ハイスクールDxD 〜うたわれるもの〜   作:フォートナー

35 / 36
更新が1日空いてしまい、申し訳ありません!

仕事が少々立て込んでおりまして、予定どおりに投稿することができませんでした。

更新をお待ちくださっていた皆さま、ありがとうございます!

さて、今回は前回から引き続き授業参観回です!

午前中だけでも散々な目に遭ったハクですが、どうやら午後も平穏には過ごせそうにありません。

果たして、ハクの胃に安息の日は訪れるのでしょうか……?

それでは、どうぞお楽しみください!


Life . 34 魔法少女です!親バカです!今夜も面接です!?

 

 昼休み

 

 午前中の公開授業を終え、ようやく一息つける時間になった

 

 ……はずだったんだが

 

「なあハク、お前さっきから何回溜息吐いてんだよ」

 

「数えてないな」

 

「少なくとも五回は聞いたぞ?」

 

「そうか、じゃあ六回目だ」

 

 俺がもう一度溜息を吐くと、イッセーは呆れたように笑った

 

 まあ、原因は分かっている

 

 あの紙粘土だ

 

 何も考えずに手を動かしていたら出来上がっていた五人の群像

 

 オボロ、ユズハ、ハクオロ、エルルゥ、そしてクオン

 

 乾燥させて色を塗った後、クオンに渡す約束になっている

 

 ……どうしてこの五人だったのか、俺自身にもよく分からない

 

 ただ、作っている時は妙に手が馴染んだんだよな

 

 まあ、そっちはいい

 

 問題はイッセーが作った仮面の男の像だ

 

 よりによって、オシュトルの姿をあそこまで正確に再現しやがった

 

 しかもクラス中の注目を集めた挙げ句、最後には一万円という金額まで飛び出したんだぞ!?

 

 ……おかしいだろ

 

 ただの紙粘土だぞ!?

 

 もちろん、実際に売れたわけじゃない

 

 誰かが一万円で買いたいと言い出しただけだ

 

 ……いや、それでも十分おかしいんだけどな!?

 

「それにしても、すごかったですよね」

 

 隣を歩いていたアーシアが楽しそうに笑った

 

「イッセーさんの作品、皆さんとても欲しがっていました」

 

「俺もあそこまで騒ぎになるとは思わなかったぜ」

 

「……なあ、イッセー」

 

「ん?」

 

「あれ、勝手に誰かに売ったりするなよ?」

 

「分かってるって! まだ売るなんて決めてねぇよ」

 

「……ならいい」

 

「そんなに気にするか?」

 

「するに決まってるだろ」

 

「あー……まあ、そうだよな」

 

 イッセーは苦笑すると、それ以上追及してこなかった

 

 こいつは俺の事情を知っているからな

 

 ……頼むから、これ以上余計なものを作らないでくれよ?

 

「しかし、見事なものだったな」

 

 隣から声がした

 

 ゼノヴィアだ

 

 午前中の片付けを終えてから合流したらしく、俺たちと一緒に廊下を歩いている

 

「イッセーにあれほど造形の才能があるとは思わなかった」

 

「おう! もっと褒めてもいいんだぜ!」

 

「だが、売るかどうかは本人の自由だろう?」

 

「……ああ、そこなんだよな」

 

 ゼノヴィアの言うことは正しい

 

 正しいんだが……

 

「俺としては、売らないでほしいんだよ」

 

「理由は?」

 

「……察してくれ」

 

「分からん」

 

「だろうな!」

 

 ……何でだよ

 

 何でこんなに堂々と自分の姿を売られる心配をしなきゃいけないんだ!?

 

 そんな話をしながら自動販売機へ向かうと、見覚えのある三人が立っていた

 

「あら、イッセー」

 

「部長!」

 

 リアス先輩と朱乃、それに祐斗だった

 

「やあ、イッセー君、ハク君。授業お疲れさま」

 

「ああ、祐斗もお疲れ」

 

「随分賑やかだったみたいね」

 

 リアス先輩が微笑む

 

「あなたの作品が随分人気だったそうじゃない」

 

「あ、聞いてたんですか?」

 

「ええ。朱乃からも聞いたわ」

 

「うふふ、イッセーにあんな特技があるとは思いませんでしたわ」

 

 朱乃が口元に手を当てて微笑んでいる

 

 ……おい、待て

 

 その笑顔、絶対に何か企んでるだろ

 

「いやぁ、そこまで大したもんじゃ……」

 

「そんなことないわ。今度は私の像も作ってもらえないかしら?」

 

「えっ!? 部長のですか!?」

 

「ええ、駄目?」

 

「い、いや! もちろん作ります!」

 

「あらあら。それなら、私もお願いしようかしら?」

 

「朱乃まで!?」

 

「うふふ、私の分も、ね?」

 

「わ、分かりました!」

 

 ……ああ、うん

 

 こいつの趣味が思わぬところで役立ってるな

 

 まあ、またオシュトルの像を作り出すよりはずっといい

 

「それより、皆はもう聞いたかい?」

 

 祐斗が廊下の先へ目を向けた

 

「ん? 何をだ?」

 

「向こうで魔女っ子の撮影会をやっているらしいんだ」

 

「魔女っ子?」

 

 イッセーが首を傾げた

 

 そして、何かを思い出したように動きを止める

 

「…………」

 

「どうした、イッセー?」

 

「……なあ、ハク」

 

「ん?」

 

「まさか、ミルたんじゃないよな?」

 

「…………」

 

 ……あ

 

 そう来たか

 

「えっと、ミルたんさんですか?」

 

 アーシアまで首を傾げている

 

「懐かしいですね。またお会いできたら嬉しいです」

 

「アーシア!?」

 

 イッセーがぎょっとした顔になる

 

「いや、いい人だったけどさ! あの人と会うと朝まで帰れなくなるんだよ!」

 

「ふふっ、魔法少女のお話、とても面白かったですよ」

 

「それはそうだけど!」

 

 ……ああ

 

 そうだったなぁ

 

 こいつら、悪魔の仕事でミルたんのところへ行った挙げ句、朝まで魔法少女アニメを見て帰ってきたんだった

 

 翌日の部室で、その報告を聞いた時のリアス先輩の顔は忘れられない

 

「……あの時のことは、まだ覚えているわよ」

 

 当のリアス先輩が、こめかみを押さえた

 

「部長!?」

 

「契約は成立しなかったのに、徹夜でアニメを見ていたんでしょう?」

 

「うっ……」

 

「うふふ、懐かしいですわね」

 

 朱乃は完全に楽しんでいる

 

「ミルたんとは誰だ?」

 

 ゼノヴィアが尋ねてきた

 

「……説明すると長くなる」

 

 俺が答えると、イッセーが大きく頷いた

 

「そうなんだよ! すっげぇ長くなるんだよ!」

 

「そうか。なら後で聞こう」

 

「……聞くのかよ!」

 

 ……うん

 

 こいつ、たぶん本当に後で聞くぞ

 

「まあ、今回は別の人だと思うよ」

 

 祐斗が苦笑した

 

「随分と人が集まっているみたいだしね」

 

「……そっか」

 

 イッセーが少し安心したように息を吐く

 

 ……おい

 

 さっきまで魔女っ子に食いつく気満々だったくせに、何でそんなに警戒してるんだよ

 

「イッセー、気になるの?」

 

 リアス先輩が尋ねる

 

「そりゃあ、まあ! ミルたんじゃないなら、ちょっと見てみたいです!」

 

「……まったく、あなたって子は」

 

「あらあら、男の子ですものね」

 

 ……うん

 

 いつもの光景だな

 

 そんなことを考えていると、廊下の向こうからクオンたちがやってきた

 

「ハク」

 

「ん?」

 

「見つけた」

 

 クオンがにこりと笑った

 

 その隣には瑠璃(るり)と葵(あおい)もいる

 

「さっきのお人形、ちゃんと色を塗ってくれるんだよね?」

 

「ああ、約束したからな」

 

「ふふっ、楽しみ」

 

 クオンが嬉しそうに笑う

 

 その隣では瑠璃(るり)が何やら楽しそうに考え事をしていた

 

 ……こっちはこっちで、別の意味で心配なんだよなぁ

 

「なあなあ、おにーさん」

 

「ん?」

 

「向こう、なんか賑やかやねぇ」

 

 葵(あおい)が人の集まっている方を指差した

 

「ああ、撮影会をやってるらしいぞ」

 

「撮影会?」

 

「魔女っ子の格好をした人がいるんだってさ!」

 

 イッセーが嬉しそうに答える

 

「ほえ〜! それは見てみたいなぁ!」

 

「だろ!?」

 

「……イッセー」

 

「何だよ、ハク」

 

「さっきまでミルたんの心配してただろ」

 

「別の人ならいいじゃねぇか!」

 

 ……切り替え早いな、お前

 

「少しだけなら、見に行ってもいいんじゃないかしら」

 

 リアス先輩が小さく息を吐いた

 

「ただし、午後の授業には遅れないこと」

 

「はい!」

 

 イッセーが勢いよく返事をする

 

 ……よし

 

 その返事を午後の授業でも見せてくれよ?

 

 俺たちは人の集まっている場所へ向かった

 

 ……まだ昼飯を食ってないんだけどな

 

 まあ、ちょっと見るだけなら大丈夫だろう

 

 そう思っていたんだが――

 

─────────────────────────

 

「みんなー! 今日もレヴィアたんを応援してねー!」

 

 ……いた

 

 いたよ

 

 想像していた以上に、いた

 

 派手な魔法少女衣装を身にまとった女性が、廊下の一角で満面の笑顔を浮かべてポーズを決めている

 

 周囲にはカメラを構えた生徒たちが集まり、歓声が上がっていた

 

「うおおおお!」

 

「こっち向いてくださーい!」

 

「レヴィアたーん!」

 

 ……ああ

 

 うん

 

 間違いないな

 

 セラフォルー・レヴィアタン

 

 四大魔王の一人

 

 そして、支取会長ことソーナ・シトリーの姉

 

 ……よりによって、こんなところで何をしてるんだよ

 

 いや、原作で知ってはいたんだけどさ

 

 実際に目の前にすると、何とも言えない気分になるな

 

「おおっ! すげぇ!」

 

 隣でイッセーが目を輝かせている

 

「何だよ、あの人! めちゃくちゃ可愛いじゃねぇか!」

 

「……まあ、そうだな」

 

「よかったぁ……」

 

「……何がだ?」

 

「ミルたんじゃなくて」

 

「……お前なぁ」

 

 確かに、あの人とは随分違うけどさ

 

 ……いや

 

 考えてみれば、どっちも魔法少女に対する情熱は本物なんだよな

 

 そういう意味では、妙な共通点があるのかもしれない

 

「イッセーさん、とっても綺麗な方ですね」

 

 アーシアが微笑む

 

「ああ、そうだな!」

 

「……魔法少女というのは、ああいう格好をするものなのか?」

 

 ゼノヴィアが真顔で尋ねる

 

「……作品によると思うぞ」

 

 俺が答えると、ゼノヴィアは納得したように頷いた

 

「なるほど。奥が深いのだな」

 

 ……いや、そこで納得するのか

 

「ほえ〜! あのお姉さん、すごい格好やねぇ!」

 

 葵(あおい)が興味津々で見つめていた

 

「おにーさん、あれ何なん?」

 

「……魔法少女の衣装、かな」

 

「うひひ! 綺麗やねぇ!」

 

 ……うん

 

 そういう素直な感想で済ませられるのは、ある意味羨ましいぞ

 

「……ハク」

 

「ん?」

 

 クオンが小さな声で呼びかけてきた

 

「もしかして、あの人……」

 

「……何か感じたか?」

 

「うん。普通の人とは、ちょっと違うかな」

 

 ……鋭いな、お前

 

 ただ、ここで正体を説明するわけにもいかない

 

 周りは普通の生徒ばかりだからな

 

「……後でな」

 

「うん」

 

 クオンはそれ以上追及せず、小さく頷いた

 

 その時だった

 

「……何をしているんですか」

 

 聞き慣れた、冷静な声がした

 

 振り返ると、支取会長が立っていた

 

 その後ろには、紅い髪の男性が二人

 

 一人は穏やかな笑みを浮かべた、落ち着いた雰囲気の男性

 

 もう一人は、同じく紅髪の、堂々とした立ち姿の男性だった

 

 ……サーゼクスとグレモリー卿か

 

 どちらも以前、直接会ったことがある

 

 サーゼクスとは、ついこの間も部室で話したばかりだ

 

 それに、あの時サーゼクスは授業参観に来る気満々だったしな

 

「会長!」

 

 人の整理をしていた匙が、ほっとした顔をする

 

「申し訳ありません! 人が増えてしまって――」

 

「状況は見れば分かります」

 

 支取会長は短く答えると、撮影会の中心へ視線を向けた

 

 そして

 

「…………」

 

 止まった

 

 ……ああ

 

 気持ちは分かるぞ、会長

 

「あっ!」

 

 魔法少女姿の女性が、こちらに気付いた

 

 その瞬間、顔がぱっと明るくなる

 

「ソーナちゃーん!」

 

「…………っ!」

 

 支取会長の肩がびくりと震えた

 

「お姉ちゃん、会いに来たよー!」

 

 ……ああ

 

 始まってしまった

 

 セラフォルーは撮影会など忘れたように駆け寄ると、支取会長へ勢いよく抱きつこうとした

 

「姉さま! おやめください!」

 

「ええー! 何でー!?」

 

「ここは学校です!」

 

「だから来たんじゃない! 可愛い妹の授業参観だもの!」

 

「ですから、その格好で来ないでくださいと何度も!」

 

 ……うん

 

 すごいな

 

 普段はあれほど落ち着いている支取会長が、完全に振り回されている

 

「なあ、ハク」

 

「……ん?」

 

 イッセーが小声で尋ねてきた

 

「あの人、会長のお姉さんなのか?」

 

「……みたいだな」

 

「すげぇ美人だよな」

 

「……まあな」

 

「でも、会長があんなに慌ててるの、初めて見たぜ」

 

「……俺も、あそこまでとは思わなかったよ」

 

 原作で知っていたとはいえ、実際に目の前で見ると破壊力が違う

 

「……大変そうだね、会長さん」

 

 クオンがぽつりと呟いた

 

「……ああ」

 

「お姉さん、会えて嬉しいんだろうけど」

 

「……嬉しすぎるんだろうな」

 

 たぶん、それが一番正確な説明だと思う

 

「ソーナちゃん、ほらほら! 一緒に写真撮ろうよ!」

 

「撮りません!」

 

「ええー!? せっかくお姉ちゃんが来たのにー!」

 

「お願いですから、少しは落ち着いてください!」

 

「あらあら……」

 

 朱乃が口元に手を当てて微笑んだ

 

「相変わらずですわね」

 

「……ええ」

 

 リアス先輩が小さく息を吐く

 

 ……ああ、そうか

 

 この二人からすれば、見慣れた光景なんだろうな

 

「あっ、リアスちゃん!」

 

 セラフォルーが、今度はこちらへ顔を向けた

 

「久しぶりー!」

 

「お久しぶりです、セラフォルーさま」

 

「朱乃ちゃんも元気だったー?」

 

「はい、おかげさまで」

 

「もう! リアスちゃんたちまで来てるなら、教えてくれればよかったのにー!」

 

「姉さま、今はそういう話ではありません!」

 

 会長が額に手を当てている

 

 ……ああ

 

 頑張れ、会長

 

「ところで、セラフォルーさま」

 

 リアス先輩が少し困ったように尋ねた

 

「今日はどうして、このような格好を……?」

 

「もちろん、可愛いソーナちゃんのためよ!」

 

「姉さま!」

 

「それに、レヴィアたんの可愛さをみんなに知ってもらう絶好の機会じゃない!」

 

 ……なるほど

 

 そういう理屈か

 

 いや、分かるような分からないような……

 

「セラフォルー」

 

 その時、サーゼクスが穏やかな声をかけた

 

「おや、サーゼクスちゃん!」

 

「楽しんでいるようだね」

 

「もちろん!」

 

「それは何よりだけど、ソーナ君が困っているよ?」

 

「ええー!? ソーナちゃん、お姉ちゃんが来て嬉しくないの!?」

 

「そういう問題ではありません!」

 

 ……駄目だ

 

 会話が一周して元に戻ったぞ

 

 グレモリー卿は、そんな二人を見ながら苦笑していた

 

「やれやれ、相変わらず賑やかだね」

 

「ええ、お父さま」

 

 リアス先輩が頷く

 

 ……それにしても

 

 魔王二人とグレモリー家の当主が学校の廊下に揃っているんだぞ?

 

 普通に考えれば、とんでもない光景だ

 

 もっとも、そのうち一人が魔法少女姿で妹に抱きつこうとしているせいで、まったく威厳を感じないんだけどな

 

 ふと、サーゼクスがこちらへ目を向けた

 

「やあ、白君」

 

「あ、お久しぶりです」

 

「この前はどうも。今日は楽しめているかな?」

 

「……午前中から色々ありすぎまして」

 

「ははは。それは何よりだね」

 

「……何よりなんですか?」

 

「賑やかな学校生活というのは、いいものだからね」

 

 ……ああ

 

 この人も、ある意味ブレないなぁ

 

「あっ、リアスはんのお兄さんや!」

 

 葵(あおい)もサーゼクスに気付いたらしい

 

「ハッハッハ、葵君も元気そうだね」

 

「うん! 元気なんよ!」

 

 そういえば、この二人も少し前に部室で顔を合わせているんだったな

 

 サーゼクスは葵(あおい)へ穏やかに微笑むと、再びリアス先輩へ視線を戻した

 

「あれ?」

 

 その時、セラフォルーがイッセーの方へ顔を向けた

 

「リアスちゃん、その子は?」

 

「ああ、紹介がまだでしたね」

 

 リアス先輩が微笑んだ

 

「兵藤一誠です。私の後輩で、オカルト研究部の部員なんです」

 

「兵藤一誠です! よろしくお願いします!」

 

 イッセーが慌てて頭を下げる

 

「イッセー君、ね?」

 

 セラフォルーがイッセーの顔を覗き込んだ

 

「あなたが噂のイッセー君なんだぁ!」

 

「う、噂……ですか?」

 

「うん! リアスちゃんから色々聞いてるよ!」

 

「ぶ、部長から!?」

 

 イッセーがぱっと顔を明るくした

 

「部長! 俺のこと、話してくれてたんですか!?」

 

「ええ、もちろんよ」

 

 リアス先輩が微笑む

 

 ……うん

 

 今のイッセー、すごく嬉しそうだな

 

 ただ、その相手が誰なのかを知ったらどうなるんだろうな

 

 そんなことを考えていると、リアス先輩がセラフォルーへ何かを耳打ちした

 

「……あっ、なるほど!」

 

 セラフォルーがイッセーを見直す

 

「そういうことね!」

 

「え?」

 

 すると、セラフォルーはイッセーの耳元へ顔を寄せ、何かを小さく囁いた

 

 内容までは聞こえなかったが、イッセーの表情が変わった

 

「――っ!」

 

 ……ああ

 

 どうやら、普通の挨拶では済まなかったらしい

 

「え、あの……どうして……」

 

「ふふっ、詳しい話はまた今度ね!」

 

 セラフォルーは悪戯っぽく笑うと、くるりと回転した

 

「改めまして!」

 

 今度は周囲の生徒たちにも聞こえる声で、ポーズを決める

 

「私はセラフォルー! レヴィアたんって呼んでねー!」

 

 歓声が上がった

 

「レヴィアたーん!」

 

 ……ああ

 

 はい

 

 そう来ましたか

 

「……なあ、ハク」

 

「ん?」

 

 イッセーが俺へ身を寄せた

 

「今の名前、どこかで聞いたことあるような……」

 

 その呟きに、リアス先輩がこちらへ視線を向けた

 

 周囲に生徒が集まっているのを確かめると、イッセーの耳元へ顔を寄せる

 

「……イッセー」

 

「はい?」

 

「あの方は、四大魔王の一人、レヴィアタンさまよ」

 

「…………」

 

 イッセーが固まった

 

 一拍置いて、その目がみるみる大きくなる

 

「ま、まお――」

 

「イッセー」

 

 俺は即座に声をかけた

 

「その話は後でな」

 

「……っ!」

 

「ここ、人が多いだろ」

 

 イッセーは開きかけた口を慌てて閉じた

 

 周囲を見回し、何度か小さく頷く

 

「……あ、ああ。そうだよな」

 

 ……危なかった

 

 あのまま叫んでいたら、何人が振り返ったことやら

 

 それにしても、気持ちは分かるぞ

 

 目の前で魔法少女の格好をしている女性が、四大魔王の一人だと知ったんだからな

 

 ……いや、本当にすごい光景だよなぁ

 

「イッセー君!」

 

「は、はいっ!」

 

 再び名前を呼ばれたイッセーが飛び上がる

 

「そんなに緊張しなくていいよー!」

 

「い、いえ!」

 

「ふふっ、いい子だねぇ!」

 

 セラフォルーが楽しそうに笑う

 

 ……ああ

 

 今のイッセーには、さっきまでとはまるで違って見えてるんだろうな

 

「リアスちゃん、面白い子だね!」

 

「ええ、自慢の後輩ですから」

 

「部長ぉぉぉ!」

 

 ……うん

 

 結局、いつものイッセーに戻ったな

 

「それで、そちらの子たちは?」

 

 セラフォルーが今度は俺たちへ視線を向けた

 

「ああ、こちらは大神白です」

 

 リアス先輩が俺を紹介する

 

「同じくオカルト研究部で、一緒に活動している後輩です」

 

「初めまして、大神白です」

 

 俺は軽く頭を下げた

 

「へぇ、ハク君っていうんだ!」

 

「はい」

 

「よろしくね!」

 

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 

 ……よし

 

 普通に挨拶できたな

 

「それにしても、リアスちゃんの周りは賑やかだね!」

 

 セラフォルーの視線が、クオンたちへ移った

 

「そちらの子たちも、お友達?」

 

「はい」

 

 クオンが一歩前へ出て、にこりと笑った

 

「戸倉久遠(とくら くおん)です。よろしくお願いします」

 

「わあ、よろしくね、クオンちゃん!」

 

「わ、私は久住瑠璃(くじゅう るり)と申します。よろしくお願いいたします」

 

 瑠璃(るり)も丁寧に頭を下げる

 

「ルリちゃんね! よろしくー!」

 

「ウチは潮路葵(しおじ あおい)言います! よろしくなんよ!」

 

 最後に葵(あおい)が元気よく挨拶すると、セラフォルーはぱっと顔を輝かせた

 

「わあ! みんな可愛い!」

 

「ありがとうございます」

 

 クオンが楽しそうに微笑む

 

「ほえ〜! お姉さんも綺麗やねぇ!」

 

「ありがとー!」

 

 セラフォルーがますます嬉しそうに笑った

 

 ……ああ

 

 この二人、妙に相性がよさそうだな

 

「姉さま!」

 

 支取会長が再び声を張り上げた

 

「もう十分でしょう! そろそろ撮影会を終わらせてください!」

 

「ええー!? まだソーナちゃんと写真撮ってないよ!?」

 

「撮りません!」

 

「一枚だけ!」

 

「駄目です!」

 

「じゃあ二枚!」

 

「増やさないでください!」

 

 ……ああ

 

 うん

 

 やっぱり会長にとっては、勝てない相手なんだろうな

 

 いや、力の話じゃなくて、家族としての話だぞ?

 

 もっとも、実際の力だって恐ろしい人なんだけどさ

 

 あの明るい笑顔の向こうにあるものを考えると、どうにも複雑な気分になる

 

「……ハク」

 

「ん?」

 

 クオンが小さく笑っていた

 

「何?」

 

「……いや、何でもないよ」

 

 ……何だろう

 

 今、ちょっと嫌な予感がしたぞ

 

 もしかして、俺が猫音(ねこね)に甘いとか考えてるんじゃないだろうな?

 

 ……いや

 

 違うよな?

 

 そんな俺の内心など知るはずもなく、クオンは楽しそうに笑っていた

 

「だから、姉さま!」

 

「もう、ソーナちゃんってば厳しいんだから!」

 

「厳しくしているのは誰のせいですか!」

 

「えへへ!」

 

 ……笑って誤魔化したぞ

 

 しかも、次の瞬間

 

「あっ! そうだ! まだ向こうでも写真を撮ってもらってないんだった!」

 

「……姉さま?」

 

「それじゃあ、ソーナちゃん! またねー!」

 

「お待ちください!」

 

 セラフォルーが駆け出した

 

 魔法少女衣装の裾を翻しながら、廊下の向こうへ走っていく

 

「姉さま! 逃げないでください!」

 

 支取会長がその後を追った

 

 ……おお

 

 本当に行っちまった

 

 しかも、会長まで

 

 取り残された生徒たちの間から、呆然とした声と笑い声が上がっている

 

 匙は両手で顔を覆っていた

 

 ……お疲れさま

 

 本当にお疲れさま

 

「……すごかったな」

 

 イッセーがぽつりと呟いた

 

「……ああ」

 

「会長、あんなに走る人だったんだな」

 

「……まあ、家族相手じゃ仕方ないんだろうな」

 

 ……それにしても

 

 四大魔王の一人が妹から逃げ回る光景って、どう考えてもおかしいだろ

 

 俺たちが呆然としていると――

 

「リアたん」

 

「…………っ!?」

 

 今度はリアス先輩の肩が跳ねた

 

 ……ん?

 

 今、誰か妙な呼び方をしたような……

 

「リアたん、今日も元気そうで何よりだよ」

 

 声の主はサーゼクスだった

 

 満面の笑みを浮かべ、リアス先輩を見つめている

 

「お、お兄さま!」

 

「ん? どうしたんだい?」

 

「ここでは、その呼び方をやめてください!」

 

「おや、昔は喜んでくれたのに」

 

「昔の話です!」

 

 ……おお

 

 今度はこっちか!?

 

 セラフォルーと支取会長の騒ぎが終わったと思ったら、今度はサーゼクスとリアス先輩!?

 

 何なんだよ、この兄妹たち!?

 

「あらあら」

 

 朱乃が楽しそうに笑っている

 

「リアス、可愛い呼び方ですわね」

 

「朱乃!」

 

「うふふ」

 

 ……やめてやれ、朱乃

 

 リアス先輩、耳まで赤くなってるぞ

 

「へぇ、リアたん……」

 

 イッセーが小さく呟いた

 

「イッセー!」

 

「は、はいっ!」

 

 ……あ

 

 怒られた

 

 そりゃそうだろうな

 

 俺だって、あんな呼び方を本人の前で繰り返す勇気はないぞ

 

「ハッハッハ!」

 

 それまで黙って見守っていたグレモリー卿が、穏やかに笑った

 

「サーゼクスも、妹が可愛くて仕方がないようだね」

 

「もちろんですよ、父上」

 

「お父さままで!」

 

 リアス先輩がますます顔を赤くした

 

 ……ああ

 

 完全に挟まれてるな

 

 魔王の兄も、それを見守る父親も、どっちも楽しそうだ

 

「それにしても、セラフォルーは相変わらずだね」

 

 サーゼクスが苦笑した

 

「まあ、ソーナ君のことになると、どうにも止まらないらしい」

 

「お兄さまも人のことは言えません!」

 

「おや?」

 

「……もう!」

 

 ……うん

 

 今日ほど、リアス先輩と支取会長に親近感を覚えたことはないかもしれない

 

 普段はあれほど堂々としている二人が、家族の前ではこんな調子なんだからな

 

「……ハク」

 

 クオンが俺を見上げる

 

「何だ?」

 

「家族って、面白いね」

 

「……そうだな」

 

 ああ

 

 本当にそう思うよ

 

 ……もっとも

 

 この後、俺も似たような目に遭うとは、まだ思っていなかったんだけどな

 

─────────────────────────

 

「おや、あちらにいらっしゃるのは……」

 

 グレモリー卿が廊下の向こうへ目を向けた

 

 そこには、見覚えのある夫婦が立っていた

 

 ……あ

 

 イッセーの父さんと母さんだ

 

「父さん、母さん! まだ学校にいたのか!」

 

 イッセーが声を上げる

 

「何だ、一誠! お前もこっちに来てたのか!」

 

「いや、そりゃ学校なんだからいるだろ!」

 

「それもそうだな! はっはっは!」

 

 ……うん

 

 相変わらず賑やかな家族だな

 

「おじさん、おばさん。こんにちは」

 

「おお、白君じゃないか!」

 

「あら、ハク君も一緒だったのね!」

 

 俺が挨拶すると、二人はいつもの調子で笑ってくれた

 

 イッセーとは幼馴染だ

 

 当然、その両親とも昔からの付き合いになる

 

 だからこうして学校で会っても、あまり違和感がないんだよな

 

「それにしても、午前中はすごかったなぁ!」

 

 イッセーの父さんが楽しそうに笑った

 

 その手には、見覚えのあるビデオカメラが握られている

 

「親父、まだカメラ持ってるのかよ」

 

「当たり前だろう! せっかくの授業参観だぞ!」

 

「まあ、アーシアちゃん!」

 

 イッセーの母さんが、アーシアに気付いて顔を輝かせた

 

「午前中はお疲れさま! ちゃんとできてたわね!」

 

「は、はい! ありがとうございます!」

 

 アーシアが嬉しそうに頭を下げる

 

「いやぁ、アーシアちゃんの頑張っている姿がたくさん撮れたぞ!」

 

 イッセーの父さんがビデオカメラを軽く持ち上げた

 

「よーし、帰ったら皆で見よう!」

 

「ありがとうございます!」

 

 ……ああ

 

 そういえば、午前中もずっとアーシアにカメラを向けてたな、この人

 

「……なあ、親父」

 

「ん?」

 

「俺の方も撮ってくれたんだよな?」

 

「…………」

 

「……親父?」

 

「はっはっは!」

 

「笑って誤魔化すなよ!?」

 

 ……ああ

 

 やっぱりか

 

 俺は思わず顔を逸らした

 

 ……駄目だ

 

 笑うな俺

 

 笑ったらイッセーに怒られる

 

「もう、あなたったら!」

 

 イッセーの母さんが呆れたように笑う

 

「ちゃんとイッセーのことも撮ってるでしょう?」

 

「お、おう! もちろんだとも!」

 

「今の間は何だったんだよ!?」

 

「はっはっは! 細かいことは気にするな!」

 

「気にするだろ!!」

 

 ……うん

 

 実に兵藤家らしい光景だな

 

「アーシアちゃん、お昼はちゃんと食べた?」

 

「えっと、まだこれからで……」

 

「あら、そうなの? 午後の授業まであまり時間がないんじゃない?」

 

「は、はい!」

 

 ……ああ

 

 まずい

 

 そうだった

 

 俺もまだ弁当を食ってないんだった

 

 ……まあ、ここまで来たらもう少しだけ付き合うか

 

「兵藤さん」

 

 その時、穏やかな男性の声がした

 

「あら!」

 

 イッセーの母さんが声の方を振り返る

 

 そこには、サーゼクスが立っていた

 

「先日は大変お世話になりました」

 

「まあ、サーゼクスさん!」

 

 イッセーの母さんがぱっと顔を明るくする

 

「こちらこそ! あれからお変わりありませんか?」

 

「ええ、おかげさまで」

 

「いやぁ、先日はどうも!」

 

 イッセーの父さんも笑顔で頭を下げた

 

「グレイフィアさんもお元気ですか?」

 

「ええ、元気にしていますよ。あの日はグレイフィア共々、すっかりお世話になりました」

 

「いえいえ! またいつでも遊びに来てください!」

 

「ありがとうございます」

 

 ……ああ

 

 そうだった

 

 少し前、サーゼクスとグレイフィアが兵藤家に泊まっていたんだよな

 

 俺はその場にいなかったけど、イッセーから話を聞いている

 

 ……それにしても

 

 魔王を自宅に泊めた上で、また遊びに来てくださいと普通に言える兵藤家

 

 ……強いなぁ

 

 色々な意味で

 

「おや、サーゼクス」

 

 グレモリー卿が息子へ顔を向けた

 

「こちらの方々とは知り合いなのかい?」

 

「ええ、父上」

 

 サーゼクスがにこりと笑う

 

「兵藤一誠君のご両親です。先日、グレイフィアと一緒にお宅へ泊めていただきましてね」

 

「おお、そうだったのか」

 

 グレモリー卿の表情が柔らかくなった

 

「それは、息子がお世話になりました」

 

「い、いえいえ!」

 

 イッセーの父さんが慌てて背筋を伸ばす

 

「こちらこそ! サーゼクスさんには色々とよくしていただきまして!」

 

「突然失礼いたしました。私はグレモリーと申します。娘のリアスが、いつも一誠君にお世話になっております」

 

「えっ!? リアスさんのお父さん!?」

 

「はい」

 

「こ、これはどうも!」

 

 イッセーの父さんが改めて頭を下げた

 

「こちらこそ、息子がいつもお世話になっております!」

 

「本当に、リアスさんにはいつもよくしていただいて……」

 

 イッセーの母さんも丁寧に頭を下げる

 

「いえいえ。娘も一誠君のことを大切に思っているようで、父親として嬉しい限りですよ」

 

「お父さま!」

 

 リアス先輩が慌てて声を上げた

 

「おや、何かおかしなことを言ったかな?」

 

「……もう!」

 

 ……ああ

 

 さっきから完全に父親と兄に遊ばれてるな、リアス先輩

 

「それにしても、立派なお父さまですねぇ」

 

 イッセーの父さんが感心したように言った

 

「いえ、そんなことはありませんよ。ただの親馬鹿です」

 

「いやいや! そのお気持ちは分かりますとも!」

 

「あなた、うちは息子でしょう?」

 

「息子だって可愛いだろう!」

 

「はいはい」

 

 ……うん

 

 この二人も相変わらずだ

 

 イッセーは隣で何とも言えない顔をしている

 

 ……ああ

 

 気持ちは分かるぞ

 

 親同士が話し始めると、子供は妙に居心地が悪くなるんだよな

 

 そんな時だった

 

「おおおっ! 瑠璃(るり)ではないか!」

 

「……え?」

 

 突然、廊下の向こうから大きな声が響いた

 

 瑠璃(るり)がびくりと肩を震わせる

 

「お、お父さま!?」

 

 振り返ると、大柄な男性が満面の笑顔でこちらへ歩いてくるところだった

 

 その隣には、柔和な笑みを浮かべた、堂々とした立ち姿の男性

 

 ……ん?

 

 ちょっと待て

 

 あの顔

 

 どこかで――

 

「瑠璃(るり)! おとんが来たぞ! ほれ、よう顔を見せんさい!」

 

「お父さま!? どうしてこちらに……!?」

 

「何を言うとる! 可愛い娘の授業参観じゃけぇ、来んわけにはいかんじゃろう!」

 

「で、でも、お仕事が……」

 

「ちゃんと都合をつけて来たんじゃ! 午前中の授業も見とったぞ!」

 

「えっ!? 教室にいらっしゃったんですか!?」

 

「おお! 後ろから、よう見えたわい!」

 

「お、お父さま……!」

 

 ……ああ

 

 うん

 

 やっぱりだ

 

 この人、オーゼンにそっくりだ

 

 『うたわれるもの』に登場するクジュウリの皇、楽土のオーゼン

 

 それも顔だけじゃない

 

 あの豪快な笑い方も、娘への接し方も、妙に似ている

 

 ……って、オーゼン!?

 

 しかも瑠璃(るり)の父親として登場するのかよ!?

 

「ハッハッハ! いやぁ、娘さんが可愛くて仕方がないんだねぇ」

 

 隣の男性が愉快そうに笑った

 

「しかし、少し落ち着いてあげた方がよさそうだよ?」

 

「む……おお、そうじゃった!」

 

 男性は周囲を見回すと、軽く頭を下げた

 

「いやはや、失礼しましたな。娘の顔を見たら、つい嬉しゅうなりまして」

 

「いえいえ、お気持ちはよく分かりますよ」

 

 グレモリー卿が笑顔で応じる

 

 ……いや

 

 ちょっと待て

 

 もう一人の男性

 

 あの顔も見覚えがあるぞ

 

「父様(ととさま)!」

 

 葵(あおい)が嬉しそうな声を上げた

 

「おお、葵(あおい)!」

 

 男性の顔がぱっと明るくなる

 

「ハッハッハ! 元気そうじゃないか!」

 

「うひひ! 父様(ととさま)、今日はお仕事やなかったん?」

 

「なに、可愛い娘の学校生活を見られる機会だからねぇ。少しくらい時間は作るさ!」

 

「そうなんやねぇ!」

 

「私も授業を見ていたんだよ。気付かなかったようだねぇ」

 

「ほえ!? 父様(ととさま)もおったん!?」

 

「ハッハッハ! 随分楽しそうだったからねぇ!」

 

 ……ああ

 

 うん

 

 こっちはソヤンケクルだ

 

 間違いなく、あのシャッホロの皇を思い出す顔だ

 

 ……って、ソヤンケクル!?

 

 オーゼンにソヤンケクル!?

 

 しかも二人揃って、娘さんの授業参観に来たお父さん!?

 

 何だこれ!?

 

 八柱将の同窓会でも始まるのか!?

 

 ……いやいや、落ち着け俺

 

 目の前にいるのは現代の人間だ

 

 それも、大切な娘さんたちをうちに預けてくださっている保護者

 

 まずは普通に挨拶だ、普通に!

 

「おや、お知り合いですか?」

 

 グレモリー卿が興味深そうに尋ねる

 

「ええ、娘がこちらの学校でお世話になっておりまして」

 

 大柄な男性が姿勢を正した

 

「私は久住央善(くじゅう おうぜん)と申します。娘の瑠璃(るり)が、こちらに」

 

「初めまして。グレモリーと申します。娘のリアスもこの学校へ通っております」

 

「おお、そうでしたか! これはご丁寧に!」

 

「ハッハッハ! それでは私も」

 

 もう一人の男性が、一歩前へ出た

 

「潮路壮玄(しおじ そうげん)だよ。葵(あおい)の父親をしている」

 

「おや、こちらも娘さんが?」

 

「ええ。つい最近、転校してきたばかりでねぇ」

 

「それはそれは。新しい学校にはもう慣れましたか?」

 

「うひひ! 毎日楽しいんよ!」

 

 葵(あおい)が元気よく答える

 

「ハッハッハ! この通りでねぇ!」

 

 ……ああ

 

 すごいな

 

 三人とも、もう普通に話し始めてるぞ

 

「あ、あの!」

 

 そこへイッセーの父さんが慌てて加わった

 

「私、兵藤と申します! こちらが妻です!」

 

「初めまして」

 

 イッセーの母さんも丁寧に頭を下げる

 

「おお! これはご丁寧に!」

 

「ハッハッハ! よろしくお願いします!」

 

 ……うん

 

 何だこれ

 

 完全に保護者会になってるじゃないか

 

 しかも、随分と顔ぶれが濃いぞ

 

 グレモリー卿に、オーゼンそっくりの父親、ソヤンケクルそっくりの父親

 

 そこに兵藤夫妻までいる

 

 ……いや、待て

 

 何だよ、この保護者密度!?

 

「ところでグレモリーさん、普段はどのようなお仕事をされているんですか?」

 

 壮玄(そうげん)さんが興味深そうに尋ねた

 

「私ですか? そうですね。色々と手掛けていますが、人をまとめたり、任せたりすることの多い仕事ですよ」

 

「ほう、それは興味深いねぇ」

 

 壮玄(そうげん)さんが笑った

 

「実は私も、人を預かる立場でねぇ。そういうお話には、つい興味が湧くんだよ」

 

「おや、それは奇遇ですね」

 

 グレモリー卿が目を細める

 

「久住さんも、普段はお忙しいのでしょう?」

 

「ええ、まあ。何かと人を動かす立場ですからな」

 

「それは大変だ。人を預かるというのは、難しいものですから」

 

「まったくですな! ただ指示を出せばよいというものではありませんし」

 

「ハッハッハ! そうそう! 任せるところは任せなければ、人は育たないからねぇ!」

 

「おお! まさにその通り!」

 

 ……あれ?

 

 何だか話が合ってるぞ?

 

 俺が少し驚いていると、グレモリー卿も楽しそうに頷いた

 

「責任ある立場ほど、自分一人ですべてを抱え込まないことが大切ですからね」

 

「ええ。信頼できる者に任せることも、上に立つ人間の役目ですな」

 

「ハッハッハ! いやぁ、分かっていただけて嬉しいねぇ!」

 

 ……おお

 

 三人とも、すごく楽しそうだ

 

 いや、確かにそれぞれ表向きの仕事を持っているんだろうし、こういう話が合うのも不思議じゃないんだが……

 

 ……何だろう

 

 原作知識を持っている俺からすると、ものすごく妙な光景に見えるんだよなぁ

 

「いやぁ、皆さん立派なお考えをお持ちで!」

 

 イッセーの父さんが感心したように頷く

 

「私も見習わないといけませんな!」

 

「あら、あなた。まずは家で自分のことをきちんとしてくださらないと」

 

「お、おい! 今その話をするのか!?」

 

 ……あ

 

 おじさん、刺された

 

 グレモリー卿が小さく笑う

 

「ははは。どんな仕事をしていても、家族には頭が上がらないものですね」

 

「いやぁ、まったく!」

 

 イッセーの父さんが大きく頷いた

 

「それは身に染みております!」

 

「ハッハッハ! いいじゃないか。家庭が賑やかなのは幸せなことだよ!」

 

「うむ! そうじゃのう!」

 

 ……ああ

 

 うん

 

 仕事の話から家庭の話になった途端、さらに盛り上がり始めたぞ

 

 ……この人たち、初対面だよな?

 

 そんな疑問を抱いていると――

 

「ところで、皆さん」

 

 グレモリー卿が穏やかに微笑んだ

 

「せっかくの授業参観です。そろそろ子供たちの話も聞かせていただきたいですね」

 

「おお! それはよろしいですな!」

 

 央善(おうぜん)さんが、待ってましたと言わんばかりに顔を輝かせた

 

「うちの瑠璃(るり)は、昔から本当に優しい子でしてな!」

 

「お、お父さま!?」

 

「家では控えめなんじゃが、好きなことには一生懸命でのう!」

 

「お父さま、皆さんの前でそんな……!」

 

「はっはっは! 何を恥ずかしがっとるんじゃ! おとんは嬉しいんじゃぞ!」

 

 ……ああ

 

 始まった

 

 オーゼン譲りとでも言いたくなる親馬鹿っぷりだ

 

「ハッハッハ! その気持ちは分かるよ!」

 

 壮玄(そうげん)さんも嬉しそうに笑った

 

「うちの葵(あおい)も、昔から元気でねぇ!」

 

「うひひ!」

 

「じっとしているより身体を動かすのが好きな子でね。こっちでも楽しく過ごせているようで、安心したよ」

 

「うん! 毎日楽しいんよ!」

 

「それは何よりだねぇ!」

 

 ……うん

 

 こっちも負けてないな

 

 しかも、どちらも娘さんが隣で真っ赤になったり笑ったりしている

 

「ふふ、素敵ですね」

 

 イッセーの母さんが微笑んだ

 

「娘さんたちを本当に大切にしていらっしゃるんですね」

 

「もちろんですとも!」

 

「ハッハッハ! 大切な娘だからねぇ!」

 

「分かりますよ」

 

 グレモリー卿も穏やかに頷いた

 

「私もリアスの成長を見るたび、嬉しくなりますから」

 

「お父さま……」

 

 リアス先輩が少し困ったように笑った

 

「それに、娘には頼もしい仲間もできました」

 

 グレモリー卿がイッセーたちへ視線を向ける

 

「父親として、それが何より嬉しいんですよ」

 

「お父さま……」

 

 今度のリアス先輩は、少しだけ照れくさそうだった

 

 ……ああ

 

 うん

 

 こういうところを見ると、やっぱりいい父親なんだろうな

 

「うちは娘じゃありませんけどね!」

 

 そこへ、イッセーの父さんが元気よく声を上げた

 

「息子の一誠がいまして!」

 

「父さん!?」

 

「いやぁ、元気なのはいいんですが、何かと騒がしい奴でして!」

 

「それ、今言う必要あるか!?」

 

「事実だろう!」

 

「ひでぇ!」

 

 ……ああ

 

 こっちはこっちで大変そうだな

 

「もう、あなたったら」

 

 イッセーの母さんが苦笑する

 

「イッセーだって、最近は色々と頑張っているじゃない」

 

「お、おう……」

 

 イッセーが少し照れたように頭を掻いた

 

「それに、今はアーシアちゃんも一緒に暮らしているんですよ」

 

「ああ、アーシアさんも兵藤家で暮らしているんですね」

 

 グレモリー卿がアーシアへ目を向け、穏やかに微笑んだ

 

「はい。皆さんに本当によくしていただいています」

 

 アーシアが嬉しそうに頭を下げる

 

「それは何よりです」

 

「アーシアちゃんは本当にいい子なんですよ。家のこともよく手伝ってくれますし」

 

「そ、そんな……!」

 

 アーシアが照れくさそうに顔を赤くする

 

「私、まだまだお世話になってばかりで……」

 

「そんなことないわよ」

 

 イッセーの母さんが優しく微笑んだ

 

「アーシアちゃんが来てから、家もずっと明るくなったもの」

 

「……ありがとうございます」

 

「そうそう!」

 

 イッセーの父さんも頷く

 

「今日だって、アーシアちゃんが頑張ってるところをいっぱい撮ったんだ!」

 

「……父さん」

 

「何だ、一誠?」

 

「そこでまたカメラの話に戻すのかよ!」

 

「はっはっは!」

 

 ……うん

 

 イッセー、今日はなかなか大変そうだな

 

 ただ、その隣で笑っているアーシアは本当に嬉しそうだった

 

 ……ああ

 

 家族なんだな

 

 血の繋がりだけじゃなく、一緒に暮らして、互いを大切にして

 

 そういう家族の形だってある

 

 俺も、それはよく知っている

 

「ところで、瑠璃(るり)」

 

 央善(おうぜん)さんが娘へ向き直った

 

「今は大神家でお世話になっとるんじゃったな?」

 

「はい、お父さま」

 

「葵(あおい)もだったねぇ」

 

「うん! おにーさんの家なんよ!」

 

 ……あ

 

 話がこっちへ来た

 

「おや、白君」

 

 グレモリー卿が俺へ顔を向けた

 

「二人とも、君の家で暮らしているのかい?」

 

「はい。少し前から一緒に暮らしています」

 

「そうだったんだね」

 

 グレモリー卿が穏やかに微笑む

 

「以前会った時より、さらに賑やかになったようだ」

 

「……ええ、まあ」

 

 ……ああ

 

 そういえば、この人には以前、ライザーとの試合の後に会っている

 

 リアス先輩から俺の話を聞いていると言われて、嫌な予感がしたんだよなぁ

 

 ……今も、その予感が再発しそうだぞ

 

「白(はく)君には、娘が大変お世話になっておりまして」

 

 央善(おうぜん)さんが丁寧に頭を下げた

 

「いえ、こちらこそ。瑠璃(るり)には家で色々と助けてもらっています」

 

「おお、そうかそうか!」

 

 央善(おうぜん)さんが嬉しそうに頷く

 

「いやはや、娘を快く迎えていただいて、本当に感謝しております」

 

「ご両親にも、どうぞよろしくお伝えください」

 

「あ、両親は今、海外旅行で家を空けていまして」

 

「おお、そうじゃったか」

 

「はい。帰ってきたら伝えておきます」

 

「うむ、よろしく頼みますぞ」

 

「白君は、昔から落ち着いているとリアスに聞いているよ」

 

 グレモリー卿が楽しそうに言った

 

「……そうですか?」

 

「ああ。随分と頼りにされているようだね」

 

 ……おい、リアス先輩

 

 一体何をどこまで話してるんですか?

 

 横を見ると、当のリアス先輩は涼しい顔で微笑んでいた

 

 ……ああ

 

 聞いても絶対にはぐらかされるな、これ

 

「ハッハッハ! 葵(あおい)も随分と世話になっているようでねぇ!」

 

 壮玄(そうげん)さんが楽しそうに言った

 

「それに、武芸にも通じているらしいじゃないか」

 

 ……ん?

 

「なぁなぁ、父様(ととさま)!」

 

「ん?」

 

「おにーさん、すごく強いんよ!」

 

「ほう?」

 

「道場で一緒に組手してもろたんよ! ウチ、楽しかったなぁ!」

 

「……ほう、組手まで」

 

 壮玄(そうげん)さんの笑顔が深まった

 

 ……あ

 

 何だろう

 

 背筋を伸ばしたくなるような笑顔だぞ

 

「それは興味深いねぇ」

 

「ほう、武芸とな?」

 

 しかも、央善(おうぜん)さんまで興味を示している

 

「いやぁ、そんな大したものじゃ……」

 

「ハッハッハ! 謙遜しなくてもいいよ!」

 

 ……待て

 

 何で二人ともそんなに俺を見るんだ?

 

 俺はただ、娘さんたちが下宿している家の息子だぞ!?

 

「ふふっ、人気者ね、ハク」

 

 リアス先輩が楽しそうに笑った

 

「……勘弁してください」

 

「うふふ」

 

 朱乃まで笑っている

 

 ……味方はいないのか?

 

 そこへ――

 

「あに……お兄ちゃん!」

 

「…………ん?」

 

 背後から、聞き慣れた声がした

 

 ……あに?

 

 今、あにって言った?

 

 ……いや、まさか

 

 そう自分に言い聞かせながら振り返ると、一人の少女がこちらへ向かってきていた

 

「猫音(ねこね)?」

 

「あっ、やっと見つけたのです!」

 

 御上猫音(みかみ ねこね)

 

 俺の妹だ

 

 その手には、見覚えのある包みが握られていた

 

「もう、お兄ちゃん!」

 

「……ん?」

 

「お弁当、忘れていったでしょ!」

 

「……あ」

 

「『あ』じゃないのです!」

 

 猫音(ねこね)が頬を膨らませた

 

「ちゃんと鞄に入れなきゃ駄目でしょ!」

 

「……悪い」

 

「まったく、お兄ちゃんは自分のことになると適当なんだから!」

 

 ……ああ

 

 そうだった

 

 今朝は弁当を鞄に入れたつもりになっていたんだった

 

「ありがとな、猫音(ねこね)。助かったよ」

 

「……うん。でも、明日からは忘れないでね!」

 

「ああ、気をつける」

 

「……本当かなぁ」

 

 じとっとした目で見上げてくる妹

 

 ……いや

 

 それよりも

 

 今、俺は何人の保護者にこの光景を見られてるんだ!?

 

「猫音、届けに来てくれたんだね」

 

 クオンがにこりと笑いかける

 

「うん。お兄ちゃん、また忘れちゃったから」

 

「ふふっ、ハクらしいね」

 

「笑うな、クオン」

 

「だって、猫音がしっかりしてるんだもん」

 

「……それは否定できない」

 

「お兄ちゃん!」

 

 猫音(ねこね)が頬を膨らませる

 

「自分でも分かってるなら、ちゃんとしてほしいのです!」

 

「……はい」

 

 ……駄目だ

 

 この二人が揃うと、俺に勝ち目がない

 

「はっはっは!」

 

 イッセーの父さんが楽しそうに笑った

 

「随分しっかりした妹さんじゃないか!」

 

「本当ねぇ」

 

 イッセーの母さんも微笑む

 

「お兄ちゃんが心配なのね」

 

「えっ!? あ、あの……!」

 

 ようやく周囲に気付いた猫音(ねこね)が、慌てて背筋を伸ばした

 

「あっ、リアスさんたちもいたんですね!」

 

「あら、猫音ちゃん」

 

 リアス先輩が微笑む

 

「こんにちは。今日は学校見学?」

 

「はい!」

 

「久しぶりだね、猫音ちゃん」

 

 祐斗が声をかけると、猫音(ねこね)は嬉しそうに頷いた

 

「はい、祐斗さん!」

 

「猫音ちゃん、こんにちは!」

 

「こんにちは、アーシアさん!」

 

 アーシアにも元気よく返事をする

 

「相変わらず、しっかりしてるなぁ!」

 

 イッセーが笑う

 

「イッセーさんこそ、お兄ちゃんをちゃんと見ててください!」

 

「えっ!? 俺の仕事なの!?」

 

「だって、お兄ちゃんってば、すぐ自分のことを後回しにするんですから!」

 

「……それは否定できねぇな」

 

「イッセー!?」

 

 ……おい

 

 何でそこであっさり同意するんだよ!

 

「ふふっ、猫音ちゃんは本当にお兄ちゃんが大好きね」

 

 朱乃が笑う

 

「そ、そういうわけじゃ……!」

 

「うふふ」

 

 ……ああ

 

 朱乃まで参戦した

 

 これはもう駄目だな

 

「ところで、猫音」

 

「ん?」

 

「こちらのお二人は、瑠璃(るり)と葵(あおい)のお父さんだ」

 

「……っ!」

 

 猫音(ねこね)が慌てて頭を下げた

 

「は、初めまして! 御上猫音(みかみ ねこね)です! よろしくお願いします!」

 

「おお、これはご丁寧に」

 

 央善(おうぜん)さんがにこやかに応じかけて――

 

「…………」

 

 その動きが、ふと止まった

 

「……ほう?」

 

 隣では壮玄(そうげん)さんも、わずかに目を見開いている

 

 二人の視線が猫音(ねこね)へ向けられた

 

「……あの?」

 

 当の猫音(ねこね)は、不思議そうに首を傾げる

 

「わたしの顔に、何かついてますか?」

 

「……いやいや、失礼しましたな」

 

 先に口を開いたのは央善(おうぜん)さんだった

 

「私は久住央善(くじゅう おうぜん)、瑠璃(るり)の父です」

 

「私は潮路壮玄(しおじ そうげん)だよ。葵(あおい)の父親をしている」

 

「はい! よろしくお願いします!」

 

 猫音(ねこね)がもう一度頭を下げる

 

「……なるほどねぇ」

 

 壮玄(そうげん)さんが小さく呟いた

 

「……?」

 

 猫音(ねこね)が首を傾げる

 

「ハッハッハ! いや、何でもないよ」

 

 央善(おうぜん)さんも、それ以上は何も言わなかった

 

 ……何だ?

 

 今、二人とも少しだけ様子が変わったような……

 

 まあ、いいか

 

「それから、こちらはリアス先輩のお父さんだ」

 

「初めまして、猫音さん」

 

 グレモリー卿が穏やかに微笑む

 

「は、初めまして!」

 

「こちらがイッセーのご両親」

 

「こんにちは、猫音ちゃん!」

 

「こんにちは!」

 

 イッセーの母さんに笑いかけられ、猫音(ねこね)も嬉しそうに笑った

 

 そんな俺を見上げて、猫音(ねこね)が何かを思い出したように口を開いた

 

「それより、お兄ちゃん」

 

「ん?」

 

「お弁当、ちゃんと食べてね?」

 

「ああ、分かってるよ」

 

「……絶対だからね?」

 

「約束する」

 

「……なら、いいけど」

 

 猫音(ねこね)は少しだけ頬を赤くしながら頷いた

 

 ……ああ

 

 やっぱりだ

 

 ここ数日、気になっていたあの言い回し

 

 さっきの、言いかけた呼び方

 

 それに、心配しているくせに素直に言えないところまで

 

 ……ネコネ、か

 

 もちろん、目の前にいるのは御上猫音(みかみ ねこね)

 

 俺の妹だ

 

 それは分かっているんだが……

 

 ……いやいやいや!?

 

 オーゼン! ソヤンケクル! そしてネコネ!?

 

 何なんだよ、今日は!?

 

 とうとう頭の中のカンタン白くんが、しおしおになった

 

 ◢(›´ω\`‹)◣

 

 ……ああ、うん

 

 俺も今、そんな気分だよ

 

 っていうか、まだ昼休みだぞ!?

 

 ……頼むから、残りの半日くらいは平穏に過ごさせてくれ

 

 俺の胃がもたない……

 

─────────────────────────

 

「ハッハッハ! いやぁ、実に仲の良い兄妹だねぇ!」

 

 壮玄(そうげん)さんが愉快そうに笑った

 

「ええ、実に微笑ましいですな」

 

 央善(おうぜん)さんも穏やかに頷いている

 

「妹さんに心配してもらえるなんて、幸せなことですよ」

 

 グレモリー卿まで微笑んでいた

 

「そうそう! うちの一誠なんて、アーシアちゃんに心配されることの方が多くてね!」

 

「父さん!? 何でそこで俺の話になるんだよ!」

 

「だって本当でしょう?」

 

 イッセーの母さんが笑う

 

「イッセーさんは、とても優しいんですよ!」

 

 アーシアが慌てて付け加えた

 

「おお! 聞いたか母さん!」

 

「ええ、聞いたわよ」

 

「ちょっ、アーシアまで!」

 

 ……うん

 

 もう何でもありだな、この保護者会

 

 というか、俺とイッセーが揃って親たちの話題になってるぞ

 

 ……どうしてこうなった?

 

「そういえば、猫音(ねこね)」

 

「ん? 何、お兄ちゃん?」

 

「今日は高校見学だったな」

 

「うん! 来年からここに通う予定でしょ? だから、一度ちゃんと見ておきたかったの」

 

 猫音(ねこね)は嬉しそうに頷いた

 

「今日は中学校がお休みだから、見学に来たんだよ。受付でもそう伝えてあるし」

 

「なるほどな」

 

「それで、お兄ちゃんがお弁当を忘れていったから、ちょうどいいと思って持ってきたの」

 

「そっか、ありがとな」

 

「……うん!」

 

 猫音(ねこね)が嬉しそうに笑う

 

 ……ああ

 

 やっぱり可愛い妹だな

 

「ふふっ」

 

 隣でクオンが笑った

 

「……何だよ?」

 

「ううん、何でもない」

 

 ……何だろう

 

 妙に含みのある笑い方だな

 

「さて、皆さん」

 

 その時、グレモリー卿が穏やかな声をかけた

 

「そろそろ、皆さんもお昼を済ませた方がよさそうですね」

 

 言われて時計を見る

 

 ……あ

 

 本当だ

 

 あまりのんびりしているとまずいぞ

 

「いやはや、すっかり話し込んでしまいましたな!」

 

 央善(おうぜん)さんが笑った

 

「ハッハッハ! 楽しい時間はあっという間だねぇ!」

 

「本当に、今日は色々とお話ができて楽しかったです」

 

 グレモリー卿も微笑む

 

「お二人とは、また機会があればゆっくりお話ししたいですね」

 

「ええ、是非!」

 

「ハッハッハ! 私も楽しみにしているよ!」

 

 ……ああ

 

 完全に意気投合してるな、この三人

 

 しかも、仕事の話から娘さんたちの話まで、ずっと楽しそうだった

 

 ……いや、実際に楽しそうだったんだから、いいことなんだけどさ

 

「それでは、祐斗君」

 

「はい」

 

 グレモリー卿が祐斗へ顔を向けた

 

「すまないが、兵藤さんたちを少し落ち着ける場所まで案内してもらえるかな?」

 

「承知しました」

 

 祐斗が丁寧に頭を下げる

 

「それでは、こちらへどうぞ」

 

「ああ、ありがとうございます!」

 

 イッセーの父さんが頭を下げた

 

「一誠、アーシアちゃん、午後の授業も頑張るのよ!」

 

「おう!」

 

「はい!」

 

 イッセーとアーシアが元気よく返事をする

 

「それじゃあ、白君もまたな!」

 

「はい。おじさんたちもお気をつけて」

 

「ええ、ハク君も午後の授業頑張ってね!」

 

「ありがとうございます」

 

 俺は二人に手を振った

 

 ……うん

 

 こうして見ると、やっぱりいい家族だな

 

「さて、リアス」

 

 今度はサーゼクスが声をかけた

 

「はい、お兄さま」

 

「少し話があるんだ。朱乃君も一緒に来てもらえるかな?」

 

「……分かりました」

 

「はい、承知しましたわ」

 

 リアス先輩と朱乃が、それぞれ頷く

 

 ……ああ

 

 どうやら、こちらはこれから別の用事があるらしい

 

「白君たちも、午後の授業に遅れないようにね」

 

 サーゼクスが楽しそうに笑った

 

「はい、分かってます」

 

「ふふ、また今度ゆっくり話そう」

 

「……できれば平穏な時にお願いします」

 

「ははは、善処するよ」

 

 ……その返事

 

 何だか信用できないんだよなぁ

 

「それでは、また後で」

 

 リアス先輩がそう言って微笑む

 

「はい、リアス先輩」

 

 俺たちは挨拶を交わした

 

「それじゃあ、瑠璃(るり)」

 

「はい、お父さま」

 

 央善(おうぜん)さんが娘へ笑いかける

 

「おとんたちも、そろそろ失礼しようかのう」

 

「……もう行かれるんですか?」

 

「なに、まだ帰るわけじゃないんじゃ。午後も学校を見て回るつもりじゃけぇ」

 

「そうなんですね」

 

「おお! 放課後にまた顔を見せるわい!」

 

「……はい!」

 

 瑠璃(るり)が嬉しそうに微笑んだ

 

「葵(あおい)、私も後でまた来るよ」

 

「うん! 父様(ととさま)!」

 

「ハッハッハ! それじゃあ、午後も頑張ってねぇ!」

 

「うひひ! 任せとき!」

 

 ……うん

 

 二人とも嬉しそうだな

 

「白(はく)君」

 

「はい?」

 

 央善(おうぜん)さんが俺へ向き直った

 

「今日は娘のことも含め、色々とお話ができてよかったです。今後とも、どうぞよろしくお願いします」

 

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 

「ハッハッハ! 私からもよろしく頼むよ、白(はく)君!」

 

「はい!」

 

 二人はそれぞれ娘に手を振ると、並んで廊下を歩いていった

 

 ……ああ

 

 行ったか

 

 いやぁ、すごい人たちだったな

 

 何というか、原作で知っている姿と重なる部分が多すぎて、どう受け止めればいいのか分からなかったぞ

 

「お兄ちゃん」

 

「ん?」

 

 猫音(ねこね)が俺を見上げてきた

 

「そろそろ、わたしも見学の続きに行ってくるね」

 

「ああ、気をつけてな」

 

「うん!」

 

 そう言って歩き出しかけた猫音(ねこね)が、ふと振り返った

 

「……お兄ちゃん!」

 

「今度は何だ?」

 

「お弁当!」

 

「…………」

 

「ちゃんと食べるのです!」

 

「……はい」

 

「よろしい!」

 

 満足そうに頷くと、猫音(ねこね)は元気よく歩いていった

 

 ……うん

 

 完全に俺の負けだな

 

「……しっかりした妹だな」

 

 ゼノヴィアが感心したように呟く

 

「……そうだな」

 

「しかし、お前は本当に弁当を忘れていたのか?」

 

「ああ」

 

「……そうか」

 

 ……何だよ

 

 その何とも言えない顔は

 

「ハク」

 

「……ん?」

 

 クオンがにこりと笑う

 

「お昼、急がないとね?」

 

「……そうだな」

 

 ……ああ

 

 今度こそ弁当だ

 

 これだけ騒ぎがあったのに、俺はまだ昼飯を食ってないんだぞ?

 

 まったく……

 

─────────────────────────

 

 教室へ戻った俺は、残り少ない昼休みを使って弁当を食べた

 

 ……いやぁ

 

 ようやく飯にありつけたぞ

 

「お前、本当に忙しかったな」

 

 イッセーが苦笑している

 

「……お前も人のこと言えないだろ」

 

「え?」

 

「さっき、ご両親に散々話されてただろ」

 

「……あー」

 

 イッセーが顔をしかめた

 

「それは言うなよ」

 

「ははっ!」

 

「笑うなって!」

 

 ……まあ、気持ちは分かるぞ

 

 親の前では、どれだけ普段と違うところを見せようとしても、結局いつもの調子に戻されるんだよな

 

「でも、楽しかったですね」

 

 アーシアが嬉しそうに笑った

 

「お父さんもお母さんも、皆さんと仲良くお話ししていて」

 

「ああ、そうだな」

 

 イッセーが頷く

 

「何か、すげぇ盛り上がってたもんな」

 

「……ああ」

 

 あれは確かにすごかった

 

 グレモリー卿と央善(おうぜん)さん、壮玄(そうげん)さん

 

 表の仕事の話であんなに意気投合するとは思わなかったし

 

 何より、子供たちの話になった途端、全員の勢いが増したんだからな

 

「そういえば、イッセー」

 

 俺は弁当を食べながら顔を上げた

 

「ん?」

 

「さっきの撮影会、どうだった?」

 

「どうって……」

 

 イッセーは少し考え込んでから、周囲の席へちらりと目を向けた

 

 それから、俺にだけ聞こえるほど声を落とす

 

「……綺麗な人だったけどさ」

 

「ああ」

 

「魔王様だって分かった瞬間、心臓止まるかと思ったぜ」

 

「……だろうな」

 

 俺も声を潜めて答えた

 

「お前、知ってたのか?」

 

「まあな」

 

「だったら先に教えろよ!」

 

「どこで教えるんだよ。あの人、普通に一般生徒に囲まれてただろ」

 

「……ああ、そうか」

 

 ……うん

 

 そこは納得してくれ

 

「それにしても……」

 

 イッセーが遠い目をした

 

「ミルたんといい、今日のお姉さんといい……魔法少女って、すげぇな」

 

「……それ、何か違う意味になってないか?」

 

「俺にも分からん!」

 

 ……駄目だ

 

 こいつの中で、魔法少女というものがどんどん妙な存在になってるぞ

 

「でも、ミルたんさんはとても素敵な方でしたよ」

 

 アーシアが微笑む

 

「今日の方も、妹さんのことを本当に大切にしていらっしゃいました」

 

「……まあ、そうだな」

 

 ……うん

 

 アーシアの言う通りだと思う

 

 ただ、愛情の表現方法には随分と幅があるんだなぁ……

 

「私も、後でそのミルたんという人物の話を聞いてみたい」

 

 ゼノヴィアが真顔で言った

 

「……お前、まだ覚えてたのか」

 

「当然だ。気になるからな」

 

「……イッセー」

 

「何だよ?」

 

「頑張れ」

 

「何を!?」

 

 ……いやぁ

 

 あの話を最初から説明するの、大変だと思うぞ?

 

「ハク」

 

「ん?」

 

 クオンが俺の顔を覗き込んだ

 

「今日、楽しそうだったね」

 

「……そう見えるか?」

 

「うん」

 

「……まあ、色々あったけどな」

 

 俺が苦笑すると、クオンも楽しそうに微笑んだ

 

 ……本当に、色々あったよ

 

 午前中の紙粘土

 

 魔法少女姿の魔王

 

 妹を可愛がりすぎる姉と、妹が可愛くて仕方のない兄

 

 そして、あの保護者会

 

 ……うん

 

 授業参観って、こんなに賑やかな行事だったっけ?

 

 そんなことを考えていると、予鈴が鳴った

 

「おっと、そろそろか」

 

「はい!」

 

 俺たちは午後の授業の準備を始めた

 

 ……ああ

 

 今度こそ、普通に授業を受けられるといいんだけどな

 

─────────────────────────

 

 午後の授業

 

 ……うん

 

 幸いなことに、今度こそ何事もなく進んだ

 

 普通に先生が授業を進めて、俺たちがノートを取り、チャイムが鳴る

 

 それだけだ

 

 ……それだけなんだが

 

 今日は、その普通が妙にありがたかった

 

 窓から差し込む日差しを眺めながら、俺はようやく少しだけ肩の力を抜く

 

 まあ、これ以上何か起きたら、本当に頭が追いつかなくなりそうだしな

 

 ……よし

 

 午後くらいは、ちゃんと授業に集中しよう

 

─────────────────────────

 

 そして、放課後

 

 最後の授業が終わるチャイムが鳴り、教室のあちこちから安堵の声が上がった

 

「っああああ! 終わったぁぁぁ!」

 

 真っ先に声を上げたのはイッセーだった

 

「お疲れさまでした、イッセーさん」

 

「おう! アーシアもお疲れ!」

 

 イッセーが大きく伸びをする

 

 ……元気だなぁ、こいつ

 

「なあ、ハク」

 

「ん?」

 

「今日、色々あったな」

 

「……ああ、本当にな」

 

「いやぁ、まさかあんな魔法少女まで来るとは思わなかったぜ!」

 

「……そうだな」

 

「しかも会長のお姉さんで、あんなすごい人だったんだろ?」

 

「ああ」

 

 ……まあ、あれだけ堂々と撮影会をしていたんだから、驚くのも当然か

 

「それにしても……」

 

 イッセーが少し考えるような顔をした

 

「会長も大変だよなぁ」

 

「……ああ」

 

 俺は深く頷いた

 

 あれは大変だと思うぞ

 

 普段の会長を知っているだけに、余計にな

 

「……それじゃあ、私は先に失礼する」

 

 ゼノヴィアが鞄を持ち上げた

 

「おう、ゼノヴィアもお疲れ!」

 

「ああ。また明日」

 

 そう言って歩きかけたゼノヴィアが、ふと振り返る

 

「イッセー」

 

「ん?」

 

「ミルたんの話は、また聞かせてくれ」

 

「……まだ覚えてたのかよ!?」

 

「当然だ」

 

 ゼノヴィアは真顔で答えると、そのまま教室を出ていった

 

 ……ああ

 

 イッセー

 

 頑張れよ

 

「ハク」

 

「……ん?」

 

 今度はクオンが、俺の机の横へやってきた

 

「お人形のこと、忘れないでね?」

 

「ああ、分かってるよ」

 

「ふふっ、楽しみにしてるかな」

 

 ……あの五人か

 

 まだ乾燥も終わってないし、色を塗るのはもう少し先になるだろう

 

 それにしても

 

 どうして俺は、あんなものを作ったんだろうな

 

 何も考えずに手を動かして、気付けばあの五人が出来上がっていた

 

 ……まあ、いいか

 

 約束した以上、ちゃんと仕上げてやらないとな

 

「おにーさん!」

 

「……ん?」

 

 今度は葵(あおい)が顔を覗かせてきた

 

「父様(ととさま)、もう来とるかなぁ?」

 

「ああ、放課後にまた来るって言ってたな」

 

「うひひ! 楽しみやねぇ!」

 

「ハクさん」

 

 続いて、瑠璃(るり)がこちらへ歩いてきた

 

「今日は、お父さまが色々とお騒がせしてしまって……」

 

「いやいや、気にすることないよ」

 

「でも……」

 

「俺も色々と話せて楽しかったからな」

 

「……そうですか?」

 

「ああ」

 

 瑠璃(るり)はそれを聞いて、ほっとしたように微笑んだ

 

「それなら、よかったです」

 

 ……うん

 

 そういう顔を見られるなら、今日の騒ぎも悪くなかったと思えるな

 

「さて、それじゃあ行くか」

 

「うん!」

 

 クオンが元気よく頷く

 

 俺たちは荷物をまとめ、教室を出た

 

 今日作った紙粘土の作品たちは、まだ乾くのを待っているところだ

 

 あの五人の群像も、イッセーが作った仮面の男も

 

 ……そういえば、結局あれ、どうするんだろうな

 

 あの一万円という話も、売買にはならなかった

 

 まあ、イッセー本人が売ると決めていない以上、当然なんだけどな

 

 ……明日以降、また騒ぎにならなければいいんだが

 

「ハク、行くよ!」

 

「ああ、今行く!」

 

 クオンの声に返事をし、俺は教室を後にした

 

─────────────────────────

 

 校門へ向かうと、見覚えのある二人が立っていた

 

「おお! 瑠璃(るり)!」

 

「お父さま!」

 

「ハッハッハ! 葵(あおい)、お疲れさま!」

 

「父様(ととさま)!」

 

 瑠璃(るり)と葵(あおい)が、それぞれ父親のもとへ駆け寄っていく

 

 ……うん

 

 いい光景だな

 

 親子が嬉しそうに話しているのを見ると、俺も自然と頬が緩む

 

「白(はく)君」

 

「はい?」

 

 壮玄(そうげん)さんが、俺へ笑いかけてきた

 

「今日は色々とありがとう。おかげで、実に楽しい授業参観になったよ」

 

「いえ、こちらこそ」

 

「うむ! グレモリーさんや兵藤さんたちとも話せたしのう!」

 

 央善(おうぜん)さんも嬉しそうに笑っている

 

「いやはや、皆さん良い方々じゃった!」

 

「ハッハッハ! 仕事の話まであんなに盛り上がるとは思わなかったねぇ!」

 

「ええ、本当に」

 

 ……ああ

 

 昼休みの保護者会か

 

 確かに、あれはすごかったな

 

「それにしても、瑠璃(るり)」

 

「はい、お父さま」

 

「学校でも元気にやっとるようで、おとんも安心したわい」

 

「……ありがとうございます」

 

「葵(あおい)も、楽しそうだったねぇ」

 

「うん! ウチ、毎日楽しいんよ!」

 

「ハッハッハ! そうかそうか!」

 

 ……うん

 

 やっぱり、二人ともいい父親なんだろうな

 

 そんなことを考えていると、央善(おうぜん)さんがふと時計を見た

 

「さて……そろそろ、今夜の宿を探さんといけんのう」

 

「……ん?」

 

 宿?

 

「そうだねぇ」

 

 壮玄(そうげん)さんも頷く

 

「私もまだ決めていなくてね。これから探そうと思っていたんだ」

 

「……あれ?」

 

 俺は思わず二人を見た

 

「お二人とも、まだ宿を取ってないんですか?」

 

「おお、そうなんじゃ」

 

「ハッハッハ! まあ、何とかなるだろうと思ってねぇ」

 

「…………」

 

 ……いやいや

 

 随分と大らかだな、この人たち

 

 まあ、確かに宿を探すくらいなら何とかなるだろうけど……

 

 でも、せっかく娘さんたちに会いに来たんだろ?

 

 昼休みだって、あんなに嬉しそうに話してたんだし

 

 俺は隣にいる瑠璃(るり)と葵(あおい)を見た

 

 二人とも、まだ父親との時間を楽しんでいる

 

 ……だったら

 

「あの、お二人とも」

 

「ん? 何じゃ、白(はく)君?」

 

「どうしたんだい?」

 

「それなら、うちに泊まりますか?」

 

「…………」

 

「…………ほう?」

 

 二人が揃って俺を見る

 

「客間も空いてますし、わざわざ宿を探す必要もないでしょう?」

 

「……しかし、よろしいのかな?」

 

 壮玄(そうげん)さんが尋ねてきた

 

「はい。今は両親が海外旅行で家を空けていますけど、俺たちで家を見ていますから」

 

「……ほう」

 

「それに、瑠璃(るり)も葵(あおい)もいますし、せっかくなら娘さんたちとゆっくり過ごしてください」

 

「……ハクさん!?」

 

 瑠璃(るり)が驚いたように顔を上げた

 

「本当に、よろしいんですか!?」

 

「ああ、もちろん」

 

「おにーさん!?」

 

 今度は葵(あおい)が身を乗り出してきた

 

「父様(ととさま)も泊まっていくん!?」

 

「お父さんがよければな」

 

「うひひ! ウチ、嬉しいなぁ!」

 

 ……うん

 

 二人ともいい顔をしている

 

 それだけでも、誘ってよかったと思えるな

 

「おおお……!」

 

 央善(おうぜん)さんが、何とも感極まったような顔をした

 

「白(はく)君! 何とありがたい申し出じゃ!」

 

「いえ、そんな大げさなことじゃ……」

 

「大げさなことなものか! 瑠璃(るり)と一緒に過ごせる時間が増えるんじゃぞ!」

 

「お、お父さま!」

 

「はっはっは! それなら、お言葉に甘えさせてもらおうかのう!」

 

「ハッハッハ! 私もご一緒させてもらっていいかい?」

 

「もちろんです」

 

「ありがとう、白(はく)君! いやぁ、楽しみが増えたねぇ!」

 

 ……うん

 

 決まったな

 

 せっかく来てくださったんだ

 

 ゆっくりしてもらえれば、それが一番だろう

 

「ハク」

 

「ん?」

 

 クオンが楽しそうに笑っていた

 

「今日は賑やかになりそうだね」

 

「……そうだな」

 

「ふふっ、楽しみ!」

 

 ……ああ

 

 うん

 

 賑やかになるのは間違いないだろうな

 

「それじゃあ、行きましょうか」

 

「うむ!」

 

「ハッハッハ! よろしく頼むよ!」

 

 俺たちは校門を後にし、大神家へ向かって歩き出した

 

 歩きながら、家にも今夜の客が二人増えることを連絡しておいた

 

 その隣では瑠璃(るり)が父親と楽しそうに話し、葵(あおい)も壮玄(そうげん)さんと笑い合っている

 

 ……うん

 

 今日も色々あったが、悪くない一日だったと思う

 

 ただ、一つだけ言わせてほしい

 

 ……今夜、あの二人がうちに泊まるんだよな

 

 ………………

 

 昼休みにあんなに話が盛り上がっていた二人だ

 

 きっと、家でも賑やかになるんだろうな

 

 ……まあ、娘さんたちが喜んでいるんだから、今さら後悔するつもりはないけどさ

 

「白(はく)君!」

 

「……はい?」

 

 央善(おうぜん)さんが嬉しそうに振り返った

 

「今夜は、ようけ話をしようのう!」

 

「ハッハッハ! 私も君に色々聞きたいことがあるんだ!」

 

「…………」

 

 ……あ

 

 これは

 

 もしかして、今夜も面接の続きですか?

 

 ……いやいやいや!?

 

 まだ学校が終わったばかりなんですけど!?

 

「ハク?」

 

 クオンが小さく首を傾げる

 

「……何でもない」

 

「ふふっ、そう?」

 

 ……ああ、うん

 

 もういいや

 

 今日は本当に、色々ありすぎた

 

 だから、せめて今だけは平穏に――

 

「白(はく)君、ところで組手の話なんだがねぇ」

 

 ……早速始まった!?

 

 まだ帰り道に出たばかりだぞ!?

 

 ……頼むから

 

 せめて家に着くまでくらい、休ませてくれよ……

 

 そんな願いも虚しく、壮玄(そうげん)さんの楽しそうな声が続く

 

 俺は小さく溜息を吐くと、苦笑しながら答えた

 

 ……まあ、いいか

 

 今日のところは、とことん付き合ってやるよ

 

 こうして、やけに騒がしかった授業参観の一日は終わりを迎えた

 

 ただし――

 

 俺にとって本当に長い一日は、まだ終わっていないらしい

 




最後までお読みいただき、ありがとうございました!

というわけで、授業参観の後半戦でした!

魔法少女姿で現れる魔王様、妹が可愛くて仕方のない兄と姉、そして何故か意気投合するお父様方……。

ハク君、今日もお疲れさまです(笑)

そして今回、瑠璃と葵のお父様が本格登場!

久住央善と潮路壮玄。どこかで見覚えのあるお二人ですが、どうやら娘さんへの愛情も相当なようです。

しかも、そんな二人を自宅へ招待してしまったハク。

……果たして今夜、無事に眠ることができるのでしょうか?

次回、大神家がさらに賑やかになりそうです!

それでは、次回もお楽しみに!

面白かった、続きが気になると思っていただけましたら、感想や評価、お気に入り登録をしていただけると励みになります!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。