Fate/Grand Order 【幕間の物語】聖女と天才物理学者   作:banjo-da

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尺の関係で端折った説明、全部エボルトに喋って貰えば良いんじゃないか説。


真実へのカウントダウン

 

「聞こえ無かったか?俺がジャックを片付けてやるって言ったんだ。」

 

退屈そうに告げるエボルトに、どう反応して良いか分からず困惑するジャンヌ。戦兎はというと、神妙な面持ちで何かを考え込んでいる。

 

「……確かに、合理的な案ではある。」

 

「戦兎くん!?」

 

まさか彼に賛同するとは思っていなかったのか、ジャンヌは思わず耳を疑った。

 

「いや…元々あのサーヴァント達は、本来のサーヴァントとは違う。その上スキルで気配を隠せるなら、ジャンヌでも俺やエボルトでも、結局あいつが仕掛けて来るまで発見が困難なのは同じだ。───なら、いっそサーヴァントの枠に収まらないエボルトの方が、相手の不意を突けるかもしれない。」

 

「流石は天才物理学者。状況判断能力は鈍って無いらしいな。」

 

満足げにエボルトは頷く。対する戦兎は心底嫌そうな顔をしていたが。

 

「付け加えるなら、戦兎は今回敵の奇襲を警戒する以前の問題だ。あの霧でやられちまうからな?屋内で大人しく───」

 

「それは出来ない。あの天草って奴は"計画を最終段階に移行する"…と言った。時間が惜しい、ここで時間を無駄にするつもりは無い。」

 

「んな事言ってもだな…お前、さっき何で倒れたのか気付いてるか?毒霧だよ、ど・く。

…まぁ、どっちかと言えば酸の方が近いがな。───だろ?聖女様。」

 

上機嫌な表情から一転、明らかに面倒臭そうなエボルト。彼から話を振られたジャンヌは、どうしたものかと迷った後。小さく目を伏せ、ぽつぽつと語り始めた。

 

「……確かに、あの霧は彼女の宝具です。あれは最大で町全体を覆う事すら可能なもの…加えて人間には極めて有害です。変身後なら兎も角、生身で浴びれば戦兎くんの命の保証は出来ません。」

 

─────『暗黒霧都(ザ・ミスト)』。

産業革命の後の1850年代、ロンドンを襲った膨大な煤煙によって引き起こされた硫酸の霧による大災害を由来とする、広範囲型の結界宝具。

この宝具が発する強酸性のスモッグは呼吸するだけで肺を焼き、目を開くだけで眼球を爛れさせる。魔術師ですら、対策を講じて無ければ魔術の行使すら困難を極め、一般人は時間経過でダメージを負い…数分以内に死亡するというもの。

ビルドに変身していれば幾分かは凌げるだろうが…それも完全では無い。

 

「私達サーヴァントならダメージを負う事は有りませんが、それでもステータスの低下を引き起こす程度の影響は受けます。仮に変身したまま活動したとしても、長時間浴び続けるのは危険です。」

 

「けど、さっきは暫く普通に動けてた。その後体の自由は失ったが…最悪また意識を失う程度で───」

 

「落ち着けよ。矛盾してるぜ?急がなきゃいけないなら、また気絶する可能性有る方が余計リスキーだと思わねぇか?

大体…変身しっぱなしがリスク大きいから、誰か一人が動くって話になったんだろうが。」

 

見知らぬ地ではあるものの、なるべくビルドを衆目に晒したくは無い───というだけの話では無いのだ。

長く変身して活動すれば、それだけ敵に手の内を見せる事に繋がる。

ましてジーニアスでの解毒が不可能な現状。下手に大勢で動いて消耗させられた所を、敵のサーヴァントが加勢に来たら厄介この上無い。となると、単独行動のリスク以上に全滅のリスクを避ける方が賢明だ。

 

「お前は気付いてねぇみたいだから言っとくがな…?あの程度で済んだのは、多分お前の中に俺が居たからだ。───ついでに言えば、認識阻害の宝具が効くのに時間が掛かったのも、俺はその影響だろうと見てる。」

 

自らも毒を操り、地球の何倍も過酷な環境下で破壊活動を行ってきたエボルトだからこその、ジャックの宝具への耐性───真偽は兎も角、その仮説は確かに理に敵っている。

今回ばかりはジャンヌもエボルトに同意を示すが、戦兎としてはどうしても踏ん切りがつかない。

 

「……仮にお前一人で行ったとして、他のサーヴァントの加勢が有ったらどうする。」

 

「その時はその時だ。あの霧の中で消耗した三人纏めて返り討ちにされるより、まだその方が良いと何度も言ってるだろうが。───大体、全員固まって動いて、それこそ奴が警戒して出て来なかったら本末転倒だろ?

それとも何か?お前はジーニアス無しで、常にアサシンを警戒しながら、最大で十騎居ると考えられるサーヴァントどもを相手にするってのか?───だとしたら、能天気にも程がある。」

 

敢えてあの時(・・・)と同じ言葉を使い、容赦無くトラウマを抉るエボルト。反論の余地も無い正論に、戦兎は漸く渋々ながらも首を縦に振った。

 

「……お前の作戦に乗る。だが条件が有る。」

 

「あ?条件だぁ?」

 

訝しげに目を細めるエボルトの前に、戦兎はビルドフォンを掲げて見せる。

 

「俺達が敵のアジトを見付けるまでにジャックを仕留めてくれ。勿論、癪だがお前の意見は正しい…だから闇雲には動かないで、確信を持てたら動く。俺とジャンヌは敵の拠点を突き止めたら向かうから、あんたはそこで俺達と合流する───それが一番時間のロスが少ない。」

 

「……正気かよ?納期も未定だが納期までに仕上げろ、なんて仕事の振り方しやがるとはな…お前の下では絶対働きたく無いぜ。」

 

「こっちこそ、あんたみたいな部下は御免だよ。

───それで、どうするんだ?」

 

暫し睨み合う両者。───結果、先に根負けしたのはエボルトだった。

 

「…OK。だがこっちはジャックを誘き出す時間も必要だからな…条件は、"お前らがやられちまうまでには合流する"…にしてくれ。どっちにしろ、お前に死なれちゃ困るのは本音だからな。なるべく早く駆け付けてやるよ。」

 

「分かった。それで行こう。」

 

二人は握手を交わす。

交わした、が。

───傍で見ていたジャンヌ曰く、"あそこまで腹の探り合いを隠さない握手は初めて見た"らしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

霧に包まれたトゥリファスの町。

人っ子一人居ないその町を、駆け足で行く一人の若い女性。

怯えた様に、しきりに周囲を見渡しながら彼女は走る。

仕方の無い事だろう。ただでさえこのところ、本や映画にしか出てこない様な怪物の目撃情報が相次いでいるのだから。

 

「───お母さん?」

 

不意に、子供の声が聞こえた。

咄嗟に振り向くが、子供どころか人の姿など皆無だ。

 

気味悪くなった彼女は、全速力で通りを駆け抜ける。

角を曲がり、行き着いた先は…。

 

「……!?嘘…こんな所に行き止まりなんて…!?」

 

記憶が確かなら、今の角は別の大通りに突き当たるだけの筈。

慌てて周囲を見回しても、何処もかしこも行き止まりだらけの袋小路。

恐怖のあまり身を震わせながらも、彼女は来た道を引き返そうとして───。

 

「お母さん。何処に行くの?」

 

馬鹿な。有り得ない。

さっきまで目の前に、少女の姿(・・・・)など無かった筈だ。

 

「お母さん!私達、お母さんの中に帰りたいの!

───良いよね?」

 

女性の全身から冷や汗が噴き出て止まらない。

力無くその場にへたりこむ彼女へ、少女は笑顔でナイフを振り下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ、ジャンヌ…思ったんだが、天草四郎ってどんな奴なんだ?」

 

何かを紙に書き出しつつ、片手でビルドフォンを操作しながら戦兎は問う。

 

「どんな…とは?」

 

「あいつの事を知れば、あいつの言う"計画"の手掛かりになるかもしれない。……それに。日本人の俺としては、どーにも奴から感じた印象と、歴史で学んだ天草四郎時貞って偉人の印象が噛み合わないんだよな…。」

 

戦兎の知る天草四郎といえば、弾圧された民衆の為に戦った英雄。彼の起こした反乱は結果的に弾圧されたが、人物像としてはそれこそ"正義のヒーロー"という印象。

スパルタクスと同じ、英雄と呼ぶべき人物だとばかり思っていた───故に、あの悪意の塊と呼んで差し支え無い男とは、どうにも人物像が一致しない。

 

「まあ…歴史とは、後世に伝わったものに過ぎません。後の世に伝わった全てが真実だとは限らない。私自身、"聖女"と呼ばれてはいるものの…他の誰でも無い私は、自分を聖女だと思った事は一度も無いのですから。

───結局の所。英霊と呼ばれる者達は皆、瞬間瞬間を思うがままに駆け抜けて来た者達なのです。」

 

「成程ねぇ…。」

 

確かに葛城巧も、その行いだけを切り取れば悪党だ。記憶を取り戻した戦兎自身、"悪魔の科学者"の名に偽りは無いと思っている。

だが、その裏には父から受け継いだ使命が在った。"エボルトから地球を救う"───戦争の道具にされると予見していながらも、ライダーシステムを作ったのはその為だ。

 

「ただ…。」

 

何処か歯切れ悪く、困惑気味に俯いたジャンヌは言葉を続ける。

 

「彼の本性を知る私でも、あの天草四郎には違和感を感じているのは事実です。」

 

「……どういう事だ?」

 

「天草四郎は、善人か悪人かで単純に測れる人物では無い……それが私の知る彼の姿でした。」

 

人間嫌いだが人類を愛する男。

嘗ての聖杯大戦、ひいてはそこに至るまでの行いを善悪で断じれば、間違い無く悪だろう。

────だが、その根底に抱いた願いそのものは、間違い無く善だった筈だ。

 

「彼は…戦兎くんも知る生前の経験を経て、人間の醜さを心底嫌っていました。───ですが、それでも彼は人類を愛していた。人類の救済を願うべく、聖杯を手中に収めようとした。……その手段も、そこに至るまでのやり方も、決して正しい物ではありません。

───けれど、その根源自体は正しいもの。

彼は、人が皆等しく幸福で在る事を願った。その願いは美しい物だった。……ただ、彼は道筋を間違えた。」

 

「……あの城で見た奴とは、何て言うか印象が結構違うな。」

 

目にした印象だけでは無い。

そんな風に願った人間が、果たしてここまで無辜の民を弄ぶ様な手段を選ぶだろうか。

特異点と化しているとはいえ、ここに住まう人々は皆普通の人間だ。彼等を冒涜する様な、死人からの魔獣生成。そしてその魔獣を人里近くへ放つ行為。

どうにも違和感が残る。

 

「彼は、自分の計画の為なら他人を犠牲にする事自体は厭わない。もし彼の言う"計画"が、大義の為の犠牲を必要とするものならば…今の彼みたいになる可能性はゼロでは無いでしょう。…けれど、正直な所……。」

 

「あいつを見る限り、どうもそんな感じには見えないんだよな…。」

 

こればかりは二人の所感、感情論でしかない。

それだけで、あの天草四郎が異常だと判断するのは無理がある。

 

ただ……何か大切な事を見落としている気がする。

 

「……仮に。奴が天草四郎だとして、人類救済を願うなら聖杯を使えば良くないか?」

 

不意に、単純な事を思い出した。奴がこの特異点を作ったのなら、聖杯を所持している可能性は高い。

率直な意見を求め、ジャンヌへ視線を向ける。

───が。当のジャンヌはそれを否定した。

 

「恐らく、彼が所持しているのは万能の願望器であるそれとは異なる物かと。一言で聖杯と呼んでも、願望器としての機能が失われているものも有りますし。」

 

「てことは…奴は聖杯に頼らずに、自らの願いを叶えようとしてる…?」

 

「或いは───聖杯の機能を十全に引き出す為に、エネルギー源となる魔力を集めようとしているのかもしれません。元々聖杯戦争自体、脱落したサーヴァントを資源に聖杯を起動する儀式ですから。」

 

「エネルギー源……。」

 

奇妙な既視感が戦兎を襲う。

聖杯戦争なんてものは、この特異点へ来るまで知らなかった筈。なのに、彼は何処かで似たような事を経験した様な気がする。

 

「……何か見落としてる?」

 

気付けば手を止め、深く考え込んでしまっていたらしい。手元のビルドフォンから、解析完了を知らせる音が鳴るまで、戦兎はじっと虚空を見詰めていた─────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……お母さん?」

 

妙だ。

 

()は、確かに目の前の女(おかあさん)にナイフを突き立てた筈。なのに、彼女は一滴も血を流さず、へたりこんだその場で身動き一つ見せない。

 

不気味だ。

────なら、もう一度殺さなきゃ。

 

再びナイフを突き立てたようと、彼女の体から刃を抜き取ろうとして────

 

「……フフ…フ、フハハハハ!!成程なぁ!サーヴァント戦ってのは戦兎の中で見ちゃいたが…やっぱり実際に体験してみるのが一番手っ取り早いな!なぁ、お前達もそう思うだろ?」

 

突然狂ったみたいに笑い始めた女が、私達の腕を掴む。幾ら私達がアサシンだからって…サーヴァント相手に一歩も引かない腕力は、どう考えても普通じゃない。

 

「……ッ!離して!!」

 

無理矢理手を振りほどくと、即座に後退して距離を取る。

その間も視線は彼女から離さない。

 

「…いやぁ、実に有意義な経験をさせて貰ったぜ?色々情報くれた、あの聖女様には感謝しねぇといけないな。」

 

楽しそうに笑いながら、女は変な形の銃と、小さな容器を取り出した。

その容器が、私達の嫌いな医者が薬を入れる物みたいで、私達は思わず顔を顰めた。

 

「…何それ。さっきのコレ(・・)みたいだけど、お母さん…ううん、貴女はあいつらの仲間?」

 

そう言って先程奪った変な器を見せれば、女は嬉しそうに手を叩く。

 

「グッジョブ!ちゃーーんと持ってたなぁ!…ま、敵さんがお前と接触する可能性は低いと踏んじゃいたけどよ。

───大方、お前はあの連中が最初に復活させたサーヴァントだろ?だから制御の加減ミスって、お前はほぼ元の状態と変わらねぇ感じになっちまった。焦った天草四郎は、他のサーヴァントにはより強い縛りを課した。…その分、能力が落ちると知っててもな?そして…だ。あいつの元を逃げ出したか、或いは手に余ると廃棄されたかは知らねぇが…お前に関しては、ほっといても勝手に人を殺して魔獣の材料を調達して来てくれるからな。面倒な再調整は止めて、放任した───そんな所だろうさ。」

 

目の前の女が、何を言ってるのかはよく分からない。

でも、多分あいつ(・・・)の話だ。

あいつは嫌い。私達を呼び出したと思ったら、無理矢理命令しようとした。───だからあいつの話をする、この女も嫌い。

 

「貴女、お母さんじゃない。貴女は嫌い。

───だから、殺す。良いでしょ?」

 

「ああ、構わねえよ?出来るならな。」

 

そう言うと、女は手にした容器を銃に嵌め込む。

 

『コブラ!』

 

「……本当は、擬態だからプロセス踏む必要もねぇんだがよ…やっぱりモチベーション変わるだろ?

俺、こだわり派なんだよ。コーヒー作るなら、豆から栽培したくなる程だからな。」

 

変な音の鳴っている銃を構えて、私達に銃口を向ける女。私達はすぐに襲撃出来る様に、投擲用のナイフを取り出そうと────

 

「─────蒸血。」

 

銃口を下げて、地面に向け女が引き金を引く。

そこから出たのは弾丸じゃない。まるで工場の煙突から出たみたいな、黒い煙の塊。

その煙が、女の全身を覆い隠す。

 

『ミストマッチ…!』

 

段々煙が晴れてきて、相手の姿が見えるようになると。

 

『コッ・コ・コブラ…コブラ…!ファイアー!』

 

『────久し振りィ!……でもねぇな。

馴染みが在るのはこっちの声だろ?』

 

そこに居たのは、あの嫌な赤い()だった。

 

 

 

 





ジャンヌ「まあ…歴史とは、後世に伝わったものに過ぎません。後の世に伝わった全てが真実だとは限らない。かの有名な騎士王も女性で、黒くなったり白くなったりスタイル抜群になったり水着になったりライオンになったり宇宙人になったり……」
???「やっぱりお前達の平成って醜くないか?」
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