Fate/Grand Order 【幕間の物語】聖女と天才物理学者 作:banjo-da
広大な草原をアテも無く駆け抜け、どれだけの時間が経過したのだろうか。
幸い空は晴れ渡り、気温も程良い───サーヴァントである私に直接関係はありませんが、生身の人間である戦兎さんには重要な事です。
因みにルーラーとしての知覚能力のおかげで、彼がサーヴァントで無い事は一目瞭然でした。
"駆け抜け"と言った理由は、少し前の出来事が切っ掛け。
最初こそ暫く歩いていたものの、行けども行けども目に入るのは果ての無い草原。"これではキリが無い"と戦兎さんは小さな端末────確かカルデアで"スマートフォン"と呼ばれていたそれに似た物を取り出し、そこに奇妙な
すると───なんと端末が一瞬の内に、バイクへと変形したのです。
「こっちの方が早い。さ、乗って。」
そう言うと彼はバイクに備え付けられた画面から二つヘルメットを取り出し、こちらに差し出してくる。無論、拒む理由も有りません。
そんな出来事を経て、私達は二人乗りしたバイクでこの広い草原を駆け抜けていた。
「にしても、あの旗何処に仕舞ったんだ?手品ってレベルを越えてるぞ…?」
「まあ…色々と。それより戦兎さんこそ。こんな変形するバイクなんて…私、初めて見ました。」
「でしょうね。俺が作ったし。」
さらっと言っていますが、それは途轍もない大発明なのでは?生憎と、出自が出自なので学は有りませんが…そんな私にも、それくらいは分かります。
「戦兎さんは発明家なのですか…?」
「まあ、発明は結構してるな。けど本職は天ッッッ才物理学者……お?レティシア、何か町らしきモン見えてきたぞ?」
いやに"天"と"才"の間を溜めていた戦兎さんでしたが不意に何かに気付いた様に前方を指差します。
私もそちらに視線を向ければ、確かにそこには町らしき建造物の数々が。
未だ距離は有りますが、それでも一先ず安心しました。
────そんな時です。彼がスピードを落とし、バイクをその場に停車させたのは。
「戦兎さん?」
「レティシア、あれ見てみろ。」
彼の指し示す先には、小さな木が数本────いえ。
「木陰に…人が?────!あれは…!」
「ああ、多分あの
彼の言う通り、木の下に見える人影の周辺には、その人を取り囲む数体の人形の魔獣の姿が。
恐らく魔獣から逃げる内に、何時の間にか木の下へと追い込まれてしまったのでしょう。
助けなければ────そう思った時には、私はバイクを降りて駆け出していました。
「ちょ、おいレティシア!?」
「戦兎さんはそこに!危険ですので!」
サーヴァントの自分なら問題有りませんが、生身の彼を巻き込むワケにはいかない。
彼に一方的にそれだけ告げると、私は一目散に魔物目掛けて向かって行った。
「ひっ!」
「危ない!」
サーヴァントとしての脚力で全力疾走したおかげで、何とか間に合った。私は少女らしきその人物と魔獣の間に割り込み、敵の振り下ろした槍を旗で弾き飛ばす。
「ギャッ!?グォォ…!」
ウェアウルフ。これまでの特異点にも出現した、人間同様二足歩行する武装した狼───所謂、狼男と呼ばれる魔獣。
突然湧いて出た敵に対応し切れず、体勢を崩したウェアウルフを私は旗で薙ぎ払う。
彼等の怯んだ隙に、私は少女へと視線を向けた。
「逃げて…と言いたい所ですが、敵は複数。逃げる方が危険ですね…私の後ろから離れないで下さい。」
「は、はい…!」
突然の出来事に彼女も混乱していたみたいですが…何とか堪えて首肯するその姿に、一先ず安堵しました。
私という敵を排除すべく、武器を構え陣形を整えるウェアウルフ達。
彼女を守る。その為に私は旗を構え────。
「よっと!」
「ガァッ!?」
直後、真横から聞こえた獣の悲鳴。
振り向けば、そこには地に伏すウェアウルフと──────。
「戦兎さん!?」
「脇が甘いぞー、脇が。」
どうやら、死角から襲撃して来た敵を彼が蹴り飛ばした様子。
それに救われたのは事実ですが、流石に二人を守りながらというのは難易度が高い。
何とかして二人を逃がさなければ…そんな風に焦る私の肩を、戦兎さんは軽く叩いて笑ってみせました。
「…えーっと、相手は六体か。にしてもアンタ、生身でバケモン相手に向かって行くなんて…根性有るじゃねーか。」
「そんな事言ってる場合ですか!貴方は……!」
「─────"戦う力を持たないから隠れてろ"。だろ?」
言おうとした言葉を先取りし、私の横に彼は並び立つ。
「レティシアが只者じゃないのは分かったよ。けどな?」
彼は不思議な機械を取り出すと、それを腰に当てる。
するとその機械から帯…いえ、ベルトが伸び、彼の腰へと装置が固定された。
「震える女の子ほっといて、その子を守る為に別の女の子一人に戦わせてたんじゃ…俺のヒーロー感が薄れるでしょうが。」
どうしてだろうか。状況は明らかに良くない筈なのに。
何故彼は、穏やかに微笑んでいるのだろう。
そして私は……。
「その子を頼んだぞ。」
「……はい!」
何故、その笑顔は
「さぁ───実験を始めようか。」
先程スマートフォンに取り付けていた物と似た、二つのボトルを取り出す彼。
敵に囲まれているにも関わらずそれを振る姿は、状況を考えれば危険でしかないというのに…何故だか妙な安心感すら覚えてしまう。
そうして振ったボトルを、彼は腰に付けた機械へ嵌め込み。
「変身!」
─────その言葉通り、"変身"してみせた。
◆
「さぁ───実験を始めようか。」
戦兎は二本のボトルを取り出す。
嘗ての敵エボルトが石動惣一の記憶を元に生み出した、地球に存在する様々な物の成分を宿した『フルボトル』。
戦兎が選んだのは、勿論『兎』と『戦車』。
取り出したボトルを振りながら周囲を見渡し、ウェアウルフ達を注意深く観察。
成分が充分に活性化したボトルの蓋を開け、彼はそれを腰に装着した『ビルドドライバー』へと装填した。
『ラビット!』『タンク!』
『ベストマッチ!』
ボトルの成分を叫んだドライバーが待機状態に入った。
待機音声を流すそれに備わったハンドルを握り、回す。
すると戦兎の周囲を取り囲む様に、試験管を思わせるチューブ状の『ファクトリアパイプライン』が伸びていく。
それらは軈て小型ファクトリー『スナップライドビルダー』を形成。フルボトル内の成分が液状となった『トランジェルソリッド』がファクトリアパイプラインへと流し込まれ、戦兎の前後に左右半分ずつの奇妙な人形パーツを形作る。
このパーツの名は『ハーフボディ』。
その名の通り、これではまだ半分しか完成していない。
ならば、どうすれば良いのか
─────その答えは簡単だ。
『Are you ready?』
ドライバーからの問い掛けに、戦兎は迷い無く答える。
「変身!」
シュートボクシングさながらの構えを取り、その言葉を口にした戦兎。
前後のハーフボディは、両腕を振り下ろした彼の体を挟み込む様にスライドする。
『鋼のムーンサルト!ラビットタンク!』
重なり合ったハーフボディが、戦兎の全身を覆う一つの装甲へと変わる。
熱を逃がすかの如く、ハーフボディとハーフボディの継ぎ目から煙を噴射する装甲。
その煙が晴れれば、そこに居たのは"変身"を遂げた一人の戦士。
『イェーイ!!』
「仮面ライダービルド。作る、形成する…って意味のビルドだ。
─────以後、お見知りおきを。」
赤と青。輝く二色の装甲を纏い。
「戦兎…さん!?それは……!」
「ん?これ?これは科学のイメージを全面に押し出すってコンセプトの下、フレミングの右手の法則を参考にして考えた俺の決めポーズで…。」
「いえ、そっちでは無く!」
素なのかボケなのか分からぬ返しに突っ込むジャンヌ。
その反応に、ビルドは彼女の言わんとする事を理解した。
「あ、ビルドの方ね?それはコイツら片付けたら、後でちゃんと説明する……よっと!」
会話もそこそこに切り上げ、ビルドが跳ぶ。
左足に仕込まれたスプリングを用いた、
「───ッ!?」
「ウサちゃん相手だからって気を抜いてちゃ、狼つっても良い的だっての!」
左足で大地を蹴り、右足で手近なウェアウルフを蹴り飛ばす。
重戦車が如き一撃は、たった一発で命中した相手を消滅まで追い込んだ。
魔力へと還り、欠片も残らず消滅したウェアウルフ。
そんな仲間の姿に動揺する魔獣達と、何故か同じ様にビルドも動揺した。
「え?何!?消えた…!?」
「彼等は魔物、魔力の塊です!今のは倒して魔力へと還っただけ!」
「んだよ…はぁ、良かったぁ~。スマッシュとは違うってワケね?」
ジャンヌの言葉に安心して、思わず胸を撫で下ろす。
そんな隙を敵は逃さず、二体のウェアウルフがビルドへと飛び掛かり───。
「読めてます…よっと!」
不意打ちを、ビルドは空中へ逃れる事で容易に躱す。急に標的を失い、二体のウェアウルフは互いに正面から衝突した。
「こちとら消滅するって状況にトラウマ持ちなんだ。ややこしい事…するんじゃねぇよ!」
空中からの踵落としを二体の内の一体へと叩き付ける。
即座に魔力へ還り始めたそれに構う事無く、着地したビルドはもう一体へと回し蹴りを叩き込んだ。
「次!」
言いながら彼は次の相手に向かって行く。
殴り、敵の反撃を避け、その隙を突いて蹴りを決める。
あっという間に残る敵は二体になっていた。
「強い…。」
思わずジャンヌの口から漏れた感想。
サーヴァントに匹敵するだけの力を備えたあの装甲もだが…驚嘆すべきはその動き。
軽口を織り交ぜながらも無駄の無い身のこなしは、熟練の戦士のそれと言っても過言では無いだろう。
無論純粋な技量だけなら、サーヴァントの中には彼を上回る者も大勢居る。
だがそもそも、
その事実に困惑するジャンヌを他所に。ビルドは残る二体を巧みに相手取り、蹴り飛ばして一ヶ所へと寄せ集める。
「勝利の法則は決まった!」
彼がドライバーのハンドルを回すと、空中に出現したのは二本のグラフらしき謎の図。
それらは固まったウェアウルフを左右から挟み、固定する。
「どうなってるんですかそれ!?」
まさかあれが物理的に接触可能なものだとは───微塵も予測していなかったジャンヌは、驚きのあまり思わず声に出して叫んでしまった。
「てぇんっさい物理学者のてぇんっさいパワーだ!行くぞ!」
『Ready Go!』
抜け出そうと藻掻くウェアウルフ達。だが見掛け以上に強固なそれは全く緩む事は無く。
ビルドは再び空高く跳躍。そしてグラフをなぞる様な軌道で放たれる、必殺のライダーキック。
『ボルテック・フィニッシュ!イエーイ!』
「うぉぉぉぉ!!」
ビルドの必殺の一撃が、二体の敵を打ち砕いた。
キックの体勢のまま着地するビルドと、その背後で爆発し、魔力へと還り始めるウェアウルフ達。
「ふぅ……終わったか?」
その様子を一瞥し、警戒して辺りを見渡した後。
ビルドはドライバーからボトルを抜き取り、桐生戦兎の姿へと戻る。
「戦兎さん!」
「おー、レティシア。お疲れさーん。」
駆け付けて来るジャンヌへ、戦兎は軽い調子で手を振って見せた。
「お疲れさん、じゃないです!さっきのは何ですか!?」
「ん?いやだからフレミングの右手の……」
「そっちでは無くて!!」
のらりくらりと煙に巻こうとする戦兎。そんな彼に抗議するように、ジャンヌは彼に詰め寄る。
あの力は何なのか。
何故あんな物を持っているのか。
彼は何者なのか。
聞きたい事は山程有る。内容次第では、彼が無関係の一般人を装った黒幕という線だって考えられるのだから。
「冗談だよ。あんまり怒ると皺になるぞ?」
「なっ────!」
瞬く間に彼女は赤面する。
対する戦兎も、言った直後に何かに気付いたかの如く頭を抱えた。
「……これかぁ…!?こういう所なのか!?あの
ゴメン!デリカシー足りなかった!」
戦兎は慌ててジャンヌに頭を下げる。先程の戦闘で見せた勇姿は、既に一片たりとも残っていなかった。
「……別に良いです。」
これは絶対に良くないやつだ。
「大丈夫!皺なんて全く無い!なんてスベスベな肌なんだ!───これセクハラになるか?」
機嫌をとるべく、戦兎はあからさまに下手に出る。
そんな彼に呆れた様子で、彼女は思わず盛大に溜め息を吐いた。
「それは本当にもう良いです。それより…」
「分かってるよ。ビルドの事だろ?でもまずは…あの子を町まで送って行こう。その道中で構わないだろ?」
確かにこのまま一人で放置しては、また彼女が魔獣に襲われないとも限らない。少女も同行させるとなれば、当然バイクは使えないだろう…あのサイズでは、どうやっても二人乗りが限界だ。
となれば、町までの距離的に時間は充分有る。
彼女は戦兎の提案に頷き、同意の意を示す。
だが──────。
◆
「戦兎さん!」
少女の下へと向かおうとする戦兎さん。
そんな彼の背へ、私は呼び掛ける。
どうしても一つだけ、先に聞いておきたい事が有ったから。
「ん?」
「貴方は、途轍も無い力を持っています。……貴方はそれを、何の為に使うのですか?貴方は何の為に戦うのですか?」
彼の正体は未だ謎に包まれている。
これまでの言動や、私達を守って戦ってくれた事を考えると、敵とは思えませんが…。
サーヴァントでも、魔術師でも無いのにあれだけの力を有する存在。
そんな彼を見極めるべく、私は彼へと問い掛けた。
そんな私の思惑を、彼は理解しているのかしてないのか…それは分かりませんでした。
けれど─────。
「決まってるだろ?ラブ&ピースだよ。」
彼が少し照れくさそうに笑って見せながら、大真面目にそんな事を言うものだから…私も信じてみたくなったのです。
「この力で、誰かの笑顔を守る。皆の明日を作ってあげられる───俺はその為に戦うんだ。」
この、桐生戦兎というヒーローを。
エレちゃんに続きオデュッセウス爆死。
これは平成って醜くないか案件。