ムルタ・アズラエル滅殺RTA ブーステッドマンチャート   作:ちゅーに菌

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空白の2週間で体調を崩していた飼い猫が通院虚しく死んで火葬して遺骨が家に帰ってきましたが初投稿です。


※2歳になれなかった自宅の庭で拾った捨て猫の飼い猫の死亡でメンタルブレイクされたので、次は気晴らしに別の小説を更新するかもしれないのでご了承ください。





砂漠の虎 最終戦(後)

 

 

 

 

 

>無駄死にしに来るなんて……許せないよねっ!!

 

 

 もう始まってる!(挨拶)

 

 バックではローンちゃんが、ビームサーベルを展開しつつ背部の武装を放つバクゥ、距離を取り空中から攻撃するディン、シグーアサルトやジンアサルト等に対し、IDコマンドを発動して、全能力アップ+反撃威力50%アップ+特殊装甲貫通で迎え撃っています。

 

 さて、恒例になりつつあるので、薄々感じていると思われますが、今回も勿論、鹵獲して行きたいと思います。まあ、鹵獲も後一度か二度で終わりますので、リセットが絡むのが怖いのもそれまでの辛抱ですね。

 今回の目標はシグーディープアームズ1機に加え、ケルベロスバクゥハウンド1機の鹵獲になります。シグーディープアームズは2機しかいないので、両方とも撃破してしまった瞬間にリセット確定です。

 

 ちなみにシグーディープアームズとは、シグーの派生機のひとつであり、地球連合軍から奪取した4機のGAT-Xシリーズを解析して得たMS用小型ビーム兵器技術の検証を目的とした実証テスト機の事ですね。

 バックパックから伸びるアームを介して両肩部側面に配置されており、非常に信頼性の高い"JDP8-MSY0270 試製指向性熱エネルギー砲"。ソードストライカーパックのシュベルトゲベールに似た基本構造の"NOL-Y941 レーザー重斬刀"。ジンが装備しているモノの改良型の"MMI-M7S 76mm重突撃機銃"の三つの武装を装備しており、シホ・ハーネンフースちゃんが愛機にするぐらい優秀な機体です。

 今後、ザフト軍のフェイズシフト装甲を積んだ機体を相手にする場合、強襲偵察型ジンや前期型バクゥでは有効打がほぼありませんので、ムウさんか、カガリちゃんにはこちらの機体に乗っていただきます(鋼の意思)。余りにもよく刺さる機体を向こうが用意してくれているんですから、ちゃっちゃと鹵獲してどうぞ。

 

 逆にケルベロスバクゥハウンドは、鹵獲したら場所も取るので、すぐに分解してフェイズシフト装甲とケルベロスウィザードにしておきましょう。フェイズシフト装甲は、万一のストライクとデュエルの修理パーツに使えます。ケルベロスウィザードは……まあ、そのうち必要になりますので楽しみにしていてください。

 ちなみにケルベロスウィザード――もといウィザードシステムとは、ザフト軍がストライカーパックシステムを元に開発したモビルスーツ用の武器換装システムのことです。基本的にストライカーパックシステムが、ストライクとダガーに互換性があるように、ウィザードシステムは"ザク"を対象にしており、それ以外では一部がバクゥ等にしか互換性がありません。

 勘のいいホモ兄貴視聴者は、要するに最終的に何を鹵獲する気なのかわかったかも知れませんが、今度余計なことを言うと口を縫い合わすぞ(デェェェン)

 

 ああ、ちなみにですが、このGジェネでは、大昔に携帯機版であった"パーツシステム"をより強化して採用しています。それにより、改造を行うためにはレベルに加え、原則として指定されたパーツが必要なので、ニューゲームから機体を開発しまくって無双するというプレイが実質不可能になっています。ゲームバランス的にうまあじですね。

 説明していませんでしたが、要するにアサルトシュラウドを纏っているムウさんの強襲偵察型ジンも、鹵獲して分解したジンアサルトからアサルトシュラウドを剥ぎ取り、それを使って改造したということです。他に例を上げれば、本来は順序逆ですけどストライクダガーにラミネート装甲を足して開発すれば、105ダガーとなるといった感じです。

 

 というか、普通に考えたら当たり前だろ。なんでストライクのレベル上げて開発ボタンポチるだけで、フリーダムになるんだよ、おかしいダルルォ!?(豹変)

 

 え? 単発動画のハシュマル? いや、アレは仕様上仕方のない事と言うか、一部の例外というか……。そもそもオルフェンズでモビルアーマーが種類は出てこないせいで、開発ツリーがアホみたいな事になり、ハシュマルくんが廉価版デビルガンダムみたいにぞろぞろとプルーマを生み出すせいじゃないですかね? なんの問題ですか?なんの問題もないね(許容の心)

 まあ、一応、プルーマはシステムデータ上でオルフェンズシナリオをクリアすることにより、発掘のリストに入る機体なので、ニューゲームからのRTAだと使えないため、RTA的にはTASさんの休日みたいなものですね。

 

 

"Gジェネに、やり過ぎというものはないんだよぉ!"

 

 

 まあ、クロスレイズで御大将がゴッドフィンガーするときにそんなことを言っていた気がしますが、それはそれこれはこれです(鋼の意思)。周回プレイでやりましょう。

 

 

>アハッ……弱いっ、弱いっ、弱いっ!!

 

>あ、あぁぁあぁぁぁ――!!!?

 

 

 ああ、今さらですけどローンちゃんの戦闘BGMに設定しているので、戦闘時にこれまでずっと流れていた曲は、DestinyのBGMである"狂気の果て"、"妖気と微笑み"どちらかがランダムに流れるようになっています。

 え? エクステンデッドのテーマじゃないかって? ブーステッドマンそのものを現したBGMの"悪の三兵器"はどうしたと? 誤差だよ誤算!(ホモ特有のガバガバ理論)

 まあ、単純に投稿者が生体CPUならこっちのBGMの方が好きだからですね。格好いい……格好よくない……?(投稿者名参照)。DestinyはBGMだけなら普通にガンダム作品でも最上位だと思うんですよね(満面の半笑い)

 

 ローンちゃんは地に足を付けて戦ってはいますが、二段クイックブーストでもしているかのような平面移動を、常時している頭ドミナントな変態っぷりなので、あんなん当てれる方がおかしいと思います。CPUかよコイツ……あっ、生体CPUだったわ(納得)

 とは言え、流石に四方八方から掃射されているため、銃器の流れ弾を避けきれずに時々少しだけ当たりますが、ハイドラガンダムのガンダニュウム合金(ガンダニュウム合金とは言っていない)の前に1000分の1程度の微量なHPを削るに過ぎませんので、まだまだローンちゃんは元気いっぱいですね。

 

 さて、モビルスーツ30体程に囲まれて大変ご満悦なローンちゃんは、シグーディープアームズの位置も遠いので、少し放置しても特に問題なさそうですね。視点をカガリちゃんに変更しましょう。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

>――やったぞ! どうだっ!

 

 場面は切り替わり、ローンちゃんとアークエンジェルの中間にいるカガリちゃんです。おっと、カガリちゃんがバクゥのレールガンで、敵バクゥ1機の横腹を丁度吹き飛ばして倒したところですね。今のところバクゥを2機とジンアサルトを1機墜としているので、流石は結局よく分からない理由で種割れする上、当然のようにモビルスーツを乗り回すナチュラルのお姫様は違いますねぇ。

 キラくんが殺人や戦争に本気で苦悩している分、それと違って殺人にさっぱり苦悩していないのは、オーブ軍人の鑑にして、人間の屑がこの野郎……(男勝り)。まあ、この世界線だとカガリちゃんの世話係りがキリシマ姉貴だったみたいだしなぁ……(驚異の説得力)

 

 現在、戦闘マップでのカガリちゃんの立ち位置は、Gジェネやスパロボ特有の後半戦の戦闘に突出した位置に配置される強制出現ユニットかつ、撃墜で敗北条件付きです。はー、つっかえ!(殺意)

 そのため、スパロボでデビルガンダムの目の前が初期位置のドモンとシャイニングガンダムの如く、全力で後退させずに放って置くと死にますね。いや、現在の敵戦力は大幅に強化されているので一概には言えませんけど。

 要するに前半戦でアークエンジェルを下げ過ぎると、後半戦でこうして出ているカガリちゃんが大変なことになるのですが、今プレイでは極力アークエンジェルは退かせず、ハイドラガンダムが1ターンでカガリちゃんを追い越して敵陣に突っ込んで行き、残存戦力の6~7割を相手にしているので、そこそこ安全ではあります。カガリちゃん自体もキリシマ姉貴やムウさんに次ぐほどのステータスがありますし、スカイグラスパーと違って陸地のバクゥは無茶苦茶優秀ですからね。

 

 ちなみにですけど、カガリちゃんはこの戦闘マップでの出撃時、アークエンジェルにある機体の中で、一番性能のいい機体に乗って出撃するため、今回はバクゥが選ばれた訳です。

 また、アークエンジェルに補給されたスカイグラスパー2機は何故か解体出来ず、あらかじめ全て撃墜させても、このマップで3機目のスカイグラスパーに乗って出てきますので、プレイヤーはなんだこのオッサン!?状態になりますが、特に説明はされないので詰み防止の仕様なんでしょう。仕方ないね(許容の心)

 更に蛇足ですけど、アークエンジェルに載っている一番性能のいい機体は、本当に何でも乗ろうとしやがるので、ストライクでも、ニュータイプ専用機でも、デビルガンダムでも、果ては宇宙専用機だろうとマップ上に乗ってカガリちゃんは出現します。そのため、1マスも移動出来ませんが、宇宙専用機が地上に出ているというそこそこレアなものが見れますね。

 

 うーん……まあ、でも今回に関してはちょっとマズいですね。それというのも――。

 

 

>よし当たっ――な、なんだ!? 直撃したのに――。

 

 

 あー……丁度、カガリちゃんが迎撃し始めたケルベロスバクゥハウンドにフェイズシフト装甲が付いているためですね。

 こちらに向かって来るケルベロスバクゥハウンドを驚くべき精度でレールガンを当てるカガリちゃんのバクゥですが、相手も理解しているためか、一切勢いを緩めずに突進してきます。

 

>ぐぅぅ!?

 

>邪魔だっ! 墜ちろぉ!!

 

 ケルベロスバクゥハウンドのウィザードシステムの武装である二つの頭部に見える部分――ウィザード頭部リトラクタブルセレクション内ビーム砲で幾度も攻撃され、カガリちゃんは頑張って回避しています。

 しかし、案の定、カガリちゃんが乗っているバクゥは前期型のため、ビームサーベルが装備されていない兼ね合いで、レールガンと体当たりぐらいしか攻撃方法がないため、フェイズシフト装甲に対する有効打がひとつもありません。

 1対1なら引き付け続けることぐらいならなんとかなりそうですけれど、更にケルベロスバクゥハウンドが二機、カガリちゃんの方に向かって来ているため、このままでは撃墜は免れませんねぇクレワァ……。ああん、ひどぅい。

 

>このまま押し切って、せめてあの船を――。

 

>女王様とお呼び。

 

>――がッ!?

 

 すると、ローンちゃんの指示通り、カガリちゃんの援護にやって来たキリシマ姉貴のデュエルが投げたストライクの盾が、カガリちゃんと対峙するケルベロスバクゥハウンドの胴体に激突します。

 フェイズシフト装甲の前に物理ダメージはありませんが、単純にケルベロスバクゥハウンドの半分程のサイズの硬い鉄の塊が機体に激突したわけで、その衝撃で吹き飛ばされます。コックピット狙って中の人間を殺しに来ている辺り、フェイズシフト装甲作ったオーブ側の連中のガチ対策っぷりがよくわかりますねクレワァ……。

 

 ケルベロスバクゥハウンドは、よろけつつも引き、こちらに来ていた二体のケルベロスバクゥハウンドと合流して、カガリちゃんのバクゥの前に立ち塞がるキリシマ姉貴のデュエルを囲みました。三人に勝てるわけないだろ!

 

>失礼ですが……ぶっ飛ばさせていただきますわァ!

 

>ナチュラル風情が……! 調子に乗るなァ!

 

 三機のケルベロスバクゥハウンドがキリシマ姉貴に突撃する最中、デュエルは盾を投げたためにストライクのビームライフル一本だけになっていましたが、そのビームライフルさえ投げ捨て、背中のビームサーベルを二本抜きました。

 ちなみにキリシマ姉貴のステータスは、レベルを最大まで上げても射撃値の命中率に難を抱え、逆に格闘値は下手な名前持ちのエースパイロットを超える値を持つため、基本的に射撃機体よりも格闘機体に乗せたり、格闘武装で攻めるのが吉ですね。他のステータスの特徴としては、回避に関係する反応値が高く、それに次いで覚醒値が高いため、ファンネル、GNファング等の覚醒値を参照して射程と威力を伸ばすタイプの武装を積んでいる機体に乗せるのもいいですね。格闘武装かつ覚醒値参照のハシュマルのテイルブレードとかと無茶苦茶相性良かったりします。

 

 と、そんなことを説明していると3機のケルベロスバクゥハウンドは、本体の頭部に5基、ウィザードの頭部に4基装備されたビームファングシステムを展開し、ウィザード頭部ビーム砲を撃ちながらデュエルに迫って来ます。

 デュエルにケルベロスバクゥハウンドとか、スターゲイザーのトラウマ以外何物でもないですねぇ……。

 

 まあ――。

 

 

>フンッ! 歯応えのない奴らですわね。

 

>クッ!? なんだコイツ!? 本当にナチュラルなのか!?

 

 

 デュエルには砂地に適応するプログラムをOSに組み込んでいるため、砂漠を滑るように走行することで、ケルベロスバクゥハウンド三機をウィザード頭部ビーム砲を避け、初見ではないようにビームファングシステムに対応しているキリシマ姉貴からすると負ける未来が想像出来ませんねぇ。外伝作品でやたら高性能なオーブ製のコーディネーターなんだよなぁ……。

 また、ケルベロスバクゥハウンドって、精々Destiny時代の量産機に毛が生えた程度の性能なので、キリシマ姉貴の乗る初期デュエルと比べても一回りは性能差があるんですよね。その上、乗っているのはGジェネオリジナルキャラでトップクラスに反応値と格闘値の伸びのいいキリシマ姉貴ですしおすし。そこそこ育成も出来ているので、ゲーム的にはこの状況で負ける方が難しいんですよね(半笑い)。

 

 ちなみにムウさんは残りの航空機を撃ち墜としつつ、カガリちゃんの援護をアークエンジェルの上からするという大変器用なことを最初からしていますね。

 遊撃任務を与えられたキラくんは……何故かローンちゃんがワンマンアーミーをしている激戦区に、漏れたモビルスーツをエールストライクで相手にしながら向かっていますが、彼も大概なステータスのため、放っておいても多分死なないので別にいいか(放任主義)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カガリ・ユラ・アスハにとって、フローレンス・キリシマというコーディネーターは、自身の世話係り以上に姉のような存在であると同時に、自らが密かに目標とするほど"強い女性"であった。

 

『隙ありィ!地獄へ!……お行きなさい』

 

『な――ぎゃぁあぁぁぁ!?』

 

 最新鋭のバクゥの発展機であるケルベロスバクゥハウンドの一機が、突進と共に放ったビームファングの幾重もの刃を紙一重で躱し、その胴体を二本のビームサーベルでバツ字に斬り裂くカウンターで撃破する。

 

 ムウやキラが見ていれば、明らかにデュエルのパイロットよりも反応が良く精密な動きと、自身と比較しても極めて高い格闘戦能力に苦笑した事であろう。

 

 フローレンス・キリシマは軍人のオーブ氏族として戦闘用に調整されたコーディネーターであり、実力があるのはある種当然の事であるが、カガリにとってはそれ以上に芯の強い女性であり、広い背中を持つ女性であった。きっと、彼女のようになれれば……父親に認めて貰えると無意識に考えてしまう程に。

 

『く、クソッ!? コイツ!』

 

『よくもッ!』

 

 残りのケルベロスバクゥハウンド2機は片方がウィザード頭部ビーム砲を放って牽制し、もう片方がビームを回避するデュエルの横腹を狙ってウィザードシステムを展開して襲い掛かる。

 

 砂漠の王者と呼ばれるほど完成したバクゥという機体の発展機なだけはあり、その動きから攻撃まで完璧と言っても差し支えないほど、機体の性能が引き出されていた。そして、ケルベロスバクゥハウンドのビームファングの手数は異様に多く、接近戦ならば無類の強さを発揮するだろう。

 

『はい残念』

 

『なにィ!?』

 

 しかし、キリシマとデュエルはその上を行く。そもそも"G"シリーズで平均的に高水準に纏まり、あらゆる場面で高いパフォーマンスを発揮するデュエルと、格闘戦の鬼才とも言えてしまうレベルの彼女に近接戦を仕掛ける事に無理があるのだ。

 

 デュエルはウィザード頭部ビーム砲と、嵐のようなビームファングを回避しながら、二本のビームサーベルで逆に二つのウィザード頭部を斬り落として見せる。

 

『跪いて詫び入れな!……ひれ伏しなさい』

 

『がッ――!?』

 

 更に間髪いれずにデュエルの膝蹴りが、通り過ぎる最中のケルベロスバクゥハウンドの胴体に突き刺さり、機体にダメージは無くとも内部のパイロットに衝撃を与えた。

 

 それにより、怯んだケルベロスバクゥハウンドは砂地に投げ出され――それを黙って見ているキリシマではない。

 

『これでバラバラ!……ですわ♪』

 

 即座にビームサーベルで倒れたケルベロスバクゥハウンドに襲い掛かり、胴体と上半身と下半身に分割するように斬り裂いてしまう。

 

 機体の残骸は爆発し、直ぐに最後のケルベロスバクゥハウンドにデュエルは向き直る。見ればその機体の胴体にはストライクの盾の赤い塗料が僅かに付着しており、最初にカガリを襲った機体だということが見て取れた。

 

『ンフフッ! 実力の差を思い知りまして?』

 

『なんだ……なんなんだお前らは!? クソッ! 楽な仕事の筈だったのに!』

 

 そう言いつつ、明らかに冷静さを欠いた様子で、デュエルから距離を取っているケルベロスバクゥハウンドに、デュエルはビームサーベルを何故か一旦収納する。

 

 そして、片腕を自身の顎の前に掲げ、更に掌を反って見せ、嘲笑うかのようなジェスチャーを取った。

 

『あらあら、お尻が丸見えでございますわよ?』

 

『何をふざけ――』

 

『うぉぉぉぉ!!』

 

『――――!?』

 

 次の瞬間、ケルベロスバクゥハウンドの背後に、キリシマの邪魔にならないように戦いを静観しつつ、徐々に背後に回っていたカガリのバクゥがタックルを仕掛けた。

 

 当然、フェイズシフト装甲により、ダメージは入らないが、既に盾が直撃して衝撃を受けている中のパイロットの行動を直接的に止め、デュエルに向かって弾き飛ばすには余りに十分過ぎただろう。

 

『喰らえってんだよォ!』

 

『あ――がっ……!!?』

 

 そして、その隙に滑走するようにデュエルをケルベロスバクゥハウンドへと滑り込ませると共に、その胴体にあるコックピット目掛けて全力で蹴り上げた。

 

 バクゥタイプは通常のモビルスーツよりも小さく、デュエルの一撃は喧嘩殺法でありながら、格闘技のように堂に入ったものにも見え、実際にケルベロスバクゥハウンドは数m上方に浮き上がる程の衝撃を受けている様子から、その確かな威力が伺えよう。

 

 しかし、やはりケルベロスバクゥハウンドのフェイズシフト装甲の前には全く無意味な行動であり、機体には目立った傷もない。

 

 ここでモビルスーツのパイロット乗りによくある話なのだが、何故かパイロットはあってもシートベルト等をしていない。あるいは、そもそもコックピットにシートベルトが付いていないように見えるモビルスーツもある。

 

 そして、今回は前者であり、そんな者がこれだけ度重なる物理的な衝撃を激しく受ければ、中のパイロットがどうなるのかという話である。特に最後の一撃は余りにも致命的であった。

 

『………………ぁ…………』

 

 頸椎骨折。要するに首の骨が折れたのである。更にそれ以外にも数ヵ所の骨折は破裂が見られる。即死ではないにしろ既に死んだようなものだと思っていいだろう。実際、パイロットはピクリとしか動いておらず、自爆は愚か、砂地に横たわったままの機体を動かせるような状態ではない。

 

 ケルベロスバクゥハウンドは、ほぼ無傷で無力化されたのである。

 

『キリシマ! よくや――』

 

『あ゛あ゛ん゛?』

 

『ひっ!? ご、ごめん!……なさい』

 

 勝手にバクゥを動かした事に負い目はあったが、それよりもドスの聞いた返答をされ、強く足音を立てながらデュエルを歩かせて来た方が遥かにカガリは怖かった。

 

 そして、デュエルが目の前まで来ると――最初に放り捨てたビームライフルが、丁度その辺りに落ちており、それを拾い上げると踵を返す。

 

『え……?』

 

『勘違いすんなよバカ野郎……? テメェの説教は後で山ほどあるが……今は切り抜けることが優先ですことよ?』

 

『あ、ああ……そ、そうだな!』

 

 モニターに映る青筋を浮かべた営業スマイル全開のキリシマを見つつ、気を引き締めるカガリ。この光景だけでも身分と関係のない両者のパワーバランスが伺えるだろう。

 

 ちなみに彼女が猪突猛進な性格や、無駄に高い行動力を持つに至った理由の一旦は、世話係りであり姉にも近い存在でもあるキリシマの性格に似たからだったりするが、当人達は互いに自覚はしておらず、キリシマに限っては"誰に似たのですの全く……"等と愚痴を漏らし、周囲に何とも言えない愛想笑いをさせていたりする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『アハッ……弱いっ、弱いっ、弱いっ!!』

 

『あ、あぁぁあぁぁぁ――!!!?』

 

 アークエンジェルが反撃に出てから僅か十分後。

 

 何故かザフト軍に対し、空中戦から地上戦に切り替えた"世界樹の悪魔"は、ビームナギナタを振るいジンアサルトを一文字に斬り裂く。

 

 現在、ハイドラは既に25体程にまで減ったモビルスーツに狙われているが、その攻撃をEMFシールドによる防御、更に単純な機動性と瞬間的なスラスター加速で踊るように避ける。そして、その合間に接近してビームナギナタで撃墜するという戦法を取っていた。

 

 明らかに戦争を、更に言えばモビルスーツ戦を楽しんでいるのは明白であり、ゆっくりと嬲られるようにザフト軍は数を減らし続けるばかりである。

 

 しかし、極力地上戦の状態で四方八方に加え、空中からも弾丸やビームの雨を避けるか、防御し続けるのは流石の"世界樹の悪魔"と言えども稀に無理が生じるようで、ディンの放った散弾の一部が中距離でハイドラに命中する。

 

『当たった……?』

 

『私を傷つけるなんて……許せないっ!!!』

 

『ヒッ――!?』

 

 しかし、それは結果的に"世界樹の悪魔"の攻撃対象を自身に向けさせただけであった。

 

 何せ、ハイドラは純粋に異常な強度を持つ合金で造られており、その上なんの作用かカタログスペックよりも異様に頑丈である。搭乗者の精神が反映されている等とふざけた事をと言えるかも知れないが、"世界樹の悪魔"に対峙した者ならばそんなカルト的な事も信じてしまいそうになる程、ハイドラという機体は悪魔的だったのだ。

 

『逃げ――』

 

 ディンは逃走しようとしたが、次の瞬間に機体の制御を失ったことに驚き、見れば片翼が切断された事に気付く。

 

 それは"世界樹の悪魔"がビームナギナタをブーメランか何かのように投擲したためだが、そのような事は浮力を失って重力に従い落ちる場所にハイドラが既にいる事よりは重要ではないだろう。

 

 ハイドラは砂地を蹴ると跳び上がり、ディンとほぼ同じ位置にあるビームナギナタを空中で掴み取ると、斜めにディンを両断した。

 

『――――――』

 

『切り刻む! 素敵になりましたねェ!!』

 

 喜色を含む声を上げながらも、他方から来る熱源を横目にしていた"世界樹の悪魔"は、太めのビームによる攻撃を避けつつ、そちらに目を向けた。

 

『へぇ……』

 

 そこにいたのはビーム運用試験機であり、シグーの発展型であるシグーディープアームズ。それまで獲物を狩るそれでしかなかった"世界樹の悪魔"の視線が、少しだけ別の色を帯びる。

 

『アレは便利そうですねぇ……!』

 

 次の標的を定めた"世界樹の悪魔"は、ハイドラをシグーディープアームズへと迫る。それに対し、ザフト軍は接近戦には持ち込まずに嵐のように弾幕を強めた。

 

『アッハハハハハ! 無駄な足掻き!』

 

 しかし、既に狩ることに集中している"世界樹の悪魔"は、当たり前のように避けつつ、シグーディープアームズへと向かう。

 

 彼女が余りにも異様な回避能力をしている理由は主に二つの要因がある。ひとつは宇宙で放たれる銃器よりも地上で放たれる銃器の方が弾速が遅く、彼女にとっては回避しやすいこと。もうひとつは彼女自身が、まだ完成している訳ではなく、戦う度により成長を重ねているためであろう。"世界樹の悪魔"は戦争で増幅する悪性の腫瘍のような悪魔なのだ。

 

 シグーディープアームズの元に到達したハイドラは、円を描くように移動しつつ、視界から外れると密かにステルスジャマーを起動した。

 

 そして、それによって生じたカメラ映像の隙を付き、生まれた1秒の時間でシグーディープアームズの目の前に現れると、しゃくりあげるように爪先でコックピットを蹴り上げる。ハイドラの爪先には、イージスのビームサーベル発生部に似た形の鋭利なパーツが付いており、それが無慈悲にもコックピットを貫いたのである。

 

『ムウさんのー!』

 

 それだけ言って機体を無造作に放ると、"世界樹の悪魔"はもう1機いたシグーディープアームズを標的に定め、同じ要領で詰め寄ると、今度はハイドラの指でコックピットを貫いた。

 

『カガリちゃんのー!』

 

 更に機体が流れ弾でそれ以上の被害を受けないようにそのまま蹴り飛ばし、自身は墜落した機体から距離を取って他のザフト軍と交戦する。

 

『うふふ……アハハハハ! これでまた皆で楽しく戦争を――――あれ?』

 

 すると"世界樹の悪魔"や、アークエンジェルに取り付こうとしていたザフト軍のモビルスーツ隊が逃げるように撤退し始めるのが見て取れた。

 

 残っているモビルスーツは精々多くとも30機程、航空機は壊滅、戦艦はアークエンジェルと交戦したことでレセップス級レセップスが大破及び座礁した事で3隻のみと既に戦線を維持できる状態ではなかった為だろう。今更ではあるが、全滅するよりは余程マシではある。

 

『ふふ、私のことを見て逃げようとするなんて、まさか逃げられるとでも思っているんですかぁ~?』

 

 それに対して"世界樹の悪魔"はどことなく怒気を孕みつつ、嘲笑うように調子外れな声を上げ、地上戦を止めて空に浮き上がる。そして、スラスターを展開させようとした直後、バクゥタイプの機体――オレンジ色のケルベロスバクゥハウンドが彼女の目に入った。

 

『やあ、クローセル! 遅れてしまったかな?』

 

 すると、バルトフェルドとアイシャの乗ったケルベロスバクゥハウンドが1機だけで撤退せずにハイドラの前に出る。

 

 それを見て、クローセルは恍惚な笑みを浮かべつつも、萎えてしまったような何とも言えない表情で眉を潜めていた。

 

殿(しんがり)ですかぁ……? 殊勝で無謀だとは思いますけど、私に受ける義務はどこにもありませんよぉ? あなた1機と残りの敗残兵、比べるべくもありませんね』

 

『だが、義務はなくとも義理とプライドはあるだろう? そして、きっと果たす! 君はそういう奴さ。何せエレガントなのだからな』

 

『……………………ふーん、まあいいですよ。何だろうと、私は殺すだけですから』

 

 するとクローセルは、空中でスラスターを噴かせようとしていたハイドラを止め、地上に足を付ける。そして、EMFシールドとビームナギナタを構え、バルトフェルドと対峙した。

 

 撤退するザフト軍を討つ方が明らかにこちらに利がある上、機体性能的にケルベロスバクゥハウンドではハイドラを止めることすら出来ないにも関わらず、一騎討ちに応じるようである。この時点でバルトフェルドは、最大の責務を果たしたと言えるであろう。

 

『まーた、無駄死にをして……ザフト軍も、あなたも無意味だと言うことがわからないんですねぇ。まあ、私は楽しいからいいですけど』

 

『いや、意味はあったさ。馬鹿は死ななきゃ治らないと言うからね。これだけの大敗をしたとなれば、地上のザフト軍も多少は気を引き締め直すだろう』

 

『馬鹿は死んでも治らないとも言いますよ?』

 

『その時はその時だ。どちらにしても俺が出来るだけのことはしたさ』

 

 そんな会話を二人はしつつ、ケルベロスバクゥハウンドは頭部のビームファングを展開し、ハイドラはEMFシールドを肩部に戻すと、ビームナギナタを持つ腕を構える。

 

 そして、ショルダークローを変形させると、飛ばすことはせずに二本のクローアームとして、ケルベロスバクゥハウンドに向けた。通常のモビルスーツよりも一回り小さいバクゥから見れば、ハイドラはさながら巨人であろう。

 

『すまないなアイシャ』

 

『ふふっ、何よアンディ、いまさら怖じ気づいたの?』

 

『………………』

 

 このケルベロスバクゥハウンドは複座で操縦しているらしく、コックピット内部で恋人のアイシャとバルトフェルドが語らう様子を耳にし、クローセルはどこか面白く無さそうに視線の温度が下がる。

 

 

『バルトフェルドさんっ! 降伏してください! もう戦闘は終わりましたよ!?』

 

 

 するとハイドラの背後からストライクが飛んでくると、パイロットのキラはそんな通信を投げ掛けた。彼が来たことで心底つまらなそうにしていたクローセルの表情が張り付けたような笑みに変わった。何処と無く瞳が加虐的な色を帯びたようにも見えよう。

 

 とは言え、キラの言い分も尤もなことだ。"砂漠の虎"と呼ばれるザフトのエースパイロットとは言え、対峙するのは"世界樹の悪魔"とまで呼ばれる怪物に加え、コーディネーターからしても異様な戦闘能力を持つキラがたった今追加された。戦えと言う方が無謀と言える。

 

『言った筈だぞ! 戦争の終わりに明確なルールなどないと!』

 

『そんな……!』

 

『戦うしかなかろう! 互いに敵である限り、どちらかが滅びるまでな!』

 

 無論、それに対して声を張り上げたのは他でもないバルトフェルドであり、抗戦する姿勢を一切崩さず、キラに対してそう言い切る。また、その様子に最早、彼を退かせる事は不可能と悟ったのか、キラは悲痛な表情を浮かべていた。

 

『キラくん』

 

『クローセル隊長……! あなたからも――』

 

『今、いいところなんですから邪魔しないでください……許しませんよ?』

 

『――――――ッ!?』

 

 そして、キラはクローセルからも否定された。彼女の対応は単純に戦闘中のいつも通りどころか、数段正気な程だが、今回に限っては彼の心に突き刺さった事であろう。何よりもクローセルという女性に信愛の念を抱いている故である。

 

 キラはバルトフェルドのケルベロスバクゥハウンドへと、ゆっくりと歩いて向かうハイドラの背をただ見つめることしか出来なかった。

 

 そうして、ケルベロスバクゥハウンドは突撃し、ハイドラはビームナギナタを構えて砂を踏み、跳ぶように砂地を駆ける。バクゥは元より、恐ろしく高度な操縦技術によって、一切砂地に足を取られるような事がない様子は、純粋な鬼才以外の何物でも無かろう。

 

 互いに距離を詰めつつ、ケルベロスバクゥハウンドはウィザード頭部ビーム砲を、ハイドラは変形させたまま飛ばしていないショルダークローのビーム砲を撃つ。それぞれ二門のため、手数は完全に同等と言える。

 

 そして、互いのビームを最小限の動作で回避し、機体と機体の距離が縮まり――先に接近を止めて大きく回避行動を取ったのは"世界樹の悪魔"であった。

 

『私が……こんな!』

 

『えっ……?』

 

 あのクローセルが先に退き、ケルベロスバクゥハウンドから繰り出されるビームを回避しつつ、ショルダークローで反撃しているが、明らかに押さえ込まれているように見えるのはハイドラの方だ。

 

 その事実にキラは呆けた声を上げ、二人――ではなく三人の決闘を戦場だと言うことも忘れ、目を丸くして眺めていた。

 

 無論、三人とはバルトフェルド、クローセル――そして、アイシャのことである。

 

 バルトフェルドがアイシャとケルベロスバクゥハウンドに乗っているのは何も飾りではない。移動とビームファングによる攻撃をバルトフェルドが担当し、二門のウィザード頭部ビーム砲での射撃をアイシャが担当することで戦闘をしているのだ。故にモビルスーツを駆る"砂漠の虎"は決してバルトフェルドただ一人だけを指す呼び名ではない。

 

『アンディ、いいわねこれ!』

 

『ラゴゥより発射角度が自由だからな!』

 

 そして、ケルベロスバクゥハウンドのケルベロスウィザードは、首の長い動物を模したような形をしており、見た目通りに様々な角度や高さで動かすことが出来るため、今のハイドラのショルダークローとそう変わらないビーム攻撃が可能なのである。

 

 図らずも互いが使う武装は、ウィザード頭部ビーム砲とショルダークロー、ビームファングとビームナギナタ。ほぼ同じ条件で、対峙する一人のパイロットの実力に二人合わせても異常なほど開き過ぎている程の差がないならば、操作するときにより単純な操作で済む二人体制の方が有利となるのは当然と言えるだろう。

 

『クローセル隊長! なんでショルダークローを飛ばさないんですか!?』

 

『今、使ったら私の負けだからに決まっているからでしょう!? そんなの……許せないっ!!』

 

『おっと……! ようやくそちらも本気かね!』

 

 その瞬間から、クローセルの動きが更に精密なものへと変わり、射撃の精度まで目に見えて上昇したことで、バルトフェルドは大きく回避行動を取る。

 

 しかし、ここで退いても千日手になるという判断から、バルトフェルドはハイドラの懐へと突撃し、頭部のビームファングを振るった。

 

『そんな見え見えの――――な!?』

 

 案の定、ビームファングの初段はハイドラを傾けて躱される。しかし、ウィザード頭部に二門ずつあるビームファングが起動した事で、ピンク色の牙が眼前に迫り、クローセルは珍しく目を見開き驚いた表情を浮かべる。

 

『アンディ!』

 

『ああ!』

 

 そして、間も無くハイドラの胸部に砂漠の王者の牙が届くだろう。

 

 この原因は主に二つの理由がある。ひとつはケルベロスバクゥハウンドという機体は、この戦場で最初に投入された機体のため、クローセルが日々脳内で行っているあらゆる状況で相手を破壊する妄想をしていなかったこと。

 

 そして、もうひとつは、クローセルは空中にいるときに3機のケルベロスバクゥハウンドを撃墜し、キリシマが3機のケルベロスバクゥハウンドを撃墜して、バルトフェルドの機体を除く全てが撃墜された兼ね合いで、ウィザード頭部の鶏冠のような部分にもビームファングが装備されている事を単純に知らなかったのだ。

 

 しかし、ここでむざむざ当てられるならば"世界樹の悪魔"とまで呼ばれてはいないだろう。クローセルは傾いた体勢をしている事により、地面に向いているハイドラのショルダークローの先端を砂地に突き刺して反動を付ける。

 

 そして、ハイドラに四本の腕があるように自らの機体を無理矢理弾き出させると腕を振り上げ、ケルベロスバクゥハウンドのビームファングよりも先手を取った。

 

 

『――青き清浄なる世界のためにィ!!!!』

 

 

 先にビームナギナタが振るわれ、それはケルベロスバクゥハウンドのウィザードの片側を通り過ぎる。それにより、攻撃しようとしていたウィザード頭部のビームファングは、頭部ごとケルベロスバクゥハウンドから離れて行った為に当たらず、即座に回転させて刃を返したビームナギナタの二撃目が炸裂する。

 

『くッ……!?』

 

 どうにか回避して最小限の被害で留めたバルトフェルドだったが、ケルベロスバクゥハウンドの左前足にビームナギナタが直撃し、分解させられたパーツが宙を舞い、機体を着地させたのと同時にそれは砂柱を巻き上げた。

 

 ケルベロスバクゥハウンドが失ったモノは左前足と、同じく左側のケルベロスウィザード頭部。既にマトモに戦闘を続行できる状況ではないのは明白である。

 

 この決闘は余りに一瞬の攻防で片が付いたのだ。最早、バルトフェルドに"世界樹の悪魔"を墜とす方法はない。

 

『バルトフェルドさんッ!』

 

『くどいぞ少年! では……これが最後だ!』

 

『アハハハハッ! バラバラにしてあげますよ……!!』

 

 キラの叫びを振り切り、そのような状態でも"砂漠の虎"は最後の突撃を"世界樹の悪魔"に仕掛ける。

 

 対するハイドラは、ビームナギナタの連結を外し、二本のビームサーベルに戻すと、両手でそれぞれ持ち、ケルベロスバクゥハウンドを迎え撃つ構えを取った。

 

『はあああっ!!』

 

 半壊したケルベロスバクゥハウンドはビームファングを全て展開し、もう片方のウィザード頭部ビーム砲を撃ちながら一直線に駆ける。

 

 そして、ハイドラはその銃撃を――一切避ける事をしなかったため、全て直撃した。

 

『ウフッ……アハハ……アハハハハハハ!!!』

 

 "世界樹の悪魔"が笑う中で、数発の細いビームか機体に命中し、装甲に焼き印のような傷が幾つも刻まれる。しかし、それだけであり、装甲の破壊にすら繋がるようには見えない。

 

 だが、これも当然と言えるだろう。フェイズシフト装甲でもなんでもない異様な合金の装甲が実弾を異常に防ぐのだから、ビームに対しても実弾程でないにしろ相当な防御力を持つらしい。総じてハイドラの装甲は射撃武装に対しては異常極まりない頑強さを持つのだ。

 

 それ故に片方のウィザード頭部を失ったケルベロスバクゥハウンドのビーム砲では火力不足でしかないのだ。ハイドラを撃破するならば、単純に出力の高いビームをまとめたビームサーベルや威力の乗った実体剣、もしくはアークエンジェルのローエングリンやバスターの超高インパルス長射程狙撃ライフルのような高威力の代物が必要と言える。

 

『これでバラバラです……!』

 

 そして、ケルベロスバクゥハウンドがハイドラに到達し、ビームファングを振るうと共に、ハイドラが二本のビームサーベルを振るう。

 

 結果は居合いのような動作で放たれた片方のビームサーベルが、ケルベロスバクゥハウンドの首を斬り落とし、もう片方のビームサーベルが残りのウィザード頭部を斬り落とす。

 

 更に胴体へ向けて蹴りを叩き込んで、ケルベロスバクゥハウンドをハイドラの胸の高さまで浮かせると、二本のビームサーベルを引き戻し、更に残りの機体を切り刻んだ。

 

 バラバラとケルベロスバクゥハウンドだった幾つかのパーツがハイドラの足元に転がり、ひとつが爆散したことで誘爆して次々と爆発する。

 

『はぁ……やっぱりごっこ遊びなんてするものじゃないですねぇ……。まあ、強いて言えばタッシルの街の仕返しと言ったところですかね』

 

 クローセルは小さく溜め息を吐きながらそう呟くと、ハイドラを反転させ、歩かせてアークエンジェルの方へと向かう。見ればパワーが既に30%台になっており、そこまで余裕のある状況でもなかった事が伺えた。

 

『さて、帰投しますよキラくん。どうあれ勝ちは勝ちです。2機ほど良い機体をほぼ無傷で墜としておきましたので、回収を手伝っ――』

 

『こんな……! こんなの間違ってる……!!』

 

 すると、バルトフェルドの死を目の当たりにしたキラから血を吐くような叫びの通信が入り、クローセルは一旦言葉を止め、恍惚な色を瞳に宿す。

 

『うふふっ、キラくんはおかしな事をおっしゃいますね』

 

 そして、そう呟きながら口の端を三日月のように吊り上げつつ、いつもの調子で笑みを浮かべると、更に口を開いた。

 

『後世で戦争が正しいと語られたことなんて有史以来、一度でもありましたか?』

 

 少なくともこの戦場において誰が悪い訳でもない。強いて言えば、時代という怪物が引き起こした事であるが、それをそのまま理解出来るほどキラ・ヤマトという青年は擦れては居なかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クローセルのハイドラと、キラのストライクが去り、バルトフェルドが乗っていたケルベロスバクゥハウンドのパーツが散乱しつつ炎上する中、そこから少しだけ離れた位置にあったため、爆発に巻き込まれなかった胴体部分から出た鉄の塊が転がっていた。

 

 見ればそれにはコックピットのハッチの名残が付いており、暫くすると内側から無理矢理抉じ開けられたのか、徐々に開いていき――ある程度空いた隙間からバルトフェルドが外に出て来た。

 

 彼は立ち上がり、自らの身体を見回して見るが、全くもって健康そのものであり、精々機体が砂地に叩き付けられた時に出来た打ち身や打撲があるだろう。

 

「そりゃないんじゃないかなクローセルちゃん……」

 

 見事に死にぞこなったバルトフェルドはやや不満げな表情でそう呟く。しかし、返される言葉はなく、ずっと昔から変わらない砂漠があるばかりだ。

 

「"タッシルの街の仕返し"……ねぇ」

 

 タッシルの街でバルトフェルドは、住民をひとりも殺さずに街だけを焼き払った。それは家も食糧も武器も何もかもを失い命だけが残った事に他ならない。正にバルトフェルドの今の状態に近いだろう。

 

「最高の狩人は獲物の解体も一流と言うことか……完敗だな」

 

 バルトフェルドは自身が這い出てきたコックピットの残骸の方に振り向くと、その出来映えに小さく声を漏らす。

 

 何せ、クローセルはビームサーベルでケルベロスバクゥハウンドをバラバラにした時に、器用にもコックピットを死なない最低限の小ささまで切り裂いていた事で無理矢理無力化したのである。

 

 無論、こんな芸当は、居合いで彫刻をするような無駄な技術と、ザフト軍のモビルスーツのコックピットの構造まで知り尽くしていなければ出来よう筈もない。

 

「ねぇ、アンディ……ちょっと手伝ってくれないかしら……?」

 

「ん……? ああ、ちょっと待――」

 

 するとそこには、胸がつっかえてハッチの隙間に挟まるような形でいるせいで、細い隙間から胸から上が生えているように見える恋人――アイシャの姿があった。

 

 アイシャは困り顔であり、中々見られない恋人の珍しい姿にバルトフェルドは思わず笑い声を漏らしてしまう。

 

「あっ、笑ったわね? 男にはわからないでしょうけど、(これ)ぞんざいに扱うと結構痛いのよ?」

 

「悪い悪い!」

 

 そう言いつつハッチを外側からも抉じ開け、アイシャが脱出する。すると直ぐに彼女はバルトフェルドへと身体を預け、砂漠の地平線を見ながらポツリと呟いた。

 

「これからどうするの?」

 

「そうだな、ダコスタと合流出来ればいいが……。まあ、なるようになるしかないな」

 

 パイロットスーツとは言え、着の身着のままで放り出されたのだから、バルトフェルドらがザフト軍と再び合流出来るのかは砂漠のご機嫌次第と言ったところだろう。

 

 また、クローセルは一切得のない決闘を受けた上、バルトフェルドとアイシャを殺さずに、わざわざ生かさせた。それだけで少なくとも"世界樹の悪魔"等と呼ばれる程、血も涙もない怪物ではないことが少なくとも彼らには伝わった。

 

 それ故にキラやクローセルのようなものと戦い続ける事に、彼らがこれまで抱いていた疑念が何かの形になろうと不思議ではないだろう。

 

「あの娘、面白いわね。それにドレスを着替えている時に両性愛者(バイセクシャル)だって自分で話していたし……ふーん」

 

「おい、アイシャまさか……」

 

「ふふっ、冗談よ。さっきの仕返し。私は死んでもあなた一筋よ?」

 

 バルトフェルドとアイシャがそんなやり取りをしている最中。彼方に見えるアークエンジェルは遂に砂漠から脱出する航路を取り、アラスカを目指し始めたのだった。

 

 

 

 尚、この戦闘においてザフトが投入した戦力――戦艦17隻、モビルスーツ73機、航空機30機の合計120機のうち、帰投出来たのは戦艦3隻、モビルスーツ25機、航空機1機――合計29機だけだったという。

 

 これによりザフトのアフリカ戦線は大幅な部隊の再編成を余儀なくされたのは語るまでもないだろう。

 

 

 

 

 







砂漠の虎編完結までで、ガンダムSEEDの小説の全5巻中2巻だったりします(残り5分の3)。


~QAコーナー~

Q:なんでバルトフェルドさんとアイシャさん助けたん?

A:どこかで言ったようにRTA的にクライン派及び後にクライン派になる者を殺すとまずあじ。後、アイシャさんはローンちゃんの格闘値が高過ぎたせいで生存。


Q:おい、ハイドラガンダムの装甲。

A:エレガント(格闘攻撃で攻めろ)
別解:レアメタルΩ(適当)




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