ダンジョンにうちはマダラ、オビトの思想に共感した男がいるのは、間違っているだろうか? 作:レシプロ至上主義者
昔書いたやつをこのまま腐らせるのは惜しいと思って投稿しました。
たぶん続きは書かないと思います(ダンまちが進みすぎてクソ忙しい社会人にはついていけないんじゃあー)。
降りしきる雨に打たれながら男は振り返る。つい先ほどまで自身が所属していたファミリアの本拠である建物を。
雨と薄暗さのせいか、はたまた己の心を埋め尽くす感情故か今まで見る度に誇りを沸き立たせた館は陰鬱な空気を纏い幽霊屋敷を思わせた。
「……俺は」
男の視線は上へ向かい、館の頂点で止まる。
「必ず、夢を成す」
決意を込めた、決別の言葉を吐き出すと男は前へ向き直る。前を見据えるその瞳――写輪眼は薄暗い雨天の元、不気味に輝いていた。
ダンジョン5階層。ファミリアに所属して日が浅い初心者達が訪れる階層。当然現れるモンスターもその多くが初心者が倒せる範囲内である。
だがその日に限ってその範囲から外れた存在が現れた。
「ブモオオオォォォ!!!」
ミノタウロス。牛と人を掛け合わせたようなこの怪物は獣の身体能力と限定的ながら人の知能と技術を持つ。
レベル1ばかりの駆け出し冒険者達では逃げることしか出来ない相手であり、まさしくこの階層で活動している冒険者からしてみれば生きた絶望であった。
「ベル、教えたとおりにやれ。機動力を活かした回避と攻撃を繰り返せ、敵が隙を見せたら術を浴びせろ」
「はい! マダラさん!」
だが何事にも例外はある。白髪と紅瞳という雪兎を連想させる少年、ベル・クラネルは短刀を片手にミノタウロスの周りを縦横無尽に動き回る。
ベルに指示を下すマダラと呼ばれた男は腕を組みながらベルとミノタウロスの戦いを観察する。
ミノタウロスの豪腕から放たれる大ぶりの攻撃を回避し懐に飛び込み、短刀で浅く切りつけそのまま背後に回る。
再び放たれる豪腕の一撃。ベルは大きく跳躍し、ミノタウロスの左肩に着地するとそのままミノタウロスの眼球に短刀を突き立てる。己の視界の半分を奪われ、混乱と苦痛と怒りから荒れ狂う牛人だが、片方の瞳を奪った下手人は既にその場から逃れている。
――現状、手助けはいらんか。
ベルの原作とは比較にならないほどの戦いぶりを見てマダラはそう結論づける。いざとなれば後方にいる上級冒険者が助けてくれるとはいえ、ここまで安定した戦いが出来るのであれば、今回は十分であると。
「ベル、術を使え。今ならお前でも術の発動が間に合う」
「っ! はいっ!」
マダラの指示を受けて素早く――マダラから見れば呆れるほど遅く印を結んでいくベル。そして印を結び終えたベルは頬を大きく膨らませ、術を発動する。
『火遁・豪火球の――!!』
しかしベルの口から火球が吐き出される寸前で金色の風が今まさにベルが炎をもって焼き払おうとしたミノタウロスを斬り飛ばした。
「へ?」
「ヴモ?」
ベルはおろか斬られたミノタウロス本人も唖然とした様子で気の抜けた声を出す。核である魔石を真っ二つにされたミノタウロスが灰となるのを尻目にベルは術を発動直前で止めたまま突っ立ていた。
「大丈夫ですか?」
金の少女から発せられた、印象にそぐわぬ美しくも儚い声音。
その言葉が向けられたベルは、あまりに突然な少女の出現に自分がミノタウロスの血で頭から真っ赤に染まっていることにすら気づかない。
「……大丈夫?」
彼女の言葉が自分に向けられたものだと、ようやく理解したベルは返事をしようとする、が。
「ッ!? ゴホゴホッ!! ゲホッ!!」
術を解除しないまま言葉を発しようとしたことで、それまで口内にため込まれていた火球が暴発。口だけでなく鼻からもまるで煙突のように煙が噴出する。
少女、アイズ・ヴァレンシュタインも突然の異常事態に対処の仕方が分からないらしく、無表情に困惑の色を浮かべて何をするでもなくジッとベルを見つめる。今しがた助けた少年が急に口と鼻から黒煙を吐き出せば仕方ないが。
先ほどの状況とは両者の立場を変えて行われている喜劇を終わらせるべく、一連の事態を見ていたマダラはため息をはきつつ両者の間に切り込む。
「ベル、貴様はとりあえず顔を洗ってこい。説教は帰ってからだ」
「ゴホッゴホッ! ず、ずびばぜん、マダラざん……」
「いいからさっさと行け。おそらく貴様が想像しているよりひどい事になっているぞ」
「はい……」
差し出された水筒と手ぬぐいを手にして離れるベル。実際、彼の顔は涙と鼻水でなかなか愉快なことになっていた。
片方の問題を片付けたマダラはもう片方の問題に向き直る。
「特に助けが必要な状況ではなかったが、一応礼は言っておこう。助かった」
「……うん、その子が無事で良かった」
「では失礼する」
手短に話を済ませ、手ぬぐいで顔を拭いているベルの首根っこを掴んでその場を立ち去る。引っ張ったときにつぶれた蛙のような声が聞こえたが、それを無視して地上への帰還ルートへ足を向ける。
そのとき容赦なく引きずられているベルとアイズの目と目が合う。助けられた少年と助けた少女、2人の視線が交差し――1秒でベルが目をそらした。
助けた少年に避けられた(ように感じた)ことでしょぼくれるアイズは羞恥とは違う理由で紅く染まったベルの顔を見ることはなかった。
バベルから寄り道することなく本拠地(ホーム)へ帰還したヘスティアファミリアの2人は教育の時間に突入していた。
「さて、ベル。先ほどの戦闘について何か言うことはあるか?」
「ごめんなさい」
マダラの問いかけに対し、ベルはダンジョンでの戦闘とマダラ直々の訓練によって鍛えられたステータスをもって土下座を行う。
常人の目にはベルが立っていた次の瞬間には土下座していたようにしか見えないだろう。恩恵を与えられている冒険者だからこそ出来る芸当である。
「俺が聞きたいのは謝罪ではない。俺は先の戦闘、ミノタウロスとの戦いで何か反省すべき点などがなかったかと聞いているんだ」
「ひいっ!? は、はい! えーと……」
答えを間違えたうえ、望んでもいない土下座を見せられたことで不機嫌の度合いが増したマダラに怖じ気づいて情けない悲鳴をあげる。それでも何とかマダラが望んでいるであろう回答をすぐさま用意できるのは、短いながらも(主に訓練で)非常に濃密な時間を過ごしたためか。
「い、印を結ぶのが遅かった事でしょうか? あの早さでは今後下の階層で戦うモンスター相手じゃいい的ですし」
「それもある。が、それはひたすら練習と実践あるのみだ。今回は特には言わん」
「え、えーと……じゃあや、やっぱりアイズ・ヴァレンシュタインさんが助けてくれた後の……」
「そうだ。あの、火遁を自分の口の中で発動するという間抜け極まりない事態を起こしたことについてだ」
「う……」
一番気にしていたことを単刀直入に言われて傷ついたような顔をするベル。
「何故、剣姫がミノタウロスを倒した時点で術を解除しなかった?」
「そ、それはその……なんと言いますか」
「まさか剣姫に見とれていたとは言わんだろうな?」
「うう……」
何とかごまかそうとしていたところで事実を言い当てられて、黙り込んだところへマダラが畳みかけようとした――瞬間本拠地のドア勢いよく開かれる。そしてドアを開けた人物らしき黒い小柄な影がベルに飛びかかった。
「ベルくぅぅぅん! 無事だったかーい!!」
「か、神様ぁ!?」
ベルが神様と呼んだ少女、女神ヘスティアはその豊かな胸部装甲をベルの顔面に押しつけながらツインテールをブンブン振り回す。ベルが先ほどのダンジョンからの帰還時に負けず劣らず赤面しているのにも気づかず、両手両足を使ってベルにしがみつく。
一方、説教を中断させられたマダラは主神の暴走について疑問が生じていた。確かにこの女神は自分たち眷属を愛し、気遣ってくれる神格者であるが、それにしてもこの狂乱ぶりはいささかおかしい。
「君が血まみれで歩いてるって聞いて心配したんだよー!」
「だ、大丈夫です! 顔はマダラさんから貰った水で洗いましたし、どこも怪我はしていません! だから、もう放してください神様ぁ!!」
どうやら自分たちの主神が騒いでる原因は自身にあるらしいことを悟ったマダラは頭痛を堪えるように眉間を揉む。
バベルにあるシャワーを借りて洗っておけば良かったと後悔しても後の祭り。この事態を引き起こした原因が己にあり、なおかつ他に頼れる人物がいない以上、自分の手で解決しなければならない。
そこまで考えたマダラは諦めのため息を吐きつつ、目線で助けを求めてくる、女性に対して全く免疫のない純情兎から未だに騒いでいるロリ巨乳女神を引っぺがす。
「は、放すんだマダラ君! ボクはまだベル君をたんの……じゃなくて、まだ無事を確認してないぞぉー!!!」
「ヘスティア、本音が漏れてるぞ。それにこいつは怪我なんぞしていない」
どうやらヘスティアは過度なスキンシップにうるさいヘスティアファミリア団長であるマダラのお叱りを受けることなくベルに密着できるチャンスだと考えたらしい。少しだけ上がったヘスティアへの評価を再び下げつつ、羽交い締めにして持ち上げる。こうすれば身長の低いヘスティアは一気に行動の選択肢が狭まれる。
「だけど血まみれじゃないか!ここはしっかりボクが隅々まで確認しないと……! ぐふふふふ……!」
「どこぞの絶壁セクハラ女神のような声が出ているぞ? ……それはそうと、いい加減にしておけ。そろそろ他の奴らが帰ってくる頃だ」
「むううぅ~~~」
ヘスティアは不満そうに頬を膨らませるが、さすがにこれ以上ベルと触れ合うのは無理と判断したのか、無駄な抵抗を止めて大人しくなったところで開けっ放しとなっていた扉をくぐってここの住人の1人が入ってくる。
「いま帰りました……って、何ですかこの状況?」
「あ、レフィーヤ君お帰り!」
レフィーヤと呼ばれたエルフの少女は本拠地の中に入った途端、目を丸くする。
まあ後輩の少年が顔を真っ赤にしながらオロオロとしており、自身の所属するファミリアの団長が主神を羽交い締めにしていれば、この反応も仕方がないが。
「レフィーヤか」
「はい、今帰りました団長。それでこの状況はいったい何なんですか?」
マダラは大人しくなったヘスティアを降ろして、部下である山吹色の少女の疑問に答える。
「どうということはない。ただ単に俺がベルを洗い忘れたせいで、ベルが血まみれになったことを耳にしたそこの主神が騒いだだけだ」
「あははは……でもそれなら別に、羽交い締めにすることはなんじゃ……」
「ちなみにヘスティアはどさくさに紛れてベルのあちこちをまさぐろうとしていたらしい」
「すみません、さっきの言葉、撤回してもいいですか?」
「レフィーヤ君!?」
マダラから微妙に誇張された情報を送られたことで視線の温度を一気に下げるレフィーヤと、それに対して慌てて誤解を解こうとするヘスティア。
だが両者が言葉を交わす前に新たな帰還者が現れる。
「ただいま。ほら、べートも」
「……おう」
今度は金と灰、女と男の2人組だ。くすんだ金髪と背中に背負った黒い包みが特徴のレーネ、銀の脚甲と顔の入れ墨が特徴のべート・ローガ。マダラがベルの教育で手が離せない現状、ファミリアの稼ぎの大部分を担う亜人(デミ・ヒューマン)で構成された2つのチームの1組である。
ヘスティアファミリア獣人組の帰還に気がついたヘスティアは主神の威厳――もとよりあるか怪しいそれ――を放り投げて助けを求める。
「レーネ君! べート君! 頼むから助けてくれ! レフィーヤ君がマダラ君に騙されてボクの言葉を聞いてくれないんだ!」
「ああ? 知るかよ、んなこと」
「べート、せめてもうちょっと聞いてあげなよ」
「……ったく、で何があったんだよ?」
主神の頼みをにべもなく切って捨てたべートだが、幼馴染みのレーネの言葉で渋々ながら聞く態勢に入る。
ようやく救いの手が来たと顔を明るくしたヘスティアは事態の詳細を説明する――前にマダラが先に口を開いた。
「そこの主神が帰ってきたばかりのベルにしがみついた挙げ句にあちこち触ろうとしてたから止めただけだ」
「んだよ、いつも通りじゃねぇか」
聞いて損したとばかりにべートはため息と共に自室へ向かおうとする。
ことごとく自身の眷属に手ひどく扱われたヘスティアは怒りをあらわに去りゆくべートの背中に声をかける。
「待つんだべート君! 君は主神(ボク)と派閥団長(マダラ君)、どっちの言葉を信じるんだい!?」
「マダラ」
一言で切って捨てたべートにむがーっ! と声を上げながら飛びかかるヘスティアだが、回し蹴りのカウンターを食らってへぶしっ!? とあっけなくはたき落とされる。
地面に熱烈なキスを交わしたヘスティアは、生まれたての子鹿のように足を震わせながらなんとか立ち上がる――前にその背中を褐色の足によって踏みつけられる。
「ただいまー! って、あれ!? ヘスティアってば、なんでこんなとこにいるの!!?」
「ティ、ティオナ君、まずは足をどけてほしい……」
あっ! ごめーん! と主神を踏みつけたことに反省する様子もないティオナは元気よくヘスティアを起こす。
「……ちょっと、何なのよこの状況?」
「ようやくダンジョンから帰ったと思ったらあたしらは本拠地でも休めないのかい?」
ティオナに遅れて扉をくぐった2人のアマゾネスが混沌とかした本拠地の現状説明を求めてくる。
胸部装甲以外はティオナと瓜二つのティオナと彼女よりも頭一つ分背が高い長身のアマゾネス、セルダス。べート達と対を成すもう1つのチームである。
主力メンバー2人の視線を受けたマダラは心底面倒くさそうに説明する。
「そこの主神がベルに触るために騒いだ、それだけだ」
「ざっくりしすぎじゃない? もうちょっと話す気はないの?」
「レフィーヤから順に帰ってきた奴ら全員に説明してきたから、もう面倒でな。詳しく知りたければベルにでも聞け」
言うべきことは言ったとばかりにマダラは背を向けて夕食の準備に取りかかり始めた。彼と共に食事当番であるレーネとレフィーヤも共にキッチンへ向かう。
ティオネもそれ以上は追求せず、稼いできたヴァリスをファミリアの金庫に納めに向かう。
「ううう……最近、皆がボクのことを軽んじてる気がするよ……」
「軽んじられてるだろう、実際」
独り言に対し、キッチンから容赦なく突きつけられた事実にヘスティアは黙りこくる。顎を引き、プルプル震えて何かを堪えている様子は心配して残ったベルとティオナを怯えさせる。
「か、神様……?」
「ヘ、ヘスティア……?」
眷属2人の声を無視してヘスティアは、両手を天に突き上げ、思いっきり叫んだ。
「があぁぁぁ!! な・ん・で! こんなに、神であるボクを下に見るんだぁーーー!!!」
「「「威厳と能力」」」
女神ヘスティアの魂の叫びは、無情にも自身の眷属であるマダラといつの間にか戻ってきていたべート、ティオネの3人によって叩きつぶされた。
今度こそヘスティアはむっつりと黙りこくり、クッションに顔を埋めてソファに寝っ転がる。ようはふて寝である。
「えーと、どうしましょう……?」
「ほっときな、今は何言っても逆効果だろうからね」
意外な声に振り向くとそこには自室に向かったと思っていたセルダスが拗ねた主神に苦笑していた。
「い、いいんですか? 神様、機嫌悪そうなんですけど?」
「いいんだよ。こういうのは気が収まるのを待って、その後にでも酒飲みながら愚痴聞いてやればいいのさ。下手になんかすると余計にこじれるからね」
ファミリアの姉貴分である彼女はニカッと笑いながらベルの質問に答える。人生経験において圧倒的に負けているベルは、こういうときに彼女との格の違いを感じる。
「まっ、うまいもん食って寝れば機嫌直るさ! おーい、マダラ! そろそろ出来るんだろ! そこの主神さまに持ってってやんなよ!」
「そうだな、ついでにベルに食わせるか」
「おっいいねぇ、そいつぁ機嫌が良くなりそうだ!」
「えっ!? ちょっと待ってください、それってボクが神様にあ、アーンとかするってことじゃあ……?」
「イヤッホーイ!!! 愛してるぜぇ! 2人共ぉ! さあ、ベル君。今すぐこのじゃが丸くんパンをボクに食べさせてくれ! 急いでくれ、マダラ君が気を変える前に、さあ! さあ!! さあ!!!」
「ええええ!!? いや、神様もう機嫌直してるじゃないですか! だからもうだいじょ……って神様ぁぁぁーーーっ!!!?」
神に抱きつかれ、慌てふためく少年の情けない声が、周囲の者達の呆れ声と笑い声と交ざり合い廃教会に響く。
それはいくら世界が変わろうとも、覆る事なき幸福であった。
男はアカリゴケが生み出す頼りない光源を手に地下通路を進む。1M(メルド)先すら見えぬ暗闇でも男の足取りに乱れはない。
やがて、アカリゴケでは十分に照らせない広さをもつ空間に出る。
「ああ――」
その空間に足を踏み入れた瞬間、男の口から無数の感情が籠もった声が漏れる。
男の視線は魅入られたように闇で何も見えないはずの一点へ向けられている。
「前々から何かという曖昧な形でだが存在を感じていた。27階層の戦いで得た知識で、それは確信に変わった」
誰に向けるでもなく、ただただ己の中で生まれた言葉を脳と舌で一切加工することなく紡いでいく。
「会いたかったぞ」
万感の思いを込めて両手を振り上げる。
「――外道魔像」
写輪眼を通して映る暗闇のなか、歪な巨像はそこに佇んでいた。
レーネ、セルダスの口調は完全にオリジナルです(冷や汗)
手元の資料じゃ分かんないんで許してヒヤシンス