Fate/Grand Order 【幕間の物語】聖女と天才物理学者 作:banjo-da
『グッジョブ!』
「チャオ!」
異国情緒溢れる感じで偶に外国語混ぜてるけど、結局お前どの路線で行くつもりだったんだよ!?
ぜってぇ許さねぇ!!
それは、戦兎くんが目を覚ます前の事。
「───どうやら、振り切ったみたいだな。」
突如現れた怪人は、宿へ辿り着くなり日本人らしき男性へと姿を変える。
最初は何が何だか分からず混乱しましたが…すぐに理解した。
彼こそが、戦兎くん達を翻弄し続けた
"
「……助けて頂いた事には感謝します。ですが、貴方は何の目的でここへ?」
警戒心を隠す事無く問う私に、彼は白々しく"傷付いた"と言わんばかりの悲しそうな顔を見せる。
「初対面からそんなツンツンするなよ…別に何もしねぇっての。俺はあんたや戦兎と利害が一致した。さっきも言った通り、助っ人ってワケだ。」
男は戦兎くんを抱えながら、当たり前の様に彼のポケットから鍵を取り出し、私達の部屋へと上がり込む。
そのまま戦兎くんをベッドへ寝かせると、何処で手に入れたのかコーヒー作りの器具を取り出し、部屋の隅で勝手に豆を挽き始めた。
「……戦兎くんから話は聞いてます。貴方は、あのボトルを作ったという宇宙人…エボルトですね。」
「───ああ、知ってるよ。俺はアイツの中に居たからな。俺の正体がバレてる事も、あんたが有名な"聖女ジャンヌ・ダルク"って事もな。」
まるで雑談でもするかの様な気軽さで、エボルトは平然と言い放つ。
そんな彼から戦兎くんを守るべく、私は二人の間に立った。
「……だーかーらー、何もしないっての。俺も信用無いねぇ…。」
「私が…貴方が過去犯した所業を知っていて、信用出来ると思いますか?」
「ま、思わねぇだろうな。───だが、それを言うならあんたの同僚もそうだろ?ちゃーんと聞いてたぜ?"カルデア"…だったか。そこに居る連中は、全員が全員お綺麗な英雄ばかりじゃない。悪党、ゴロツキ、果ては反英雄のバケモンも居るそうじゃねぇか。俺と何が違うってんだよ?」
「論点を逸らさないで下さい。例え貴方の言う通りだとしても、彼等は皆マスターの為に戦っています。
戦兎くんを弄んできた前科持ちの貴方とは違う。」
互いに引かぬ舌戦。平行線を辿る議論の末、エボルトは諦めた様に溜め息を漏らし、両手を挙げ降参の意を示す。
「……わーったよ。力の大半を失った今の俺は、あんたと敵対するつもりは無い。好きにしろ。」
そう言うと彼は作業の手を止め、立ち上がって私をじっと見詰め────
「良い機会だ。戦兎から話は聞いてるだろうが、俺がより詳細にコイツの事教えてやるよ。」
目にも止まらぬ早さで、私の額へ片手を翳してみせた。
「───な…!?」
意識が遠退く。
霊基の中に、自分の知り得ない情報が流れ込んで来る。
「動くなよ…記憶を消すのはお手の物だが、記憶を
せせら笑いながら、酷く愉しそうに彼が言うと同時に。
私の意識はそこで一度途切れた。
◆
『例え悪魔と呼ばれても、科学者としての探求心を抑える事なんて出来ない…。
───覚悟はもう出来ています。』
それは、悪夢の様な光景。
何の罪も無い人々が、得体の知れぬ異物を注入される悪魔の所業。その行く末は死か、或いは人としての姿を奪われるかの二択。
始まりは、純粋な願いの筈だったのに。
父の無念を晴らす。父の残した遺志を受け継ぎ、邪悪な侵略者から地球を守る。
そんな真っ直ぐな願い。だが彼は、気付けば道を踏み外してしまっていた。
『嘗て俺に流れていた血は、燃え盛る野心によって蒸発した。…もう昔の俺は居ない……!』
『今日から俺達は"ファウスト"だ!
何も知らぬ者は、俺達の事を悪魔の所業だと罵るかも知れない…。
だが…例えこの手を血に染めても、俺達はこの国の在るべき姿を作るんだ!
─────俺に力を貸してくれ!』
理想は過激な思想の踏み台となり、彼の大義は欲にまみれた者の掲げる大義に塗り潰された。
それでも───それでも唯一残った使命。
あの地球外生命からこの星を救う。
それすら失えば、最早彼には何一つ残らない。
だと言うのに…そんな信念すら、呆気無い終わりを迎えてしまう。
『佐藤太郎でぇーす!!新薬のバイトに───』
『それじゃ…始めるかぁ。』
策は見抜かれ、ついでの様に無辜の命が奪われ。
そうして一度、彼の全ては空白になる。
───全部が全部、嘘ってワケじゃない。
たまに感動してウルっとしたし、騙して悪いなとも思ったよ。
信じていた者からの裏切り。
───まだわかってないようだな。いいか…?消滅した青羽もお前も、ネビュラガスを注入した時点でもう人間じゃないんだよ。
───だからお前は"兵器を壊した"に過ぎない。
───それに……戦争になった今、遅かれ早かれ味わうことだ。それとも?本気で誰も傷つけないとでも思ってたのか?
───だとしたら、能天気にも程がある。
命を奪ってしまった絶望。
───"ビルド殲滅計画"…始動。
命懸けで救ってきた民衆から向けられる憎悪。
数え切れない程の痛みと絶望に襲われて。
何度も挫け、苦しみ抜いてきた筈なのに。
『お前が作ったのは、スマッシュだけじゃねえだろ!そのベルトを巻いて…大勢の明日を!未来を!希望を!創ってきたんじゃねぇのかよ!』
それでも彼は、何時だって立ち上がって来た。
『誰かの力になりたくて戦ってきたんだろ!誰かを守る為に立ち上がってきたんだろ!それが出来るのは、葛城巧でも佐藤太郎でもねぇ!
─────桐生戦兎だけだろうが!!』
自意識過剰な正義のヒーローとして、彼はどんな時も前に進んで行った。
その胸に抱いた光と共に─────。
◆
「……今の、は…。」
「よっ。どうやら上手くいったみたいだな…礼には及ばない。」
気付けば私は元の部屋へと戻って来ていた
────いや、そもそも私は一歩も動いてはいない。それどころか、何年にも思えた先の景色は、ほんの一瞬の内に私の中を流れたものだったのだろう。
「お察しの通り、今お前が見たのは戦兎の記憶だ。ついでにあいつの知り得ない部分に関しては、俺の知る範囲で補填しといてやったぜ。優しいだろう?」
これまで様々な特異点で、沢山の人間や英霊と出会って来たけれど…ここまで人の敵意を煽るのに長けた者もそうは居ない。私は精一杯の力を込めて彼を睨む。
「そう睨むなよ。にしても───人間ってのは、
つくづく愚かで面白い生き物だよなぁ?俺が作った"桐生戦兎"…或いは"仮面ライダービルド"って偽りの人物像にしがみつくしか無く、どれだけ望まぬ答えが待っていようが、"正義のヒーロー"として振る舞い続ける。まったく…その姿がどれだけ滑稽な事か。」
──────その時、私は初めて他人に敵意を越えた"怒り"の感情を抱いた。
葛城巧という人間の罪は決して軽くは無い。
けれどそこから逃げずに、苦しくても藻掻き続けた彼を嘲る権利など…誰にも有る筈が無い。
「……口を慎みなさい。私は今、彼のサーヴァントです。サーヴァントとして、マスターを侮辱する言動を容認する事は到底出来ません。」
「別にお前さんに許して貰う必要も無いんだが……っと、わーったわーった!ったく、聖女様ってのは随分と人情に厚いモンだなぁ?」
「私は聖女などではありません。主の導きに従って剣を取っただけの小娘です。親しい人を目の前で冒涜されれば、怒りも悲しみも抱きます。」
「やれやれだ…よーく覚えておきますよ。」
おどけた様子で肩を竦める彼に背を向け、私は部屋の扉を開く。
戦兎くんを彼と二人きりにするのは危険だ。然しこの怪物は本当に身勝手で邪悪な存在であるからこそ、寧ろ"手を貸す"という言葉にも嘘は無いだろう。
彼にとっても、戦兎くんという貴重な存在を手放すのは惜しい筈だから。
「……アサシンの追跡が無いか、少し偵察して来ます。彼女の奇襲を受けるより先に感知出来るのは私だけですから。」
「どうぞ?俺としても、今はあのお嬢ちゃんとやり合うのは避けたいからな。ああいうタイプは確実に始末出来る状況下で、一発勝負を仕掛けるに限る。」
ひらひらと手を振って見送るエボルトを無視し、私は部屋の外へ出た。
◆
「……戦兎くん…。」
思えば、ずっと気になっていた。
そう───気になっていたのです。
彼は何故あそこまで、"正義のヒーロー"で在る事にこだわるのか。
この特異点で行動を共にして、単なるお人好しで片付けるには度が過ぎている事には気付いていたけれど…。
私は漸く理解した。
───似ているのだ。あの何処かほっとけない
"
彼女も始まりは"嘘"だった。
ジルの抱いた妄執、怒り、
けれど、彼女は自分の抱く憎悪を受け入れた。
偽りの
その胸に抱く想いは偽物なんかじゃない。
───彼女は自分の生き様で、それを証明すると示したのだ。
"憎悪"と"思い遣り"、"何かを憎んで生き続ける"と"誰かを守る為に戦い続ける"───両者の想いのベクトルこそ両極だが、根底に抱く物は同じなのだ。
「偽りから始まった存在だとしても…それを受け入れ、彼等は本物になった…。」
真実を知ってからは、罪滅ぼしや責任感で動いていた面も有ったのだろう。
だけど───逃げる事無く、その罪と向き合って生きて来た彼の姿は、それだけでは無いと私は思う。
記憶の中で見た、彼に救われた仲間達の姿。
それにこの特異点で、私やあの少女を救おうとした彼は。
───誰が何と言おうと、本物のヒーローだ。
「……戦兎くん…。」
損得より先に、誰かの為にその命を懸けられる。私はそんな彼が心配で…同時に、そんな彼の姿に惹かれている自分に気が付いた。
◆
「さて───それじゃ、情報の共有を始めようか。最初は……って不味ッ!」
戦兎の意識が戻った後、彼と帰還したジャンヌを見渡しながらエボルトが言う。
懲りずにコーヒーを啜る彼に、呆れた様子の戦兎。
「いい加減捨てろよ。てか何であんたが仕切ってんだよ。」
「勿体ねぇだろ…あっちなら兎も角、この世界でそうポンポン豆調達して来てる暇無いんだから。……で、話を戻すとだ。あのガキンチョ…
戦兎の突っ込みを軽く流すと、エボルトはジャンヌへ視線を向ける。
「…彼女の真名は『ジャック・ザ・リッパー』。
私や、あの城で出会ったサーヴァント達と違い、その正体は不明な存在。本来、彼女…というより彼女の根源と成った殺人鬼の伝説は、例えサーヴァントとして召喚された所で大した力は持たない筈です。」
「ジャック・ザ・リッパー…確か1881年に起きた、正体不明の大量殺人鬼だったか。」
「ええ。本来神秘から程遠い近代の英霊、それも英雄や偉人と違って単なる犯罪者。英霊としての格は、それこそモードレッドやカルナと比較すると余りにも弱い。」
「だが、単にマスターを殺っちまうだけならそれでも構わんだろうさ。実際剣士やら狂戦士やら魔術師やらに混ざって暗殺者のクラスが有るのも、そういう戦術を取る輩が居るって事だろ?」
戦兎とジャンヌのやり取りに割り込み、軽い調子でエボルトは言う。
その言葉にジャンヌは渋い顔で頷く。
「その通りです。アサシンは高ランクの気配遮断を持ち、マスターを狩る戦術を取るクラス。……というより、例外的な者以外は基本的にその戦術以外で戦うのは無謀というもの。」
「ま、暗殺者がナイフ片手に剣士や騎兵とやり合おうってのがそもそも無理な話だ。英霊殺しが必須なら話は別だが、そうで無いなら大局を動かすのに充分効果的な策だな。悪くねぇ。」
ククッ、と愉快そうに笑うエボルト。
物言いこそ不愉快だが、嘗て三国を影から手玉に取り、結果的にビルドの世界で国を掌握した彼の言葉は説得力が有った。
「……話を戻すぞ。あの子の正体こそ分かったが、対策を立てるのは相当難しい。それに分からない事も有る。」
サーヴァントともやり合える高位の魔術師なら兎も角、変身していない戦兎には手の打ちようが無い。
まさか敵が何時襲って来るかも分からないのに、常に変身して町を歩くワケにも行かないだろう。
ジャンヌもそれを理解しているのか、困った様子で頭を抱えていた。
「…戦兎くんの言う疑問点ですが、何故今になって私が彼女の正体を打ち明けたのか…ですね?」
「ああ。ただ強いだけの相手なら、戦ってその場で切り抜けるしかないだろうけど…こいつに限っては例外だ。まして、あの霧…切り裂きジャックは
「ええ…その通りです。彼女の保有するスキルに、自身の存在を隠蔽する物が有ります。その結果、彼女達は自分に関する事柄を思い出せなくさせる事が出来る。」
「そんなチート染みた事が───あれ?」
頭を抱えつつ言い掛けた戦兎は気付く。
───少女は、どんな姿をしていた?
武器は何を使っていた?そもそも、本当に少女だったのか?
思い出そうとすればする程、記憶がぼやけていく感覚に襲われる。
「…最悪だ。俺が若年性の認知症とかじゃなきゃ、早速それにやられちまってる…。」
そもそもさっきまでよく覚えていられたものだ。
思わず自嘲気味に力無く苦笑してしまう。
「私は…嘗ての大戦の記録と、カルデアに召喚されてから彼女達と再会した事で、今では問題無くジャックを認識出来ます。それでも、先程遭遇するまでは忘れてしまっていましたが…。」
となるとジャックに対抗出来るのはジャンヌしか居ない。
ただ、サーヴァントの探知能力や、彼等との面識を持つジャンヌと離れて行動する…というのは、正直気が進まないのが本音だ。
彼女も同じ結論に達したのだろう。
だがやむを得ない。手詰まりの状況を打破すべく、二人は顔を見合せる。
「……仕方無い。ここはジャンヌに────」
「お前ら、人を無視して話を進めるなよ。寂しくて思わずウルっときちまうだろ?」
重々しく口を開いた戦兎の言葉に、被せる様な軽薄な声音。
二人してその発言者へ視線を向ければ。
「───だったらアサシンは俺が相手してやるよ。聞き分けの無い娘の相手なら、十年分のキャリアが有るからな。」
漸く空になったカップを苦々しげに見詰めつつ、災厄の化身は軽い調子で言ってのけた。
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唐突に降って来て、セクシースライディングからボディタッチして帰ったあの日の衝撃を、僕たちはきっとこの先も忘れない────。