Fate/Grand Order 【幕間の物語】聖女と天才物理学者 作:banjo-da
火星で発見されたパンドラボックスが引き起こした『スカイウォールの惨劇』から10年。
天才物理学者の桐生戦兎は『仮面ライダービルド』として、その力を操る地球外生命体『エボルト』を倒し、パンドラボックスのエネルギーと引き換えにスカイウォールの無い『新世界』を創造する。
新世界にて新たな生活を送っていた戦兎だったが、ある日白いパンドラパネルから溢れ出た光に飲み込まれ、一人未知らぬ地へと飛ばされてしまう。
目覚めた戦兎が出会ったのは、謎の少女『レティシア』。彼女と共に、いたいけな少女を襲う魔物を退けた戦兎だったが……。
「ジャンヌゥゥゥ!!!ジャンヌ、ジャンヌはいらっしゃいますか!?」
うわ、何だアンタ!?ここにジャンヌなんて子は居ません!居るのはレティシアだけです!
(今のところは。)
「そうでしたか…はて、こちらからジャンヌの気配を感じたのですが…失礼致しました。」
───ったく…あー、ビックリした。何だったんだろうあの人…ま、良いか。
「嗚呼、愛しのクリスティーヌ!クリスティーヌ!クリスティーヌ!!!」
「Arrrthurrrrrr!!!!」
─────またかよ!?あーもう滅茶苦茶だ!
早く本編入っちゃって!!
◆
「えっと…すみません、もう一度お願いしても宜しいでしょうか…?戦兎さん達は、火星人と…」
「火星を滅ぼした宇宙人、な。火星人は寧ろ被害者だから。」
先の戦闘から暫く経った頃。
戦兎の話───ビルドの成り立ちや、彼がそれを手にして戦い始めた経緯を聞いたジャンヌは混乱していた。
常識外れで荒唐無稽な話だが、それ自体をジャンヌは否定はしない。
そもそも彼女自身、神を信じる教徒であり、サーヴァントという人智を越えた存在に他ならないのだ。
だが、如何せん情報量が多過ぎた。町が見えてくる頃には、彼女の思考回路はショート寸前だった。
「にしても…人類史を滅ぼす敵?さらっと言ってるけど、それは時間や空間という概念そのものに働きかけてるって事だ。人類を滅ぼす、宇宙を滅ぼすって事ならまだ理論上可能だろうが…過去から未来まで、ありとあらゆる人類の痕跡を焼却させるなんて目論見…一体どんな理論で、どれだけのエネルギーを用いて行うってんだ…。」
戦兎はというと、ジャンヌから聞かされたカルデアの話に頭を抱えている。
人理焼却という事態に絶望するのではなく、物理学者としての観点から考察しているのが彼らしいが。
「にしても、レティ…じゃなくてジャンヌ。よく俺に話してくれたな?これ、相当な機密事項だろ?」
戦兎の問いにジャンヌは頷く。
当然ながら、これはおいそれと他人へ話して良い内容ではない。
「私も最初はそう思いました。マスター不在の今、私の勝手な裁量で話をして良いものかと。…けれど……。」
「けれど?」
「戦兎さんは、全てを打ち明けてくれた…。そんな方に、自分だけ情報を隠したまま接するのは不誠実だと思ったのです。」
苦笑しつつも、迷いの無い声音でジャンヌは告げる。
「何この良い子…爪の垢でも煎じてエボルトに飲ませたい…。」
感激のあまり、ちょっとよく分からないコメントを残した戦兎。
ともあれ、お互い帰るべき場所に戻らなければならない───その一点が合致したというのは事実だ。
「それじゃ、君も今の俺達の話は誰にも話しちゃダメだぞ?」
念の為、同行していた少女にも釘を刺しておく。
無論話したところで誰も信じないだろうが…念には念を入れておいて損はない。
「はい…分かりました。おじさん達の秘密、必ず守ります。」
「おじさんじゃなくてお兄さんな。
────てか、君は何であんな所に?」
甚だ遺憾そうに少女の言葉を訂正し、ふと抱いた疑問をぶつけてみる。
戦兎とジャンヌ。二人の壮大な話が終わってなお時間が余るくらい、町からあの場所までは距離が有る。
そんな場所に少女が一人で居たというのは妙な話だ。
「……お母さんが病気になっちゃって。お医者様にも診てもらったけど、全然ダメで。それで、昔お祖母ちゃんに聞いた話を思い出したの。町外れの草原に、どんな病気も治す薬草が生えてるって…。」
俯きながら語る少女の表情は暗い。
どうやらその薬草を探している間に、魔獣達に襲われたという事らしい。
「成程ね…それであんな所に居たワケか。」
戦兎の表情も険しいものになる。
助けてあげたいのは山々だが───。
「ごめんなさい…。」
「謝る事じゃないさ。お母さんを助けたいって君の気持ちは立派だ。けど、今度は一人で無茶な真似するんじゃないぞ?」
言いながら、戦兎は少女の頭を撫でる。
そんな二人を、ジャンヌは困った様に見詰めていた。
◆
「思ったよりも近代的だな…。」
市街地を散策していた戦兎が一番に感じた点。
それは町並みも、そこを歩く人々も、戦兎の知る現代の風景と何ら変わらないという事だった。
無論、全てが同じというワケではない。石造りの建物が多く建ち並び、道路もまたアスファルトでは無く石畳だ。古き良き町並みが残るこの土地は、足を踏み入れた当初こそ中世ヨーロッパにでも来たかと錯覚してしまった。
だが一方で。通りに構えている店へとよくよく目を凝らせば、かなり新しい物も多い。携帯ショップ、チェーン展開のファーストフード点、コンビニエンスストア等…パッと見て気付かないだけで、実際にはこの町の景色にそぐわぬ店舗もチラホラ見受けられた。
確かに思い返せば、先程の少女の服装も今風の物だったような。
あんなファンタジー染みた怪物を見たせいで、てっきり大昔にタイムスリップでもしたのかと思い込んでいたが…。
「まあ確かに、キルバスが旧世界からやって来たのも俺達が新世界を作った後…向こうが何年かまでは分からないが、そんなに時間のラグは無い筈だ。そう考えれば辻褄も合うが……。」
「戦兎さん!」
思考に耽っていた戦兎は、自らへ向けられた声で我に返る。
振り向けば、別行動から戻って来たジャンヌの姿。但しその装いは先の鎧姿ではなく、学生服らしき現代の衣装へと変わっていた。
「あれ?どしたのその格好。」
彼女は町に着いた後戦兎と別れ、先の少女を家まで送り届けに行った筈だ。
カルデアから来たサーヴァントという彼女の境遇を考えれば、その後ショッピングを楽しむ様な金銭的余裕も有るとは思えないが…。
「あの子を送り届けた際、彼女のお母様が下さったのです。"この子の姉が昔着ていた物で良ければ"…と。本来御遠慮するべきなのでしょうが、流石にこの町で私の霊基そのままは目立ち過ぎますから…。」
「有り難く頂戴した、ってワケか。良いんじゃない?似合ってるし。」
「本当ですか!?良かった…。折角大切な思い出の詰まった服を頂くのであれば、キチンと着こなしたかったので…そう言って頂けて安心しました!」
「律儀だな。心配せずとも、ちゃーんと可愛いくなってるっての。」
「可愛…!?」
満面の笑みから一転、茹で上がったみたいに真っ赤に染まる彼女の顔。
対する戦兎はといえば、慌ただしく変わる彼女の様子に首を傾げる。
「?どした?」
「……い、いえ…何でもありません…。戦兎さんは、よくそういう事を仰有るのですか…?」
「そういう事って?」
「か…か、かわ…可愛い……!
─────いえ、何でもありません!」
そう言って一目散に駆け出してしまう彼女。
「あ!ちょ、おい!迷子になるぞ!?」
再び首を傾げつつも、戦兎はジャンヌを追って駆け出すのだった。
◆
「はぁ…何をしているのでしょうか、私は。」
走っている内に冷静さを取り戻した私は、たまたま通りがかった公園のベンチに腰掛けていた。
何故私は、あんなにも取り乱してしまったのだろう。
カルデアでも、私を異性として口説いてきたサーヴァントは居た。けれど、彼等は生前からの女性好きばかり。
他のサーヴァントを口説いて制裁を受けていた姿を目にした事も有る。……先日はダビデ王がマルタ様に、オリオンがアルテミス様に制裁されてましたね。
中には土方さんとカーミラさんの様に、割と良い雰囲気になる方も居ましたが…いえ、それは今は良いとしましょう。
そもそも私は神に仕える身。加えて、今は人理焼却という大事を前に戦う英霊の一人。
生前も、サーヴァントとして召喚されてからも、あんな風に心揺れる事は無かった筈だ。
なのに…。
考えられる理由は一つしか無い。
「……間違い無く、マリーと話した内容ですね…。」
「マリー?仔猫ちゃんでも居たのか?」
「きゃぁぁぁぁ!?───せ、戦兎さん!?何時からそこに!?」
何て心臓に悪い!何時の間にか追い付いていた彼に突然声を掛けられ、はしたなく大声で叫んでしまいました。
というより、何故彼がここに…?無我夢中で走ってしまったので気付きませんでしたが、サーヴァントの私に彼が追い付くのは困難な筈…。
「いや、今追い付いたんだよ…あー、しんど…。」
「ど、どうやって…!?普通に考えて、サーヴァントに走って追い付ける筈が…。」
「いや、ホントだよ…滅茶苦茶早いから、ずっとラビットボトル振って身体能力強化しながら走ってたわ。」
言いながら差し出された彼の手には、さっきの戦闘でも用いていた赤いフルボトルが。
ずっとシャカシャカ振りながら走ってたのでしょうか…何ともシュール過ぎる絵面に、想像して思わず顔が引き攣ってしまいました。
「す、すみません…でも、それにしてもよくここが分かりましたね?」
「あー…いや、途中確かに見失ったんだけどな?何か、"ジャンヌがこっちに居るかもー"…って気がして来てみたら、本当に居たからさ。俺も驚いてるんだよ。
───きっとボトルの神様が、俺に天啓をプレゼント・フォー・ユーしてくれたんだな。」
悪戯っぽくウィンクしながらそんな事を言う戦兎さん。
それが可笑しくて、思わず吹き出してしまいました。
「ちょ!何だよ!」
「すみません…でも、何か可笑しくて…。ふふっ。それだと、教えてくれたのはエボルト…って事になりますよ?」
「……良いんだよ!エボルトはエボルト、ボトルの神様はボトルの神様!細かい事は言いっこ無し!」
指摘され、一瞬固まった後に言い訳めいた事を言う彼の姿がまた可笑しくて。悪いと思いつつも、また笑ってしまう私。
そんな私に、彼はむすっとした顔を見せたものの。段々とその表情を緩め、最後にはつられた様に笑い始めました。
「……ったく、笑い過ぎだっての。ほら、行くぞ?」
「ごめんなさい…ふふっ。ええ、行きましょう。」
差し伸べられた彼の手を取り。
カルデアへ戻るべく、手掛かりを探しに行こうとした
─────そんな矢先。
『……ヌ。…ジャンヌ…。………ジャンヌ!』
『ああ、良かった!やっと繋がった!』
「マスター…!?ドクター・ロマン!?」
カルデアからの通信が、私の元へと届いたのでした。
◆
『えっと…ゴメン、もう一度聞いても良いかい…?戦兎くん達は、火星人と…』
「火星を滅ぼした宇宙人、な。てかこの返しさっきやったわ。」
突然繋がったカルデアとの通信。
それを用い、戦兎は本日二度目の来歴紹介を行っていた。
『正直突拍子も無い話過ぎるけど…まあ、君からしたら僕達の話もそうだろうしね。それに、今少し話をしただけだが…君は嘘を吐く様な人間とも思えない。』
「そりゃどうも。俺も最初はビックリしましたよ。人理焼却なんて…物理学者からしてみれば、物理法則無視しまくりもいいとこだ。」
『僕らからすれば、並行世界を合体させて新世界を作る…なんてのも大概だけどね。』
困った様に苦笑いするロマニだが、先の言葉に嘘は無い。ジャンヌを通して、この世界に来てからの戦兎の姿を知ったカルデアの面々は、彼の人間性を信じる事に決めたのだった。
『信じるって言った以上、裏付け証拠が必要かはアレだけど…一応、彼の言葉に嘘が無いのは事実だ。』
会話に割って入って来るのは、カルデアが誇る天才レオナルド・ダ・ヴィンチ。通称ダヴィンチちゃんと呼ばれる彼女は、興味深そうに幾つものデータを通信画面へと表示する。
『フルボトル…だったね?通信が不安定なせいで簡易的な測定しか出来なかったが、それは間違い無く未知のテクノロジーだ。それに、彼のバイタルデータも普通の人間と少し異なる部分が見受けられる。』
「異なる部分?」
『普段の状態は普通の人間そのものだが、そのボトルを振ってもらった時には身体機能の急激な上昇が見られた。多分、そのネビュラガスとかいう物質のせいだろうね。』
『確かに、この計測結果は興味深いな…これは充分戦兎くんの話を裏付ける物証になる。』
『大体、兎とかゴリラの成分とかはまだしも!戦車の成分だの漫画の成分だのって何なんだよ!戦車の成分は金属とかゴムとか燃料とかだろう!?漫画とか紙とインクだろうが!?うむむ…こんなオーバーテクノロジー、制作者に是非一度会ってみたい…!』
「冗談でもそれ言うとアイツ来そうだから止めて下さい。───それより!俺やジャンヌはどうしてここに!?てかここは何処なんですか!?」
心底嫌そうに突っ込んだ後、逸れた話を戻す。
然し、問われたカルデアの面々の表情は少し暗い。
『そこは2000年代初めのルーマニアだ。年代があやふやなのは、正確に計測出来ていないせい。通信の不良といい、恐らくそこは特異点…或いは何らかの時空の歪みによって、特異点になりかけている。』
『ただ、2000年から2010年位の間なのは間違い無い。そして君達がそちらに飛ばされた理由だが……済まない、戦兎くんの方に関しては見当も付かない。なにぶん、そのパンドラパネルと呼ばれる物体のデータが無いからね。』
ロマニとダヴィンチちゃんの返答に、戦兎は僅かばかり肩を落とす。
元々想定していた答えでは有ったが…実際に聞かされると、やはり少しショックだった。
「────待てよ?俺の方は…って事は、ジャンヌに関しては分かったんですか?」
せめて彼女だけでも、と期待して顔を上げると。
何とも言えない表情の面々。
『うん…いや、本当に身内の恥を晒すみたいでお恥ずかしい話なんだけど…。』
『それについては、私から…。』
ロマニと入れ替わる様に画面へ映ったのは、先程"マスター"と呼ばれていた少女。
これまでの話からして、彼女が特異点攻略を成し遂げてきたマスターなのだろう。
『藤丸立香、と言います。始まりは、今日のお昼過ぎ…ジャンヌを含め、女性サーヴァント達とお茶会をしていた時の事でした…。』
そう…あの時は、こんな事態になるとは誰一人想像もしていませんでした。
─────あの時までは…。
「─────え?何この流れ。まさか、ここで次回に続くの?」
平成二期定番の二話構成編。