処女作です。
この作品に立ち寄って下さり、ありがとうございます。
宜しければ、そのままお目通し頂けると幸いです。
それでは。
すっかり心地よくなった陽射しがその訪れを教えてくれる。
春。それは出会いの季節とか。新たな始まりの季節とか。巷ではよく言われているけど、その前向きで楽観的な言葉に少々期待してしまう人は大勢いるだろう。
オレ―
今日から高校二年生となるわけだが、訳あって、凡矢理高校に転入することになった。
これまでは小学校卒業からイギリスにいたので、少し不安な気持ちもあった。
けれど、小学校時代に過ごした頃と大きく変わることのない、凡矢理の街並みを見て、そんな気持ちも風船が飛んでいくように、どこかへと消えていった。
凡矢理といえば、とふと物思いに立ち止まる。
小学生の時に仲良くした男友達二人と、幼いながらしげしげと通っていた和菓子屋の娘である女の子、が脳裏に浮かんだ。
あいつら、そしてあの子も、もしかしてその高校にいたりして……。
懐かしさを覚えつつ、どこかワクワクするような気持ちでまた歩き出していく。
すると、十字路を右折した先で。
これから通う高校の制服を着た女子生徒が、目に涙をためながら、ガラの悪い数人の男どもに囲まれている姿を目にした。
春。それは始まりの季節。暖かな風が桜の枝を揺らし、髪をくすぐる。
そんな四月――――私は今日から高校一年生です!
念願叶って家の近くの高校に合格……。
今まさにこれから始まる高校生活に胸を膨らませている所です!
高校生ってどんな感じかな?
取りあえず、初日は空も真っ青で桜も咲いて……。
何だか素敵な恋とか始まっちゃいそうな予感です……!
と、思っていたのですが……。
「お嬢ちゃんかわい~ね~。高校生?」
「学校なんていいから俺たちと遊ぼ~ぜ?」
なんだか初日っからピンチです……!!
あわわわわ……どどどどどどうしよう……!!
ただでさえ中学は女子校で、男の人は苦手だというのに……。
「ほら、こっちに……」
男たちが私の肩に触れようと距離を詰めてくる。
あまりに怖くなって私は思わず目を瞑ってしまう。
頭もくらくらしてきた。
あっ……、だめだ……。いしきが……。
「おい、こんなところで何してんだ」
「あ?んだよてめえ……」
地面にしりもちをついた衝撃のおかげで、僅かに意識を取り戻す。そこには、少し大人っぽさはあるも、同じ高校の制服を着た男の子が、男たちに立ちはだかっていた。
「おいてめえ、盾突くと容赦しねえぞコラ」
「悪いな、この子はオレの大事な人なんだ。お引き取り願うとありがたい」
「あぁ!?んだとてめえ!」
彼の言葉は、苛立つ男たちの火に油を注ぐ形になってしまったようだ。逆上した男の一人が、彼に向かって拳を振りかざしていく。
やめて……!
彼が殴られる姿を想像して、また目を瞑ってしまう。
ところが、次に私の目に飛び込んできたのは想像とは違う光景。
彼を殴ろうとしたはずの男の一人が、呻き声をあげながら地面にうずくまっている。それを怯えたような様子で身構える他の男たち。何でもないように私の前に立っている彼の姿。
「そっちから先に手を出してきたんだから、これは正当防衛になるよな?あまり騒ぎを大きくしたくないし、ここで引いておくのが互いのためになると思うけど」
「っ、ま、マジかよ……」
「お、おい。もう行こうぜ……」
そう言って男たちは、うずくまっていた一人も連れて、そそくさと私たちの元から去っていった。
すると、彼はふと一息つく。飼い猫を気にかける飼い主のように優し気な表情を浮かべながら、私の方へと振り向いた。
「朝から大変だったな」
「い、いえ、そんな。こちらこそ助けてくださり、あ、ありがとうございます!」
カ、カッコイイ……!!
ようやくまともに見た彼の姿、雰囲気から、まるで王子様みたい、と私は胸をひどく打ち付ける鼓動を何とか抑えながら応じる。
「立てるか?」
彼はこちらに微笑みかけながら、私に手を差し伸べてきた。私はその手を取り、立ち上がろうとするが、腰が抜けてしまい立てなかった。
「あ、あの、すいません!もう大丈夫だとすっかり安心してしまって……」
彼に迷惑をかけてしまった申し訳なさと、立ち上がれなかったことの恥ずかしさで、まともに顔も見ることができない。
ううう……、どうしよう……。
「なら、おぶっていこうか?」
「え??」
彼から差し出された提案に、思わず拍子抜けたような返事をしてしまう。
「その制服、オレがこれから通うところと同じやつだろ?登校時間も迫ってきてるし、君が立てないのなら、オレが君をおぶっていくのが手っ取り早いかな、と思って」
そうは言ったって、入学初日に男の人におんぶしてもらって登校するなんて……。
気恥ずかしさと戸惑いで、どうにかなりそうだったけど、そうするより他ない。
「じゃ、じゃあその……、お願いしてもいいですか?」
「ああ、任された」
彼は、年相応の少年のような笑顔を初めて浮かべた。
背を向けてしゃがみ込み、こちらに手招きする。
「ほら、乗って」
「は、はい……」
よいしょ、と彼はひとたび私を背負うと、学校に向け通学路を歩き始めた。
「私……、その……、重かったりしたらすいません」
「いや、そんなことないぞ。むしろ、ちゃんとご飯食べてるのかって、少し心配するくらい軽いから」
私は、ううう、と顔を真っ赤にして、彼の背中に顔をうずめてしまう。
恥ずかしくて心臓がドキドキしちゃう……。男の人の背中って、こんなに大きくて安心できるものなんだ……。
そんなことを考えている内に、彼があっと思い出したように口を開く。
「そういえばさ、君って新入生?」
「は、はい!そうですよ。あなたもそうなんですか?」
「いや、オレは二年生だ」
「え、それじゃあ先輩ってことですよね?!尚更申し訳なくなってきました…」
「ハハハ、そういうのは気にしなくていいぞ」
清潔感あふれる黒髪のショートヘア。スラリとして私よりも高い背丈。同年代の男子と比べても落ち着いて大人びた印象から、確かに先輩という感じも頷ける。
さっき私を助けてくれた先輩、かっこよかったな……。
もしかして、先輩は私の……。
「先輩!!」
「ん?どうした?」
「先程は本当にありがとうございました!私、
早口でそう捲したてた私に対して、先輩もこちらに顔を向ける。
一瞬目を見開いて何か考えるようにした後、またさっきのような優し気な表情を浮かべた。
「オレの名前は、宮森樹。よろしくな、小野寺さん」
何かの新しい始まりを予感させるように、春の暖かな向かい風がいっそう勢いを増して、私の頬を撫でていった。
「二年C組か……」
クラス名簿が張り出されている廊下の喧騒をやっとの思いで抜けて、これから学校生活を送ることになる教室へと、宮森樹ことオレは歩き出していた。
登校中、男たちに言い寄られぶるぶる震えていた少女―小野寺春を、無事に正門近くの場所まで送り届けてからの別れ際、
『今度、是非今回のことでお礼をさせて下さい!』
と小野寺さんにあまりの勢いで言われたもんだから、断ることも憚られてついOKしてしまった。いったいどんなお礼をされるのか、と今は気になってしまう。
それに、小野寺さんという苗字がまた問題なのだ。
あのとき、脳裏には真っ先に和菓子屋のあの子が思い浮かび、小野寺さんとの関係性を疑ったりした。
けれど、考えても仕方ない。膨れ上がりそうな想像を断ち切り、関係ないだろと思うようにした。
二年C組の教室にたどり着くと、既にいくつかのグループができているようだった。
その中でも特に騒がしいグループの方に目を向けると、見覚えのあるシルエットを二つ、はっきりと認識できた。
久しぶりだな。口元を綻ばせながら、その二人の背後から近づいて背を叩く。
「よお、覚えてるか?
「ん?って、ああああああ!樹じゃねえか!どうしてここに!?」
「おー!!樹じゃんか!小学校以来だね。あれ、かなり男前になったんじゃない?」
「どうしてここにって、そりゃあ今日からこの学校のこのクラスに通うからだぞ、楽。二人とも、雰囲気がそんなに変わってなくて安心した」
「ってことは、また樹とクラスメイトになれるのか!嬉しいよ!」
「またよろしくな、樹」
「ああ、こちらこそよろしくな。楽、集」
小学生の頃の旧友に出会え、互いに認知できたことの嬉しさからか、自然と頬が緩む。
そこで、この会話の流れから取り残されていた第三者達から声が挙がる。
「ちょっとダーリン!盛り上がってるところ悪いけど、私たちにも説明しなさいよ」
「そうだぞ、一条楽!お嬢の言うとおり、我々にも話してもらおう」
モデルのような出で立ちの金髪美女と、なぜなのか男装している青リボンの美女が、楽に問い詰める。
「そうだな、こいつは……」
「いいよ楽。自分から自己紹介するよ。オレは宮森樹。楽と集とは小学校の時の幼馴染といったところだ。中学から高一まではイギリスにいたんだ」
「そういうことね!私、
「私は
「よろしくな、桐崎さん、鶫さん。それと、桐崎さん、さっき楽のことをダーリンって呼んでたけど、もしかして二人って付き合ってるのか?」
「え、ええ、そうなのよ!ね、ダーリン!」
「そ、そうだぜ、樹!な、ハニー」
まさかあの鈍感そうな楽が高校生になってこんな綺麗な女の子と恋人同士とは。
……どうしてか二人の間の不自然さから若干胡散臭さも感じたが、気のせいだろう。
交友関係の新たな広がりを喜んでいると、橙色の花飾りを髪留めにした、いかにもお嬢様っぽい女の子が話しかけてきた。
「宮森さん、初めまして。私、
「こちらこそよろ……って、え?許嫁ってどういうこと?」
「こら、橘――!!」
まさかあの鈍感そうな楽に綺麗な彼女どころか、お淑やかな許嫁がいるなんて……。
ていうか、同じクラスの中で、どんなドメスティックな状況を作り出してんだよ、楽。
現に、楽を間にして桐崎さんと橘さんが言い争ってるし。あ、楽が桐崎さんに吹っ飛ばされてる。桐崎さん、怪力だな。楽、南無三。
そんな風に彼らの様子を眺めていると、新たに二人がこちらへと近づいてくる。
「宮森君だっけ?初めまして。私は、宮本るり。一条君や舞子君の幼馴染と聞いて驚いたわ。これからよろしく」
「ああ、よろしくな、宮本さん」
小柄ながら知的な雰囲気を感じさせる宮本さん。
素っ気ないようにしながらも、声をかけてくれるあたり、いい人なのだろう。
そして、その背後にいる人物にオレは目を向ける。
「ほら、あんたも声かけたらどうなの、
オレは、小咲と呼ばれた彼女のことを知っている。
濃い目の茶髪。アシンメトリーな髪型。
小学生の頃、あの和菓子屋に通っている内に、同年代で売り子の彼女と会話を交わして親しくなった、あのときの記憶が甦ってくるようだった。
「久しぶりだね、樹君。元気にしてた?」
戸惑うような微笑みをたたえながら尋ねる彼女こそ、小野寺小咲。
「ああ、こちらこそ久しぶり。小咲」
教室の外では、春嵐が桜の木々を激しく打ち鳴らし始めている。
「え?王子様?」
目の前にいる赤みがかった茶髪の女の子――私の親友である
「そーなの!!私が絡まれてるところに颯爽と現れて、『悪いな』って!かっっこよかったな~私これ絶対運命の出会いだと思うんだ~。その上、腰が抜けて立てなくなっちゃってた私を背負って、学校のすぐ近くまで運んでくれて~。わはぁ~なんて優しい人なんだろう!」
「ふぅ~ん……。それが待ち合わせをすっぽかした理由?私ずっと待ってたのに。無事でよかったけど」
風ちゃんにそう言われて初めて、一緒に待ち合わせて登校するという約束を破ってしまったことに私は今さら気づいた。途端に罪悪感で胸がいっぱいになる。
「ううう、ゴメン風ちゃん!まさかあんなことがあるなんて……」
「ううん、春が無事でよかった……。でも春、入学初日から男の人におんぶされて登校してくるなんて、大胆だね」
風ちゃんにそう言われて、宮森先輩におんぶされていたときの感触を思い出す。頬がカァァっと赤くなって、思わず口が固まってしまう。
「それに、その人はこの学校の人なのかな?また会える約束とかしたの?」
からかうような口調で風ちゃんが面白そうに私に聞いてくる。
「うん!今度その人にお礼しようと思うんだ!……って、もうチャイムなっちゃうね」
「そうだね。また後で続き聞かせてね、春?」
風ちゃんとの会話を中断し、私は急いで自分の席に着く。
すると、隣の座席に、私が教室に入った時にはいなかった、ヨーロッパのお姫様人形のような銀髪の少女が、退屈そうに座っていることに気づく。
私は意を決して、銀髪の少女に口を開く。
「こんにちは!私この席なんだけど、お隣さんですよね?」
こちらを向いていなかった銀髪の少女が私の方へ顔だけ向き変り、目線が合う。
この子の金色の目、すっごく綺麗だなあ……。
「あ、あの……。お名前は……?」
「ポーラ。ポーラ・マッコイ」
ポーラ、マッコイ……。見た目の通り、外国から来た子のようだ。
「よろしくね、ポーラさん!私は……」
「名乗らなくていいわ。別に覚える気ないから」
「……え?」
これからクラスメイトとして、友達として関係を築いていけるのかなという私の期待感は、彼女の冷たい制止によって霧散してしまう。
せっかく自分が勇気を出したのに。悪態もつきたくもなるが、ポーラさんには何か他人と関わりたくない理由があるのかもしれないと考えを改める。
「あ」
「……え?」
直後、ポーラさんの懐から落ちた二つの丸いものを見て、私は目が点になってしまう。
とても現実には思えないが、あれは恐らく手榴弾ではないだろうか……。
ポーラさんって怖い人なのかも。
そう感じている内に、ふと今朝の出来事がまた頭に浮かんできて、私はスカートの裾をきゅっと締める。
早く宮森先輩とまた会えるといいな……。
始業のチャイムが鳴り、担任の先生が教室へと入ってきた。私の高校生活はまだ始まったばかりだ。
第一話『デアイニ』をご一読下さり、ありがとうございました。
いかがだったでしょうか?
少しでも楽しい読み物と思っていただけたのなら、幸いです。
宜しければ、数話ほど連投されていると思われるので、そちらもどうぞ。