ハイスクールDxD 〜うたわれるもの〜   作:フォートナー

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皆様、お待たせいたしました。

前回の投稿から約一週間も間が空いてしまい、申し訳ありません。

今回は展開や戦闘描写、キャラクター同士のやり取りなど、細かな部分の調整に思いのほか時間がかかってしまいました。

その分、納得のいく形に仕上げられたと思います。

いつも読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます。

それでは、Life.42をお楽しみください!


Life . 42 救出です!魔王の血筋です!聖剣が凄いです!?

side in イッセー

 

 気づいたとき、そこは旧部室だった。

 

 グレイフィアさん、朱乃、黒歌が調整してくれた《キャスリング》は無事に成功したらしい。ただし――

 

「――ッ! まさか、ここに転移してくるとは!」

 

「悪魔め!」

 

 室内は不気味なローブを着た魔術師の方々で占拠されておりますよー!

 

 ……いや、喜んでる場合じゃねぇな!

 

 やっぱり、敵のど真ん中だ!

 

「ぶ、部長! イ、イッセー先輩!」

 

 ギャスパーの声!

 

 声のしたほうへ視線を向ければ、そこには女装少年!

 

 ギャスパーは椅子に縄でくくりつけられていた。頭部には紙袋の切れ端が引っかかっている。

 

 ……あれ、俺が作ってやった紙袋じゃねぇか!

 

 捕まった時に破れちまったのか。

 

 ギャスパーの無事を確認し、部長もホッとしていた。

 

「ギャスパー! 良かったわ。無事だったのね」

 

「部長……イッセー先輩……!」

 

 しかし、ギャスパーは安心したのも束の間、俯いてしまった。

 

「……ごめんなさい。僕、また捕まっちゃって……。せっかく先輩たちと練習してたのに、何もできなくて……」

 

 ギャスパーは涙をこぼしていた。

 

 敵に捕らわれ、神器を利用されたことで、俺たちに迷惑をかけたと思っているのだろう。

 

 だけど、こいつは以前のように、ただ自分を否定しているわけじゃない。

 

 悔しそうに唇を噛み、必死に顔を上げようとしていた。

 

 部長はそんなギャスパーに優しく微笑む。

 

「バカなことを言わないで。私はあなたを見捨てないわよ? あなたを眷属に転生させたとき、言ったわよね? 生まれ変わった以上は私のために生き、そして自分が満足できる生き方も見つけなさい――と」

 

「……覚えています。でも、僕……」

 

「あなたは私の下僕で眷属なの。私はそう簡単に見捨てない。やっとあなたを解放させることができたのに!」

 

「そうだぞ、ギャスパー! 俺と部長はお前を見捨てないからな!」

 

 そうさ! 俺の後輩!

 

 神器がうまく使えなくても受け止めて――

 

 ……いや、それだけじゃない。

 

 俺はこいつと約束したんだ。

 

 何度失敗したって、一緒に練習してやるってな!

 

「この前も言っただろ! 何度失敗したって、俺たちが練習に付き合ってやるからさ!」

 

「……イッセー先輩……!」

 

 ガンッ!

 

 俺の目の前でギャスパーが女の魔術師に殴られる。

 

 ……っ!?

 

 魔術師はギャスパーの髪をつかみ、冷笑を浮かべていた。

 

 こいつら、俺の後輩に何しやがる!!

 

「愚かね、あなたたち。こんな危なっかしいハーフヴァンパイアを普通に使うなんてバカげているわ。旧魔王派の言う通りね。グレモリー一族は情愛が深くて力に溢れている割には頭が悪いって」

 

 魔術師は部長を侮蔑的な視線で見ていた。

 

「さっさとこんなヴァンパイアを洗脳して、道具として有効的に使えばもっともっと評価を得ていたのではないかしら? 敵対している堕天使の領域にこの子を放り込んで神器を暴走させれば、幹部の一人でも退けたかもしれないわ。それをしないのは何? もしかして、仲良しこよしで下僕を扱う気なの?」

 

「こ、この――」

 

 あまりの暴言に殴りかかろうとするが、部長は俺を手で制止する。

 

 ……っ!

 

 そうだ、落ち着け。

 

 今ここで飛び込めば、ギャスパーを巻き込むかもしれない。

 

 魔術師たちの位置、ギャスパーを拘束する縄と術式、それに女の手元――

 

 ……周りを見ろ、だったな。

 

 頭に血が上りかけたのを、どうにか抑える。

 

「どうしてですか、部長! こいつ、部長のことを何も理解していないくせに悪いことばっかり言っているんですよ! 俺は許せない! いくら女でも言っていいことと悪いことがある!」

 

「イッセー、ありがとう。でも、私は大丈夫よ」

 

 部長は落ち着いた声で答えた。

 

「私は……自分の下僕を大切にするわ」

 

 その言葉は、どんな罵倒よりもはっきりとした返答だった。

 

 ヒュッ! ボン!

 

 魔術師が小さな魔力の弾を部長に放つ!

 

 だが、弾が部長の身体に触れる直前――

 

 ジュッ!

 

 魔力弾が紅い光に呑み込まれ、跡形もなく消え去った。

 

 ……おおっ!

 

 部長の身体の一部を、滅びの魔力が薄く覆っている。

 

 以前から修行で見せていた、滅びの魔力を局所的に纏う防御だ!

 

 当然、部長は無傷。制服にも傷一つついていない。

 

「生意気な口ね。それに悪魔のクセに美しいのも気に入らないわ、グレモリーの娘」

 

 女魔術師の嫉妬にまみれた言葉。

 

 魔術師はギャスパーの首もとに刃を突きつける。

 

「動くとこの子が死ぬわ。ちょっと遊びましょうよ」

 

 魔術師は手を突きだし、さらに魔術を放とうとしている!

 

 部長は避ける気配を見せない!

 

 ……っ!

 

 狙いは部長の顔か!

 

 魔力の弾が再び放たれる瞬間、俺は部長の前に立ち、盾となる!

 

 ボンッ!

 

 首よりちょい下の部分に弾が当たった。

 

 ……痛い!

 

 けど、これぐらいなら!

 

 ハクとの修行で何度も攻撃を受けてきたんだ。こんなところで怯んでたまるか!

 

 つーか、この位置! 部長の顔を狙ったな!?

 

 ゆ、許せない! 部長のお顔を狙うなんて!

 

 怒り心頭の俺だが、部長は後ろから出てきてギャスパーに優しく語りかける。

 

「ギャスパー、私にいっぱい迷惑をかけてちょうだい。私は何度も何度もあなたを叱ってあげる! 慰めてあげる! ――決してあなたを放さないわ!」

 

「――っ! ぶ、部長!」

 

 ……ああ、やっぱり俺たちの部長は最高だぜ!

 

 ただ甘やかすだけじゃない。

 

 できないことは一緒に考えて、間違えたら叱ってくれる。

 

 そんな部長だから、俺もギャスパーもついていきたいんだ。

 

「さあ、ギャスパー! 部長にここまで言わせたんだ! お前はどう答える!?」

 

「ぶ、部長……僕は……!」

 

 ギャスパーの瞳から涙がこぼれた。

 

 だが、それは恐れからでも悲しみからでもない。

 

 ――嬉しくて泣いていることに俺だって気づいた。

 

「……帰りたいです……!」

 

 ギャスパーが顔を上げた。

 

「……僕も、みんなと一緒に帰りたいです!」

 

 よし。

 

 よし!

 

 ならよ、ギャスパー。

 

 あとは俺からの気合いのプレゼントだ。

 

「ギャスパァァァァァァァァァァァァッ!」

 

 俺は室内に響き渡る大声を張り上げる!

 

 ギャスパー!

 

 俺の想い! 言葉にして魂にまで届けさせてやるぜッ!

 

「逃げるなッ! 恐れるなッ! 俺も! 部長も! 朱乃も! アーシアも! 祐斗も! 白音ちゃんも! ゼノヴィアも! ハクも! クオンも! 黒歌も! 葵も! 皆、お前の仲間だ! 絶対にお前を見捨てないッ! 仲間外れなんかにしないぞォォォォォォォォッ!」

 

 左腕を高く掲げる!

 

 発動しやがれ、俺の神器!

 

「ブーステッド・ギアー!」

 

『Boost』

 

 俺の左腕に赤い籠手が装着される。

 

 ついでにプロモーション!

 

「部長! 女王(クイーン)に昇格(プロモーション)します!」

 

 部長が頷き、俺の力が底上げされる!

 

 さらにもう一丁!

 

「アスカロン!」

 

『Blade』

 

 新たな音声と共に、神器の甲から伸びたのは、俺の新武器アスカロン!

 

 女魔術師たちが俺を警戒する。

 

 だが、俺は剣の切っ先を敵から自分の手元へ。

 

 ザシュ

 

 剣の力を一時的に抑えて、刃で右の掌を自ら斬った。

 

 ……痛い。

 

 けど!

 

 右手から血が流れ出る。

 

「イッセー……?」

 

 俺の行動を怪訝そうに見ている部長。

 

 安心してください。

 

 これはギャスパーへのプレゼントです!

 

「だけどな、ギャスパー! 誰かに助けてもらうだけじゃなくて、自分から立たなくちゃ始まらないんだぜ?」

 

 ギャスパーが顔を上げた。

 

「俺たちはお前の味方だ! だから今度は、お前自身の力を見せてみろ!」

 

 左腕を突きだすと、俺の血のついたアスカロンがギャスパーのほうへ伸びていった!

 

 魔術師たちが反応するよりも早く、アスカロンについた血はギャスパーの口に付着する。

 

「――飲めよ。最強のドラゴンを宿しているとかいう俺の血だ。それで男を見せてみろッ!」

 

 俺の言葉にギャスパーは強い眼差しで頷いた。

 

 ギャスパーが舌で口元についた俺の血を舐め取る。

 

 ギャスパーが俺の血を口にした瞬間、この室内の空気が一気に様変わりした。

 

 不気味で言い知れない悪寒が俺の全身を駆け巡った。

 

 椅子に繋がれたギャスパーへ目を向けたとき――

 

 いない!

 

 ギャスパーが椅子に座っていない!?

 

 消えた!?

 

 椅子に残っているのはギャスパーを繋いでいた縄だけだ。

 

 女魔術師たちもギャスパーが突然消えたことに驚き、辺りを見渡す。

 

 室内全域に視線を巡らせると――

 

 チチチチチ

 

 不気味な鳴き声が聞こえてくる。

 

 部室の天井近くを無数のコウモリが飛んでいた。

 

 赤い瞳をしたコウモリの群れは一斉に女魔術師たちに襲いかかる。

 

「クッ! 変化したのか、吸血鬼め!」

 

「おのれ!」

 

 毒づく彼女たちは手をコウモリに向けて、魔術の弾を撃ちだそうとするが、足元から何かに引っ張られ、体勢を大きく崩した。

 

 ――女魔術師たちの影から黒い手が無数に伸びている!

 

 影から出てきた手は、彼女たちを影の中へ引っ張ろうとしていた。

 

「吸血鬼の能力か!」

 

「くらえ!」

 

 ドンッ!

 

 影へ魔術の弾を撃ちだすが、影の手は何事もなく霧散するだけだ。

 

 その間にもコウモリは魔術師の体を包み込んで、各部位を噛んだ。

 

「血を――吸うつもりか!?」

 

「いや、私たちの魔力も吸いだしているぞ!」

 

 苦戦をしている魔術師たち。

 

 コウモリと影から伸びる手になすがままにされていた。

 

 これって――

 

 ギャスパー?

 

 ギャスパーのヴァンパイアとしての力か?

 

「イッセー、あれが本来ギャスパーが秘めていた力の一部よ。あなたの血を飲んだことで、解放されたのね」

 

 と、部長が言う。

 

 そっか、やっぱり、あれはギャスパーの力!

 

「くっ! ならば、こうするだけよ!」

 

 魔術師たちが手の照準をこちらへ向ける!

 

 俺と部長を狙うつもりか!

 

 ドシュッ!

 

 撃ちだされた無数の魔術の弾が俺と部長を狙うが――

 

 それら全部が、空中で停止した。

 

 これはっ!

 

「無駄ですよ。あなたたちの動き、攻撃はすべて僕が見ています」

 

 室内に響き渡るギャスパーの声。

 

 コウモリの赤い瞳がランランと輝いていた。

 

 そうか、コウモリの視線から神器を発動しているのか!

 

 しかも魔術の弾だけをものの見事に停止させている!

 

 俺の血を飲んだ影響か、神器を使いこなしているぞ!

 

「僕はあなたたちを止めます!」

 

 カッ!

 

 無数のコウモリが赤い瞳を光らせ、この部屋にいるすべての女魔術師の時間を停止させてしまった。

 

「イッセー先輩! 今です!」

 

「任せろ!」

 

 俺は駆けだし、動きを止めた魔術師どもに近づいていく!

 

 ……さて。

 

 こいつらが動けない今なら、簡単にできることがある。

 

 俺は一人目の魔術師の身体に掌を当て、仙術で氣を送り込んだ。

 

 そして、その身体を巡る氣の流れを乱してやる。

 

 ……よし!

 

 続けて、ほかの魔術師たちにも同じ処置を施していく。

 

 ハクとの修行で散々叩き込まれた仙術だ。この程度の氣の操作なら、今の俺には難しくない。

 

 ……よし、これで全員だ!

 

 身体を巡る氣を乱された以上、時間停止が解除されても、すぐにはまともに動けないはずだ。

 

「部長!」

 

「ええ!」

 

 部長が拘束術式を展開し、女魔術師たちをまとめて縛り上げた。

 

 これで、さらに安心だな!

 

「ギャスパー、俺たちが組めば無敵だな!」

 

「はい!」

 

 後輩が相手の時間を止め、先輩が仙術で動きを封じる。

 

 ……うん!

 

 なかなかいい連携じゃないか!

 

 ペチッ

 

「調子に乗らないの」

 

 部長が呆れたように、俺の頭を小突いた。

 

「いてっ!」

 

 ……いやぁ、褒めてもらえると思ったんだけどなぁ。

 

 もっとも、部長も笑っていたから、悪い気はしなかった。

 

 俺たちは、拘束された女魔術師たちを確認していた。

 

「部長、こいつらはどうします?」

 

「冥界の役所へ送りましょう。このまま放置するわけにはいかないもの」

 

「分かりました!」

 

 部長が女魔術師たちの拘束を確認し、足元に転移用の魔法陣を展開する。

 

 ……そういや、転移妨害がかかっていたのは会談室だけだったな。

 

 ここなら普通に転移できるわけか。

 

 魔法陣が光を放ち、拘束された女魔術師たちが次々と姿を消していく。

 

 ……よし!

 

 これで、ひとまずこいつらは片付いたな。

 

 コウモリの群れと影の手が消え、元の姿に戻ったギャスパーが近づいてきた。

 

 そうだ、アザゼルのおっさんから預かっていたものがあったな。

 

「ギャスパー、これを渡しておくぞ」

 

 俺はおっさんから預かった制御腕輪を取り出す。

 

「神器の力をある程度抑えるための道具だってさ。万能じゃないらしいけど、役に立つかもしれないぞ」

 

「あ、ありがとうございます、イッセー先輩!」

 

 ギャスパーが腕輪を受け取り、手首に装着する。

 

 これで神器の暴走も、ある程度は抑えられるだろう。

 

「先輩、手はだいじょうぶですか?」

 

「ああ、このぐらいのケガは慣れっこだ。小さい頃からハクの家の道場で散々鍛えられてきたからな。これぐらいどうってことねぇよ」

 

「うええええええっ! ほ、本当ですか……? せ、先輩はバイオレンスですね……」

 

 そ、そうなのかな?

 

 思えば、小さい頃からハクたちと修行してきたし、悪魔になってからは実戦も増えた。

 

 意外に俺って危ない日々を送っているのかな?

 

 うう、気のせい気のせい。そういうことは深く考えないようにしよう!

 

「俺の血を飲んで、どうだ?」

 

「はい、一時的に力が底から湧き上がりましたけど……いまはもとの状態に戻ってます」

 

 そっか。制限時間付きか。それでも俺の血を飲ませれば十分なほどの戦力になるぞ。

 

「さて、イッセー、ギャスパー! 魔王さまのもとへ帰るわよー!」

 

「はい!」

 

 と、部長。お疲れさまです!

 

 俺とギャスパーは返事をして、部長のあとに続く。

 

 部室を出て、旧校舎の玄関口まで移動する。

 

 ……その間、ギャスパーは俺の背中に引っ付いたままだったけど。

 

 ……どうにも俺の背中に隠れる子が多いな。アーシアといい、こいつといい。とりあえず、こいつの引きこもり体質も直していかないと。

 

 ドッガァァァァァァァァンッ!

 

 俺たちの目の前に何かが吹っ飛んできた!

 

 立ちこめる土煙が消えたあと、そこにいたのは――

 

「……ヴァーリ、挨拶にしては少々手荒ではないか」

 

 オシュトルだった。

 

「オ、オシュトル!?」

 

 仮面や衣装に土埃が付いているものの、ケガをしている様子はない。

 

 ……いや、待て!

 

 あのオシュトルが、こんなところまで吹っ飛ばされてきたのか!?

 

 ……ん?

 

 オシュトルの右手に握られている剣を見て、俺は思わず目を見開いた。

 

 白銀の刀身に、青と金の装飾が施された柄、そして鍔に近い刀身の根元には、何かが欠け落ちたような空白がある。

 

 ……何だ、あの聖剣!?

 

 今まで見てきた聖剣とは形が違う。それに、この聖なる力……!

 

「……っ! イッセー、あの聖剣……!」

 

 部長も気づいたようだ。剣を見つめる部長の表情が強張っている。

 

「ひぃっ!? イ、イッセー先輩! あ、あの剣、何ですかぁ!?」

 

 ギャスパーが俺の背中に隠れながら悲鳴を上げた。

 

 ……無理もない。

 

 俺だって、あの剣から感じる聖気に冷や汗が出ている。

 

 聖剣が悪魔にとって危険なものだってことは、もちろん知っている。だけど、あの剣は何かが違う!

 

 今は刀身に力が収まっているようだが、それでも本能的に危険だと分かる。

 

 ……おいおい!

 

 いったい何を持ってるんだよ、オシュトル!?

 

 部長も警戒したまま、オシュトルの右手から目を離さない。

 

 けど、当の本人は何事もなかったかのように立ち上がり、衣装の土埃を払っていた。

 

 ……いや、あいつは昔からそうだけどさ!

 

 そんなものを握って平然としてるなよ!

 

「そうだよ、オシュトル」

 

 まばゆい輝きを放ちながら、俺たちの前に白龍皇(バニシング・ドラゴン)が舞い降りる。

 

 その傍らには知らないお姉さんもいた。

 

 そして――

 

「ヴァーリ!」

 

 別の方向から、黒い翼を広げた人影が飛んできた!

 

 アザゼルのおっさんだ!

 

「おっさん!?」

 

「結界はサーゼクスとミカエルに任せてきた……チッ、ヴァーリ!」

 

 おっさんは俺たちの近くへ降り立つと、ヴァーリを睨みつけた。

 

 オシュトルも白龍皇(バニシング・ドラゴン)へ顔を向けている。

 

 ……どうなってんだ、これ!?

 

 俺はヴァーリの隣にいる女へ視線を向けた。

 

 ……ん?

 

 なんだ、この女。

 

 纏っている魔力もそうだが、何よりあの視線……。

 

 ヴァーリと一緒に現れたってことは……まさか、この女も敵か?

 

「和平が決まった瞬間、拉致したハーフヴァンパイアの神器を発動させる手筈でした。頃合いを見てから私と共に白龍皇(バニシング・ドラゴン)が暴れる。三大勢力のトップの二人でも対処しきれなければそれで良し。会談を壊せればそれで良かったのです」

 

 ……やっぱり敵じゃねぇか!

 

 こいつ、ギャスパーを利用したことを何とも思ってねぇのかよ!

 

「……左様か、ギャスパーを利用し、和平の席を踏みにじろうとしたのは貴殿らであったか」

 

 オシュトルが静かに口を開いた。

 

「何か問題でも? 新たな世界を築くためには、必要なことです」

 

「……なるほど、己の理想のためであれば、他者を犠牲にすることも厭わぬと」

 

 オシュトルの声は落ち着いている。

 

 けど……あれ、絶対に怒ってるだろ。

 

「……随分と警戒されているようね。――その子が赤龍帝(ウェルシュ・ドラゴン)なのですか、ヴァーリ?」

 

「ああ、残念ながら、そうだよ。本当に残念な宿主なんだ」

 

「残念残念言うな! 俺だって懸命に日々を生きてんだ! ……って、ヴァーリ! お前、あの女の味方なのか!? なんでアザゼルやオシュトルと対峙してんだよ! つーか、その姉ちゃん誰だ!?」

 

 俺を哀れむような目で見ていたお姉さんが、眉をひそめた。

 

「……カテレア・レヴィアタンよ。旧魔王レヴィアタンの血を継ぐ者です。覚えておきなさい」

 

 ……カテレア・レヴィアタン?

 

 レヴィアタンって、セラフォルー様の魔王名じゃなかったか!?

 

『相棒。旧魔王の血筋と、現在の魔王は別だ』

 

 ……そういうことか、ドライグ!

 

 にしたって、そんな大物が襲撃に加わってるのかよ!?

 

「なるほどね。本当に残念な子みたいね。ヴァーリ、殺すの?」

 

「どうしようか迷っているのが本音だ。正直、俺は彼にそこまで期待をかけているわけじゃないんだ」

 

「……ヴァーリ、お前はいったい何が目的なんだ?」

 

「……まったく、俺もやきが回ったもんだ。身内がこれとはな……」

 

 自嘲するアザゼル。

 

 ……白龍皇(バニシング・ドラゴン)がテロリストに協力しているってことか?

 

 強い奴と戦いたがるのは知っている。だけど、だからって何でこんな連中と一緒にいるんだよ!

 

 ヴァーリがマスクをシュバッと兜へ収納し、顔を見せる。

 

「いつからだ? いつから、そういうことになった?」

 

「コカビエルを本部に連れ帰る途中でオファーを受けたんだ。悪いな、アザゼル。こちらのほうがおもしろそうなんだ」

 

「ヴァーリ、『白い龍(バニシング・ドラゴン)』がオーフィスに降るのか?」

 

「いや、あくまで協力するだけだ。魅力的なオファーをされた。『アースガルズと戦ってみないか?』――こんなことを言われたら、自分の力を試してみたい俺では断れない。アザゼルは、ヴァルハラ――アース神族と戦うことを嫌がるだろう? 戦争嫌いだものな」

 

 ヴァーリはそこで、カテレアへ顔を向けた。

 

「ただ、会談を襲う計画まで聞いていたわけじゃない。俺が渡したのは日時と場所、参加者の情報だけだ。あんたと一緒に暴れるなんて約束はしていないよ」

 

「情報を渡したのは事実でしょう? 今さら何を言っているのです」

 

 カテレアが不愉快そうに答えた。

 

 ……そういうことか。

 

 ヴァーリが情報を漏らしたのは間違いない。けど、カテレアの計画にどこまで加わるつもりだったのかは、まだ分からねぇってことか。

 

「俺はおまえに『強くなれ』と言ったが、『世界を滅ぼす要因だけは作るな』とも言ったはずだ。それに、江留瑠羽(えるるぅ)からも『戦うなら、ちゃんと帰ってこい』と言われていたはずだろうが」

 

「…………」

 

 ヴァーリが一瞬、口を閉ざした。

 

「……覚えている」

 

 短くそう答えたヴァーリへ、オシュトルも声をかける。

 

「……ヴァーリ、某と戦いたいというのであれば、いずれ相手をいたそう。だが、己の望みのために戦乱を広げることは、また別の話であろう」

 

「……ああ」

 

 ヴァーリはそれ以上、何も答えなかった。

 

「……そうかよ。いや、俺は心のどこかでおまえが手元から離れていくのを予想していたのかもしれない。――おまえは出会ったときから今日まで強い者との戦いを求めていたものな」

 

「今回の情報提供は白龍皇(バニシング・ドラゴン)ですからね。彼の本質を理解しておきながら、放置しておくなど、あなたらしくない。結果、自分の首を絞めることとなりましたね」

 

 と、カテレアがアザゼルを嘲笑した。

 

 その言葉に、オシュトルが僅かに首を傾げる。

 

「……情報を与えたことと、この襲撃に加担したことは、同じではあるまい」

 

「……何ですって?」

 

「貴殿の言い方では、全てをヴァーリが仕組んだように聞こえるのでな」

 

 カテレアが不愉快そうに眉をひそめた。

 

 ……確かにな。

 

 情報を渡した責任は重い。でも、それで全部の罪を押し付けていいって話じゃない。

 

 苦笑するアザゼルを尻目に、ヴァーリは自身の胸に手を当て、俺に向かって言う。

 

「俺の本名はヴァーリ。――ヴァーリ・ルシファーだ」

 

「…………な、何? ……ルシファー?」

 

「死んだ先代の魔王ルシファーの血を引く者なんだ。けど、俺は旧魔王の孫である父と人間の母との間に生まれた混血児。――『白い龍(バニシング・ドラゴン)』の神器は半分人間だから手に入れたものだ。偶然だけどな。でも、ルシファーの真の血縁者でもあり、『白い龍(バニシング・ドラゴン)』でもある俺が誕生した。運命、奇跡というものがあるなら、俺のことかもしれない。――なんてな」

 

 そう言うと、奴の背中から光の翼と共に悪魔の翼が幾重にも生えだした。

 

 ――っ!

 

「なっ!? お前、先代ルシファーの血を引いてたのかよ!? しかも、白龍皇(バニシング・ドラゴン)でもあるなんて……!」

 

「嘘よ……そんな……」

 

 部長も驚愕の表情を浮かべている。しかし、アザゼルは肯定した。

 

「事実だ。もし、冗談のような存在がいるとしたら、こいつのことさ。俺が知っているなかでも過去現在、おそらく未来永劫においても最強の白龍皇(バニシング・ドラゴン)になる」

 

 ……白龍皇(バニシング・ドラゴン)が、先代ルシファーの血筋だって?

 

 裏の世界のことはハクから色々教わってきたつもりだけど、そんな話は聞いてねぇぞ!

 

 いや、そりゃハクだって何でも知っているわけじゃないだろうけどさ!

 

 まさか白龍皇(バニシング・ドラゴン)の宿主が、先代魔王の子孫だなんて思わねぇよ!

 

 つーか、朱乃もギャスパーもこいつも、俺の周りにはハーフが多いなぁ。

 

「覚悟を決めてもらいましょうか、アザゼル」

 

 いまだにアザゼルを嘲笑うカテレア。

 

 殺気が凄まじいのは俺でも分かる。

 

「……チッ、先ほど膨れあがったオーラの量、オーフィスの野郎に何をもらった?」

 

 アザゼルの問いかけにカテレアは笑む。

 

「ええ、彼は無限の力を有するドラゴン。世界変革のため、少々力を借りました。あなた方トップとも戦える力を手に入れた。サーゼクスとミカエルを倒すチャンスでもあります。彼らは愚かな総督。あなたもです……ですが何なのですか!? その人間は!?」

 

 カテレアの視線が、オシュトルへ向けられる。

 

「……俺はそうだ。愚かかもな。シェムハザがいなけりゃ、何もできねぇ。ただの神器マニアだ――けどよ、サーゼクスとミカエルはそこまでバカじゃねぇと思うぜ? 少なくともてめぇよりは遥かに優秀だ……オシュトルに関しては知らん」

 

「総督殿!? ……某も同感であるな」

 

 オシュトルが一歩、前へ出た。

 

「少なくとも、サーゼクス殿とミカエル殿は、貴殿のように己の理想のために他者を踏みにじるような方々ではありませぬ」

 

 アザゼルとオシュトルの言葉に、カテレアは顔を歪ませる。

 

「世迷言を! いいでしょう。新世界創造の第一歩として、いまここで殺して差し上げます! まずは邪魔なそこの人間と、堕天使の総督であるあなたを!」

 

 強い殺意を込めて言い放つカテレア。

 

 その視線は、オシュトルとアザゼルのおっさんへ向けられていた。

 

 けど、アザゼルは愉快そうにしているだけだ。その隣で、オシュトルも静かにカテレアを見据えていた。

 

 アザゼルが懐から一本の短剣らしきものを取りだした。

 

「それは――」

 

 訝しげに見ているカテレアへ、アザゼルは短剣の切っ先を向ける。

 

「……神器マニアすぎてな。自分で制作したりすることもある。レプリカ作ったりな。まあ、ほとんどのものが屑でどうしようもないが。神器を開発した神はすごい。俺が唯一、奴を尊敬するところだ――だが、甘い。『神滅具(ロンギヌス)』と『禁手(バランス・ブレイカー)』なんていう神と魔王、世界の均衡を崩せるだけの『バグ』を残したまま死んじまったんだからな。まあ、だからこそ、神器はおもしろいんだけどよ」

 

「安心なさい。新世界で神器なんてものは絶対に作らない。そんなものがなくても世界は機能します。――いずれは北欧のオーディンにも動いてもらい、世界を変動させなくてはなりません」

 

 ニンマリと口の端をつり上げたあと、アザゼルは吐き捨てる。

 

「それを聞いてますますおまえらの目的に反吐が出る思いだ。ヴァルハラ!? アース神族!? 横合いからオーディンに全部かっさらわれるつもりかよ。というよりもな、俺の楽しみを奪う奴は――消えて無くなれ」

 

 そのときだった。

 

「……アザゼル殿」

 

「ん? どうした、オシュトル?」

 

 オシュトルが、アザゼルのおっさんの手にある短剣へ視線を向けた。

 

 その右手には先ほどの聖剣が変わらず握られている。

 

「その短剣、某にお貸しいただけませぬか?」

 

「……は?」

 

 おっさんが間の抜けた声を上げた。

 

 ……え?

 

 短剣を借りる?

 

 この状況で?

 

「お前、これが何か分かって言ってるのか?」

 

「左様、貴殿が作り上げた人工神器であろう?」

 

「……おいおい、相変わらずだな、お前は」

 

 アザゼルのおっさんが苦笑する。

 

「だが、扱えるのか? 普通の武器じゃねぇぞ?」

 

「それは承知しております。されど、今しがた視え(・・)ましてな……」

 

「……視えた、か」

 

 アザゼルのおっさんの表情が、僅かに変わった。

 

「……お前がそう言うなら、無視するわけにもいかねぇな」

 

 おっさんは手元の短剣を一度見つめてから、オシュトルへ差し出した。

 

「……いいぜ、貸してやる」

 

「かたじけない」

 

 オシュトルは聖剣を右手に握ったまま、左手で短剣を受け取った。

 

「ただし、壊すなよ? そいつは俺の研究成果なんだからな」

 

「善処いたそう」

 

「……お前の善処って言葉、信用できねぇんだよなぁ」

 

 ……なんだろう、この二人。こんな状況なのに妙にいつもどおりだ。

 

 オシュトルが短剣を受け取ると、カテレアが不愉快そうに顔を歪めた。

 

「……何を悠長なことをしているのです?」

 

「失礼、少々借り物をしておりましてな」

 

「……私を愚弄するつもりですか!」

 

「そのようなつもりはございませぬ」

 

 そう答えたオシュトルが、短剣を静かに構えた。

 

「……では、参ろうか」

 

 そして――

 

「禁手化(バランス・ブレイク)」

 

 ――カッ!!

 

 短剣から眩い光が放たれた!

 

「なっ!?」

 

 光の中で短剣が幾つもの部品へ分かれ、オシュトルの身体へと組み上がっていく!

 

 黄金の装甲が腕や胸元、肩を覆い、その背からは黄金の骨格に紫色の翼膜を張った龍翼が広がった。

 

 ただし、俺が普段使っている全身鎧とは違う。装甲は必要な部分を中心に配置され、オシュトルの仮面や衣装も見えている。

 

 ……軽鎧?

 

「……おい、待て」

 

 アザゼルのおっさんが、信じられないものを見たように目を見開いていた。

 

「……嘘だろ?」

 

「お、おっさん?」

 

「おい、オシュトル! お前、今、何をした!?」

 

「……何を、と申されましても。貴殿もご覧になられたであろう?」

 

「そういう意味じゃねぇ!!」

 

 おっさんが思わず声を荒らげた。

 

「俺の人工神器が……正規の禁手化(バランス・ブレイク)をしてやがる……!?」

 

 ……え?

 

 正規の禁手化(バランス・ブレイク)?

 

「おっさん、どういうことだよ!?」

 

「あいつがやったのは、無理やり出力を引き上げる擬似的な禁手化(バランス・ブレイク)じゃねぇ! 神器の力が安定してやがる! ……本物だ!」

 

 アザゼルのおっさんは、オシュトルの鎧を食い入るように見つめていた。

 

「……おいおい、マジかよ……俺が作ったもんだぞ……?」

 

 ……その反応、開発者としてどうなんだよ!?

 

 オシュトルは右手に聖剣を握ったまま、黄金と紫の龍翼を大きく広げた。

 

「……おっさん、あれはいったい何の神器なんだ!?」

 

「ああ。『白い龍(バニシング・ドラゴン)』と他のドラゴン系神器を研究して作りだした、俺の傑作人工神器だ。『堕天龍の閃光槍(ダウン・フォール・ドラゴン・スピア)』……だが、あんな禁手化(バランス・ブレイク)は想定してねぇぞ……!」

 

 そんなおっさんをよそに、オシュトルが静かに口を開いた。

 

「――|堕天龍の軽鎧《ダウン・フォール・ドラゴン・アナザー・ライト・アーマー》」

 

 ……堕天龍の軽鎧!?

 

 黄金の軽鎧から感じるドラゴンの波動。それは並じゃない!

 

 俺が今まで感じた中でも、桁違いの力が全身から溢れ出している。

 

 コカビエル戦で見せたオシュトルの力を、さらに上回っているように感じるぞ!

 

 うおおおお! なんか、禁手(バランス・ブレイカー)のバーゲンセールだぜ!

 

 レアな現象じゃなかったっけ!?

 

『相棒。あれは間違いなく正規の禁手(バランス・ブレイカー)だ』

 

 ……やっぱりそうなのか、ドライグ!?

 

『ああ。無理やり力を引き出した暴走ではない。神器そのものが安定し、使用者の力と噛み合っている。あれは本物だ』

 

 人工神器で正規の禁手化(バランス・ブレイク)か!

 

 それにしたって、何をどうやってドラゴンのオーラを発せられるようになったかはわからない。

 

 けど、アザゼルの神器開発はとんでもないな!

 

 ちなみに本来の具現化タイプの神器は所有者が死なない限り、何度壊れても再生できる。

 

 逆に特殊な儀礼方式で神器を奪われたりすると、死んだりすることもあるようだけど。

 

 左腕の籠手の宝玉や禁手(バランス・ブレイカー)状態の鎧に存在する複数の宝玉は機能のひとつでしかなく、破壊されても再生可能だったりする。

 

 対の存在なら、白龍皇(バニシング・ドラゴン)のも同様だろうな。

 

「ハハハ! さすがだな、オシュトルは! やっぱり、すごい!」

 

 ヴァーリが笑う。

 

 強者を目の前にしてこの笑い!

 

 不敵? いや、イカレてる!

 

 アザゼルがヴァーリへ顔を向ける。

 

「ヴァーリ、てめえの相手をしてやりたいところだが……」

 

「総督殿」

 

 オシュトルが静かに声を掛けた。

 

 アザゼルはオシュトルへ視線を向け、苦笑した。

 

「……まあ、オシュトルに止められててな。『赤い龍(ウェルシュ・ドラゴン)』と仲良くやってくれ」

 

 冗談じゃない! こんなのと仲良くしたくありません!

 

 ……って、俺が言うのも何だけど、ヴァーリも俺と仲良くするつもりなんてなさそうだ。

 

「でも、オシュトルと戦ったほうが楽しそうだ」

 

 ヴァーリは楽しげにオシュトルへ視線を向けた。

 

「じゃあ、そうしてくれよ! 俺はライバル対決なんて興味ねぇぞ!」

 

 そんな俺たちのやり取りには構わず、カテレアがオシュトルの鎧を見つめた。

 

「……力を有したドラゴンをベースにしましたね?」

 

 カテレアの問いにアザゼルは肯定する。

 

「ああ。ベースになったのは黄金龍君(ギガンティス・ドラゴン)ファーブニルだ」

 

 ……ファーブニル?

 

『ほう。黄金龍君か。五大龍王の一角だな』

 

 五大龍王!?

 

 ドライグが知っているってことは、相当なドラゴンなんだろう。そんな奴の力を基にした神器まで作ってたのか、おっさん!

 

「龍王の力まで人工神器に利用するとは……。どこまでも忌々しい研究をするものですね」

 

 カテレアが吐き捨てた。

 

「褒め言葉として受け取っておくぜ」

 

「褒めてなどいません!」

 

 黒紫色の魔力が、カテレアの身体から噴き上がった!

 

 ――ゾクッ!

 

 ……っ!

 

 さっきまでとは明らかに違う圧力だった。足元の地面に亀裂が走り、周囲の空気が押し潰されそうに重くなる。

 

「旧魔王レヴィアタンの血を受け継ぐ私を、これ以上愚弄するな!」

 

 オーフィスから力を借りたって話だったけど……まだこれだけの力を隠してたのかよ!

 

「……来るか」

 

 オシュトルが右手の聖剣を構えた。黄金の龍翼が、背後でゆっくりと動く。

 

「お相手しよう」

 

「望むところです!」

 

 ――ドンッ!!

 

 カテレアが地面を蹴った!

 

 一瞬でオシュトルの目前へ踏み込み、黒紫色の魔力を刃のように振るう。

 

 ――ギィィィンッ!!

 

 白銀の聖剣が、その一撃を受け止めた!

 

 続けざまにカテレアの周囲へ幾つもの魔法陣が浮かび、無数の魔力弾が放たれる。

 

 ――ドドドドドッ!!

 

 けど、当たらない!

 

 オシュトルは黄金の龍翼で姿勢を調整しながら、攻撃の隙間を抜けていく。あれだけの弾幕なのに、ほとんど無駄な動きがない。

 

 ……見覚えがある。

 

 昔からハクとの稽古で何度も見てきた、相手の力を読み、僅かな動きで躱す体術だ。

 

「小賢しい!」

 

 カテレアが腕を振り上げた!

 

 オシュトルの頭上へ巨大な魔法陣が現れる。

 

 だが、その瞬間――

 

「そいつは通さねぇよ!」

 

 アザゼルのおっさんが飛び込んだ!

 

 ――バシュゥゥッ!!

 

 光の槍が魔法陣を貫き、発動する直前に破壊した!

 

「おっさん!」

 

「お前らは下がってろ! あいつの狙いは――」

 

 おっさんが言い終えるより早く、カテレアが笑った。

 

「……そこです!」

 

 ――シュルルルッ!!

 

 カテレアの身体から、黒い触手のようなものが飛び出した!

 

 狙いは、アザゼルのおっさんの左腕!

 

「なっ!?」

 

 おっさんが身を捩った。

 

 けど、触手はそれを追うように伸び――

 

 ――ザンッ!!

 

 白銀の閃光が、二人の間を駆け抜けた!

 

「……っ!?」

 

 次の瞬間、黒い触手が真っ二つに斬り裂かれた!

 

 オシュトルだ!

 

 いつの間に!?

 

 アザゼルのおっさんの前へ踏み込み、右手の聖剣で触手を斬り伏せていた!

 

「オシュトル!?」

 

「総督殿、下がっていただきたい」

 

 斬り落とされた触手が地面へ落ち、黒紫色の魔力となって消えていく。

 

 ……あぶねぇ!

 

 今のがアザゼルのおっさんに当たってたら、どうなってたんだ!?

 

「……よくも!」

 

 カテレアが顔を歪めた。

 

「私の術を、いとも容易く……!」

 

「……随分と厄介な術のようだな」

 

 オシュトルは聖剣を構え直した。

 

「されど、届かねば意味はあるまい」

 

「ふざけるなぁっ!!」

 

 カテレアの身体から、さらに黒紫色の魔力が噴き上がった!

 

 ――ドクンッ!!

 

 周囲の空気が震える!

 

 ……っ!

 

 さっきまでとは比べものにならない魔力だ!

 

「あなたも、アザゼルも、まとめて消し去って差し上げます!」

 

「……そうか、ならばこちらも手加減はできぬな」

 

 オシュトルが静かに応じた。

 

 そして、右手の聖剣を僅かに引いた。

 

 ……来る!

 

 あの構えは、ハクとの稽古で何度も見てきた!

 

 ――ダンッ!!

 

 次の瞬間、オシュトルの姿が消えた!

 

「なっ!?」

 

 気付いたときには、既にカテレアの懐へ踏み込んでいた!

 

 右手には白銀の聖剣。

 

 オシュトルが左の掌を開いた!

 

「収束せよ星の息吹」

 

 ――ドンッ!!

 

 掌底が、カテレアの鳩尾へ叩き込まれた!

 

「かっ……!?」

 

 ……っ!

 

 今のは、ただの掌底じゃない!

 

 オシュトルの掌から、カテレアの身体へ何かが流れ込んだ!

 

 ……氣だ!

 

 仙術で、相手の氣の巡りを乱したんだ!

 

 俺もハクとの稽古で何度も経験しているから分かる。あれをまともに受けると、身体の内側から力が抜けるようになる。

 

 カテレアの身体が大きく揺らぎ、黒紫色の魔力が不規則に散った。

 

 そして――

 

 ――ふわっ

 

 俺の足元から、小さな光が一つ浮かび上がった。

 

 ……ん?

 

 続いて、二つ、三つ。

 

 校庭の地面から、銀金色の光の粒が静かに昇り始めていた。

 

「な……何をしたのです!?」

 

 カテレアが歯を食いしばる。

 

「氣の巡りを乱した。魔力を練るにも、少々障りが出ているのではないか?」

 

「ば、馬鹿な……!」

 

 カテレアが魔力を立て直そうとする。

 

 だが、オシュトルは既に次の動きへ移っていた。

 

 右手の聖剣を、左手でも握る。

 

 オシュトルが腰を落とした!

 

「輝ける未来を示せ!」

 

 ――ゴッ!!

 

 両手で握った聖剣の柄頭が、カテレアの身体を下から突き上げた!

 

「がはっ!?」

 

 カテレアが地面から浮き上がる!

 

 ……柄を使った打撃!?

 

 いや、それだけじゃない!

 

 命中した瞬間、柄頭から二度目の仙術が打ち込まれた!

 

 剣が新しい能力を発揮したわけじゃない。オシュトル自身が氣を練り、打撃に乗せたんだ!

 

 最初の掌底で乱れたカテレアの氣が、今の一撃でさらに崩れる。

 

 ――バチバチッ!!

 

 カテレアの身体を覆っていた黒紫色の魔力が、激しく明滅した!

 

 ……効いてる!

 

 さっきまで圧倒的だった魔力が、明らかに弱まっている!

 

 そのとき――

 

 ――ふわぁっ!!

 

 地面から昇る銀金色の光が、一気に増えた!

 

 数十、数百……いや、それ以上!

 

 校庭のあちこちから浮かび上がった光の粒が、夜空へ向かって昇っていく。

 

 ……なんだよ、この光景!

 

「……まだ、終わりません!」

 

 カテレアが空中で身を捩り、魔力を集めようとした。

 

 けど、オシュトルは止まらない!

 

 聖剣を右手へ持ち直し――

 

 ――バサァッ!!

 

 背中の黄金の龍翼が、大きく広がった!

 

 紫色の翼膜が夜空へ伸び、オシュトルの身体が一気に上昇する!

 

 カテレアの真下へ潜り込むと、翼で姿勢を整え、身体を後方へ回転させた!

 

 ……サマーソルト!?

 

「勝利は我が手に!」

 

 ――ドガァァァンッ!!

 

 蹴り上げた足が、カテレアを捉えた!

 

「ぐああっ!?」

 

 カテレアの身体が、凄まじい勢いでさらに上空へ弾き飛ばされる!

 

 その一撃にも仙術が重ねられていた。

 

 三度目の氣が流れ込み、かろうじて保たれていたカテレアの氣の巡りを打ち崩す!

 

 ――バヂィィッ!!

 

 黒紫色の魔力が内側から弾けた!

 

 ……すげぇ!

 

 三度の仙術で、あれだけの魔力を乱しちまったのか!?

 

「ば、馬鹿な……! 私の魔力が……!」

 

 カテレアの叫びが夜空へ響いた。

 

 その瞬間――

 

 ――ゴォォォッ!!

 

 校庭から銀金色の光が一斉に舞い上がった!

 

 数え切れない光の粒が、夜空を埋め尽くしていく!

 

 まるで地上の星々が空へ還っていくみたいだ。

 

「イッセー! あの聖剣の聖気が……!」

 

 部長が息を呑んだ。

 

 俺にも分かる。

 

 あの剣から感じる聖気が、さっきとは比べものにならないほど強くなっている!

 

 ……オシュトル!

 

 あいつ、何をするつもりなんだ!?

 

 オシュトルは空中で身体を翻し、黄金の龍翼で地面へ降下した。

 

 そして――

 

 ――ダンッ!!

 

 着地と同時に、右手の聖剣を天高く掲げた!

 

「――真名解放!」

 

 ――カァァァッ!!

 

 黄金の光が一斉に弾けた!

 

 上空のカテレアの両手両足を囲むように、黄金の障壁が展開された!

 

 四肢をそれぞれ閉じ込めた障壁が、カテレアの身体を空中に固定する!

 

「なっ!? 身体が動かない!?」

 

 カテレアがもがくが、障壁はびくともしない!

 

 同時に俺たちの周囲にも障壁が展開された。校庭の仲間たちも、それぞれ黄金の光に包まれていく!

 

 さらに、会議室のある階の窓の向こうでも、黄金の輝きが広がった!

 

 窓越しに見える人影を囲む幾つもの障壁。会議室の中にいる人たちまで守っているのか!?

 

 その瞬間、夜空を漂っていた銀金色の光が、掲げられた聖剣へ一気に収束する!

 

「擬態・約束されし勝利の剣(ミミック・エクス・カリバー)!!」

 

 ――ゴォォォォォォォォッ!!!

 

 白銀の聖剣から、巨大な銀金色の光の奔流が解き放たれた!!

 

 同時に――

 

 ――ブォォォッ!!

 

 オシュトルの背部ブースターが猛烈な噴射炎を噴き上げる!

 

 黄金の軽鎧が発射の反動を受け止め、ブースターの噴射方向が細かく変わる。

 

 地面には深い亀裂が走っているのに、掲げられた聖剣の切っ先は微動だにしない!

 

 ……あれだけの反動を、全部抑え込んでるのか!?

 

 光の奔流は一直線に夜空へ駆け上がり――

 

 ――ドォォォォォォンッ!!!

 

 カテレアに直撃した!!

 

「いやあああああああっ!!」

 

 悲鳴が轟音へ呑み込まれる!

 

 黒紫色の魔力が聖光の中で砕け、カテレアの姿が消えていく!

 

 命中した銀金色の光はさらに膨れ上がり、地上から天へ、巨大な光の柱を形作った!!

 

「うおおおおおっ!?」

 

 黄金の障壁越しなのに、目を開けていられないほど眩しい!

 

 俺は思わず腕で顔を庇った。あれほど離れているのに、身体の芯まで衝撃が伝わってくる。

 

 ……何だよ、この威力!?

 

 けど、次の瞬間――

 

「……っ! 結界が!」

 

 部長の声に顔を上げた。

 

 学園の上空を覆う巨大な結界、その一点へ銀金色の光柱が激突していた!

 

 ――ドゴォォォォォンッ!!

 

 結界の表面に亀裂が走る!

 

 そして――

 

 ――バキィィィィィンッ!!

 

 その一角が、砕け散った!!

 

「なっ!? 結界に穴が!?」

 

 結界全体が壊れたわけじゃない。

 

 けど、光が突き抜けた場所だけ、ぽっかりと穴が開いている!

 

 光の奔流は、その破口を通って夜空の彼方へ消えていった。

 

 ……やべぇ!

 

 あそこが開いたままだと、学園を守る結界に穴が残っちまう!

 

「……まだ終わってはいない」

 

 オシュトルの声が聞こえた。

 

 黄金の龍翼が輝き、結界の破口へ向かって光を放つ!

 

 ――キィィィンッ!!

 

 穴を覆うように、巨大な黄金の障壁が展開された!

 

 ……あっ、そうか!

 

 結界が修復されるまで、あれで塞ぐつもりなのか!

 

「……おいおい」

 

 アザゼルのおっさんが呆然と声を漏らした。

 

 けど、すぐに結界を見上げ、その表情を引き締める。

 

 破口を覆う黄金の障壁の向こうで、別の光が伸び始めた。

 

 サーゼクス様とミカエル様が、結界の修復に取りかかったんだ!

 

 黄金の障壁が外からの侵入を防いでいる間に、砕けた結界の縁が少しずつ繋がっていく。

 

 オシュトルは聖剣を下ろし、静かにその様子を見守っていた。

 

 肩が僅かに上下している。

 

 さすがに、あれほどの力を使ったあとでは負担もあるんだろう。

 

 それでも障壁は揺らがなかった。

 

 やがて、最後の亀裂が完全に閉じた。

 

「……よし」

 

 オシュトルが小さく頷いた。

 

 結界が完全に修復されたのを見届けたオシュトルが、黄金の障壁を解除する。

 

 破口を塞いでいた光が、粒となって消えていった。

 

 俺たちを守っていた光も、静かに薄れていった。

 

「……ご苦労であった。十分に助けられたぞ」

 

 オシュトルは左手を覆う黄金の装甲へ視線を落とした。

 

「禁手化(バランス・ブレイク)、解除」

 

 ――シュゥゥゥ……

 

 黄金の装甲が光の粒となってほどけ、紫色の翼膜と龍翼も消えていく。

 

 最後に胸元の宝玉が光を放つと、人工神器は元の短剣の姿へ戻り、オシュトルの左手に収まった。

 

 ――ピカッ、ピカッ

 

 ……ん?

 

 短剣の宝玉が明滅している?

 

 そして――

 

『……疲れた』

 

 ……え?

 

 今、誰か喋った!?

 

 声は、オシュトルの持つ人工神器から聞こえてきたような……。

 

「……ファーブニル?」

 

 アザゼルのおっさんが、目を丸くした。

 

 オシュトルが左手の短剣を見下ろす。

 

「……左様か、無理をさせたな」

 

 宝玉がもう一度だけ明滅すると、その光は静かに収まった。

 

 ……なんだろう。

 

 さっきまであんなとんでもない力を発揮していた神器から、随分と疲れた声が聞こえてきたぞ!?

 

 ――しん

 

 さっきまでの轟音が嘘みたいに、辺りが静まり返る。

 

 空には銀金色の光の名残が漂っている。けど、カテレアの姿はどこにもない。

 

 あれほど膨大だった魔力も、完全に消えていた。

 

「……終わった、のか?」

 

 思わず呟く。

 

 オシュトルが静かに答えた。

 

「……うむ、ひとまずは片付いたな」

 

 いつもと変わらない、落ち着いた声。

 

 ……終わった。

 

 本当に、終わっちまったんだ。

 

 旧魔王レヴィアタンの血を引くカテレアを、あいつが倒した。

 

 しかも、借り物の人工神器と、あの見慣れない聖剣を使って!

 

「……おい、オシュトル」

 

 アザゼルのおっさんが歩み寄った。

 

「……総督殿、何か?」

 

「まずは礼を言わせてくれ。おかげで左腕を失わずに済んだ」

 

「無事で何よりだ」

 

「ああ。そこは本当に助かった。……助かったんだがな」

 

 おっさんが、元の短剣に戻った人工神器を指差した。

 

「お前、俺の人工神器で何をやりやがった!?」

 

 ……あ。

 

 やっぱりそこが気になるのか!

 

「……必要な力を借りただけだが」

 

「それで済むかぁっ!!」

 

 おっさんの絶叫が校庭に響き渡った!

 

「正規の禁手化(バランス・ブレイク)だけでも十分おかしいのに、あれだけの障壁を展開して、さらにブースターまで使いやがって!」

 

「……何か問題でも?」

 

「問題しかねぇよ!!」

 

 ……うん。

 

 元気そうで何よりだな、おっさん。

 

 左腕も、ちゃんと残ってるし。

 

「そもそも、あんな細かい制御ができるなんて聞いてねぇぞ! 俺の設計した機能を、一体どう使えばああなるんだ!?」

 

「……さて、某にも説明しづらいな」

 

「開発者に向かって説明しづらいで済ませるな!」

 

 アザゼルのおっさんが頭を抱える。

 

 オシュトルは困ったように首を傾げただけだった。

 

 ……ははっ。

 

 相変わらずだな、この二人。

 

 けど、俺の視線は自然とオシュトルの右手へ向いていた。

 

 あの聖剣――さっきの一撃だけでもとんでもない威力だった。

 

 なのに、刀身の根元にある欠けた部分は、今もそのままだ。

 

 ……もし、あの空白が埋まったら。

 

 どうなるんだよ、あの剣……!?

 

「……ハハッ」

 

 そのとき、頭上から笑い声が聞こえた。

 

 見上げると、白い鎧を纏ったヴァーリが浮かんでいた。

 

 さっきの戦いを見ていたからだろう。口元には、隠しきれない笑みが浮かんでいる。

 

「……すごいな、オシュトル」

 

 ヴァーリが楽しそうに言った。

 

「まさか、あんなものを見せてもらえるとは思わなかったよ」

 

「……そうか」

 

 オシュトルは静かに答えた。

 

「だが、今の一撃を貴公へ向けずに済んだのは、幸いだったと思っている」

 

「ハハッ。君らしいな」

 

 ヴァーリが笑う。

 

 そして、ゆっくりと俺へ顔を向けた。

 

 ……ん?

 

 おいおい。

 

 なんで今度は俺を見るんだ?

 

「……さて、兵藤一誠」

 

「な、何だよ?」

 

「君とは、一度きちんと話してみたいと思っていたんだ」

 

 白い鎧の白龍皇(バニシング・ドラゴン)が、楽しそうに笑った。

 

「同じ二天龍の宿主としてね」

 

 ……おい。

 

 まさか。

 

 カテレアを倒したと思ったら、今度はこいつの番なのか!?




最後までお読みいただき、ありがとうございました!

さて、今回はギャスパー救出から始まり、ヴァーリの正体判明、そしてカテレアとの決着となりました!

ギャスパーも少しずつですが、成長してきましたね!

そして今回の問題児……オシュトルさんです(笑)

いや、アザゼルの人工神器を借りるところまではいいんですよ?

なんで普通に禁手化してるんですかねぇ!?

しかも、正規の禁手化ですよ!?

開発者のアザゼルもびっくりですwww

そして前回、ハクが何気なく抜いた聖剣。

まさかあんな威力を発揮するとは……。

いや、結界に穴を開けちゃダメでしょう!?www

しかも、まだ支配の核が欠けた状態なんですよね……。

完全な状態になったら、一体どうなってしまうのやら(笑)

そして、カテレアとの戦いは終わりましたが、今度はヴァーリがイッセーに興味を示したようで……。

まだまだ騒動は終わりそうにありませんね!

次回もお楽しみに!

いつも読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます!

よろしければ、感想や評価などをいただけると励みになります!

それでは、また次回お会いしましょう!
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