今回は前話からの続きとなります!
5万文字を超えてしまったため、泣く泣く分割することになったお話の後半です(笑)
神社での騒動もようやく一段落し、ハクとクオンはアザゼルのもとへ向かうことに
……ですが、どうやら今回も一筋縄ではいかないようで……?
それでは、Life.39をお楽しみください!
神社から続く道を歩きながら、俺は隣へ目を向けた
「……クオン、歩くのは大丈夫か?」
「……うん……平気だよぉ……」
「そうか、ならよかった」
……うん、足取りもしっかりしてるな
氣の流れも安定しているし、体調に問題はなさそうだ
ただし……
「……ハクぅ……」
「……ん?」
「……えへへ……♪」
クオンが俺の腕にぎゅっと抱き着いてきた
………………
……おおう
今度は腕か
……ん?
……あれ?
何か柔らかいのが当たってる!?
………………
………………え?
ぴたっ
思わず足が止まった
「……ハクぅ……?」
「……っ!?」
「……どうしたのぉ……?」
「……い、いや、何でもないぞ?」
「……そうなのぉ……?」
クオンは不思議そうに首を傾げると、幸せそうに笑った
「……えへへ……♪」
………………
……お、おいおいおい!?
普段のクオンは、こんなふうに甘えてこないんですけど!?
いや、嫌じゃない!!
むしろ嬉しい!!
嬉しいんだが!!
いつものクオンとのギャップが!!
破壊力高すぎるんですけどぉぉぉ!?
……落ち着け、俺
氣は正常
腰も問題なし
仙術の制御だって乱れてない
………………
なのに、思考だけ完全に停止してるんですがぁぁぁ!?
「……ハクぅ……歩かないのぉ……?」
「……あ、ああ、行こうか」
俺が再び歩き始めると、クオンも嬉しそうに隣へ並んだ
……うん
平常心だ
平常心でいこう
……できるかどうかは別としてな!!
もっとも、クオンがこれだけ幸せそうにしているんだし、わざわざ離れる必要もないか
俺は歩幅を少し合わせ、クオンと並んで道を進んだ
……それにしても、今日は本当に色々あったな
ミカエルとの対面に、アスカロンの授与
ミミックの暴走に、イッセーとドライグの治療
そして、気が付けば皆揃ってポワポワになっていた
……うん
最後の部分だけ、何かおかしくないか?
いや、仙術で氣を整えたこと自体は間違ってないんだけどさ
……そういえば
リアス先輩が神社へ来た理由も、結局はあっさりしたものだったんだよな
何でも、今夜の三勢力会談について連絡を伝えに来たらしい
それに加えて、ミカエルからイッセーへのアスカロン授与も、そろそろ終わっている頃だろうと考えて、イッセーを迎えに来たとのことだった
……なるほどな
だから、ちょうどあの時間に顔を出したわけか
まあ、リアス先輩としても、イッセーが天使の長と会っているんだから、気になるのは当然だろう
もっとも、迎えに来てみれば、そのイッセーが世界の優しさを語り始めていたわけだが
………………
……うん
リアス先輩、さぞ驚いただろうなぁ
しかも、その理由を説明した結果、本人までポワポワになってしまったんだから、何とも言えん
……いや、待て
よく考えたら、あれって全部俺が原因じゃないか?
………………
……まあ、本人達は喜んでたし、いいか
少なくとも身体の負担は取り除けたわけだしな
……それにしても、今夜の会談か
いよいよ天使、悪魔、堕天使の三勢力が正式に顔を揃えるわけだ
俺もオシュトルとして招かれている以上、他人事では済まないんだよなぁ
しかも、今回はミカエルまであの調子だ
……いや、流石に会談の時には普段どおりに戻ってるよな?
本人はちゃんと仕事の話もできていたし、大丈夫だとは思うんだが……
………………
……頼むぞ、ミカエル様
会談の席でいきなり世界の素晴らしさについて語り始めたりしないでくださいね?
……いや、和平会談なんだから、ある意味では間違ってないのか?
………………
……分からん
もう何が正解なのか分からなくなってきたぞ
「……ハクぅ……?」
「……ん?」
腕に抱き着いているクオンが、こちらを見上げていた
「……どうしたのぉ……?」
「ああ、ちょっと今夜の会談のことを考えてたんだ」
「……そっかぁ……」
クオンが小さく頷く
「……大変だねぇ……」
「まあな、三勢力の今後に関わる話だからな」
「……うん……」
クオンは少し考えるように目を細めた後、ふにゃりと笑った
「……でもぉ……ハクなら大丈夫だよぉ……」
「……そうか?」
「……うん……
………………
……おう
そりゃ心強いな
実際、クオンがそばにいてくれるのはありがたい
ただ……
「……クオン」
「……なぁにぃ……?」
「……もうちょっとだけ、腕の力を緩めてもらえると助かるんだが」
「……んぅ……?」
クオンが不思議そうに俺を見上げる
それから、自分が抱き着いている腕へ視線を落とした
「……痛いぃ……?」
「いや、痛くはないんだけどな」
「……そっかぁ……」
そう言うと、クオンは少しだけ腕の力を緩めてくれた
……おお、助かった
ただし、抱き着いたままであることに変わりはない
「……これでいいぃ……?」
「ああ、ありがとな」
「……えへへ……♪」
………………
……うん
まあ、いいか
クオンが楽しそうなら、それで
それに、こうして一緒に歩いている分には、俺の腰にも負担は掛かっていない
……何だか、今日は朝からずっとクオンに心配されてるなぁ
いや、普段からか
そんなことを考えながら歩いていると、ふと午後の用事を思い出した
……そうだった
これからアザゼルの家に行くんだったな
今朝のメールには昼過ぎに来てくれと書かれていたし、時間もちょうどいい頃合いだろう
それにしても、何の話なんだろうな
以前は俺だけに話があるような口振りだったのに、今回はクオンも連れてこいとのことだった
……うーむ
考えても分からんものは分からんか
会ってから聞けばいいだろう
「……クオン」
「……んぅ……?」
「これからアザゼルのところへ行くけど、覚えてるか?」
「……うん……覚えてるよぉ……」
「そうか、よかった」
「……アザゼルさんがぁ……
「ああ、そうだよ」
「……ふふっ……何のお話かなぁ……?」
「さあなぁ、俺にも分からん」
「……そっかぁ……」
クオンは納得したように頷くと、また俺の腕へ頬を寄せた
「……じゃあ……一緒に聞こうねぇ……」
「……ああ、そうだな」
……うん
受け答えはしっかりしてるんだよな
ただ、喋り方と雰囲気が普段より随分と柔らかいだけで
……だけ、なのか?
まあ、本人が幸せそうだからいいんだけどさ
……そういえば、アザゼルが今のクオンを見たら、どんな反応をするんだろうな
………………
……いや
あいつのことだ
絶対に面白がるだろ
何だか嫌な予感がしてきたぞ
「……ハクぅ……」
「……今度は何だ?」
「……ふふっ……何でもなぁい……♪」
………………
……おいおい
そんな幸せそうな顔で何でもないって言われてもなぁ
……まったく
今日のクオンには、どうにも調子を狂わされっぱなしだ
俺は小さく息を吐き、隣を歩くクオンへ目を向けた
相変わらず俺の腕に抱き着いたまま、何とも穏やかな笑顔を浮かべている
……うん
まあ、悪くないな
むしろ、こういう時間があるのもいいものだ
……ただし!!
俺の内心が平穏かどうかは!!
また別の話なんですけどねぇぇぇ!?
そんなことを考えているうちに、ようやく目的の場所が見えてきた
……さて
アザゼルの家に到着だ
いったい何の話が待っているのやら
俺は隣で相変わらずポワポワしているクオンを見下ろした
「……クオン、着いたぞ」
「……んぅ……?」
クオンがゆっくりと顔を上げる
「……ここぉ……?」
「ああ、アザゼルの家だ」
「……そっかぁ……」
クオンはふにゃりと笑った
「……じゃあ……行こっかぁ……ハクぅ……♪」
「……ああ」
………………
……うん
まずは、このクオンを見たアザゼルが、余計なことを言わないよう祈っておこう
……いや
無理だろうなぁ
絶対に何か言ってくるぞ、あいつ
……はぁ
午後も一筋縄ではいかなさそうだ
俺はそんな予感を抱きながら、玄関の呼び鈴へ手を伸ばした
─────────────────────────
呼び鈴を押すと、しばらくして玄関の扉が開いた
「おう、来たか」
「こんにちは、アザゼル」
「おう、ハク、クオンもよく来たな」
「……こんにちはぁ……アザゼルさん……♪」
アザゼルは一瞬、言葉を失った
その視線がクオンへ向き、次いで、俺の腕に抱き着いたままの両手へ落ちる
「……お前ら、何だその格好は」
「……普通に来ただけだぞ」
「どこが普通だよ! 新婚夫婦か、お前ら!」
「……違うからな」
「くくっ、そりゃ失礼」
……絶対に悪いと思ってないだろ、この男
「……ハクぅ……?」
「ん?」
「……どうしたのぉ……?」
「……いや、何でもない」
「……そっかぁ……♪」
クオンは嬉しそうに笑って、また俺の腕へ頬を寄せた
……やめてくれ
アザゼルの口元が、もう一段階上がったぞ
「……で、何があったんだ?」
「神社で仙術を使ってな、氣を整えた後からずっとこんな感じなんだ」
簡単に経緯を説明すると、アザゼルは笑うのをやめてクオンへ向き直った
「クオン、体調はどうだ? ぼんやりして、何も考えられないなんてことはないか?」
「……ううん……ちゃんと考えられるよぉ……すごく気持ちいいのぉ……♪」
「……ふむ」
アザゼルが俺へ目を向ける
「氣の状態は確認したんだな?」
「ああ、安定してる、歩き方も受け答えも問題ないぞ」
「なら、ひとまずは安心か、ただ、変化があったら教えろよ」
「分かってる」
こういうところは流石に研究者だな
「……しかし、お前の仙術はつくづく面白ぇなぁ」
「……研究対象にするなよ?」
「お前が協力してくれるなら歓迎するぞ?」
「遠慮しとく」
……まったく
「ほら、立ち話も何だ、入れよ」
「お邪魔します」
「……お邪魔しまぁす……♪」
クオンと一緒に玄関を上がり、案内された部屋へ向かった
─────────────────────────
居間にはソファとテーブルが置かれていた
俺が腰を下ろすと、クオンも隣へ座り、そのまま腕を抱き締め直す
……うん、もう驚かないぞ
少なくとも、向かいに座った男の思う壺にはなるまい
「それで、昼過ぎに呼び出した用件って何だ?」
「ああ、今夜の三勢力会談について、直接確認しておきたいことがあってな」
アザゼルはソファに腰掛け、いつもの軽い調子を少しだけ引っ込めた
「お前はオシュトルとして正式に招かれている、クオンもコカビエルの一件で、グレモリーの連中を退避させた時の状況を話してもらうことになる」
「そこは聞いてるよ」
「俺のところへ合流してから、会場へ向かってくれ、お前らの立場については、こちらから必要な説明をする」
なるほど、集合の段取りを確認しておきたかったわけか
もっとも、俺は堕天使側に正式所属しているわけじゃない
昔からアザゼルと付き合いがあるせいか、周囲にはあちら側の人間だと思われている節があるけどな
「……その辺、変に誤解されないよう頼むぞ」
「分かってるって、お前は俺の部下じゃねぇし、正式な招待客だ」
「ならいい」
「クオン、事件のことは覚えてるな?」
「……うん……オシュトルの指示で、皆を逃がした時のことだよねぇ……?」
「ああ、覚えている範囲でいい、無理に話を盛る必要はないからな」
「……分かったぁ……♪」
……話の内容はちゃんと理解できているな
口調が柔らかいだけで、判断力までなくなったわけではないらしい
「それと、今日はもう一人ここにいる」
「……誰だ?」
「随分と賑やかだな」
その声に振り向くと、部屋の奥から銀髪の青年が姿を現した
「……ヴァーリか」
「久しぶりだな、ハク」
校門で会った時以来だが、相変わらず涼しい顔をしている
「お前も会談に出るのか?」
「アザゼルに呼ばれたからな」
ヴァーリはそう答えてからクオンへ目を向けた
「……クオン?」
「……こんにちはぁ……ヴァーリさん……♪」
「…………」
俺の腕へ抱き着いているクオンを見て、ヴァーリが少しだけ首を傾げる
「……ハク、何があった?」
「……その質問、今日二度目なんだが」
アザゼルが小さく噴き出した
「こいつが仙術でクオンの氣を整えたら、随分とご機嫌になっちまったらしい」
「……そうか」
ヴァーリは一応納得したらしく、空いているソファへ腰を下ろした
その足の運びを見た瞬間、妙な感覚が胸をよぎる
……ん?
今、次にどちらへ体重を移すのか、一瞬だけ分かったような……
校門で会った時にも、こんな違和感があったな
まだ確かめようのない感覚だし、ここで決めつけるのはやめておこう
─────────────────────────
「ヴァーリ、今夜は余計な騒ぎを起こすなよ」
アザゼルが釘を刺すと、ヴァーリは肩をすくめた
「俺が何をすると言うんだ?」
「お前なら、面白そうな相手がいたらすぐ戦いたがるだろ」
「……否定はしない」
……否定してくれよ
「そもそも、三勢力が和平を結んだら、戦う相手が減るんじゃないか?」
俺の言葉にヴァーリは薄く笑った
「強い奴は三勢力の外にもいる、それに、俺はもっと早い時代に生まれてみたかった」
「……早い時代?」
「ああ、まだ聖書の神がいた頃だ」
……おおう
「生きていたなら、ぜひ一度戦ってみたかったな」
さらっと言いやがった
聖書の神を対戦相手に数えるとは、相変わらず筋金入りの戦闘狂だ
「そんなに戦うことが好きなのか?」
「当然だ、俺は強い相手と戦うために生きている」
迷いのない答えだった
……まあ、ヴァーリらしいと言えばらしいが
「じゃあ、いつか世界中の強い連中と戦い終わったら、その後はどうするんだ?」
アザゼルが尋ねると、ヴァーリは少し考え込んだ
「……そうだな、その時には、生きている意味もなくなるかもしれない」
「…………」
……おい
今、かなり物騒なことを言ったぞ?
「……ヴァーリ?」
ちょうどその時、部屋の入口から穏やかな声がした
振り返ると、盆にカップを載せた
「……
アザゼルが声を掛けたが、
「今のお話、もう一度聞かせてくれる?」
「……何のことだ?」
「強い人と戦い終わったら、生きている意味がなくなるってお話よ」
……聞かれてたぁぁぁ!?
ヴァーリが珍しく言葉に詰まった
「強くなりたい気持ちも、戦うのが好きなのも知ってるわ」
「でも、自分の命をそんなふうに扱わないで、あなたがいなくなったら、悲しむ人がいるんだから」
「……俺は簡単に死ぬつもりはない」
「ええ、分かっているわ、けれど、さっきの言い方は心配になるでしょう?」
「…………」
「戦うなら、ちゃんと帰ってきてね」
ヴァーリが小さく息を吐いた
「……分かった」
「約束よ?」
「……ああ」
………………
……おお
あの白龍皇が素直に頷いたぞ!?
「……くくっ」
アザゼルが笑いを噛み殺している
……お前、今はやめとけって
「あなた?」
「……お、おう?」
「笑ってないで、ちゃんと話を聞いてあげて、あなたも心配していたんでしょう?」
「……そりゃ、まあ」
「なら、からかわないの」
「……はい」
………………
……総督まで大人しくなった
そういえば、以前も
この家では、実力や立場とは別の力関係があるらしい
「……お母さまぁ……♪」
隣からクオンの声がした
「……え?」
「……お母さまのお茶ぁ……♪」
「……あら、クオン」
一瞬驚いたようだったが、すぐに柔らかく微笑んだ
「ふふっ、ちゃんとあなたの分もあるわよ」
「……えへへ……ありがとぉ……お母さまぁ……♪」
……あ
また言った
以前、グリゴリで会った時にも反射的に呼んだことがあったが、今回はまったく照れていない
……まあ、今のクオンならそうなるか
「クオン、具合はどう?」
「……すっごくいいよぉ……♪」
俺が仙術のことを簡単に説明すると、
「そう、苦しくないならよかった、ハク君も様子を見てあげてね」
「はい、もちろんです」
すると、クオンがヴァーリをじっと見つめる
「……お母さまに……叱られてたねぇ……」
「……クオン?」
「……
……ん?
何を考えてるんだ?
「……
「…………」
ヴァーリが自分を指差した
「……俺が?」
「……うん……
……おおおおおい!?
そっちへ行ったか!!
いや、
……うん、理屈は分からんでもない
「ふふっ、そうね、ヴァーリはクオンよりお兄さんだものね」
「……
「そうかしら?」
……ヴァーリが返答に困ってるぞ
「ははっ! よかったな、ヴァーリ、可愛い妹ができたじゃねぇか」
アザゼルが面白そうに笑った、その時だった
「……お父さまぁ……?」
「…………」
笑い声がぴたりと止まる
「……クオン、今、俺のこと何て?」
「……お父さまぁ……♪」
………………
……ぶっ
今度は俺が笑う番かよ
「ふっ、よかったなアザゼル」
ヴァーリまで薄く笑った
「……お前、さっきまで困ってただろうが」
「俺だけでは不公平だろう?」
「……あなた、嬉しくないの?」
「……まあ、悪い気はしねぇな」
「……えへへ……♪」
満足そうなクオンが俺の腕へ頬を寄せる
……おいおい
白龍皇が兄さま、総督がお父さまか
この家、突然家族が増えたみたいになってるぞ
─────────────────────────
ひとしきり話が落ち着いたところで、
口に含むと、柔らかな香りが広がる
……うん、美味い
以前も淹れてもらったことがあったが、この人のお茶は本当に落ち着くな
「……家族、か」
ヴァーリがカップを眺めながら呟いた
「お前に戦う以外の楽しみを押し付けるつもりはねぇよ」
アザゼルが答える
「ただな、俺にも今は帰りを待ってる家族がいる、
……そうだった
この前グリゴリの病院で会った時には、女の子だと聞いていたっけ
「俺は嫁さん達を悲しませたくねぇし、生まれてくる娘にも会いたい、だから、今夜の会談も無駄にしたくねぇんだ」
「……平和のため、か」
「そういうこった」
ヴァーリは少し考えてから、肩をすくめた
「言いたいことは分かる、だが、強い相手と戦いたい気持ちは変わらない」
「……だろうな」
アザゼルも苦笑する
「変わらなくていいわ」
「さっき約束したことさえ忘れなければね」
「……覚えている」
「……
「…………」
ヴァーリはクオンへ目を向け、短く頷いた
「……ああ」
……白龍皇、すっかり妹の相手をする兄貴になってるな
「……お父さまぁ……」
「おう?」
「……
「ああ、約束する」
アザゼルの声が、少しだけ柔らかくなった
……そうだよな
今夜の会談は、そこにいる当人達だけの問題じゃない
帰りを待つ人達のことも考えて、できることをしなきゃな
─────────────────────────
「……ところで、ハク」
ヴァーリがカップを置いた
「お前との手合わせは、いつになる?」
「……お前、忘れてなかったのか」
「忘れるわけがないだろう」
……ですよねぇ
以前からアザゼルを通じて模擬戦を申し込まれていたし、コカビエルの事件の後にも本人と話している
「俺が着いた時にはコカビエルとの戦いは終わっていたが、お前にはまだ余裕がありそうだった」
「……そう見えたか?」
「ああ、それに、校門で会った時のことも気になっている」
……校門?
「お前と目が合った瞬間、妙な感覚があった」
……お前もか
あの時、ヴァーリが僅かに足の位置を変えただけで、俺には次の動きが不思議なほど読めた
初めて見る動きなのに、前から知っているような感覚
「俺も、お前の動きに妙な馴染みを感じた、理由は分からんけどな」
「……なるほど」
ヴァーリが興味深そうに笑う
「なら、なおさら確かめる必要があるな」
「……そこで模擬戦に結び付けるのかよ」
「当然だ」
……即答しやがった
「でも、今すぐは無理だぞ、腰がまだ完全には治ってないからな」
「……ハクぅ……?」
クオンが顔を上げた
「……無理しちゃ駄目だよぉ……?」
「ああ、分かってる」
「怪我をしているの?」
「ええ、普段は問題ないんですけど、急な動きだと少し痛むことがあって」
「だったら、治ってからにしなさいね、ヴァーリもいいわね?」
「……分かっている、万全でない相手と戦っても意味がないからな」
「それならいいわ」
……助かった
今すぐ始めようと言い出される心配はなさそうだ
もっとも、いずれ戦う約束は残ったままなんだけどな
─────────────────────────
「それにしても、お前ら仲がいいな」
アザゼルが俺とクオンを見比べた
「四年も一緒なんだろ?」
「ああ、知り合ってからな」
「で、付き合って何年になるんだ?」
「……付き合ってないぞ?」
「…………」
アザゼルの動きが止まった
「……は?」
「だから、恋人同士じゃないって」
「……待て待て、今そんなにくっついてるのにか!?」
「今のクオンの状態は説明しただろ」
「いや、それを差し引いてもだろ!」
……何だ、その理屈は
「ハク」
ヴァーリまで真顔で口を開いた
「俺にも理解できない、四年も一緒にいて、まだ互いの距離を測っているのか?」
「……恋愛まで戦闘に例えるなよ」
「そういうものではないのか?」
「……違うと思うぞ」
戦闘狂に恋愛を説明する日が来るとは思わなかった
「クオン、お前もハクとは付き合ってないんだな?」
アザゼルが本人へ尋ねる
「……うん……♪」
クオンは俺の腕に抱き着いたまま、にこにこと頷いた
「……まだだよぉ……♪」
「…………」
「…………」
……ん?
……まだ?
「……クオンさん?」
「……なぁにぃ……ハクぅ……?」
いや、その『まだ』って何ですかねぇ!?
アザゼルが口元を押さえた
「……くくっ」
「……笑うなよ」
「無理言うなって! お前ら、これで付き合ってねぇのかよ!」
ヴァーリも面白そうにこちらを見ている
「……あらあら」
「二人とも、本当に仲がいいのね」
「……そうですね」
そこは否定しない
否定しないんだが、クオンのその笑顔に何と答えたらいいのか分からん
「……ハクぅ……?」
「ん?」
「……何でそんなに困ってるのぉ……?」
「……いや、何でもないぞ」
「……そっかぁ……♪」
……本人はまったく気付いていないらしい
……これは、後で大変なことになりそうだな
「なあ、
「あなた?」
「
「……はい」
……うん
今日は
─────────────────────────
やがて、今夜の集合について最後の確認を済ませると、俺達は帰ることになった
「無理に慌てる必要はねぇが、会談の準備はしておけよ」
「分かってる、また後でな」
「……お父さまぁ……お母さまぁ……
……おおう
別れの挨拶まで家族仕様だ
「ええ、またね、クオン」
「おう、会談でな」
「……またな」
俺も頭を下げて、クオンと共に玄関を出る
会談のことは、もちろん気掛かりだ
原作ではヴァーリがアザゼルを裏切る展開もあったが、ここまでの流れが同じとは限らない
……それでも、注意だけはしておこう
今日見た家族の顔を、誰かに悲しませたくはないしな
─────────────────────────
アザゼルの家から少し離れた道を、俺達は並んで歩いていた
今夜の会談までには、まだ少し時間がある
クオンは相変わらず俺の腕に抱き着いていたが、神社を出た頃と比べると、氣の流れが少しずつ普段の状態に戻りつつある
……そろそろ仙術の余韻が抜ける頃か?
「……ハクぅ……♪」
「ん?」
「……えへへ……♪」
……うん、まだ幸せそうだな
そう思った、その時だった
「……あれ……?」
クオンの足が止まった
「……クオン?」
「……ん……?」
何度か瞬きをしてから、クオンは自分の両腕を見下ろした
正確には、俺の腕をしっかり抱いている自分の手を
「…………」
次の瞬間、クオンの顔が一気に赤くなった
「……ハ、ハク!?」
「お、おう?」
「……何で
「……いや、さっきからずっとそうしてたぞ?」
「…………っ!!」
クオンが慌てて手を離す
頬だけじゃない、耳まで真っ赤だ
……ああ、なるほど
ホワホワが切れたのか
「……お母さま……」
「……ん?」
「……
……おおう
全部覚えてるな、これ
「……それに……『まだ』って……!」
「…………」
……うん、そこもだよなぁ
「……もう、ハクってば……!」
ぽかっ
「……お?」
ぽかぽかっ
クオンが俺の胸を軽く叩き始めた
「……クオン?」
「……どうして止めてくれなかったのかなぁ……!」
「いや、一応止めようとはしたんだけどな」
「……そんな素振り、全然なかったよ……!」
「……まあ、結局止められなかったけど」
……そう、そこは否定できない
しかも、俺の気持ちを落ち着かせる方が精一杯だった気もするしな
「……アザゼルさんのことまで、お父さまって……!」
ぽかぽかっ
「ヴァーリさんは
「……まあ、そうだな」
「……うぅぅ……!」
ぽかぽかぽかっ
……ああ、完全に羞恥心が爆発してるぞ
本気で怒っているわけじゃないらしい
胸に当たる拳は軽いし、叩く間にも何とか深呼吸しようとしている
……俺を叩いて冷静さを保とうとしてるのか?
「……クオン、とりあえず落ち着け」
「……こんなの、すぐには落ち着けないよ……!」
ぽかぽかっ
「……そうだよな」
……うん、これは少し時間が必要そうだ
「……ハク、今日のことは忘れて……!」
「……何を?」
「……全部……!」
「……全部かぁ」
「……全部、だよ……!」
……それは無理だろうなぁ
だって、あの光景はそう簡単に忘れられないぞ
「……他の連中には言わないよ、それは約束する」
「……本当?」
「ああ」
クオンの拳が止まった
「……でも、アザゼルさん達は……」
「……ああ、あの三人は覚えてるだろうな」
「……うぅ……!」
また頬が赤くなった
……まあ、俺にどうこうできることじゃないんだが
「……クオン」
「……なに、ハク……」
「そこまで恥ずかしがることもないと思うけどな」
「……ハクは平気かもしれないけど、
「……そうかな」
「……そうだよ……!」
……そう言われると、これ以上は何とも返しづらい
「……俺は、別に嫌じゃなかったぞ?」
「…………」
「クオンがずっと腕に抱き着いてても、嫌だとは思わなかったし」
「…………っ!!」
ぽかぽかぽかっ
……ええ!?
今度は何で!?
「……もう、そんなこと急に言わないで……!」
「……ああ、悪い」
……なるほど
今のは、こっちも考えなしだったか
ちょっと顔が熱くなってきたぞ
「……そろそろ帰ろう、会談の支度もしないと」
「……うん」
ようやくクオンは頷き、俺の隣を歩き始めた
今度は腕を抱き締めてこない
……まあ、当然か
けれど、少し進むたびにちらりと俺を見ては、また顔を逸らしている
「……ハク」
「ん?」
「……さっき、言ったことなんだけど……」
「……さっき?」
「……あの、『まだ』って……」
………………
……おいおい
そっちの話か
「……その……」
クオンは真っ赤な顔のまま、何かを言い掛けて口を閉じた
ぽすっ
最後に一度だけ、俺の胸を軽く叩く
「……もう、何でもないっ!」
「……お、おう」
……うーむ
今日のクオンは、本当に予想外だなぁ
ホワホワ状態の時も大変だったが、元に戻ったら別の意味で手強いらしい
今夜は三勢力会談だっていうのに、俺の精神が先に持っていかれそうなんですけどねぇ!?
そんな俺の内心を知ってか知らずか、クオンは耳まで赤くしたまま、隣を歩いていた
─────────────────────────
それからしばらく歩くと、見慣れた大神家の門が見えてきた
隣の道場も、裏手に広がる山も、いつもと何一つ変わらない
……ああ、帰ってきたな
「……クオン、着いたぞ」
「……うん」
クオンは小さく頷いたものの、まだ俺の顔をまともに見ようとしない
……参ったなぁ
さっきまであんなに楽しそうだったのに
「……ハク」
「ん?」
「……今夜の会談、ちゃんと頑張ろうね」
「……ああ、そうだな」
「……それと」
「……うん?」
クオンがちらりと俺を見た
ほんの少しだけ頬が赤くなる
「……さっきのこと、本当に誰にも言わないでね?」
「……分かってるって」
「……絶対だからね?」
「ああ、絶対だ」
ようやく安心したのか、クオンは小さく息を吐いた
……うん
これで一件落着かな
「……でも」
「……ん?」
「……忘れなくても、いいから」
………………
……え?
クオンはそれだけ言うと、俺を追い越して玄関へ向かった
「……先に入ってるね!」
「……お、おう」
………………
……いや、待て
今、何て言った?
忘れてほしいのか、忘れなくてもいいのか、どっちなんですかねぇ!?
……まったく
今日のクオンは、最後の最後まで俺を振り回してくれる
それでも、玄関へ向かう背中を見ているうちに、自然と笑みがこぼれた
……まあ、いいか
今夜は三勢力会談
大事な話が山ほど待っているんだ
いつまでも昼間のことを引きずっているわけにもいかない
……とはいえ
俺まで平常心を取り戻すには、もう少し時間が必要そうだなぁ!!
俺は小さく息を吐くと、クオンの後を追って玄関へ向かった
今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました!
というわけで、前話から続いたお話もこれにて終了です!
今回はアザゼル宅への訪問、そしてヴァーリや
……のはずだったのですが(笑)
まさかクオンが、アザゼルを「お父さま」、ヴァーリを「
しかも、当の本人達も意外とすんなり受け入れてしまうという(笑)
そして、仙術の効果が切れた後のクオンですが……
……うん、全部覚えてましたね(笑)
ハクへのポカポカ攻撃は、本人なりの精一杯の照れ隠しだったのでしょう
それにしても、ハクも相変わらず無自覚に追い打ちをかけていますね(笑)
さて、次回はいよいよ三勢力会談へと話が進んでいきます!
天使、悪魔、堕天使の三勢力が一堂に会する中、オシュトルとして招かれたハクはどのように関わっていくのか
そして、果たして会談は無事に終わるのでしょうか……?
今回のお話はいかがでしたでしょうか?
面白かった場面や気になったところなど、感想をいただけると嬉しいです!
いつも感想・評価・お気に入り登録をしてくださっている皆様、本当にありがとうございます!
皆様の応援が執筆の励みになっています!
それでは、また次回!