ダンジョンにうちはマダラ、オビトの思想に共感した男がいるのは、間違っているだろうか? 作:レシプロ至上主義者
ヘスティアファミリアの朝は早い。
団長であるマダラが早起きなのもあるが、多くの主力メンバーがマダラ同様早起きであるのと、なにより家事全般が当番制であるため、必然的に他の者達もそれに合わせて早起きせざるをえないのだ。
今日の料理当番であるヘスティアとベルはさっそく貯蔵庫にある食材を使って団員全員分の朝食を作り始めたのだが、
「え、え~と、か、神様?」
「………………」
調理はあまり進んでいなかった。
理由としては当番の片割れであり、この派閥の主神でもあるヘスティアが極めて不機嫌であること。第2にそんなヘスティアに怯えたベルの手が止まりがちになっているためであろう。
何故、ヘスティアがお気に入りの眷属であるベルと一緒に作業しているのに、ここまで不機嫌になっているのか?
その原因は遡ること8時間前……。
夕食を食べ終え、ステイタス更新を始めたヘスティアファミリアの面々。当初は団長、副団長が優先されていたが、現在はベルの教育などでステイタス更新の必要性が薄れたため、現状他の団員よりもダンジョンに潜るアマゾネス組と狼人組が優先される。
2組の更新が終わればレフィーヤとベル、最後にマダラの順番である。
「はい、レフィーヤ君の更新は終わり。次はベル君だよ!」
「はーい!」
待ちに待ったステイタス更新。最後は獲物を横取りされたとはいえある程度善戦したことから少しは能力値が伸びるのでは? と期待しているベル。
ベッドの上で横になりながらヘスティアが自身の背中に指を這わせる感触が続くこと10分、女神による眷属強化の儀式が終わりを告げる。
「…………はい、おしまい。これがベル君のステイタスね」
「ありがとうございます! 神様!」
始めた頃とは打って変わって不機嫌さを前面に押し出しているヘスティア。が、ステイタスの用紙に興味が向いているベルはそれに全く気がつかずに食いつくように用紙を見る。
ベル・クラネル
Lv.1
力:H112→121 耐久:I51 器用:G226→242 敏捷:F301→334 魔力:G216→247
《魔法》
【 】
《スキル》
【忍術】
・チャクラを使用可能になる。
・使える術は本人の素質により決定。
・他者に伝授可能。
【
ベルは思わず目をむいた。各能力値が伸びているのだ、それも大幅に。
普通、使い込んでいるもの――ベルならば敏捷などがそれに当たる――はあまり使わない能力より伸びるが、それでも数値の上昇は微々たる物で20、30とポンポン上がったりしない。
それにスキルの欄にある憧憬一途なるスキル。効果が書かれていないためにどのようなものか、ベルには全く想像が付かない。
「あの神さ――」
「――なんだい? ベル君?」
ギンッと音が聞こえそうな眼光が永久凍土の冷気を思わせる声と共にベルを貫く。これに抗えるような胆力をベルは有していない。
「い、いえ何でもありません」
「……そうかい」
ヘスティアはシッシッと野良犬でも追い払うように手を振って退室を促し、弾かれたようにドタドタと上着も着ずにベルは部屋を飛び出る。
「…………何をやっているんだボクは……」
1人となった部屋で嫉妬に任せた八つ当たりに、悔恨を込めたため息をこぼす女神の呟き。
その後、マダラが順番に従い部屋を訪れしばき倒すまで間、ヘスティアは己の行いへの後悔と自己嫌悪でベッドの上で丸まってうめき声を上げていた。
己の愛する眷属、それも好意を寄せている相手を他の女に取られたという思いから来る嫉妬と怒りの炎は、現在も絶賛炎上中である。
ベルへの八つ当たりについては後悔し、反省したヘスティアであるが
――しょうがないだろ。あんな
スキルとは人の強い想いや願い、経験などから生まれるものだ。
つまり憧憬一途というスキルはベルのアイズ・ヴァレンシュタインへの憧憬から生まれたと言うことになる。
そんなもの、主神である以前に女であるヘスティアとしては、認めるわけにはいかなかった。
が、チラチラこちらを伺い、涙目になりながらも朝食の準備を続けるベルを見ているとそういう気持ちも少しは薄れてくる。
「…………ベル君、ここ最近の予定で、空いてる日はあるかい?」
「へっ? えーと、確か怪物祭の日は空いていますけど……?」
それを聞いたヘスティアはにっと笑ってベルに命令する。
「よし! じゃあその日はボクに1日中付き合ってもらうぞ!」
「え!? な、何でですかぁ!?」
「問答無用! 嫌というならこのままずっとこの調子……はマダラ君に怒られそうだから、今日1日は続けさせて貰う!」
「それって選択肢がないじゃないですかぁ!?」
わたふたと慌てふためくベルを見てしてやったり、とほくそ笑むヘスティア。その顔にはもう昨夜に判明した
弱小――というには質的には充実しきった戦力を有しているヘスティアファミリアの朝食。連日団員の多くがダンジョンに潜ったり、どこかに出かけて帰ってこなかったりするなか、比較的団員全員が揃いやすいこの場は派閥会議も兼ねている。
「団長、今日は日用品の補充をしたいんですが」
朝食である輪切りにしたパンに果物を混ぜたヨーグルトをのせたものを行儀良く食べ終えたレフィーヤが早速発言する。
「あっそういえば、石鹸がだめになりそうでした」
「言われてみれば、そろそろかな? ボクも今使っているタオルがだめになりそうだし」
レフィーヤの発言に続いて次々と上がる補充品の名称。聞き漏らしなどを防ぐためにマダラはそれらを1つ1つメモに書いていく。
メモのリストが10を超えたところでマダラは大まかな予定を組み立てた。
「で、あれば俺とベル、それとレフィーヤで補充に行く。それが終わったら、2人共俺とダンジョンで修行だ」
「はっはい!」
「分かりました」
マダラの立てた予定に異を挟む事なく、ベルからは緊張した、レフィーヤからは落ち着いた返事が返ってくる。
「じゃあ、あたしらは今日もダンジョンで稼いでくるかい?」
「ああ、頼む。ついでにクエストをいくつかこなして稼いでくれ。このままだと帳簿が赤くなりそうだからな」
「あいよ、了解。じゃあ数日は潜ってくるよ」
「あっ、ごめん。私、今日から3日くらいお休みしたいんだけどいいかな?」
マダラとセルダスの会話が一区切り付いたところでレーネが声をかける。
「理由は? といってもお前の場合は1つしかないか」
「うん、新しい作品のアイデアが浮かんだから、早速作成に取りかかろうかなって思って。それに今使っている子達の整備もしたいし」
前半は申し訳なさそうに、後半は楽しそうに喋るレーネ。
かつてマダラが教授した戦闘技術、それがいまや彼女の生きがいとなっていた。
「べートは……聞くまでもないか」
「なら、いちいち聞くんじゃねえよ」
ソファーに寝っ転がりながら苛立たしげに答えたべートは飛び起きると、そのまま本拠地を後にする。向かう先はダンジョンであろう。
その後ろ姿を見送ったマダラは団員達に号令をかけた。
「よし、では準備を終え次第出発だ」
少しばかり冷える朝のオラリオを進むヘスティアファミリア買い出し組の3人。
ヘスティアファミリアが贔屓にしている店が開く時間に合わせて出発した3人はそれぞれ買い込んだものを入れるために必要な大型の背負い袋や買い物袋を持っていた。
「ところでこれから行くお店ってどんなところなんですか?」
初めて買い出しに出かけるベルは自身の所属するファミリア行きつけだという店に目をキラキラと輝かせながら前方を歩く2人に質問する。まだ冒険者になって1週間ちょっとの彼はただの買い物も新鮮なようだった。
「俺の知り合いが経営している店だ。規模は小さいが商品の質は良い」
「店主さんもいい人ですよ……無愛想で無口ですけど」
マダラがいつものように淡々と話し、レフィーヤがそれを補足するように苦笑しつつ続けて喋る。
そのまま店についての話が弾んでいき、ベルはますます目を輝かせていく。
「と、着いたぞ」
話しているうちに目的の店に着いた一行。ベルは大通りから脇道にそれたところにある、目の前に小さな店舗を観察する。
建物の大きさそのものはマダラが言っていたとおり、あまり大きくない。
だがやや小さめの建物とそれを彩る美しい木材と植物が見事に合致しており、非常に落ち着いた雰囲気を出している。
妖精の家、という単語が思い浮かんだベルの目に『リュー雑貨店』と女性的な丸い文字が書かれた看板が入り込む。
「ここが……ですか?」
「そうだ。もう店は開いているから入るぞ」
雰囲気に当てられているベルに構わず、マダラはドアを開けて入店する。
カランカランとドアに取り付けられた小さな鐘が静かな店内に響き渡り、店主に来客を知らせる。
「いらっしゃいませ」
入店したマダラたちに綺麗な一礼をするのはこの店の経営者であるエルフ、リュー・リオン。
白のシャツに黒のロングスカートとエプロンという店の雰囲気に合わせた服装の彼女は、来店したのが知人であるマダラだと知っても表情一つ変えず対応する。
「……マダラさんでしたか、今日は何をお求めで?」
「ああ、今日は日用品をな。それと今日は新人を連れてきた。……ベル、挨拶しろ」
「は、はははじめまして!! べべべべ、ベル・クラネルです! よよよ、よろしくお願いします!!」
エルフらしく美形のリューを前に顔を真っ赤にしてどうにか挨拶をする。……脇で2人が片や呆れ、片や苦笑を顔に浮かべているのは気にしないことにした。
「はじめまして、店主のリュー・リオンといいます。どうぞよろしくお願いいたします」
「は、はいぃっ!」
ただの挨拶で、ここまでガチガチになるのかとファミリアの先達2人が呆れを通り越して感心すら覚え始めたところで2人の顔合わせは無事終わる。
「……さて、では必要な物を探すぞ。俺は小道具を見るからレフィーヤは石鹸などの女がよく使う物全般、ベルは荷物持ちだ」
このままベルによるコントを続けられても困るのでマダラはてきぱきと指示を下し、微妙な空気を取り払う。
それに従い2人も与えられた指示に従い仕事をこなしていく。
そこに肉食獣のボスに従う草食獣2匹の姿を幻視出来てしまうのはマダラの言動故か、それとも2人の雰囲気故か、あるいは両方だろう。
「……ん?」
買う物もあらかた揃ってそろそろ会計に行くかどうかというところでベルは店外にいる人物に目が向かう。
濡れ羽色の髪と緋色の瞳を持ち、髪の色とは非対称の真っ白な服を着ており、笹葉状の耳からエルフだと分かる彼女は窓越しに店内……というか明らかにマダラを見ている。
「あの、マダラさん、あの人……」
「ん? ……ああ、フィルヴィスか」
困惑しつつマダラに声をかけると、知り合いらしく納得した様子で店外のフィルヴィスに目を向ける。
「あいつは古い知り合いでな、所属ファミリアこそ別だが、ときどき会って情報交換をしている」
「へえぇぇ~」
いつも通り淡々としたマダラの説明に、雑貨店までの道中と同じように再び目を輝かせるベル。ただし最初の輝きは好奇心と期待から来る物だったのに対し、今度のはエルフの美女の知り合いが2人もいるマダラへの憧れが理由だったが。
「……俺はあいつと話をしてくる。ベル、お前はレフィーヤとここで待っていろ」
「分かりました」
ベルにそう告げるとさっさと店外へ出てフィルヴィスと話し出す。
「団長、買い物終わりましたって、ベル? 団長はどこに?」
「あ、レフィーヤさん。マダラさんは外に」
「……ああ、フィルヴィスさんですか」
ベルの返答を聞いて納得した様子のレフィーヤ。反応からして、レフィーヤも彼女のことを知っているらしい。
「あのフィルヴィスって人……」
どんな人なんですか? と続けようとしたベルの言葉は続くことはなかった。
「いま戻った。買い物は終わったか」
外で会話していたマダラがそのタイミングで戻ってきたからだ。
「はい、団長。リストにあったものは全て購入しました」
「よし、では拠点に荷物を置いたのち、ダンジョンで修行だ。……ではなリューまた来る」
「はい、ありがとうございました」
そのまま流れるように店の外に出て行く2人のあとを慌てて追いかけるベル。拠点に着く頃には、彼の頭にマダラと会話していたエルフの事は残っていなかった。
「奴か、マダラが言っていた子供は」
「ええ、彼がマダラさん自らスカウトした少年です」
客がいなくなった店内にて、カウンターを挟んでエルフ2人が会話する。そこに友好的な雰囲気はないが、両者の様子から敵対関係でもないことが分かる。
「……正直、マダラの奴がスカウトするほどの者とは思えんな。見た限り、何の才能も感じ取れなかった」
「ですが、彼が『何が何でも手に入れなければならない』とまで言った人物です。きっと、彼の計画で、何かしらの重要な役割を担うのでしょう」
「だといいがな」
ふんっと鼻を鳴らして、示し合わせたかのようにお互いに背を向ける。
ドアノブが回り、ドアに取り付けられた鐘の音に紛れるようにして何かが舞い散る音がリューの耳に入る。
振り返ったときにフィルヴィスの姿はなく、ただその痕跡を残すように小さな紙片が数枚、宙を舞っていた。