Fate/Grand Order 【幕間の物語】聖女と天才物理学者   作:banjo-da

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「戦兎くん、他のサーヴァントは召喚出来ませんか?」
「出来たら助かるが…現状は無理だ。」
「そうですか…本当なら、何時ものメンバーが一緒だと心強いのですが、仕方有りませんね。」
「何時ものメンバー?」
「マーリン、孔明、マシュさんに玉藻「立香のやつガチ勢じゃねーか!!!」



物言わぬソルジャー達

 

「硬ってぇ!?」

 

想像以上の強度を誇る敵を前に、ビルドは手を抑えつつ後退る。

その隙を逃さず手にした棍棒を振り下ろすゴーレム。だがビルドはそれを兎の敏捷性で間一髪避けてみせた。

 

「こんにゃろ…だったらコイツだ!」

 

『ゴリラ!』『ダイヤモンド!』

 

『ベストマッチ!』

 

新たに取り出した二本のフルボトル。

手にしたそれをドライバーに刺さったラビット、そしてタンクのボトルと入れ換えハンドルを回す。

 

『Are you ready?』

 

「ビルドアップ!」

 

出現したスナップライドビルダーが、新しいハーフボディを形成。両腕を振り下ろしたビルドを挟み、彼を新たな姿へ変身させた。

 

『輝きのデストロイヤー!ゴリラモンド!

イエーイ!』

 

「勝利の法則は決まった!───ジャンヌ!」

 

(ラビット)(タンク)から茶色(ゴリラ)水色(ダイヤモンド)へ姿を変えたビルドが、ジャンヌへ指示を飛ばす。

その一言で彼の意を察したジャンヌは、自らが相手取っていたウェアウルフを旗の穂先で斬り付けた。

致命傷にまでは至らぬダメージ───否、敢えて(・・・)威力を抑えられた一撃ではあったものの、敵を怯ませるには充分。隙の生じたウェアウルフの防具を掴むと、その華奢な外見に見合わぬ膂力を発揮し、彼女はビルド目掛けてそれを放り投げた。

 

「戦兎くん!」

 

「おっしゃナイスパス!」

 

飛んで来るウェアウルフに視線を向けつつ、ビルドは再度ハンドルを回してボトルの成分を活性化させる。

 

『Ready Go!』

 

必殺技の発動準備が整った事を知らせる電子音声。それが鳴り響くのと、投げられた魔獣がビルドの目の前まで迫って来るのはほぼ同時だった。

 

「固めて……。」

 

衝突寸前まで迫ったウェアウルフに、ビルドは左手を翳す。するとダイヤモンドハーフボディの力で、今まで魔獣だったそれは一瞬の内に大量の金剛石へと姿を変えた。

 

「飛ばす!」

 

ゴリラの様さながらに巨大化した右腕を一度大きく振りかぶり、即座にダイヤモンド化した元ウェアウルフを薙ぎ払う。ゴリラの筋力で打ち出されたそれは、一直線にゴーレム目掛けて襲い掛かる超硬度の弾丸と化した。

一つ一つは小さくとも、凄まじい速度と硬さを誇るダイヤの吹雪。絶え間無く撃ち込まれるそれを前に、ゴーレムは堪らず両腕をクロスして防御するも。そんな魔獣を嘲笑うかの如くダイヤは彼の肉体を削り取っていった。

 

『ボルテック・フィニッシュ!イエーイ!』

 

「最後は…ゴリラパンチだぁ!!」

 

飛翔する金剛石──その最後の一欠片がゴーレムのボディを抉ると同時に。息吐く間も無くビルドの巨大な右腕『サドンデストロイヤー』が、防御体勢を取ったままのゴーレムの両腕を強打。叩き込まれたエネルギーの大きさはゴーレムの耐久力を容易く上回り、その巨体を易々と弾き飛ばした。

宙を舞い、壁に衝突して砕け散るゴーレム。その破片は軈て、僅かな素材を残して魔力へと還っていった。

 

「ふー…終わったか?」

 

ボトルを抜こうとドライバーへ手を伸ばし掛け

───隣に割り込んで来たジャンヌに軽く突き飛ばされる。

尻餅を着きながら見上げるのは、さっきまで自分の首が在った場所を空振りするゴーストの攻撃。

即座にジャンヌが洗礼詠唱を発動。その奇蹟を以て、追撃を放たせる猶予すら与えずゴーストを浄化した。

 

「油断は禁物ですよ!戦兎くん、お怪我は有りませんか?」

 

「ああ、悪い…助かった。しっかし…ゴースト。ゴーストねぇ…。」

 

以前共闘した仮面ライダーの少年を思い出し、変身を解きながら苦笑する戦兎。

 

「こんな事なら、彼の成分も貰っておくべきだったかな?」

 

「彼?」

 

言ってる意味が分からず、不思議そうに彼を見詰めるジャンヌ。そんな彼女に、戦兎は気にするなと軽く手を振った。

 

「こっちの話だ。……にしても、随分居るな。やっぱここが魔獣発生と深く関係してるって見て間違い無いか。」

 

辺りを見回した戦兎。その視界に映るのは、生々しい破壊痕が多数残る荒れ果てた城内。

そこは、城内へ入ってすぐ。さっきまで多量の魔物が配置されていた、城の玄関ホールだった。

 

二人の予想通り、見えない城塞は魔術によって秘匿されていた。唯一の救いは、それ程複雑な魔術は掛けられていなかったという事。初めは全く視認出来なかったそれも、ビルドフォンの示す地図を頼りに近くまで辿り着いた途端、さも初めから見えていたかの様に目の前へ現れた。

ジャンヌ曰く───恐らく施されているのは人払いの結界と、認識齟齬を引き起こす魔術。いずれも城塞全体を覆う程大規模な物ではあるが、その反面効力としては然程強くない簡単な結界。侵入そのものを防ぐ様な強力な仕掛けでは無かった事は、魔術の心得が皆無な戦兎としては有り難かった。

 

「でも、認識齟齬って言う割に…近付いたら普通に見えたよな?何でだ。」

 

「恐らくですが…人払いの結界と合わせて掛かっていた事を考えると、そもそも人を近付けさえしなければ良かった。魔術師でも無い限りあの結界は近付かれなければ看破するのは不可能ですし、それなら態々高度な魔術を使う必要性も乏しい。魔力の消耗や維持を考えれば、あれはあれで合理的なのかと。」

 

ジャンヌの説明に戦兎もまた納得する。

魔術師の事はよく分からないが、あの状態から異変に気付ける様な相手なら、無理して隠すよりいっそ招き入れて始末した方が早い…という事なのだろう。

あれだけの偽装を施しておきながら入口が簡単に開いたのも、城内を守る様に配置された多数の魔獣達も、その推測通りなら説明がつく。

 

「ここにはもう魔物は居ない様です。先を────」

 

─────異変に気付けたのは、彼女がルーラーだからこその幸運だった。

 

背後に突如出現したサーヴァント(・・・・・・)の気配。

咄嗟に振り向いた彼女は眼前に迫った刃に目を見開きつつも、反射的に身を捩って間一髪それを躱す。

 

空を切った刃はそのままの勢いで地面へと叩き付けられる。大理石が砕け散り、さっきまでジャンヌの立っていた場所は深く削り取られていた。

 

「ジャンヌ!」

 

「私の事より早く変身を!まだ他にもいます(・・・・・・・・)!」

 

彼女の元へと駆け寄ろうとする戦兎を制し、ジャンヌは急ぎ旗を構える。

 

「───分かった!変身!」

 

『鋼のムーンサルト!ラビットタンク!』

 

戦兎もまた考えるより先に彼女の言葉に従い、素早く変身を完了させた。

直後、ビルドの足元が揺れる。危険を感じ取ったビルドが跳躍するのと、地面を割って巨大な灰色の肉体が飛び出してくるのはほぼ同時だった。

 

「うおっ!?なんだコイツ!?」

 

ジャンヌの隣へ着地したビルドは、新手の刺客へ目を向けつつ困惑の滲んだ声を漏らす。

 

不気味な笑みを浮かべて地中から這い出てくる、岩の様な灰色の肌をした屈強な大男。

ジャンヌと向き合い、地面へ叩き付けた剣を気怠そうに肩へ担いでいるのは、全身を白と赤の重厚な鎧で覆う騎士。

そしてもう一人。空気から溶け出てくるかの如く現れた、青いマントとボディスーツを纏い、無貌の仮面で身を隠した人物。

三人目の敵に関しては、恐らく"霊体化"というものを解除したという事なのだろう。先にジャンヌからサーヴァントについて色々教わっていた戦兎は、それを理解する事が出来た───尤も、現状では分かった所で大差は無いのだが。

 

「赤のセイバー…モードレッド。赤のバーサーカー、スパルタクス。それに…黒のキャスター、アヴィケブロン……。」

 

「知り合い?友達……って感じじゃ無さそうだな。」

 

敵から目を離す事無く、隣のジャンヌへ問い掛ける。

彼女は眉間に皺を寄せつつ、ビルド同様目の前の騎士を真っ直ぐに見据えていた。

 

「……例の聖杯大戦に参加した、十四騎のサーヴァントの内の三人です。ですが…彼等は黒のライダーを除いて全員消滅した筈。」

 

「なら、この特異点は丁度その大戦の真っ最中…って事か?」

 

「それなら城内がこんなに荒れたまま放置されているのも、マスターらしき人間が一人も見当たらないのも妙です。それすらも、特異点と化した影響という可能性は有りますが…。」

 

「そこまで考えてちゃキリが無いな。とにかく今はコイツらをどうにかしますか!」

 

腑に落ちない事だらけではあるが、目の前の三騎が敵だというのは明白だ。向けられる殺意をひしひしと肌で感じながら、二人は会話を打ち切った。

 

「─────!」

 

無言でジャンヌへと斬り掛かって来る騎士・モードレッド。ジャンヌはそれを旗の竿で受け止め、力を逃がす様に受け流す。そうして生じた隙に、彼女は騎士の脇腹へと横から旗を────。

 

「───!」

 

「ぐっ…!?」

 

空振った剣を躊躇無く手放すモードレッド。野獣さながらの荒々しく軽やかな動きで、反撃を食らうより早くジャンヌの懐へと潜り込む。そのまま彼女の顔面目掛けて飛んで来るモードレッドの拳。咄嗟に顔をずらすも、回避し切れず敵の身に付けた籠手が彼女の頬を掠めた。

体勢を崩し、旗を振り抜き掛けていた手が止まるジャンヌ。その間にモードレッドは膝を小さく曲げて力を溜め───大地を蹴ると同時に、足裏から一気に魔力を放出した。

ジェット噴射が如き加速を得て空中へと放たれたモードレッドの足は、バク宙さながらの動きでジャンヌの胴を蹴り上げる。

 

「が───はっ……!」

 

「ジャンヌッ!!」

 

アヴィケブロンの召喚したゴーレムを相手取っていたビルドは、強引にそれを自身へ剣を振り下そうとするスパルタクス向け蹴り飛ばす。衝突し合うそちらには目もくれず、吹っ飛ばされ宙を舞うジャンヌの身体を抱き止めた。

 

「ジャンヌ!おい、無事か!?」

 

「ガハッ…!すみ…ません…。ですが、まだ戦えます…!」

 

「無茶すんな…!にしてもアイツら強い…!」

 

流石は人類史に名を刻んだ英霊という事か。

一騎当千の力を誇る敵を前に、マスクの下で険しい顔を浮かべる戦兎。

ビルドに支えられ、呼吸を荒くしながらも、ジャンヌは旗を杖代わりに何とか立ち上がると。顔を顰めつつ、何処か困惑気味に声を絞り出した。

 

「いえ…それは違います…。確かに彼等は強い…ですが、本来の彼等はもっと強かった(・・・・・・・)…!」

 

「───何だと…!?」

 

これ程の力を誇りながら、敵は未だ余力を残しているというのか───だとすれば、今の彼等に目の前の敵を倒す事は不可能だ。ビルドにも未だ奥の手(・・・)は残っているが、仮に聖杯大戦へ招かれた残るサーヴァント全員が加勢に現れたら……否、戦兎とジャンヌを葬るだけなら全員どころか半数も必要無いだろう。

だがジャンヌは彼の考えを察したのか、首を横に振った。

 

「そうではありません。…確かに現状が絶望的なのには変わりませんが…彼等は手加減をしているワケでは無い。ただ、彼等は本来程の力を発揮出来ていない様に感じるのです。」

 

ジャンヌの記録に残る聖杯大戦での姿。或いはカルデアに召喚されたり、レイシフト先の特異点で出会った彼等は、もっと強大な力を有していた…それが、彼女の抱いた率直な感想。

実際今の一撃も、完全に隙を突かれ無防備に食らった筈なのに。その衝撃こそ凄まじかったが、現にジャンヌは早くもダメージから立ち直りつつある。彼女の知る本来のモードレッドが相手なら、霊核の破壊にまでは至らずとも、暫く戦闘不能に陥る程度の威力は出ていた筈だ。

 

「それに、最初の一撃…あの距離まで迫られて、初めて私は敵の存在に気付きました。カルデアで召喚された事で、本来聖杯戦争で召喚された時程の力を発揮出来ていないとしても…それを差し引いても、普通のサーヴァント相手なら有り得ません。」

 

ルーラー。ジャンヌの所属するこのクラスは、通常の聖杯戦争ではまず召喚される事の無いエクストラクラス(例外的存在)。裏を返せば"普通の聖杯戦争"では無い状況下においてのみ召喚される、文字通り聖杯戦争の裁定者。その特異なクラス特性故に、彼女達ルーラーには通常のサーヴァントを越えた特殊な力が与えられる。

その一つが、10キロ四方にも及ぶ広範囲のサーヴァント探知能力。

 

「高ランクの"気配遮断"スキルを持つアサシンならともかく、この城の中で私の探知をすり抜けて接近するのは不可能な筈です。」

 

「あのアヴィケブロンって奴は魔術師(キャスター)なんだろ?なら、この城が奴の工房…って事なら、それが出来るんじゃないか?」

 

「それでも、です。それに彼等が来るより先に、私達はこの中に侵入して魔獣も撃破していました。それは工房を荒らされたと同じ事…工房を破壊された魔術師がその力を十全に発揮するのは難しいですし、仮に工房を城の一角に限定していたのなら、やはりここまで私の探知に引っ掛からなかった説明が付かない…。」

 

ジャンヌの言わんとする事を理解したビルドは、思考を巡らせながら周囲の敵を見渡した。

 

「つまり…こいつらは"普通の"サーヴァントじゃない、って事か。そういえばさっきからあいつら、全然喋って無いしな。」

 

言われてみれば、まるでスマッシュにされた人間に近い物を感じる。手当たり次第に敵を攻撃する、ロボットの様な無機質さ…少なくとも、ジャンヌやあのダヴィンチちゃん、それに立香の話に出てきたサーヴァント達の印象とは明らかに違う。

そもそも魔術に関してド素人の戦兎から見ても、アヴィケブロンが前線に出てきたのは違和感しかない。

先程から彼の行動は、召喚したゴーレムを用いての援護がメイン。戦況に応じてはそれも有りかもしれないが、少なくとも今、態々近接戦闘に秀でた二騎と並んで前に出て来るなど正直リスクの方が大きい筈だ。

 

「そうなります…敵が強い事に変わりは無いですが、もしかしたら何か突破口が有るかも…。」

 

「成程な…とにかく、ここは一度撤退するぞ。」

 

落とした剣を広い、彼等の元へ悠然と歩みを進めるモードレッド。

スパルタクスとアヴィケブロンも体勢を整え直し、三騎は二人を取り囲む。

そんな彼等を前に、ビルドはこれまでと異なる形状───まるで炭酸飲料の入った缶を思わせる、新しいボトルを手に取った。

 

「ライトのボトルとか、スチームシステム系の武器が有れば良かったけど…無い物ねだっても仕方ねぇ。力ずくで突破する!」

 

手にしたそれを振る度、炭酸が弾ける様な音が響く。

そうして内部の成分を活性化させた缶型フルボトル───『ラビットタンクスパークリング』のタブを上げて起動。

 

『ラビットタンクスパークリング!』

 

起動したそれをドライバーに差し込んだビルドが、ハンドルを手に回し始める。

前後に形成される、歯車を二つに分割したかの様な形状のスナップライドビルダー。ファクトリアパイプラインを流れるトランジェルソリッドには、発泡増強剤『ベストマッチリキッド』が加わり、パイプ内で幾つもの気泡が生じている。

 

『Are you ready?』

 

「ビルドアップ!」

 

掛け声と共に重なり合う前後のハーフボディ。これまでハーフボディの境目から生じていた白煙の代わりに、幾つもの泡が生じて弾ける。

 

『シュワっと弾ける!ラビットタンクスパークリング!イエイ!イエーイ!』

 

仮面ライダービルド・ラビットタンクスパークリングフォーム。

ラビットタンクをベースに泡を思わせる白が加わり、より鋭利な装甲を纏ったビルド。

 

「──────行くぞ!」

 

力強い叫びと共に、ビルドが跳ぶ。

辺り一体に無数の泡が弾け飛んだ。




・気付いたら見知らぬ場所
・普段と違う相棒
・未知の敵と戦う

───全部エボルトゼミでやった所だ!

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