Fate/Grand Order 【幕間の物語】聖女と天才物理学者   作:banjo-da

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コロナも勿論、季節的に風邪や花粉症も辛いですよね。マスクもそうですけど、まずは手洗いうがい。それと栄養と睡眠もしっかり心掛けましょう!

───それと氷室幻徳には気を付けろ。奴が本当のナイトローグだ。


天才も解けないクエスチョン

 

 

「さてと…状況を確認するぞ?」

 

「はい、マスター。」

 

すっかり日も落ち、辺りが闇に包まれた頃。

手持ち金を換金した事で何とか無一文を免れた戦兎は、ジャンヌと共に町内の宿に部屋を借りていた。

 

「そのマスター、ってのは止めてくれ。何て言うか…落ち着かないし。普通に戦兎とか、イケメン天才物理学者さまー…とかで頼む。」

 

困り顔で溜め息を溢す彼に、ジャンヌもまた苦笑しつつ首を捻る。

 

「後者の方が呼びにくいと思うのですが…なら、"戦兎くん"…と。"戦兎さん"、よりはせめて少しでも親しみを込めてみたのですが。」

 

「良いねぇ。それなら大歓迎だ!……にしても、俺がジャンヌのマスターとはな…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『そういえば戦兎くん。君、ジャンヌのマスターになっているよ?』

 

「─────は?」

 

『『は?』』

 

「え?」

 

何気無く爆弾発言を投下したダヴィンチちゃん。

戦兎は勿論、ロマニと立香、更にはジャンヌまでもがすっとんきょうな声を漏らす。

 

「ちょ、ちょ、ちょっと待て!サーヴァントってのは、マスターと契約して魔力の経路(パス)を形成するんだよな?でもって、立香とジャンヌの繋がりはまだ残ってる…だからそれを辿って、アンタらはジャンヌを見付けられた。そうだろ?」

 

かなり動揺しながらも、論理的に道筋を立てようとする戦兎。

一方のダヴィンチちゃんは、感心と驚きを隠せない。

 

『ほーう…流石"天才"を自称するだけの事は有る。戦兎くん、大正解だよ!実に飲み込みが早い!…んだけれど。』

 

「けど?」

 

『どういうワケか、立香ちゃんとの繋りがかなり微弱でね。これでは念話どころか宝具の発動に必要な魔力すら供給は難しい。……実の所、こうして繋りを頼りに彼女を見付け出せた事自体、結構なミラクルだったりするんだぜ?』

 

彼女は少し芝居がかった仕草で肩を竦めて見せた。

戦兎はというと、それと彼がマスターという事がどう繋がるのか───その答えを求め、彼女に続きを促す。

 

「それは分かった。なら、俺がマスターっていうのはどういう事なんだ?契約した覚えなんて無いぞ?」

 

『うーんとね、結論から言うと君達が何故契約状態にあるのかは分からない。───だが、マスターが二人って状態に関してはある程度の説明が付くよ。

戦兎くんは今、立香ちゃんから一時的にマスター権の大半を譲渡された状態にある。聖杯戦争において、似たような技術を編み出して投入した魔術師の記録も幾つか残ってる。魔力経路を変則契約によって分割し、自身がマスターで在りながら協力者に魔力供給を肩代わりさせていた例とか…令呪の一角を用いた魔術礼装でマスター権を他人に譲渡したりとか。まあ、いずれもこのケースとは厳密には異なるかな?あと何かあったかなー……。』

 

語りながら一人思考の世界へと入り込んでしまったダヴィンチちゃんへ、戦兎とロマニは軽く咳払いする。

通信の手前と向こう、両方からの注意を受け彼女も我に返る。

 

『おっといけない、天才特有の癖が出てしまった!……それはさておき、重要なのは君達は一時的なパートナーっていう事さ。戦兎くんとジャンヌの間には、既に絆が結ばれている。』

 

ダヴィンチちゃんの言葉に、ハッとする戦兎。

 

「そうか……だからあの時、見失ったジャンヌの居場所が分かったのか!」

 

この公園に来る前、彼女との追い掛けっこの末に。

見失ったジャンヌの居場所へ、何と無くの感覚で彼は辿り着いた…あれがサーヴァントとマスターのレイラインによるものだとすれば説明が付く。

 

『おや、既に覚えがあるみたいだね?なら話は早い!心配せずとも、マスターだからと言って特別な事をする必要は無いさ…普通の聖杯戦争と違い、君達の場合は互いに敵対する必要性が無いのだから。』

 

『戦兎さん!ジャンヌを…私の大切な仲間を、宜しくお願いします!』

 

画面越しに立香から頭を下げられ。

戦兎は────。

 

「……分かった。大舟に乗ったつもりで、お兄さんに任せときなさいって!君の大切な仲間は、俺が必ず守る…正義のヒーローとの約束だ!」

 

彼女の心からの願いに、桐生戦兎はドンと胸を叩いて見せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……こうして、天ッッッッッ才物理学者兼、仮面ライダーの桐生戦兎は!新たな舞台で新人マスターとしての一歩を踏み出したのだった。第一部、完!」

 

「戦兎くん…?」

 

「単なる独り言だ。そんなマジっぽく心配しないで…俺が頭のおかしい奴みたいになっちゃうでしょ。」

 

壮大な感じで締め括った戦兎へ、割と本気で心配そうなジャンヌが哀れんだ視線を向ける。

気を取り直す様に咳払いし、彼は何処からか調達してきたホワイトボードに幾つかの項目を箇条書きで並べていった。

 

「話を戻すぞ。一つ、俺は君のマスターになった。

二つ、ここが今何年の何月何日なのか…不自然な程にその情報が得られない。ついでに、ルーマニアの何処なのかって細かい位置情報もな。」

 

渋い顔で彼が取り出した新聞に二人は視線を向ける。戦兎が先程購入してきたものだ。

一見、何の変哲もない新聞に過ぎないのだが…。

 

「日付けの欄は何処にも書いてない。新聞として致命的な気もするが…それはまあ新聞社と読者の問題だから、多分ここではそれが普通なんだろう。───明らかに異常だ。つまり、特異点化の影響がこんな所にまで及んでるって事。」

 

ダメだこりゃ、とばかりに彼は手にしたそれを放り捨てる。

 

「載ってる記事から手掛かりを探そうにも、参考になりそうな内容は無し。町中にも地名を冠した看板とかは見当たらなかったし。」

 

「この宿の何処を探しても、カレンダー一つ有りませんでした。それに…。」

 

「ああ。誰に聞いても、誰一人町名も今日の日付けも覚えてない(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)。こりゃ重症だな…。」

 

圧倒的なまでに、場所と日付けに関する事柄が消し去られている。

戦兎は財布から一枚の紙幣を取り出しそれを眺める。ロマニは通信で2000年から2010年の範囲と言っていたが…町中の両替所で現地通貨に換金する際、明らかにそれ以降に発行された物に関しても、何の問題も無く交換して貰えた。

やはり、通信で彼等の言っていた"時空の歪み"が原因なのだろうか。

 

「まあ、分からない事を何時までも悩んでても仕方無い。それに関しては後々考えよう。三つ目に、あの魔獣達はつい最近出現する様になった…らしいって事だ。コイツは大きな手掛かりになる。」

 

町中で聞き込みをして分かったのは、魔獣による被害はそれなりに大きなものだったという事だ。

数ヶ月程前から目撃される様になった魔獣は、最初こそ町から遠く離れた森の中等にしか居なかったものの。何時しかその数は増え、目撃される場所も日に日に人里へ近付いているらしい。

幸い町の中まで入って来る事は無いが、既に大勢の犠牲者が出ている。町と外を繋ぐバスも襲われ、住民達は半ばこの地に閉じ込められている様な状態だ。

 

「誰も今が何時か覚えていないとしても…数ヶ月程前からアレが出始めたって事を覚えているなら、何か変わった事が起きてないか調べられるかもしれない。

───そこで!コイツの出番ってワケですよ!」

 

取り出したのは、一本のフルボトルとスマートフォン。

スマートフォンの方は戦兎が昼間バイクへと変形させた端末だが、手にしたボトルは色が違う。

 

「戦兎くん…それは?」

 

「ここは科学者らしく、頭脳労働といこうじゃないの。コイツを…こうしてっと!」

 

部屋に備え付けられた小さな机に向かって着席すると。彼は何処で見付けてきたのやら、簡単な工具を引っ張り出しスマートフォンを分解し始める。

普段カルデア内では他の技術者系サーヴァントの作業を見る事など殆ど無い為、ジャンヌは興味津々といった様子でそれを覗き込んだ。

 

「コイツはビルドフォン。昼に話した通り、これは俺の発明品でね?元々コイツには、フルボトルの成分を引き出して、バイクに変形させる為のボトル用スロットを取り付けてある。コイツをちょちょいのちょいっと弄ってやってだ…。」

 

手慣れた手付きで工具を巧みに操り、ものの数分で作業は完了。戦兎はそれを、あっという間に元のスマートフォンへの形と組み上げる。

そうして完成したビルドフォンを起動。端末を操作し、画面に表示された幾つもの難解なプログラムを手早く処理していった。

 

「────出来た!ここにこれをセットして…!」

 

端から見ているジャンヌには何が何やらサッパリだったものの、どうやら作業は完了したらしい。どういう仕組みなのか、上機嫌な彼の髪の一部がピョコンと跳ねた。

先程取り出したフルボトルを軽快に振り、ビルドフォンへ嵌め込む姿を眺めていると、彼女は戦兎から"おいでおいで"と手招きされた。

戦兎の隣へ屈み、ジャンヌは画面へ視線を落とす。

そこには、幾つかの箇所にマーキングされた何かの地図。

 

「コイツはこの辺り一帯の地図だ。それでこの目印が付いてるのは、ここ数ヶ月で起きた魔獣被害の現場。」

 

「!?そ、そんな事が分かるのですか…!?」

 

「ああ。つっても、地名までは分かんないけどな。超広範囲のレーダーで、地形や建造物の位置を掴んでると思っててくれ。」

 

さらっと言ってのける戦兎にジャンヌは目を見開く。

彼女自身は機械に疎い。もっとも、生前を過ごした時代や、彼女自身にキチンとした教養を身に付ける機会が無かった故に当然と言えば当然なのだが、

だが、そんな彼女でも、カルデアで過ごした時間の中で学んだ知識は有る。

 

「確か…こういった機械は、通信で情報をやり取りする…のですよね?この時代では、未だ戦兎くんの作った機械に対応は出来ないと思うのですが…どうやって?」

 

うろ覚えの拙い知識ながらも、素直に感じた疑問をぶつけてみる。

問われた戦兎はというと。───感心した様子で、無意識の内に彼女の頭を撫でていた。

 

「ひゃっ!?せ、戦兎くん…!?」

 

瞬く間に本日三度目の赤面。

驚きと羞恥でフリーズしてしまったジャンヌを前に、戦兎はハッと我に返った。

 

「わ、悪い!いや…ジャンヌって頭良いなと感心しちまって。全然知らない機械の筈なのに、そこに気付くとは…うちの筋肉バカにも見習わせたいよ…。」

 

珍しく照れた戦兎。照れ隠しの様に頭を掻きつつ視線を逸らす彼の顔もまた、ジャンヌ程では無いが少し紅潮していた。

態とらしい咳払いの後。彼はビルドフォンに取り付けられたフルボトルを抜き取り、彼女の手に握らせる。

 

「このボトルのお陰だ。これはスマホボトル…名前の通り、スマホの成分が入ってる。ジャンヌの言う通り、本来スマホを始めとした通信機器には情報をやり取りする為の回線が必要だ。───けど、このボトルの成分でそれを肩代わりしてやりつつ…単なるスマホじゃ拾えない様な情報も仕入れられる様に、ビルドフォンをスマホボトル対応仕様にバージョンアップしたってワケですよ。

スゴいでしょ?最高でしょ?天才でしょー!!」

 

普段の彼らしいドヤ顔での解説───ではなく。

ジャンヌにスマホボトルを握らせる際、手と手が触れ合ったせいで再び彼女を意識してしまったらしく。赤面しながら、いやに早口で解説する戦兎───当然、同じく彼を意識してしまっている上、慣れない単語だらけの内容を早口で読み上げられた為、ジャンヌは全てを理解出来てはいない。

 

「は、はい…ええと、要するにこのボトルのお陰で、この特異点でも戦兎くんのそれは使えるんですね…?」

 

それでも彼女は何とか必死に話へ食らい付き、自分なりに把握出来た部分を確認してみる。

 

「お、おう…えっと……そうだな。要点だけ纏めればそういう事だ。」

 

「す、スゴいですね…!」

 

「ん…?で、でしょー?天・才!ですから!」

 

どうにもぎこちない会話。何とも言えない空気に、しきりに視線を泳がせる二人。

ジャンヌはジャンヌで、"サーヴァントでも過去の偉人でもなく、普通の少女"として彼女に接する戦兎の姿に戸惑ってしまっている。

戦兎はというと、思い返せば"葛城巧"だった学生時代は勉強一筋。成人し、東都政府やファウストの下で働いてた頃も研究一本だった為────ハッキリ言って、圧倒的経験値不足。普段は寧ろチャラいくらいのお調子者気質も鳴りを潜め、"女性経験に乏しいオタク気質"が前面に出てしまっていた。

 

「いや落ち着け桐生戦兎全ての事象には必ずそれを構成する法則が存在するそうだ例えば仮説としてサーヴァントである彼女の放つ魔力が身体的接触を機に何らかの形で俺の体内のネビュラガスに働きかけ一時的に活性化それが思考能力の低下体温の上昇血流の増大及び異常な心拍の向上をもたらしたと考えられるつまりアルコールを摂取した際と同じ現象だそうなると体内で起こっていると予測される化学変化としては……」

 

「せ、戦兎くん…?」

 

「駄目だ一回落ち着こうよし冷静になれ桐生戦兎こんな時はあの筋肉バカの事でも考えて気分をクールダウンさせよう万丈が一人万丈が二人万丈が三人………頭痛くなってきた…。」

 

「戦兎くん!?」

 

異常な早口で念仏でも唱えるかの如く、ノンストップでうわ言を発していた戦兎は─────自らの想像で自滅した。思考回路がショートし、糸の切れた人形みたいに倒れ込んだ彼は。

机に突っ伏したまま、すやすやと眠り始めてしまった。

 

「せ、戦兎くん!そんな所で眠っては、風邪を引いてしまいますよ!?起きて下さい戦兎くん…戦兎くーん!!」

 

ジャンヌの叫びが宿の一角に響き渡る。

特異点探索一日は、こうして幕を閉じるのだった。





たまにはイチャコラ書きたかったし、ジルには悪いなぁとも思ったよ。
─────蒸血。

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