ムルタ・アズラエル滅殺RTA ブーステッドマンチャート   作:ちゅーに菌

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3日振りの初投稿です。









タッシルの街

 

 

 

 

 

>"明けの砂漠"ねぇ……。

 

>レジスタンスを名乗っていますが、どういたしますか?

 

 もう始まってる!!!(挨拶)

 

 現在、戦闘終了後に明け方になり、直ぐにレジスタンスの"明けの砂漠"がアークエンジェルに接触を図ってきました。前回の戦闘マップを殲滅パターンでクリアしたため、当然ですがラミアス艦長とナタルさんは原作以上に半信半疑で慎重な様子を見せています。

 

>レヴィアタン中佐はどう思いますか?

 

>……? なぜ私――ああ、一応この艦で一番階級が高いんでしたね。

 

 流石に全くモビルスーツを倒していなかったため、ローンちゃんは特に興奮していない状態で艦橋にいました。ハイドラガンダムの整備をしようとしたところ、鹵獲したバクゥの対応でてんやわんやだったので、整備値の低いローンちゃんは気を使ってこちらに来ております。仕方ないね♀

 

>そうですねぇ……。とりあえず話だけは聞いてみるべきだと私は思いますよ? 仮にバギーとバズーカだけで、この地球連合軍の所属艦を狙おうとする世紀末的馬鹿な盗賊団ならそれでボロが出るでしょう。また、本当にレジスタンスならば、この砂漠での補給の目処も立つかも知れません。それに相手がレジスタンスを語ってる以上、一度拒否をすれば、この一帯の住民の心象も良くはなくなり、補給に支障が出るかもしれませんから、応じたという形は残すべきだと思います。

 

>そうね……バジルール中尉もそれでいいかしら?

 

>承知いたしました。そのように取り計らいます。

 

 ホント、シラフな時のローンちゃんは普通に優秀な士官ですね……。生体CPUにしては指揮値高いですし、出生が違えば普通に地球連合軍の艦長とかをしていたかもしれません。

 

>あれ? このモニターに映ってる人……レジスタンスのところにフロさんが向かって行っていませんか?

 

>えっ、フロさん……? ――キリシマ一尉!?

 

 するといつの間にかアークエンジェルから出ていたキリシマ姉貴が、レジスタンスの方に一人で向かっていく光景がモニターされました。更にローンちゃんが操作をすると、キリシマ姉貴にズームされ、異様に高感度な集音マイクにより、ザクザクと大股で強く砂漠を踏み締めるその足音さえ聞こえるようになります。えっ、なにそれは……(困惑)

 そして、ある程度までキリシマ姉貴がレジスタンスに近づくと、その中で見覚えのある男みたいな金髪の少女の肩が跳ねて、プルプルと震え始めたかと思うと――一キリシマ姉貴が口を開きました。

 

 

 

『カ ガ リ ()ァ……?』

 

 

 

 そのドスの効いた声に、顔を青くした金髪の少女――カガリ様は一目散に逃走します。しかし、戦闘用に調整されているコーディネーターだと思われるキリシマ姉貴は、カガリ様の倍以上の速度で砂漠を疾走し始め、瞬く間に二人の距離は詰まっていきます。

 

『キ、キサカ助――助け……殺される!?』

 

『カガリ様……そちらは自業自得です』

 

 カガリ様の御守り役をウズミ様に任せられているキサカさんは、突然の事態に若干臨戦態勢になるレジスタンスを制しつつ、そう返したすぐ後にカガリ様がキリシマ姉貴に捕まりました。

 カガリ様の両脇に自身の腕を通して、猫の悪い抱え方のような様子で持っており、良く見れば足が浮いているので、腕の力だけで54kgのカガリ様の体重を支えているようですね。

 

『キ、キキ……キリシマ!? なぜお前がこんなところに!?』

 

『オッホホホホ……! ごきげんよう、カガリ様。感動の再会とは行きませんでしたわね? それはこちらの台詞ですわよ? キサカ一等陸佐まで連れて、北アフリカの砂漠でレジスタンス? あらあら、私は蜃気楼でも見ているのかしら?』

 

『こ、これはだな……深い訳が――』

 

『なんで貴女様がこんなところに居るのかと聞いているのですのよ?』

 

『いや……だから私の話を聞い――』

 

『――るっせぇ!! どうせ、カガリ様がまた勝手に飛び出して来たんだろがァ!? ヘリオポリスの次はザフト圏の砂漠だとォ? テメェどんだけ侍女のアタイと、ウズミ様を心配させりゃ気がすむんだァ!? あ゛あ゛ん?』

 

『あぁー!? 痛い痛い痛っい!? 痛いんだよぉ!!』

 

 

>……………………。

 

>……………………。

 

>……………………。

 

 聞いている(言い訳を聞くとは言っていない)。キリシマ姉貴はカガリ様の側頭をそれぞれ拳骨で挟み、54kgの体重をものともせずに腕力だけで宙に浮かせながらグリグリとお仕置きをしています。ああん、ひどぅい(建前)。当たり前だよなぁ……?(本音)

 艦橋にいる一部始終を見ていた三人の士官は絶妙に感情の見える無表情をしつつ、無言でキリシマ姉貴とカガリ様の絡みを見ていました。

 

 今の光景から簡単に推察すると――。

 

 

・キリシマ姉貴はオーブ氏族

・あのキリシマ姉貴が様付け

・一等陸佐(オーブでしか使われない階級)

・キリシマ姉貴はあの金髪の少女の侍女らしい

・\ウズミ様/

 

 

 (これはもう隠すのは最初から)ダメみたいですね……。それはそれとして、キリシマ姉貴はどうやらカガリ様の世話係りをしていたみたいです。ということはオルフェンズで言えば、カガリ様はクーデリア嬢で、キリシマ姉貴はフミタンの関係ですか! 配色も気持ち一緒だぁ!

 うるせぇクーデリアと、汚ねぇフミタンだなぁ……(豹変) ああ、フローレンスってフローレンシアとかそう言う……(解釈違い)

 

 ラミアス艦長はそっとコンソールを操作して映像とマイクを止めると、まだ唖然としている艦橋のクルー全員に向き直り、笑みを作ると口を開いた。

 

 

>何も見なかったことにしましょう……。

 

>……では予定通り、レジスタンスと話をつけます。

 

>ガレージ見てきますねぇ。

 

 

 俺のログには何もないな。ふと思ったんですけど、この世界線のカガリちゃんの口の悪さは、侍女の影響が濃厚ですねクレワァ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

>ちょっと待てよ、フレイ! そんなんじゃわからないよ! ちゃんと話を……。

 

>うるさいわね! 話ならもうしたでしょ!? キラ!

 

>え……?

 

>フレイに話があるんだ! キラには関係ないだろ!

 

>関係なくないわ! だって私、昨夜はキラの部屋にいたんだから!

 

>ど……どういうことだよ……フレイ……。

 

>どうだっていいでしょ! サイには関係ない!

 

>関係ない!? 関係ないってどういうことだよフレイ――。

 

 現在、レジスタンスの本拠地にアークエンジェルを隠し、これからの航路などを士官らが話し合った後、皆様ご期待の通りの"やめてよね"イベントとなります。

 

>――――――!

 

 そして、そこに偶々居合わせた(強制イベント)ローンちゃんは顔を赤らめてゾクゾクしていますね。

 このイベントはキラくんのストレス値が、やめてよね(動詞)する程は貯まっていないため、やめてよねする程は追い詰められておらず、フレイちゃんと寝たために負い目からサイくんに強くも言えないため、めんどくさいやり取りが暫く続くRTA的にもプレイヤー的にも得にならないイベントです。いや、ローンちゃんは喜んでいますけど。

 本来ならやめてよねするか、フレイちゃんを物理的に始末することがRTA的には大正義でなんですよね。要するにローンちゃんの性癖スキルの弊害がここに来て本気を出し始めたということです(半笑い)

 

>――――――♪

 

 まあ、タイム的にはまずあじなんですが、今までローンちゃんの戦闘によって、これまでに無いほどタイムは縮まっていますので、必要経費と言ったところでしょう。ピンクの悪魔に捕まるより――失礼、ピンクの悪魔に捕まるよりずっとマシなので甘んじて受けましょう(大事な事なので二回ry)

 

>みなさーん♪

 

 おや? 口論を続ける三人にとてもいい笑顔のローンちゃんが向かっていきます。やめてよねする程精神的には荒んでいませんが、幼女先輩などの死という心傷によってフレイちゃんに慰められた(意味深)せいで、サイくんに会わせる顔がないキラくんはすがるような目でローンちゃんを見ます。キラくん、ソイツは性関連の争いを生み出す権化やで……。

 

>ん――。

 

>――!?

 

 すると何を思ったのかローンちゃんはサイくんに迫ると正面から優しく抱き着いて口付けをしました。それもディープな奴です。余りにも突発的な行動に、サイくんを含めてその場にいた全員が停止します。

 そして、十数秒後にローンちゃんはサイくんから唇を離すと、石像のように固まるサイくんに抱き着いたまま、顔をキラくんとフレイちゃんに向けて、少し蕩けたような視線を送りながら口を開きました。

 

>別にぃ……キスもセックスも恋人でもなんでもなくてもしますよぉ? だから、口約束の婚約を解消した男女が互いに何をしても言われる筋合いは無いと思いますけど? ねえフレイさん、キラくん? サイくんも早く割り切った方が大人ですよぉ?

 

>…………やめ……や、止めてくれ! クソッ! クソッ!?

 

 顔を赤くしたサイくんはバツの悪そうな表情を浮かべると、少し頭が冷えて周りの視線に耐えられなかったのか、そのまま逃げるように去っていきました。

 

>――――ッ!

 

 その時、ローンちゃんがチラリとキラくんを見ると、ローンちゃんの行動にチクリと胸が痛んだような表情をしており、フレイちゃんも去って行くサイくんとローンちゃんを交互に見ながら何とも言えない様子をしていたことが印象的ですね。無論、ローンちゃんはそんな二人を見て、寝取り&寝取られ欲を満たしたのか頬を赤らめています。無敵かよお前……(ドン引き)

 なんてことでしょう……。今のローンちゃんの行動で3分ほどタイムが短縮しましたよ。やめてよね(建前) ナイスゥ!(本音)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

>真っ赤ですねぇ……!

 

 現在、ハイドラガンダムのコックピットから降りて佇むローンちゃんの眼前には、バルトフェルドさんによって火の海に変えられたタッシルの街が闇の砂漠を照らしています。前もって警告することで、バクゥによって死傷者ゼロで街を焼き討ちにするという却って難しいことをされていますね。家さ、屋上あるんだけど……焼いてかない?

 

>……どのくらいやられた?

 

>死んだ者は居らん。

 

 髭を生やした恰幅のいいレジスタンスのリーダー格の男――サイーブさん、タッシルの長老、カガリちゃん、そしてムウさんの会話をローンちゃんとナタルさんが静観しております。

 

>最初に警告があったんでな。今から街を焼く、逃げろとな。食料、弾薬、燃料…全てが焼かれた。確かに死んだ者は居ない。じゃが……これではもう……生きてはいけん。

 

>なんだと!?

 

 焼け野原を見ながら長老が呟いた言葉を聞いたカガリは、癇癪を起こしたような様子で地団駄を踏み、尚も収まらない怒りに震えています。サイーブさんも似たような様子ですね。

 

>ふざけた真似を! どういうつもりだ! 虎め!

 

>だが、なんとかできるだろ? 生きてればさ。それにどうやら虎は、あんたらと本気で戦おうって気はないらしいな。

 

>どういうことだ?

 

>見てわからないのか? こいつはレジスタンスに対する報復――てか、お仕置き程度だろ。こんなことぐらいで済ませてくれるなんて、随分と優しいじゃないの、彼?

 

 そう言うムウさんの言葉に、サイーブさんや他のレジスタンス、街の住人たちも怒りに満ちたような目をしていましたが、ムウさんは特に気にした様子はありません。ローンちゃんはと言えば、そんな人々を見回してから小さく溜め息を吐いていました。

 

>なんだとぉ!? こんなこと!? 街を焼かれたのがこんなことか!? こんなことする奴のどこが優しい!?

 

>失礼、気に障ったんなら謝るけどね。けどあっちは正規軍だぜ? 本気だったらこんなもんじゃ済まないってことくらい、分かるだろ?

 

>あいつは卑怯な臆病者だ! 我々が留守の街を焼いて、これで勝ったつもりか! 我々は、いつだって勇敢に戦ってきた! 過去にバクゥを倒したこともある! だから、臆病で卑怯なあいつは、こんなことしか出来ないんだ! 何が砂漠の虎だ!

 

 カガリちゃんを始めレジスタンスの方々はもうこれ、言葉が通じる感じじゃないですね。まあ、当事者からしたら無理もないですが、"パナマ攻防戦"辺りのザフト軍を見てしまうと、優しいなんてものじゃないですからね。仕方ないね。

 

>奴らが街を出て、まだそう経ってない! 今なら追い付ける!

 

>街を襲った直後の今なら、連中の弾薬も底をついている筈だ! 俺達は追うぞ! こんな目に遭わされて黙っていられるか!

 

>バカなことを言うな! そんな暇があったら怪我人の手当をしろ! 女房や子供に付いててやれ! そっちが先だ!

 

>それでどうなるっていうんだ! 見ろ! タッシルはもう終わりさ!家も食料も全て焼かれて、女房や子供と一緒に泣いてろとでもいうのか!

 

>まさか、俺達に虎の飼い犬になれって言うんじゃないだろうな。サイーブ!

 

 するとレジスタンスの若い男達はそう言って、サイーブさんの制止を振り切り、次々とバギーに乗り込むと、バクゥが去って行った方向へと駆けていきます。

 仕方なくサイーブさんも彼らの後を追い、カガリちゃんは残そうとしましたが、少年兵――アフメドくんに連れられて向かってしまいました。やべぇよ……やべぇよ……。

 その一部始終を見送り、ナタルさんは呆れ顔になると溜め息を溢します。

 

>全滅しますよ? あんな装備で、バクゥに立ち向かったら!

 

>まあ、そうでしょうねぇ。一応、ラミアス艦長に事情を説明して、キラくんを送るようにでも言ってあげてください。私は……もう少し難民の方々の怪我の手当てでもしていますよ。

 

 おや? この戦闘では何故かローンちゃんが動こうとしませんね。本来なら手動に切り替えて動かさせるべきなんでしょうけど……ぶっちゃけこの戦いに手を出すと、バルトフェルドさんが死ぬ確率が上がったり、キラくんに関心をあまり持たなくなり、ケバブイベントがなくなったりするので、RTA的には実質イベント戦みたいなものなんですよね。

 なので、ローンちゃんが戦わないで居てくれているのはとても助かります。

 

>レヴィアタン中佐は行かないのですか……?

 

>ええ、行きたいとは思いますが……勝手に死にに行く方々のお守りをするような趣味も時間も私にはないので。ホント……許せないよね。

 

>やっぱクローセルもそう思うか。

 

 ナタルさんの意外なものを見るような様子に、ローンちゃんはそう返し、それにムウさんも肩を竦めました。あっ、ちなみにレジスタンスの方々は居てもいなくても進行上には大差無いので、カガリちゃんさえ生き残れば何も問題ありません(1敗)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――死にたいんですか」

 

 キラは珍しく、泣きそうな顔で自分の前に立ったカガリや、サイーブたちに向かって、低く言った。バギーやランチャーでバクゥに挑む、死にに行く以外の何物でもないだろう。それに彼は静かに怒っていたのである。

 

「こんなところで……なんの意味も無いじゃないですか」

 

「なんだと!?」

 

 途端にカガリが噛みついて来る。 彼女はキラの胸元を掴むと、片手を振って背後を指した。

 

「見ろ! 彼らにそう言えるのか!」

 

 そこには何人かの死体が横たえられていた。キラとそう歳も変わらない少年の変わり果てた姿もある。カガリは目に涙をため、尚もヒステリックに喚く。

 

「みんな必死で戦った! 戦ってるんだ! 大事な人や、大事なものを守るために必死で……!」

 

 守る。守りたいから、 戦う。だがこうなってしまえば、一体誰を、何を守れるというのか。それはキラと同じだ。自らの甘さのせいで失敗して、その代償にキラは他人の命を失い、目の前の少年は自分の命を失った。

 

 しかし、この少女はその愚かさに気づかず、いつまでも同じことを繰り返そうとしている。

 

 "気持ちだけで、一体何が守れると言うのか"そう考え、キラは自身の気持ちの自制が効かなくなり、喚くカガリの頬を張り飛ばそうとし――。

 

 

『戯れ言ですね。守りたい? 自分の手で相手を殺したかったの間違いでしょう?』

 

「なんだと……?」

 

 

 スピーカー越しの見知った声が聞こえ、気持ちがそちらに向き、空を見上げれば悪魔のような機体――ハイドラの姿があった。

 

 キラとカガリの近くにハイドラが停まったかと思えば、コックピットが開かれ、直ぐにパイロット――クローセルが降りてくるとカガリの前に立つ。

 

 その表情は相変わらず、朗らかな笑みに染まっており、状況にそぐわないそれは恐怖さえも覚えるかもしれない。

 

「頑張った。やるだけはやった。必死で取り組んだ。力が及ばなかった。全く……下らないことです」

 

「ふざけるな! 皆必死でやったんだ! それをお前は――」

 

「そんなの結果を出せなかった者が取り繕うだけの言い訳ですよ。無駄でしかなかった死を、生き残ったものが受け入れきれずに大層な名前を付けているだけのただの戯れ言です。戦争は勝って終わらねば意味はない。そんなことすらわからないのですか?」

 

「この……!」

 

 カガリは拳を作りクローセルに殴り掛かる。体格差はあろうとも斜め下から顔に届いたその拳は、確かに頬に強く突き刺さった。

 

「いっ……!? 痛……!」

 

 しかし、異様に硬い顎骨と筋に阻まれ、まるでクローセルは堪えた様子はない。それどころか、自身の手を守る正しい殴り方をしていないカガリの拳の方が堪えている様子である。

 

 クローセルは拳を押さえて1~2歩後退するカガリを見ながら困り顔を浮かべて小さく溜め息を吐く。

 

「本当にお優しい方でなければ……タッシルの街を焼き、それに怒り狂って釣られたレジスタンスを殺すことがそもそもの目標でしょう。馬鹿で釣れてくれれば皆殺しに出来て結構、利口で釣られなくとも街の住民を難民にし、レジスタンスに長い目で見たダメージを与えれる……そうでしょう? それを虎は臆病者だの、襲撃後だから弾薬が足りてないだの、飼い犬になるのはゴメンだの、戦える理由を自分で作って……」

 

「な――!? そ、そこまでわかっているならどうして言わなかったんだ!? そうすれば――」

 

「そうすれば……何ですか? 言ったところであなた方は聞きましたか? あなた方がすべきことは、私とハイドラ、キラくんとストライク、あるいはキリシマさんとデュエル……そのどれかひとつでも無理矢理にでも動かさせて、先に戦わせることだったんですよ。それは本当に出来なかったのですか? 切り捨てる必要があったのですか?」

 

「そ、それは……」

 

 何故か口ごもるカガリ。そんな彼女に見せつけるように、クローセルは並べられたレジスタンスの死体を指差す。そして、少しだけ冷えた視線をしながら更に言葉を続けた。

 

「あれらの死体が今こうして転がっているのは……本当に虎さんだけのせいですか……? カガリちゃん?」

 

「――――――ッ!」

 

 カガリは唇を噛み締め、強く拳を握りながらクローセルを睨む。

 

 他ならぬ、クローセル・レヴィアタンは"世界樹の悪魔"としてレジスタンスにも知られ、モビルスーツを50機以上をほぼ単独で撃墜している地球連合軍の大英雄である。最初の開戦で、誰よりも早くバクゥを撃墜して見せた手腕は疑うまでもないだろう。

 

 要するに彼女はこう言いたいのだ。"力もないのに前に出るな"――と。

 

「下らぬ驕り、つまらない憎悪、矮小な葛藤、それらさえ捨てていれば誰一人死ななかった! あるいは最小限の犠牲で済んだ! このどこが無駄死にでは無いというのですかぁ……? それに向き合うべきは――誰でもなくあなた方でしょう?」

 

「コイツ――!?」

 

 再び、カガリがクローセルに拳を振り上げようとした直後、一発の銃声が響く。そして、クローセルの体が少し傾くと共に、カガリの顔に彼女の鮮血が振り掛かる。

 

 状況が飲み込めないカガリ。そして、明らかに銃撃を受けたクローセルを尻目に辺りを見渡せば――一人のレジスタンスの少年兵が憎悪に溢れた顔でこちらに拳銃を構えており、その銃口から煙が立ち登るのが嫌に印象的に見えた。

 

 ワンテンポ遅れて、サイーブや周りの生き残ったレジスタンスに少年兵は取り押さえられ、ようやく事態を理解したカガリがハッとした表情になり、顔を青くする。彼女とて頭に血が昇り、やり過ぎたことは理解しているのだろう。

 

「な、何をしている!? こんな――」

 

「ほら……これです。人は一時の感情で簡単に引き金を引ける。他ならぬ友軍にさえもね。ザフト軍と悪戯に戦い……地球連合軍中佐を銃撃するレジスタンスですか。この行動が……あなた方にどんな結末をもたらすのかすら考えもせずに。この銃弾が、あなた方の愚かしさそのものですよ。そもそも――」

 

 上半身に銃撃を受けたにも関わらず、クローセルは血を流しながら体勢を戻すとカガリに向き合う。そして、いつもの笑みをより一層深く浮かべるとカガリの肩を掴む。

 

「うっ……!? ああッ!?」

 

 その腕力はおよそ人間のモノとは思えず、万力で挟まれたようにミシミシとカガリの肩は軋み、思わず痛みから声を漏らす。しかし、クローセルは直ぐに力を緩め、カガリと目線を合わせたまま、目を細めると更に笑みを強めた。

 

 

 

「勝ち目のない戦いに、"死んでこい"って自分の仲間を送る人たちより、私のほうがよっぽど優しいと思うんですけど?」

 

 

 

 それだけ吐き捨てるとクローセルはカガリの肩をそっと離す。そして、自身の傷口に取り出した細身のナイフの刃を入れ、半ばで止まっていた弾頭を取り出すと、己の血で赤く染まったそれを指で弄り始める。

 

 最後にその銃弾をカガリの手に握らせると、クローセルは"あなた方の敵は私が皆殺しにします"とだけ呟くとハイドラに戻り、そのまま機体を動かして、タッシルの街があった方向に向かって行った。

 

 カガリは悲壮、怒り、無念、後悔などが入り雑じったような表情で握らされた赤い弾頭を眺め、やりきれない様子で震えている。

 

 二人の一部始終を眺めていたキラは、彼のために残したのか、あえてクローセルが言葉にはしなかったであろう胸に秘めた言葉をポツリと呟く。

 

「気持ちだけで、一体何が守れるって言うんだ……」

 

 その言葉に胸を締め付けられるような様子で、目を大きく見開いたカガリの様子がキラには酷く印象的に見えた。

 

 

 

 

 

 








今回は概ね原作通りですね!(援護射撃)

砂漠の虎編小説にしにくい……しにくくない……?


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