まずは、前回の投稿から更新が遅くなってしまい、申し訳ありません!
長らくお待ちいただいた皆様、いつも読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます!
さて、今回は三勢力会談の続きとなります
ようやく和平へ向けて話がまとまったかと思いきや、そう簡単には終わらないようで……
果たして、この騒動はどうなるのか?
それでは、Life.41をお楽しみください!
side in イッセー
三つの夢を語り終えた俺は、小さく息を吐いた
……言っちまったなぁ
でも、不思議と後悔はなかった
これでようやく、長かった会談も終わりに近づくのかもしれない
そう思いながら何気なく周囲へ目を向けた時、俺は妙なことに気付いた
「……あれ?」
蒼那会長が、さっきからまったく動いていない
いや、それだけじゃない
近くにいる匙も、他の生徒会の人たちも、まるで時間が止まったみたいに固まっている
「……蒼那会長?」
声をかけてみるが、返事はない
「……匙?」
やっぱり反応がない
……おいおい、何だよこれ?
「イッセー?」
俺の様子に気付いた部長が、不思議そうに声をかけてきた
「どうしたの?」
「いや、部長……生徒会の人たちが……」
俺が指さした先へ、部長が視線を向ける
「……蒼那?」
部長が呼びかけても、蒼那会長は動かない
その表情が険しくなった
周囲の皆も異変に気付き始めたらしい
サーゼクスさんも、ミカエルさんも、アザゼルのおっさんも普通に動いているし、ハクやクオンも同じだ
……つまり、動けなくなっているのは生徒会の人たちだけ?
……待てよ
時間が止まったみたいに動けないって……
「……ギャスパー?」
思わず、あいつの名前が口から漏れた
ギャスパーの神器なら、こんなこともできるはずだ
でも、何で生徒会の人たちだけなんだ?
それに、ギャスパーは部室にいるはずじゃ……
そう考えた、次の瞬間だった
――ドォォォンッ!!
「うおっ!?」
突然、外から凄まじい爆発音が響いてきた!
――ドドォンッ!!
続けざまに、もう一発!
「なっ、何だよ!?」
俺は慌てて窓の方へ顔を向けた
何が爆発したのか、ここからじゃ分からないが、さっきの音は明らかに普通じゃなかった
「……敵襲?」
部長が呟く
……おいおいおい!
冗談だろ!?
せっかく三勢力が和平に向かうって話になったばかりじゃねえか!
なのに、今度は襲撃だって!?
俺は思わずハクの方へ目を向けた
……こんな時、あいつならどうする?
そう思った俺の視線の先で、ハクは何かを考えるように黙り込んでいた
side out イッセー
─────────────────────────
side in ハク
――ドドォンッ!!
……やっぱり襲撃か
生徒会の連中が動けなくなった時点で嫌な予感はしていたが、外からの爆発音でほぼ確信に変わった
原作の三勢力会談襲撃事件だろう
いやぁ、やっぱり起こるのね、これ
正直、ここまで色々と原作から変わっているんだから、もしかしたら回避できるんじゃないかと少しは期待していたんだが……
……甘かったか
ただ、生徒会の連中だけが動けなくなっているのは妙だな
少なくとも、俺が覚えている流れとは違う
……となると、他にも何か変わっている可能性はあるか
さて、そうなると気になるのは……
……ヴァーリだな
俺はさりげなく、あいつへ視線を向けた
原作通りなら、この襲撃事件で《禍の団》に加わったことを明かし、アザゼルたちと袂を分かつことになる
しかも、その後にはイッセーとの戦いも控えている
……ただなぁ
こっちのヴァーリは、原作とは事情が随分違うんだよな
アザゼルたちと家族として暮らしているし、
それに、本人も戦争を望んでいるわけじゃない
強い奴と戦いたいって欲求は相変わらずみたいだけどな
……さてさて、どう転ぶことやら
今のヴァーリが原作通りに動くとは限らんが、だからといって警戒しない理由にもならん
……しかし、困ったな
襲撃が始まった以上、ヴァーリ以外にも考えておかなきゃならんことがある
ギャスパーのこと、学園を襲っている連中のこと、そして……
……カテレア・レヴィアタン
あいつが出てくるなら、カテレアの相手をアザゼルに任せるわけにはいかんな
何しろ原作では、あの女との戦いで左腕を失っている
……冗談じゃないぞ?
一週間後には娘が生まれるっていうのに、そんなことになってたまるか
……まったく
ただでさえ面倒な襲撃事件だっていうのに、こっちには守りたいものが多すぎるんだよなぁ
……まあ、いい
起きちまったものは仕方ない
幸い、原作の展開を知っているという利点はある
それがどこまで通用するかは分からんが、使えるものは使わせてもらおう
俺は隣のクオンへ視線を向けた
クオンもまた、先ほどまでとは違う真剣な表情で周囲を見渡している
……さて
まずは目の前の異変に対処しないとな
「ソーナちゃん!?」
真っ先に動いたのはセラフォルーだった
蒼那のもとへ駆け寄り、その肩に手を置いて呼びかけるものの、返事はない
「ソーナちゃん! ねえ、どうしたの!? お姉ちゃんの声、聞こえてる!?」
……うむ、普段のあの調子からは想像もつかないくらい必死だな
もっとも、可愛い妹が突然動かなくなったんだ、当然の反応か
「セラフォルー、蒼那たちを守っていてくれるかい?」
サーゼクスが声をかけると、セラフォルーは振り返って頷いた
「もちろん! ソーナちゃんたちには絶対に手を出させないんだから!」
そう言って、生徒会の連中を囲むように防御の魔力を展開する
これで動けない連中の安全は、ひとまず確保できたか
――ドォンッ!!
再び外から爆発音が響いた
窓の向こうへ目を向けると、夜の校庭に幾つもの魔法陣が浮かび、黒い衣服をまとった連中が次々と姿を現している
「……魔術師か」
アザゼルが低く呟いた
「それも相当な人数だな」
「人間の魔術師でしょうか?」
ミカエルの問いに、アザゼルが頷く
「ああ、悪魔の魔力体系を研究して、人間にも扱えるように独自の術式へ組み直した連中だ、マーリン・アンブロジウスなんかが有名だな」
……そういや、そんな設定もあったな
魔術師と一口に言っても、こいつらは別に悪魔の下請けってわけじゃない
「一人一人の実力も侮れねぇぞ、中には中級悪魔に匹敵する奴らもいる、それが転移陣を使って次々と増援を送り込んでやがる」
アザゼルが説明している間にも、校庭の魔法陣から新たな黒衣の集団が現れた
そのうちの数人がこちらへ向けて腕を振り上げ、魔力弾を放ってくる
……おいおい、会談室まで直接狙うのかよ
俺が動こうとしたところで、サーゼクスが片手を上げた
直後、窓へ向かってきた魔力弾が、途中で跡形もなく消え去る
……おおう、流石は現魔王ルシファー
この程度の攻撃じゃ、まともに近づくことすらできんか
「随分と大胆な襲撃だね」
サーゼクスの声は穏やかだったが、その目はまったく笑っていない
「しかも、ただ攻撃してきているだけではなさそうだ」
「ああ、そっちの方が厄介だな」
アザゼルが窓の外に広がる魔法陣を指した
「この学園には、俺たち三勢力が用意した防御結界がある、外からの攻撃には滅法強いが、その内側へ敵を送り込まれると話が変わってくる」
「結界の内側を利用される、ということですね」
「そうだ、しかも、こいつらが結界にどんな細工をしているか分からねぇ」
アザゼルは苦々しい顔をした
「力任せに結界を壊して外へ出ようものなら、その隙に人間界へ被害が広がりかねねぇ、敵の仕掛けを確かめずに動くわけにはいかねぇってことだ」
……なるほど、結界は俺たちを守ってくれるが、逆にその存在を利用して動きを制限しようってわけか
「つまり、私たちをここに閉じ込めることが目的でしょうか」
ミカエルが尋ねる
「その可能性は高い、だが……」
アザゼルが蒼那たちへ目を向けた
「時間停止が生徒会の連中にしか効いてねぇのが妙だな、俺たち三勢力の首脳を止めるつもりなら、これじゃ中途半端もいいところだ」
……そこなんだよなぁ
原作じゃ、もっと多くの連中が動けなくなっていたはずだが、今回は生徒会だけ
敵の準備が失敗したのか、ほかに狙いがあるのかは分からんが、少なくとも原作通りに事が運んでいるとは思えない
「……ギャスパーの神器でしょうか」
リアス先輩が蒼那たちを見つめながら呟いた
「あの子の
「ほう」
アザゼルが興味を示した
「だが、本人は部室にいるんだろ?」
「はい、そのはずです」
「なら、本人の意思でやっていると決めつけるのは早いな」
アザゼルは少し考え込み、今度はイッセーへ視線を向けた
「イッセー、お前の
「ああ、《譲渡》のことか?」
「そうだ、あれは分かりやすい例だな」
アザゼルが頷く
「神器ってのは、必ずしも一つの能力しか持たねぇわけじゃない、
「確かにそうですね」
「俺たちが研究している
アザゼルはそこで一度言葉を切った
「そもそも神器は、聖書の神が作った仕組みによるものだ、俺たちグリゴリじゃ、強大な能力が組み合わさった《神滅具》の成立には、その仕組みの想定外の変化が関わってるんじゃねぇかと考えている」
……神が作った仕組みの、想定外の変化ねぇ
あのアザゼルが長年研究しても、まだ分からないことがあるわけか
「……それがギャスパーの件と、どう繋がるのですか?」
リアス先輩が尋ねる
「倍加した力を他人へ譲渡できるのは、あくまで
アザゼルは動けなくなった蒼那たちへ目を向けた
「例えば、魔術でギャスパーの神器を強制的に発動させている可能性もある、本人がその場にいなくても、何らかの方法で力を利用されてるのかもしれねぇ」
「誰かが、あいつを無理やり利用してるかもしれねぇってことか!?」
イッセーの声が鋭くなった
「ああ、だが断定はできねぇ、今回の時間停止が妙に限定されている理由も、まだ分かってねぇからな」
……うむ
俺の原作知識だけで決めつけるより、まずはギャスパー本人の状態を確かめる必要があるな
「部長!」
イッセーが一歩前へ出た
「俺、ギャスパーを助けに行きたいです!」
「イッセー……」
「まだあいつが捕まってるって決まったわけじゃありませんけど、無事かどうか確かめたいんです、それに、もし神器を利用されてるなら、ギャスパーを助けることで時間停止も何とかできるかもしれません!」
リアス先輩がイッセーを見つめ、静かに頷いた
「……そうね、私も一緒に行くわ」
……うん
こういう時、イッセーはやっぱり仲間のことを真っ先に考えるな
昔と違って、状況も見ながら自分から行動を提案できている
「お兄様、ギャスパーのところへ向かわせてください」
「ああ、分かった、こちらのことは任せてくれていいよ」
サーゼクスの返答を受け、リアス先輩は朱乃へ振り返った
「朱乃、旧校舎の部室まで転移できる?」
「試してみますわ」
朱乃が足元に魔法陣を展開する
しかし、術式が完成する直前、魔力の流れが不自然に歪み、そのまま魔法陣が消えてしまった
「……あら?」
「朱乃?」
「転移先へ接続できませんわ、何かに妨害されているようです」
「外にいる連中の仕業かもしれねぇな」
アザゼルが眉をひそめる
「通常の転移まで邪魔してやがるか」
「少々、お待ちください」
グレイフィアが前へ出た
「妨害術式を調べてみましょう」
「私もお手伝いいたしますわ」
朱乃が頷くと、黒歌も二人のもとへ歩み寄った
「あたしも調べるにゃ、魔術とは違う方向から探れば、何か分かるかもしれないにゃ」
「ありがとうございます、ではお二人ともお願いいたします」
三人が術式の解析を始めると、会談室の空気が一段と張り詰めた
その間にも窓の外から攻撃が飛んできているが、ミカエルが展開した光の防御と、サーゼクスの魔力によって阻まれている
「祐斗、ゼノヴィア、周囲の警戒をお願い」
「はい、部長」
「了解した」
祐斗が聖魔剣を構え、ゼノヴィアもデュランダルへ手をかけた
……ふむ、守りと解析を同時に進められるのはありがたいな
「……通常転移への妨害については、仕組みが見えてきました」
グレイフィアの声に、全員の視線が集まる
「転移先と接続する段階で、外部の術式が干渉しているようです」
「ええ、魔力の流れを追うと、学園の外側にある術式へ繋がっていますわ」
朱乃が続ける
「それだけじゃないにゃ、結界の方へ流れている術式も別にあるみたいだにゃ」
黒歌が、自分の展開した術式の一部を指した
「全部をまとめて壊したら、何が起きるか分からないにゃ」
「その通りです、通常の転移術式を強引に通すのは避けた方がよろしいでしょう」
……なるほど、三人のおかげで、妨害の仕組みと危険な部分がある程度分かったわけか
となると、必要なのは別の移動手段だが……
「……お兄様」
リアス先輩が顔を上げた
「《キャスリング》なら、どうでしょうか?」
……おっ、来たな、キャスリング
「なるほど、通常の転移魔法とは別の仕組みだね」
サーゼクスが頷く
「
「旧校舎の部室です、未使用の
「それなら、移動先の条件は揃っているね」
……ふむ、原作と同じ場所に駒があるなら、確かに試す価値はある
あとは妨害の影響を受けるかどうかだが……
「ただし、《キャスリング》は基本的に
サーゼクスの言葉に、イッセーが頷く
「俺は
「グレイフィア、そちらも調べてくれるかい?」
「承知いたしました」
グレイフィアが朱乃と黒歌へ向き直る
「お二人とも、《キャスリング》の位置交換を利用して、同行者も移動できるか確認いたしましょう」
「分かりましたわ」
「任せるにゃ!」
三人が再び解析を始めた
その間にも校庭では魔術師たちが魔法陣を展開している
……急いだ方がいいな
こうしている間にも、ギャスパーに何が起きているか分からんのだから
――ドォォンッ!!
今度は先ほどよりも大きな爆発音が響いた
窓の外では魔術師たちが次々と攻撃を放っているが、会談室を守る防御は依然として突破されていない
……まあ、あの二人が守ってるんだ、当然といえば当然か
「イッセー、ちょっとこっちへ来い」
アザゼルが声をかけた
「何だよ、おっさん?」
「ギャスパーを助けに行くなら、こいつを持っていけ」
差し出されたのは、一つの腕輪だった
「……何だこれ?」
「神器の力をある程度抑えるための制御具だ、俺が研究して作ったものでな」
「ギャスパー用ってことか?」
「ああ、時間停止の力が制御できない状態なら、役に立つかもしれねぇ、ただし万能じゃないぞ、まずは本人の状態を確かめろ」
イッセーが頷き、腕輪を受け取った
……ふむ、ギャスパー用の腕輪か
確か原作でも渡していたな
こっちのイッセーは既に
……いやぁ、思い出すなぁ、あの地獄の鎧生活
当時のイッセーには散々文句を言われたが、こういう時に役立つんだから、やっぱり訓練は大事だよな
……本人は絶対に認めたがらないだろうけど
「それとな、イッセー」
アザゼルが腕を組み、改めてイッセーへ目を向けた
「神器が強いからって、それを持ってる奴まで無条件に強くなるわけじゃねぇ、いくら強力な神器でも、使いこなせなきゃ宝の持ち腐れだぞ」
「……ああ、分かってるよ、おっさん」
イッセーが真剣な表情で頷く
「修行で嫌ってほど思い知らされたからな、ドライグの力を借りるにしても、最後は俺自身がちゃんと使いこなさなきゃ意味がねぇ」
「ほう、分かってるじゃねぇか」
アザゼルが感心したように笑った
「なら、その調子で鍛えていけ、神器の力を引き出せるかどうかは、お前次第だからな」
「おう!」
……うむ、ちゃんと理解しているようで何より
鎧を着たまま生活させた甲斐があったってもんだ
……まあ、もう一度やれと言ったら全力で拒否されそうだけどな
「……アザゼル」
今度はミカエルが声をかけた
「一つ、聞いてもよろしいでしょうか」
「何だ?」
「神器の研究は、今どこまで進んでいるのですか?」
「完全な解明には、まだまだ遠いな」
アザゼルが肩をすくめる
「神器がどういう仕組みで能力を生み出すのか、分かっている部分は増えたが、全部を理解したわけじゃねぇ」
「……そうでしょうね」
ミカエルは静かに頷いた
「聖書の神がいなくなった今、神器の仕組みを直接確かめることもできませんから」
「だから俺たちが調べてるんだよ」
アザゼルはそう答え、イッセーへ渡した腕輪に目を向けた
「こいつだって、その研究の成果の一つだ、全部を解明できなくても、扱いに困ってる奴を助ける方法くらいは見つけたいだろ」
「……ええ、その通りですね」
ミカエルの表情が少し和らいだ
……なるほどねぇ
考えてみりゃ、神器の研究ってのも単に強い武器を作るためだけじゃないんだな
ギャスパーみたいに、自分の力に振り回されている奴を助けることもできるわけか
「……おい、ヴァーリ」
アザゼルが今度はヴァーリへ顔を向けた
「何だ?」
「悪いが、先に外へ出て敵の注意を引いてくれねぇか?」
「……陽動か」
「ああ、お前が出れば、向こうも無視はできねぇだろ、その隙にリアスたちを旧校舎へ送り込む」
ヴァーリは窓の外を見て、少し考えた
「……分かった、引き受けよう」
……ほう、随分と素直だな
原作のこいつだったら、強敵と戦えるかどうかを真っ先に気にしそうなものだが……
「ただし、無茶はするなよ」
アザゼルが付け加える
「分かっている」
「本当だろうな?」
「……約束は守るさ」
……おお
ちゃんと
強い奴と戦いたいのは相変わらずだろうが、今のヴァーリには帰りを待っている家族がいる
「それに、和平を邪魔するために戦争を仕掛けてくる連中なら、俺も遠慮する必要はない」
ヴァーリはそう言って、小さく笑った
「……少し行ってくる」
その背中に白い光の翼が広がり、ヴァーリが片手を前へ掲げる
「
『
白銀の輝きが全身を包み、眩い光が収まると、そこには白龍皇の鎧をまとったヴァーリが立っていた
……うおっ、白龍皇の
目の前で見ると、やっぱり迫力が違うな
鎧に覆われたヴァーリは窓の外へ向き直り、アザゼルへ軽く手を上げた
「あとは頼んだぞ」
「ああ、任せろ!」
次の瞬間、白い閃光が夜の校庭へ飛び出していった
……さて、白龍皇が出たとなれば、敵も無視するわけにはいかんだろう
「……しかし、妙ですね」
ミカエルが外の様子を見ながら口を開いた
「これほどの規模で三勢力の会談を襲うとは、一体どのような者たちなのでしょうか」
「ああ、その辺については心当たりがある」
アザゼルが答えた
「最近、妙な連中が集まってるって情報が入ってきててな」
「……妙な連中?」
「
……おっと、とうとうその名前が出たか
「カオス・ブリゲード……?」
リアス先輩が聞き返す
「ああ、三勢力の過激派や、厄介事を起こしてきた神器使いなんかが集まってる組織だ、昔からいた危険分子が、最近になってまとまり始めたらしい」
アザゼルは外の魔術師たちへ視線を向けた
「今回の襲撃も、そいつらが関わってる可能性は高いと見てる」
「和平に反対する者たち、ということですか?」
ミカエルが尋ねる
「それだけならまだ分かりやすいんだがな」
アザゼルの表情が険しくなった
「連中は戦争がしたいってだけじゃねぇ、今の世界そのものが気に入らねぇらしい、秩序を壊して混乱を起こすことまで目的にしてやがる」
「……とんでもない連中ね」
リアス先輩が眉をひそめた
「それで、そんな組織を率いているのは誰なのですか?」
ミカエルの問いに、アザゼルは少しだけ間を置いた
「……オーフィスだ」
……来たな
「オーフィス……?」
イッセーが首を傾げる
「誰だ、それ?」
「
アザゼルが静かに告げた
「赤龍帝や白龍皇とは別格の存在だ、龍の中でも途方もない力を持っている」
「……龍神?」
イッセーの表情が変わった
「おいおい、ドライグやアルビオンより強い龍がいるってことかよ!?」
「ああ、そういうことだ」
……うん、そりゃ驚くよなぁ
赤龍帝と白龍皇だけでもとんでもない存在なのに、そのさらに上となれば、イッセーが驚くのも無理はない
「そんな存在が、なぜ危険な組織を率いているのでしょうか」
ミカエルが疑問を口にする
「そこまでは分からねぇ、目的が何なのか、どうして今になって動いているのか……まだ情報が足りないんだよ」
アザゼルはそう答え、窓の外へ目を向けた
「だが、そんな連中が今回の襲撃に関わってるなら、ただの魔術師の集団だと思わねぇ方がいい」
……まったくだな
しかも、こっちの世界じゃヴァーリの事情も変わっている
《禍の団》との関わりが原作と同じになるとは限らないし、オーフィスの動向だって分からん
「……サーゼクス様」
そこでグレイフィアが声を上げた
「《キャスリング》の準備が整いました」
「おお、そうか」
「はい、朱乃様と黒歌様の協力により、通常転移への妨害とは別の方法で位置交換を行える見込みです」
「《キャスリング》の術式そのものには、妨害が及んでいないようですわ」
朱乃が頷く
「同行者を加えるための補助も整えたにゃ、ただ、最後まで気を抜くわけにはいかないにゃ」
《キャスリング》の本来の機能を利用しつつ、三人の術式でイッセーの同行を補助するわけか
「実際に移動が完了するまでは油断できません、術式の維持はこちらで担当いたします」
グレイフィアの言葉に、リアス先輩が頷いた
「お願いします、グレイフィア」
「それでは、お二人ともこちらへ」
グレイフィアに促され、リアス先輩とイッセーが会談室の隅へ移動した
その足元に《キャスリング》の術式が浮かび上がり、朱乃と黒歌も補助の魔法陣を重ねていく
……さて、ようやくギャスパーの救出に向かえるな
「イッセー、頼んだぞ」
俺が声をかけると、あいつが振り返った
「おう! 任せとけ、オシュトル!」
……うむ、その返事だけは、いつも通り元気だな
もっとも、今のイッセーなら、ただ無茶をするだけじゃなく、状況を見ながら動いてくれるだろう
「準備はよろしいですか?」
「はい!」
リアス先輩とイッセーが並んで頷く
「それでは、始めます」
三人の術式が連動し、二人の足元に浮かぶ魔法陣が強く輝き始めた
「《キャスリング》!」
リアス先輩の声と同時に、魔法陣から光が溢れ出す
通常転移を試みた時とは違い、術式に歪みは見られない
そして――
二人の姿が光に包まれ、会談室から消えた
「……術式の発動は正常です」
グレイフィアが静かに告げた
朱乃と黒歌も、維持していた補助の術式を解いていく
……よし、少なくとも、こちら側で妨害を受けた様子はないな
あとは向こうへ無事に到着できていればいいんだが……
「さて、こちらも動かなければならないね」
サーゼクスが窓の外へ目を向けた
校庭では相変わらず魔術師たちが動き回り、その上空では白銀の光が敵の注意を引きつけている
ギャスパーの救出は、ひとまずリアス先輩とイッセーに任せよう
となれば、こっちの問題は……
俺はアザゼルの姿をちらりと確認した
……カテレア・レヴィアタン
原作通りなら、そろそろ姿を現してもおかしくない
だが、今回は絶対に好き勝手させるつもりはないぞ
「……オシュトル」
隣のクオンが小さく俺を呼んだ
「ああ、承知している」
俺は仮面の下で小さく息を吐き、外の気配へ意識を向けた
……さてさて、ここからが本番、ってところかねぇ
side out ハク
─────────────────────────
side in 祐斗
部長とイッセーを包んでいた光が消え、会談室にはわずかな静けさが戻っていた
……無事に到着できているといいんだけど
グレイフィアさんたちが術式を調整してくれたおかげで、少なくともこちら側では問題なく発動したらしい
あとは二人を信じよう
僕は窓の外へ視線を向けた
校庭では相変わらず魔術師たちが攻撃を続け、その上空では白銀の鎧を纏ったヴァーリが飛び回っている
彼が敵の注意を引きつけてくれているおかげで、学園への攻撃はある程度抑えられているようだけれど、魔術師たちの数は依然として多い
……いつまでも彼一人に任せておくわけにはいかないな
そう考えた、その時だった
――ヴンッ!
突然、会談室の床に赤黒い魔法陣が浮かび上がった
「……っ!」
僕は咄嗟に聖魔剣を構え直し、ゼノヴィアもデュランダルの柄へ手を伸ばす
魔法陣の紋様は、僕たちが普段使っているものとは明らかに違っていた
「……随分と古い形式だね」
サーゼクス様が小さく呟いた
「はい、旧魔王時代の術式に見られる特徴があります」
グレイフィアさんも警戒した様子で答える
……旧魔王時代?
こちらの通常転移は妨害されていたはずなのに、敵はこうして会談室の中へ魔法陣を出現させている
やはり、自分たちが使う転送経路だけは確保しているんだろうか
やがて魔法陣の光が収まり、その中心に一人の女性が姿を現した
長い黒髪を背中へ流し、黒いドレスを身に纏った女性だ
整った顔立ちをしているけれど、僕たちを見る目には隠そうともしない敵意が浮かんでいる
「ごきげんよう、サーゼクス」
「……カテレア・レヴィアタン」
サーゼクス様が静かにその名を呼んだ
……レヴィアタン?
僕は思わずセラフォルー様の方を見る
現在、魔王レヴィアタンの名を持っているのは、間違いなくあの人だ
けれど、サーゼクス様が目の前の女性を知っている様子からして、単に同じ名前を持っているという話ではなさそうだ
「旧魔王レヴィアタンの血を引く君が、直接ここへ来るとはね」
「ふふっ、私のことは覚えていてくれたようね」
「もちろんだよ、君たち旧魔王派の動向についても、こちらは無関心ではいられないからね」
サーゼクス様は穏やかな表情を保ったまま、彼女を見据えた
「それで、今回の襲撃について説明してもらえるかな?」
「ええ、構わないわ」
カテレアはあっさりと頷いた
「今回の攻撃は私たち旧魔王派が引き受けたものよ、現魔王派に対する反乱と考えてもらって結構だわ」
……反乱!?
魔術師たちによる襲撃だけでも大事件なのに、その裏では悪魔の内部勢力まで動いていたのか
「そこまでして、今の魔王たちを排除したいのかい?」
「当然でしょう?」
カテレアが鼻で笑う
「先代の四大魔王も、聖書の神も、既に存在しない、それなのにあなたたちは、かつて敵だった相手と手を取り合い、和平などというくだらない話をしている」
彼女の視線がサーゼクス様からミカエル様、そしてアザゼル総督へと移っていった
「悪魔、天使、堕天使が仲良く共存する? そんなもの、私たちが受け継いできたものを否定するのと同じだわ」
「だから、この会談を襲撃したんだね」
「それだけではないわ」
カテレアは満足げに笑みを深めた
「私たち旧魔王派は、
……!
先ほどアザゼル総督が話していた組織だ
「オーフィスの力があれば、今の三勢力など恐れる必要もない、私たちはこの世界を変え、新たな秩序を築くのよ」
「……なるほどね」
サーゼクス様がわずかに目を細めた
「しかし、オーフィスは本当に君たちと同じ世界を望んでいるのかな?」
「そんなことは問題ではないわ、私たちが必要としているのは、今の秩序を打ち砕くための力よ」
……力さえ手に入ればいい、ということか
あれほど強大な龍神を後ろ盾にしているというのに、その意志にまで関心がないのは、少し危うい気がする
「それに、この会談にいる者の中でも、特に許せない相手がいるのよ」
カテレアの視線が横へ動いた
その先にいたのは――
「……セラフォルー・レヴィアタン!」
「……あたし?」
蒼那会長たちのそばにいたセラフォルー様が顔を上げる
途端に、カテレアの表情が憎悪に染まった
「あなたよ! 旧魔王レヴィアタンの血を引くわけでもないくせに、その名を名乗っているあなたが、私は何よりも許せない!」
「……そう」
「本来、レヴィアタンの名も魔王の座も、正統な血を受け継ぐ私のものであるべきだったのよ!」
……なるほど
旧魔王派という立場の問題だけじゃない
彼女は、セラフォルー様個人に相当な恨みを抱いているらしい
「あなたを倒して、その名を私の手に取り戻してみせるわ!」
カテレアがそう宣言すると、セラフォルー様は小さく息を吐いた
「……悪いけど、カテレアちゃん」
その声は、普段の明るい調子とはまったく違っていた
「今のあたしには、あなたの相手をしている暇はないの」
「……何ですって?」
「ソーナちゃんたちを守らなきゃいけないから」
セラフォルー様は、時間を止められたままの蒼那会長へ目を向けた
結界の内側で動けずにいる会長たちを見守るその表情には、今まで見たことのない真剣さが浮かんでいる
「魔王の名前より、ずっと大切なものがあるんだよ」
「……っ!!」
カテレアの顔が怒りで歪んだ
「ふざけないで! あなたが奪ったものが、私にとってどれだけ大切なのかも分からないくせに!」
「カテレア」
サーゼクス様が静かに呼びかけた
「君たちの望む新しい世界とは、具体的にどんな世界なんだい?」
「決まっているでしょう、私たちこそが頂点に立つ世界よ」
カテレアは当然のことのように答えた
「今の魔王も、天使も、堕天使も必要ない、旧魔王の血を引く正統な支配者が世界を統べればいいのよ」
「そのためには、今そこで暮らしている者たちを犠牲にしても構わないと?」
「何を今さら、世界を変えるために犠牲が出るのは当然でしょう?」
……っ
思わず、聖魔剣の柄を握る手に力が入った
かつての僕も、復讐のためなら他のことなど考えられなくなっていた時期がある
だからこそ、目の前の女性が口にする言葉の危うさが、少しだけ分かる気がした
「今の世界は間違っているのよ、人間も悪魔も、弱い者ばかりが好き勝手なことを言っている、そんな世界には価値などないわ!」
「……ふっ」
その時、会談室に小さな笑い声が響いた
……え?
声のした方を見ると、ハク君がわずかに肩を揺らしていた
隣の久遠さんも、彼の方へ顔を向けている
「……何がおかしいの?」
カテレアが鋭い視線を向けた
「失礼、少々聞き飽きた話であったゆえな」
ハク君は、仮面の奥から落ち着いた声で答えた
「……どういう意味よ」
「世界が腐っている、古い秩序を壊す、自分たちが新たな支配者となる……なるほど、実に壮大な理想だ」
……ハク君?
「しかし、貴殿の話を聞く限り、結局は己の気に入らぬ者を排除して、その椅子を自分たちのものにしたいだけではないか?」
「……っ!」
「それを世界の変革と呼ぶのであれば、随分と都合のよい言葉であるな」
……うわぁ
落ち着いた声なのに、かなり辛辣だ
「貴様に何が分かるというの!」
「では、一つ尋ねよう」
ハク君はわずかに首を傾けた
「貴殿は世界のすべてを見てきたのか? そこに生きる者たちが何を願い、何を守ろうとしているのか、すべて知ったうえで腐っていると言い切るのか?」
「そんなもの、見る必要もないわ!」
「……なるほど、見てもおらぬものを、よくそこまで断じられるものだ」
カテレアの眉間に深い皺が寄った
「それだけの血筋と力を持ちながら、語ることは己が世界の頂点に立つという話ばかり……些か惜しいことだな」
ハク君は短く息を吐いた
「世界を作り直すと豪語する者ほど、新しい世界で己がどの椅子に座るかだけは決めている……どうにも昔から変わらぬ話でな」
「……貴様!」
「もっとも、そうした大義を掲げて戦を起こす者は、己の理想が実現する前に討たれることも珍しくないが……貴殿は大丈夫なのであろうな?」
……ああ、これ
完全に喧嘩を売っている!
「……貴様ぁぁぁ!!」
カテレアが怒鳴る
すると、今度は別の方向から笑い声が上がった
「ぶっ……ははははっ!」
アザゼル総督だった
「何がおかしいのよ、アザゼル!」
「いやぁ、悪い悪い、オシュトルの言うことがいちいちもっともでな!」
総督は楽しそうに肩をすくめた
「しかしお前、血筋だの支配だの、随分と面倒くせぇことばっかり考えてるんだな」
「……何ですって?」
「いや、ちょっと気になったんだが……」
アザゼル総督の視線が、カテレアの左手へ向いた
正確には、その薬指へ
「……お前の左手の薬指、何もついてねぇんだな?」
「…………は?」
……え?
いきなり何の話を始めたんだ、この人は?
「いやぁ、俺なんか嫁が二人もいて、もうすぐ娘まで生まれるんだぜ?」
アザゼル総督は、いかにも楽しそうに笑った
「これから子育てで忙しくなるし、家族との時間だって大事にしなきゃならねぇ、世界をどうこうする暇なんざ、そうそうねぇよ」
……あっ
まさか、さっき左手を見たのって……!
「それが何だというのよ!」
「俺にとっちゃ、世界を壊して作り直すことより、嫁さんたちと生まれてくる娘が安心して暮らせる方が、よっぽど大事ってことさ」
総督はそこで、にやりと笑みを深めた
「お前も結婚してみたらどうだ? 世界征服なんぞより、面白いことが見つかるかもしれねぇぞ?」
「……っ!!」
……あーあ
完全にわざとだ
ハク君が理想を皮肉ったところへ、今度は左手の薬指を見て結婚の話まで持ち出した
……この二人、容赦ないなぁ
「……貴様ら、私をどこまで愚弄すれば気が済むの!!」
カテレアの全身から、凄まじい魔力が噴き上がった
「サーゼクス、ミカエル」
アザゼル総督が二人へ声をかけた
「こいつの相手は俺がする、二人は会談室と学園の方を頼むぜ」
「……アザゼル」
サーゼクス様は一度総督を見ると、カテレアへ向き直った
「カテレア、最後に確認させてもらうよ、今ここで退くつもりはないんだね?」
「ええ、もちろんよ」
カテレアは迷わず頷いた
「サーゼクス、あなたの力量については認めているわ、けれど、それだけでは魔王の正統性は得られない、私たち旧魔王の血を引く者にとって、今の魔王たちが統治する世界など認められないのよ」
「……そうか」
「あなたたちには消えてもらうわ、そして私たちが本来あるべき世界を取り戻す」
その言葉を聞き、サーゼクス様は小さく息を吐いた
「残念だよ、カテレア」
……決裂、か
サーゼクス様の表情から、先ほどまでの穏やかさが消えていた
アザゼル総督も笑みを収め、ゆっくりと前へ出る
……いよいよ戦闘になる
僕が聖魔剣を構え直した、その時だった
「……総督殿」
ハク君がアザゼル総督へ声をかけた
「ん? どうした、オシュトル」
「この者の相手、某にお任せいただけぬか」
「……お前がやるのか?」
「ええ、旧魔王の血を引き、あれほどの魔力を有する相手です、決して侮るつもりはありませぬ」
ハク君は静かに続けた
「ですが、会談室で戦えば周囲を巻き込むことにもなりましょう、ならば某が外へ連れ出し、相手をいたします」
「……なるほどな」
アザゼル総督がわずかに目を細める
何かを確かめるようにハク君を見つめていたけれど、やがて小さく笑った
「……分かった、任せるぜ」
……うん、それなら大丈夫だろう
相手は旧魔王レヴィアタンの血を引き、オーフィスという強大な龍神を後ろ盾にしているらしい
けれど、ハク君は僕たちが総力を挙げても苦戦したコカビエルを、ほとんど何もさせずに倒してしまった人だ
そのハク君が自分から引き受けると言っているんだから、僕が心配する必要はない
「……ふざけないで!」
カテレアが怒りに満ちた声を上げた
「私を前にして、勝手に話を進めるなんて……!」
「失礼、待たせたようだな」
ハク君が彼女へ向き直る
「では、場所を変えるとしよう」
「……何?」
カテレアが眉をひそめた
次の瞬間――
――ドゴォッ!!
「がっ……!?」
カテレアの身体が、凄まじい勢いで後方へ吹き飛んだ
……え!?
気づいた時には、ハク君が先ほどまでカテレアの立っていた場所に移動していた
その片足が、蹴りを放った直後の位置から静かに下ろされる
……蹴り!?
あの一瞬で間合いへ入り、蹴り飛ばしたのか!?
――ガシャァァァンッ!!
カテレアは窓を突き破り、会談室の外へと吹き飛んでいった
砕けたガラスが夜空へ散り、窓枠の向こうに大きな穴が開く
ハク君はその光景を一瞥すると、アザゼル総督へ短く声をかけた
「では、こちらはお任せを」
「おう、頼んだぜ」
「クオン、白音、そちらは頼んだ」
「うん、分かってる」
「お任せください、兄さま」
久遠さんと白音ちゃんが頷く
二人はすぐにアーシアさんのそばへ移動し、彼女を守るように位置を取った
久遠さんが窓側を、白音ちゃんが会談室の入口や床の魔法陣を警戒している
それを確認したハク君は、割れた窓へ歩み寄った
「オシュトル、気をつけて」
僕が声をかけると、ハク君がこちらを振り返った
「うむ、そなたらも油断なきよう」
短く頷いたハク君は、そのまま窓の外へ飛び出していった
……いやぁ、相変わらず凄いなぁ
旧魔王の血を引く相手を、あんなにあっさり蹴り飛ばしてしまうなんて
「……さて、こちらも動こうか」
サーゼクス様の声に、僕は振り返った
「木場祐斗君」
「はい!」
「これから私とミカエル、アザゼルの三人で、学園を覆う結界の強化と維持に集中するつもりだ」
サーゼクス様が窓の外へ視線を向ける
「既存の結界には、敵の術式が干渉している可能性がある、だから無理に破壊せず、こちらの防御を重ねて補強するよ」
「オシュトル殿とカテレアが戦う以上、その余波が周囲へ及ぶ可能性もありますからね」
ミカエル様が静かに続けた
「私たちが結界を維持する間、魔術師たちの迎撃をお願いできますか?」
「はい、もちろんです!」
「ありがとよ、オシュトルがあいつを引き受けてくれたんだ、俺たちも守りを固めねぇとな」
アザゼル総督も頷いた
「……グレイフィア、転送用魔法陣の解析は?」
サーゼクス様が尋ねると、グレイフィアさんが静かに答えた
「現在、朱乃様と黒歌様にも協力していただき、敵の魔術師たちを送り込んでいる転送用魔法陣を解析しております」
彼女のそばでは、朱乃先輩と黒歌さんがいくつもの魔法陣を展開し、複雑に重なった術式を調べていた
「こちらの経路は確認できましたわ、ただ、まだ別の術式が重なっています」
「そっちはあたしが調べるにゃ、朱乃は今の術式をお願いするにゃ」
「ええ、お任せくださいな」
「魔術師側の転送術式が残っている限り、新手が送り込まれる可能性があります、解析を終えるまで、しばらくお時間をいただければと」
グレイフィアさんの報告に、サーゼクス様が頷く
「分かった、こちらで時間を稼ごう」
……なるほど
敵の転送経路を止めなければ、今いる魔術師たちを倒しても、また新しい敵が現れるかもしれない
グレイフィアさんたちがその仕組みを調べ、三勢力の代表が学園を守る
なら、僕たちの役目は……
「祐斗君、ゼノヴィア」
サーゼクス様が僕たちへ目を向けた
「二人には外の魔術師たちを抑えてほしい、学園への攻撃を防ぎながら、できる限り敵の数を減らしてくれるかな?」
「はい!」
「承知した!」
僕とゼノヴィアは同時に頷いた
「ありがとう、リアスには頼もしい騎士たちがいてくれるね」
サーゼクス様が微笑む
「君たちの力を、皆を守るために使ってほしい」
……皆を守るために、か
僕は手の中の聖魔剣へ視線を落とした
かつての僕は復讐することばかり考えていたけれど、今はこうして、自分の力で守りたいものがある
「……はい、任せてください!」
「ゼノヴィア、行こう!」
「ああ、もちろんだ!」
ゼノヴィアがデュランダルを構え、僕も聖魔剣の切っ先を上げた
「木場くん、ゼノヴィア」
振り返ると、久遠さんがこちらを見ていた
その隣には白音ちゃんが立ち、二人に守られるようにアーシアさんがいる
二人は僕たちに声をかける間も、周囲への警戒を解いていなかった
「気をつけてね、二人とも」
「ありがとうございます、久遠さん」
「……無茶はしないでくださいね」
「ありがとう、白音ちゃん」
「木場さん、ゼノヴィアさん!」
今度はアーシアさんが声を上げた
「どうか、お気をつけて……! お怪我をしたら、すぐに戻ってきてくださいね!」
「うん、ありがとう、アーシアさん」
「心配するな、アーシア、私たちなら大丈夫だ」
ゼノヴィアが力強く頷く
「アーシアさんも、久遠さんと白音ちゃんのそばを離れないでね」
「はい!」
アーシアさんの返事を聞いて、久遠さんも微笑んだ
「アーシアのことは私たちに任せて、二人も無事に戻ってきてね」
「……私たちが守りますから」
白音ちゃんも静かに頷く
……うん
これなら安心して外へ向かえる
僕とゼノヴィアは顔を見合わせ、割れた窓へ向き直った
校庭には今も魔術師たちが展開し、無数の魔法陣から攻撃を放っている
「……行くよ!」
「ああ!」
僕たちは窓から飛び出した
着地するより早く、こちらへ向かって三つの魔力弾が飛んでくる
……早速か!
僕が聖魔剣で正面の一発を斬り払い、ゼノヴィアがデュランダルの剣圧で残る二発を吹き飛ばした
「木場、右だ!」
「分かってる!」
ゼノヴィアの声に合わせて踏み込むと、ちょうど僕の前へ魔術師が一人飛び出してきた
その杖へ聖魔剣を叩き込み、魔法陣が完成するより先に武器を弾き飛ばす
直後、ゼノヴィアが横から迫っていた別の魔術師を制圧した
……よし!
そのまま次の敵へ向かおうとして、校庭の奥で戦っている二人の姿が目に入った
……あれ?
ハク君が、カテレアを相手に戦っていた
だが、どういうわけか、その手には武器がない
カテレアは幾度も魔力弾を放っているのに、ハク君は僅かに身を動かすだけで躱し、その隙に距離を詰めて相手の体勢を崩している
彼女が離れようとしても、すぐに間合いへ入られてしまうらしい
……武器を使っていない?
しかも、あのカテレアを相手に……
……いや
圧倒しているんだ
魔力量ではカテレアが相当なものを持っているんだろうけど、戦い方そのものに大きな差があるように見えた
「木場! 余所見をするな!」
「……っ! ごめん!」
ゼノヴィアの声で我に返り、僕は迫ってきた魔術師へ聖魔剣を向けた
……そうだね
カテレアの相手は、ハク君に任せよう
僕たちは、こっちの敵を止めよう!
side out 祐斗
─────────────────────────
side in ハク
……さて、と
祐斗とゼノヴィアが校庭へ降り立った気配を感じながら、俺はカテレアの放った魔力弾を躱していた
会談室から蹴り出した後、周囲を巻き込まないよう校庭の一角へ誘導し、しばらく徒手と体術だけで相手をしていたわけだが……
……うん、やっぱり魔力量は相当なものだな、この女
旧魔王の血筋というだけあって、攻撃の威力も速度も侮れない
ただし、魔力量と技量が必ずしも比例するわけじゃないんだよなぁ
「……っ! このっ!」
カテレアが右手を振り抜くと、幾つもの魔力弾が広がるように飛んできた
……おっと、今度は数で押すつもりか
俺は左へ半歩踏み込み、最初の一発を躱すと、その勢いのまま身体をひねった
続く魔力弾が背後を通り過ぎる
その隙に一気に距離を詰め、相手の懐へ入った
「……なっ!?」
突き出された腕を外側へ払い、反撃に上がった膝を片手で押さえる
そのまま軸足の外へ踏み込み、体勢を崩したところで肩を押し込んだ
「きゃあっ!?」
カテレアの身体が横へ流れ、数歩たたらを踏んだ
……ふむ
反撃するまでの動きは悪くないが、力任せに押し返そうとする癖があるな
その辺りを利用すれば、まだまだ崩せそうだ
「……貴様っ! いつまでふざけているつもりなの!?」
「ふざけているつもりはないのだがな」
「……っ!!」
……いや、本当だぞ?
こっちは周囲へ被害を出さないよう、攻撃の方向まで気にしてるんだから
もっとも、それを説明したところで納得してくれそうにはないが
カテレアが再び魔力を放とうとしたので、その腕を押し下げながら懐へ入る
今度は肘を折り畳むようにして彼女の腕を制し、足を払った
「……ぐっ!?」
身体が傾いたところへ軽く掌底を添え、そのまま後方へ押し戻す
……うむ
やはり、魔力の扱いはともかく、こういう近接戦闘には慣れていないようだな
そうして何度か攻撃を捌いていると、少し離れた場所から二つの剣気が伝わってきた
……ん?
ああ、祐斗とゼノヴィアか
どうやら、二人も迎撃を始めたようだな
向こうでは魔術師たちの魔力弾を祐斗が斬り払い、ゼノヴィアが別方向からの攻撃を処理している
……うむ、連携は悪くない
会談室の方も、クオンと白音に任せてある
アーシアも二人のそばにいるし、ひとまず心配する必要はないだろう
……さて
なら、俺もそろそろ片付けるとするかね
「……もう許さないわ!」
……おっと
カテレアが大きく後ろへ跳んだ
その右腕へ凄まじい魔力が集まり始め、先ほどまでとは異なる気配が混ざっていく
黒い蛇のようなものが腕に絡みつき、濃密な魔力がその上を幾重にも覆った
……ああ、あれか
オーフィスから与えられた力だな
原作でも厄介な代物だったが、あれに付き合って長々と戦うつもりはない
「今度こそ、その減らず口を叩けなくしてあげるわ!」
カテレアが右腕を引き、その魔力を纏ったまま踏み込もうとする
……なるほど
遠距離からじゃ捕まえられないから、今度は直接叩き込むつもりか
なら……
俺は右手首へ視線を落とした
そこには、細い紐が巻きついている
……うむ
そろそろこちらも武器を使わせてもらおう
俺は改めてカテレアへ向き直り、静かに口を開いた
「……ならば、某も武器を使わせていただこう」
「……何ですって?」
「ミミックよ」
「ぴぃ!」
右手首に巻きついていた紐から、小さな鳴き声が響いた
紐がするりと解け、そのまま宙へ浮き上がる
細い輪郭が淡い光に包まれたかと思うと、みるみる形を変え、次の瞬間には見慣れた一振りの刀となっていた
……うん、相変わらず器用な奴だな
俺は差し出された柄を握った
――ブワァッ!!
「……っ!?」
その瞬間、刀身から膨大な聖なる力が溢れ出した
白銀の光が刃を包み、周囲の空気が震え始める
「なっ……!?」
カテレアが目を見開いた
今にも踏み込もうとしていた足が止まり、驚愕した表情で俺の刀を凝視している
「……何よ、その聖なる力は!?」
右腕に集めていた魔力はまだ消えていない
だが、こちらへ向けていたその腕が、僅かに下がった
……おや、随分と驚いたようだな
まあ、無理もないか
……やっぱりか……
こいつも俺が握ると出力を上げるんだよなぁ
デュランダルもそうだったし、アスカロンの時なんてドライグが悲鳴を上げるほどだった
……まったく、聖剣ってのはどうしてこう……
ん~……
そういや俺、ちゃんと聖剣を使ったことないんだよなぁ……
今まで何度も手には取ったが、実際に聖剣として本格的に振るったことはなかったはずだ
……ふむ
せっかくの機会だし、ここは一つ、それっぽい台詞でも言ってみるか
俺はミミックを正面に構え、ゆっくりと切っ先を持ち上げた
「聖剣……抜錨!」
――ドクンッ!!
……ん?
今、ミミックが……
――ドクンッ!!
……おい
何だ、今の脈動は!?
side out ハク
─────────────────────────
side in ミカエル
――っ!?
学園を覆う結界へ力を注いでいた私は、校庭の一角から突如として膨れ上がった聖なる力に顔を上げました
……これは、大神君のいる方向から?
彼が手にした刀から、凄まじい勢いで聖気が溢れ出しています
その気配には覚えがありました
……あれは、
神社で
先ほどの会談で、大神君がオシュトルとして活動していることも明らかになりました
ですが、あの刀から放たれている聖気は……
「……サーゼクス、アザゼル!」
私が声をかけると、二人も校庭へ目を向けました
「……随分と強い聖気だね」
サーゼクスが表情を引き締めます
「まさか、あの刀から出ているのかい?」
「そのようですが、この出力は……」
「おいおい、何だよあれは……!」
アザゼルも驚いた様子で大神君を見つめています
とはいえ、二人ともすぐに状況を判断したようでした
「……結界を強めた方がよさそうだね」
「ええ、周囲にいる悪魔たちへ影響が出る前に、防護を重ねましょう」
「ああ、こっちもやるぜ」
私たちは学園を覆う既存の結界を維持しながら、会談室と校庭の味方を守るため、新たな障壁を展開しました
祐斗君とゼノヴィアさんは魔術師たちの迎撃を続けており、上空ではヴァーリも飛行しています
彼らの位置を確かめながら防御範囲を調整していると、背後から声が聞こえてきました
「……っ!? この聖なる力……!」
振り返ると、朱乃さんが解析途中の魔法陣へ手を伸ばしたまま、窓の外へ目を向けていました
「……昼間のアスカロンの時より、ずっと強大ですわ……!」
……やはり、朱乃さんも気づいたのですね
あの神社では、大神君がアスカロンへ触れた途端、聖属性と龍殺しの性質が異常なほど増幅されました
朱乃さんも、その場に居合わせた一人です
「朱乃さん、解析は続けられますか?」
「……はい、大丈夫ですわ」
彼女は深く息を吸うと、再び魔法陣へ意識を戻しました
「黒歌さん、こちらの術式をお願いします」
「分かったにゃ……それにしても、オシュトル、またとんでもないことをしてるにゃ……」
黒歌さんも一度だけ校庭へ目を向け、すぐに解析を再開します
「グレイフィア様、こちらの経路はもう少しで追えるはずですわ」
「ええ、引き続きお願いいたします」
……皆、それぞれの役目を果たそうとしているのですね
私も、結界への力を緩めるわけにはいきません
しかし、大神君の刀から目を離せなかったのには、もう一つ理由がありました
……何かが、呼ばれている?
溢れ出す聖気とは別に、遠く離れた幾つもの場所から、異なる気配が同じ一点へ向かっているのです
「……ミカエル?」
サーゼクスが私の様子に気づきました
「どうかしたのかい?」
「……あちらを見てください」
そう告げた直後でした
――キィィィィンッ!
澄んだ音が夜空へ響き渡り、遠方から一筋の光が飛来したのです
「……何だ?」
アザゼルが眉をひそめます
続いて二筋、三筋と光が現れ、そのすべてが大神君の刀へ向かっていきました
それらは瞬く間に距離を詰め、刀身へ吸い込まれるように消えていきます
しかし、私はその光に含まれているものを感じ取り、思わず息を呑みました
……まさか
そんなはずは……
「……エクスカリバー?」
「エクスカリバーだって?」
アザゼルが聞き返します
「ええ、あの光の中には、かつてエクスカリバーが砕けた際の欠片が含まれています」
「……欠片?」
「長い年月の間に散逸したものまで、あの剣へ集まっているようなのです」
大戦で砕かれたエクスカリバーは、その後、残されたものから複数の聖剣へと分割されました
ですが、失われた破片のすべてを回収できたわけではありません
その欠片が、今になって自ら戻ろうとしている
……信じられません
しかも、異変はそれだけではありませんでした
「……核まで?」
分割されたエクスカリバーの力を司る核
その反応まで、次々と大神君の刀へ近づいているのです
「……ミカエル、何が起きてる?」
アザゼルの声が少し低くなりました
「……エクスカリバーが、再び一つになろうとしています」
「……は?」
「砕け散った欠片だけでなく、分割された聖剣の核までもが、あの刀を中心に集まり始めているのです」
サーゼクスも驚いた様子で問いかけました
「それは、元のエクスカリバーへ戻るということかい?」
「……まだ分かりません」
私は正直に答えました
「ですが、少なくとも、複数に分かれていた力が再び結びつこうとしています」
……このようなことが、起こり得るのでしょうか
天界で保管されていたものも、教会へ託したものも、長い年月の中で失われたものも……
それらが持ち主や管理者の意思とは関係なく、大神君のもとへ集まろうとしている
しかも、ほんの数瞬の間に
その時、校庭で一際強い魔力が膨れ上がりました
カテレアです
先ほど聖気に驚いて攻撃を止めた彼女でしたが、ようやく我に返ったのでしょう
右腕に纏わせていた魔力をさらに強め、大神君へ向けて放とうとしていました
しかし――
――ゴォォォォォッ!!
彼の刀から新たな光が噴き上がり、カテレアが反射的に腕を引きました
その顔が、怒りから困惑へと変わっていきます
どうやら、あの聖気を前に攻め込む機会を掴めずにいるようでした
……これ以上、周囲へ聖気を広げるわけにはいきません
「サーゼクス、アザゼル、さらに防護を!」
「ああ!」
「分かってる!」
三人で結界への力を増やし、会談室と校庭の味方を守る障壁を強めます
敵の転送術式がまだ残っている以上、学園を覆う結界そのものを無理に壊すわけにはいきません
私たちは防御を維持したまま、大神君の刀から放たれる光を見つめていました
その中心で、集まった欠片が刀身と一つになり、形を変え始めたのです
反りのあった刃が真っ直ぐに伸び、白銀の両刃へと組み替わっていく
鍔には金色の装飾が幾重にも重なり、深い青を基調とした柄にも新たな意匠が浮かび上がりました
それは、私の知るかつてのエクスカリバーと、まったく同じ姿ではありませんでした
しかし、あの聖気と核の反応を、ほかの剣と取り違えることなどできません
……ですが
「……おかしい」
私は集まった核の気配を、一つずつ確かめました
多くの力が結びつき、剣の形を整えている
それなのに……
……一つ、足りない
「……支配の核が、ない?」
「……何?」
アザゼルがこちらへ顔を向けました
「支配の核だけが、あの剣に集まっていないのです」
「……つまり、全部揃ったわけじゃねぇのか?」
「……ええ」
そう答えながら、私は剣の構造を見つめました
集まった核は次々と定位置へ収まり、刀身と柄が完成へ近づいています
しかし、支配の核が組み込まれるべき部分だけは、最後まで埋まりませんでした
――そこに残ったのは、鍔に近い刀身の根元、その一部分が欠け落ちたような空白
……なるほど
あれは装飾ではありません
支配の核が存在しないために、埋めることのできなかった部分なのです
それほど重要な構成要素を欠いていながら、剣の形は崩れません
むしろ、残された核が互いの力を保ったまま、安定して結びついているようでした
……一体、どうやって……
そして――
――キィィィンッ!!
最後の欠片が組み込まれました
刀身を覆っていた光が静かに収束し、鍔に近い刀身の根元の一部分を欠いたまま、白銀の直剣がその姿を現したのです
その瞬間――
……っ!?
周囲の空気が、一変しました
先ほどまで溢れ続けていた聖気とは、何かが決定的に違う
力の奔流だったものが、今は一振りの剣の中へ収まり、そこにあるだけで周囲を圧倒しているようでした
校庭では、カテレアが右腕を構えたまま動きを止めています
魔法陣を展開していた魔術師たちも、次々と大神君の方へ顔を向けました
ある者は杖を振り上げたまま、またある者は魔力弾を放とうとした姿勢のまま、目の前の光景に息を呑んでいます
迎撃していた祐斗君も、聖魔剣を握ったまま動きを止めていました
隣のゼノヴィアさんも、デュランダルを構えた姿勢で白銀の剣を見つめています
上空ではヴァーリが飛行を維持したまま、大神君へ顔を向けていました
……戦いが、止まった?
いえ
誰かが時間を止めたわけではありません
敵も味方も関係なく、誰もがほんの一瞬、目の前の剣に意識を奪われてしまったのです
会談室からも、小さく息を呑む声が聞こえました
アーシアさんです
彼女を守るように立っていた久遠さんと白音さんも、窓の外へ視線を向けています
ですが、二人はすぐに周囲の警戒へ意識を戻しました
久遠さんはアーシアさんを庇う位置を保ち、白音さんも入口や床に残る魔法陣へ注意を向けています
「……アーシア、大丈夫?」
「は、はい……でも、今のは……?」
「……オシュトルの方で、何か起きたみたい」
久遠さんはそう答えながらも、アーシアさんのそばを離れませんでした
……そうですね
まだ、戦いは終わっていないのです
私も結界への力を維持しながら、大神君の方へ目を戻しました
しかし、その時、すぐ隣から思いがけない声が聞こえてきたのです
「……恐ろしいね」
……え?
声の主は、サーゼクスでした
彼は白銀の剣へ視線を向けたまま、険しい表情を浮かべています
聖気が溢れた時には警戒こそ見せていたものの、冷静に結界を維持していた彼が、今は明らかに動揺していました
「……サーゼクス?」
「聖なる力が悪魔にとって脅威なのは分かっている、けれど……あれは、それだけじゃない」
サーゼクスが小さく息を吐きました
「剣が形を成した瞬間、身体が危険だと訴えてきたんだ、まさか私が、一振りの剣を前にして本能的な恐怖を覚えるとはね」
……サーゼクスが、恐怖を?
私が驚いていると、今度は少し離れた場所から声が聞こえてきました
「……何、あれ……」
セラフォルーです
彼女もまた、校庭の大神君を見つめたまま、表情を強張らせていました
「……怖い」
その声は、普段の明るい彼女からは想像できないほど硬いものでした
ですが、セラフォルーは動けない蒼那さんたちのそばを離れません
恐怖を覚えながらも、妹を守るための魔力を維持しています
そして――
「……っ!」
グレイフィアまでもが、解析用の魔法陣へ伸ばしていた手を一瞬止めたのです
「……グレイフィア?」
サーゼクスが声をかけると、彼女はすぐに姿勢を正しました
「……失礼いたしました、サーゼクス様」
そう答える声には、僅かな緊張が混じっていました
「ですが、あの聖剣は……本能が、危険だと訴えております」
……グレイフィアまで
彼女もまた、魔王に匹敵するほどの実力者です
その彼女が、サーゼクスやセラフォルーと同じように恐怖を覚えている
それほどの力が、あの剣には宿っているのでしょう
「……解析は続けられるかい?」
「はい、問題ございません」
グレイフィアは一度息を整え、朱乃さんと黒歌さんへ向き直りました
「お二人とも、引き続きお願いいたします」
「……ええ、承知しましたわ」
「分かったにゃ」
三人が解析へ戻るのを確かめ、私も結界の維持に意識を向け直しました
……それでも、あの剣から目を離すことはできません
……大神君
私は再び、校庭に立つ彼へ目を向けました
これほどの現象が起きているにもかかわらず、大神君は落ち着いた様子で聖剣を握っています
仮面の奥にある表情は分かりませんが、その立ち姿には少しの乱れもありません
……まるで、最初からこうなることを知っていたかのように
あの日、神社で彼と
そして今、彼の手にある剣は、再び私の常識を覆している
……あなたは、いったい何者なのでしょうか
そう考えながらも、私は結界へ注ぐ力を緩めませんでした
校庭では、動きを止めていた魔術師たちが少しずつ我に返り、再び武器や魔法陣を構え始めています
戦いは、まだ終わっていないのです
しかし、カテレアだけは、大神君の手にある剣から視線を外せずにいました
その表情には、先ほどまでの怒りとは異なる感情が浮かんでいます
対する大神君は、何事もなかったかのように白銀の剣を持ち上げました
青と金の意匠を纏った刀身が、月明かりを受けて静かに輝く
支配の核が収まるべき鍔に近い刀身の根元には、埋まらない欠損が残り、その向こうに夜空が覗いていました
……あの剣が、振るわれる
それが何を意味するのか
今の私には、まだ想像することすらできませんでした
side out ミカエル
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
ようやく和平へ向かい始めた三勢力でしたが、案の定、そう簡単には終わりませんでしたね(笑)
そして今回、まさかのミミック大活躍!
ハクとしては、ちょっと格好いい台詞を言ってみたかっただけなのですが……。
どうしてこうなった!?www
しかも、集まったエクスカリバーの欠片と核。
ただし、支配の核だけは揃っておらず、完全な状態とは言えません。
果たして、この聖剣がどれほどの力を持っているのか?
そして、カテレアとの戦いはどうなるのか?
次回も引き続き、三勢力会談襲撃編をお届けする予定です!
改めまして、更新をお待ちくださった皆様、本当にありがとうございました!
よろしければ、感想や評価などをいただけると励みになります!
それでは、また次回お会いしましょう!