若草のような君に   作:享郎

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 第十話にお立ち寄り頂き、ありがとうございます。

 本日はホワイトデーということなので、気になる人や大切な人に何かしらのお返しができるといいですね。

 それでは。


第十話 クリーム

「なあなあ!樹!この前借りた映画、スッゲー面白かったよ!!」

「そうだろ?実はさ、その続編があるから、今度貸そうか?」

「まじか!!楽しみにしてるよ!」

 

 少しモヒカンに近い髪型の、クラスのサッカー部の男の子が目を輝かせている。

 

「ねえ!宮森君!この前の数学の小テスト、宮森君が教えてくれたおかげで、私達いつもよりもいい点数が取れたよ!!……それでね、また今度少し時間が空いてたらまた教えてくれないかな?」

「もちろん。その時はまた力になるよ」

 

 少し外ハネがある黒髪ショートボブのバレー部の女の子が、陸上部それにソフトボールの女の子と一緒に、それぞれが嬉々とした表情を浮かべて、答案用紙を手に持っている。

 

「ちょっといいか、宮森?来週中の美化週間の説明をクラスの皆にしたいんだが、月曜の朝のHRで少し時間空けといてもらえるか?」

「いいぜ。先生にはこちらから通しておくよ」

「ありがとな、助かるよ」

 

 それだけ言うと、美化委員の少し小柄の男の子は、おそらく説明用の資料を手にしながら、同じく美化委員の女の子と打ち合わせみたいなのを始めている。

 

 このように、今はお昼の長い休み時間なのだが、クラスの委員長の樹君は、クラスの皆から男女問わず慕われており、クラスの色々な人によくよく声をかけられている。

 クラスの中でも大人びた印象からにじみ出てくる頼もしさや、誰に対しても目を配って分け隔てなく接する人当たりの良さなどの、樹君の人柄だからこそ為せる業なのだけど。

 そんなようにクラスの子達から求められる想い人の様子を遠目に見ながら、私はちょっぴり切なくなって、ついその姿を目で追い続けてしまう。

 

「な、なあ、小野寺?ちょっといいか?」

 

 すると、廊下の空いた窓に佇む私に、一条くんが頬を指でかきながら尋ねてくる。

 

「小野寺の誕生日って、いつ?」

「え?」

 

 目線を斜め上にしている一条くんの唐突な質問に、私はちょっと驚いてしまう。

 

「いやほら!こないだ千棘の誕生日あったろ?あいつだけ祝うってのもなんだから、教えて貰おうっと思って……?」

「い……いいよそんな……気にしなくて」

「いいからいいから、それでいつなんだ?」

 

 どこかアタフタとしながらそう尋ねてくる一条くんに対して、誕生日のことを気にしてくれて嬉しい気持ちもある。けど、同時に少し申し訳ない気持ちも出てくる。というのも……。

 

「……明日、なんだけど」

 

 そこで会話が途切れると、一条くんは何とも言えないような表情を浮かべた後に、一言だけ言って、そのまま教室の中へと入っていく。

 前までなら、一条くんに誕生日を聞かれたらもっと嬉しくなって、きっと答えるにも慌てたかもしれないけど、今さっきは友達のような感じで落ち着いて話せた。

 それにしても、明日はもう私の誕生日か……。

 去年は女の子の友達同士で私を祝ってくれたっけ。プレゼントとかも用意してくれて嬉しかったな。

 

 ……樹君、もしかして私の誕生日のこと、覚えてくれてたりするのかな……?

 

 小学生の頃にもらった樹君のプレゼントが何だったかと思いをはせながら、私は再び樹君へとどこか期待したような視線を注ぐ。

 そんな私の視線は、また別の子に声をかけられている樹君には気づかれることなく、休み時間のクラスの喧騒の中に紛れ込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……春ちゃあぁ~~ん!!折り入って頼みがぁあ~!!」

「げっ」

 

 今日の授業も残すはあと一つというところの休み時間に、私は廊下をうろついていると、ドドドっと物凄い勢いで一条先輩が近づいてくる。

 

「……はあ?プレゼント選びの手伝い?」

 

 どうやら一条先輩は、明日のお姉ちゃんの誕生日にプレゼントを贈りたいようだ。

 

「……そりゃ私も放課後選びに行く予定でしたけど、それならるりさんに頼めばいいじゃないですか。もしくは彼女の桐崎先輩に」

「いや……宮本にはすでに『小咲と行けばいいじゃない』という意味不明な事を言われて断られた。千棘も予定があるっていうし……」

「それなら、い、樹先輩はどうなんですか?」

「樹にも頼んだんだが、『小咲が好きなお前なら大丈夫だろ。一人で選べ』って言われ、そのまま予定があるってことで断られた……」

「そ、そうなんですね」

 

 るりさんは確かにそんなことを言ってしまいそうだし、桐崎先輩も予定があるなら仕方ない。

 それよりも樹先輩の予定がどうにも気になってしまう。

 

「頼む!!一人じゃ小野寺の喜びそーな物、見当つかねーんだ!この通り!!」

 

 両手を合わせて頭を下げる一条先輩に、私はどう答えるべきか逡巡してしまう。

 この先輩は桐崎先輩という彼女がいるが、それはニセモノの恋人関係で、お姉ちゃんを好いてはいるが悪い人でもない。

 それに私は今まで酷いことを何度か言ってきたので、先輩にはどこかでその借りというかそういったものを返さないといけないと思うし……。

 

「……大麻呂デパートって品揃えも良くて、プレゼント選びにゃ最適だと思わないか?」

「え?」

 

 頭を悩ませていた私に、一条先輩は唐突に顔を上げてそんなことを言い出す。

 

「今は確か“和菓子フェスタ”なるものをやっていたよーな……」

 

 その言葉に私の心は反応してしまい、考えていたことなんて吹き飛んでしまう。

 

「……待ち合わせどこにします?」

「現地で」

 

 和菓子屋の娘の私は、やっぱり和菓子に目がないのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……フフ……先輩やりますね。先輩のオススメはどれもなかなかどうして……」

「春ちゃんこそ」

 

 プレゼント選びの品物に大体目を通したので、絞り込むのは後回しにし、今は“和菓子フェスタ”が行われているフロアのテーブル席に買ってきた和菓子を一つずつ並べて、一条先輩とそれぞれの食べ比べをしている。

 和菓子はどれも美味しく、一条先輩の選んできたものは私の好みにも合い、またその逆も然りの様子だ。

 

「いやぁ~、やっぱり春ちゃんを誘ったのは正解だったな」

「……は!?」

 

 快活な表情を浮かべる一条先輩に対して、私は驚いてキョトンとしてしまう。

 

「春ちゃんってオレと好み似てるよな。一緒に楽しめるってのはいいもんだな」

「そ、そうですかね……。けど、確かに和菓子好きな知り合いが増えるのは嬉しいです」

「だろ!」

 

 ニコッと笑みを浮かべて上機嫌な一条先輩の言動から、この人は悪い人ではないけれどどこか女たらしの面を感じる。

 きっとお姉ちゃん達も一条先輩のこうした側面に振り回されてるんだろうなあ、と私は少し困ったように笑みを返す。

 

「にしても……、さっきお店の人に『デートですか』って言われたときは、さすがに困っちゃいましたよ。先輩、仮にも彼女いるのに」

「ははは……すまんな。春ちゃんって男とデートとかした事あんの?」

「あるワケないですよそんなの。私女子校でしたし……あ」

 

 そこまで言うと、私には樹先輩とのことが思い出される。

 

「そういえば、デートとは呼べないかもしれませんが……、二回ほど樹先輩に学校からお家まで送ってもらったことがあって……。樹先輩、私のどんな話にも付き合ってくれて、とても紳士で優しくて、温かくて。二回とも違う事情でのことだったんですが、時間も忘れちゃうくらい楽しくて、また一緒に帰れたらなあって……」

 

 樹先輩との思い出に熱中するあまり、目の前に一条先輩がいるにも拘らず、私は樹先輩のことを熱く語ってしまう。

 気づいたときには一条先輩も少しポカンとした表情をしてこちらを見ているので、頬がどんどんと熱くなっていく。

 

「へえ、春ちゃんって樹のこと相当慕ってんだな」

「そ、そういうことにしといてください……」

 

 幸い一条先輩が鈍感であったから良かったものの、風ちゃんとかに話したら確実に弄ばれただろう。

 

「けど、樹はやっぱすげえやつだよ。クラスでも皆から慕われてるしよ。その上たいていのことは何でもこなせるし、オレには真似できねえな」

「へえ~!そうなんですね!」

 

 やっぱり樹先輩は学校のクラスの方でも大活躍で、カッコイイんだろうなあ。

 それに、お姉ちゃん以外の同じクラスの先輩から樹先輩のことが聞けるので、私は関心しながら一条先輩の話に頷く。

 

「この前だって、樹に手助けしてもらわなかったら、小野寺に大学いもとか渡せなかっただろうなあ」

「それ、お姉ちゃんから嬉しそうに聞きましたよ」

「ほんとか!渡してよかった~!」

 

 喜んだ様子の一条先輩を見ながら、その件も樹先輩が絡んでたんだって思うと、実のところ樹先輩とお姉ちゃんの関係ってどうなんだろうって気になってしまう。

 特にお姉ちゃんは最近、樹先輩に対して様子が少し変な感じ、どこか違和感を感じさせるような感じがしてならない。

 お姉ちゃんの好きな人って、たしか振り返ってみれば一条先輩のはずなんだけど……。

 

「そうだ!渡すといったらそろそろ小野寺のプレゼント選ばねえとな。行こう、春ちゃん」

「は、はい……」

 

 そんな私の疑念をよそに、一条先輩は急ぐようにしてテーブルにあった和菓子のお皿を片付けて行ってしまう。

 このことはまた今度考えることにして、私は鞄を肩にかけ一条先輩についていく。

 その後、お姉ちゃんのプレゼントとして私は服を選んだ一方で、一条先輩は結局自分の好みというか私も好きそうなブローチにした。

 好みが似ているらしい私と一条先輩からして、私いる意味あったかなと思いつつも、無事プレゼント選びは終わった。

 

 樹先輩も、もしかしたらお姉ちゃんへの誕生日プレゼントを用意しているのだろうか。

 今度は、樹先輩とちゃんとデートって形でお出かけしたいな。なんてぼやぼや考えながら、夕陽の差す帰り道を歩くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 私の誕生日の日の授業もすっかり放課後になり、私は委員の仕事も終えて一人で渡り廊下を歩いている。

 

 この後の夜ご飯時から千棘ちゃん達がお祝いをしてくれるそうだ。

 お家に帰って支度をしなきゃと思いつつ、少し心に引っかかることがあり、その足はのんびりとした速度になっている。

 朝に千棘ちゃんやるりちゃんに祝われ、一条くんからも可愛らしいブローチをもらえてすごく嬉しい気持ちになれていたのだが、樹君とは今日あまり喋れていない。

 

 樹君からは朝に「お誕生日おめでとう」とは言われたのだけど。

 私にはその一言でも覚えてもらえてたのでも幸せな気持ちになれるのだけど。

 どこか満たされないような気持ちも感じてしまい、そんな風に期待しすぎてしまってる自分に恥ずかしくなってしまう。

 

 あの頃は一緒にプレゼントもらえてたのにな。

 そんな自分の邪な気持ちを振り払おうと、少し歩幅を大きくして教室に戻ると、そこにはいつもの窓際の席で本を読んでいる樹君の姿が一人飛び込んでくる。

 

「委員の仕事お疲れ、小咲」

 

 穏やかで澄ました表情を崩さないまま、樹君は本を閉じてこちらを眺める。

 

「う、ううん。樹君の方こそ、いつも委員長のお仕事、お疲れ様」

「いやいや」

 

 鼓動の勢いが増すのを感じつつ、普段のクラスの中での樹君の様子を思い浮かべながら、私には一つ疑問が生じてくる。

 

「けど、こんな時間まで残ってるなんてどうしたの?」

 

 普段学校の用事がない限り、そんなに学校に残らない樹君が、今日は他に誰もいなくなるまで教室に残ってるなんて珍しい、というか初めてなんじゃないだろうか。

 

「そのことなんだけどさ」

 

 樹君はもたれていた椅子から立ち上がって、自分のリュックサックからオレンジのお渡し用の紙袋を取り出し、私の元までやってくる。

 

「はい、誕生日プレゼント。改めて誕生日おめでとう、小咲」

「え、私に!!?くれるの!?」

「他に誰がいるんだよ」

 

 私はさっきまでプレゼントのことで少しだけしょんぼりとしていたけど、今は樹君から本当にプレゼントがきて感激のあまり、自分で自分に指を指しながらあたふたする。

 

「まさか、このために待っててくれたの……?」

「ああ、朝でも良かったけど、帰りの方がその日邪魔にならなくていいだろ?ほら」

 

 樹君はそのまま紙袋を手渡してくれるので、私は大事そうに受け取る。

 

「中、見てもいい?」

「どうぞ」

 

 中を見て取り出してみると、そこにはローズが可愛らしくオシャレにパッケージされたデザインのハンドクリームが私の目に映る。

 

「こ、これって……!?」

 

 小学六年生のとき、樹君からのプレゼントとして貰ったのもハンドクリームだった。

 

「前さ、ハンドクリームあげたときに小咲、すごい喜んでくれただろ?もっと違うやつにしようかと思ったけど、その時の記憶が強くて。それに和菓子屋の娘で手先が器用だから、厨房ではダメだろうけど、気に入れば普段の生活で使ってくれたらなって」

 

 前より少しは良いやつにしたから。

 そう言って少しおどけるようにして見せる樹君を正面に捉えながら、私はまるであの頃に戻ったような気がして、懐かしさを覚えるとともに、心からこみ上げてくる嬉しさや喜びを嚙み締める。

 あのときハンドクリームを貰ったときは、あまりに感激して抱きついちゃったっけ。

 今でもあの容器は部屋の押し入れにしまってた気がする。

 

「ううん、すっごく嬉しいよ……!!ありがとう、樹君……!」

「どういたしまして」

「また大事に使うね!」

「ああ、どんどん使ってくれ」

 

 私は満面の笑みで答えると、樹君も表情を柔らかくして温かさのある笑みを浮かべる。

 ほんとは前みたいに抱きついてしまいたい。

 けど、さすがに誰もいないとはいえ学校の教室でそんな大胆なことができるほど、私は幼すぎてはいないし、それに恥ずかしすぎる。

 私は鞄の中にハンドクリームの入った紙袋をしまおうと自分の席まで戻る。

 樹君はリュックサックを左肩から下げ、いつの間にか教室の扉にいて、こちらに振り向いている。

 

「それじゃあ、また明日、小咲」

「う、うん。また明日ね、樹君」

 

 樹君が手を振って教室から出ていくのを見届けると、私は紙袋をしまう最中、なんだかとても勿体ないことをしたような気持ちに囚われてしまう。

 

 もしかして、今日なら樹君と一緒に帰れるんじゃ……。

 

 そう思った瞬間、私は急いで紙袋をしまい、教室から弾かれるように玄関の下駄箱まで出来る限りのスピードで樹君を追いかける。

 少しだけ息を切らしながら下駄箱まで追いつくと、樹君はキョトンとした様子でこちらを見つめてくる。

 

「どうした、小咲?」

 

 心臓のドキドキはさっきよりも激しいし、頬の赤らみもますます増してきているけれど、ここまで来たら勇気を出さないと、私!

 

「樹君!きょ、今日一緒に帰らない?!」

 

 追いかけてきた勢いそのままに、勢い良く言い過ぎたのでどうだろう。

 不安になりながらも、樹君はフッと口元を緩めて私の方に向き直る。

 

「いいよ、一緒に帰ろうか」

「うん!」

 

 上履きから履き替えていた樹君に遅れないよう、私も急いで履き替える。

 グラウンドでは運動部の元気な声が響いている。

 隣にいる彼に聞かれないように、この間に私の心臓の鼓動も収まってくれるといいなと願いながら、私達は並んで校門の方へと歩き出した。

 

 




 第十話『クリーム』をご一読下さり、ありがとうございました。

 いかがだったでしょうか?

 積もる想いは、その人に勇気を与えるだけでなく、疑念を生み出してしまいます。

 それでは、また次のお話で。
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