ハイスクールDxD 〜うたわれるもの〜   作:フォートナー

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お待たせしました、Life.33です!

前回からの続き、そして今回は授業参観のお話です

色々なことが起きすぎて、とうとう考えることを放棄し始めたハク

果たして彼の胃に平穏は訪れるのでしょうか……?

それでは、お楽しみください!


Life . 33 授業参観です!紙粘土です!胃が痛いです!?

人間、何でもかんでも深く考えればいいってもんじゃない

 

考えれば答えに近付けることもあるけど、今考えても仕方ないことまで全部拾っていたら、頭より先に胃が死ぬ

 

そして今日は、色々ありすぎた

 

検査結果、神憑(カムナ)、アザゼルの家庭事情、まだ生まれてもいない子供の名前の話、柚葉(ゆずは)さんと、その兄の朧(おぼろ)さんの顔やら声やら何やら

 

もう十分だ

 

なので、しばらく深く考えないことにした

 

急ぎじゃないことは後回し、今すぐ答えが出ないことも後回し、これ以上考えたら胃に来そうなものはもっと後回し

 

必要になった時の俺に任せればいい

 

名付けて――カンタン白(はく)くん

 

……我ながら酷い名前だな

 

「お前、さっきからホットハチミツミルクを飲みながら随分遠いところ行ってんな」

 

「現実逃避してただけです」

 

「堂々と言うなよ」

 

病院のカフェで向かいに座るアザゼルが呆れた顔をする

 

あれから俺とアザゼルは先に下へ降りてきた

 

クオン達が話している部屋の中は通信も通らないから、部屋を出たら連絡するように伝えてある

 

「しかしお前、本当に大丈夫か?」

 

「大丈夫じゃないから休んでるんです」

 

「さっきも聞いたな、それ」

 

「大事なことなので」

 

これ以上今日の出来事について掘り下げる気はない

 

特にアザゼルの家庭事情

 

あれについては今考えたら負けだ

 

「お」

 

アザゼルが俺の後ろを見る

 

振り返ると、ちょうどエレベーターの方からクオン達が歩いてきていた

 

クオン

 

江留瑠羽(えるるぅ)

 

柚葉(ゆずは)さん

 

朧(おぼろ)さん

 

「…………」

 

四人とも目が赤い

 

何があった

 

「お待たせ、ハク」

 

「ああ……いや」

 

クオンの顔を見る

 

やっぱり赤い

 

「何してたんだ?」

 

「え?」

 

「全員目赤いけど」

 

「…………」

 

四人が一瞬顔を見合わせた

 

「お話が盛り上がっちゃって」

 

柚葉(ゆずは)さんが笑う

 

「そうそう、ちょっと笑いすぎちゃってね」

 

クオンも続く

 

「……四人全員?」

 

「うん」

 

「そうか」

 

ならそうなんだろう

 

笑いすぎた

 

以上

 

「お前今絶対考えるの放棄しただろ」

 

「急ぎじゃないので」

 

「便利だなお前のそれ」

 

便利じゃないと困るんだよ

 

今の俺には必要なんだ

 

「それじゃあ、そろそろ帰ろうか」

 

「うん」

 

クオンが俺の隣へ来る

 

江留瑠羽(えるるぅ)達とはここで別れるらしい

 

「じゃあまたね、久遠(くおん)さん」

 

「うん、また」

 

「……クオン」

 

「ん?」

 

クオンが振り返る

 

柚葉(ゆずは)さんは何か言おうとして、少しだけ黙った

 

「気を付けて帰ってね」

 

「うん」

 

それだけ言って笑う

 

何だ?

 

……まあいいか

 

「じゃあなハク」

 

「はい」

 

アザゼルにも軽く手を上げて、俺達は病院を出た

 

─────────────────────────

 

「お腹空いたね」

 

「そうだな」

 

外へ出ると、もう昼を回っていた

 

検査で朝から何もまともに食ってない

 

さすがに腹が減った

 

「どこか寄ってく?」

 

「そうするか」

 

病院の近くにあった店へ入り、適当に昼飯を頼む

 

料理が来てしばらくしてから、俺は向かいのクオンを見る

 

「クオン」

 

「ん?」

 

「さっきからずっと箸止まってるけど」

 

「あ」

 

クオンが手元を見る

 

「考え事か?」

 

「ちょっとだけ」

 

「さっきの部屋のこと?」

 

「うん」

 

「……本当に笑ってただけ?」

 

クオンが俺を見る

 

少しだけ間があった

 

「うん」

 

「そうか」

 

ならいい

 

「聞かないの?」

 

「本人がそう言ってるならな」

 

「ハクならもっと気にするかと思った」

 

「普段ならな」

 

「今は?」

 

「今すぐ困ることでもないのに、わざわざ穴を掘って自分から埋まる必要はない」

 

「……それ、今日何回目?」

 

「数えてない」

 

クオンがくすくす笑う

 

笑えるなら問題ないだろ

 

多分

 

「でも、変な感じだったんだ」

 

「変?」

 

「うまく言えないけど」

 

クオンが少し考えてから首を傾げる

 

「ずっと前から知っていたような気がするっていうか……身体の方が先に知ってるみたいな」

 

「…………」

 

今、ちょっと深いところへ行きかけたな

 

「まあ」

 

「うん?」

 

「そういう日もあるだろ」

 

「雑!」

 

「今日はカンタン白(はく)くんだから」

 

「まだそれ続いてるんだ」

 

「絶賛稼働中だ」

 

クオンがまた笑う

 

よし

 

それでいい

 

─────────────────────────

 

昼飯を食べてから、そのまま二人で帰る

 

別に途中までというわけじゃない

 

クオンの住んでいる洋館は大神家の隣だ

 

「じゃあハク、また明日」

 

「ああ」

 

「今日はありがとうね」

 

「俺何もしてないけどな」

 

「一緒にいてくれた」

 

「それならどういたしまして」

 

「うん」

 

手を振るクオンに、俺も手を振り返してから隣の大神家へ向かった

 

今日はもう何も考えない

 

風呂入って飯食って寝よう

 

明日の俺に全部任せる

 

side out ハク ───────────────────────── side in クオン

 

夜なのかどうかさえ分からないほど、辺りは暗い

 

何も見えない

 

何も聞こえない

 

なのに、一人だけ見える人がいた

 

男の人

 

背中しか見えない

 

顔も分からない

 

名前も分からない

 

それなのに

 

「待って」

 

声が出た

 

その人は歩いていく

 

遠ざかっていく

 

「待って……!」

 

追いかけたいのに、足が動かない

 

どれだけ手を伸ばしても届かない

 

知らない人のはずなのに、胸が苦しい

 

行かないで欲しい

 

もう一度会いたいと思う

 

でも、もう二度とあの背中が遠ざかっていくところだけは見たくない

 

「――!」

 

目を開けた

 

「…………」

 

自分の部屋

 

天井

 

カーテンの隙間から朝の光が差し込んでいる

 

「夢……」

 

胸に手を当てる

 

まだ痛い

 

あの人が誰なのかとか、どうしてそんな夢を見たのかとか

 

何も分からない

 

なのに

 

泣きそうになっている自分だけは、どうしようもなく本物だった

 

─────────────────────────

 

翌朝

 

「おはよう、クオン」

 

「…………」

 

門を出たところでハクを見つけた

 

いつもの背中

 

見慣れているはずの背中

 

なのに

 

「……っ」

 

胸が締め付けられた

 

夢の中の背中と重なる

 

全然違うはずなのに

 

「クオン?」

 

ハクが振り返る

 

「どうした?」

 

「……何でもない」

 

「そうか?」

 

「うん」

 

私(わたくし)は少し早足になって、ハクの隣へ並んだ

 

「昨日、変な夢見た」

 

「夢?」

 

「知らない人がずっと遠くに行っちゃう夢」

 

「怖い夢だったのか?」

 

「……多分」

 

「じゃあ今日は早く寝ろ」

 

「それだけ?」

 

「夢占いでもして欲しいのか?」

 

「別にそうじゃないけど」

 

多分ハクの中では、誰かに置いていかれるような怖い夢を見た、そのくらいに思っているんだろう

 

「ほら、行くぞ」

 

「うん」

 

ハクの隣を歩く

 

今度は背中じゃない

 

それだけで、少しだけ胸が軽くなった

 

side out クオン ───────────────────────── side in ハク

 

そして翌日

 

「お兄ちゃん、朝ごはんの支度が整って――」

 

「ん?」

 

リビングへ向かおうとしていた足を止める

 

廊下の先にいた猫音(ねこね)も止まった

 

「…………」

 

「…………」

 

「今何て言った?」

 

「……朝ごはん出来てるよ」

 

「いや、さっきの妙に丁寧な言い方」

 

「何のこと?」

 

明らかに誤魔化したな

 

「白音(しろね)の真似でもしてるのか?」

 

「してないよ」

 

「じゃあ今の何だ」

 

「聞き間違いじゃない?」

 

「そうか?」

 

「そうだよ」

 

猫音(ねこね)がぷいっと顔を背けてリビングへ向かう

 

その途中で振り返った

 

「お兄ちゃん、早く来ないと冷めるのです」

 

「…………」

 

「…………」

 

「やっぱり白音(しろね)の真似してない?」

 

「してない!」

 

今度は走って逃げていった

 

「何なんだ?」

 

まあ、白音(しろね)の話し方でも移ったんだろ

 

それ以上考える必要もない

 

朝飯が冷める方が問題だ

 

カンタン白(はく)くん

 

本日も正常運転である

 

side out ハク ───────────────────────── side in イッセー

 

そして数日後

 

今日は駒王学園の公開授業だ

 

「イッセーさん、あとでお父さまとお母さまもいらっしゃるんですよね?」

 

「ああ、親父なんてわざわざ休み取ったらしいぞ」

 

「まあ!」

 

朝飯を食いながら答えると、アーシアが嬉しそうに笑った

 

母さんも朝から妙に張り切ってるし、親父も親父でビデオカメラの確認なんかしている

 

俺の授業参観だよな?

 

そう思わなくもないけど、二人が一番楽しみにしてるのは多分アーシアだ

 

アーシアがうちに来てからというもの、親父も母さんも完全に娘が一人増えたような状態になっている

 

まあ、アーシアが喜んでるならいいんだけどさ

 

今日のは普通の授業参観とは少し違う

 

正確には公開授業で、中等部の生徒が高校の授業を見に来ることも出来るし、その保護者も一緒に校内へ入れる

 

だから今日は普段よりずっと人が多くなるらしい

 

─────────────────────────

 

学校へ着くと、案の定いつもより騒がしかった

 

「憂鬱だわ」

 

部長がため息をつく

 

「どうしたんです?」

 

「お父さまとお兄さまが来るかもしれないのよ」

 

「ああ……」

 

「紅髪の男が二人揃って教室まで来たら、目立つに決まっているでしょう?」

 

それは確かに

 

ただでさえ部長は学校で目立つのに、あの二人まで来たらえらいことになる

 

「では、またあとでね」

 

玄関口で部長と別れ、俺達は教室へ向かった

 

「よぉイッセー」

 

「お前んところ、今日親来るのか?」

 

教室へ入るなり、松田と元浜が寄ってくる

 

「来るぞ、二人とも」

 

「マジか」

 

「でも多分、ほとんどアーシア目当てだけどな」

 

「そりゃそうだろ!」

 

「アーシアちゃんが妹だったら俺だって授業参観皆勤するぞ!」

 

「勝手にアーシアをお前の妹にするなよ!」

 

「イッセー」

 

振り返るとゼノヴィアがいた

 

「この前はすまなかった」

 

「え?」

 

「少し性急すぎたと思っている」

 

「あ、ああ……」

 

この前の話か

 

「だから私も考えた」

 

「お、おう」

 

「物事には順序というものがある」

 

「おお!」

 

分かってくれたのか!

 

「まずは普通にデートから始めよう」

 

「……普通だ!」

 

「何だその反応は」

 

「いや、お前が普通のこと言うと逆にびっくりするんだよ!」

 

ゼノヴィアが少し不満そうな顔をした

 

「当然、その先の予定も考えてある」

 

「その先?」

 

「ああ」

 

ゼノヴィアがポケットから折り畳まれた紙を取り出し、机の上へ広げる

 

「交際計画だ」

 

「何で工程表になってんだよ!?」

 

何月に何をするだの、将来的にはどうするだの、妙に具体的な予定がびっしり書き込まれている

 

「計画性は重要だろう?」

 

「恋愛って工事じゃねぇから!」

 

「ほえー……」

 

近くにいた葵(あおい)が面白そうに覗き込む

 

「葵(あおい)、参考にしなくていいぞ」

 

ハクがすぐ釘を刺す

 

「まだウチ何も言うてへんよ?」

 

「顔に書いてある」

 

「ウチ、そんな分かりやすいん?」

 

「かなり」

 

クオンが横で笑っている

 

一方、瑠璃(るり)は何故かそっと目を逸らしていた

 

「……瑠璃(るり)?」

 

「はい?」

 

ハクが疑わしそうに見る

 

「何で目逸らした」

 

「何のことでしょうか」

 

「いや、いい」

 

ハクまで何かを諦めた

 

「アーシアも参加するか?」

 

「ええっ!?」

 

ゼノヴィアが当たり前みたいに尋ねる

 

アーシアは顔を真っ赤にして、ゼノヴィアと俺を交互に見た

 

「わ、私は……」

 

「イッセーのことは好きなのだろう?」

 

「そ、それは……!」

 

アーシアがますます赤くなる

 

でも、そのうち表情が少し変わった

 

「でも……」

 

「アーシア?」

 

「ゼノヴィアさんばかり、イッセーさんにそんなに積極的なのはずるいです!」

 

「え?」

 

今度は俺が固まった

 

アーシアがゼノヴィアへ詰め寄る

 

「そんなにイッセーさんへモーションをかけないでください!」

 

「私は自分の希望を伝えているだけだが?」

 

「それでもです!」

 

いつもよりずっと強い声だった

 

アーシアって、こういう顔もするんだな……

 

「あらあら」

 

そこへ桐生まで面白そうに混ざってきた

 

そこから先はもう何が何だか分からなかった

 

ゼノヴィアは相変わらずだし、アーシアは引かないし、松田と元浜は何故か緊急事態だと騒ぎ出すし

 

「何でイッセーだけ!」

 

「アーシアちゃん委員会を招集するぞ!」

 

「何だよその委員会!」

 

俺がモテてる?

 

「…………」

 

いや

 

モテたくて鍛え始めたのは事実だ

 

強くなれば女の子に格好いいって思ってもらえるんじゃないかって、最初は本気でそんなこと考えてた

 

……今でもモテたいとは思ってるけど

 

それに

 

部長からは、その……

 

キスされたこともある

 

「…………」

 

思い出したら急に顔が熱くなってきた

 

あれを何とも思われてないって考えるほど、俺だって鈍くはない

 

部長が俺を特別に見てくれてるんじゃないかって、それくらいは考える

 

でも

 

アーシアは一緒に暮らしてる、大事な家族みたいなもので

 

もちろん可愛いと思うし、大切にもしたい

 

ゼノヴィアは……

 

「イッセー、では今度の休日はどうだ?」

 

「今その話に戻るな!」

 

……あいつを普通の基準に入れていいのか、正直まだ分からない

 

だから松田達に「モテてる」って言われても、どうにも実感が湧かないんだよな

 

昔の俺が今の状況を見たら、泣いて喜ぶ気はするけど

 

「イッセーさん?」

 

「ん?」

 

アーシアが心配そうに俺を見ていた

 

「どうかしましたか?」

 

「いや、ちょっと考え事してただけ」

 

「そうですか?」

 

「ああ」

 

アーシアは少し首を傾げたあと、ふわっと笑った

 

「でも、私はイッセーさんが格好いいと思っていますよ?」

 

「え?」

 

「えっ?」

 

今度はアーシア自身が自分の言葉に気付いたみたいに真っ赤になる

 

「い、いえ! その! 強くて優しくて、いつも助けてくださるという意味で!」

 

「お、おう……ありがとな」

 

「は、はい!」

 

…………ほら

 

こういうのだ

 

こういうことを言われても、俺の頭の中ではまず

 

アーシアは優しいからな

 

で処理しちまう

 

「やっぱりお前モテてんじゃねぇか!」

 

松田が叫ぶ

 

「今の聞いたか元浜!」

 

「聞いた! 現行犯だ!」

 

「何の現行犯だよ!」

 

「安心しろ、イッセー」

 

ゼノヴィアが真顔で俺の肩を叩く

 

「私もキミを魅力的な男だと思っている」

 

「お、おう……?」

 

「将来性も含めてな」

 

「やっぱり何か怖ぇよ!」

 

教室に笑い声が広がる

 

……まあ

 

モテてるかどうかはともかく

 

昔より女の子と話せるようになったのは確かだ

 

鍛え始めた頃の俺に教えてやったら、絶対信じないだろうな

 

side out イッセー ───────────────────────── side in ハク

 

しばらくして教師が教室へ入ってきた

 

授業開始のチャイムが鳴ると、それまで廊下にいた保護者たちが、開け放たれた後ろの扉から少しずつ教室へ入ってくる

 

いつもなら後ろなんて気にもしないんだが、今日はそうはいかない

 

「アーシアちゃーん!」

 

さっそく聞き覚えのある声が飛んできた

 

「お母さま!」

 

振り返ったアーシアが嬉しそうに笑う

 

その隣ではイッセーの親父さんがビデオカメラを構えて、完全にアーシアへ照準を合わせていた

 

「よーしアーシアちゃん! お父さんがちゃんと撮ってるからな!」

 

「はい!」

 

「……俺は?」

 

イッセーが小さく呟く

 

「映像の端くらいには入るんじゃないか?」

 

「息子への扱い雑じゃね?」

 

でもイッセー自身、口ではそう言いながらちょっと嬉しそうだ

 

アーシアが兵藤家に馴染んでいるのは、傍から見ていても分かる

 

「では、授業を始めます」

 

先生の声で全員が前を向く

 

今日の科目は英語

 

教科書も出してあるし、俺も普通に授業を受けるつもりだった

 

先生が教卓の下から、大きな袋を取り出すまでは

 

「…………」

 

何だあれ

 

先生は袋の口を開けると、中から小分けにされた白い塊を取り出した

 

紙粘土だった

 

「今日は少し趣向を変えましょう」

 

「英語は?」

 

イッセーが小声で呟く

 

「俺に聞くな」

 

「ハク、これ英語の授業だよね?」

 

反対側からクオンまで聞いてくる

 

「俺もそのつもりで教科書開いた」

 

「ほえー」

 

葵(あおい)が配られてきた紙粘土を手のひらで転がす

 

「学校いうんは奥が深いんやねぇ」

 

「多分これは深く考えちゃ駄目なやつだ」

 

「最近そればっかりだね、ハク」

 

「今の俺には大事なことなんだよ」

 

イッセー、アーシア、ゼノヴィア、俺、クオン、瑠璃(るり)、葵(あおい)

 

当然、同じ教室にいる俺たち全員の机にも紙粘土が配られていく

 

先生は紙粘土が全員に行き渡ったのを確認してから、教卓の前で手を合わせた

 

「それでは、今皆さんが頭の中に思い描いたものを、自由に形にしてみてください」

 

「人物でもいいんですか?」

 

アーシアの問いに、先生が頷く

 

「もちろんです、人物でも動物でも物でも構いませんよ、上手い下手も気にしなくて大丈夫です」

 

なるほど

 

頭に浮かんだものを作るだけ

 

簡単じゃないか

 

深く考える必要もない

 

むしろ今の俺にぴったりだ

 

「よし」

 

紙粘土を手に取る

 

向こうではゼノヴィアが腕を組み、妙に真剣な顔で白い塊を睨んでいる

 

アーシアも何を作るか考えているらしい

 

葵(あおい)はもう楽しそうに紙粘土を捏ねていた

 

クオンも同じだ

 

そしてイッセーは――

 

「…………」

 

妙に集中してるな

 

手が速い

 

「何作ってるんだ?」

 

「まだ内緒」

 

「何でだよ」

 

「出来てからのお楽しみだって」

 

「そうかよ」

 

「ハクは?」

 

「分からん」

 

「分からんって」

 

「頭に浮かんだものを作れって話だろ、だったら手に任せる」

 

「適当だなぁ」

 

「今の俺には適当なくらいがちょうどいい」

 

紙粘土を千切る

 

一つ

 

もう一つ

 

人の形が出来ていく

 

最初は本当に、何も考えていなかった

 

頭に浮かんだ輪郭をそのまま指先で形にしていただけだ

 

髪

 

服

 

顔

 

立ち位置

 

また一つ、人影を増やす

 

さらにもう一人

 

「…………」

 

気付けば五人になっていた

 

中央には仮面を付けた男

 

その隣には長い髪の女性

 

少し離れた場所には、勢いのある青年と儚げな少女

 

そして、その四人と一緒にいる一人の少女

 

「ハク」

 

「ん?」

 

クオンが手を止め、俺の机を覗き込んでいた

 

「それ、何作ってるの?」

 

「…………」

 

言われて、初めてちゃんと見る

 

「…………」

 

オボロ

 

ユズハ

 

ハクオロ

 

エルルゥ

 

クオン

 

五人が、一緒にいる

 

何でだ

 

いや

 

何で俺、何も考えずにこれ作ってんだ?

 

ここ数日のことまで考えると――

 

「…………うっ」

 

「ハク!?」

 

クオンがぎょっとする

 

「どうしたん?」

 

葵(あおい)までこちらを見る

 

「何でもない……」

 

「絶対何でもない顔じゃないよ?」

 

「ちょっと胃が」

 

「紙粘土で?」

 

「俺にも分からん」

 

駄目だ

 

深く考えるな

 

今、穴を掘るな

 

これは俺が元々知ってる連中だ

 

だから頭に浮かんだ

 

そういうことにしておけ

 

終了

 

解散

 

閉廷

 

「でも……」

 

クオンの声に、もう一度顔を上げる

 

クオンは俺ではなく、五人の群像を見ていた

 

「何だろう」

 

「ん?」

 

「これ……好きかも」

 

「……これが?」

 

「うん」

 

クオンが少し屈み込む

 

その視線は五人を順番に追って、最後に紙粘土で作った少女のところで止まった

 

「なんかね、見てると落ち着く」

 

「…………」

 

やめろ

 

今その方向から攻めてくるな

 

俺の胃がまだ立ち直ってない

 

「ハク」

 

「何だ」

 

「あとで、これに色つけてくれない?」

 

「色?」

 

「うん」

 

クオンが俺を見る

 

「それで、私(わたくし)にくれない?」

 

「…………これを?」

 

「これ」

 

「何で?」

 

「分かんない」

 

「分かんないのかよ」

 

「うん」

 

なのに迷いなく頷いた

 

「でも、欲しい」

 

「…………」

 

理由は分からない

 

けど欲しい

 

そういうことらしい

 

なるほど

 

じゃあそういうことにしておこう

 

考えるな俺

 

「……まあ、いいけど」

 

「本当?」

 

「ああ、乾かしてからな、色もちゃんとつけてやるよ」

 

「ありがとう、ハク」

 

ぱっと笑顔になるクオン

 

そんなに欲しかったのか

 

まあ、喜んでるならいい

 

「おや、大神くん」

 

「はい?」

 

声の方を見ると、いつの間にか先生が俺の机のそばまで来ていた

 

そして、紙粘土の五人を見て目を丸くする

 

「これは……随分と丁寧に作りましたね」

 

「そうですか?」

 

「ええ、五人それぞれの表情も、服装もよく出来ています」

 

先生が少し屈んで、作品を眺める

 

「それに、ただ五人を並べたわけじゃないんですね」

 

「え?」

 

「一緒にいるのが自然に見えるんです、まるで本当の家族みたいですね」

 

「…………」

 

家族

 

その単語を聞いた途端、また余計なことを考えそうになる

 

駄目だ

 

考えるな

 

先生の声を聞きつけた男子が、こちらを覗き込んできた

 

「おお、大神の作品すげぇ!」

 

「うわ、細かっ!」

 

「これ全部作ったの?」

 

「五人セットっていいね!」

 

「真ん中の仮面の人、カッコいい!」

 

「こっちの女の子も可愛い!」

 

気付けば、何人かの生徒が俺の机の周りに集まっていた

 

「なあ大神、これ――」

 

男子の一人が作品を指差す

 

「もしよかったら、俺に――」

 

その瞬間だった

 

「…………」

 

隣でクオンが微笑んだ

 

ただ、それだけ

 

……のはずなんだが

 

「…………っ」

 

何だ?

 

今、何かとんでもない圧力が来なかったか?

 

「…………」

 

「…………」

 

何故か全員が口を閉じた

 

さっきまで騒いでいた男子も女子も、誰一人として続きを言わない

 

クオンはにこにこ笑っている

 

本当に、いつも通りの笑顔だ

 

「これね」

 

クオンが五人の紙粘土を指差す

 

「ハクが私(わたくし)にくれるって、約束してくれたの」

 

「…………」

 

「ね、ハク?」

 

「あ、ああ……」

 

何となく背筋を伸ばして答えてしまった

 

「色も塗ってくれるんだよね?」

 

「……もちろん」

 

「うん!」

 

嬉しそうに頷くクオン

 

「…………」

 

「…………」

 

誰も何も言わない

 

ただ、互いの顔を見合わせたあと、一人、また一人と自分の席へ戻っていった

 

「…………」

 

何だったんだ、今の

 

「クオン」

 

「なあに?」

 

「……いや、何でもない」

 

「そう?」

 

クオンは不思議そうに首を傾げていた

 

その笑顔を見ながら、俺は一つだけ確信した

 

あの作品については、もう誰にも譲れない

 

……というか、譲る選択肢自体が最初から存在しなかった気がする

 

それ以上考える必要は――

 

「ハク!」

 

「今度は何だ」

 

「俺も出来たぞ!」

 

イッセーが勢いよく顔を上げた

 

「何が――」

 

その机の上を見て、俺は止まった

 

「…………」

 

仮面

 

特徴的な鎧

 

腰の刀

 

片手に持った鉄扇

 

そして、その立ち姿

 

忘れるはずがない

 

あの時の――

 

俺だ

 

「……イッセー」

 

「ん?」

 

「ちょっと顔貸せ」

 

「何だよ」

 

周りに聞こえないよう、イッセーへ顔を寄せる

 

「何作ってんだよ」

 

「何って、あの時の――」

 

「声」

 

「あっ」

 

イッセーが口を押さえた

 

そうだよ

 

ここ普通の教室だからな?

 

悪魔も神器も堕天使も知らない奴が普通にいるんだからな?

 

「……で、何でこれなんだ」

 

「先生が頭に浮かんだものを作れって言っただろ?」

 

「ああ」

 

「だから」

 

「だから何でこれなんだよ」

 

「……あの時のお前が頭に焼き付いててさ」

 

「…………」

 

「いや、マジで凄かったから」

 

「それ以上言うな」

 

「あ、悪い」

 

「今日は静かに生きたいんだよ」

 

「でも本当にカッコよかったぞ?」

 

「…………うっ」

 

「また胃!?」

 

「声!」

 

「あ、悪い」

 

何なんだ今日は

 

紙粘土の授業だぞ

 

「何それ?」

 

近くの男子がイッセーの机を覗き込んだ

 

そして一瞬で目を輝かせる

 

「うおっ! カッケー!」

 

終わった

 

「何何?」

 

「すげぇ!」

 

「仮面の剣士じゃん!」

 

「鎧細けぇ!」

 

「その扇も武器なの?」

 

「刀も持ってんじゃん!」

 

男子が寄ってくる

 

その声につられて、今度は女子まで集まり始めた

 

「え、何これ!」

 

「カッコいい!」

 

「この仮面いい!」

 

「顔ほとんど見えないのに何か格好いいんだけど!」

 

「設定ありそう!」

 

設定はある

 

かなりある

 

でも絶対説明出来ない

 

「……兵藤くん」

 

「はい?」

 

先生までイッセーの机を覗き込んできた

 

「これは……!」

 

先生の目が大きく見開かれる

 

「鎧の細部まで、よく作り込んでありますね!」

 

「そ、そうですか?」

 

「ええ! 大神くんが作った五人の像も素晴らしかったですが、こちらも見事ですよ!」

 

先生が感心したように何度も頷く

 

「こんな才能が二人も隠れていたなんて……!」

 

「せ、先生?」

 

「少し感動してしまいました」

 

……何故か先生の目元が潤んでいる

 

そこまでか?

 

紙粘土だぞ?

 

英語の授業の

 

「いやぁ、兵藤くん。素晴らしい作品です!」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

褒められたイッセーは照れ臭そうに笑う

 

まあ、確かに出来はいいんだよな

 

出来が良すぎて俺の胃が痛いだけで

 

「イッセー、これ誰?」

 

「え?」

 

イッセーの視線が一瞬こっちへ向く

 

見るな

 

こっちを見るんじゃない

 

「……想像」

 

「想像?」

 

「まあ、そんな感じ」

 

よし

 

今だけは褒めてやる

 

「でも妙に細かくない?」

 

「鎧とかすごいリアル」

 

「イッセーってこういうの作れたんだ」

 

「俺も今びっくりしてる」

 

本人もかよ

 

人垣が少しずつ大きくなる

 

そんな中、瑠璃(るり)まで席を立って近付いてきた

 

「イッセーさん、少し見せていただいてもよろしいですか?」

 

「いいけど」

 

「ありがとうございます」

 

瑠璃(るり)が机の上を覗き込む

 

「…………」

 

止まった

 

何だ

 

その目

 

ものすごく真剣なんだけど

 

「……素晴らしいです」

 

「お、分かるか?」

 

「はい」

 

そこまでは良かった

 

瑠璃(るり)が僅かに頬を染めながら、ぼそっと呟く

 

「この方……新刊に使えます」

 

「…………」

 

「…………」

 

イッセーと俺が同時に固まった

 

「今、何て?」

 

「い、いえ!」

 

瑠璃(るり)が我に返る

 

「何でもありません!」

 

「今、新刊って言ったよな?」

 

「聞き間違いです!」

 

聞こえた

 

めちゃくちゃはっきり聞こえた

 

「何の新刊?」

 

「イッセーさん」

 

「はい」

 

「世の中には、知らなくてもいいことがあるのです」

 

「何か怖ぇよ!?」

 

俺も怖い

 

ものすごく怖い

 

しかも何となく掘り下げちゃいけない種類の怖さだ

 

「じゃあイッセー、それ俺にくれよ!」

 

一人の男子が手を上げた

 

「は?」

 

「俺も欲しい!」

 

「ちょっと待って、私も!」

 

「部屋に飾りたい!」

 

「資料にしたい!」

 

「資料って何の!?」

 

「私も欲しい!」

 

「でしたら私も!」

 

「瑠璃(るり)!?」

 

「欲しいものは欲しいです!」

 

開き直った

 

「じゃあ誰にやればいいんだよ!」

 

イッセーが像を守るように両手を置く

 

「俺、千円!」

 

「え!? 金出すの!?」

 

「二千!」

 

「じゃあ三千!」

 

「ちょっと待って、私も出す!」

 

「四千!」

 

「五千!」

 

「お前らマジか!?」

 

何故かオークションが始まった

 

しかも男子女子関係ない

 

「カッケーから欲しい!」

 

「このデザイン普通に飾れる!」

 

「写真でもいいから欲しい!」

 

「新刊に使える!」

 

「今の誰だ!?」

 

俺が反射的に声の方を見る

 

瑠璃(るり)が、すっと視線を逸らした

 

「…………」

 

「…………」

 

「瑠璃(るり)」

 

「何も言っていません」

 

「俺まだ何も聞いてないぞ」

 

「…………」

 

確定じゃねぇか

 

「じゃあ六千!」

 

「七千!」

 

「待って待って! これ俺が作ったやつだからな!?」

 

イッセーの悲鳴を聞きながら、俺は机の上の像を見る

 

止めたい

 

ものすごく止めたい

 

というか頼むから売らないでくれ

 

でも

 

何で止めたいのか説明出来ない

 

まさか

 

それ、俺だから売るな

 

なんて言えるわけがない

 

「…………うっ」

 

「ハク!?」

 

隣のクオンが慌てて俺の背中へ手を添える

 

「また胃?」

 

「今回は……ちょっと深い……」

 

「大丈夫?」

 

「大丈夫じゃない」

 

「紙粘土だよ?」

 

「そうだな……」

 

紙粘土だな

 

英語の授業の

 

紙粘土だ

 

なのに何で俺は、自分の秘密がオークションに掛けられてるのを黙って眺めてるんだ

 

「九千!」

 

「一万!」

 

「値段上げるな!」

 

「写真だけでも!」

 

「私も!」

 

「新刊――」

 

「瑠璃(るり)!」

 

「まだ何も言ってません!」

 

もう嫌だ

 

「イッセー」

 

「何だよ!」

 

「とりあえずそれ、売るな」

 

「何で!?」

 

「……何となくだ」

 

「さっき俺が想像で作ったって言った時と同レベルの説明じゃねぇか!」

 

「察しろ!」

 

「無茶言うな!」

 

周囲から笑い声が上がる

 

先生までイッセーの作品を見ながら、感心したように頷いている

 

……先生

 

止めないんですか

 

もう一万円まで行ってるんですけど

 

教室の後ろでは、保護者たちまで何事かとこっちを見ていた

 

ただ一人、イッセーの親父さんだけは騒ぎなど気にせず、アーシアへビデオカメラを向け続けている

 

強いな、あの人

 

「ハク」

 

「ん?」

 

クオンが俺の作った五人の群像を指差す

 

「こっちはちゃんと私(わたくし)にちょうだいね」

 

「ああ」

 

「色も」

 

「分かってるよ」

 

「約束ね」

 

「約束」

 

それで満足したらしく、クオンが笑った

 

俺はその笑顔を見てから、机の上へ視線を落とす

 

俺が何も考えずに作った五人

 

そちらはクオンの笑顔ひとつで、誰も欲しいと口にできなかった

 

横では、イッセーが作ったもう一人の俺を巡って続く競り

 

その競りに妙に本気で参加している瑠璃(るり)

 

「…………」

 

考えるな

 

何も繋げるな

 

今日はそれでいい

 

頼むぞ

 

カンタン白(はく)くん

 

今ここで仕事を放棄したら、俺の胃が本当に死ぬ




お読みいただきありがとうございました!

ハクが無意識に作った五人の群像と、それをどうしても欲しかったクオン

一方で、イッセーが作ったオシュトル像はまさかのオークションに……

同じ紙粘土なのに、えらい違いですねw

そして、カンタン白くんは今日も絶賛稼働中です

……いつまで保つんでしょうね、彼の胃は

今回のお話で気になった場面や、前話からの繋がりについての感想など、いただけるととても嬉しいです!

それでは、また次回!
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