……したはずなんですけどねぇw
今回は次のお話へ進む前の幕間です
クオンの再検査をしたり
聖剣達の様子を確認したり
ハクが平和な休日を求めたりします
なお
ハクの胃が休めるとは言っていない
それではLife.29、どうぞ!
イリナを見送ってから数日後
俺とクオンは、以前にも何度か訪れた病院へ来ていた
表向きは普通の病院
だが実際にはグリゴリと繋がっていて、人間相手の検査だけではなく、神器や魔力、呪術といった裏側のものまで調べられる施設だ
「……やっぱり、普通の病院には見えないんだけど」
「見た目は普通だろ」
「中身の話をしてるの」
「それはまあ……うん」
誤魔化し切れなかった
最初にここへ来た時は、クオンに原因不明の発熱や頭痛、眩暈が続いていた
検査をしても神器は見つからず、魔力とも違い、呪いや術式にも該当しない
それでも身体の中からは、いくつもの異なる反応が確認されていた
俺が触れた時、二度ほど波形の一部に僅かな変化が出たこともあったが、それが俺に反応したものなのか、それとも偶然だったのかは今も分かっていない
その後、症状が落ち着いてからもう一度測定を行い、その時点では成人男性と比べても遜色のない身体能力になっていることが分かった
けれど
今はさらに違う
「この前、学園までついて来ただろ」
「うん」
「あの時の速度、以前のクオンなら途中でついて来られなくなっててもおかしくなかった」
「……そんなに?」
「そんなに」
瞬間的な加速
踏み込んだ時の脚力
反応速度
特にあの日、学園へ向かう途中で見せた動きは、以前のクオンとは明らかに違っていた
修行を続けていたことを考えても、伸び方が妙だ
「だから一度、ちゃんと測っておきたい」
「ハクがそこまで言うなら……分かった」
クオンが小さく頷く
今回の再検査を頼む時も、俺はオシュトルとしてアザゼルさんへ連絡を入れていた
最初にクオンの件を相談したのがオシュトルだった以上、その方が自然だと思ったからだ
その時に使った携帯も、そのままポケットに入れてある
「話は聞いてるぞ」
奥の扉が開き、アザゼルさんが入ってきた
「久しぶりだな、二人とも」
「お久しぶりです」
「こんにちは」
「じゃあさっそく始めるか」
握力、脚力、瞬発力、反応速度、持久力
以前にも測った項目を順番に調べていく
一通り終えたところで、アザゼルさんが端末の画面を見ながら眉を寄せた
「……全項目で上がってるな」
「やっぱりですか」
「ああ、しかも誤差で済ませられる上がり方じゃねぇ」
アザゼルさんが以前の記録を呼び出す
「症状が落ち着いた後に測った時は、成人男性の平均と比べても十分通用する程度だった」
「今回は?」
クオンが恐る恐る尋ねる
「純粋な身体能力だけで見るなら……もう中級どころじゃねぇな」
「え」
「上級堕天使クラスに入る身体能力帯だ」
「…………え?」
クオンが固まった
「ちょ、ちょっと待って」
「言っとくが、総合戦闘力の話じゃねぇぞ」
アザゼルさんがすぐに続ける
「戦闘経験、技術、光力、魔力、特殊能力、その辺まで全部ひっくるめて上級堕天使って意味じゃない」
画面に並ぶ数値を指でなぞる
「瞬発力、脚力、反応速度、耐久力、身体出力──そういう基礎的な肉体性能だけで見た場合の話だ」
「それでも十分おかしくない?」
「おかしいから調べてんだよ」
「ですよね……」
「しかもこれ、修行だけで説明するのは無理があるぞ」
「やっぱりそうですか」
神器の反応はない
魔力にも大きな変化はない
呪いや術式にも該当しない
なのに身体だけが明らかに変わっている
「……そうだ」
アザゼルさんが端末を操作しながら顔を上げる
「この結果、オシュトルにも伝えとくか」
「…………」
ん?
「最初にこいつの件を相談してきたのはあいつだからな」
アザゼルさんが携帯を取り出す
「…………」
待て
嫌な予感がする
「ハク?」
「クオン、ちょっと待って」
「何が?」
アザゼルさんが画面を操作する
数秒後
──♪♪♪
「…………」
「…………」
「…………」
俺のポケットから着信音が鳴った
やった
やらかした
電源切るの忘れてた
「……
「はい」
「その携帯、出ろ」
「…………」
「出ろ」
「はい」
諦めてポケットから携帯を取り出す
画面にはしっかりと
アザゼル
と表示されていた
「…………」
アザゼルさんが自分の携帯を見る
俺の携帯を見る
もう一度、自分の携帯を見る
「……お前」
「はい」
「オシュトル?」
「…………」
隣を見る
クオンが静かに視線を逸らした
「クオン」
「
「知ってたな?」
「うん」
「即答!?」
「いや待て待て待て!」
アザゼルさんが勢いよく立ち上がる
「お前だったのかよ!?」
「……まあ、そういうことです」
「そういうことで済むか!」
「今さら隠す意味も薄くなってきたので」
「何年付き合ってると思ってんだ!」
「すみません」
「軽い!」
しばらく騒がれた
まあ当然だと思う
やがてアザゼルさんが椅子へ深く座り込み、大きく息を吐く
「……あとで詳しく聞くからな」
「はい」
「絶対だからな」
「はい」
「で、その前に」
「はい?」
「お前も測るぞ」
「…………俺も?」
「当たり前だろうが」
「何でですか」
「何でじゃねぇよ」
アザゼルさんが端末を指で叩く
「俺が何年もオシュトルとして見てきた奴が、実は目の前の高校生でしたって分かったんだぞ」
「それと検査がどう繋がるんですか」
「今までのお前は、仮面を付けたオシュトルとしてしか詳しく見てねぇ」
「…………」
「神器込みで出てる力なのか、お前自身の身体能力なのか、今ならきっちり切り分けられる」
完全に研究者の目だ
「逃げるなよ?」
「逃げませんよ」
「ハク、頑張って」
「何で他人事なんだよ」
「さっき
「それはそうだけど」
結局、俺まで検査台へ連れて行かれた
仮面は顕現させない
仙術も使わない
闘気による身体強化もなし
今の俺自身の肉体だけを測っていく
そして一通り終わったところで
「…………」
「…………」
「…………何ですか」
アザゼルさんが黙ったまま結果を見ている
「何ですかその顔」
「いや……ちょっと待て」
別の画面を開く
数値を確認する
もう一度確認する
そして自分のデータまで呼び出した
「……お前」
「はい?」
「素の身体能力だけなら、俺より上なんだが?」
「…………え?」
「いや、俺が聞きてぇよ」
アザゼルさんが頭を掻く
「もちろん総合戦闘力の話じゃねぇぞ、光力も神器も戦闘経験も技術も全部抜いた、基礎的な肉体性能だけの話だ」
「それでも総督より上なんですか?」
クオンが横から画面を覗き込む
「ああ」
「…………」
「…………」
「ハク」
「何だよ」
「やっぱりおかしいね」
「何で嬉しそうなんだよ」
「いや」
アザゼルさんがもう一度数値を見直す
「最近まともに模擬戦してなかったからな」
「そういえば、しばらくやってませんね」
「今のお前がどこまで伸びてるか、俺もちゃんと把握してなかったが……」
そこでアザゼルさんの動きが止まった
「…………あ」
「どうしました?」
「そういや、うちの馬鹿息子が言ってたな」
「馬鹿息子?」
「ヴァーリだよ」
「ああ……」
その呼び方、まだ続いてたのか
「コカビエルをオシュトルが瞬殺してたって」
「…………」
「しかもあいつがあそこまで面白そうに話すのも珍しくてな」
「見てましたからね、あいつ」
「その時は多少盛ってんじゃねぇかと思ってたが……」
アザゼルさんが俺の検査結果を見る
「この数字見ると、笑えねぇな」
「別に瞬殺するつもりだったわけじゃないんですけど」
「結果としてほぼ瞬殺だったんだろ」
「まあ……」
「つーか、お前」
「はい?」
「俺が知らねぇ間にどんだけ伸びてんだよ」
「俺にも分かりませんよ」
「そこは分かっとけよ!」
無茶を言わないでほしい
「それと」
「まだあるんですか?」
「あいつとの模擬戦の約束」
「…………」
忘れてた
「まだ残ってるからな」
「覚えてたんですか」
「俺が忘れても、あの馬鹿息子が忘れるわけねぇだろ」
「ですよね……」
あいつ戦闘狂だし
「しかも今回ので完全に火ぃ付いてるぞ」
「最悪だ」
「諦めろ」
「嫌です」
「約束しただろ」
「……気が向いたらって言った記憶があるんですけど」
「じゃあそろそろ気を向かせろ」
「横暴だ」
「知らん」
面倒事が増えた
絶対に増えた
「まあヴァーリの件は後だ」
「永遠に後でもいいですよ」
「駄目だ」
即答された
「それより、まだある」
「……まだ?」
アザゼルさんが俺の検査画面を切り替える
「身体能力だけじゃねぇ」
「何がですか」
「お前にも出てる」
「何が?」
「複数の反応だ」
「…………は?」
アザゼルさんが波形を拡大する
そこには確かに、一種類とは思えないいくつかの反応が重なっていた
「クオンが最初にここへ来た時の記録と、似てる部分がある」
「じゃあ俺も同じ──」
「いや、そこが違う」
「違う?」
「ああ」
アザゼルさんがクオンの過去の記録を隣へ表示する
「クオンのは当時、複数の反応がそれぞれバラけて出てた」
そして俺の記録を指す
「だがお前のは違う」
「…………」
「複数あるのに、最初から全部が一つの系統としてまとまってやがる」
「どういうことですか」
「分からん」
「ですよね」
「即答すんな、腹立つな」
クオンも画面を見比べる
「
「そっちとも似てる」
「じゃあ今は、
「見え方だけならな」
アザゼルさんが腕を組む
「ただ経過が違う」
クオンは以前、バラけていた
今は一つにまとまって見える
俺は少なくとも今の検査では、複数の反応が最初から一つに統合されたような状態で出ている
「……お前ら二人揃って何なんだよ」
「俺に聞かれても」
「
「だろうな!」
その時
コンコン
扉が軽く叩かれた
「入るわね」
聞き覚えのある穏やかな声と共に、扉が開く
大きなトレーを手にして入ってきたのは、
「あら、まだ終わってなかったの?」
「予定外が多すぎてな」
「さっきあなたから、長引きそうだって連絡が来たから、お茶を持ってきたの」
「助かる」
「それで、予定外って?」
そこでアザゼルさんが、思い出したように俺を見る
「ああ、そういやお前にも言っとかねぇとな」
「何を?」
「こいつ」
俺を指差す
「オシュトルだった」
「…………え?」
「何でそんな雑にバラすんですか」
「もう隠す意味ねぇだろ」
「そういう問題じゃ──」
「ちょっと待って」
アザゼルさんを見る
もう一度俺を見る
「ハク君が?」
「……はい」
「オシュトル君?」
「はい」
「…………本当に?」
「本当です」
「まあ……」
目を丸くしたまま、しばらく俺を見つめている
「全然分からなかったわ」
「分かられないようにしてましたからね」
「何年もな!」
「アザゼルさん、その話まだ引っ張るんですか」
「引っ張るに決まってんだろ!」
今日だけで何回怒られるんだろう
「なるほどねぇ……」
「じゃあ改めて、よろしくね、オシュトル君……でいいのかしら?」
「今はハクで大丈夫です」
「分かったわ、ハク君」
とりあえず、ここでも正体共有は終わった
「それより、お茶を持ってきたの」
「ありがとうございます」
「ありがとう、
クオンから聞いた話では、二人は料理や香草、お茶、それに調合なんかの話でかなり気が合うらしい
俺の知らないところでずいぶん話が弾んだらしく、クオンが珍しく楽しそうにその話をしていたのを覚えている
「はい、クオン」
「ありがとう、お母さま」
「いいのよ、クオン」
「…………」
「…………」
「…………」
待て
今、何て言った
「……あれ?」
「……また言っちゃった」
クオンと
「ハク?」
「…………何でもない」
「顔色悪いけど?」
「気のせいだ」
胃が痛い
何でだろう
ものすごく胃が痛い
エルルゥとクオンが自然に親子みたいなやり取りをするのは本当にやめてほしい
俺の精神衛生上よろしくない
「ハク、本当に大丈夫?」
「大丈夫だから」
「そう?」
「そう」
深く考えるな
俺
深く考えたら負けだ
「じゃあ次はハク君ね」
「ありがとうございます」
その瞬間
ぱきっ
「…………」
「…………」
「…………」
小さな音が部屋へ響いた
「…………あれ?」
本人が一番不思議そうな顔をしていた
「そんなに力入れたつもりなかったんだけど……」
「…………」
アザゼルさんの目が細くなる
「
「何?」
「そこ座れ」
「え?」
「検査する」
「どうして!?」
「今の見て何で検査しねぇ選択肢があるんだよ!」
「たまたまグラスが脆かったとか……」
「そのグラス俺も普段使ってるからな!」
「「ですよね」」
俺とクオンの声が綺麗に重なる
「二人まで!?」
こうして
本日三人目の検査が始まった
「私、本当に何ともないんだけど……」
「クオンも最初はそんな感じだったろ」
「まあ……」
「今度はグラスに亀裂入れてんだ、諦めろ」
「砕いてはいないわよ!」
「そこ張り合うところか!?」
握力
脚力
瞬発力
反応速度
持久力
一通り測定していく
最初こそ
「…………」
「…………」
「あなた?」
「ちょっと黙ってろ」
「はい」
アザゼルさんが何度も測定値を確認している
「……お前までかよ」
「何が?」
「成人男性の平均、普通に超えてるぞ」
「…………え?」
「握力だけじゃねぇ、脚力も瞬発力も反応速度も全体的に高い」
「私、特に鍛えてないんだけど……」
「だから余計におかしいんだよ」
「クオンほどでは?」
俺が尋ねる
「そこまではいってねぇ」
アザゼルさんが二人の数値を並べる
「クオンは今、素の身体能力だけなら上級堕天使クラスに入るところまで来てる」
「改めて聞くとすごいね……」
「俺もそう思う」
「ハクが言う?」
「何でだよ」
「お前も人のこと言えねぇだろ」
アザゼルさんが俺の数値を呼び出す
「神器も仙術も闘気も無しで俺より上なんだからな」
「それはさっき聞きました」
「何回でも言ってやるよ!」
そんなに納得いかないのか
「まあ、
アザゼルさんが画面へ視線を戻す
「だが普通の人間として見るなら、明らかに高すぎる」
「どうして……?」
「それを今から調べるんだよ」
さらに検査を進めていく
魔力
神器
呪術
術式
身体内部の各種反応
そして
「……おい」
アザゼルさんの手が止まった
「今度は何ですか」
「出た」
「何が?」
「例の反応」
「…………」
俺とクオンが同時に画面を見る
そこには、俺たち二人にも確認されたものと似た正体不明の波形が表示されていた
「私にもあるの?」
「ああ」
「クオンみたいに?」
「似てはいる」
アザゼルさんが波形を拡大する
「ただし──」
クオンの記録
俺の記録
三つを並べる
「クオンは最初にここへ来た時、複数の反応がバラけてた」
「今は一つにまとまって見えるんですよね」
「そうだ」
次に俺の記録
「ハクは複数ある」
「でも最初からまとまってる」
「ああ」
そして最後に、
「だがこいつは違う」
「何が?」
「一つしかねぇ」
「…………一つ?」
「ああ」
アザゼルさんが何度か測定条件を変える
結果は変わらない
「複数の何かが重なって一つに見えてるって感じじゃない」
「じゃあ?」
「少なくとも今の機械で見る限り、最初から単独の一反応だけだ」
「…………」
「私にも何かあるのね」
「ある」
「何なの?」
「分からん」
「即答ね」
「今日それ何回目だと思ってんだ」
アザゼルさんが深いため息を吐く
「似てるんだよ」
「誰と誰が?」
「三人ともだ」
画面には三つの記録
「だが出方が全部違う」
クオンは、複数から一系統へ変化した
俺は、複数が最初から一つに統合されている
「しかも身体能力の出方まで違う」
クオンは以前より異常なほど伸びて、今では上級堕天使クラスに入る身体能力帯
俺は素の肉体だけでアザゼルさんを上回る
「……今日何の日だよ」
アザゼルさんが天井を見上げる
「健康診断?」
「お前が言うと腹立つな、ハク」
「何でですか」
「一番最初に爆弾落としたのお前だろ」
「クオンの検査に来ただけなんですけど」
「そこでオシュトルだったってバレて、お前まで測って、嫁まで追加されたんだよ!」
「私はお茶を持ってきただけなのに……」
「お茶を配ろうとしてグラスに亀裂入れた奴が言うな!」
「……ごめんなさい」
「謝るところそこじゃねぇ!」
何とも言えない空気の中
俺は三つの波形を眺める
クオン
俺
共通している部分は確かにある
だが
全部同じとは思えない
特に
そしてクオンは、以前は複数に分かれていたものが今は一つにまとまって見える
もし
これにも意味があるとするなら──
「アザゼルさん」
「何だ」
「一つ、心当たりがあります」
「ほう?」
「ただし、あくまで仮説です」
「いいから言え」
俺は少し考えてから口を開く
「
「……カムナ?」
アザゼルさんの眉が寄る
クオンも首を傾げる
「カムナ……?」
「俺の知っている古い話だと、人の中に神に結び付く力が宿ったり、定着したりする現象として扱われていたものです」
「神の力が?」
「ああ、少なくとも普通の加護とは少し違うものとして扱われてた」
「少しって何だ」
「詳しい仕組みまで俺も知ってるわけじゃないんですよ」
「またそれか」
「仕方ないでしょう」
クオンが自分の手を見る
「じゃあ、ハクが知ってる範囲では?」
「
「複数?」
「ああ、複数のものが重なって不安定になった例も、俺は知ってる」
クオンの表情が僅かに変わる
「それって……」
「待った」
何か言う前に手を上げる
「だからって、前に出た症状が全部それだったって決まったわけじゃない」
「でも似てるんだね」
「俺の知ってる話とは重なる部分がある」
以前の症状
複数に分かれていた反応
今は症状が落ち着いているのに、身体能力だけは以前より大きく伸びている
そのうえ今回の検査では、あれだけバラけていたものが一系統にまとまって見える
「もし本当に
「今は?」
「一つに落ち着いた……ように見える」
「それが
「そこまでは分からない」
断定出来る材料はない
「待て」
アザゼルさんが俺の検査結果を指す
「じゃあ、お前に出てる複数反応もそのカムナとやらなのか?」
「…………分かりません」
「知らねぇのかよ」
「俺だって自分の身体にこんなのが出てるなんて今日初めて知りましたから」
「それもそうか」
「じゃあ私は?」
「一つしか出てない私も同じなの?」
「それも分かりません」
「全部分からないじゃない」
「だから仮説なんですって」
「それはそうね」
「納得すんのかよ!」
アザゼルさんが頭を抱える
「まず字だ」
「字?」
「カムナってどう書く」
「ああ」
俺は端末を借りて入力する
神
憑
「神に、憑くの憑です」
「
アザゼルさんが検索をかける
数秒
さらに条件を変える
また数秒
「……出ねぇな」
「やっぱりですか」
「やっぱりじゃねぇよ」
神器
術式
神話
呪術
グリゴリが保有している古い記録
いくつも検索対象を変えているが、該当するものは出てこない
「少なくとも俺の手元には、カムナって名前の現象を体系立てて扱った記録はない」
「そうですか」
「で」
アザゼルさんが俺を見る
「クオンの反応が一系統にまとまったって話を聞いて、他にも何か思い当たったんだろ」
「はい」
「何だ」
「もし本当に
一度クオンを見る
問題は、今まとまっているものが何なのかだ
そして俺が知っている『クオン』に結び付くものを考えるなら──
「多分、
「…………テヌカミ?」
「はい」
「字」
「土に神です」
端末へ入力する
土神
「それでテヌカミって読むのか?」
「そうです」
「読めるか」
「俺に言われても」
「お前が持ってきた知識だろうが」
再び検索
「土神……テヌカミ……」
いくつか結果が出る
だがアザゼルさんはすぐに首を振る
「違うな」
「何がですか?」
「土や大地を司る神そのものなら、各神話にいくらでもいる」
画面には複数の神話体系が並んでいる
「だが《テヌカミ》という読みで《土神》を一つの体系として扱ってる記録はない」
「…………」
「他には?」
「え?」
「その
アザゼルさんの目が完全に研究者のそれになった
「他にもいるんだろ?」
「俺が知ってる範囲なら」
「全部言え」
「全部?」
「字もだ」
逃げられそうにない
「まず、
「字は」
「火に神」
入力
「次」
「
「次」
「
「次」
「さっきの
アザゼルさんが順番に入力していく
「ヒム、クス、フム、テヌ……」
「はい」
「漢字だけ見れば何の捻りもねぇのに、読みだけどうなってんだこれ」
「知りませんよ」
「お前なぁ……」
「それと、光や闇に属するものもあります」
アザゼルさんの手が止まる
「名前は?」
「そこは俺もはっきりとは分かりません」
「四つは名前も字も分かってて、残りは曖昧なのか?」
「俺が知ってる範囲では」
「またそれか」
アザゼルさんが火神、水神、風神、土神をまとめて検索する
読みを変え
漢字を変え
関連する神話や古い記録まで照合していく
だが
「……駄目だ」
「全部?」
「ああ」
アザゼルさんが椅子にもたれる
「火や水、風、土を司る神そのものなら腐るほどいる」
画面には各地の神話体系が並んでいた
「だが、ヒムカミ、クスカミ、フムカミ、テヌカミって読みを一つの体系として扱ってる記録がない」
「…………」
「しかも、その連中と
そして
ゆっくり俺を見る
「なあ、ハク」
「はい」
「何でお前は知ってる?」
「…………」
来た
「オシュトルとして昔から知ってた知識か?」
「まあ……」
「まさか」
アザゼルさんの目が細くなる
「例の千里眼か?」
「…………」
便利だな
昔の俺
「……まあ、そんなところです」
「またそれかよ!」
頭を抱えるアザゼルさん
「お前の千里眼、こっちに記録のないもんまで拾ってくるのやめろ」
「俺に言われても」
「だから誰に言えばいいんだよ!」
「……ハク」
「ん?」
「千里眼って何?」
「…………」
そうだった
クオンいるじゃん
「帰ってからでいい?」
「何で目を逸らすの?」
「気のせい」
「ハク?」
「はい」
「私も聞いていい?」
「…………」
味方がいない
アザゼルさんがため息を吐いてから、もう一度三人分の検査結果へ目を戻す
「まあ、今のところ言えるのはこれだけだ」
まずクオンの結果を指す
「クオンは以前ここで測った頃と比べて、身体が明らかに変わってる」
「今の基礎身体能力だけなら、上級堕天使クラスに入る身体能力帯まで来てる」
次に俺の結果
「ハクは神器も仙術も闘気も抜いた素の身体能力が、俺を上回ってる」
「…………」
最後に
「
「…………」
「さらに三人とも、似た種類の正体不明の反応が出てる」
アザゼルさんが画面を切り替える
「クオンは昔バラけていた複数の反応が、今は一つにまとまって見える」
「ハクは複数あるが、最初から一つに統合された状態」
「
三つの波形が並ぶ
「似てる部分はある」
「でも同じではない?」
「ああ」
アザゼルさんが腕を組む
「原因も正体も分からん」
「
「証明出来る材料がない」
「否定する材料は?」
「それもない」
アザゼルさんらしい答えだった
「だから今は記録を取る」
「定期的に?」
「ああ、また変化があったらすぐ来い」
クオンが少し考えてから俺を見る
「ハクも一緒に来てね」
「俺も?」
「当然でしょ」
「いや、俺は別に──」
「ハクも検査対象になったでしょ」
「それはそうだけど」
「お前はもう他人の付き添い面すんな」
「アザゼルさんまで!?」
「次から二人分だ」
そこでアザゼルさんが一度止まり
「いや」
「何?」
「三人分だな」
「私も!?」
「当たり前だろ!」
「ただお茶を持ってきただけなのに……」
「グラスに亀裂入れた時点で諦めろ!」
「……はい」
そこでクオンが、残ったグラスを手に取る
「じゃあ今度は
「あら、ありがとう」
「ううん、お母さまは座ってて」
「ありがとう、クオン」
「…………」
まただ
やめろ
本当にやめろ
胃が
胃が痛い
「ハク?」
「何でもない」
「さっきからずっと胃の辺り押さえてるけど」
「気のせいだ」
「病院にいるんだし、診てもらったら?」
「原因分かってるからいい」
「何が原因なの?」
「聞かないで」
「?」
クオンが首を傾げる
やめてくれ
二人揃ってその顔するのもやめてくれ
「……なあ」
アザゼルさんが俺を見ている
「何ですか」
「胃の検査も追加するか?」
「しません」
「即答かよ」
「絶対しません」
今日だけで
アザゼルさんに正体がバレて
自分の身体まで検査対象になって
ヴァーリとの模擬戦まで蒸し返されて
お茶を持ってきただけの
さらにクオンと
病院へ来ただけのはずなんだけどな
結局
クオンの身体が、以前ここで測った頃とは明らかに変わっていること
俺自身の身体も、神器や仙術だけでは説明出来ないこと
そして三人の身体に、似ているようでそれぞれ違う正体不明の反応があること
分かったのは、そこまでだった
その原因が
クオンの中で本当に
俺自身の中にある複数の反応が何なのか
それはまだ…てかおばちゃんに聞けばよくね?
まぁまた今度にするか…胃が痛い…
────────────────────────────────────────────
その日の夜
俺はオカルト研究部の部室に来ていた
リアス先輩、朱乃、祐斗、イッセー、アーシア、ゼノヴィア
黒歌と白音
それにクオンも一緒だ
昼間の病院で色々ありすぎたせいもあって、本当なら今日は真っ直ぐ家に帰りたかったのだが
「それでハク、検査の結果は?」
「聞きます?」
「その言い方をされると嫌な予感しかしないわね」
「奇遇ですね、俺もです」
「ハク、何されたんだよ……」
「健康診断」
「絶対違うだろそれ!」
違わない
多分
「ご主人、顔がもう健康診断を受けた人の顔じゃないにゃ」
「健康診断を受けた人の顔って何だよ」
「少なくとも兄さまみたいに胃を押さえて帰ってくるものではないと思います」
「白音まで」
「事実です」
否定出来ない
「まあ、その話は後で聞くとして」
リアス先輩が紅茶のカップを置く
「今日はゼノヴィアの今後についても、少し話しておきたかったし」
「よろしく頼む」
ゼノヴィアが真面目に頷く
悪魔へ転生したばかりだ
これから覚えることも多いだろう
そんな話をしていた時だった
コンコン
「ん?」
窓から音がした
「……今、誰か叩かなかったか?」
「二階よ?」
「鳥でしょうか?」
アーシアの言葉に全員の視線が窓へ向く
コンコン
また鳴った
「本当に何かいるぞ」
イッセーが窓へ近付く
「開けても大丈夫か?」
「待ちなさい」
リアス先輩が警戒する
朱乃も窓の外へ視線を向けた
「敵意は感じませんわね」
「私も感じません」
白音が小さく鼻を動かす
「悪意もないですね」
「むしろ妙に必死そうだにゃ」
黒歌まで首を傾げている
俺も嫌な感じはしない
むしろ
何だろう
妙に見覚えのある気配がする
「ハク?」
「……ちょっと待って」
俺が窓へ近付く
すると
窓の向こうにいた何かが、俺を見た瞬間
ばさばさばさっ
露骨にテンションを上げた
「…………」
「…………」
「…………鳥?」
クオンが首を傾げる
「ご主人」
「言うな」
「まだ何も言ってないにゃ」
「その顔で分かる」
いや
違う
俺は知ってる
これ
「……まさか」
嫌な予感しかしない
「兄さま?」
「祐斗」
「何?」
「窓、開けない方がいいかもしれない」
「どうして?」
「経験則」
「それ最近多くない?」
多いんだよ
俺だって困ってる
その時
俺の携帯が鳴った
「今度は何だ……」
画面を見る
イリナ
「…………」
嫌な予感が確信に変わった
「もしもし」
『ハク!?』
「うん」
『大変なの!』
「何が」
『ミミックがいなくなった!』
「…………」
窓を見る
鳥っぽい何かが、ものすごい勢いで羽ばたいている
『こっちに戻ってからちゃんと保管しようとしたんだけど、急に勝手に動き出して!』
「…………」
『止めようとしたら鳥みたいになって、そのまま飛んでっちゃって!』
「…………」
『ハク、聞いてる!?』
「聞いてる」
『絶対そっち行ったと思うの!』
「…………」
『ハク?』
「いる」
『え?』
「俺の目の前にいる」
『…………』
「窓の外」
『…………』
「すごい羽ばたいてる」
『…………やっぱり!?』
電話の向こうから盛大な声が響いた
「ハク」
リアス先輩が俺を見る
「まさか、それ」
「はい」
仕方なく窓を指差す
「
「「「…………」」」
「また来たのかよ!?」
イッセーの叫びが部室に響く
「俺が聞きたい」
「兄さま、以前言っていた鳥になった聖剣ですか?」
「そう、それ」
「本当に鳥みたいですね」
「鳥じゃないからな?」
「ご主人、もう名前付けた方が早いんじゃないかにゃ?」
「絶対付けない」
『ハク! 捕まえて!』
「嫌だよ」
『何で!?』
「前回どうなったか覚えてる?」
『…………』
「肩に乗られた」
『……可愛かったじゃん』
「聖剣だぞ!?」
『でも鳥だったし』
「そういう問題か!?」
電話越しに言い合っている間にも
コンコンコンコン
窓を叩く速度が上がっている
「……ハク」
「何だ、クオン」
「入れてあげたら?」
「クオンまで!?」
「ちょっと可哀想」
「こいつ聖剣だからね!?」
「でも外で待ってるよ?」
「犬みたいに言うな!」
「ご主人、あれ以上待たせたら窓割るんじゃないかにゃ」
「不吉なこと言うな」
ゼノヴィアが窓の外をじっと見る
「……確かに」
「ゼノヴィア?」
「明らかにハクを見ているな」
「言わなくていい」
「というより」
祐斗が苦笑する
「ハク君以外、眼中にないみたいだね」
「もっと言わなくていい!」
「兄さま、人気ですね」
「白音まで乗るな」
ばさばさばさばさ
「…………」
「…………」
「…………」
うるさい
「開けるぞ」
「イッセー待て!」
「可哀想だろ!」
「お前どっちの味方だ!」
「鳥!」
「聖剣だって言ってるだろ!」
ガチャ
「あ」
窓が開いた
次の瞬間
ばさっ
「うおっ!?」
一直線
本当に一直線だった
イッセーも
リアス先輩も
朱乃も
祐斗も
アーシアも
ゼノヴィアも
黒歌も
白音も
クオンすら無視して
俺のところへ飛んできて
ぽすっ
「…………」
右肩に着地した
「…………」
「…………」
「…………」
嫌な沈黙だ
「ご主人」
「言うな」
「また増えたにゃ」
「増えてない」
「でも懐かれてます」
「白音も言うな」
「兄さまの肩から降りる気配がありません」
「見れば分かる!」
リアス先輩が口元を押さえている
「随分懐かれてるわね」
「笑わないでください」
「笑ってないわよ」
「口元見れば分かります」
「ふふっ」
「笑ってるじゃないですか!」
その横で朱乃まで肩を震わせている
「まあまあ、ハク」
「朱乃も笑ってるだろ」
「そんなことありませんわ」
「目が笑ってる!」
「ハク、聖剣に好かれる才能でもあるのか?」
「そんな才能いらない」
「ハクさん、可愛いですよ?」
「アーシアまで!?」
ミミックが俺の肩で身体を丸める
そして
すりっ
「…………」
頬へ頭を擦り付けてきた
「…………お前」
すりすり
「やめろ」
すりすり
「やめろって」
すりすりすり
「聞けよ!」
「ご主人、完全に飼い主にゃ」
「違う!」
「兄さま」
「白音まで何」
「諦めも肝心です」
「何を!?」
「完全に懐いているな」
ゼノヴィアが真顔で言う
「元同僚だろ、何とかしてくれ!」
「イリナの担当だ」
『聞こえてるからね!?』
まだ電話繋がってた
「イリナ、回収しに来て」
『無理だよ!?』
「じゃあどうすんだこれ」
『ハクが持っててよ』
「嫌だよ!」
『ミミックもその方が喜ぶと思うし』
「持ち主側が諦めるな!」
『だって私が止めても飛んでいったんだもん!』
「それは……」
否定出来ない
「しかし妙だね」
祐斗が少し真面目な顔になる
「何が?」
「前にもハク君のところへ寄っていったけど、今回は距離が違う」
「距離?」
「イリナさんが帰った後だよ」
「…………」
そういえば
そうだ
以前は同じ街にいた
だが今回は違う
「それでもハク君のところへ戻ってきた」
リアス先輩の表情から笑みが少し消える
「偶然では説明しづらいわね」
「…………」
俺の肩では
当のミミックが何も気にしていない様子で落ち着いている
「聖剣って、こんなに自由なんですか?」
アーシアが尋ねる
「普通は違う」
ゼノヴィアが即答した
「少なくとも私は、こんな聖剣は知らない」
『私も知らないよ!』
「お前の聖剣だろ」
『だから困ってるの!』
「…………」
ゼノヴィアがしばらく俺の肩にいるミミックを見つめ
ふと、自分の傍らに置いていた剣へ視線を落とした
「……そういえば」
「ん?」
「ハク」
「何」
「少しこっちへ来てくれ」
「嫌な予感しかしないんだけど」
「いいから」
「今日その流れ多いな……」
俺が近付くと、ゼノヴィアはデュランダルへ手を掛けた
「念のため、皆少し下がっていてくれ」
「ゼノヴィア?」
「確認したいことがある」
リアス先輩が僅かに眉を寄せる
「危険は?」
「振るつもりはない」
「分かったわ」
リアス先輩と朱乃が念のため部室に結界を張る
黒歌も壁際へ下がり
白音がアーシアの前へ立つ
「アーシアさん、念のためこちらへ」
「あ、はい」
「俺も悪魔なんだけど!?」
「イッセー君なら平気だと思って」
「祐斗!?」
ゼノヴィアがゆっくりとデュランダルを抜いた
強大な聖なる力を持つ聖剣
悪魔であるリアス先輩達にとって、本来なら近くにあるだけでも決して心地良いものではない
「うっ……」
イッセーが僅かに顔をしかめる
「やっぱり、まだこれは慣れねぇな」
「イッセー、大丈夫ですか?」
「ああ、これくらいなら」
白音も僅かに眉を寄せる
「……あまり気持ちの良いものではありませんね」
「聖剣だもの、仕方ないにゃ」
黒歌も笑ってはいるが、耳が僅かに下がっている
だが
俺がゼノヴィアの隣へ立つ
「…………あれ?」
イッセーが瞬きをした
「どうした?」
「いや」
自分の腕を見る
「さっきより嫌な感じが弱くなった気がする」
「私もです」
白音がデュランダルを見つめる
「兄さまが近付いてから、圧迫感が明らかに弱くなりました」
「私も同じだにゃ」
リアス先輩も頷く
「聖なる力が消えたわけじゃない」
朱乃が目を細める
「けれど、随分大人しくなりましたわね」
「やはりか」
ゼノヴィアが小さく呟く
「やはり?」
「以前から気になっていた」
デュランダルを見下ろす
「こいつは本来、もっと我が強い」
「我が強い?」
「言っておくが、かなりのじゃじゃ馬だぞ」
「剣なのに?」
「剣だからだ」
「前も聞いた気がする、その理屈」
ゼノヴィアが真顔で続ける
「私が扱おうとしても、未だに好き勝手に力を出そうとすることがある」
「大変だな」
「他人事みたいに言うな」
「俺の剣じゃないし」
「だが」
デュランダルを俺の方へ向ける
「お前が近くにいると、妙に大人しくなる」
「…………」
「何をした?」
「何もしてない」
「本当に?」
「本当に」
「仙術は?」
「使ってない」
「闘気は?」
「使ってない」
「神器は?」
「仮面すら出してない」
「…………」
「その目やめて」
俺を疑うな
「距離を取ってみたら分かるんじゃない?」
祐斗が提案する
「それだ」
「俺が動くの?」
「頼む」
「はいはい」
少しずつ離れていく
一歩
二歩
三歩
「……強くなった」
「何が?」
「デュランダルの主張だ」
ゼノヴィアが柄を握り直す
イッセーも顔をしかめる
「俺もさっきよりキツい」
「こっちもです」
白音も一歩下がる
「では戻りますか」
一歩
二歩
三歩
「……また弱くなった」
「…………」
「…………」
「…………」
俺はデュランダルを見る
何というか
「借りてきた猫」
「言うな」
「ゼノヴィアも思ったんだな」
「言うなと言っている」
「ご主人の前では猫被ってるにゃ」
「お前が言うとややこしい」
「猫又だけに?」
「そういう意味じゃない!」
黒歌が楽しそうに笑っている
「ハク君」
「祐斗」
「握ってみたら?」
「お前までそっち側に行くの?」
「気になるじゃないか」
「俺は気にならない」
「ハク」
ゼノヴィアがデュランダルを差し出してくる
「一度持ってみろ」
「…………」
嫌な予感がする
ものすごく嫌な予感がする
「やめない?」
「何故だ」
「経験則」
「また?」
「まただよ」
肩のミミックを見る
こいつが一番分かりやすい前例だ
「大丈夫よ」
リアス先輩が言う
「何かあればすぐ止めるわ」
「その言葉がある時って大体何か起きるんですよ」
「気のせいよ」
「絶対気のせいじゃない」
「ご主人、諦めるにゃ」
「黒歌まで!?」
「兄さま」
「白音」
「私も少し気になります」
「味方がいない」
「クオンは?」
「
「全滅した」
それでも全員の視線が俺に集まる
「……一回だけだからな」
「ああ」
ゼノヴィアが柄をこちらへ向ける
俺は右手を伸ばし
デュランダルを受け取った
「…………」
重さ自体は普通だ
妙な抵抗もない
むしろ
驚くほどすんなり手へ収まる
「行くぞ」
「ああ」
柄をしっかり握り込んだ
その瞬間
────ッ!!
「!?」
「うおっ!?」
「兄さま!」
空気が一気に変わった
さっきまで嘘みたいに大人しかったデュランダルから、凄まじい聖なる力が噴き上がる
「リアス!」
「分かってる!」
リアス先輩の結界が強まる
朱乃もすぐに補強へ回る
「ハク!」
「俺何もしてない!」
「本当か!?」
「本当だって!」
仙術も使ってない
闘気も流してない
仮面だって出してない
ただ握っただけだ
「ご主人、それでただ握っただけは無理があるにゃ!」
「俺もそう思うけど本当に何もしてない!」
「兄さま、手を離してください!」
「分かった!」
すぐにゼノヴィアへ返す
俺の手から離れ
ゼノヴィアが柄を握った瞬間
すん
「…………」
「…………」
「…………」
静かになった
「…………もう一回」
「嫌だ」
ゼノヴィアの言葉へ即答する
「何故だ!」
「今の見たよな!?」
「見たからだ!」
「その理屈おかしくない!?」
ゼノヴィアがデュランダルを見る
「……納得がいかない」
「何が」
「私は長年こいつを扱っている」
「うん」
「何度振り回されたか分からない」
「剣に?」
「剣にだ」
「本当に大変だったんだな」
「なのに何故、お前にはこんなに素直なんだ」
「俺に言われても」
「近くでは大人しくなり」
「うん」
「握られた瞬間だけ、あれほど張り切る」
「…………」
「私の時よりやる気があるように見える」
「知らないって!」
「浮気された顔してるにゃ」
「黒歌!」
「事実を言っただけにゃ」
「ご主人、女性だけじゃなく剣まで落とすんだにゃ」
「落としてない!」
「兄さま」
「白音まで何」
「少し節操がないです」
「剣相手に節操って何!?」
何で聖剣相手に責められてるんだ俺
「…………お前もか」
「ハク?」
「何でもない」
そしてデュランダル
何なんだこいつら
「じゃあ」
その時
祐斗が静かに立ち上がった
「僕のも確認してみようか」
「祐斗まで!?」
「ここまで来たら気になるよ」
「俺はもう帰りたいんだけど」
「駄目よ」
「リアス先輩!?」
「私も気になるもの」
「ご主人、ここまで来て逃げるのは無しにゃ」
「兄さま、あと一つです」
「何で検査メニューみたいになってるの?」
逃げ道がない
祐斗が片手を前へ出す
魔力が集まり
その手の中へ、一振りの剣が形作られていく
聖と魔
本来なら相反する二つを併せ持つ
祐斗自身が生み出した聖魔剣
「これも聖剣側の性質を持っている」
「まあ、そうだな」
「ならハク君へどう反応するか、比べる価値はあると思う」
「…………」
祐斗が聖魔剣を構える
「まず今の状態」
俺から少し離れたところでは、特に変化はない
「じゃあ近付くよ」
「はい」
一歩ずつ近付く
「…………」
「何かある?」
「ある」
祐斗が聖魔剣を見る
「少し力が増してる」
「デュランダルみたいに大人しくは?」
「ならないね」
さらに近付く
聖魔剣から感じる気配が僅かに強くなる
だが
デュランダルとは明らかに違う
「暴れないな」
「うん」
「こっちへ寄ってくる感じもない」
「ないね」
祐斗が柄を握る手を緩めても
聖魔剣は祐斗の手に収まったまま
俺へ向かって動こうともしない
「……ミミックとは全然違うな」
イッセーが肩にいる鳥を見る
ミミックは俺の頬へ
すりっ
「比較対象を見るな」
「分かりやすいだろ」
「分かりやすすぎるんだよ!」
「ご主人のは比較対象として優秀にゃ」
「俺のじゃない!」
祐斗が少し笑う
「じゃあハク君」
「何」
「触れてみる?」
「まだやるの?」
「最後に一回だけ」
「その台詞、今日何回目だ」
それでも
聖魔剣については俺も少し気になった
「……分かった」
祐斗は剣を手放さず
俺へ柄の一部を向ける
指先で軽く触れた
その瞬間
聖魔剣の気配が一段強くなる
「…………」
「上がったね」
「やっぱりか」
聖なる気配だけじゃない
魔の側まで、それに引っ張られるように強くなっている
「でも」
祐斗が聖魔剣を見つめる
「デュランダルとは違う」
「ああ」
「僕の手から離れようとはしない」
「…………」
祐斗が小さく笑う
「これは僕の剣だからね」
「祐斗」
「ハク君に反応はしてる」
聖魔剣を軽く掲げる
「力も普段より出てると思う」
「でも祐斗の剣であることは変わらない?」
「うん」
即答だった
「その点は、はっきり分かる」
「…………そっか」
何となく
少し安心した
祐斗が過去と向き合い
仲間達の想いを抱えて
自分自身の答えとして生み出した剣
それが俺を見て簡単に祐斗から離れる方が、よほど嫌だった
「じゃあ」
ゼノヴィアが口を開く
「私のデュランダルだけ、ハクに妙に素直だと?」
「その言い方もやめろ!」
「だが今の比較では」
「言うな!」
「ミミックはもう完全にご主人側にゃ」
「黒歌まで!」
「兄さまの肩に居座ってますから否定しづらいですね」
「白音!」
すりすり
「お前は祐斗の聖魔剣を見習え!」
「誰に言ってるんだ、ハク」
「こいつだよ!」
肩のミミックを指差す
ミミックは全く悪びれる様子もなく
ぴい
と一声鳴いた
「返事したぞ」
「イッセー黙れ!」
部室に笑い声が広がる
けれど
分かったこともある
ミミックは俺へ露骨に懐く
デュランダルは俺が近くにいると大人しくなり、実際に握ると逆に異常なほど力を出す
祐斗の聖魔剣も俺へ反応し、力は増す
それでも祐斗の手から離れようとはしない
そして
それ以前にも
どいつもこいつも俺に反応する
なのに
そのやり方は全部違う
「……何なんだろうな」
「ハクにも分からないの?」
「分かったら苦労してない」
俺の肩では
ミミックが満足そうに羽を畳んでいる
「とりあえず」
リアス先輩が全員を見る
「今日分かったことは、聖剣や聖なる性質を持つ剣が、ハクに対して何かしら特別な反応を示している」
「ただし、全部同じ反応ではない」
祐斗が続ける
「そういうことね」
「…………」
嫌な予感しかしないまとめだ
『ねえハク』
「何、イリナ」
そういえばまだ電話繋がってた
『ミミック、どう?』
「どうって」
肩を見る
すりっ
「…………帰る気ない」
『だよね』
「諦めるなよ!」
『じゃあしばらくお願いね!』
「待てイリナ!」
『また連絡するから!』
「おい!」
プツッ
「…………」
切られた
「ご主人、捨て猫ならぬ捨て聖剣を拾っちゃったにゃ」
「拾ってない」
「向こうから来ましたね」
「白音、正論やめて」
「ハク」
「何、クオン」
「一緒に帰ろ?」
「うん」
「その子も」
「…………」
肩を見る
ミミックが俺を見る
「…………お前も来るの?」
ぴい
「返事すんな」
「完全に連れて帰る流れだな」
「イッセー」
「何だよ」
「代わる?」
「嫌だ」
「即答すんな!」
「ご主人、諦めるにゃ」
「兄さま、今日はもう諦めましょう」
「何で二人とも俺を説得する側なんだよ……」
結局
その夜もまた
俺は一つ余計なものを連れて家へ帰ることになった
……いや
肩に乗ってるだけだから、連れていると言うべきなのか
そういう問題じゃない
部室を出ようとして
俺は肩のミミックを見る
「…………なあ」
ミミックがこちらを見る
「せめて部屋から出る時は、紐かなんかになってくれ……」
ぴぃ
─────────────────────────
それから数日後
俺は駅前の商店街を歩いていた
今日は特に用事があるわけでもない
病院で検査され
聖剣に懐かれ
デュランダルまで妙なことになった
ここ数日で俺の胃にかかった負担を考えれば、たまには何も考えず食べ歩きする日があってもいいだろう
「うん、美味い」
買ったばかりの揚げ物を一口齧る
こういうのでいいんだよ
こういう普通の休日で
「…………」
ふと右手首を見る
細い紐のようなものが巻き付いている
あの夜
せめて外へ出る時くらい紐になってくれと頼んだら、本当に紐になった
そこは言うこと聞くんだな、お前
まあ
鳥の姿で肩に乗られるより百倍マシだ
今日は平和だ
少なくとも今のところは
「なぁ、そこのおにーさん」
「…………ん?」
背後から声をかけられた
女の子の声だ
それも
「…………」
何だろう
今
ものすごく聞き覚えのある声だった気がする
「おにーさん?」
もう一度声がする
気のせいじゃない
この声
いや
まさか
ゆっくり振り返る
「ちょっとええ?」
「…………」
そこにいたのは
俺と同じくらいの年頃の女の子だった
長い髪
整った顔立ち
どこか品のある雰囲気
それなのに表情は随分と人懐っこい
「…………」
「ん~?」
女の子が首を傾げる
俺も黙る
女の子も俺を見る
そして
「あやや」
「何」
「後ろから見た時は、えらい格好ええ人やなぁって思ったんやけど」
「…………」
女の子が俺の顔をじっと見る
「前から見ると、案外ふつうなんやねぇ」
「初対面でいきなり失礼だな!?」
「ほえ?」
何でそっちが不思議そうなんだよ
「ごめんなぁ、思ったことそのまま言うてもうたわ」
「謝る気ある?」
「あるよ?」
「その顔で?」
「あるある」
「軽いな!」
…………待て
この声
この顔
この喋り方
この妙に遠慮がないのに悪意が一切ない感じ
「…………」
嫌な汗が出てきた
「おにーさん?」
「…………いや」
似てる
似てるなんてもんじゃない
声が似てる
見た目も似てる
性格まで似てる
これ
どう見ても
アトゥイそっくりじゃねぇか!!
「うっ……」
胃が
俺の胃が
「ほえ?」
女の子が目を丸くする
「おにーさん、どしたん?」
「ちょっと胃が」
「急に?」
「急に」
「大丈夫なん?」
「多分」
「病院行った方がええんちゃう?」
「病院はもうしばらくいい」
「?」
心配そうに覗き込んでくる
やめて
その顔でその声で心配しないで
さらに一致度が上がるから
「まあええか」
「切り替え早いな!?」
「おにーさん元気そうやし」
「今胃を押さえてるんだけど」
「声は元気やえ?」
「そういう問題じゃない!」
女の子はくすっと笑うと
「それでな、おにーさん」
「ん?」
「ちょっと道を尋ねたいんやけど、いいけ?」
「ああ、それなら」
なるほど
道案内か
それなら普通だ
今度こそ普通だ
「ウチ、今日からこっちで暮らすことになってるんよ」
「引っ越しか」
「そうそう」
女の子の足元を見る
確かに大きめのキャリーケースが置いてある
「せやけど、駅からどう行ったらええんかよう分からんくてなぁ」
「住所分かる?」
「うん、あるんよ」
女の子がスマホを取り出す
「これなんやけど」
「どれどれ」
画面を見る
「…………」
「おにーさん?」
「…………」
もう一回見る
町名
番地
間違いない
「…………は?」
「ほえ?」
「いや」
スマホを見る
女の子を見る
もう一度スマホを見る
「…………これ」
「うん?」
「俺の家の住所なんだが?」
「…………」
「…………」
「ホントけ?」
「ホントだよ!」
「ほえ~」
女の子が俺と画面を交互に見る
「じゃあ、おにーさんそこに住んでるん?」
「住んでる」
「ほんなら話早いなぁ」
「俺の理解が全然追いついてない!」
何で
何で知らない女の子が
今日から
俺の家に
引っ越すことになってるんだ
…………待て
嫌な予感がする
このパターン
最近何度目だ?
「ちょっと待って」
「ん?」
「確認する」
「何を?」
「色々」
携帯を取り出す
母さん
頼む
何かの間違いであってくれ
呼び出し音が数回鳴り
『もしもし、ハク?』
「母さん」
『どうしたの?』
「今、駅前にいるんだけど」
『うん』
「女の子に道を聞かれた」
『あら』
「今日からこっちに引っ越してくるらしい」
『そうなの』
「その住所が」
一度スマホの画面を見る
「うちなんだけど」
『…………』
「母さん?」
『…………その子、名前は?』
「まだ聞いてない」
「あ」
女の子が手を上げる
「そういやまだ名乗ってへんかったなぁ」
「そうだった」
女の子がにこっと笑う
「ウチ、
「…………」
『ああ、
「知ってるの!?」
『もちろんよ?』
「何で!?」
『だって今日からうちで暮らすんだもの』
「それを今確認してるんだよ!」
『あら?』
「俺、何も聞いてないんだけど!」
『…………』
「…………」
『…………あ』
「今の間は何!?」
『そういえば』
「そういえば?」
『ハクに言うの忘れてたわ』
「一番最初に言えよ!!」
駅前で思いっきり叫んだ
通行人がこっちを見る
「ご、ごめんなさい」
頭を下げる
電話の向こうでは母さんが普通に続けている
『だって、
「俺以外の家の連中全員知ってるじゃねぇか!」
『あはは』
「笑うな!」
『ごめんごめん』
「絶対反省してないだろ!」
『でもちょうどよかったじゃない』
「何が!」
『
「会ったけど!」
『じゃあそのまま連れて帰ってきて』
「話が早すぎる!」
『
「…………」
『こっちで暮らす場所を探してるっていうから、うちで預かることになったの』
ああ
そういうことか
母さん達は、
それなら、うちで預かる話になっていても不思議じゃない
不思議じゃないんだけど
それを俺に言ってないのは別問題だ
「それでも俺には言えよ」
『忘れてた♪』
「可愛く言っても駄目だからな!?」
『じゃあよろしくね~』
「待て母さん!」
プツッ
「…………」
切られた
「…………」
最近このパターン多くない?
「おにーさん」
「何」
「大丈夫?」
「何が?」
「また胃ぇ押さえてるえ?」
「気にしないで」
「さっきより痛そうやけど」
「気にしないで!」
「ホントけ?」
「ホント」
多分
きっと
おそらく
「そういや」
「おにーさんの名前、まだ聞いてへんかったなぁ」
「ああ」
「何ていうん?」
「
「ハク?」
「そう」
「へぇ~」
「ええ名前やねぇ」
「どうも」
「ほな、これからよろしゅうなぁ、おにーさん」
「名前聞いた意味は?」
「あるよ?」
「じゃあ何でおにーさんのままなんだよ」
「そっちの方が呼びやすいんやもん」
「……好きにして」
「うん、そうする」
即答だった
強い
こういうところまで似てる
頼むからこれ以上一致しないでくれ
「じゃあ行くか」
「一緒に来てくれるん?」
「行き先が俺の家だからな!」
「それもそうやねぇ」
キャリーケースへ手を伸ばそうとすると
「ええよ、ウチ持てるから」
「そう?」
「これくらい平気平気」
「ならいいけど」
無理に持つ必要もない
そのまま二人で歩き出す
「そういえば、おにーさん」
「今度は何」
「この辺って美味しいもん多いん?」
「何で?」
「さっきから、ええ匂いするなぁって」
「まあ、駅前は結構あるな」
「ホントけ?」
食いついた
ものすごく食いついた
「おすすめある?」
「あるけど」
「教えてくれへん?」
「今から?」
「駄目?」
「荷物あるだろ」
「ちょっとくらいなら平気やえ?」
「…………」
新居へ向かう途中で食べ歩きを始める気か
こいつ
自由だな
「今日は家に着いてからな」
「ん~」
「荷物置いてからなら案内する」
「ホント?」
「ああ」
「ありがとうな~、おにーさん」
機嫌良さそうに笑う
「…………」
やっぱり
似てる
声も
見た目も
性格も
喋り方も
アトゥイそっくりだ
偶然
偶然だよな?
頼むから偶然であってくれ
「おにーさん?」
「何」
「また胃ぇ痛いん?」
「…………少し」
「やっぱ病院行った方がええんちゃう?」
「だから病院はもういいって!」
そんなやり取りをしながら歩き
しばらくして大神家へ着いた
「ここなん?」
「ああ」
「ふわ~」
「思ってたより大きい家やねぇ」
「まあ、無駄に広いから」
「隣のあれ、道場なん?」
「そう」
「へぇ~」
興味深そうにあちこちへ視線を動かしている
「とりあえず入ろう」
「うん」
玄関へ向かう
すると
「ん?」
玄関前に人影があった
ちょうど呼び鈴へ指を伸ばそうとしている
「クオン?」
「ん?」
声を掛けると、その人影が振り返った
「ハク」
クオンだった
「お帰り」
「ただいま、遊びに来たの?」
「うん、今ちょうど鳴らそうとしてたところ」
「そっか」
その時
「ほわわ……」
「ん?」
隣から声が漏れた
見ると
「すごい別嬪さんやなぁ……」
「え?」
クオンが少し目を丸くする
すぐ俺へ顔を向けた
「なぁなぁ、おにーさん」
「何」
「この別嬪さん、おにーさんの知り合いなんけ?」
「ああ」
「クオンっていって、隣に住んでる友人」
「ふぅん」
「ハク」
今度はクオンが俺を見る
「その人は?」
「俺もさっき会った」
「…………」
「…………」
「ハク」
「何」
「それじゃ何も分からないよ?」
「……だよな」
「ちゃんと説明して」
「はい」
何故か怒られた
「今日からうちに住むらしい」
「…………え?」
「道聞かれて、住所見せてもらったらうちだった」
「…………」
クオンが俺を見る
「ハク、知らなかったの?」
「知らなかった」
「叔母さまから連絡は?」
「家の連中にはしてたらしい」
「…………」
「笑うなよ」
「まだ笑ってないよ?」
「口元」
「ふふっ」
「笑ってるじゃん!」
横からくすくすと笑い声が聞こえた
「あ、ごめんなぁ」
「ウチ、
にこっと笑い
「ウチ、今日からここでお世話になるんよ、よろしゅうなぁ」
「
クオンも柔らかく笑う
「こちらこそよろしくね、
「クオンさんやね」
「うん」
「よろしゅうなぁ」
「何か困ったことがあったら言ってね、
「ホントけ?」
「うん」
「ありがとうなぁ」
初対面とは思えないくらい自然に会話している
「…………」
俺は二人を見る
クオン
その隣に
声も
顔も
雰囲気も
喋り方も
アトゥイそっくりの
「…………うっ」
「ハク?」
「おにーさん?」
二人が同時にこっちを見る
「何でもない」
「また胃?」
「また胃なん?」
「だから同時に聞くな……」
何だこれ
何なんだこの光景
見覚えがあるとかいう次元じゃないぞ
「なぁなぁ、おにーさん」
「…………何」
「ちょっと聞いてええ?」
「嫌な予感するけど、どうぞ」
「何で?」
「気にしないで」
その顔が妙に楽しそうなのが余計に嫌だ
「もしかしてなんやけど」
「うん」
「クオンさんとおにーさんって」
「…………」
待て
その先は
まさか
「恋人同士だったりするんけ?」
「「違う!」」
声が重なった
「…………」
「…………」
「…………」
沈黙
それから俺とクオンをもう一度見比べた
「ホントけ?」
「本当」
「本当だよ」
「ふぅん」
まだ見ている
「何」
「いやぁ」
「ずいぶん息ぴったりやなぁって」
「たまたま」
「そうかな?」
「クオン!?」
「え?」
「そこで疑問形やめて!」
クオンが口元を押さえる
「でもハク」
「何」
「同時だったよ?」
「そこは否定するとこだろ!」
「だって本当だし」
「…………」
また胃が
「でもホントにちゃうのん?」
「違う」
「そうなの?」
「そう!」
「へぇ~」
何だその納得してない顔
「てっきりアツアツなんかと思ったんやけどなぁ」
「何を見てそう思ったの!?」
「何となく?」
「何となくで人をカップルにするな!」
「でも」
「さっきからクオンさん、おにーさんのことよう見てるし」
「えっ」
「ほら」
クオンの動きが止まった
「…………」
「クオン?」
「…………何かな?」
「こっち見て」
「見てるよ?」
「目が泳いでる」
「泳いでないよ?」
「泳いでるって」
「気のせいかな」
「絶対違う」
「ほえ~」
「
「だってなぁ」
「もしそうなら、色々聞いてみたかったんよ」
「何を」
「恋人同士ってどんな感じなんかなぁ、とか」
「…………」
「どうやったらそういう仲になるんかなぁ、とか」
「…………」
「今後の参考に」
「何の参考だよ!」
「恋の参考?」
「疑問形で言うな!」
「ウチ、一回くらい火傷するような恋してみたいんよ」
「…………」
出た
そこまで似るのか
本当にそこまで言うのか
「ハク?」
「おにーさん?」
「俺の胃に追撃しないで……」
「何で!?」
「何でかな?」
「クオンまで!?」
「変なおにーさんやねぇ」
「今日会ったばかりの相手に言われたくない!」
「でも親切やえ?」
「…………」
「道も案内してくれたし」
にこっと笑う
「ええヒトやねぇ、おにーさん」
「…………そういうの急に入れてくるのやめて」
「ほえ?」
「胃に効く」
「やっぱり病院行く?」
「行かない!」
クオンが横で吹き出した
「ふふっ」
「クオン!」
「ごめん、ハク」
「絶対楽しんでるだろ!」
「そんなことないよ?」
「顔!」
俺の胃は痛い
クオンは笑ってる
「…………」
この二人を並べたら駄目だ
俺の精神衛生上
非常に良くない
「と、とりあえず」
玄関を見る
「中入ろう」
「うん」
「ほんなら」
「ん?」
「今日からよろしゅうなぁ、おにーさん」
「……こちらこそ」
クオンが俺の横へ並ぶ
「ハク」
「何」
「胃、大丈夫?」
「今それ聞く?」
「心配してるんだよ?」
「半分くらい笑ってるだろ」
「半分だけかな?」
「認めるな!」
もう嫌だ
早く中に入ろう
これ以上玄関前で胃を削られてたまるか
そう思いながら
俺は玄関の扉を開けた
「ただいま」
「お邪魔します」
クオンが俺の後ろから続く
「お帰りにゃ、ご主人」
真っ先に黒歌の声が返ってきた
「お帰りなさい、兄さま」
「お兄ちゃん、お帰り」
「お帰りなさい、ハクさん」
白音
全員いる
「クオンも来たにゃ」
「うん、玄関前でハク達と会って」
「達?」
黒歌が首を傾げ
俺の後ろを見る
「えっと」
「ウチ、今日からここでお世話になるんよ、よろしゅうなぁ」
「あ」
黒歌が手を叩く
「
「無事に着いたんですね」
白音が続く
「お兄ちゃんが連れてきたんだ」
「良かったです」
「…………」
俺は全員を見る
「…………何で知ってるの?」
「お母さんから聞いてたにゃ」
「私もです」
「私も」
「私も聞いていました」
「…………」
家の連中
全員知ってる
本当に
住んでる俺だけ知らなかった
「ご主人」
「何」
黒歌がにやにやしながら俺を見る
「もしかして、ご主人だけ知らなかったにゃ?」
「そうだよ!」
「兄さま」
「何!」
「それは少し可哀想ですね」
「少し!?」
「お兄ちゃん」
「今度は何!」
「家のことなんだから、ちゃんと聞いといた方がいいと思う」
「聞かされてないんだよ!」
「ハクさん……」
「お疲れさまです」
「その優しさが一番刺さる!」
「ふふっ」
後ろでクオンまで笑っている
「クオンまで笑うな!」
「ごめん、ハク」
全然悪いと思ってない顔だった
「ほえ~」
「おにーさん」
「…………何」
「ホントにおにーさんだけ知らんかったんやねぇ」
「確認するな!」
「ちょっと可哀想やなぁ」
「お前まで追撃するな!!」
胃を押さえる
駅前で声をかけられてから
何度目だろう
もう数える気にもならない
「兄さま」
「まだ何かあるの!?」
白音が俺の右手首を見る
「今回は人なんですね」
「比較対象を聖剣にするな!!」
ぴぃ
「お前も返事すんな!!」
「ほえ?」
「今、紐が鳴いたん?」
「気のせい!」
「ご主人」
「何!」
「また増えたにゃ」
「言うなぁぁぁぁぁぁ!!」
その日
俺の胃は
玄関を越えたところで完全に力尽きた
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
今回は聖剣編が終わった後の幕間でした
クオン達の検査をしたり
聖剣達がおかしなことになったり
新しく
幕間のはずなのに、ハクの周りだけは相変わらず平和になりませんでしたw
そして最近、お気に入りに登録してくださる方も増えているようで、本当にありがとうございます!
更新するたびに読んでくださっている方がいるんだなぁと思うと、かなり励みになっています
実際、そのおかげで
「よし、今日も更新しよう」
って気持ちになれていて、なんだかんだ毎日更新を続けられていますw
感想欄で「ここ好きだった」とか「こいつまた胃やられてるなw」みたいな一言を見かけたり、評価の数字がこっそり増えてたりすると、作者が画面の前でかなり喜びますw
もちろん、読んでもらえるだけでも十分嬉しいです!
さて
幕間も終わったところで、次からはいよいよ次の話へ進んでいきます
聖剣編で色々と原作からズレ始めたこの世界が、この先どうなっていくのか
引き続き楽しんでもらえたら嬉しいです!
それでは、また次回!