ハイスクールDxD 〜うたわれるもの〜   作:フォートナー

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いつもお読みいただきありがとうございます!

前回の模擬戦から一夜明け、ハクは思わぬ代償を支払うことに……

そして放課後には、これまで顔を合わせていなかったリアスの眷属がついに登場します!

今回も楽しんでいただければ幸いです!


Life . 36 腰痛です!吸血鬼です!誰も止まりません!?

 

side in ハク

 

 翌朝、目を覚ました俺は、いつものように布団から身体を起こそうとして――

 

「……っ、ぐぅ!?」

 

 腰に走った痛みに、思わず動きを止めた

 

 ……ああ、そうだった

 

 昨日の模擬戦で、思い切り腰をやられたんだったな

 

 ゆっくり息を吐き、天井を見上げる

 

 昨日は本当に散々だった

 

 葵(あおい)と壮玄(そうげん)さんを撃破判定に持ち込み、続けて央善(おうぜん)さんも撃破判定に持ち込んだところまではよかったのだが、問題はその直後である

 

 央善(おうぜん)さんの背後から飛び出してきたクオンの蹴りに気付き、俺は咄嗟に回避しようとした

 

 ところが、その動きに合わせてクオンの蹴りがさらに加速し、こちらの予想を超える速度で迫ってきたのだから堪ったものではない

 

 結果として、避けきれなかった俺の腰に見事な一撃が決まってしまった

 

 ……いや、あれは本当に洒落にならなかったぞ

 

 いわゆる魔女の一撃(ぎっくり腰)というやつだろうか

 

 あの瞬間は本気で腰が砕けたかと思ったし、そのまま道場の床に崩れ落ちて模擬戦も終了となった

 

 ……まさか最後の最後で、腰を持っていかれるとはなぁ

 

「……ハク?」

 

 聞き慣れた声に顔を向けると、少し離れた場所に敷かれた布団から、クオンがこちらを覗いていた

 

 昨日の一件以来、クオンは俺の腰が治るまで付き添うと言い出し、こうして俺の部屋に自分の布団を持ち込んでいる

 

「……おはよう、クオン」

 

「おはよう、ハク……って、もしかして今、起きようとした?」

 

「ん? ああ、ちょっとな」

 

「腰はどう?」

 

「昨日よりは落ち着いたと思うが、動かすとまだ痛いな」

 

 そう答えると、クオンの表情が曇った

 

「……ごめんね、ハク」

 

「だから、もう謝らなくていいって、あれは模擬戦だったんだからな」

 

「でも……私(わたくし)、あんなに速く蹴っちゃうなんて思わなくて……」

 

「まあ、俺も予想外だったけどな」

 

 実際、あの速度で蹴りが飛んでくるとは思っていなかった

 

 避けようとしたところへ、さらに速くなって追いかけてきたのだから、今思い返しても大したものだと思う

 

 とはいえ、それもクオンの実力のうちだろう

 

「それに、数日もすれば治るさ、この程度ならな」

 

「……本当?」

 

「ああ、だからそんな顔するなって」

 

「……うん」

 

 小さく頷いたクオンは布団から出ると、俺の傍へやってきた

 

「じゃあ、まずは起きようか、ゆっくりね」

 

「ああ、頼む」

 

 クオンが背中と肩を支えてくれるのに合わせ、俺は少しずつ上体を起こしていく

 

「……っ」

 

「ハク!?」

 

「大丈夫だ、ちょっと響いただけだ」

 

「もう、無理しないでね?」

 

「ああ、分かってる」

 

 しかし、普段なら何でもない動作が、こうも難しくなるとは思わなかったな

 

 どうにか身体を起こして布団の上に座ると、クオンが傍に用意していた着替えを手に取った

 

「はい、ハク、着替えようね」

 

「ああ、そうだな」

 

 そう言って受け取ろうとしたのだが、クオンは着替えをこちらへ渡さず、俺の前に膝をついた

 

「じゃあ、まず上からね」

 

「……ん?」

 

「着替えだよ、ハク」

 

「いや、クオン、流石にそれくらいは自分で――」

 

「ハク?」

 

「……はい」

 

 にこりと微笑まれただけなのに、何とも言えない迫力があった

 

「今は私(わたくし)に任せてくれる?」

 

「……分かったよ」

 

 ……降参である

 

 もっとも、クオンがこれだけ心配してくれているのに、意地を張って腰を悪化させるのも馬鹿らしい

 

 ここは素直に世話になるとしよう

 

「はい、腕を上げて」

 

「ん」

 

「そうそう、痛かったらすぐ言ってね?」

 

「ああ、大丈夫だ」

 

 クオンは俺の腰に負担が掛からないよう気を配りながら、手際よく着替えを手伝ってくれた

 

 ……それにしても、落ち着かんな

 

 昔からの付き合いがあるクオンとはいえ、こうして身の回りの世話をされると、どうにも妙な気分になってしまう

 

 しかも本人は至って真剣だから、なおさらだ

 

「ハク、こっちは大丈夫?」

 

「ああ、問題ないぞ」

 

「よかった、じゃあもう少しだけね」

 

 ……うん

 

 今は余計なことを考えないようにしよう

 

 そうしてどうにか着替えを終えた頃には、身体よりも精神の方が疲れていた気がする

 

「はい、おしまい!」

 

「ありがとう、クオン」

 

「どういたしまして、それじゃ少し休んでてね」

 

「ん?」

 

「朝ご飯の前に、お薬を飲んでもらうから」

 

「ああ、昨日言ってた漢方か」

 

「うん、今朝煎じておいたの、持ってくるね」

 

 そう言って部屋を出ていったクオンを見送り、俺は痛む腰にそっと手を当てた

 

 ……しかし、薬まで用意してくれるとはな

 

 クオンが薬学に精通しているのは知っていたが、こういう時は本当に頼りになる

 

 本人は昨日の一撃を随分気にしているようだが、むしろここまでしてもらって申し訳ないくらいだ

 

 しばらくすると、廊下から足音が聞こえてきた

 

「お待たせ、ハク」

 

「おう」

 

 戻ってきたクオンは、小さな盆を手にしていた

 

 その上には湯呑みが一つ載っており、中には茶褐色の液体が入っている

 

「はい、これ」

 

「……ほう?」

 

 受け取る前から、薬草特有の香りがほのかに漂ってきた

 

「治打撲一方(じだぼくいっぽう)っていう漢方だよ、打ち身の痛みに使うものなの」

 

「なるほど、昨日の蹴りで痛めた腰には丁度いいわけか」

 

「うん、ハクの様子を見て選んだんだよ」

 

「……ん?」

 

 そこで、ふと疑問が浮かんだ

 

 確か、今朝煎じておいたと言っていたな

 

「なあ、クオン」

 

「ん? どうしたの?」

 

「これって、お前が自分で調合したのか?」

 

「うん、そうだよ?」

 

「……いや、待て」

 

 俺は盆の上の湯呑みを見つめる

 

「これ、薬だろ? 自分で調合して他人に渡すのって、資格が必要なんじゃないのか?」

 

「ああ、そっち?」

 

 クオンは一瞬きょとんとした後、にこりと微笑んだ

 

「法律で問題ないよ? 私(わたくし)、薬師の資格を持ってるから」

 

「…………は?」

 

「?」

 

「……ちょっと待て、今、何て言った?」

 

「薬師の資格を持ってるって言ったんだよ?」

 

「……薬師?」

 

「うん、生薬や漢方を扱える国家資格だよ」

 

「……国家資格!?」

 

 思わず声が大きくなった

 

 いや、待て待て

 

 そんなものまで持ってたのか、お前

 

「……クオン、お前まだ十七歳だろ?」

 

「うん、でも薬師の資格は十五歳から取れるんだよ?」

 

「……そうなのか?」

 

「もちろん、ちゃんと修業して試験に合格しないと駄目だけどね」

 

「……で、お前は?」

 

「ちゃんと合格してるよ?」

 

「…………」

 

 ……マジか

 

 いや、薬学に詳しいのは知っていたし、料理や香草の扱いが得意なのも知っている

 

 だから薬を用意してくれると聞いた時も、そこまで深く考えなかったのだが……

 

 まさか国家資格まで取得していたとはな

 

「……初耳なんだが」

 

「あれ? 話してなかったっけ?」

 

「少なくとも俺は聞いた覚えがないぞ……」

 

「そっかぁ」

 

 クオンが少し考えるように首を傾げる

 

「でも、ハクって今までほとんどお薬のお世話にならなかったでしょ?」

 

「……まあ、そうだな」

 

「だから話す機会がなかったのかもね」

 

 ……なるほど

 

 確かに、こちらの世界に生まれてから、薬の世話になった記憶なんてほとんどない

 

 しかし、満十五歳から取得できる国家資格か……

 

 俺の知っている日本の制度とは、随分違うものだな

 

 ……まあ、悪魔や天使が普通に存在している世界なんだ

 

 今さら薬の資格制度が違うくらいで驚くのも妙な話かもしれんが、それはそれ、これはこれである

 

「……しかし、驚いたな」

 

「ふふっ、これで安心した?」

 

「ああ、法律の方はな」

 

「もう、ハクったら」

 

 クオンが楽しそうに笑う

 

 ……まったく

 

 こいつも本当に、俺の知らないところで色々とやっているんだな

 

「……何にせよ、流石だよ、クオン」

 

「ふふっ、ありがとう」

 

 嬉しそうに微笑んだクオンが、湯呑みをこちらへ差し出す

 

「じゃあ、熱すぎないようにしてあるから、ゆっくり飲んでね」

 

「ああ、いただくよ」

 

 湯呑みを受け取った俺は、少しだけ息を吹きかけてから、その中身を口に含んだ

 

「…………ん?」

 

 舌に広がったのは、ほのかな甘み

 

 だが、その直後に独特の渋みが追いかけてきた

 

「……甘渋い…うぎぎぎぎ…」

 

「ハ、ハク!?」

 

 思わず顔をしかめると、クオンが驚いたように身を乗り出してきた

 

「大丈夫!? そんなに飲みにくかった!?」

 

「あ、ああ……いや、大丈夫だ、ちょっと味に驚いただけで……」

 

 ……そうか、薬ってこういう味だったな

 

 まともに飲む機会がなかったせいで、すっかり忘れていたぞ

 

「……ハク?」

 

「いや……久しぶりに薬を飲んだもんだから、ちょっと面食らっただけだ」

 

「そっか……苦手だった?」

 

「いや、飲めるぞ、飲めるんだが……何とも言えない味だな、これ」

 

「ふふっ、独特な味だよね」

 

「……お前、知ってたな?」

 

「え?」

 

「この味だよ、この味」

 

「……えへへ」

 

「おい」

 

 ……まったく、そんな顔で笑われたら怒るに怒れないじゃないか

 

 こっちは今、口の中に残る甘さと渋さをどう評価するべきか、真剣に悩んでいるというのに

 

「でも、ちゃんと飲んでね? ハクのために用意したんだから」

 

「……分かってるよ」

 

 そう言われてしまっては、残すわけにもいかない

 

 そもそも、クオンがわざわざ俺のために用意してくれたものだし、多少味に癖があろうと、ありがたく飲ませてもらうべきだろう

 

 俺は覚悟を決め、もう一度湯呑みを口元へ運んだ

 

「……うぎぎ……」

 

「……ふふっ」

 

「……クオン、笑ってるだろ」

 

「ちょっとだけ」

 

「……まったく」

 

 何とも締まらないやり取りをしながら、俺はどうにか残りの漢方を飲み干した

 

「……ふぅ、ごちそうさま」

 

「ふふっ、お薬なんだけどね」

 

「まあ、飲み終わったんだからいいだろ」

 

「うん、全部飲んでくれてありがとう、ハク」

 

 クオンが嬉しそうに微笑む

 

 ……こうして笑ってくれるなら、俺としても悪い気はしないな

 

「それじゃ、朝ご飯にしようか」

 

「ああ、そうだな」

 

「立てそう?」

 

「……一応な、ただ少し手を貸してくれると助かる」

 

「もちろん!」

 

 クオンはすぐに俺の肩へ手を添え、腰に負担が掛からないよう支えてくれた

 

 慎重に立ち上がってみると、多少の痛みはあるものの、歩けないほどではなさそうだ

 

「大丈夫?」

 

「ああ、何とかな」

 

「じゃあ、ゆっくり行こうね」

 

「……頼む」

 

 クオンがこちらの歩調に合わせて歩き始める

 

 普段なら何でもない自室から廊下への移動が、今日は随分と長く感じられた

 

 ……しかし、昨日は四人を相手に模擬戦をしていたというのに、今日は自分の部屋から出るのにもクオンの助けが必要とはなぁ

 

 世の中、何が起こるか分からんものである

 

 そんなことを考えながら、俺達は食卓へと向かった

 

 その後の朝食は、俺の腰の状態を知ったみんなに心配されたおかげで、いつも以上に騒がしいものとなった

 

 食事を終えると、瑠璃(るり)は父親の央善(おうぜん)さんと、葵(あおい)は父親の壮玄(そうげん)さんと一緒に先に家を出ていった

 

 続いて、黒歌(くろか)と白音(しろね)も一足先に出発した

 

 猫音(ねこね)は俺達より後に出るらしく、まだ家に残っている

 

 そんなわけで、少し遅れて身支度を整えた俺は、クオンに支えられながら学校へ向かっていた

 

「ハク、少し歩くの速くなってるよ?」

 

「ん? そうか?」

 

「うん、もう少しゆっくりでいいからね」

 

「……了解」

 

 クオンに言われて歩調を緩める

 

 片側から身体を支えてもらっているおかげで歩くこと自体はできるのだが、普段の調子で足を進めようとすると、どうしても腰に負担が掛かってしまう

 

 ……まったく、面倒なものだな

 

「……クオン、重くないか?」

 

「全然、それより今はハクの腰の方が心配だよ」

 

「いや、俺としてはお前にばかり負担を掛けるのもな……」

 

「だったら、早く治してくれればいいの」

 

「……そりゃそうか」

 

「そうだよ」

 

 そう言ってクオンが笑う

 

 ……うん、無理をしてこいつを心配させるくらいなら、今は素直に甘えておくのが正解か

 

 そんなことを考えながら通学路を進んでいると、前方に見覚えのある姿が見えてきた

 

「……お?」

 

「どうしたの、ハク?」

 

「いや、あそこ、イッセー達じゃないか?」

 

 俺が視線で示した先には、イッセーとアーシア、それにリアス先輩の姿があった

 

 何やら話していたようだが、こちらに気付いたイッセーが手を上げる

 

「おーい、ハク! クオン!」

 

「おう、おはよう」

 

「おはようございます、ハクさん、クオンさん!」

 

 アーシアの挨拶に続いて、リアス先輩もこちらへ顔を向けた

 

「おはよう、二人とも」

 

「おはようございます!」

 

 クオンも挨拶を返し、俺達はそのまま合流した

 

 ……のだが

 

「…………ん?」

 

 イッセーが妙な顔をしていた

 

 いや、正確には、俺とクオンを交互に見た後、俺の腰の辺りへ視線を落としたのである

 

「……なあ、ハク」

 

「何だ?」

 

「お前、何でクオンに支えられてんだ?」

 

「ああ、これか」

 

 ……まあ、そりゃ気になるよな

 

「昨日、家の道場で模擬戦をやってな、ちょっと腰を痛めたんだよ」

 

「……は?」

 

「だから、腰を――」

 

「ちょっと待て!? お前が!?」

 

「……何だ、その反応は」

 

「いやいやいや! お前がそんな状態になってるところなんて、初めて見たぞ!?」

 

 ……うん、言いたいことは分からんでもない

 

 実際、俺自身もここまで腰が動かなくなるとは思っていなかったからな

 

「ハクさん、お身体は大丈夫なんですか!?」

 

 アーシアが心配そうに顔を覗き込んできた

 

「ああ、数日もすれば治ると思うから、そんなに心配しなくても大丈夫だよ」

 

「でも、歩くのも大変そうです……」

 

「まあ、ちょっとな、今はクオンに助けてもらってるんだ」

 

「そうだったんですね……あの、ハクさん、もしよろしければ私が――」

 

 そこまで言いかけたアーシアが、不意に口を閉じた

 

「……?」

 

 どうしたのかと思っていると、アーシアの視線が俺の隣へ向く

 

 つられてそちらを見ると、クオンがにこりと微笑んでいた

 

「…………」

 

 ……ん?

 

 何だろうな

 

 笑顔なのに、妙な圧を感じるぞ?

 

「あっ……い、いえ! 何でもありません!」

 

「……そ、そうか?」

 

「はい! でも、あまり無理はしないでくださいね?」

 

「ああ、ありがとう、アーシア」

 

 アーシアが微笑み、クオンも穏やかな笑顔のまま頷いた

 

「ふふっ、ハクのことは私(わたくし)がちゃんと見てるから、安心してね」

 

「はい、クオンさん!」

 

「…………」

 

 ……ああ、なるほど

 

 自分で面倒を見ると決めた以上、最後まで看たいということか

 

 クオンとしても、昨日のことがあるから余計に気にしているんだろうな

 

 しかし……

 

 ……アーシア、よく周りを見てるな

 

 以前、イッセー達には散々『周りを見ろ』と言ってきたものだが、まさかこんなところで成果を見ることになるとは思わなかったぞ

 

 ……いや、待て

 

 もしかして、今度は俺が周りを見られていない側なんじゃないか?

 

 しかも、アーシアの方が先にクオンの様子に気付いていたような……

 

「……ハク?」

 

「ん?」

 

「どうかしたの?」

 

「いや……何でもない」

 

「そう?」

 

 クオンが不思議そうに首を傾げる

 

 ……うん、今は余計なことを言わない方がよさそうだな

 

「それにしても、ハクが腰を痛めるなんてね」

 

 リアス先輩が少し驚いた様子でこちらを見る

 

「随分と激しい模擬戦だったのかしら?」

 

「ええ、まあ……最後に予想外の一撃を貰いまして」

 

「あら、あなたでもそんなことがあるのね」

 

「俺だって怪我くらいしますよ」

 

「ふふっ、そうね、でも無理は駄目よ?」

 

「……肝に銘じておきます」

 

 ……今日は朝から何度同じことを言われているんだろうな

 

「しかし、クオンも大変だなぁ」

 

 イッセーがしみじみと言った

 

「ハクを支えながら学校まで歩くんだろ?」

 

「うん、でも大丈夫だよ、私(わたくし)がやるって決めたんだから」

 

「へえ……」

 

 イッセーが俺とクオンを見比べる

 

 そして、何故か少し羨ましそうな顔をした

 

「……いいなぁ、ハク」

 

「……何がだ?」

 

「いや、何でもねえ……」

 

 ……何だ、こいつ

 

 羨ましがられるような状況じゃないと思うんだが

 

 こっちは着替えから歩行までクオンの世話になっているんだぞ?

 

「……イッセーさん?」

 

「えっ!? あ、いや、アーシア! 別に変な意味じゃなくてだな!?」

 

「……そうですか?」

 

「そ、そうだって!」

 

 慌てて弁解するイッセーだったが、今度はリアス先輩と目が合った途端、ぴたりと言葉を止めた

 

「…………」

 

「…………」

 

 リアス先輩も一瞬だけ頬を赤くし、それをごまかすように小さく咳払いする

 

 すると何故かアーシアまで顔を赤くして、イッセーはますます落ち着かなくなってしまった

 

 ……おや?

 

 何だか、昨日までと少し雰囲気が違うような……

 

「……ハク?」

 

 クオンが小声で話しかけてきた

 

「ん?」

 

「どうかした?」

 

「いや……イッセー達、何かあったのかと思ってな」

 

「……そう?」

 

「ああ、まあ、気のせいかもしれんが」

 

 イッセーは妙に慌てているし、リアス先輩とアーシアもどこか落ち着かない様子だ

 

 ……ふむ

 

 何かあったのかもしれんが、わざわざ詮索することでもないか

 

 俺にも色々と事情があるように、こいつらにもあるんだろうしな

 

「……ま、いいか」

 

「?」

 

「いや、こっちの話だ」

 

 首を傾げるクオンにそう返し、俺達は再び学校へ向かって歩き始めた

 

「ハク、そこ段差があるから、足を上げる時は気を付けてね?」

 

「ああ、分かってる」

 

「慌てなくても大丈夫だからね?」

 

「……はいはい」

 

「ふふっ、ハク?」

 

「……はい」

 

 ……何だろうな

 

 腰を痛めてからというもの、どうにもクオンに言い返せなくなっている気がするぞ

 

 そんな俺達のやり取りを見て、イッセーが肩を震わせた

 

「くくっ……ハク、お前、完全にクオンに頭が上がらなくなってるじゃねえか」

 

「……おい、イッセー」

 

「いや、だってよ、いつものお前からは想像できねえぞ」

 

「……ほう?」

 

 俺がじろりと睨むと、イッセーは慌てて笑いを引っ込めた

 

「わ、悪かったって! そんな怖い顔すんなよ!」

 

「……ったく、人の苦労も知らないで」

 

「でもよ、クオンがそこまで心配してるんだから、ちゃんと大人しくしてろよ?」

 

「……お前にまで言われるとはな」

 

「いや、だって本当のことだろ?」

 

 ……それはまあ、そうなんだが

 

 少しくらい言い返してやろうかと思ったところで、クオンが俺の袖を軽く引いた

 

「ハク、あんまり無理しちゃ駄目だよ?」

 

「……分かってるって」

 

「ふふっ、よかった」

 

 ……うん

 

 今は言い返したところで、どうにも分が悪いな

 

 結局、イッセーの楽しそうな笑い声を聞きながら、俺はクオンに支えられて通学路を進むことになった

 

 ……まったく

 

 腰が治ったら覚えてろよ……イッセー

 

 

─────────────────────────

 

 

 ……などと考えていたのだが、学校に着いてからも、俺の苦難は終わらなかった

 

 教室へ入った途端、クオンに支えられている俺を見たクラスメイト達が集まってきたのである

 

 何があった、怪我でもしたのか、大丈夫なのかと次々に質問が飛んできて、そのたびに事情を説明する羽目になった

 

 しかも、隣ではイッセーが朝の出来事を思い出したのか、時折笑いを堪えている始末

 

 ……人の苦労を随分楽しそうに笑ってくれるじゃないか

 

 もっとも、授業が始まってしまえば流石に騒ぎも収まり、クオンが何かと気を配ってくれたおかげで、どうにか一日を乗り切ることができた

 

 そして、その日の放課後

 

「ハク、大丈夫?」

 

「ああ、朝よりは少し動きやすくなった気がするな」

 

「本当? でも、無理はしないでね?」

 

「分かってるって」

 

 俺はクオンに支えられながら、旧校舎の廊下を歩いていた

 

 向かう先は、いつものオカルト研究部の部室である

 

 教室を出る時には葵(あおい)やイッセー達も一緒になり、俺の歩く速度に合わせてくれている

 

「なぁなぁ、おにーさん」

 

「ん?」

 

「まだ腰痛いん?」

 

「まあな、昨日よりはましだけど」

 

「そっかぁ……父様(ととさま)も昨日のこと、気にしとったんよ」

 

「……そうなのか?」

 

「うん、朝も無理したらあかんって言うとったし」

 

 ……なるほど、あの人も心配してくれているのか

 

 ありがたいことだな

 

「ああ、今日は無茶しないようにするよ」

 

「うん、早う治してなぁ」

 

「ああ、ありがとう」

 

 そんな話をしているうちに、部室へ到着した

 

「失礼します」

 

 扉を開けると、すでにリアス先輩達が集まっていた

 

 朱乃、祐斗、黒歌(くろか)、白音(しろね)もいる

 

「ご主人、来たにゃ」

 

 こちらに気付いた黒歌(くろか)が、ひらひらと手を振った

 

「おう、待たせたな」

 

「兄さま、お身体は大丈夫ですか?」

 

「ああ、クオンに助けてもらってるから何とかな」

 

「無理はしないでくださいね」

 

「分かってるよ」

 

 白音(しろね)にまで念を押され、俺は苦笑する

 

 ……いや、本当に今日は何度言われたことやら

 

 クオンに支えられて椅子へゆっくりと腰を下ろすと、ようやく少し落ち着くことができた

 

「さて、みんな揃ったわね」

 

 リアス先輩が俺達を見渡す

 

「今日は、あなた達に会ってもらいたい子がいるの」

 

「……会ってもらいたい子、ですか?」

 

 アーシアが首を傾げる

 

「ええ、ギャスパーのことは覚えているわね?」

 

「ああ、前に部長が言ってた、事情があって外に出せないっていう眷属だろ?」

 

 イッセーがそう答えると、リアス先輩は頷いた

 

「そうよ、もう一人の僧侶(ビショップ)、ギャスパー・ヴラディ」

 

「あっ、以前お名前を聞いた方ですね!」

 

「ギャスパー?」

 

 葵(あおい)が首を傾げる

 

「まだ眷属がおるんやねぇ」

 

「ええ、今まで事情があって、自由に外へ出すことができなかった子なの」

 

「それが今日からはええの?」

 

「完全に自由というわけではないけれど、封印を解く許可が下りたわ」

 

 リアス先輩が立ち上がる

 

「だから、まずはみんなに紹介したいの」

 

「……なるほど」

 

 俺も椅子に手を掛け、ゆっくりと腰を上げる

 

 ……いよいよか

 

 ギャスパー・ヴラディ

 

 名前も事情も知ってはいるが、本人と顔を合わせるのはこれが初めてだ

 

 果たして、どんな子なのやら

 

「ハク、ゆっくりね」

 

「ああ、頼む」

 

 クオンに支えてもらいながら、俺達はリアス先輩の後に続いた

 

 旧校舎の廊下をしばらく進んだところで、リアス先輩が一つの教室の前に足を止めた

 

 他の教室とは違い、扉の周囲には薄く魔法陣が浮かんでいる

 

「ここよ」

 

「……ここにいるんですか?」

 

 イッセーが扉を見つめる

 

「ええ」

 

 リアス先輩が扉へ手をかざすと、魔法陣へ魔力が流れ込み、扉を覆っていた術式が少しずつ薄れていった

 

 やがて、その光が完全に消える

 

「ギャスパー」

 

 リアス先輩が扉越しに声を掛けた

 

「私よ」

 

「…………」

 

 返事はない

 

「今日から封印を解くことになったでしょう?」

 

「…………」

 

「みんなも一緒に来ているわ」

 

 その瞬間、部屋の中から何かが倒れるような音がした

 

「ひぃっ!?」

 

「…………」

 

 ……おや?

 

 何やら随分と怯えた声が聞こえたな

 

「……部長、今のがギャスパーですか?」

 

「ええ、そうよ」

 

「……随分と怖がりみたいですね」

 

「ふふっ、会えば分かるわ」

 

 リアス先輩が苦笑しながら扉を開ける

 

「入るわよ、ギャスパー」

 

 俺達もその後に続き、教室の中へ足を踏み入れた

 

 そして、最初に目に入ったのは――

 

「…………」

 

 箱だった

 

 教室の隅に、かなり大きな段ボール箱が一つ置かれている

 

 しかも、その箱が微妙に震えていた

 

「……部長」

 

「何かしら、イッセー?」

 

「あの箱がギャスパーですか?」

 

「正確には、中にいるわ」

 

「……ですよね」

 

 何とも言えない顔で頷くイッセー

 

 その隣では、葵(あおい)が興味深そうに箱を眺めていた

 

「ほえ~、ウチ、一瞬あの箱が眷属なんかと思ったんよ」

 

「いくら何でも、それはないだろ」

 

「せやけど、おにーさんの周りやったらありそうやなぁ」

 

「……何で俺基準なんだよ」

 

 ……いや、待て

 

 そういえば、勝手に動き回る剣がいたな

 

 ……うん、余計なことは言わないでおこう

 

 ぴぃ

 

「…………」

 

 右手首に巻き付いている細い紐が、僅かに震えた

 

 ……お前も余計な返事をするな

 

「ギャスパー」

 

 リアス先輩が箱の傍へ歩み寄った

 

「大丈夫よ、みんなあなたの仲間だから」

 

「…………ほ、本当ですかぁ……?」

 

 箱の中から、か細い声が返ってきた

 

「ええ」

 

「こ、怖い人……いませんかぁ……?」

 

「……怖い人?」

 

 イッセーが首を傾げる

 

 そして、何故かその視線がゼノヴィアへ向いた

 

「……何故私を見る?」

 

「いや、別に」

 

「……納得がいかないぞ」

 

 ゼノヴィアが眉をひそめた

 

 ……まあ、確かにじっと箱を見つめている姿は、少々迫力があるかもしれんな

 

「ギャスパー」

 

 今度は祐斗もリアス先輩の傍へ歩み寄り、箱に向かって声を掛けた

 

「僕もいるよ、慌てなくていいからね」

 

「……祐斗先輩……?」

 

「うん、久しぶりだね」

 

「…………」

 

 その声に反応したのか、箱の震えが少しだけ収まった

 

「少しだけ顔を見せてくれない?」

 

 リアス先輩が優しく問い掛ける

 

「うぅ……でも……」

 

「無理に出てこなくてもいいわ、まずは挨拶だけでもしてみましょう?」

 

「…………」

 

 しばらく沈黙が続いた後、箱の蓋がほんの少しだけ持ち上がった

 

 その隙間から、二つの目がこちらを覗く

 

「…………」

 

 俺達と目が合った

 

 次の瞬間、蓋が勢いよく閉じられた

 

「早っ!?」

 

 イッセーが思わず声を上げる

 

「む、無理ですぅ……人がいっぱいいますぅ……」

 

「イッセー、あまり大きな声を出さないであげて」

 

「す、すみません……」

 

 リアス先輩に注意され、イッセーが頭を掻いた

 

 ……それにしても、本当に人見知りが激しいんだな

 

 原作知識で分かってはいたが、実際にこうして見ていると、想像以上である

 

 しばらくリアス先輩と祐斗が声を掛け続けると、ようやく箱の蓋がもう一度開いた

 

 今度はゆっくりと、金色の髪と整った顔立ちが印象的な小柄な人物が姿を見せた

 

 その華奢な身体を包んでいたのは、駒王学園の女子制服だった

 

「……ん?」

 

 隣でイッセーが首を傾げた

 

「……んん?」

 

 今度は眉間に皺を寄せ、ギャスパーの顔と制服を交互に見始めた

 

「……どうした、イッセー?」

 

「いや……男、だよな?」

 

「ええ、男の子よ」

 

 リアス先輩が頷くと、イッセーはさらに不思議そうな顔になった

 

「ですよね……仙術でもそう分かるんですけど……」

 

 そう言いながら、イッセーが再びギャスパーを見る

 

「……いや、待てよ」

 

「ん?」

 

「何だ、この氣……?」

 

 先程までとは違う、真剣な声音だった

 

「今まで感じたことのない生命力……いや、そもそもこれ、生命力なのか……?」

 

 その言葉に、俺も改めてギャスパーへ意識を向けた

 

 ……なるほど、確かに妙だな

 

 人間や悪魔、堕天使から感じたものとは、明らかに異なる気配がある

 

 何らかの氣を感じるのは確かなのだが、普段俺達が生命力として捉えているものと同じなのかと聞かれると、すぐには頷けない

 

 ……これが吸血鬼の氣、というやつか

 

 原作知識で存在自体は知っていたが、実際に感じるのは初めてだ

 

 もっとも、目の前にいるのは半吸血鬼である

 

 純粋な吸血鬼も同じ氣を持っているのかまでは分からないが、少なくとも今まで感じたものとは異なるようだ

 

「……で、でも、見た目は完全に女の子で……んん?」

 

 ……ああ、うん

 

 イッセー、お前が混乱するのも無理はないな

 

 仙術で感じ取った情報と、目の前にいる人物の外見

 

 おまけに、今まで感じたことのない気配まで加わったのだから、頭の中で整理がつかなくなっているんだろう

 

「あ、あのぉ……」

 

 ギャスパーが不安そうに俺達を見回す

 

「イッセー、あまりじろじろ見ないであげて」

 

「……あっ! す、すみません!」

 

「ひぃっ……!」

 

 イッセーが慌てて謝ると、ギャスパーは再び箱の中へ引っ込んでしまった

 

「……やっちまった」

 

 がっくりと肩を落とすイッセー

 

 ……悪気はないんだろうが、もう少し落ち着こうな

 

「なぁなぁ、おにーさん」

 

「ん?」

 

「ホントに男の子なん?」

 

「ああ、そうだぞ」

 

「ほえ~」

 

 葵(あおい)がもう一度箱を見つめる

 

「でも、よう似合っとったなぁ」

 

「……そこなのか?」

 

「似合っとるなら、ええんちゃう?」

 

「まあ、本人が好きで着てるなら、それでいいと思うが」

 

 すると、箱の蓋が少しだけ持ち上がった

 

「……ほ、本当ですかぁ……?」

 

「ん?」

 

「に、似合って……ますか……?」

 

「うん、かわいかったんよ」

 

 葵(あおい)が迷わず頷く

 

「…………」

 

 箱の蓋が、もう少しだけ持ち上がった

 

 ……分かりやすいな

 

「ぼ、僕……女の子の服の方が、かわいいと思うので……」

 

「……そっか」

 

 イッセーが頭を掻きながら、少し気まずそうに笑った

 

「さっきは驚いて悪かったな」

 

「え……?」

 

「でも、自分で好きだから着てるんだろ?」

 

「は、はい……」

 

「だったらいいじゃねえか、服くらい好きなの着れば」

 

「…………」

 

「それに、似合ってると思うぜ?」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

 お、今度はちゃんと顔を出したな

 

 ……やっぱりイッセーはこういうところ、妙に頼りになる

 

 相手が何者だろうと、本人を見て話せるのはあいつの長所だと思う

 

「ふふっ、それじゃ改めて紹介するわね」

 

 リアス先輩が俺達を見渡した

 

「この子がギャスパー・ヴラディ、私の眷属で僧侶(ビショップ)よ」

 

「は、はい……」

 

 ギャスパーが箱から半分ほど身体を出し、ぺこりと頭を下げる

 

「い、一年のギャスパー・ヴラディです……よ、よろしくお願いします……」

 

「おう! 二年の兵藤一誠だ、よろしくな!」

 

「二年のアーシア・アルジェントです、よろしくお願いします」

 

「二年のゼノヴィア・クァルタだ、よろしく頼む」

 

「三年の姫島朱乃よ、よろしくね」

 

「三年の大神黒歌(おおがみ くろか)だにゃ、よろしくにゃ」

 

「一年の大神白音(おおがみ しろね)です、よろしくお願いします」

 

「二年の大神白(おおがみ はく)だ、よろしく」

 

 俺もクオンに支えられたまま軽く頭を下げると、ギャスパーは小さく頷いた

 

「二年の戸倉久遠(とくら くおん)だよ、よろしくね」

 

 そして、最後に葵(あおい)が一歩前へ出る

 

「ウチは二年の潮路葵(しおじ あおい)いうんよ、よろしゅうなぁ」

 

「は、はい……よろしくお願いします……」

 

「ギャスパー……」

 

 葵(あおい)が何やら考えるように首を傾げた

 

「……ギャーやんやね」

 

「…………」

 

「…………」

 

「……ギャーやん?」

 

 ギャスパーが瞬きをする

 

「うん」

 

「何で!?」

 

 イッセーが即座に突っ込んだ

 

「呼びやすいやろ?」

 

「どこからそうなった!?」

 

「ギャスパーから?」

 

「それは分かる!」

 

「ぼ、僕……ギャーやんなんですか……?」

 

 ギャスパーが戸惑ったように尋ねる

 

「嫌なん?」

 

「い、嫌というか……初めて呼ばれました……」

 

「ほんなら、今日からやねぇ」

 

「決定なのかよ!?」

 

「うひひ」

 

 葵(あおい)が楽しそうに笑う

 

 ギャスパーはしばらく困ったように俺達を見ていたが、やがて小さく呟いた

 

「……ギャーやん……」

 

 ……おや?

 

 何だか、ちょっと気に入ってないか?

 

 その様子を見て、リアス先輩もほっとしたように微笑んでいた

 

 どうやら、最初の顔合わせは何とかなりそうだな

 

 ……もっとも

 

 この子が今まで封印されていた理由を考えると、本題はここからなんだろうが

 

「それで」

 

 リアス先輩が口を開くと、教室の空気が少しだけ改まった

 

「ギャスパーについて、みんなに説明しておかなければならないことがあるわ」

 

 その言葉に、ギャスパーがぴくりと肩を震わせた

 

「この子は、人間と吸血鬼の間に生まれた半吸血鬼なの」

 

「……吸血鬼?」

 

 イッセーが目を丸くする

 

「ええ、ヴァンパイアとも呼ばれる種族よ」

 

「ああ、なるほど……」

 

 そう呟いたイッセーが、改めてギャスパーへ目を向けた

 

「じゃあ、さっき感じたあの氣って……」

 

「多分、吸血鬼の血が関係してるんだろうな」

 

 俺がそう答えると、イッセーは納得したように頷いた

 

「そっか……悪魔とも人間とも違うわけだ」

 

「まあ、こんな氣を感じるのは俺達も初めてだし、詳しいことは分からんけどな」

 

「そうか……ますます気になるな」

 

 イッセーがもう一度ギャスパーを見る

 

 先程までの困惑は薄れ、今は純粋に興味があるといった様子だった

 

「ほえ~、吸血鬼もおるんやねぇ」

 

 葵(あおい)が感心したように頷いた

 

「……お前、驚くところそこなのか?」

 

 イッセーが思わず突っ込む

 

「ん? 悪魔もおるんやったら、吸血鬼がおってもおかしないやろ?」

 

「……いや、まあ、そうだけどよ」

 

「それに、ギャーやんはギャーやんやし」

 

「…………」

 

 その言葉に、ギャスパーが恐る恐る顔を上げた

 

「あ、あの……」

 

「ん~?」

 

「……怖く、ないんですかぁ……?」

 

「何が?」

 

「ぼ、僕……吸血鬼で……」

 

「うん、さっき聞いたんよ」

 

「……そ、それでも……?」

 

 ギャスパーが不安そうに葵(あおい)を見つめる

 

 すると、葵(あおい)は不思議そうに首を傾げた

 

「でも、ギャーやん、今ウチに何もしてへんやろ?」

 

「……はい」

 

「ほんなら、別にええんちゃう?」

 

「…………」

 

 ギャスパーが目を瞬かせた

 

 何かを言おうとしたようだが、うまく言葉にならないらしい

 

「まあ、そういうことだよな」

 

 今度はイッセーが笑った

 

「俺だって悪魔だし、部長もそうだろ?」

 

「……イッセー先輩……」

 

「半分吸血鬼だからって、それだけで怖がる理由にはならねえよ」

 

「…………はい」

 

 ギャスパーの返事は、さっきよりも少しだけはっきりしていた

 

 ……うん

 

 いい感じじゃないか

 

 少なくとも、今のやり取りでギャスパーの緊張は少し和らいだようだ

 

「でも、ギャスパーがこれまで封印されていたのは、半吸血鬼だからではないわ」

 

 リアス先輩が再び口を開いた

 

「……では、どうして封印されていたんですか?」

 

 アーシアが尋ねる

 

「この子が持つ神器が理由なの」

 

 ギャスパーの表情が曇る

 

 ……来たか

 

「停止世界の邪眼(フォービドゥン・バロール・ビュー)」

 

 リアス先輩がその名を告げた

 

「視界に入ったものの時間を停止させる力を持つ神器なの」

 

「…………は?」

 

 イッセーが固まった

 

「……時間を、止める?」

 

「ええ」

 

「……いやいや、ちょっと待ってくださいよ! それ、相当すごい能力じゃないですか!?」

 

「そうね、非常に強力な神器よ」

 

 リアス先輩が頷く

 

 ……まったくもって、その通りである

 

 時間停止

 

 言葉にするだけなら簡単だが、その能力が実戦でどれほど厄介かは考えるまでもない

 

 相手がどれだけ強かろうと、動けなくしてしまえば戦況を一変させられるのだからな

 

「でも、ギャスパーはまだその力を完全に制御できないの」

 

「……制御?」

 

「本人の意思とは関係なく発動してしまうことがあるのよ」

 

「…………」

 

 ギャスパーが俯いた

 

「ぼ、僕……」

 

 小さな手が制服の裾を握り締める

 

「外に出たら……また誰かに迷惑をかけちゃうかもしれなくて……」

 

「……ギャスパー」

 

「だ、だから……ここにいた方が……」

 

 その声は、次第に小さくなっていった

 

 ……なるほどな

 

 単に人見知りが激しいだけではない

 

 自分の能力が、いつ他人に影響を与えるか分からない

 

 そんな不安を抱えていれば、外へ出ること自体が怖くなってしまっても無理はないだろう

 

「……だったらさ」

 

 そこで、イッセーが口を開いた

 

「今、試してみればいいんじゃないか?」

 

「…………え?」

 

 ギャスパーが顔を上げた

 

「えぇぇぇぇぇ!?」

 

「うおっ!? そんなに驚くか!?」

 

「だ、だって! 止まっちゃいますよぉ!?」

 

「いや、だから、その確認だろ?」

 

「イッセー先輩ぃ!?」

 

 ……うん

 

 言っていることは分かるが、もう少し段階を踏んでやれ、イッセー

 

 ただ、制御の練習をする必要があるのも確かなんだよな

 

「……そうね」

 

「部長ぉ!?」

 

 リアス先輩まで頷いたものだから、ギャスパーがさらに悲鳴を上げた

 

「もちろん、無理やり使わせるつもりはないわ」

 

 リアス先輩がギャスパーと目線を合わせる

 

「でも、ここにはあなたの事情を知った上で、協力してくれる人達がいるのよ」

 

「…………」

 

「みんなに了承してもらった上で、少しだけ試してみない?」

 

「で、でも……」

 

「大丈夫だって!」

 

 イッセーが自分の胸を軽く叩いた

 

「俺達相手なら、ちょっと失敗したくらいで怒ったりしねえよ」

 

「な、何でそんなに自信満々なんですかぁ……?」

 

「いや、だってなぁ……」

 

 そう言ってイッセーが俺達を見回した

 

「……ハク、どう思う?」

 

「そこで俺に振るのかよ」

 

「いや、こういうの、お前の方が詳しいだろ?」

 

「……時間停止の神器なんて、俺も実物を見るのは初めてだぞ」

 

 もっとも、ギャスパーの能力がどういうものかは原作知識で知っている

 

 だが、知識として知っていることと、実際にその力を受けることは別だ

 

 ましてや、こちらの世界では原作から変わっていることも多い

 

 試すなら、きちんと確認しておく必要があるだろう

 

「……まあ、本人がいいなら、試してみるのもありだと思うぞ」

 

「ハク先輩までぇ!?」

 

「いや、嫌なら無理にとは言わないけどな」

 

「そ、それは……」

 

 ギャスパーが困り果てたように周囲を見回す

 

「私(わたくし)も大丈夫だよ」

 

 クオンが柔らかく微笑んだ

 

「ギャスパー君が練習したいなら、協力するからね」

 

「僕も構わないよ」

 

 祐斗が頷く

 

「私も問題ありませんわ」

 

「私もだ」

 

「もちろんです!」

 

 朱乃、ゼノヴィア、アーシアが順番に答えた

 

「こっちもいいにゃ」

 

「私も大丈夫です」

 

 黒歌(くろか)と白音(しろね)も了承する

 

「ウチもええよ~」

 

 葵(あおい)が楽しそうに手を上げた

 

「ギャーやん、やってみよ?」

 

「…………」

 

 最後にリアス先輩が頷くと、ギャスパーはしばらく黙り込んでいたが、やがて小さく口を開いた

 

「……ほ、本当に……いいんですかぁ……?」

 

「ああ」

 

 イッセーが笑う

 

「大丈夫だって、俺達もちゃんと見てるからさ」

 

「…………」

 

 ギャスパーはゆっくりと頷いた

 

「……わ、分かりましたぁ……」

 

 ……さて、そうと決まれば、何をどう確認するかだが

 

 時間停止の能力を試す以上、何か分かりやすい目印が欲しいところだな

 

「……ああ、そうだ」

 

 俺は左手首へ目を落とした

 

 そこには、いつも使っている腕時計が巻かれている

 

「クオン、ちょっとあそこの机まで付き合ってくれるか?」

 

「うん、いいよ、でも腰は大丈夫?」

 

「ああ、すぐそこだからな」

 

 クオンに支えられたまま近くの机へ移動し、右手で左腕の時計を外す

 

「ハク、それは?」

 

 リアス先輩が尋ねた

 

「時間停止の確認に使おうかと」

 

 俺は腕時計を机の上へ置いた

 

 秒針は、今も規則正しく時を刻んでいる

 

「これが止まれば、少なくとも能力が発動したかどうかは分かりますからね」

 

「ああ、なるほどな!」

 

 イッセーが手を打った

 

「確かに、時計なら分かりやすいか」

 

「……ま、そういうことだ」

 

 もっとも、時計だけが止まったとしても、それで能力の全容が分かるわけではない

 

 だが、何もない状態で試すよりはずっといいだろう

 

 俺達は机から少し離れ、腕時計と一緒にギャスパーの視界に収まる位置へ移動した

 

「ギャスパー、できそう?」

 

 リアス先輩が優しく問い掛ける

 

「うぅ……」

 

 ギャスパーは机の上の腕時計と、俺達の顔を交互に見た

 

「……こ、これで誰かを止めちゃっても、怒らないでくださいねぇ……?」

 

「ああ、大丈夫だって!」

 

 イッセーが笑って答える

 

「ええ、みんな了承しているわ」

 

 リアス先輩も頷いた

 

「……分かりましたぁ……」

 

 そう答えると、ギャスパーは段ボール箱からゆっくりと出てきた

 

 ……おお

 

 ようやく全身が出てきたな

 

 本人にとっては、これだけでも結構な勇気が必要なんだろう

 

「じゃ、じゃあ……いきますぅ……」

 

 ギャスパーが目を閉じる

 

 一度深呼吸をしてから、ゆっくりと顔を上げた

 

 その視線が、机の上の腕時計と俺達を捉える

 

 次の瞬間――

 

 ……お?

 

 何かが変わった

 

 空気そのものが変質したような、奇妙な感覚が全身を撫でていく

 

 魔力や闘氣とは異なる、神器特有の力の発露

 

 俺は机の上へ視線を落とした

 

「…………」

 

 さっきまで動いていた秒針が、ぴたりと止まっている

 

「……止まったな」

 

「本当ですね……!」

 

 アーシアも腕時計を覗き込み、驚いたように声を上げた

 

「ええ、間違いないわ」

 

 リアス先輩が頷く

 

「ちゃんと発動しているわね」

 

「…………あれ?」

 

 だが、その時

 

 ギャスパーが不思議そうな声を上げた

 

「……ん?」

 

 イッセーが振り向く

 

「どうした、ギャスパー?」

 

「あ、あのぉ……」

 

 ギャスパーが俺達を見回す

 

「……何で、皆さん……動いてるんですかぁ……?」

 

「…………」

 

「…………」

 

 ……ああ、そういうことか

 

 イッセーもようやく気付いたらしく、自分の両手を見下ろした

 

「……あれ?」

 

 握ったり開いたりを繰り返す

 

「……俺、普通に動けるぞ?」

 

「えぇぇぇぇ!?」

 

 ギャスパーが悲鳴を上げた

 

「ぼ、僕の神器、ちゃんと使ってますよねぇ!?」

 

「ああ、時計は止まってるぞ」

 

「な、なのに何でぇ!?」

 

 ……いや、俺に聞かれてもなぁ

 

 確かに、時計は止まっている

 

 だが、俺達は普通に会話しているし、身体も動かせている

 

 少なくとも、今のところ、この場にいる誰一人として動きを止められていないようだ

 

「僕も問題ないね」

 

 祐斗が自分の手を開閉しながら答える

 

「私もですわ」

 

 朱乃も普段と変わらない様子で微笑んでいた

 

「……私も動けるわね」

 

 リアス先輩も自身の状態を確かめる

 

「アーシアは?」

 

「はい、私も大丈夫です!」

 

「私も問題ないぞ」

 

 ゼノヴィアが腕を動かしてみせた

 

「こっちも平気にゃ」

 

「私も問題ありません」

 

 黒歌(くろか)と白音(しろね)も、特に変わった様子はない

 

「クオンは?」

 

「私(わたくし)も大丈夫だよ」

 

 クオンが俺を支えていない方の手を軽く上げる

 

「ハクは?」

 

「……俺も問題ないな」

 

 指先を動かしてみるが、何の抵抗もない

 

 腰は相変わらず痛いが、そっちは時間停止とは関係ないだろう

 

「うそぉぉぉぉ!?」

 

 ギャスパーが頭を抱えた

 

「な、何で誰も止まらないんですかぁ!?」

 

「……いや、まあ、落ち着けって」

 

 イッセーが慌てて宥めようとする

 

 ……うん、気持ちは分かるぞ

 

 自分の能力が発動しているはずなのに、周囲の誰にも効いていないんだからな

 

 もっとも、何故そうなっているのかは、今の段階では何とも言えないが……

 

「あ、ウチも動けるよ?」

 

「…………」

 

「…………」

 

 その瞬間、俺達の視線が一斉に葵(あおい)へ向いた

 

「……ほえ?」

 

 葵(あおい)が首を傾げる

 

 ……いやいや、待て

 

 お前まで普通に動けるのかよ

 

「……葵(あおい)」

 

「ん~?」

 

「お前、何ともないのか?」

 

「うん、何ともあらへんよ?」

 

 そう言って葵(あおい)は、その場で軽く腕を回してみせた

 

 ……うん

 

 本当に普通に動いてるな

 

「……何でだ?」

 

「知らへんよ?」

 

「……いや、お前もかよ!」

 

「おにーさん達かて動いとるやろ?」

 

「……いや、そうだけど、俺達だって理由は分かってないんだよ!」

 

「ウチにも色々あるんちゃう?」

 

「そこで疑問形になるな!」

 

「ほえ~?」

 

 ……まったく、お前までそっち側なのかよ

 

 葵(あおい)の身体能力が普通じゃないことは昨日の模擬戦で嫌というほど思い知ったが、それと時間停止が効かないことは別問題だろう

 

 ……うん、今は考えても答えが出そうにないな

 

「ふふっ……」

 

 隣でクオンが小さく笑った

 

「……クオン?」

 

「ん?」

 

「お前、笑ってるだろ」

 

「ふふっ、ちょっとだけ」

 

「……まったく」

 

 ……腰が痛くなければ、ここで頭を抱えていたかもしれん

 

「だ、誰も……」

 

 不意に、ギャスパーが震える声を上げた

 

「……誰も、止まってないですぅ……」

 

 机の上では、腕時計の秒針が今も止まっている

 

 それなのに、その周囲にいる俺達は誰一人として動きを封じられていない

 

「誰も止まってないですぅぅぅぅぅ!!」

 

 ……ああ、うん

 

 そりゃ叫びたくもなるよな

 

「お、おい、ギャスパー! 落ち着けって!」

 

 イッセーが慌てて声を掛ける

 

「ぼ、僕の神器なのにぃ……!」

 

「ギャスパー」

 

 リアス先輩が静かに呼び掛けた

 

「まずは一度、力を解いてみましょう」

 

「は、はいぃ……」

 

 ギャスパーがぎゅっと目を閉じる

 

 すると――

 

「……お」

 

 机の上で止まっていた秒針が、再び動き始めた

 

「戻ったな」

 

「ああ!」

 

 イッセーも嬉しそうに頷いた

 

「今のはちゃんと解除できたじゃねえか!」

 

「…………」

 

 ギャスパーがおそるおそる目を開ける

 

「で、でも……皆さん、最初から普通に動いてましたぁ……」

 

 ……ふむ

 

 どうやら、本人としては納得がいかないらしい

 

 俺はクオンに支えてもらいながら腕時計を手に取り、左腕へ戻した

 

「ギャスパー」

 

「……は、はい?」

 

「少なくとも、神器が不発だったわけじゃないぞ」

 

「……え?」

 

 俺は左腕へ戻した時計を軽く示す

 

「時計はちゃんと止まってたし、力を解いたらまた動き始めた」

 

「…………」

 

「つまり、神器そのものはちゃんと発動してたってことだ」

 

「……で、でも……」

 

「ただ、俺達が動けた理由までは、まだ分からんけどな」

 

 時計の動きが止まったことは確かだが、それだけで神器の効き方を判断するのは早いだろう

 

 少なくとも、今の一回で『能力が使えなかった』と決め付ける必要はない

 

「……そういうことだ!」

 

 イッセーも頷いた

 

「だから、そんなに落ち込むなって!」

 

「うぅ……」

 

 ギャスパーが俯く

 

「だ、だって……僕、誰も止められなくて……」

 

「いや、止められなくてよかったじゃねえか」

 

「…………え?」

 

 ギャスパーが顔を上げた

 

 イッセーはにっと笑う

 

「だってよ、お前、さっき言ってただろ? 自分の力で誰かに迷惑をかけるのが怖いって」

 

「……はい……」

 

「だったら、少なくとも俺達と一緒に練習する分には、そこまで怖がらなくてもいいってことだろ?」

 

「…………」

 

 ギャスパーが瞬きをする

 

「俺達がこうして動けてるなら、今みたいなことがあっても話せるし、一緒に考えられる」

 

「イッセー先輩……」

 

「もちろん、これからどうなるかは分かんねえけどさ」

 

 イッセーは一度言葉を切ると、ギャスパーへ手を差し出した

 

「何度失敗したって、俺達が練習に付き合ってやるからさ!」

 

「…………」

 

「だからさ、少しずつやろうぜ」

 

 ……おお

 

 なかなかいいこと言うじゃないか、イッセー

 

 確かに、能力を制御できるようになるには練習が必要だ

 

 それに、周囲への影響を怖がっているギャスパーにとって、協力してくれる相手がいるというのは大きいだろう

 

 ギャスパーは差し出された手をじっと見つめていたが、やがておそるおそる手を伸ばした

 

「……はい」

 

 小さな手が、イッセーの手を握る

 

「……よろしく、お願いしますぅ……」

 

「おう!」

 

 イッセーが笑った

 

「こちらこそ、よろしくな!」

 

 その様子を見て、リアス先輩も嬉しそうに微笑んでいた

 

「ふふっ、よかったわね、ギャスパー」

 

「……はい、部長……」

 

 ……うん

 

 どうやら、ひとまずは一件落着というところか

 

 もっとも、訓練自体はこれからなんだが……

 

「…………あのぉ」

 

「ん?」

 

 ギャスパーが俺達を見回す

 

「……皆さん……」

 

「どうした?」

 

「……強すぎませんかぁ……?」

 

「…………」

 

「…………」

 

 ……ああ、うん

 

 まあ、そう思うよな

 

「……色々あったからなぁ」

 

 イッセーが遠い目をした

 

「……本当に色々あったな」

 

 俺も思わず頷く

 

 ……聖剣だの堕天使だの、ついこの間まで散々な目に遭っていたからなぁ

 

「否定できないね」

 

 祐斗も苦笑する

 

「私は最近加わった側だがな」

 

 ゼノヴィアが腕を組む

 

「ウチなんか、みんなと一緒におるようになってまだ日も浅いんやけどねぇ」

 

 葵(あおい)が楽しそうに笑った

 

「……お前は本当に何なんだよ!」

 

「ほえ?」

 

「だから、その時間停止が平気なのは何でなんだ!?」

 

「知らへんって言うたやろ?」

 

「……そうだけどよぉ!」

 

 ……うん

 

 俺も聞きたいところだ

 

 だが、本人にも分からないらしいし、今ここで問い詰めても仕方がないか

 

 そんなやり取りを見て、ギャスパーも戸惑いながら小さく笑った

 

 どうやら、最初に見せた怯えた表情は随分と和らいできたようだ

 

「さて、それじゃあ」

 

 リアス先輩が手を合わせた

 

「これからギャスパーには、少しずつ神器の制御訓練をしてもらうわ」

 

「……は、はい!」

 

 ギャスパーが頷く

 

「もちろん、最初は私達が付き添うから安心してね」

 

「……はい」

 

「それで、まずはこの部屋の外に出るところから始めましょうか」

 

「…………」

 

 ……おや?

 

 今、ギャスパーの表情が固まったような……

 

「……そ」

 

「ん?」

 

「そ、外……ですかぁ……?」

 

「ええ」

 

「……人が、いるところで……?」

 

「最初は私達だけよ、無理のない範囲で慣れていきましょう?」

 

「…………」

 

 ギャスパーがゆっくりと後ずさる

 

「……ギャスパー?」

 

 リアス先輩が首を傾げた

 

「む……」

 

「む?」

 

「無理ですぅぅぅぅぅぅ!!」

 

 次の瞬間

 

 ギャスパーがものすごい勢いで段ボール箱の中へ飛び込んだ

 

「…………」

 

「…………」

 

 ……早いな、おい

 

 ついさっきまでイッセーと握手していたというのに、もう箱の中に逆戻りである

 

 すると、隣で葵(あおい)が感心したように頷いた

 

「ギャーやん、速いなぁ」

 

「感心するところそこ!?」

 

 イッセーの突っ込みが教室に響いた

 

 ……まったく

 

 どうやら、前途多難らしいな

 

 だが、まあ……

 

 イッセー達と一緒なら、少しずつ何とかなるだろう




今回もお読みいただきありがとうございました!

模擬戦で三人を撃破判定に持ち込んだハクでしたが、最後に待っていたのはまさかのぎっくり腰でした(笑)

そして、クオンの薬師資格も判明!
ハクの知らないところで、しっかり資格まで取得していたようです

後半では、ついにギャスパーが登場しました!

時間停止という非常に強力な神器を持っているのに、発動してみれば誰一人止まらないという、本人にとっては何とも理不尽な結果に……(笑)

そんなギャスパーに手を差し伸べたイッセーの姿も、楽しんでいただけたなら嬉しいです

果たしてギャスパーは、無事に段ボール箱から卒業できるのでしょうか……?

今回のお話はいかがでしたでしょうか?

面白かった、ここが好きだったなど、一言でも感想をいただけるととても励みになります!

評価やお気に入りも、いつもありがとうございます!

また、ここ2週間ほど毎日投稿を続けてきましたが、明日から仕事が忙しくなるため、今後は毎日投稿が難しくなるかもしれません

できる限り毎日更新できるよう頑張っていきたいと思っていますので、更新の間隔が空いてしまうことがあっても、引き続き本作を応援していただけると幸いです!

それでは、また次回!
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