まず、前回の投稿から少し間が空いてしまい、申し訳ありませんでした。
更新をお待ちくださっていた皆様、本当にありがとうございます!
さて、今回は神社でのお話です!
イッセーに贈られる聖剣、そしてまたしても予想外の事態に巻き込まれるハク
何やら今回も、普通には終わらないようで……?
それでは、Life.38をお楽しみください!
休日の朝、朝食を済ませた俺は、朱乃との約束へ出掛ける準備をしていた
今日はイッセーと一緒に、朱乃から指定された神社へ向かうことになっている
会わせたい人物がいるとのことだったが、詳しい話は聞かされていない
それから、もう一つ
アザゼルからもメールが届いていたんだよな
以前、次の休日に話があると言われていた件らしいのだが、届いたメールには昼過ぎに会いに来てくれと書かれていた
しかも、クオンも一緒に連れてこい、とのことだ
……俺だけじゃなく、クオンも?
最初は俺だけに話があるような口振りだったのに、何があったんだろうな
詳しい用件までは書かれていなかったので、今のところ理由は分からん
まあ、まずは朱乃との約束を済ませて、それからアザゼルのところへ向かえばいいか
そんなことを考えながら玄関で靴を履こうとしたところで、ふと背後の気配に気付いた
「……クオン?」
「ん? どうしたの?」
振り返ると、そこには外出する準備を整えたクオンが立っていた
「……お前も神社に来るつもりなのか?」
「うん、ハクと一緒に」
「……そうなのか? 今日、朱乃に呼ばれてるのは俺とイッセーだぞ?」
「知ってるよ」
「……じゃあ、何でお前まで準備してるんだ?」
「だって、ハクの腰、まだ完全には治ってないでしょ?」
……ああ、そういうことか
数日前、道場での模擬戦中にクオンの蹴りを食らい、見事に腰を痛めてしまった俺だが、今ではもうほとんど治っている
普通に歩いたり、階段を上り下りしたりする分には問題ないものの、急に身体をひねったり、勢いよく動こうとすると、まだ痛みが走ることがある
まあ、そこさえ気を付けていれば、日常生活に支障はないんだが
「心配しなくても大丈夫だって、もう普通に歩けるんだから」
「うん、でも急に動くと痛いんでしょ?」
「……まあ、少しな」
「ほら」
……いや、ほらって何だ
「それに、ハクって痛くても平気な顔して動こうとすることあるし」
「……そんなことないだろ」
「あるよ?」
即答された
……あれ?
俺、そんなに信用ない?
「この前だって、まだ痛いのに立ち上がろうとしてたでしょ?」
「あれはちょっと様子を見ようとしただけで……」
「うん、だから心配なの」
……なるほど、言い返せん
クオンは少し困ったように笑うと、俺のそばへ歩み寄ってきた
「だから、
「……俺は構わないけど、朱乃に確認しないとな」
「うん!」
「それと、クオンにもちょっと話があるんだ」
「ん? 何かな?」
「アザゼルからメールが来ててさ、昼過ぎに会いに来てくれって」
「ああ、前に話してた用事?」
「そうそう、それなんだけど……お前も連れてこいって書かれてたんだよ」
「……
「ああ、何の用かは分からないけどな」
クオンが少し不思議そうに首を傾げた
「ふぅん、何だろうね?」
「さあなぁ、詳しいことは会ってから聞くしかないだろ」
「そっか、じゃあ、神社の用事が終わったら一緒に行こうか」
「そうだな」
……うん
クオンが来てくれるなら、午後の用事についても問題なさそうだ
あとは朱乃に同行の確認をしておかないとな
早速連絡を入れてみたところ、クオンの同行についてはすぐに了承の返事が来た
……あっさり決まったな
まあ、朱乃とクオンも四年の付き合いだし、特に問題はないんだろう
「じゃあ、行くか」
「うん!」
嬉しそうに頷くクオンを見て、俺も小さく笑った
心配してくれるのはありがたいんだが、そろそろ一人で出歩いても大丈夫だと思うんだけどなぁ
もっとも、俺が腰を痛めたことをクオンは随分と気にしているみたいだし、あまり意地を張るのもよくないだろう
……うん、余計なことは言わないでおこう
俺達は戸締まりを確かめると、イッセーとの待ち合わせ場所へ向かった
─────────────────────────
「おーい! ハク! クオン!」
待ち合わせ場所に着くと、先に来ていたイッセーがこちらに手を振っていた
「おう、待たせたか?」
「いや、俺もさっき来たところだ」
そう答えたイッセーは、俺の隣にいるクオンへ目を向けた
「それより、クオンも一緒なのか?」
「うん、ハクの腰がまだちょっと心配だから、
「ああ、そういうことか」
イッセーが納得したように頷くと、今度は俺の方を見る
「そういやハク、腰の方はどうなんだ?」
「もうほとんど治ってるよ、普通に動く分には問題ないぞ」
「そっか、ならよかった!」
イッセーが安心したように笑う
「でも、あんまり無理すんなよ?」
「……お前までクオンと同じこと言うのか」
「そりゃ言うだろ、まだ完全には治ってないんだろ?」
「……まあな」
……うん、こいつにも心配掛けてたか
ありがたいことなんだが、何だか今日は一日中同じことを言われそうな気がするぞ
「ま、そろそろ行こうぜ!」
「ああ」
俺達は三人で神社へ向けて歩き出した
「それにしてもさ」
しばらく歩いたところで、イッセーが口を開いた
「朱乃が俺達に会わせたい人って、誰なんだろうな?」
「……さあな、名前までは聞いてない」
「ハクでも分かんねえのか?」
「まあ、心当たりがないわけじゃないけどな」
「マジか!? 誰だよ!?」
「まだ分からんって、実際に会ってみないことにはな」
「何だよ、気になるじゃねえか!」
……まあ、そうだろうな
ただ、俺には一つ思い当たることがある
朱乃がイッセーを神社へ呼び出すという今回の状況は、原作のある場面によく似ているんだよな
確か、この時期にイッセーはミカエルと出会い、アスカロンという聖剣を受け取ることになっていたはずだ
もっとも、今は俺まで呼ばれているし、クオンも同行している
これまでにも原作から変わった出来事は幾つもあったんだ、今回も同じ展開になるとは限らん
……まあ、行ってみれば分かるか
「……何だよ、ハクまで黙り込んで」
「いや、ちょっと考え事をな」
「余計気になるだろ、それ!」
「ははっ、悪い悪い」
「ふふっ、二人とも相変わらずだね」
隣でクオンが楽しそうに笑っている
まあ、いつものことだな
そんな話をしているうちに、目的の神社が見えてきた
─────────────────────────
「……結構立派な神社だな」
石段の下で、イッセーが上を見上げながら呟いた
確かに、町外れにこんな立派な神社があるとは思わなかったな
石段の先には鳥居が見え、その奥には木々に囲まれた境内が広がっているようだった
「ハク、大丈夫?」
「ん? ああ、これくらいなら平気だよ」
心配そうにこちらを見るクオンへそう答え、俺は石段を上り始めた
少し慎重に足を運んでみたが、腰が痛むこともない
……うん、順調に治ってるな
そのまま問題なく石段を上り切り、鳥居の前まで来たところで、ふと妙な気配に気付いた
「……ん?」
鳥居の向こうから神聖な力が感じられる
それ自体は神社という場所柄、不思議でもないんだが、その周囲には別の術式も組み込まれているようだった
……結界か?
「どうした、ハク?」
「いや、ちょっと変わった結界があるなと思って」
「結界?」
「ああ、悪魔を拒絶するためのものじゃなさそうだけどな」
よく確かめてみると、むしろ神聖な力による負担を和らげるような術式が含まれている
……なるほど、そういうことか
「イッセー、お前も問題なく入れそうだぞ」
「……え? 俺?」
「ああ、ここの結界は悪魔でも入れるようになってるらしい」
「へぇ、神社なのにそんなことできるのか!」
「まあ、特別な準備でもしてるんだろ」
そう答えて鳥居をくぐると、イッセーとクオンも後に続いた
「……おお、本当に何ともないな!」
イッセーが自分の身体を見下ろしながら感心している
……うん、予想通りだな
ただ、これだけの結界をわざわざ用意しているとなると、やはり今日の相手は普通の人物じゃなさそうだ
「あらあら、皆さん、いらっしゃいませ♪」
境内へ足を踏み入れたところで、聞き慣れた声が響いた
そちらへ顔を向けると――
「おおっ!?」
隣でイッセーが声を上げた
「朱乃!? 巫女さんの格好じゃねえか!」
そこには、白衣に緋袴を身にまとった朱乃が立っていた
「ふふっ、どうです? 似合っていますか?」
「すっげぇ似合ってるぞ!」
「あら、ありがとうございます♪」
イッセーが勢いよく頷くと、朱乃は嬉しそうに笑った
確かによく似合ってるな
普段の制服姿とは随分と雰囲気が違うが、こうして見ると巫女装束も自然に着こなしている
「ハクはどう思います?」
朱乃がこちらへ顔を向けてきた
「……ああ、似合ってるよ、朱乃」
「ふふっ、ありがとうございます♪」
……何だろうな
普通に感想を言っただけなのに、改めて礼を言われると妙に照れくさい
すると、隣にいたクオンが俺の顔を覗き込んできた
「……ハク?」
「……何だ?」
「ふふっ、何でもないよ♪」
……いや、何でもないって顔じゃないだろ、それ
「クオンも、今日は来てくれてありがとう♪」
朱乃がクオンへ微笑みかけた
「こちらこそ、急にお願いしてごめんね、朱乃」
「いいえ、構いませんわ、ハクの腰が心配なんでしょう?」
「うん、もうほとんど治ってるんだけど、急に動くとまだ痛いみたいだから……」
「やっぱり、まだ少し痛むんですのね」
朱乃がこちらを見る
「ハク、無理は禁物ですわよ?」
「……分かってるよ」
……何だか、クオンが一人増えたような気がするんですが
「そういや朱乃」
イッセーが周囲を見回しながら口を開いた
「さっきハクが言ってた結界、あれって今日のために用意したのか?」
「ええ、そうですわ、皆さんが問題なく境内へ入れるように調整してありますの」
「へぇ、やっぱりそうなのか!」
「ふふっ、今日お会いしていただく方のために、色々と準備してあるんですよ」
……今日会う相手のため、ねぇ
「それで、その人はもう来てるのか?」
俺が尋ねると、朱乃は小さく頷いた
「はい、既にお待ちですわ、こちらへどうぞ」
そう言って歩き出した朱乃の後を、俺達もついていく
その途中、右手首に巻き付いている細い紐が僅かに動いた
イリナの所有する聖剣なのだが、何故か持ち主のところへ戻らず、こうして俺にくっついている困った奴である
以前、せめて外出する時くらいは紐になってくれと頼んだところ、本当にこの姿になった
言葉が通じるのはありがたいんだけどな
できればイリナのところにも、もう少しいてやってほしいもんだ
「ミミックも一緒なんだね」
手首を見たクオンが笑った
「ああ、勝手についてきた」
「ふふっ、相変わらずだね」
「本当になぁ……」
そんなやり取りをしているうちに、社殿の前へ到着した
そこには、一人の青年が立っていた
金色の髪に、穏やかな表情
一見すると普通の好青年だが、身に纏っている気配は明らかに普通ではない
……ん?
この感じ……
もしかして、やっぱり……
「お待ちしていました、
「あ、はい! 初めまして!」
イッセーが慌てて頭を下げる
青年は穏やかに微笑むと、自分の名前を告げた
「私はミカエル、現在、天界で天使達をまとめている者です」
「……へ?」
イッセーが固まった
「み、ミカエルって……あのミカエル!?」
「ええ、そうですよ」
青年――ミカエルが微笑むと、その背中から金色の光が広がり、十二枚の翼が姿を現した
「うおおおっ!? 十二枚!? マジで天使のトップじゃねえか!!」
「イッセー、声が大きい」
「いや、落ち着けるかよ!?」
……まあ、気持ちは分かる
いきなり天使の最高位が目の前に現れたんだからな
俺の方はある程度予想していたとはいえ、実際に会ってみると、その存在感は想像以上だった
……しかし、本当にミカエルが来ていたとはな
「ふふっ、驚かせてしまったようですね」
ミカエルは苦笑すると、改めてこちらへ顔を向けた
「そして、あなたが
「はい、そうですけど……」
俺が答え、ミカエルと目を合わせた
――その瞬間だった
「――っ!?」
ミカエルの表情が変わった
何かに驚いたように目を見開いたかと思うと、その身体が静かに沈んだ
そして、片膝を地面につき、俺へ頭を垂れた
「……え?」
……ん?
今、何が起きた?
天使の長が俺の前で膝をついた……よな?
いや、何で?
こんな出来事、原作にはなかったぞ?
「……ミカエル様?」
朱乃が不思議そうに声を掛ける
ミカエルはその声ではっと我に返り、自分の姿勢を見下ろした
「……これは……?」
本人にも心当たりがないらしい
困惑した様子で立ち上がると、小さく首を振った
「……失礼しました、少々妙な感覚に襲われまして」
「申し訳ありません、それから、こちらが
「はい、
クオンが一歩前へ出て、丁寧に頭を下げた
ミカエルも穏やかに微笑み、改めてクオンへ顔を向ける
「ええ、お会いできて――」
「――っ!?」
……ん?
まただ
ミカエルの身体が、先ほどと同じように沈んだ
今度はクオンの前で片膝をつき、静かに頭を垂れた
「……えっ?」
クオンも驚いたように目を丸くした
ミカエルは自分の姿勢に気付くと、今度こそ本当に困り果てた様子で立ち上がった
「……これは、一体……?」
「……あの、ミカエル様?」
クオンが心配そうに声を掛ける
「
「いえ! 決してそのようなことはありません!」
ミカエルはすぐに首を振った
「むしろ、失礼をしているのはこちらの方です、お二人とも申し訳ありません」
「……いえ、俺達は別に……」
一度なら何かの間違いかと思ったが、二度目だぞ?
しかも今度はクオンの前で?
どういうことだ、これ
「……ハク?」
クオンが小声で呼び掛けてきた
「……何だ?」
「今のって……」
「ああ、俺の時と同じだったな」
「……うん」
二人揃ってミカエルへ視線を戻すと、向こうも何やら考え込んでいた
「……不思議ですね、先ほど
「どんな感覚なんですか?」
俺が尋ねると、ミカエルは少し考えた後、困ったように微笑んだ
「上手く説明できないのです、気が付けば身体が動いていた、としか……」
「……そうですか」
……うーむ
天使の長本人にも分からないのか
仙術で周囲を確かめてみるが、少なくとも誰かが術を使ったような気配はない
クオンも何かした様子はないし、そもそも俺達は普通に挨拶しただけだ
「ふふっ、こんなことは初めてです」
ミカエルは少し気恥ずかしそうに笑った
「お二人には、後ほど改めてお話を伺うことがあるかもしれませんね」
「……ああ、はい」
「はい、
クオンも頷く
……いや、本当に心当たりがないんだが
その時、横からイッセーが口を開いた
「……なあ、ハク」
「ん?」
「お前ら、天使のトップに何したんだよ……?」
「俺が聞きたいわ」
「……だよなぁ」
……まったく、流石にこれは説明できん
「さて、それでは本題に入りましょうか」
ミカエルが気を取り直したように微笑み、イッセーへ向き直った
「本日は、一誠君にお渡ししたいものがありましてね」
「……俺に、ですか?」
「ええ、三勢力会談に先立ち、ぜひ受け取っていただきたいのです」
そう言ってミカエルが片手を差し出すと、その上に淡い光が集まり始めた
光は徐々に形を変え、やがて一振りの剣となって姿を現す
細身の刀身に、装飾の施された柄
見た目こそ立派な西洋剣だが、そこから感じられる神聖な力は、普通の武器とは比べものにならない
……聖剣か
ここまで来れば、何が出てくるかは大体予想がつく
「これはアスカロン、聖ゲオルギウスの龍退治に由来する、
……やっぱり、アスカロンか
「……龍殺し?」
イッセーが首を傾げた
そして、少し遅れて意味を理解したらしい
「……って、ちょっと待ってください!!」
「はい?」
「俺、悪魔なんですけど!? それに赤龍帝ですよ!?」
「ええ、承知していますよ」
「じゃあ何で龍殺しの聖剣なんですか!?」
……まあ、そうなるよなぁ
聖剣というだけでも悪魔にとっては相性が悪いのに、おまけに龍殺しである
イッセーにとっては二重の意味で厄介な代物だろう
『……相棒、落ち着け』
イッセーの左腕に
『流石に、何の対策もせず我らへ渡すつもりではあるまい』
「……あ、そっか」
イッセーがミカエルへ顔を向ける
「何かあるんですね?」
「ええ、そのために三勢力で協力して調整を施しました」
「三勢力……全部ですか?」
「はい、天界だけでなく、魔王側とグリゴリにも協力していただいています」
……ほう、随分と手の込んだ話だな
だが、悪魔であり赤龍帝でもあるイッセーに聖剣を渡すんだから、普通の処置では済まないか
「アスカロンの聖なる力と龍殺しの性質が、一誠君自身を傷付けないよう調整してあります」
ミカエルは剣へ視線を落とした
「ただし、剣本来の力は残していますので、龍に対しては従来どおりの効力を発揮します」
「……つまり、俺でも使える龍殺しの剣ってことですか?」
「ええ、そう考えていただいて構いません」
「すっげぇ……!」
イッセーが目を輝かせる
……さっきまで思い切り警戒してたのに、もう欲しそうな顔してるな
『……しかし、ミカエル』
「はい?」
『どうして我らにそこまでしてくれるのだ?』
ドライグの問いに、ミカエルは一度頷いた
「これからの三勢力には、互いに協力することが必要だと考えているからです」
その表情が、少しだけ真剣なものへ変わった
「かつての大戦では、私達はあまりにも多くのものを失いました」
ミカエルは一度言葉を区切った
「聖書の神も、旧四大魔王も既にこの世にはいません」
「…………」
「天界も、魔王側も、グリゴリも、これ以上無意味な争いを続ける余裕はないのです」
……なるほどな
聖書の神がいなくなったことは以前から知っていたが、天界の仕組みを維持している当人から聞くと、その重みも違ってくる
「そこで、今度の会談を通じて三勢力の和平を実現したいと考えています」
「……和平、ですか」
「ええ、そのためには、強大な力を持つ赤龍帝と白龍皇にも協力していただければと思いまして」
「……ヴァーリにも?」
イッセーが少し意外そうな顔をした
まあ、ヴァーリはコカビエルを連れ去った張本人でもあるし、こいつとしては複雑だろうな
「もちろん、皆さんに戦いを強制するつもりはありません」
ミカエルがアスカロンへ視線を向ける
「ですが、今後も争いが起きないとは限らないでしょう」
ミカエルは手にしたアスカロンを見つめた
「その時、この剣が一誠君の助けになればと考えています」
「……そうですか」
イッセーがしばらく考え込んだ
それから、左腕の籠手を見下ろす
「……ドライグ、お前はどう思う?」
『ふむ、龍殺しの剣という点は気になるが、調整が正常に働いているなら、我らにとっても強力な武器となるだろう』
「……そっか」
『だが、最終的に決めるのはお前だ、相棒』
「……分かってる」
イッセーは頷くと、ミカエルへ向き直った
「俺、受け取ります!」
「よろしいのですか?」
「はい! 俺も皆とずっと一緒にいたいですし、戦争なんて起きてほしくないですから!」
……うん、こいつらしい答えだな
強くなりたい理由が、自分のためだけじゃないところも含めて
「それに、これがあればもっと強くなれそうですし!」
「ふふっ、ありがとうございます」
ミカエルが嬉しそうに微笑んだ
隣ではクオンも、そんなイッセーを見て穏やかに笑っている
「よかったね、イッセー」
「おう! ありがとう、クオン!」
「でも、無理はしちゃ駄目だよ?」
「分かってるって!」
……いや、クオン
その台詞、今日は俺以外にも言うのか
もっとも、相手がイッセーなら言いたくなる気持ちも分かるが
「さて、それでは――」
ミカエルがアスカロンを差し出そうとした
その時だった
「……おや?」
ミカエルの動きが止まる
「どうしました?」
「いえ、剣の力が少し変わったようでして……」
……ん?
俺もアスカロンへ意識を向ける
確かに、先ほどまで感じていた神聖な力が、妙に穏やかになっていた
……あれ?
これ、何だか覚えがあるぞ
「……ハク?」
隣からイッセーの声が聞こえた
「お前、何かしたか?」
「何もしてないぞ」
「……本当に?」
「何で俺を疑うんだよ」
ただ隣に立ってただけだろうが
……まあ、心当たりがないわけじゃないんだが
「……ハク」
今度はクオンが声を掛けてきた
「これって、もしかして……」
「……ああ、俺もそう思う」
どうやらクオンも気付いたらしい
以前、オカ研の部室でゼノヴィアのデュランダルを調べた時にも、似たようなことがあった
あの時は俺が近付くほどデュランダルの力が大人しくなり、逆に離れると元へ戻ったんだよな
「
「ええ、前にも同じようなことがありまして」
俺はミカエルに、デュランダルで起きた現象を簡単に説明した
「……なるほど、デュランダルでもそのようなことが」
「はい、近くにいるだけなら何も問題なかったんですけど……」
「けれど?」
「握った途端、凄まじい聖なる力が出まして」
あれは本当に大変だった
リアス先輩と朱乃が結界を補強する羽目になったし、
「ですので、今回は握りませんよ?」
先に釘を刺しておく
ミカエルは少し驚いたように瞬きをしたが、やがて納得したように頷いた
「確かに、そのような前例があるのでしたら、無理に試すべきではありませんね」
「そうしてもらえると助かります」
「うん、
クオンも頷いた
……よし、今回は味方がいるぞ
「では、直接握っていただくのはやめておきましょう」
ミカエルがそう言ったところで、イッセーも安心したように息を吐いた
「……そうですね、また変なことになっても困りますし」
「お前がそれを言うか」
「いや、だってお前だぞ?」
「どういう意味だよ」
……まったく、少しは俺を信用していただきたい
まあ、デュランダルの一件を見てるんだから仕方ないか
「それでは、一誠君に――」
ミカエルが改めてアスカロンを差し出そうとした、その時だった
「ぴぃっ!」
「……ん?」
聞き慣れた鳴き声がした
右手首に巻き付いていたミミックが、いつの間にか小さな鳥の姿へ変わっている
「……おい、ミミック?」
「ぴぃ!」
ミミックは俺の手首から飛び立つと、まっすぐアスカロンへ向かっていった
「……え?」
そして――
がぶっ
ミカエルが差し出していたアスカロンの柄へ食いついた
「…………」
「…………」
……は?
「……ミミック?」
俺が声を掛けると、ミミックは柄を咥えたまま、こちらを向いた
「ぴぃっ!」
ぐいっ!
……おいおい
小さな鳥が、自分の身体より遥かに大きな聖剣を引っ張っている
いや、何で動くんだよ、それ
ミカエルも予想外の光景に目を丸くしていた
「
「ああ、
「エクスカリバー!?」
ミカエルが驚いたように声を上げる
その視線が柄に食いついているミミックへ向けられた
ミカエルは剣が引っ張られないように手元を支えながら、改めて俺を見る
「どうして、その聖剣がこちらに?」
「……話すと長いんですけど、何故か俺のところへ戻ってきてしまうんですよ」
……って、今はそんなこと言ってる場合じゃない!
「ミミック、こら! アスカロンはイッセーの剣になるんだから、邪魔するなって!」
「ぴぃっ!」
ぐいぐいっ!
……聞いちゃいねぇ
というか、何でそんなに張り切ってるんだ、お前
「……ハク?」
クオンが不思議そうに首を傾げた
「もしかして、ミミックもハクに持ってほしいのかな?」
「……いや、まさか」
……まさか、だよな?
しかし、ミミックはそんな俺の不安など知ったことではないとばかりに、大きく翼を羽ばたかせた
「ぴぃーーっ!」
ミカエルがイッセーへ剣を渡そうと持ち替えた、その瞬間だった
柄に食いついていたミミックが、思い切り剣を引っ張ったのである
「……っ!?」
不意を突かれたミカエルの指から、アスカロンの柄が滑り出した
ミカエルが掴み直そうと手を伸ばすより早く、ミミックはアスカロンを引っ張ったまま俺の方へ飛んでくる
……おい、待て!
「ミミック! やめろって!」
「ぴぃっ!」
ミミックは構わず俺の目の前へ飛び込み、咥えていた柄をぐいぐいと押し付けてきた
「おい、やめ――」
咄嗟に手を伸ばして押し返そうとしたが、ミミックが強引に剣を運んでくるせいで、切っ先が左右に振れ始めた
……ちょっと待て、それは危ないだろ!
反射的に柄を掴み、剣先を誰もいない方へ逸らそうと身体をひねった
「いっ……!」
腰に痛みが走ったものの、どうにか切っ先を人のいない方向へ向けることができた
……しまった、握った!
――ブワッ!!
「――っ!?」
次の瞬間、アスカロンから凄まじい聖なる力が噴き上がった
「なっ!?」
ミカエルが驚愕の声を上げる
先ほどまで穏やかだった刀身が眩い光を放ち、その力が一気に膨れ上がっていく
……うおおおい!?
やっぱりこうなるのかよ!!
しかも、デュランダルの時より厄介だ
聖なる力だけじゃない、アスカロンが持つ龍殺しの性質まで異常な勢いで強まっている
……まずい、すぐに離さないと!
だが、突然噴き出した力に煽られ、剣先が大きく揺れた
今この状態で手を離せば、切っ先がどちらへ向くか分からない
ほんの僅かな間、剣を押さえていたところへ、ミカエルの声が響いた
「朱乃さん、皆さんを!」
「はい!」
ミカエルが俺とアスカロンの周囲に障壁を展開するのと、朱乃がイッセー達を守る結界を広げるのは、ほとんど同時だった
「ハク!?」
クオンがこちらへ踏み出そうとしたのを、朱乃が呼び止める
「クオン、こちらへ!」
クオンは一瞬ためらったものの、すぐに朱乃の結界内へ下がった
その直後、イッセーが左腕を押さえて呻いた
「……ぐっ!?」
……っ!?
籠手から伝わってくる氣が激しく乱れている
……ドライグか!?
『ハク!! 頼む!! 今すぐその剣を離してくれ!!』
「――っ!」
ドライグの切迫した声が響く
周囲には既に結界が広がっている
俺は即座にアスカロンを手放した
落ちかけた剣を、障壁を維持したまま駆け寄ってきたミカエルが受け止める
その瞬間――
すん
先ほどまで噴き上がっていた力が、嘘のように静まった
ミカエルは力が収まったことを確かめると、俺と剣の周囲を覆っていた障壁を解いた
……収まったか
いや、それより!
「イッセー!」
俺はすぐにイッセーへ向かった
「ハク、腰!」
背後からクオンの声が聞こえたが、今はそれどころじゃない
イッセーの前に膝をつき、左腕へ意識を向ける
……っ、やっぱりか!
イッセーだけじゃない、ドライグの氣まで大きく乱れている
アスカロンには三勢力で調整を施したと言っていたが、俺が握ったことで想定を超えるほどの力が出てしまったのかもしれない
朱乃達の結界が完全に広がるより先に、龍殺しの力が届いてしまったのだろうか
……いや、今は原因を考えている場合じゃないな
「イッセー、左腕貸せ!」
「……お、おう!」
差し出された籠手へ手を添え、すぐに仙術で氣の流れを確かめる
……っ、酷いな
イッセー自身の氣だけじゃなく、
あれだけの龍殺しの力を浴びたんだ、無理もないか
「イッセー、痛むところは?」
「……左腕が、ちょっと……」
「分かった、無理に動かすなよ」
俺は二人の状態を慎重に見極めながら、仙術で乱れた氣を整え始めた
まずはイッセー自身の氣を落ち着かせ、それから籠手の奥にいるドライグへ意識を向ける
それぞれの流れを混同しないよう、一つずつ確かめながら調整していく
……うん、思った以上に負担が掛かってるな
中途半端に整えたところでやめると、また苦しくなるかもしれない
ここは念入りにやっておこう
「……ふぁ……」
「……ん?」
イッセーの口から、何とも気の抜けた声が漏れた
顔を上げると、さっきまで苦しそうにしていたイッセーが、ぼんやりと空を見上げている
「イッセー、苦しくないか?」
「……ああ……」
「腕の痛みは?」
「……ない……」
「息苦しさは?」
「……全然……」
……そうか
よかった
左腕に集中していた乱れは収まり、呼吸も安定している
……うん、これなら大丈夫そうだな
『……何だ、これは……』
「ドライグ?」
『……あれほどの苦痛が……嘘のように消えている……』
「そうか、そっちも楽になったか」
『……ああ……』
ドライグの声が、妙にゆっくりしている
『……心が……凪いでいる……』
「……ん?」
『……数多の戦いを重ねてきた我が……今は争いすら遠い出来事のように感じる……』
……おいおい
随分と落ち着いたな
まあ、ドライグの氣も先ほどまでの荒れ方が嘘みたいに穏やかになっているし、苦痛が和らいだのは確からしい
「……ハク……」
「ん? どうした、イッセー?」
「……俺、今なら……世界中の人と仲良くできる気がする……」
「……は?」
「……何かもう……悩みとか……全部どうでもよくなってきた……」
………………
……いや、ちょっと待て
お前、さっきまで左腕を押さえて苦しんでたよな?
「イッセー、意識ははっきりしてるか?」
「……おう……」
「ちゃんと俺が分かるか?」
「……ハクだろ……いつも世話になってる……」
「……そうか」
……うん、受け答えはできてるな
それに、イッセー自身の氣と籠手の奥の氣は、それぞれ安定した流れを取り戻している
俺自身の氣も、施術前から何一つ乱れていない
……問題ないはずなんだが
「……ハク……」
「今度は何だ?」
「……これ……賢者タイムってやつじゃね……?」
「……は?」
『……相棒よ……今の我には、その言葉に異を唱える気力すらない……』
「…………」
……何を言ってるんだ、こいつら
俺は真面目に治療してるんだぞ?
「……とりあえず、少し休んどけよ、まだ身体に負担が残ってるかもしれないからな」
「……おう……」
『……ああ……しばし、この静寂に身を委ねるとしよう……』
……うん
何だか妙なことになってる気もするが、ひとまず二人とも落ち着いたようで何よりだ
「ぴぃ♪」
……ん?
ふと肩の辺りから、聞き慣れた鳴き声がした
顔を向けると、いつの間に戻ってきたのか、ミミックがちょこんと乗っている
「…………」
「ぴぃっ!」
……ああ、そうだった
そもそも、こいつがアスカロンを持ってきたせいで、こんなことになったんだよな
「……ミミック、お前は少し反省しろよ?」
「ぴぃ♪」
……うん
まったく反省してないな
まあ、今は叱っても聞きそうにないし、後で改めて話すとするか
……さて、次は朱乃だな
「朱乃、ちょっと手を貸してくれ」
「あら、どうしました?」
「お前もさっきの結界で無理しただろ、氣が少し乱れてるぞ」
「……あら、分かってしまいますのね」
「まあな、ちょっと整えるからじっとしててくれ」
「ふふっ、お願いしますわ♪」
差し出された手を取り、朱乃の氣を確かめる
……やっぱりな
さっきの結界で相当な負担が掛かっていたらしい
普段ならこれくらいの疲れを表に出さないだろうが、放っておいていいものでもない
俺は朱乃の状態に合わせて氣を巡らせ、結界を維持するために酷使した部分を中心に、負担を丁寧に和らげていった
……よし、少しずつ落ち着いてきたな
「……あら……?」
「ん?」
「……ふふ……」
朱乃の肩から、すっと力が抜けた
「……何だか……とっても穏やかな気分ですわぁ……」
「……朱乃?」
「……このまま……縁側でお茶でも飲みながら……のんびり過ごしたいですわねぇ……」
……おい
朱乃までどうした?
「朱乃、気分は悪くないか?」
「……いいえ……むしろ、とても心地よいですわ……」
「そうか、ならよかった」
……うん、結界の反動で生じていた負担は綺麗に抜けている
普段のように動けるかは様子を見た方がいいが、今のところ無理をさせる必要もないだろう
ただ、何だか普段より随分と大人しくなっている気がする
「……ハク……」
背後から、イッセーの妙に落ち着いた声が聞こえた
「……朱乃まで……悟り開いてねえか……?」
「……何言ってんだ、お前?」
俺は本気で皆の身体を心配してるんだって!
「あらあら……ふふふ……♪」
朱乃はただ幸せそうに微笑んでいる
俺は最後に朱乃の氣を確かめると、そっと手を離した
……あれ?
何かおかしいのか、これ?
施術自体は上手くいってるんだが……
「……ハク?」
そこへ、クオンが心配そうに近付いてきた
「……ん? どうした?」
「さっき、腰をひねってたでしょ? 本当に大丈夫?」
「ああ、少し痛んだけど、もう落ち着いたよ」
「……本当に?」
クオンが俺の顔を覗き込みながら、そっと肩へ手を添えてきた
「無理してない? もし痛いなら、
ふにゃっ
「……ん?」
突然、クオンの身体から力が抜けた
そのまま俺の肩へ頭を預け、ゆっくりともたれ掛かってくる
「……ハクぅ……」
「……お、おう?」
………………
………………は?
ちょっと待って?
クオン?
何で急にもたれ掛かってくるんだ!?
いや、別に嫌とかじゃないぞ!?
むしろ嬉しいというか、何というか!!
……って、違う違う!!
まずは体調だろうが!!
「……クオン、気分は悪くないか?」
「……ううん……すっごく落ち着くよぉ……」
「……そ、そうか」
クオンが幸せそうに目を細め、俺の肩へ頬を寄せてきた
………………
おおおおおい!?
距離!!
距離が近いって!!
いや、普段から近いけど!!
今はちょっと心の準備が!!
……お、落ち着け
まずはクオンの氣を確かめるんだ
すると、驚くほど綺麗に整った氣の流れが感じられた
……ん?
ちょっと待て
俺、クオンにはまだ何もしてないぞ?
いや、何もしてないつもりだったんだが……
もしかして、さっき肩に触れられた時、無意識に氣を整えてしまったのか?
そう考えると、今の状態にも説明がつく
ただし、俺自身の氣は何一つ揺らいでいない
仙術の制御が乱れたわけでもないらしい
……うん
氣はな
内心は全然落ち着いてないんですけど!?
「……ハクぅ……」
「……な、何だ?」
「……もうちょっと……こうしててもいい……?」
「……あ、ああ、別に構わないけど……」
「……えへへ……ありがとぉ……」
クオンは俺の肩へ頭を預け直し、ふにゃりと笑った
………………
……ああ、もう!!
何だ、この破壊力!!
だが、ここで慌てて動けばクオンを転ばせかねないし、俺の腰にも響く
とりあえず姿勢を安定させ、クオンを支えておこう
「あらあらぁ……仲良しですわねぇ……♪」
「……朱乃、頼むから今は何も言わないでくれ」
「……ふふふ……♪」
……駄目だ
まったく聞いちゃいねぇ
「……ハク……」
イッセーが、悟りでも開いたような顔でこちらを見ていた
「……幸せそうだな……」
「お前まで何言ってんだ!?」
『……相棒よ……今はそっと見守ってやろう……』
「ドライグも何を見守るつもりだ!?」
………………
……ん?
何だか視線を感じるぞ
そちらへ顔を向けると――
「…………」
「…………」
ミカエルが、じっとこちらを見ていた
……あ
そうだった
ミカエルがいたんだった!!
天使の長!!
十二枚の翼!!
そんなお方の目の前で!!
クオンに!!
もたれ掛かられてるぅぅぅ!?
「……あの、ミカエル様?」
「……はい?」
「……何か?」
「いえ、その……」
ミカエルは俺とクオンを交互に見つめた後、少し不思議そうに首を傾げた
「……
「……え?」
「これだけ色々なことが起きているというのに、あなたの氣は少しも乱れていません」
「…………」
……いや
……あの
そうなんですけど!!
氣だけは!!
俺の内心は今、凄まじいことになってるんですけど!?
「……何か、秘訣でもあるのでしょうか?」
「……いえ、特には……」
「……そうですか」
ミカエルは一度頷いたものの、やはり不思議そうな表情を浮かべている
……いや、そんな真剣に観察しないでください!!
こっちは今、それどころじゃないんです!!
「……ハクぅ……」
「……ん?」
「……あったかいねぇ……」
クオンが俺の肩へ頭を預け直した
「……っ!?」
………………
………………うん
無理
これは無理だ!!
いや、嫌なわけじゃない!!
嬉しいんだけど!!
この距離でそんな声を出され続けたら、俺の精神がもたん!!
……よし
こういう時は、一旦落ち着ける場所へ移動しよう
「……ミカエル様、すみません」
「はい?」
「ちょっとクオンを休ませてきます」
「ええ、もちろんです、どうぞ」
ミカエルはすぐに頷いてくれた
……ありがたい
まずはクオンを落ち着ける場所に連れていこう
「……クオン、ちょっと場所を移すぞ?」
「……んぅ……?」
「このままだと疲れるだろ、少し休もうな」
「……うん……ハクと一緒なら……」
………………
……おおおおおい!?
頼む!!
その返し方は反則だろ!?
……いや、落ち着け
落ち着いてるけど!!
氣だけはな!!
俺はクオンの背中へ片腕を回し、もう片方の腕を膝の下へ差し入れた
腰を痛めていることを忘れないよう、身体をひねらず、足の力を使ってゆっくりと抱え上げる
「……ほわぁ……」
「……っと」
……よし、腰は大丈夫だな
って!!
今度は抱っこしてるんですけどぉぉぉ!?
「……ハクぅ……あったかいねぇ……」
「……そ、そうか」
クオンは俺の胸元へ頭を預け、幸せそうに微笑んでいる
……おおおおおい!!
頼むから!!
これ以上は!!
俺の心臓に悪いって!!
……いや、今はクオンを休ませることが先決だ
ちゃんと歩こう
腰にも気を付けながら、な!
「あらあらぁ……ふふふ……♪」
背後から朱乃の楽しそうな声が聞こえた
……聞こえない
今は何も聞こえないぞ
「……ハク……ゆっくりなぁ……」
『……うむ……急いては事を仕損じる……』
……お前らまで!!
何で今日は全員そんなに穏やかなんだよ!!
俺はできるだけ平静を装い、その場を離れた
─────────────────────────
社殿の横へ回ると、縁側が見えてきた
……ああ、ここなら静かに休めそうだな
周囲を確かめてみると、日差しも柔らかく、風通しも悪くない
しかも何故か、縁側の隅には座布団が一枚置かれていた
……何でこんなところに?
まあ、今はありがたく使わせてもらおう
「クオン、ここで少し休もうか」
「……ん……」
俺は足を踏ん張って身体を安定させ、腰に負担を掛けないようゆっくり膝を曲げた
それから、クオンをそっと縁側へ下ろす
……よし、無事に下ろせたな
座布団を手元へ寄せ、枕代わりに置いてから、クオンを横にならせた
「……どうだ、楽か?」
「……うん……ふかふかぁ……」
「そうか、よかった」
……うん、呼吸も落ち着いてるし、顔色も悪くないな
急に力が抜けたのは驚いたが、今のところ苦しそうな様子はない
それにしても、まさか無意識にクオンの氣まで整えてしまうとは……
少し驚いたが、身体への負担がないならひとまず安心だ
「……ハクぅ……」
「ん?」
「……ありがとねぇ……」
クオンが柔らかく笑った
「……ゆっくり……してきてねぇ……」
「ああ、ちょっと向こうに戻ってくるよ」
「……うん……」
「何かあったらすぐ呼んでくれ、近くにいるから」
「……分かったぁ……」
クオンは満足そうに目を細めた
……はぁ
何とか落ち着けたな
いや、クオンがじゃないぞ
俺がだ!!
……まあ、本人はすっかり穏やかになってるみたいだし、しばらく休ませておこう
念のため、クオンの氣をもう一度確かめる
……うん、体内を巡る氣に偏りや滞りは見られない
これなら安心して休ませられそうだな
「じゃあ、また後でな」
「……うん……ハクぅ……」
……おう
危ない
また戻りたくなっちまうところだった
俺は名残惜しさを振り切り、皆のところへ戻ることにした
─────────────────────────
「……戻りました」
「おかえりなさい、
ミカエルが穏やかに迎えてくれた
「
「ええ、呼吸も安定していますし、氣にも異常はありません、今は縁側で休んでもらってます」
「そうですか、それは何よりです」
……うん
ミカエル様はいつもどおりだな
そして、イッセー達はというと――
「……ああ……ハク……」
「……おう、イッセー」
「……クオンは……?」
「縁側で休んでるよ」
「……そっかぁ……」
………………
……お前、まだその調子なのか
『……相棒よ……そろそろ剣の件を進めようではないか……』
「……ドライグ?」
『……うむ……我らには、やるべきことがある……』
声だけ聞けば普段のドライグなんだが、何だろう
妙に穏やかなんだよなぁ……
「あらあら……ふふふ……♪」
朱乃に至っては、相変わらず縁側で日向ぼっこでもしているような顔をしている
……うん
こいつら、本当に大丈夫か?
「……それでは、一誠君」
ミカエルがアスカロンを手に取り、イッセーへ向き直った
「改めて、アスカロンとの同調を始めましょうか」
「……はい……よろしくお願いします……」
イッセーが妙に穏やかな笑顔で頷いた
……いや、待て
今のお前、本当に同調できるのか!?
「イッセー、無理してないか?」
「……大丈夫だって、ハク……」
『……我も問題ない……氣の乱れは既に収まっている……』
「……そうか」
念のため確かめてみたが、二人とも呼吸や反応に問題はなく、龍殺しの力を受けた直後のような乱れもない
……うん、それならいいんだが
「では、始めますよ」
ミカエルがアスカロンを構えた
俺は先ほどの一件を思い出し、念のため剣から少し距離を取る
……今度こそ、余計なことは起きないでくれよ?
すると、イッセーが左腕を前へ突き出した
『……相棒よ……準備はよいか……』
「……ああ……いつでもいいぜ……」
『……では、我の助言に従い……宝玉へ意識を集中させるのだ……』
「……おう……分かった……」
イッセーが頷き、左腕の宝玉へ意識を集中させた
………………
……何だろうな
アスカロンと赤龍帝の同調という、かなり重要な場面のはずなんだが……
何でこんなに空気がほわほわしてるんだ!?
ミカエルがアスカロンへ意識を向けるのと同時に、イッセーも宝玉を通じて剣の力を受け入れ始めた
その刀身に宿る神聖な力が、ゆっくりと赤龍帝の籠手へ向かっていった
……お
どうやら始まったみたいだな
今度こそ無事に終わってくれよ、本当に
「……なあ、ハク……」
「ん? どうした、イッセー?」
イッセーがアスカロンを眺めながら、ぽつりと呟いた
「……アスカロンもさ……世界の一つなんだな……」
「…………は?」
……何だって?
「……龍殺しだからって……嫌ってばかりじゃ駄目なんだよな……」
「……イッセー?」
「……こいつも……この世界に存在してるんだもんなぁ……」
………………
……おい
何か凄いこと言い始めたぞ、こいつ
『……ああ、相棒……』
今度はドライグの声が響いた
『……天敵と言っても……それもまた、世界の摂理……』
「…………」
『……龍があり……龍を殺す剣がある……それも、この世界の在り方なのだろう……』
「……だよなぁ……」
『……うむ……』
………………
いやいやいやいや!?
お前ら、さっきアスカロンで酷い目に遭ったばっかりだろうが!!
「……ドライグ?」
『……何だ、ハク……』
「お前、龍殺しの剣が怖くないのか?」
『……恐れる心もまた、自然なもの……』
「……いや、そうじゃなくてな?」
『……だが、恐れだけで世界を拒むのも違うのだろう……』
「…………」
……駄目だ
何かものすごく深い話をしているようで、全然話が噛み合わねぇ!!
「……ミカエル様?」
「……はい?」
「……この状態で、本当に大丈夫なんでしょうか?」
俺が尋ねると、ミカエルはイッセーとその左腕を見つめた
「……そうですね、少なくとも氣の状態は非常に安定しているようですが……」
「……ですよね」
「ただ……」
ミカエルが少し首を傾げる
「赤龍帝が龍殺しの剣を、これほど穏やかに受け入れるとは思っていませんでした」
「……俺もです」
いや、本当に
俺は二人が苦しそうだったから、仙術で氣を整えただけなんだぞ?
それなのに、何で世界の真理について語り始めてるんだ?
「……ハク……」
「……今度は何だ、イッセー?」
「……世界って……広いなぁ……」
『……ああ……実に広い……』
「…………」
……うん
もういいや
とりあえず身体に異常はなさそうだし、同調が無事に終わるよう見守ろう
……頼むから終わったら元に戻ってくれよ、お前ら
「あらあら……世界は素晴らしいですわねぇ……♪」
……朱乃!?
お前まで混ざるなぁぁぁ!!
「……では、一誠君、同調を進めますよ」
「……はい……」
ミカエルがアスカロンを籠手へ近付けると、刀身を包む光が少しずつ強まっていった
同時に、籠手の宝玉も輝きを増していく
……おお
今のところ、聖なる力にも龍殺しの性質にも、異常な膨張は見られないな
先ほどミカエルが言っていた調整も、正常に働いているようだ
「……アスカロン……」
イッセーがぼんやりと剣を見つめた
「……これから……よろしくなぁ……」
『……うむ……互いに異なる存在であろうとも……共に歩むことはできるのだな……』
……お前ら、まだその調子なのか
やがてアスカロンの刀身が光に包まれ、その姿が少しずつ薄れていった
光はイッセーの左腕へと集まり、赤龍帝の籠手に吸い込まれるように収まっていく
最後の輝きが消えると、境内には静けさが戻った
「……ふむ」
ミカエルが籠手の状態を確かめる
「無事に同調できたようですね」
「……おお……」
イッセーが自分の左腕を眺めながら、静かに頷いた
イッセーは静かに剣へ意識を向けた
『……ああ……新たな力と共に歩むとしよう……』
……いや、ドライグ
お前、龍殺しの剣と共存することに対して、何かもう悟り開いてないか?
「イッセー、ドライグ、具合はどうだ?」
「……うん……すっげぇ……いい感じ……」
『……我も問題ない……何とも穏やかなものだ……』
……なるほど
念のため籠手の状態を調べてみたが、先ほどのような苦痛や氣の乱れは生じていない
同調は無事に終わったと考えてよさそうだな
「……ハク……」
「……何だ?」
「……世界って……優しいんだなぁ……」
「……そうか、よかったな」
……うん
身体に異常はない
そこは安心していいんだが……
頼むから、そろそろいつものお前に戻ってくれ!!
─────────────────────────
「……ところで、
「はい?」
アスカロンとの同調が無事に終わったところで、ミカエルがこちらへ声を掛けてきた
何やら興味深そうに俺を見つめている
「先ほどから気になっていたのですが、あなたが行っていた氣の調整について、少し伺ってもよろしいでしょうか?」
「ええ、構いませんよ」
「見たところ、一誠君とドライグ、それに朱乃さんも随分と楽になったようですね」
「ああ、はい、乱れていた氣を整えて、身体に掛かっていた負担を軽くしたんです」
「……なるほど」
ミカエルが感心したように頷く
「実に興味深いですね」
「……そうですか?」
「ええ、氣を整えることで身体の負担が和らぐというのは理解できるのですが、皆さんのあの穏やかさも、施術によるものなのでしょうか?」
「……ああ、それは……」
俺は思わずイッセー達へ目を向けた
「……ふわぁ……」
『……静かだな、相棒……』
「……ああ……静かだ……」
「あらあら……いいお天気ですわねぇ……♪」
………………
……うん
どう見ても普段とは違うな
「……多分、深くリラックスしてるんだと思います」
「なるほど、深いリラックス状態ですか」
「ええ、痛みや結界の負担は和らいでますし、体調も落ち着いてるんですけどね」
むしろ、普段より余計な力が抜けているくらいだ
俺としては皆の身体が楽になったのなら、それでいいんだが……
何というか、少々気が抜けすぎている気もしないでもない
「……そうですか」
ミカエルはしばらく考え込んでいたが、やがてこちらへ向き直った
「……
「はい、何でしょう?」
「もし差し支えなければ、私にもその氣の調整をお願いできませんか?」
「……俺が、ですか?」
「ええ、ぜひ一度体験してみたいのです」
……え?
天使の長が?
俺の仙術を?
「……構いませんけど、ミカエル様は何か体調でも悪いんですか?」
「いえ、具合が悪いというほどではないのですが……」
ミカエルは少し苦笑した
「私も少々疲れが溜まっていましてね」
……ああ、なるほど
そりゃそうだろうな
天界の長として色々な仕事を抱えているだろうし、もうすぐ三勢力会談もある
しかも、その会談は今夜だ
準備だけでも相当忙しかったんじゃないか?
「分かりました、ただ、天使の氣を直接整えるのは初めてですから、慎重に進めますね」
「ええ、お願いします」
「何か違和感があれば、すぐ教えてください」
「承知しました」
ミカエルが穏やかに頷いた
……よし
まずは状態を確かめよう
「では、手をお借りしますね」
「はい」
差し出された手を取り、仙術で氣の流れを探っていく
……ん?
……これは
流石は天使の長だけあって、氣の流れそのものは非常に安定している
規模も質も、普段接している人間や悪魔とは随分違うな
だが、その一方で……
……おいおい
随分と疲労が溜まってるじゃないか
表面上は平然としているが、細かい負担が幾つも重なっている
恐らく、普段から相当無理をしているんだろうな
「……ミカエル様、随分とお疲れですね」
「……おや、分かりますか?」
「ええ、結構負担が掛かってますよ」
「ふふっ、少々仕事が立て込んでいまして」
……少々、ねぇ
この状態で少々と言われてもなぁ
まったく、立場のある人は自分の身体を後回しにしがちなんだろうか
……いや、俺も人のことは言えないか
「少し時間を掛けて整えますね」
「お願いします」
……よし
ここは丁寧にやろう
天使の氣は人間や悪魔とは違うが、流れを見極めて調整するという点は同じだ
ただし、相手はミカエルだ
変に急いで負担を掛けるようなことだけは避けたい
俺は手を添えたまま、ミカエルの氣の流れを一つずつ確かめ、蓄積している疲労や負担をゆっくりと和らげていった
……うん、いい感じだな
この調子なら、かなり楽になるはずだ
「……おや……?」
「何か違和感がありますか?」
「……いえ……」
ミカエルがゆっくりと瞬きをした
「……これは……何とも……」
「……ミカエル様?」
「……身体が……とても軽いですねぇ……」
……お?
どうやら効果が出てきたみたいだな
俺はそのまま氣を整え続けた
長い間積み重なっていた負担が少しずつ和らぎ、全体の流れも滑らかになっていく
……よし、もう少しだ
せっかく頼まれたんだから、できる限り疲れを取り除いておきたい
……うん、これでどうだ?
「……ふわぁ……」
………………
……ん?
何か、聞き覚えのある声がしたぞ?
「……ミカエル様?」
「……はいぃ……?」
………………
……あれ?
ミカエルが、何とも幸せそうに微笑んでいる
先ほどまでの穏やかな笑みとは、何だか種類が違う
「……ああ……素晴らしいですねぇ……」
「……はい?」
「……身体が……羽のように軽いです……」
……いや、羽は元からありますけど!?
……って、そうじゃない!
「……気分は悪くありませんか?」
「……いいえぇ……とても……心地よいですよぉ……」
「……そうですか」
……うん
蓄積していた疲労も、普段から無理を重ねていた部分の負担も、今は綺麗さっぱり消えている
ミカエル様自身も楽になったと言っているし、仙術の調整そのものは成功だな
……成功なんだけどさ
「……
「……はい?」
「……ありがとうございますぅ……」
ミカエルがにこにこと笑った
「……何だか……心まで軽くなったようです……」
………………
……あれ?
これ……
さっきのイッセー達と同じじゃないか?
「……ああ……風が心地よいですねぇ……」
ミカエルが空を見上げる
十二枚の翼が、そよ風に合わせてふわりと揺れた
「……世界は……こんなにも穏やかだったのですねぇ……」
………………
……おい
ちょっと待て
天使長まで悟りを開き始めたぞ!?
「……ミカエル様?」
「……はいぃ……?」
「……あの、意識ははっきりしていますか?」
「……ええ……もちろんですよぉ……」
「……今夜、三勢力会談があるのは覚えてます?」
「……はい……大切な会談ですねぇ……」
……よかった
そこはちゃんと覚えてるな
「……皆さんが……互いを理解し合えるような……素晴らしい時間になればいいですねぇ……」
「……ああ、はい」
……うん
言ってることは至極まともだ
むしろ天使の長として、何も間違ったことは言っていない
ただ……
何でそんなにポワポワしてるんですかぁぁぁ!?
「あらあらぁ……ミカエル様も……こちらへいらしたんですねぇ……♪」
朱乃が嬉しそうに微笑んだ
「……ええ……とても素晴らしい体験でしたよぉ……」
「……そうでしょう……? ふふふ……♪」
………………
……おい
何だ、その会話
まるで同じ温泉に入って、すっかりくつろいでいる人達みたいじゃないか
ここ、神社だよな?
しかもさっきまで聖剣が暴走してたよな?
「……ハク……」
イッセーが、すっかり穏やかになった顔でこちらを見ていた
「……ミカエルさんも……世界の優しさに気付いたんだなぁ……」
『……うむ……種族の違いなど……些細なことなのだろう……』
「……ふふふ……そうですねぇ……」
ミカエルまで頷いた
………………
いやいやいやいや!!
何なんだ、この空間はぁぁぁ!!
イッセーは悟りを開いてるし!
ドライグは世界の摂理を語ってるし!
朱乃は今にもお茶を飲み始めそうだし!
クオンは縁側で座布団を枕に気持ちよさそうに休んでるし!
そして今!!
天使の長まで!!
「……ああ……今日は……本当に良い日ですねぇ……」
……おおおおおい!!
ポワポワ天使長が完成してしまったぁぁぁ!!
………………
……いや、待てよ?
俺は本当に、皆の身体を心配して氣を整えただけなんだぞ?
イッセーとドライグはアスカロンのせいで苦しんでいたし、朱乃は結界で無理をしていた
クオンは……まあ、俺が無意識にやっちまったんだが
ミカエル様に至っては、本人から頼まれた上に、実際かなりの疲労が溜まっていたんだ
だから、それを取り除いてあげただけで……
実際、イッセーも朱乃も、クオンもミカエル様も、それぞれ抱えていた負担は軽くなっている
俺自身の氣だって、最初から何一つ揺らいでいない
……うん
仙術自体は何も間違ってない
……間違ってないはずだ
「……
「……はい?」
ミカエルがこちらへ微笑みかけた
「……本当に……ありがとうございましたぁ……」
「……いえ、お役に立てたなら何よりです」
「……ふふっ……今夜の会談も……きっと良いものになりますねぇ……」
「……そう、ですね」
………………
……いや、ちょっと待ってくれ
今夜の会談って、確か天使、悪魔、堕天使の首脳陣が顔を揃えるんだよな?
そこに、このミカエル様が出席するわけで……
……え?
……まさか、この状態のまま?
………………
……いやいやいや
流石に夜までには落ち着くだろ
うん、そうだ
そうに決まってる
「……ああ……お茶が美味しそうな日ですねぇ……」
………………
……頼む
本当に、今夜までには元に戻ってくださいねぇぇぇ!?
そんな俺の願いなど知る由もなく、ミカエルは幸せそうに微笑んでいた
「……さて、それでは私もそろそろ失礼しますねぇ……」
……お?
どうやらお帰りになるらしい
いや、今夜は三勢力会談も控えているし、そろそろ戻る頃合いだろう
……それにしても
最後まで随分と幸せそうだなぁ
「本日はありがとうございました、ミカエル様」
「こちらこそ、
ミカエルはにこやかに首を振り、それからイッセーへ目を向けた
「一誠君も、アスカロンを大切にしてくださいね」
「……はい……」
イッセーが何とも穏やかな顔で頷く
「……アスカロンも……俺達と同じ世界にあるんですもんねぇ……」
『……うむ……互いを尊重することが大切なのだろう……』
「ふふっ、素晴らしい心掛けですねぇ」
………………
……おい
天使長と赤龍帝が、すっかり意気投合してるんですが!?
内容だけ聞けば別に間違ってない
間違ってないんだが、さっき龍殺しの剣で苦しんでいた奴らが話してると思うと、妙に釈然としないぞ
「あらあらぁ……素敵ですわねぇ……♪」
朱乃まで嬉しそうに微笑んでいる
……うん
今、まともにこの状況へツッコミを入れられるの、俺だけだな
「それでは、今夜の会談でまたお会いしましょう」
ミカエルが改めて背筋を伸ばした
その表情は、先ほどまでのポワポワしたものから、天使の長らしい落ち着いたものへ変わっている
「三勢力の今後に関わる大切な会談ですから、私も責任を持って臨みます」
「はい、よろしくお願いします」
……おお
ちゃんと切り替えられるんだな
これなら、そこまで心配しなくてもいいかもしれない
「……それにしても……今日は本当に風が心地よいですねぇ……」
………………
まだ残ってるぅぅぅ!?
いや、まあ、考える力まで鈍っているわけじゃないみたいだし、問題はない……はずだ
「そういえば、
「ええ、縁側にいます」
「では、よろしくお伝えください」
「はい、分かりました」
ミカエルが柔らかく微笑むと、その身体を金色の光が包み始めた
十二枚の翼が広がり、周囲に穏やかな聖なる力が満ちていく
「……ああ、そうでした」
姿が消えかけたところで、ミカエルがこちらを振り返った
「
「……え?」
「ふふっ、とても素晴らしい体験でしたから」
「……ああ、はい、必要でしたら」
「ありがとうございます、それでは、また今夜」
そう言い残すと、ミカエルは光と共に姿を消した
………………
……おい
ちょっと待て
天使長がリピーターになったんですけど!?
いや、もちろん疲れが溜まっているなら整えるのは構わないぞ?
構わないんだが……
……何というか
今日一日で、俺の仙術に対する認識が妙な方向へ変わりそうな気がしてならない
「……ハクぅ……」
「……ん?」
イッセーが、何とも穏やかな顔でこちらを見ていた
「……ミカエルさん……いい人だったなぁ……」
「……ああ、そうだな」
『……ああ……ミカエルも、話の分かる奴だな……』
………………
……お前らも、まだその調子なのか
「ふふっ……皆さんが仲良くなれるのは……素敵なことですわねぇ……♪」
朱乃まで幸せそうに微笑んでいる
……はぁ
とりあえず、ミカエル様には無事にお帰りいただけた
次は、こいつらがいつ元に戻るのかという問題だな
─────────────────────────
「そういえば、朱乃」
「はいぃ……?」
「この後、少し休んでいってもいいか?」
「あらあら……もちろんですわぁ……お茶でもいかがですかぁ……?」
「……ああ、ありがたいな」
……何だろう
普段からゆったりした喋り方をする朱乃だけど、今日は輪を掛けてのんびりしてるな
「……お茶……いいなぁ……」
イッセーが、空を見上げながら呟いた
「……お茶を飲んで……皆でのんびり……」
『……ああ……戦いばかりが人生ではないからな……』
「……だよなぁ……」
………………
……なあ、ドライグ
お前、赤龍帝だったよな?
さっきまで龍殺しの剣に悲鳴を上げてたんだよな?
……いや、もういいか
「じゃあ、ちょっとクオンを呼んでくるよ」
「あらあら……ぜひご一緒にどうぞぉ……♪」
「……おう、行ってくる」
俺は朱乃達に断ってから、社殿の横へ向かった
─────────────────────────
縁側へ回ると、クオンは相変わらず座布団を枕にして横になっていた
柔らかい日差しの中、何とも幸せそうな寝顔をしている
……いやぁ
気持ちよさそうだなぁ
朝から色々あったし、無理に起こすのも気が引けるんだが……
「……クオン?」
そっと声を掛けると、クオンがゆっくり目を開けた
「……んぅ……?」
「起こして悪いな、ミカエル様はもう帰られたよ」
「……そっかぁ……」
クオンはふにゃりと笑った
「……おかえりぃ……ハクぅ……」
「……ああ、ただいま」
………………
……うん
まだポワポワしてるな
「朱乃がお茶を出してくれるってさ、一緒に行くか?」
「……お茶ぁ……?」
「ああ、イッセーも一緒だぞ」
「……うん……行くぅ……」
クオンがゆっくりと起き上がる
俺は念のため背中を支えながら、ふらつきがないか確かめた
……うん、足取りも問題なさそうだ
「……ハクぅ……」
「ん?」
「……手ぇ……」
「……手?」
クオンがこちらへ片手を差し出してきた
……ああ、そういうことか
「ほら」
俺が手を差し出すと、クオンは嬉しそうに握ってきた
「……えへへ……♪」
………………
……ぐっ
相変わらず、こういうところは容赦ないな
俺はクオンと手を繋ぎ、ゆっくり歩き出した
……うん
腰も痛くないし、クオンの足取りもしっかりしている
何も問題はない
俺の氣も相変わらず安定している
……だからって、内心まで平穏だと思わないでいただきたい!!
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「お待たせ」
「あらあら……お二人とも、いらっしゃいませぇ……♪」
朱乃が笑顔で迎えてくれた
案内された先には畳敷きの部屋があり、既に四人分の湯呑と茶菓子が用意されている
「……おお……」
イッセーが湯呑を眺めながら、感心したように頷いた
「……日本って……いいなぁ……」
『……ああ……こうして静かに過ごすのも悪くない……』
……いや、だから
お前ら何歳だよ
赤龍帝とその宿主が、休日の昼前に縁側のお爺ちゃんみたいになってるんですが
「……ふふっ……いただきまぁす……」
クオンが湯呑を両手で包み、ゆっくりとお茶を口にした
「……あったかぁい……」
「……そうか、よかったな」
「……ハクも飲もぉ……?」
「ああ、いただくよ」
俺も湯呑を手に取り、一口飲んでみた
……うん、美味い
適度な渋みと香りがあって、なかなかいいお茶だな
「朱乃、美味しいよ」
「……ふふっ……ありがとうございますぅ……♪」
朱乃が嬉しそうに微笑む
それから、イッセーへ茶菓子を勧めた
「イッセーくんも、遠慮なさらずどうぞぉ……」
「……はい……ありがとうございます……」
イッセーが菓子を一つ口に入れる
「……うまい……」
『……相棒よ……よかったな……』
「……ああ……幸せだ……」
………………
……駄目だ
全員、何とも言えない顔をしてる
しかも、見ている限りでは三人とも体調がいいんだよなぁ
呼吸は落ち着いてるし、氣の流れも綺麗に整っている
だから無理に何かをする必要はないんだが……
「……ハクぅ……」
「……ん?」
隣のクオンが、こてんと俺の肩へ頭を預けてきた
「……お茶……美味しいねぇ……」
「……そ、そうだな」
………………
……あの
クオンさん?
お茶を飲んでいる時くらい、普通に座っていただけませんかね?
いや、嫌じゃないけど!!
「あらあらぁ……♪」
朱乃が楽しそうに目を細める
「……本当に仲良しですわねぇ……」
「……朱乃、頼むからそっとしておいてくれ」
「……ふふふ……♪」
……まったく
昔からの付き合いだからこそ、こういう時の朱乃には敵わないんだよなぁ
「……ハク……」
今度はイッセーか
「……何だ?」
「……こういう時間って……大切だよなぁ……」
『……ああ……』
「……そうか、よかったな」
……もうツッコミが追いつかん
俺は湯呑を置き、小さく息を吐いた
……これ、いつまで続くんだろうなぁ
そんなことを考えていた、その時だった
「朱乃、ちょっといいかしら?」
廊下の方から、聞き慣れた声が響いた
……ん?
この声は……
「……リアス先輩?」
入口へ顔を向けると、そこには赤い髪を揺らしたリアス先輩が立っていた
「あら、ハクもいたのね、それにイッセーとクオンも……」
リアス先輩が部屋の中へ視線を巡らせる
「…………」
そして、動きが止まった
「……え?」
………………
……あ
気付いたな
「……朱乃?」
「……あらぁ……リアスぅ……いらっしゃぁい……♪」
「…………」
リアス先輩が瞬きをする
「……イッセー?」
「……ああ……部長ぉ……」
『……リアス・グレモリーか……よい日だな……』
「…………」
リアス先輩の視線が、最後に俺の隣へ向いた
「……クオン?」
「……リアス先輩ぇ……こんにちはぁ……♪」
クオンは俺の肩に頭を預けたまま、幸せそうに手を振った
………………
……うん
これは説明が必要だな
「……ハク」
「……はい?」
「……何があったの?」
リアス先輩が困惑した表情で尋ねてきた
……でしょうね!!
俺だって今、この状況を客観的に見たら同じこと聞くと思います!!
「……実はですね」
俺は湯呑を置き、今朝からの出来事を順番に説明することにした
ミカエルとの対面
アスカロンの授与
ミミックが剣を俺のところへ持ってきたこと
俺がアスカロンを握った途端、聖なる力と龍殺しの性質が異常に強まったこと
そして、イッセーとドライグの氣が乱れ、朱乃も結界を維持するために無理をしたこと
「……なるほど」
リアス先輩が真剣な表情で頷く
「それで、ハクが仙術で二人の氣を整えたのね」
「はい、イッセーとドライグ、それから朱乃もですね」
「……でも、それならクオンは?」
リアス先輩が、俺の肩に頭を預けているクオンへ目を向けた
……ああ、そうだよな
そりゃ気になるよな
「実は、クオンが俺の腰を心配して肩に触れた時に、どうも無意識に氣を整えちゃったみたいで……」
「……無意識に?」
「はい、俺も後から気付いたんですけどね」
リアス先輩が目を丸くした
それから、クオンの顔を覗き込む
「……クオン、具合は大丈夫なの?」
「……うん……すっごく気持ちいいよぉ……♪」
クオンは俺の肩に頬を寄せたまま、にこにこと笑っている
………………
……いや、クオン
そこでさらに密着しないでもらえると助かるんだが!?
「……なるほど、それでこうなっているのね」
リアス先輩は小さく頷いた
「はい、氣の状態を調べた限りでは、身体に異常はないんですけど……」
「……ここまでは分かったわ」
……お
理解してもらえたか
「でも……」
リアス先輩は部屋の中を見回した
「どうして全員こんなに穏やかな状態になっているのかしら?」
「…………」
……ですよねぇぇぇ!!
「……氣を整えたら、皆ものすごくリラックスしちゃいまして……」
「……リラックス?」
「ええ、身体の負担はちゃんと抜けてるんです、ただ、その……」
「……世界って……優しいなぁ……」
『……ああ……』
「あらあらぁ……♪」
「……ハクぅ……」
………………
……うん
説明するより、見てもらった方が早いな
「……ご覧のとおりです」
「…………」
リアス先輩はしばらく黙っていたが、やがて小さく息を吐いた
「……なるほどね」
……お?
「単に疲労を取り除いただけじゃなく、心身が極端に落ち着いた状態になっているわけね」
「……はい、多分そういうことです」
「しかも、本人達に不調はない、と」
「ええ、確認した限りでは問題ありません」
「……それにしても、ミカエル様は随分と驚かれたでしょうね」
「……ああ、そのミカエル様なんですけど……」
「……何かあったの?」
「実は、俺の仙術に興味を持たれて、御自身も施術を希望されたんです」
「……ミカエル様が?」
「はい、かなり疲労が溜まっていたので、全部取り除いたんですが……」
「……ですが?」
「……同じようにポワポワになりまして」
「…………」
リアス先輩が、ぴたりと動きを止めた
「……ミカエル様まで?」
「……はい」
「……それで、ミカエル様は今どちらに?」
「もうお帰りになりましたよ、今夜の会談ではまたお会いする予定です」
「……そう」
リアス先輩は少し考え込んだが、やがて感心したように頷いた
「……凄いわね、ハクの仙術って」
「……そうですか?」
「ええ、天使の長にそこまでの効果があるなんて、普通は考えられないもの」
……まあ、確かにそうかもしれないな
ただ、俺としては普通に疲労を取り除いたつもりだったんだけど……
「それにしても……」
リアス先輩の表情が、少し興味深そうなものへ変わった
「ねえ、ハク」
「はい?」
「……その氣を整える仙術、私にも試してもらえないかしら?」
「…………」
………………え?
「……リアス先輩も、ですか?」
「ええ、少し興味が湧いたの」
リアス先輩は微笑んだ
「最近、色々と考えることも多かったし、疲れを取れるならありがたいわ」
……うーむ
まあ、確かにリアス先輩も何かと忙しいだろうしな
悪魔の仕事にオカ研のこと、それに今夜の会談の準備もある
疲労が溜まっていても不思議じゃない
……ただ
「……いいんですか?」
「何が?」
「……こうなりますよ?」
俺は三人へ視線を向けた
「……ふわぁ……」
「……ぽかぽかぁ……」
「あらあらぁ……♪」
『……心が静かだ……』
………………
……うん
何度見ても凄いな
リアス先輩は少しだけ考えるような仕草を見せた
「……そうね」
それから、小さく笑った
「でも、皆がこれだけ気持ちよさそうにしているなら、一度試してみたいわ」
「……分かりました」
……まあ、本人が納得してるならいいか
「ただ、相手の氣の状態に合わせて慎重に進めますね、途中で違和感があったら言ってください」
「ええ、お願いするわ」
リアス先輩が俺の向かいに座り、片手を差し出してきた
俺はその手を取り、仙術で氣の状態を確かめる
……ん?
……やっぱりな
普段は感じさせないが、細かい疲労が随分と溜まっている
ここのところ忙しかったんだろうなぁ
「……リアス先輩、結構お疲れですね」
「……分かるの?」
「ええ、少し時間を掛けて整えますね」
「お願い」
俺はリアス先輩の氣の流れに意識を向け、負担の掛かっている部分を一つずつ丁寧に整えていった
……うん
人間とも天使とも違うが、今まで悪魔の氣に触れた経験はある
流れそのものを崩さないようにして、疲労だけを取り除いていけば……
「……あら……?」
「……ん?」
リアス先輩の肩から、すっと力が抜けた
「……何だか……身体が軽くなってきたわ……」
「そうですか、もう少しですよ」
「……ええ……」
俺はそのまま仙術を続けた
蓄積していた疲労が抜け、無理に力を入れていた部分も自然な状態へ戻っていく
……よし、これでいいかな
「……ふぅ……」
リアス先輩が、ゆっくりと息を吐いた
俺は最後に氣の流れを確かめ、差し出されていた手を離した
「どうですか、リアス先輩?」
「……ええ……」
リアス先輩が顔を上げる
その表情には、先ほどまでの凛とした雰囲気とは違う、何とも柔らかな笑みが浮かんでいた
「……凄いわぁ……」
「……はい?」
「……何だか……とっても幸せな気分……」
………………
……あ
来た
これ、来たぞ
「……リアス先輩?」
「……ふふっ……ハク、ありがとうねぇ……」
「……いえ、お役に立てたなら……」
「……こんなに身体が軽くなったの……久しぶりだわぁ……」
………………
……おおおおおい!?
リアス先輩までポワポワになったぁぁぁ!?
「あらあらぁ……リアスも……こちら側ですわねぇ……♪」
朱乃が嬉しそうに微笑んだ
「……ええ……朱乃……これは素晴らしいわねぇ……」
「……ふふふ……♪」
………………
……何だ、その会話
何かの仲間入りを祝ってるみたいなんですが!?
「……部長も……分かったんですねぇ……」
イッセーが穏やかな声で呟いた
「……世界って……優しいんですよぉ……」
『……ああ……また一人、世界の調和を知る奴が増えたな……』
「……そうねぇ……皆で仲良くできるって……素敵なことだものねぇ……」
リアス先輩がにこやかに頷いた
………………
……おい
いつからここは悟りを開く会合になったんだ!?
「……ハクぅ……」
今度は隣のクオンが、俺の手をきゅっと握ってきた
「……みんな……仲良しだねぇ……♪」
「……そうだな」
……うん
仲がいいのは素晴らしいことだ
それは間違いない
ただ……
イッセーは世界の優しさを語り!
ドライグは世界の摂理を説き!
朱乃は完全にお茶飲みモード!
クオンは俺の肩から離れる気配がなく!
そして、リアス先輩まで!!
「……ねえ、ハクぅ……」
「……はい?」
リアス先輩は俺から朱乃へ視線を移した
「……朱乃ぉ……私も、お茶をいただいていいかしらぁ……?」
「あらあらぁ……もちろんですわぁ……♪」
朱乃はにこにこと微笑みながら、新しい湯呑を用意し始めた
………………
……うん
リアス先輩まで、すっかりポワポワになってしまった!!
俺は思わず天井を見上げた
……何なんだろうな、今日は
皆の疲労を取り除いて、身体を楽にしてあげただけなんだぞ?
それなのに……
気付けばこの部屋で、まともにツッコミを入れられるのは俺一人になってしまった
……しかも、俺自身の氣は最初から一切乱れていない
仙術の制御にも何の影響もない
ただし……
内心の困惑だけは、まったく収まる気配がないんですがぁぁぁ!?
「……ハクぅ……」
「……何だ、クオン?」
「……お茶……おかわりしよぉ……?」
「……ああ、そうだな」
……うん
とりあえず、お茶でも飲もう
今はそれが一番平和な気がする
……って、俺までこの空気に流され始めてないか!?
結局、そんなふうにお茶を飲んでいる間も、部屋の空気が元に戻ることはなかった
朱乃が用意した新しい湯呑には、ちゃんとお茶が注がれ、リアス先輩の前へ置かれている
「……あらぁ……いい香りねぇ……」
「……ふふっ……どうぞぉ……♪」
「……ありがとう、朱乃ぉ……」
リアス先輩は湯呑を両手で持ち、ゆっくりとお茶を口にした
「……美味しいわぁ……」
「……それはよかったですわぁ……♪」
………………
……うん
何というか、ものすごく平和だな
さっきまでアスカロンが暴走して、赤龍帝が悲鳴を上げていたとは思えない光景である
クオンは俺の肩へ頭を預けたまま、幸せそうにお茶を飲んでいる
……こうしている分には何とも平和なんだがなぁ
……っと、そうだった
そろそろ時間も気にしないとな
アザゼルからは昼過ぎに来てくれと言われている
神社での用事も無事に終わったことだし、あまり長居するわけにもいかないだろう
……無事?
………………
……まあ、全員元気だから無事ってことでいいか
うん、そういうことにしておこう
それから少しして、俺達は神社を後にすることになった
「……それじゃあ、朱乃、ごちそうさま」
「あらあらぁ……どういたしましてぇ……♪」
朱乃は相変わらず幸せそうな笑顔で見送ってくれた
……うん、まだポワポワしてるな
もっとも、本人の氣は安定しているし、今のところ心配するような様子はない
リアス先輩はイッセーを連れて帰るそうで、二人もそろそろ神社を出るらしい
「……ハクぅ……今日はありがとうねぇ……」
「……いえ、リアス先輩も無理しないでくださいね」
「……ふふっ……そうするわぁ……」
……ああ、駄目だ
いつもの凛としたリアス先輩が、すっかり柔らかくなってしまっている
「……ハクぅ……」
「今度は何だ、イッセー?」
「……今日は……いい日だったなぁ……」
「……そうだな」
「……アスカロンも貰えたし……ミカエルさんとも仲良くなれたし……」
『……ああ……実に有意義な一日だったな……』
………………
……お前ら、本当にそれでいいのか?
まあ、アスカロンの同調も無事に終わったんだから、確かに有意義ではあったんだろうが
「……ハクぅ……」
「……何だよ」
「……また今度……皆でお茶でも飲もうぜぇ……」
「……ああ、分かったよ」
『……うむ……悪くないな……』
………………
……駄目だ
もう赤龍帝の威厳が行方不明になってるぞ
……いや、今さらか
今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました!
まず、今回の文字数についてですが……
実は、神社からアザゼル宅のシーンまで書いていたところ、いつの間にか5万文字を超えてしまっておりまして……
流石にこれは長すぎるだろうということで、泣く泣く2話に分けることにしました……(笑)
……ところが!
分けたはずなのに、今回のLife.38だけで3万文字を突破してしまいました!!
……いや、本当にどうしてこうなった!?(笑)
とんでもない長さになってしまい、申し訳ありません!
最後までお付き合いいただいた皆様、本当にありがとうございます!
さて、今回はミカエルとの初対面、そしてイッセーへのアスカロン授与のお話でした!
……のはずだったのですが、ミミックの思わぬ行動から、まさかあんなことになるとは(笑)
イッセーとドライグを助けるために使った仙術でしたが、気が付けば周囲はすっかりホワホワ状態に……
挙げ句の果てには天使長まで仲間入りしてしまいました(笑)
ちなみにハク本人は至って真面目に施術しています
ただ、氣は落ち着いていても内心は大混乱のようですが(笑)
そして、ミカエルがハクとクオンに見せた不可解な反応
こちらについても、今後少しずつ触れていきたいと思います!
さて、次回は神社を後にしたハクとクオンが、アザゼル宅へ向かうお話になります!
果たして、あの状態のクオンを見たアザゼルはどんな反応をするのでしょうか……?
**なお、次話のLife.39は本日13時に投稿予定です!**
今回の続きとなりますので、そちらもぜひお楽しみに!
面白かった場面や気になったところなど、感想をいただけると嬉しいです!
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それでは、また次回!