはリアス先輩だった
その隣にはアーシア
二人とも困ったような顔をしている
そして
その後ろから──
「ハク?」
朱乃が笑っていた
ものすごく綺麗な笑顔で
「ハク?」
クオンも笑っていた
こっちも綺麗な笑顔で
…………怖い
「ちょ、ちょっと待て」
「何をですか?」
朱乃の声は優しい
優しすぎる
「何を待つのかな、ハク?」
クオンも優しい
こっちも優しすぎる
「いや、今のは俺も完全に予想外で──」
「ハク」
イッセーが俺の肩を叩く
「なんだ」
「じゃ、俺先帰るわ」
「待てイッセー!!」
「無理! これは俺には無理!」
「幼馴染だろ! 責任持って説明しろ!」
「キスされたのお前だろうが!」
「俺が頼んだわけじゃねぇ!」
「知るかぁぁぁ!」
逃げるイッセー
「待てぇぇぇぇ!」
追おうとした俺の両肩へ
ぽん
と左右から手が置かれた
「…………」
右を見る
朱乃がいる
左を見る
クオンがいる
「さて、ハク?」
「少しお話ししようか?」
「…………はい」
遠くの出発口へ消えていくイリナが、一度だけこちらを振り返った
そして
満足そうに笑った気がした
あいつ
絶対わざとだろ!!
聖剣編、これにて決着です!
祐斗は自分の過去と向き合い、ゼノヴィアは新しい道を選びました
そしてヴァーリもようやくハクと直接対面
……なのですが
最後の最後で全部持っていったのはイリナでしたwww
お前、帰り際に何を置いていってるんだ
朱乃とクオンにしっかり宣戦布告して、そのまま国外逃亡です
ハクは頑張れw
次回Life.29は幕間予定です
そして――
デュランダル
お前は大丈夫だよな?
エクスカリバー達みたいなことにはならないよな?
…………たぶん
きっと
おそらくwww