……ただし、平和に泳ぐだけで終わるとは言ってません
扉を開けると、最初にこちらへ気付いたのは
「ご主人、来たにゃ」
「兄さま、お疲れさまです」
「ハク、来たんだね、今日は一緒なんだ」
「うん、お邪魔するんよ」
イッセー、アーシア、ゼノヴィア、クオン、
「来たわね、ハク」
「はい」
リアス先輩が立ち上がり、俺から
「その子が
「はい」
「ウチ、
「リアス・グレモリーよ、このオカルト研究部の部長をしているわ、よろしく」
「リアスはん、よろしゅうなぁ」
続いて朱乃がいつもの柔らかい笑みを浮かべる
「姫島朱乃ですわ、よろしくお願いしますね」
「朱乃はん、よろしゅうなぁ」
「僕は木場祐斗、同じ二年生だよ、よろしく」
「祐斗はんも、よろしゅうなぁ」
一通り挨拶が済むと、リアス先輩に勧められた
「それでハク、昼休みの連絡では詳しい話は来てからすると言っていたわね」
「はい、昨日までは俺も
「事情?」
「昨日、家に帰ってから道場でいつもの手合わせをしてたんです、俺とクオン、
「見てたらやりたくなったんよ」
横から本人があっさり付け足してくる
「それで俺とも手合わせすることになって、最初は素手だったんですけど、途中から木槍も使いました」
「槍?」
イッセーが
「お前、槍使うのか?」
「うん」
「槍捌きだが俺が少しだけ速度を上げないといけないぐらいうまかった」
「まじか!?」
イッセーはそれで納得したらしく、すぐ俺へ視線を戻した
「で、ハクがそこまで言うってことは、それだけじゃないんだろ?」
「ああ、武術を習ってるだけってていう動きじゃなかった」
リアス先輩達の視線が
「それで今日の昼休みに確認したんです、潮路家が裏の仕事に関わっていること自体は前から知ってましたけど、こいつ自身も現場へ出てました」
「ウチも家の仕事やってるんよ」
「相手は?」
リアス先輩が尋ねる
「異形とか、そういうのやねぇ」
「狩る側として?」
「そうなんよ」
本人にとっては、わざわざ隠すことでも自慢することでもないらしい
俺は親同士が異形狩りの方面で繋がっていることまでは知っていたけど、
「ハク、お前そこまでは知らなかったんだな」
「親同士が知り合いだからって、その家の仕事を全部聞いてるわけじゃないからな」
「それもそうか」
「おにーさん、ホントけ?」
「本当だよ」
「うひひ」
「何で笑う」
「おにーさんにも知らないことあるんやねぇ」
「俺を何だと思ってるんだ」
「おにーさん?」
「……そのままだな」
何も間違ってないのが腹立つ
「でも昨日、途中から二人とも楽しそうだったよね」
クオンが笑いながら口を挟んでくる
「クオン、見てたなら分かるだろ、あれは手合わせだ」
「木槍まで使ってたけど?」
「木槍だからいいんだよ」
「そういう問題かな?」
「多分な」
「おにーさん、またやってくれへん?」
「話が終わってから考える」
「ホントけ?」
「考えるだけな」
「うん」
何でそれだけで嬉しそうなんだ
「なるほどね」
リアス先輩が少し考えたあと、
「ハクがあなたをここへ連れてきた理由は分かったわ、裏の世界そのものを知らない一般人というわけではないのね」
「うん」
「ただ、駒王町の事情についてはほとんど知りません、三勢力って言葉は父親から聞いた覚えがあるそうですが、詳しい内容までは知らない、グレモリーも知らなかった、悪魔の眷属や悪魔の駒についても知らない、昼休みに確認したのはその辺りまでです」
「ん~……三勢力っていうんも、
「そうなのね、それならまず、この町と私達について説明した方がよさそうね」
リアス先輩が
「この駒王町は悪魔側の管理地域で、私はこの町を任されている上級悪魔よ」
「リアスはんが?」
「ええ」
「ほえ~」
「……何かしら?」
「悪魔って聞いてた感じと全然違うなぁって」
「どんなものを想像していたの?」
「ん~……角とか?」
少し考えたあと、
イッセーが思わず笑いそうになって、口元を押さえた
「何よ、イッセー」
「いや、すみません部長、俺も何も知らない頃なら似たようなの想像したかもなって」
「あなたの場合は否定しづらいわね」
「ですよね」
「うひひ」
異形を相手にした経験はあっても、裏世界の種族や政治事情まで詳しいわけじゃない、その辺りは昼休みに聞いた通りだ
「少なくとも、私達はあなたが想像していたような姿ではないわね、そして悪魔には自分の眷属を持つ仕組みがあるの」
「眷属?」
「ええ、そのために使われるのが悪魔の駒よ、チェスを元にした特殊な駒で、眷属となった者にはそれぞれ役割が与えられるわ」
「チェスなん?」
「そうよ」
「へぇ~」
怖がるより先に興味が勝ったらしく、
「で、誰が眷属なん?」
「朱乃、祐斗、イッセー、アーシア、ゼノヴィアは、私の眷属よ」
そこで
「イッセーはん達もなん?」
「おう、俺も部長の眷属だ」
「昨日は普通に学校で話してたんよ」
「学校じゃ普通の生徒だからな、裏じゃ悪魔だけど、それで俺が急に別人になるわけじゃないし」
「ほえ~」
しばらくイッセーを眺めたあと、今度はアーシアを見る
「アーシアはんもなん?」
「はい、私も部長さんの眷属です」
「そうだったんやねぇ」
続いてゼノヴィアへ視線が移る
「ゼノヴィアはんも?」
「ああ、私もリアスの眷属になった」
「ほえ~」
三人を順番に見たあと、
「でも、思ってたより普通なんやなぁ」
「普通って言われると、それはそれで変な感じするな」
イッセーが笑う
「昨日と何も変わってないんよ」
「まあな、悪魔だって分かったからって性格まで変わるわけじゃない」
「ええ、この子達自身が変わるわけではないわ」
「なら別にいいんよ」
「じゃあ、おにーさんも悪魔なん?」
「違う」
「ほえ?」
「俺は悪魔じゃない」
「じゃあ、
「
「じゃあ、
「私と
「猫又」
「そうだにゃ」
「そうだったんやねぇ」
「驚かないのですか?」
「ん~? 昨日一緒に道場にいたからなぁ」
「それは関係あるのでしょうか?」
「ん~……」
今度は本人が考え込んだ
「分からなくなってるじゃないか」
「うひひ」
部室に小さな笑いが起きる
悪魔、その眷属、猫又、そして少なくともそのどれにも当てはまらない俺とクオン
昨日まで
「これで、この部室にいる人達については大体分かったかしら?」
「うん、思ってたより色んな人がいるんやねぇ、ただ三勢力っていうんはまだよく分からないんよ」
「それについては――」
「部長、その前に俺から昨日の仕事の報告していいですか?」
リアス先輩が話を続けようとしたところで、イッセーが手を上げた
「三勢力の話にも関係あると思うんで」
「ええ、聞かせて」
さっきまでの軽い空気が少しだけ変わり、イッセーも姿勢を正す
「昨日の契約相手なんですけど、グリゴリの総督、アザゼルでした」
部室が一瞬静かになった
「アザゼルが?」
「はい」
リアス先輩の声が低くなる
「契約内容自体はゲームの相手でした、最初は普通の契約者だと思ってたんですけど、途中で向こうが俺を
「そこで警戒したのね」
「はい、普通の契約者が知ってるようなことじゃないんで、その場で何者なのか確認しました」
「それで自分から名乗った?」
「そうです、アザゼルって名前と立場自体は前に聞いて知ってましたけど、そこで初めて知ってた名前と目の前のおっさんが繋がりました」
イッセーはそこで少しだけ苦笑する
「それと、俺、ガキの頃にもあのおっさんと一回会ってたんです」
「え?」
アーシアが目を丸くする
「イッセーさん、昔からアザゼルさんとお知り合いだったんですか?」
「知り合いってほどじゃないよ、本当に一回、公園でぶつかっただけなんだ、顔見た時から何となく引っ掛かってたんだけど、正体が分かってやっと思い出した」
「随分昔のことですものね」
朱乃が少し驚いたように言う
「俺も完全に忘れてたからな」
「それで、アザゼルはあなたに何かしたの?」
「特には何も、ゲームして話したくらいです」
リアス先輩が少し考え込む
グリゴリの総督が
それだけなら、かえって目的が見えづらい
「ただ、途中でハクを呼んだんです」
一斉に視線が俺へ向いた
「ハクを?」
「はい、オシュトルとして」
リアス先輩が俺を見る
「聞いてないわよ」
「今から話そうと思ってました」
「昼休みに連絡した時に一言くらい言えたでしょう?」
「……それはすみません」
「まあいいわ、続けて」
「そのあとハクが来たところまでは俺も見てましたけど、本題に入る前に帰されたんで、そこから先は知りません」
イッセーが俺を見る
「そこはハクから聞いた方が早い」
「ああ」
「オシュトル?」
それまで黙って聞いていた
「なぁなぁ、おにーさん」
「なんだ」
「オシュトルって誰なん?」
「俺だ」
「ほえ?」
「裏の世界で使ってる名前だと思ってくれ」
「おにーさんが?」
「ああ」
「なんで名前二つあるん?」
「色々あってな」
「また色々なん?」
「また色々だ」
「おにーさん、色々多いなぁ」
「俺もそう思う」
本当に全部説明し始めたら、それだけで今日の部活が終わる
「簡単に言えば、ハクは裏の世界ではオシュトルという名で動くことがあるの」
リアス先輩が補足すると、
「じゃあ、おにーさんがオシュトルなんやねぇ」
「そういうことだ」
「もっと聞いていいけ?」
「今全部は無理だ」
「じゃあ後で教えてくれへん?」
「話せる範囲ならな」
「うん」
こういう時、無理に食い下がってこないところは助かる
「それでハク、アザゼルから何を聞いたの?」
「三勢力会談のことです、近いうちに会談が開かれることと、俺もオシュトルとして呼ばれていること、それから詳しい話はまた後日と」
「そう、ならちょうどいいわね」
リアス先輩が全員を見る
「三勢力というのは、悪魔、天使、そして堕天使、この三つの勢力を指す言葉よ」
「その三つで三勢力なんやねぇ」
「ええ」
「
「可能性はあるわね」
「三勢力は長い間、互いに敵対してきた」
ゼノヴィアが静かに口を開く
「天使、堕天使、悪魔、それぞれに事情も考え方も違う」
「今も敵同士なんけ?」
「全面戦争をしているわけではないわ」
リアス先輩が答える
「でも対立そのものが完全に消えたわけでもないし、今回のコカビエルの一件はその均衡を崩しかねない事件だった、その件も含めて今後について話し合うため、三勢力の代表が集まることになったの」
「なるほどなぁ」
リアス先輩はそこで一度言葉を切り、自分の眷属達へ視線を向ける
「それから、私、朱乃、祐斗、イッセー、アーシア、ゼノヴィアはコカビエル事件の参考人として会談へ呼ばれているわ」
「俺達もですか?」
「ええ、あなた達は実際に現場にいたでしょう?」
イッセーはすぐに頷いた
「じゃあ、俺達が見たことや、その時の状況を説明すればいいんですね」
「そういうことよ」
「分かりました」
そこまで聞いたところで、
「じゃあ、おにーさんも悪魔側なんけ?」
「いや、俺は違う」
「ちゃうのん?」
「ああ、俺は少し扱いが別だ」
「アザゼルからは、俺も当事者として正式に呼ばれてると言われた、しかも
「当事者として?」
祐斗が聞き返す
「ああ、事件の説明だけなら参考人でもいいはずだからな、俺が確認したいのは、向こうが会談の席でオシュトルに何を求めてるのかって方だ」
「なるほど、そこはまだ分からないんだね、ハク君」
「アザゼルにもそこまでは聞いてない」
俺がコカビエルの一件に直接関わり、それ以前からアザゼルやバラキエル、グリゴリとも付き合ってきた以上、三勢力から見て完全な部外者じゃないことくらいは分かる
問題は、わざわざ当事者として席を用意した理由の方だ
「それともう一つ」
俺は少しだけ息を吐く
「どうも俺は三勢力から見ると、ほぼ完全に堕天使側の人間として見られてるらしい」
「…………は?」
イッセーが止まった
「待てハク、お前グリゴリに入ったのか?」
「入ってない」
「だよな?」
「ああ、俺もアザゼルにそう言った、向こうも所属させた覚えはないってさ」
「じゃあ何で堕天使側なんだよ」
「実際に所属してるかと、周りからどう見えるかは別なんだと」
昔からアザゼルと付き合いがある、バラキエルとも関係がある、グリゴリの施設にも出入りして、その上でコカビエルを止めた
そこまで並べたところで、イッセーも察したらしい
「……外から見たら、勝手に動いたコカビエルをアザゼルの指示でオシュトルが止めたように見えるのか」
「そういうことらしい」
「理屈は分かるけど……ハク、お前いつの間に堕天使側になったんだよ」
「俺が聞きたい」
分類される理由そのものは分かるし、アザゼルの説明にも筋は通っている
ただ、いつの間に所属まで決まったみたいな扱いになったんだ、という話だ
「事情を知らない者から見れば、不自然ではないな」
ゼノヴィアが腕を組む
「普段からグリゴリとの繋がりがあるオシュトルが、独断で動いたコカビエルを止めた、総督側が処理したと受け取る者がいてもおかしくない」
「分かってるから綺麗に整理しないでくれ」
「事実を確認しただけだ」
「その事実が今ちょっと刺さってる」
「おにーさん」
「今度はなんだ」
「おにーさん、堕天使なん?」
「違う」
「ほえ?」
「違う」
念のためもう一度言った
「でも堕天使側なんけ?」
「そこがややこしいんだよ」
「ほえ~……」
納得したのかしてないのか分からない顔だな
「でも、ハクさんが堕天使側だと思われているのは少し不思議ですね」
アーシアが困ったように言う
「ありがとうアーシア、今はその反応がありがたい」
「ですが、アザゼルさんとは昔からお知り合いで、グリゴリの施設にも行かれて、コカビエルさんも止められたんですよね?」
「……アーシア」
「はい?」
「今はそこまで綺麗に並べなくていい」
「あっ、す、すみません!」
「いや、アーシアは悪くない、悪いのは俺の経歴だ」
隣を見ると、クオンまで少し笑っている
「クオン」
「なに?」
「その顔は何だ」
「
「言ってないから余計に分かるんだよ」
「ふふっ」
……まあいい
side out ハク
─────────────────────────
side in アザゼル
「あ、
side out アザゼル
─────────────────────────
side in ハク
その時、ポケットの中で携帯が震えた
画面を見る
アザゼル
…………このタイミングでか
「もしもし」
『おう、悪い、一つ言い忘れてた』
「何ですか?」
『会談には
「クオンも?」
思わず隣を見ると、クオンが自分を指差した
「
「ああ」
『コカビエルの時、お前の指示でグレモリー眷属を退避させただろ、あの時の状況説明が要る』
「……なるほど」
それなら理由はすぐ分かった
クオンは俺の指示でリアス先輩達を退避させ、事件の現場で実際に動いている
『あと、扱いはお前と同じでこっち側だ』
「……はい?」
『外から見りゃ、オシュトルの指示で動いた協力者だからな、堕天使側扱いになる』
俺は無言でクオンを見る
向こうも嫌な予感がしたらしく、僅かに眉を寄せた
「クオン」
「なに?」
「お前も堕天使側らしい」
「……
「らしい」
「どうして?」
「コカビエルの時、俺の指示でリアス先輩の眷属達を退避させただろ」
「ああ……外から見ると、ハクの指示で動いてたから?」
「そういうことだと」
クオンは少し考えたあと、あっさり頷いた
「じゃあ仕方ないかな」
「受け入れるの早いな」
「だって実際、ハクの指示で動いたのは本当でしょう?」
「……そうなんだけどな」
『じゃあ伝えたからな』
「ちょっと待ってください」
『なんだ?』
「何で昨日言わなかったんですか」
『忘れてた』
「…………」
『じゃあな』
切れた
俺は数秒、無言で携帯を見る
「忘れてたって」
「アザゼルさんが?」
「ああ」
「今分かったならいいんじゃないかな」
「クオンは心広いな」
「そう?」
俺はそこまで広くなれそうにない
「つまり」
イッセーが俺と
「ハクは当事者として堕天使側、
「そういうことらしい」
「結構ややこしいな」
「俺もそう思う」
「ちなみに」
そこで
「私と
「お二人にもですか?」
アーシアが聞く
「そうだにゃ」
「私達はリアス先輩の眷属ではありませんが、コカビエルの一件では皆さんと一緒に戦っていますから」
二人もリアス先輩の眷属ではないけど、あの場で悪魔側と共闘した事件関係者ではある
「
「そういうことだにゃ」
「結構な人数になるな」
イッセーが呟く
「それだけ大きな事件だったってことだろ」
「まあ、それもそうか」
「なぁなぁ」
「どうした?」
「ウチは呼ばれてないんけ?」
「昨日転校してきたばっかりのお前が呼ばれてたら、そっちの方が怖い」
「それもそうやねぇ」
そこだけは平和だな
「リアスはん達は悪魔で、イッセーはん達は眷属で、
「
「そうみたい」
クオンが少し困ったように笑う
「おにーさんも?」
「俺もだよ」
「ややこしいなぁ」
「それは俺も否定出来ない」
今日だけで一気に説明したにしては、大体整理出来てる方だと思う
「それでハク、会談には出るつもりなのね?」
リアス先輩が確認してくる
「出ますよ、コカビエルの件にも直接関わってますし、オシュトルとして正式に呼ばれてるなら断る理由もありません、ただ会談までに向こうが俺へ何を求めてるのかは確認しておきたいです」
「分かったわ」
「クオンも、話す内容は一度整理しておいた方がいいな」
「うん、覚えてることはまとめておくよ」
「僕達もですね、部長」
祐斗が言うと、リアス先輩が頷く
「ええ、事件当日のことをそれぞれ整理しておきましょう」
「俺も帰ったら一回まとめとくよ、会談の場で話が前後しても面倒だし」
「頼む」
「おう」
話がまとまりかけた、その時だった
部室の床へ大きな魔法陣が広がった
赤い光が室内を照らし、それまで座っていたリアス先輩がすぐに顔を上げる
「この魔力……」
空気が変わった、圧迫感があるわけじゃないけど一瞬で分かる、来る相手がただの悪魔じゃない
光が収まり、魔法陣の中心に二人の人影が現れる、一人は赤い髪の青年で、その隣には銀髪の女性が立っていた
「やあ、リアス」
「お兄様!?」
リアス先輩が立ち上がる
赤い髪の青年は、現魔王の一人にしてリアス先輩の兄、サーゼクス・ルシファー、その隣に立っているのはグレイフィアだ
「突然すまないね」
「本当に突然よ、お兄様」
「申し訳ございません、リアスお嬢様」
グレイフィアがいつも通り一礼する
横を見ると、
「なぁなぁ、おにーさん」
「なんだ」
「リアスはん、今お兄様って言ったん?」
「ああ」
「じゃあ、あの人がリアスはんのお兄さん?」
「そうだ」
「……魔王なん?」
「ああ」
「ほえ~……」
昨日転校してきたばかりで、今日になって悪魔から魔王まで一気に見るとは本人も思ってなかっただろうな
サーゼクスの視線が
「そちらの子は?」
「昨日、俺達のクラスへ転校してきた
俺が答えると、
「
「サーゼクスだ、よろしく」
「うん」
魔王相手でも変に萎縮しないな
ある意味こいつらしい
「それでお兄様、今日はどうしたの?」
「いくつか知らせておきたいことがあってね」
サーゼクスの声が少し変わった
兄としての柔らかさは残っているけど、その場にいる全員が自然と話を聞く姿勢になる
「まず、今回の三勢力会談についてだ、会場が正式に決まった」
「どこなの?」
「ここ、駒王学園だよ」
「…………ここ?」
イッセーが周囲を見回す
「学校でやるんですか?」
「ああ、今回の事件とも縁がある場所だからね、詳細な日程や警備については改めて伝える」
「承知いたしました」
朱乃が頷き、リアス先輩も表情を引き締める
毎日普通に授業を受けてるこの学校に、悪魔、天使、堕天使の代表が集まる
分かってはいたけど、こうして場所まで決まると一気に現実味が出てくるな
「なぁなぁ、おにーさん」
「今度は何だ」
「会談の日、ウチも普通に学校来ていいけ?」
「その辺は後で学校側から連絡があるだろ」
「そうなんやねぇ」
「それと」
サーゼクスがリアス先輩を見る
「近いうちに授業参観があるそうだね」
「……お兄様」
「何だい?」
「その顔、来る気でしょう」
「もちろん」
「やっぱり」
リアス先輩が額へ手を当てる
魔王が妹の授業参観へ来る、俺なら少し遠慮したくなる
「俺の親も来るって言ってたな」
イッセーが呟く
「私も楽しみです」
アーシアが嬉しそうに笑う
「
会談より先に授業参観の方で妙な騒ぎが起きないといいけど
「君がゼノヴィアだね」
サーゼクスがゼノヴィアへ視線を向けた
「ああ」
「教会を離れ、リアスの眷属になった経緯は聞いている、新しい生活はどうかな?」
「まだ分からないことは多いが、悪くない」
「そうか、君自身が選んだ道なら、その選択を必要以上に引きずる必要はないよ」
「……分かった」
ゼノヴィアが短く頷く
少なくとも以前みたいに、行き場をなくしたような顔はもうしていない
それだけでも十分だろう
─────────────────────────
その日の夜
サーゼクスとグレイフィアは、そのまま兵藤家へ向かった
俺の家とは近所だから行こうと思えばすぐ顔を出せるけど、今回はイッセーの家族との時間でもある
俺まで押しかける必要はないだろう
side out ハク
─────────────────────────
side in イッセー
何で魔王様が俺ん家で普通にお茶飲んでるんだろうな
「お茶どうぞ」
「ありがとうございます」
「こちらもどうぞ」
「恐れ入ります」
母さんがめちゃくちゃ楽しそうだ
親父も普通に会話してるし、事情を知らなければ部長の家族が泊まりに来たようにしか見えない
片方は魔王だけど
「イッセー」
「はい?」
部長が俺の隣に座る
「昨日のアザゼルの件、本当に何もされてないのね?」
「はい、ゲームして話しただけです」
「そう」
返事は短かったけど、まだ完全には納得してない顔だ
「心配してくれてるんですか?」
「当然でしょう、あなたは私の眷属なのよ」
「ありがとうございます、部長」
「ええ」
俺だってアザゼルを全部信用したわけじゃない
ハクと長い付き合いがあることも知ってるし、昨日会った印象じゃいきなり俺をどうこうするつもりもなさそうだった
それでもグリゴリの総督だ、そこは分けて考える
「ハクが普通に話してたから、警戒しすぎなくてもいい気はしたんですけど…」
「そこも複雑なのよ」
「何でです?」
「あの二人、付き合いが長すぎるのよ」
「……ああ」
子供の頃から堕天使の総督と付き合いがある高校生
改めて考えると、やっぱりおかしい
しかも今日になって三勢力からほぼ堕天使側扱いされていることまで判明した
「ハクって本当に何なんでしょうね」
「今さらでしょう」
「それもそうですね」
「そこで納得するの?」
「だってハクですし」
「……否定出来ないのが困るわね」
部長が小さく笑う
三勢力会談も、アザゼルのことも、これから考えなきゃいけないことは多い
でも一人で全部答えを出す必要はない
今はそれで十分だと思う
─────────────────────────
翌日
サーゼクスさんとグレイフィアさんは兵藤家を出た
すぐ冥界へ帰るのかと思ったけど、サーゼクスさんはその後もしばらく駒王町を見て回るらしい
魔王が町を見て回ると聞くと随分大袈裟に聞こえるけど、本人にとっては妹が暮らしている町だ、少しくらい自分の目で見ておきたいのかもしれない
side out イッセー
─────────────────────────
side in ハク
それから数日後の日曜日
俺達は朝から駒王学園へ向かっていた
「ハク、眠そうだな」
「休日の朝から学校へ向かってるからな」
「それは分かる」
イッセーが笑う
少し前をアーシアとクオン、
今日は、生徒会から任された夏のプール開き前の掃除を、オカルト研究部でやることになっていた
その代わり、掃除が終われば俺達が一番最初にプールを使っていいらしい
リアス先輩が引き受けた理由としては十分だな
「兵藤一誠、おはよう」
声がして振り向くと、近くのマンションの方からゼノヴィアが歩いてきた
「おはよう、ゼノヴィア」
「おう、おはよう」
ゼノヴィアはこの近くで一人暮らしを始めている
「忘れ物ないか?」
「問題ない」
「なら行こうぜ、遅れたら部長に怒られる」
「ああ」
こうして普通に学校へ向かう姿を見ると、少し前まで教会側の聖剣使いだったのが嘘みたいだ
環境への適応早いな
─────────────────────────
学校へ着くと、リアス先輩達は既に集まっていた
水を抜いたプールには薄く苔が残っていて、見た瞬間に今日の仕事量が分かる
「よし、さっさと終わらせようぜ」
デッキブラシを受け取ったイッセーが袖を捲る
「随分やる気だな」
「早く終われば、その分プール使えるだろ?」
「それが本音か」
「別に隠すようなことでもないだろ」
そう言いながら、イッセーは近くにいたアーシアへ声を掛ける
「アーシア、そっち流し終わったら教えて、俺こっちからブラシ掛けるから」
「はい、イッセーさん」
「ゼノヴィアも奥の方頼める?」
「ああ」
「ハク、お前そっちの端」
「何でお前が仕切ってるんだ」
「一番手空いてるだろ」
「見てたな?」
「見てた」
仕方なく俺もブラシを持って端へ向かう
「ハク、こっち終わったら手伝うよ」
クオンが少し離れたところから声を掛けてくる
「クオンは自分のところ先に終わらせろ」
「分かってるよ」
人数がいる分、掃除は思ったより早く進んだ
朱乃は何故か掃除をしていても妙に様になっている
「終わったぁ……」
最後の一角を流し終え、イッセーが腰を伸ばす
「思ったより早かったな」
「人数いるからな」
「これで使っていいんですよね?」
アーシアがリアス先輩を見る
「ええ、約束通り私達が一番乗りよ」
リアス先輩が満足そうに笑う
なるほど、確かに掃除した甲斐はある
─────────────────────────
着替えを終えてプールへ戻ると、一気に休日らしい空気になった
先に出ていたイッセーがこちらを見て、一瞬だけ固まる
リアス先輩、朱乃、アーシア、ゼノヴィア、それにクオン達ももう着替えを終えていた
「イッセー?」
「えっ?」
リアス先輩に呼ばれ、イッセーが露骨に視線を泳がせる
「何よ、その反応」
「いや、その……」
「似合ってないの?」
「そんなこと言ってないですよ!」
「なら?」
リアス先輩が一歩詰める
逃げ道を塞がれたな
「……似合ってますよ、部長」
「そう」
満足したらしく、リアス先輩の口元が少し緩む
「イッセーさん」
「ん?」
今度はアーシアが少しだけ恥ずかしそうに自分の水着を見下ろす
「あの……私も、おかしくありませんか?」
「全然おかしくないよ、アーシアも似合ってる」
「本当ですか?」
「本当」
「ありがとうございます!」
アーシアがぱっと笑う
ちゃんと答えられるようになったな、イッセー
「ゼノヴィアは聞かないのか?」
何となく俺が聞くと、ゼノヴィアは自分の水着を見下ろしてからイッセーを見る
「似合っているか?」
「結局聞くのかよ」
「聞かれたからな」
「まあ……似合ってる」
「そうか」
それだけで納得したらしい
この辺はゼノヴィアだな
「それで」
声が近い、振り向く
「ハク?」
朱乃がいた…いつの間にそこまで近付いた?
「何が?」
「何が、ではありませんわ」
朱乃が少し身体を傾ける
「私の水着、どうかしら?」
「…………」
一瞬
本当に一瞬だけ、思考が止まった
距離が近い、しかも不意打ちだ
こういう時だけ、高校生の身体は余計な仕事が早い
「ハク?」
「……似合ってるよ」
どうにか表情を戻して答える
「朱乃らしいと思う」
「あら」
朱乃の目が少し細くなる
嫌な予感がする
今の一瞬、見られたか?
「ハク」
「ん?」
今度は反対側から声がした
クオンまでいる
「
「…………」
今度は止まらない
止まってたまるか
「似合ってるよ」
「ほんと?」
「ああ、クオンにも合ってる」
「そっか」
クオンが嬉しそうに笑う
「でもハク」
「何だ」
「さっき朱乃さんの時、一瞬止まってたよね?」
「気のせいだ」
「あら、|私にもそう見えたわ」
「朱乃まで乗るな」
「ふふっ」
「そうかな?」
二人とも楽しそうだな
こっちは必死だったんだけど
「兄さま」
「ん?」
今度は
「私も……変ではありませんか?」
「白音も似合ってるぞ」
「ありがとうございます」
「白音は兄さま判定が一番大事なんだにゃ」
横から
「姉さま」
「違うのかにゃ?」
「……別に違いません」
「認めるんだ」
「兄さまですから」
そこは即答なんだな
まあ、白音らしいけど
─────────────────────────
「兄さま」
少しして、
「背中だけお願いしてもいいですか?」
「ああ、いいぞ」
「白音ちゃん、それなら姉様がやるにゃ」
「姉さま?」
「ハクはこのあと忙しそうだからにゃ」
「何で?」
「見れば分かるにゃ」
何がだ
「でしたら、私もお願いしようかしら」
「……朱乃?」
朱乃の手にも日焼け止めがあった
「背中は自分では塗りにくいでしょう?」
「まあ、それはそうだけど」
「ハクなら安心ですもの」
その言い方をされると断りづらい
「ハク」
今度はクオン
嫌な予感がする
「
「お前まで?」
「だって塗りにくいんだもん」
朱乃とクオンが互いを見る
二人とも笑ってる
笑ってるんだけど
何だろうな、この空気
「私が先にお願いしましたわ」
「そうだったかな?」
「ええ」
「じゃあ順番?」
「私は構いませんわ」
「
話が勝手にまとまった
「俺の意見は?」
「嫌なの?」
クオンが首を傾げる
「嫌とは言ってない」
「あら、では問題ありませんわね」
「そうなるのか?」
「なるよ?」
なるらしい
「ご主人、大人気だにゃ」
「学校だからハクだろ」
「細かいにゃ」
「そこは細かくない」
「兄さま、頑張ってください」
「だから何をだ」
……まあいい
普通の日曜のプールで、日焼け止めを塗る順番を巡って妙な空気になっている
数日前までコカビエルと戦っていたことを考えれば、随分平和な悩みだ
─────────────────────────
日焼け止め騒動が一段落した頃には、イッセーがアーシアの泳ぎを見ていた
「そうそう、力入れすぎなくていいから」
「はい!」
「そのまま、ゆっくり」
アーシアが水を掻きながら少しずつ進んでいく
「イッセーさん、進めました!」
「おお、その調子!」
少し離れたところではリアス先輩がその様子を見ている
「イッセー」
「何ですか、部長」
「アーシアの練習が終わったら、私とも泳ぎなさい」
「部長、普通に泳げるじゃないですか」
「そういう問題ではないわ」
「どういう問題ですか…」
イッセーが困ったようにこっちを見る
「ハク」
「自分で何とかしろ」
「まだ何も頼んでないだろ」
「顔に書いてある」
そっちはそっちで頑張れ
─────────────────────────
ある程度遊んでから
隣にいたクオンがプールを見ながら、何か思いついたように笑った
「ねえ、朱乃さん」
「あら、どうしました?」
「せっかくだし、
「競争?」
「うん、向こうまで泳いで戻ってくるの、先にここへ着いた方が勝ち」
「構いませんわよ」
朱乃があっさり頷く
そこまでは普通だった
「じゃあ景品も決めよっか」
「景品ですか?」
「勝った方が、一日ハクを好きにできるっていうのはどうかな?」
「待て」
反射的に口を挟んだ
「何?」
「何じゃない、何で景品が俺なんだよ」
「嫌?」
「そういう問題じゃないだろ」
「一日、勝った人の好きなところへ付き合ってもらうだけだよ?」
「だったら最初からそう言え」
「あら」
朱乃が口元へ手を添える
「私は最初の言い方でも良かったのですけれど」
「朱乃」
「ふふっ、冗談よ」
本当に冗談か?
「では、勝った方が一日ハクを独占出来る、でどうかしら?」
「言い方が悪化してる」
「予定を決められる、という意味ですわ」
「だったらそう言ってくれ」
「ハク、細かいね」
「俺が景品なんだから細かくもなるだろ」
そんなやり取りをしていると、近くにいた
「一日……兄さまと?」
「ん?」
「勝ったら、兄さまと一日好きな場所へ行ってもいいんですか?」
「白音?」
何故そこに食いついた
「そういうルールになるかな」
クオンがいい笑顔で楽しそうに答える
……なんでそんなに笑顔何でよお前は……
「でしたら」
「私も参加します」
「増えた」
「兄さまと一日出掛けられるのでしたら、参加しない理由がありません」
「理由が強いな」
「当然です」
即答だった
妹としては随分嬉しいことを言ってくれるけど、何故だろう
状況が悪化した気しかしない
「三人かにゃ?」
今まで横で面白そうに見ていた
「これは見物にゃ」
「姉さまは参加しないんですか?」
「私は見てる方が面白そうだにゃ」
「そう?」
クオンが首を傾げる
「勝ったらハクと一日好きなこと出来るのに?」
「…………」
「今、反応したな」
「してないにゃ」
「したよね?」
「してませんにゃ」
語尾だけ妙に丁寧になってるぞ
「黒歌」
朱乃が笑顔のまま続ける
「参加しないなら、三人で始めるけれど?」
「…………」
「姉さま?」
「ちょっと待つにゃ」
「私も参加するにゃ」
「結局来るのかよ」
「だってハクを一日独占出来るなら話は別にゃ」
「また独占って言った」
「予定を決められる、だったにゃ」
「分かってて言っただろ」
「気のせいにゃ」
絶対わざとだ
「これで四人だね」
クオン
朱乃
何で休日のプールで、俺との一日を賭けた水泳大会が始まろうとしてるんだ
「ルールは一本往復でいいかしら?」
「うん」
「問題ありません」
「いいにゃ」
全員やる気だ
「ちょっと待て、白音と黒歌は泳ぎ得意なのか?」
「普通に泳げます」
「私も問題ないにゃ」
「クオンと朱乃は?」
「大丈夫だよ」
「私も問題ありませんわ」
「……そうか」
逃げ道はなさそうだ
「それで」
クオンが俺を見る
「ハクが審判ね」
「やっぱり俺なのか」
「景品が審判するの、一番公平じゃないかにゃ?」
「景品って言うな」
「では、兄さまお願いします」
「白音まで完全に乗ってるな」
「はい」
いい返事だな
俺は小さく息を吐いて、プールの端へ並んだ四人を見る
クオンは楽しそうに
朱乃はいつもの笑みを浮かべたまま
全員、遊びのはずなのに負ける気はなさそうだった
「一応言っとくけど、仙術とか魔力とか妖術とか、そういうのは禁止だからな」
スタート位置に並んだ四人を見ながら釘を刺す
「普通に泳ぐだけ、身体強化もなし」
「分かってるよ」
「もちろんですわ」
「承知しました」
「了解にゃ」
返事は素直だ
返事は
何で全員そんなに目が本気なんだよ
「じゃあ一本往復、先にここへ戻ってきた奴が勝ち、それでいいな?」
「うん」
「ええ」
「はい」
「いいにゃ」
俺は片手を上げる
「じゃあ――スタート!」
四人が一斉に水を蹴った
大きな水飛沫が上がり、その中から真っ先に抜け出したのはクオンだった
「やっぱ
隣で見ていたイッセーが素直に声を上げる
「ああ」
そこは予想通りだ
能力を使わなくても、元々の身体能力を考えればクオンが有利になる
その後ろを朱乃、
「これ普通にクオンが――」
言いかけたところで
「…………」
何かがおかしい
「ハク」
「何だ」
「後ろ三人、怖くない?」
「言うな」
「やっぱお前にも見えてんじゃねぇか!」
見えてる
めちゃくちゃ見えてる
朱乃はいつもの柔らかい笑顔のまま泳いでいる
なのに
三人の後ろに何かいる
鬼だ
鬼が三体いる
「…………」
先頭を泳いでいたクオンが、折り返し直前にちらっと後ろを見た
そして一瞬だけ目を見開く
見えたな
クオンにも見えたな、あれ
「ハク」
「何だイッセー」
「
「ああ」
「何で?」
「生存本能じゃないか?」
「泳いでるだけだよな!?」
俺もそう思ってたよ
四人がほとんど同時に壁へ触れ、折り返す
それでもクオンが僅かに先頭
やっぱり速い、けど
「……縮まってないか?」
「縮まってるな」
「能力使ってないよな?」
「使ってない」
「じゃあ何だよあれ」
「俺に聞くな」
朱乃が追い上げる
そしてクオンも、それを見てさらに速度を上げる
何だこれ
水泳競技ってこんな怖かったか?
「ハクとの一日ってそんなに価値あるの?」
「本人に聞くなよ!」
「いやだって!」
俺も聞きたいよ!
残り十メートル
クオンが僅かに前
朱乃が並ぶ
反対側から
さらにその横へ
「嘘だろ」
四人横一線
誰も譲らない
いや
譲る気がない
「来るぞ!」
「ああ!」
四人が最後の一掻きで腕を伸ばす
そして――
バシャンッ!!
四つの手が、ほとんど同時にプールの縁へ触れた
「…………」
「…………」
俺とイッセーが無言になる
水面から四人が顔を上げた
「ハク」
「はい」
何故か敬語になった
「誰が一番だった?」
クオンが聞く
「私ですわよね?」
朱乃が笑う
「いや、私にゃ」
「兄さま」
「私が先でしたよね?」
「…………」
三人どころか
四人とも鬼になった
「イッセー」
「何だ」
「見てたよな?」
「見てた」
「誰だった?」
「巻き込むな」
「幼馴染だろ」
「こういう時だけ幼馴染を使うな!」
逃げやがった、あんにゃろう……
「ハク?」
クオンが笑ってる
「ハク?」
朱乃も笑ってる
「ハクぅ?」
「兄さま?」
それが一番怖い
「……同着」
俺は答えた……答えてしまった……
「四人とも完全に同着だった」
沈黙
「本当に?」
「ああ」
「誤魔化してません?」
「誤魔化してない!」
マジで同着だったんだよ!
むしろ何で身体能力差が最後に消えたんだ!
「じゃあ景品はどうするの?」
クオンが首を傾げる
「……四人で分ける?」
俺が言った瞬間
四人が同時にこちらを見る
……また、鬼が見えた
「今の無し」
「ハク」
「何だよ」
「
「四日になってるじゃねぇか!」
「あら、それが一番公平ですわね」
「賛成にゃ」
「私も異論ありません」
「白音まで!?」
横でイッセーが腹を抱えて笑い始めた
「よ、四日間頑張れよ、ハク」
「笑ってんじゃねぇ!」
side out ハク
─────────────────────────
side in イッセー
「兵藤一誠」
「ん?」
少し人の少ないところへ移動したところで、ゼノヴィアに呼び止められた
「話がある」
「今?」
「ああ」
「分かった」
ゼノヴィアがこういう言い方するのは珍しいな
プール用具室の近くまで来ると、こいつは足を止めて真っ直ぐ俺を見た
「私は将来、子供が欲しいと思っている」
「…………おう?」
いきなり何の話だ
「教会にいた頃は、自分が家庭を持つことなど考えていなかった、だが今は事情が変わった」
「まあ、そうだな」
「だから考えた」
「何を?」
「将来、強い子を育てるなら、その父親も強い方がいい」
嫌な予感がした
「そこで、お前だ」
「やっぱり俺かよ!」
「
「理由が真っ直ぐすぎるだろ!」
「問題があるのか?」
本気で分かってない顔だ
「あるっていうか……そういう話は順番があるだろ、まず相手のことを知るとか、付き合うとか、その先に将来の話があるんじゃないのか?」
「……そういうものなのか」
「そういうもんだよ」
ゼノヴィアは少し考えたあと、俺を真っ直ぐ見る
「なら、まずお前のことをもっと知ればいい」
「まあ……そこからなら間違ってない」
「分かった」
「本当に分かったのか?」
「お前をもっと知るところから始める」
「そこだけ聞くと合ってるんだけどな」
「何が問題なんだ?」
「いや、もういい」
こいつは冗談で言ってるわけじゃない
本人なりに将来を考えて、本気で俺を候補に入れてるから余計に困る
「とにかく、今すぐ答えを出すような話じゃないだろ、俺もお前もまだ高校生なんだから」
「そうか」
「ああ」
「なら急がない」
「それで頼む」
ゼノヴィアは納得したのか、そのまま普通に戻っていった
俺だけその場に残されたけど、言っている意味自体は分かる、分かるんだけど…もう少し段階ってものを覚えてくれ
side out イッセー
─────────────────────────
side in ハク
プールで遊び終え、着替えも済ませた俺達は校門へ向かっていた
「楽しかったな」
「はい!」
アーシアが嬉しそうに答える
イッセーは途中から少し妙な顔をしていたけど、聞いても「後で話す」としか言わなかった
その隣のゼノヴィアはいつも通り
……何かあったな
まあ、本人達の話なら無理に聞くことでもない
「じゃあ帰るか」
イッセーが校門を抜けようとした、その時だった
「久しぶりだな、
声がした、校門の近くには銀髪の少年が立っている、年齢は俺達とそう変わらないはずなのに、立っているだけで分かる――強い
イッセーの表情が変わった
「お前……」
やっぱり、このタイミングなんだな
原作もそうだった
アザゼルから何度か聞いている、
「お前が
俺が名前を口にすると、銀髪の少年の視線がこちらへ動いた
「……お前がオシュトル…いや
「ああ、直接会うのは初めてだな」
「俺も話は聞いている」
「こっちもだよ」
こいつがアザゼルのところにいる
顔を合わせるのは今日が初めてだ
「イッセー、知っているの?」
リアス先輩が警戒を隠さず尋ねる
「前に一度だけ会ってます、部長」
「こいつが
俺がそう言った瞬間、少し遅れて合流したゼノヴィアの表情が変わった
ゼノヴィアの手がデュランダルを取り出そうと虚空にはいる
「今日は戦いに来たわけじゃない」
ヴァーリはそれを見ても表情を変えない
「
「俺を?」
「ああ」
イッセーがヴァーリを見る
「前より強くなった」
「そりゃどうも」
「だが、まだ足りない」
「何が?」
「全部だ」
随分はっきり言うな
イッセーは怒鳴り返すこともなく、僅かに眉を寄せた
「だったら具体的に言えよ」
「今のお前は
ヴァーリが少し笑う
「魔王級と呼ばれる連中ですら世界の頂点じゃない、今のお前より上にいる奴はいくらでもいる」
「……それハクがいる前でいうのか」
「ああ」
イッセーが黙る
「だからもっと強くなれ、せっかくの
「言われなくてもなる」
「そうか、それなら楽しみにしている」
ヴァーリの笑みが少しだけ深くなる
なるほど、励ましてるわけじゃないな、純粋に強い相手と戦いたいだけだ、こいつ
「一つ言っとくけど」
イッセーが続ける
「昔の
「構わない」
ヴァーリはあっさり答えた
「今すぐ殺し合いたいわけじゃない、俺が興味を持っているのは、お前がどこまで強くなるかだ」
「何だよそれ」
「そのままの意味だ」
歴代の
でも今ここにいる二人まで、その因縁だけで同じ道を選ぶ必要はない
そう思った、その時だった
ヴァーリが僅かに足の位置を変えた
ただそれだけなのに、俺の身体が次の動きを勝手に読んだ
右へ踏み込み、そこから左へ返す
もしここで間合いを詰めるなら――
……何だ?
初めて見る動きのはずなのに、妙に馴染む
ヴァーリと一瞬だけ目が合った
向こうも何かを感じたのか、ほんの僅かに視線が止まる
けど、それだけだった
「
「何だ」
「お前のことも、いずれ確かめたい」
「アザゼルから聞いてる」
「そうか」
余計な会話は続かなかった
今はそれでいい
「じゃあな、
「ああ」
ヴァーリは背を向け、そのまま離れていく
祐斗とゼノヴィアは完全に姿が見えなくなるまで警戒を解かなかった
俺はそれより、さっきの一瞬が気になっていた
初めて会った相手の動きが、何であんなに自然に読めたのか
気のせいで片付けるには、少し引っ掛かる
「ハク」
「ん?」
「何かあった?」
「いや、まだ分からない」
「そう?」
「ああ」
どうせヴァーリとはまた会う、その時にもう一度確かめればいい
side out ハク
─────────────────────────
side in イッセー
帰り道、さっきのヴァーリの言葉がまだ頭に残っていた
世界は広く、今の俺より上にはまだいくらでもいる、少し前ならそれを聞いて単純に燃えて、強い奴がいるなら強くなればいいと、それだけで済ませてたかもしれない
でも今は違う
俺は悪魔になって、部長の眷属になって、
仲間も増えたからこそ、この先自分がどうなりたいのかまで考える
ただ強くなるだけでいいのか、
そんなわけない
「イッセー」
「はい?」
部長の声で顔を上げる
「さっきから静かね」
「考え事してました」
「ヴァーリのこと?」
「それもあります」
「怖くなった?」
「少しは」
嘘をついても仕方ない
「あいつ、強かったですから」
「そうね」
「でも、それだけじゃなくて……俺、この先どうなりたいのかなって」
部長が少しだけ目を丸くする
「随分考えたわね」
「今日色々ありすぎたんですよ、ゼノヴィアの話もあったし、ヴァーリには世界にもっと強い奴がいるって言われるし、一日に考えることが多すぎます」
「そうね」
「強くはなりたいです、部長達を守れるくらいには」
「イッセー」
「でも、歴代の
「ええ」
「ちゃんと自分で選びたい」
部長は少し黙ったあと、俺に歩幅を合わせて隣まで寄ってきた
「なら焦らないことね」
「部長?」
「あなたの人生…悪魔生は長いわ、今日明日で全部決める必要なんてないわ」
「……はい」
肩が触れそうなくらい近い
さっきまでぐるぐる考えていた頭が、その距離だけで少し落ち着いた
「それと、一人で勝手に無茶をしないこと」
「え?」
「あなたは私の眷属なんだから、何かあったら私達を頼りなさい」
「分かりました」
「本当に?」
「多分」
「そうですよイッセーさん!私もいますから!」
今まで黙って聞いていたアーシアも声を上げてそう言ってくれた
「ありがとうアーシア」
「はい!」
部長が呆れたように息を吐く
「まったく……あなたもハクも、放っておくとすぐ自分で何とかしようとするんだから」
「俺とハク一緒にしないでくださいよ」
「でもハクさんもイッセーさんもそっくりですよね」
「似たようなものよね、アーシア」
「えぇ……」
否定しきれないのが嫌だ
「ふふっ」
「あははっ」
部長といアーシアが笑う
ヴァーリや
だったら、焦って全部決める必要もない
「イッセー?」
「イッセーさん?」
「何でもないです」
「そう?」
「はい」
強くなることは変わらないけど、強さだけで全部を決めるつもりもない
自分がどうなりたいのかは自分で選ぶ、今はそれでいい
side out イッセー
─────────────────────────
side in ハク
少し前を歩くイッセーとリアス先輩、アーシアを見ながら、俺は小さく息を吐いた
「ハク、何か嬉しそう」
隣のクオンが言う
「そう見えるか?」
「うん」
「気のせいだ」
「そうかな?」
「多分な」
まあ、悪い顔はしてない
それより気になるのはヴァーリ本人というより、あの一瞬だった
奴が動く前に、俺の身体が勝手に次を読んだ
理由はまだ分からない
「ハク?」
「ん?」
「また考え込んでる」
「ちょっとな」
「
「まだ俺にも分かってない、分かったら話すよ」
「うん、ならいいかな」
クオンがそれ以上は聞かず、俺の隣を歩く
三勢力会談は近く、俺もクオンもその場へ呼ばれている、その上、
原作を知っているだけで楽をさせてもらえるほど、今回も簡単にはいかないらしい
まあ、今さらか
今回は説明回からのプール回でした!
日焼け止めを頼まれたり、水着の感想を求められたりと平和な休日――
のはずだったのですが
ハクとの一日を賭けて、クオン・朱乃・黒歌・白音による水泳勝負が勃発
身体能力ではクオンが一歩リード
しかし後ろから迫ってくる三人を見た瞬間――
何故か鬼が三体見えました
そして最終結果はまさかの四人同着
一日だったはずの景品が、何故か四日に増えました
ハク「どうしてこうなった」
なおイッセーの方も、ゼノヴィアから将来について随分と直球な話をされております
そして最後には、ついに
三勢力会談も近付き、少しずつ周囲が動き始めました
次回もよろしくお願いします!