Fate/Grand Order 【幕間の物語】聖女と天才物理学者   作:banjo-da

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ストックが尽きたので、次から更新頻度が落ちます。暖かく見守って頂けると幸いです。


ミストに潜んだ悪意

 

仮面ライダーローグの氷室幻徳は、仲間達と共に『パンドラパネル』の力を悪用しようと目論むテロリスト『ダウンフォール』との死闘を制し、政治家として多忙な日々を送っていた。

 

国民の為に身を粉にして働く幻徳。彼は久々の休日に恋人の滝川紗羽とデートへ繰り出すが、ランチにしようと入った店のメニューは、何と全品付け合わせの野菜に『ピーマン』を使っている事が発覚する。

 

"お好みで、付け合わせの野菜は無しにする事も可能ですよ"────隣の家族連れの席の、野菜が食べられないという子供へ優しく語り掛ける店員の声。

悪魔の囁きを耳にしてしまった幻徳───可能なら取って欲しい。だが、三十歳越えた男がデートでそれを頼むのは恥ずかしい。究極の選択を前に葛藤する彼に気付かず、無情にも紗羽の指が呼び鈴を鳴らす。

 

迫る決断の瞬間。

その時、幻徳の選択した答えとは────!

 

「いや、やっちゃったよこの人。遂に全く関係無い話ブチ込んで来たよ。しかも御丁寧にピーマンの部分に鉤括弧付けて重要なワード感出してきたよ。ぶっちゃけ死ぬ程どうでも良いからね?」

 

「テメェこのヒゲ野郎!前回色々有っただろーが!オレと戦兎の手に汗握る共闘とか、涙無しには語れないオレの消滅シーンとかよ!?」

 

───黙れ!ピーマンだぞピーマン?何故俺の葛藤が伝わらないッ!

 

「伝わった上でしょーもないつってんだよ!ほら、カルナも何か言ってやって!」

 

「僕に釣られて─────む。出番だったか?」

 

「ほらー、幻さんが余計な尺使うから!インドの大英雄完全に油断して一発ギャグ練習しちゃってたじゃん!───ああもう!本編スタート!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よっ…とぉ。はい、到着でーす。お足元に御注意下さーい。」

 

「あ、ありがとうございます…。何だか…霧が凄いですね。昨日も今朝も快晴だった筈ですが…。」

 

「確かに…だが、今は気にしてる場合じゃない。」

 

城塞の外へと脱出し、人気の無い路地裏へと降り立った二人。濃い霧の中でビルドは変身を解除すると、ジャンヌと共に一旦拠点の宿を目指す。

 

「急ごう、一度戻って情報を洗い出すぞ。モードレッドが教えてくれた貴重な手掛かり…絶対に無駄にはしない。」

 

「はい。魔獣の材料にされた人々…その痕跡を探しましょう。」

 

モードレッドは"行方不明者を調べろ"と言った。魔獣の痕跡を元に戦兎とジャンヌはあの城へと辿り着いたワケだが…彼女の言葉通りなら、魔獣の発生区域以外にも何か手掛かりが見付かるかもしれない。

 

「行方不明者か…俺とした事が見落としてた。相手にはサーヴァントも居る。モードレッドの話が確かなら、死体を処理され魔物にされた犠牲者だって居る筈だ…。」

 

二人は駆け足で路地裏から大通りへと出ると、そのまま人っ子一人居ない(・・・・・・・・)通りを走り抜ける。

悔しさに表情を歪ませた戦兎は。ふと、隣を走っていた筈のジャンヌが足を止めている事に気付いて足を止めた。

 

「……ジャンヌ?」

 

振り返り、訝しげに彼女へ呼び掛ける。

対して、彼女の顔には警戒心が色濃く滲んでいた。

 

「戦兎くん…妙だと思いませんか?」

 

「何がだ?」

 

「私達が城へ向かったのは朝。経過した時間から考えても、未だ昼頃の筈……。」

 

「それが何か─────」

 

首を傾げながら聞き返そうとして、気付く。

着陸した路地裏ならともかく───町の大通りなのに誰一人姿が見当たら無い(・・・・・・・・・・・)

 

「だが、この霧のせいで皆家に帰ったんじゃ…。」

 

「だとしても、大通りなのに誰一人居ないというのは妙ではありませんか?…いえ、人だけじゃない…見て下さい。あれだけ栄えていた通りなのに、何処もかしこもシャッターが降りています。」

 

言われて見れば、霧に紛れて気付かなかったがどの店も完全にシャッターや扉を締め切っている。

念のためビルドフォンで時間を確認するが、未だ正午過ぎ───異様な光景だ。

 

「というか…霧、何か段々濃くなって無いか…?」

 

もし、こんな所で魔獣やサーヴァントからの襲撃を受けたら……その危険性と、町のど真ん中で変身するリスクとを天秤に掛け。

 

「まあ……幸い人も居ないし、この霧のせいで室内からは見えないだろ。」

 

周囲を警戒しつつ、戦兎は腰に付けっぱなしのビルドドライバーへジーニアスボトルを────

 

 

 

「─────それなぁに?」

 

 

 

背筋が凍る。

咄嗟に振り向いた戦兎の視界を、一瞬横切って行く黒い影。影を追う様に元の方向へと視線を戻せば、さっきまで気配すら感じ無かった少女の姿。

 

「子供…?」

 

少女より幼女と言った方が近いだろうか。妙に露出の多い服装だが、この濃霧の中で特に寒がる様子も無い。

戦兎を見詰めるあどけない表情は、何処にでも居る子供そのものだ。

 

─────片手に握った血の付いたナイフを除けば、だが。

 

「ねぇ、これなぁに?」

 

「ッ!?何時の間に……!」

 

異様な光景にフリーズしていた戦兎は、少女の言葉で我に返る。彼女が手にしていたのは、戦兎が持っていた筈のジーニアスボトル。

明らかに異常だ。彼は即座に新たなボトルを取り出すべく、懐へ手を伸ばして───。

 

「あなた、お母さんじゃないよね?

─────じゃあ、殺しちゃおう!」

 

「────戦兎くんッ!逃げて!!彼女はアサシン(・・・・)です!」

 

悲痛な叫びと共に疾走するジャンヌ。

だが、彼女が辿り着くより早く───少女の手にしたナイフが、戦兎の心臓を貫いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────筈だった。

 

 

 

思わず目を瞑った戦兎だったが、待てども何の衝撃も襲って来ない。

恐る恐る目を開くと、目と鼻の先まで迫ったナイフが視界に映った。

 

だが、真に驚くべきはそこではない。

 

目前まで迫るナイフを受け止めている、(ブラッド)の様におぞましい深紅に染まった人形の何か(・・)

まるで人の形をしたスライムとでも形容すべきそれは、血が凝固していくかの如く、段々とその姿を固体へと変えていく。

 

そうして完全に姿を取り戻したそれは、言うなれば宇宙服めいた深紅のパワースーツ。

コブラを模した胸の意匠。エメラルドグリーンのバイザーと、その下に隠れた凶悪そうな目。頭部からは煙突を思わせる一本角が伸び、首回りにはパイプがマフラーの様に巻き付いている。

 

忘れる筈も無い。

たった今戦兎を救ったこの怪人こそ、戦兎達の、大勢の人々の運命を狂わせた張本人。

この姿の名は『ブラッドスターク』。そしてそれを纏う人物こそ───。

 

「エボルト…!?」

 

怪人は受け止めたナイフごと少女を投げ飛ばすと、軽く戦兎の方を一瞥する。

だが、彼は再び少女(アサシン)の方へ視線を戻し、鈍った体を解すかの様に小さく首を鳴らしてみせた。

 

「……あなた…ううん、お前、嫌な感じがする。誰?お母さんじゃないよね?」

 

『───ああ。残念だが、俺はお前の母親じゃあない。"パパ"…って言うなら相手してやっても良いが……いや、美空もいるから娘は間に合ってるな。───前言撤回、うちは定員オーバーだ。』

 

「そっかぁ…じゃ、殺すね?」

 

『どぉーーーぞ御自由に?ま……やれるもんならなぁ!!』

 

刹那───交差する刃と刃。

アサシンの持つナイフと、スタークが手にした工業製品染みた剣(スチームブレード)が火花を散らす。

小柄な体躯で飛び回り、素早く振り抜かれるナイフを、スタークは一つ残らず正確に捌いてみせた。

 

 

『オイオイ、随分とお転婆だなぁ?随分と躾のなってねぇお嬢ちゃんだ!』

 

「わっ……!?」

 

高速で跳び跳ねる彼女の動きにも対応し、着地の瞬間を狙ってスチームブレードを突き出す。アサシンも咄嗟にナイフで防御するが、地に足が着くより先に繰り出された攻撃の勢いは止め切れず、後方へ弾き飛ばされた。

吹っ飛びながらもその勢いを逆に利用し、一旦距離を取るアサシン。

互いの間合いがリセットされ、再び両者が睨み合う。

 

「……やっぱりやな感じ…。お前、嫌い……。」

 

スタークへ飛び掛かろうと構え────否、その動きはブラフ。くるりと身を翻し、彼女は手近な家の屋根へと一瞬で飛び移った。

 

「ッ!?お、おい!?」

 

慌てて追い掛けようとする戦兎とジャンヌを、スタークが片手を伸ばして制す。

 

「お前、次は殺すから!そこのあなたも、ルーラーも!じゃあね!」

 

酷く不機嫌そうに言い残すと、少女はあっと言う間に霧の中へと消えて行った。

 

「───待て!ボトルを返……!?」

 

スタークを押し退け、後を追おうとした戦兎がその場に倒れ込む。

 

「何…だ……?力が…!」

 

「戦兎くん!?」

 

体が動かない。

地に伏せ、そのまま動けずにいる彼を見下ろし、スタークは溜め息混じりに肩を竦めた。

 

『……成程、霧か。この霧自体が強い毒性を持った、あのお嬢ちゃんの宝具ってワケだ…。』

 

呆れ半分に首を振るスターク。彼から戦兎を守るべく、ジャンヌが二人の間に割り込んだ。

 

「貴方は何者です!戦兎くんをどうするつもりですか!?」

 

『オイオイ…今の見て無かったのか?俺はお前達の助っ人に来てやったんだぞ?』

 

「ふざけんな…!大体、なんでお前がここに…!」

 

歯を食い縛り、スタークを睨む戦兎だったが。

限界を迎え───直後、彼は意識を失った。

 

「戦兎くん!しっかり!戦兎くん!!」

 

『ったく…。まあ良い。───ここに居たら、あのガキが戻って来たら厄介だ。ずらかるぞ。』

 

スタークの全身から、赤く禍々しいエネルギーが漏れ出す。そのまま彼は戦兎とジャンヌの手を取り、有無を言わさず一瞬でその場から消え去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────夢を見た。

 

ガスマスクの男達に取り囲まれ、必死に助けを乞う人々。彼等の叫びは誰にも届かず、水槽の中へと押し込まれて異形の怪物へと姿を変える。

 

 

 

 

場面が変わる。

 

怪物や機械仕掛けの兵士達に蹂躙され、平穏な町は激しい戦火に焼かれていく。逃げ惑う人々は涙ながらに赦しを求めた。───そもそも、彼等には何の罪も無いというのに。

 

 

 

 

 

軈てまた風景が切り替わり、幾つもの場面が入れ替わり立ち替わり戦兎の前を流れて行く。

 

───お前だよ桐生戦兎。お前が悪魔の科学者、葛城巧だ。

 

───折角の素晴らしい発明も、結局は戦争の道具でしかないんだから…虚しいよなぁ?

 

───いい加減気付いたらどうだ。桐生戦兎は、地球にとって存在すべき人間では無かったという事に!

 

 

─────お前は、俺に作られた偽りのヒーローだったんだよ!!

 

 

 

 

 

自らを責め立てる者達の姿が消え、気付けば戦兎は見知らぬ土地に居た。

街並みも、そこに集う人々の服装も、現代日本のそれとは異なる。

───彼は気付いた。ここは、ジャンヌの生前の記憶なのだという事に。

 

 

 

再び風景が揺らぎ、訪れたのは戦場のど真ん中。戦兎はその最前線で見知った顔に気付く。

 

『主よ。この身を捧げます───。』

 

彼女は気高く、美しかった。

多くの民を救い、率い、何時だって誰かの為に祈っていた。

 

多くの犠牲を払いながらも、彼女に率いられた民は前を向いて戦場を駆け抜けた。

 

誰よりも神を信じ、誰よりも他人に寄り添い続けた少女は、軈て─────。

 

 

 

 

 

『これより、魔女ジャンヌ・ダルクの処刑を執り行う!』

 

火が放たれる。

誰かの為に戦い続けた少女の、哀しき結末。

目を背けたいのに。止めろと叫びたいのに。

戦兎にはどうする事も出来ない。

 

「………どうして。」

 

けれど、彼女は。

 

「どうしてあんたは……。」

 

最期の瞬間まで、誰よりも気高く在り続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

意識を取り戻した戦兎が最初に見たのは、今朝と同じ天井。

宿に戻って来たのか。力の入らない体に鞭打ち、彼はゆっくりと身を起こした。

 

「────起きたか。」

 

彼の様子に気付いたらしく、男性がベッドの傍へと歩み寄って来る。

 

「……エボルト。」

 

「よっ。久し振りの再会じゃねぇか…そーんな怖い顔すんなよ。」

 

ベージュのジャケットと黒のパンツを着こなした、お洒落な中年男性。スタークとしての姿では無く、石動惣一に擬態したエボルトが、顔を顰めて茶化す。

 

「あんた…どうしてここに居る。」

 

それを無視して彼を精一杯睨み付けるも、エボルトは大して気にした様子も無く肩を竦めた。

 

「何だ、気付いて無かったのか?お前まさか、俺が遺伝子を潜り込ませたのが万丈一人だと思ってたんじゃねぇだろうな。」

 

「何だと…?」

 

エボルトはわざとらしく溜め息を吐いて見せると、椅子に腰掛け置いてあったコーヒーを口にする。

 

「─────不味(マッズ)ッ!?ぺっぺっ…何でだ……?

まあ良い…えーっと、何処まで話したか…あ、そうそう!パンドラタワーでの決戦の後、俺は万丈に遺伝子の一部を潜り込ませた───そこまでは知ってるな?」

 

「……ああ。」

 

無論覚えている。

エボルトが万丈龍我に隠した遺伝子の一部は、彼の兄『キルバス』が地球へやって来た際パンドラボックスの影響で蘇った。

エボルトすらも上回るキルバス打倒の為、彼は一時的に万丈と共闘。その時、戦兎自身も協力して彼を完全に復活させた。

 

「だがそもそも前提として、俺が遺伝子を隠してたのは万丈一人じゃないって話だ。お前の中にも、ほんのちょっぴり忍ばせておいたって事。

───如何にも俺がやりそうな事じゃねぇか?」

 

「お前……!」

 

心底愉快そうな黒い笑みに、戦兎は強く拳を握る。この悪辣な宇宙人は、平気な顔をして自分でそれを言うのだからタチが悪い。

 

「と言っても…お前に潜り込ませたのは、万丈のそれと比べても極僅かだ。加えて、俺の半身と言っても過言じゃない万丈なら兎も角、あくまでお前は"ハザードレベルが高い"だけの赤の他人だ。───だからキルバスにもバレなかったし、あの時は未だ目覚めて無かった。」

 

不味いと知りながらも再度コーヒーを啜り、苦悶に顔を歪めながらエボルトは言う。

 

「僅かながら意識が戻ったのはその後だ。俺の本体、万丈から復活させた方の俺が地球を去った後…お前の中で時間を掛けて力を溜め込んでいった俺は、漸く最低限ブラッドスタークの擬態を作れる程度には力を取り戻した。

───ま…それでもお前達ライダーを全員相手取るには分が悪いし、本体も地球を離れちまったからな。暫くは大人しくしてるつもりだったよ。」

 

「……それが、俺と一緒にこの特異点へと飛ばされて来たってワケか。」

 

「正解!!ホントはこのまま傍観してるつもりだったがな…流石に、お前に死なれちゃあ俺も困る。だからお前達を手伝ってやろう…って話だよ。」

 

忌々しげな戦兎の視線にも、エボルトは涼しい顔を崩さない。

そんな時、入り口の扉が開かれた。

 

「戻りました。どうやら、アサシンの追跡は無いみたいで……」

 

部屋へと戻って来たジャンヌの動きが止まる。

彼女の視線は戦兎へ注がれ─────

 

「ッ!?ちょ、ジャンヌ…!?」

 

「目を覚ましたのですね…!本当に良かった…!!」

 

勢い良く抱き締められ、戦兎は戸惑いを隠せない。少女の温もりに頬が紅潮する一方、さっき見た夢のせいで、彼はどう接して良いのか分からず困惑する。

そんな二人を茶化す様に、エボルトは"ヒュウ"と軽く口笛を吹き。

 

「お熱いねぇ。─────さて。

それじゃ全員揃った所で、話を進めるか。」

 

ドス黒いその本性とは裏腹に、フレンドリーさすら醸し出しながら、彼は軽い調子で宣言した。




───出たなロリショージョ!!

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