それでは。
手をつないで仲睦まじい様子で隣歩く大学生同士のカップル。可愛い目をしたトイプードルを連れている貴婦人。小学生くらいの兄妹二人をすぐ後ろから微笑ましく見つめる夫婦。
二学期が始まって最初の休日、午前にして街中の人通りは大いに賑わい、行き交う人達にも心なしか豊かな表情が浮かぶ。
私はるりちゃんと、『女子校生にオススメ!地域のランチ特集』と題した、女性向き雑誌のページを次々とめくりながら話合わせている。
「小咲、ここなんかどう?」
ページをめくる手を止めたるりちゃんが指をさす、写真と文字の列が適当に配置された見開きのページを眺める。どうやら喫茶店のようで、数重にも重なったパンケーキの上にアイスクリームがたっぷりと乗ったスイーツを売りとしてるらしい。
「いいよ、行ってみよっか」
私はアシンメトリーでサイドに流している髪をかき上げ、表情こそ全く変わらないが目を輝かするりちゃんに応じる。閉じた雑誌を私の手提げバッグに押し込んで、私達は目的地へと歩みだす。
甘いものも好きなるりちゃんはきっと、あの大盛りのパンケーキを食べるんだろうな。るりちゃんのように、食べるものがどこかへ消えていくなら私も食べてみたいけど、私の場合はそのままお肉になっちゃうから控えよう。うん、そうしよう。
自分のお腹をさりげなく触りながら、私は街中から少し外れて川沿いの道にやってきているのに気づく。右手には西洋風の柵で仕切られた向こうで川がゆるやかに流れていき、左手には広く公園が見えていて道沿いにはユリノキが延々と整列している。
すると私には、ついこの前の夏休みに、春と一緒に樹君のお家に泊まった次の日の朝がふと思い出される。
起きてきた明日花ちゃんにどうしてもとせがまれ、私は重い瞼を懸命に開けようとしつつ、階段を転ばないよう慎重にリビングへ降りていくと、そこには既に春と樹君の姿が台所にはあって、フレンチトーストなどの朝食がきっちりと用意されていた。
そっか、私よりも先に起きて、二人で朝ごはん作ってたんだ……。私は明日花ちゃんをお手洗いに連れて行ってから、洗面台の鏡に映る眠そうな自分と向かい合わせている内に、樹君とこんな朝から一緒にいた春が羨ましく、こんな時間までスヤスヤと眠りこけていた自分を詰りたくて仕方なかった。
私だって、樹君と一緒に二人きりで、朝の時間を過ごしたかったな。私が料理をちゃんとできるなら、春みたいに樹君と台所で隣並んで立てるのかな。
そんなことをうじうじと頭で並べ立てていると、隣歩くるりちゃんに肩をトントンと叩かれた。
「どしたの小咲。そんなボーっとして」
「え、いや、何でもないよ!」
びくりと肩を震わせ驚く私に、るりちゃんは怪訝そうな目で見つめてくる。
「全く、どうせ宮森君のことでも考えてたんでしょ?」
るりちゃんは発する声も表情も崩さずに、平然と私の考えていたことを言いのける。
「……どうして分かるかなあ」
「あんたが最近考えてることなんて、そればっかりじゃない」
「そ、そんなわけじゃ……、いや、そうかも……」
「そうなのよ」
るりちゃんは腕組みをしながらも歩く速度はそのままに、少し斜め下へと視線を流して、言葉を選びながら慎重に続けていく。
「……あんまり想い詰めすぎても、宮森君の場合は逆効果じゃないかしら。いくら待つ身だと言っても、小咲は今まで通り宮森君と接してあげればいいんじゃない?」
「そう、だよね」
事情を知るるりちゃんの諭すような言葉に、私は一応肯定の返事をするものの、心のどこかでそれを素直に受け取れきれない自分がいるような気がしてならない。一度堰を切って流れ出したこの想いを、いくら私自身が抑え込もうとしても、もうその流れやうねりを食い止める手段を、私は持ち合わせていないのである。
これから、私達二人の事を、真剣に目を向け、考えて、答えを出す。
そう言った彼の、揺るがない決意のこもった、あの鮮やかな黄緑の瞳に真っ直ぐ射抜かれて。私はますます、あなたの隣に寄り添い、あなたと一緒にいたいと強く強く想うようになってしまった。
「ん?あれって……」
すると、腕組みしてたはずのるりちゃんが前方へ指をさし、驚いたような目を向けるので、私も釣られてその方向を見渡す。
公園の中から続く、川をまたいだレンガ造りの橋を渡り始める男女の姿がそこにある。女の人が引っ張っていくように前を歩いていて、男の人が後ろから渋々ついて行ってるという感じで。二人とも、私の知ってる人物だ。
どうして二人でいるの。思ってもいなかった光景に、危うくそんな言葉が口をついて出そうになってしまう。
昼休みに三人でお弁当を食べている時、私は羽先生が妙にあなたに親しい様子が気になって、あなたに羽先生とはどんな関係なのか聞いた。「楽経由の昔からの友人だよ」と、あなたが事もなげに言うのでほっとしてたけど、それでもやっぱり私は気になっていた。
笑顔で後ろを振り向きつつ歩く羽先生に、あなたは何か言ってるようだ。まもなく二人は、短い橋を渡り終えるところまで来ている。
私が今の羽先生のことを、まだよく知らないからなのかもしれない。けれど、私ってこんなに疑い深かったっけ。あなたが別の誰かと一緒にいるだけで、こんなにも心が掻き乱されてしまってたっけ。
すると、また公園の方から、橋を渡り終えていく二人の後ろを、二人の少女が身を隠すようについていこうとする姿が見える。何とかしてバレないように止まっては歩き、歩いては止まるを繰り返す二人の姿が、私には滑稽に映って思わず笑みがこぼれてしまう。
やっぱり姉妹だから、考えてることも同じようになっちゃうよね。
「るりちゃん、私達も後をつけよう」
「ええ、付き合ってあげるわ」
私の唐突な勧誘にも、るりちゃんはさも当然かのように乗っかってくれる。
今度何かお礼をしなくちゃなと頭の隅で考えながら、私達は橋を渡っていく春と風ちゃん、そしてその先を行っているであろう羽先生と樹君を目指した。
土曜のお昼前というのもあって、街ゆく人々は平日でよく見るサラリーマン姿や学生服でなく、皆それぞれ思い思いの私服姿で身を包んでいる。
そんな中、私は風ちゃんと一緒に、テラス席もいくつかある外観の素敵なカフェのお店へと入っていく樹先輩と、最近先輩達のクラスに新任としてやってきた奏倉先生を、やや遠めから見送っていく。
秋の季節に合いそうな服を探しに、風ちゃんとショッピングモールへと向かう途中、私は偶然にも公園で、樹先輩と奏倉先生が出会うのを目撃してしまった。急いで物陰に隠れて彼らの様子を窺っていると、二人がそのまま公園から川へと続く道を出ていこうとするので、「後をつけよう」と言う風ちゃんに私は大きく頷き返し、樹先輩達を追いかけ、今に至る。
奏倉先生のことは、樹先輩とお姉ちゃんと過ごす昼休みの時間に聞いていたし、実際に校内で何度か見かけて綺麗な人だと思っていたが、まさか樹先輩と奏倉先生が二人でいる姿を目にするとまでは想像してなかった。
「入って行ったね、どうする?春」
「うん、どうしようね、風ちゃん」
私と風ちゃんは店内を覗き込むようにしながら、店の前の通りで立ち往生してしまう。
「入ればいいじゃないの」
すると突然、後ろから女性の呼びかける声が聞こえてきて、私は思わず体が飛び跳ねるくらい驚く。振り向くとそこには、普段通り落ち着いた表情をしたるりさんの姿があって、さらにその後ろにはお姉ちゃんが、困ったような笑みを浮かべながらこちらに顔を覗かせていた。
「あはは、私達も樹君や春達の姿が見えて、後をつけて来ちゃった」
頭を手のひらで何度か触りながら、お姉ちゃんは忍びなさそうに言う。るりさんの方はというと、「ちょうど私達が目指してたお店じゃない」と呟いて、私達を引き連れて店内へ入っていこうとする。
どうやら目的が同じらしい私達四人は、るりさんをそのまま先頭に、黒のエプロンに身を包んだブロンドヘアの女子大生らしき店員さんの案内を受けて、樹先輩と奏倉先生がいる所とちょうど隣のテーブル席に陣取る。
幸い、ファミレスでもよく見るような仕切りがテーブルごとにあるのに加え、樹先輩はこちら側に座っており、尚且つ二人はメニューを見合わせていたので、私達はバレることなく忍び込めた。私とお姉ちゃんが樹先輩と背中越しに、風ちゃんとるりさんがその向かい側に座る形となった。
先程の店員さんに注文を聞かれ、私やお姉ちゃんの代わりに風ちゃんが飲み物を頼んでくれる。私がオレンジジュースで、お姉ちゃんはカフェラテ。風ちゃんはエスプレッソを頼んだみたい。るりさんだけがどうやらアイスコーヒーだけでなく、この店のオススメらしいパンケーキを頼んでいる。
私達がようやく落ち着き始めた頃、向こうの方も注文が終わったようなので、私やお姉ちゃんは樹先輩達の会話に耳を澄ませていった。
「樹ちゃんごめんね、付き合わせちゃって」
「いいですよ。オレも昼過ぎまで空いてますし」
すまない様子で言う羽さん。今日の彼女は、先生用の伊達眼鏡はしていない。長い黒髪を伸ばしたまま、白のワンピースの上にチェリーピンクの薄手カーディガンを羽織っている。大気が冷えてきたとはいえ、日中はまだ夏日に迫るような日が続く九月初旬の時期には良く適した服装であろう。
「けれど、まさか公園で会うなんて、羽さんは何してたんですか」
昼下がりに明日花のところまで行くまで、午前中は陽の光も程よい公園のベンチで読書して過ごそうとしていたが、その最中に羽さんに声をかけられた。
「ちょっと楽ちゃん達についていっててね。ほら、千棘ちゃんとの定期デートってやつ」
教室でもよく見せるような明るい笑顔を照らしながら、羽さんはこちらに目を合わせてくる。
「ああ、なるほど。よくもまあ、人のデートについて行けますね」
「ちょっと用件があってね、どうしても」
ほんのり意地悪く言ったつもりだったが、羽さんはその表情をちっとも崩さない。
どうしても。楽達のデートに。この人は楽達に無理言って一緒に行ったみたいだ。羽さんが彼らについていく理由なんて、たかが知れてるのだが。
「あなたの事だからどうせ、楽と桐崎さんの関係を確かめに行ったんでしょ」
「あら、樹ちゃん知ってたの」
「知ってたも何も、会って初日に気づいて、教えられましたし」
「そうだったんだ。私、今日知ったよ」
「そうですか?彼らのニセコイ関係に勘づかない羽さんではないですよね」
きっと聡い羽さんの事だから、当たりをつけていたはずだ。楽と桐崎さんの関係を確かめるのも用件の一つではあったのだろうけど、向こうで何度か会っていた頃に聞かされていたオレには、もっと重要な用件があったに違いないと感ぜずにはいられない。
「そこで、わざわざこんな所でオレとお茶するほど、重要な用件があったんでしょう?例えば、楽の事で桐崎さんに言いたい事があったとか」
「……ほんと、驚くほど鋭くなったのね、樹ちゃん」
「純粋で真っ直ぐな所のある羽さんなら、やりかねないなと」
それからというもの、羽さんは一転真剣な雰囲気を纏い、桐崎さんに自分が楽を好きだと直接伝え、堂々と恋のライバル宣言をしてきた事を教えてくれた。
オレ達がいるクラスの担任をすると電話越しに連絡してきた時も感じたが、羽さんのこうと決めたらこうという時の行動力は群を抜いている気がする。
「……というわけで樹ちゃん。これからまた、楽ちゃんの事で相談すると思うから、その時はよろしくね」
「もちろん、分かってますよ」
店員さんが飲み物を持ってくる間中、楽について惚気話もいくつか交えながら話していた羽さんが途端にそんなことを言うので、聞き流し始めようかと思ったオレは気を取り直す。
羽さんがロイヤルミルクティーに対し、オレは相変わらずレモンティーを頼んだ。ストローに口つけた後、羽さんが今度はオレに聞きたいことがるように、エメラルドグリーンの瞳をくるんと光らせる。
「そういえば樹ちゃん、明香里さんのことは大丈夫?」
羽さんに会えば必ず聞かれるだろうと想定してはいたが、実際にその名とともに尋ねられると、セメントがコンクリートになるように、オレは身が固まるのを感じてしまう。去年の今頃だろうか。あんまり切迫した感じで来た羽さんからの電話は、今でもその驚きとともに鮮明に思い出せる。
「大丈夫、なんでしょうか。最近随分と前向きになってきてますが、そうだと言い切れないです。どうにかしないといけませんが、まだかかりそうです」
「そっか、そんな割り切れるような事じゃないもんね……」
小咲や春から好意を寄せられるようになってから、彼女達が自分にとって何なのか考え始めたとともに、何より明香里のことを改めて見つめ直し、オレはようやくうごめき続けていた気持ちを整理していくことができている。
ただそれでも、まだとても落ち着かせることのできない想いが、心の至る所にバラバラと散らばっているようで、全部が時間の経過とともに片付け終わるかなんて、今の自分にはあまり想像しきれない。
「樹ちゃん。何か困ることとか、話したいことがあったら、いつでも私に話してもいいから。大切な人を亡くした痛みなら、少なからず分かってあげられるかもしれないし」
「……あなたの場合とはだいぶ違いますが、その心意気だけでも有難いです。ありがとうございます、羽さん」
悲しそうだけど懸命に目で訴えてくる羽さんは、ご両親を亡くしているようで、兄弟はおろか親戚もいないらしく、天涯孤独の身であるということを、一度向こうで楽に何故想いを寄せるのかを尋ねた時に耳にした。
今では叉焼会とかいうマフィアの首領であり、うちのクラスの担任としてしっかりやっているみたいだが、そこに至るまで何度も心折れてしまいそうな事があっただろうと、彼女の顔つきや線の細さから察する。
それでも、こうしてオレに言葉をかけてくれるあたり、羽さんの人の好さが如実に表れている。
「ところで、樹ちゃん」
微笑みをたたえる羽さんは、話題を変えようと明るい調子で尋ねてきた。
「どうして楽ちゃんや集ちゃんのように、私のこと羽姉って呼んでくれないの?」
「理由言ったことありませんでした?」
「うん、多分聞いたことない」
「どうして今更そんなこと聞くんですか」
「純粋な疑問として気になっちゃって」
ミルクティーを嗜む羽さんは、片目を閉じウインクをかましてきた後、いかにも聞きたそうにオレの返答を待っている。
「単純なことです。オレのお姉さんは、明香里ただ一人だけですから」
「そっか、樹ちゃんらしいね」
氷が解けていくレモンティーの様子を見つめながら答えるオレに、羽さんは納得したように頷く。羽さんがこんなことを聞くのも、お姉さん気質で、親しい年下の男子にはそう呼んでもらいたいという願望が、きっとどこかに潜んでいるからだろう。
確かに羽さんは二つほど年上の女性で親しくはあるが、自分のどこかに頑固な部分が存在して、オレはとても羽姉とは呼ぶ気になれず、その代わり羽さんという呼称で妥協している。
時計をちらりと見る。12時を少し超えたあたりだろうか。そろそろ明日花から電話がかかってくる頃だろう。
テーブルに置いていたスマホから着信音が鳴る。オレはすぐに手に取り、画面を確認してから、通話ボタンを押す。
「……もしもし、お兄さん?」
「もしもし、明日花。13時にはそっち行くから。それと今一緒に、羽さんがいるんだ。明日花覚えてる?」
「え、もしかして羽お姉ちゃん?!」
代わって代わってと電話越しから、元気よくせがむ明日花の声が通るので、オレはスマホから耳を離しながら、羽さんへと目配せをする。羽さんも嬉しそうに頷くのを確認してから、オレはスマホを羽さんへと渡す。二人が楽しそうな声色で話すのを眺めながら、オレは残っているレモンティーを飲み干す。
この店のレモンティーは、中々すっきりとしていて味も好みに近かった。店内の雰囲気も落ち着いてるし、今度は読書しにまた来てみようか。
気づくと二人の通話も終わったようで、羽さんは上機嫌にオレのスマホを差し出してくる。
「いやー!まさか明日花ちゃんに覚えてもらえてるなんて!早く明日花ちゃんにも会いたいなあ」
「その内会えますよ。皆とも数度遊んでますし」
「そうなんだ!楽しみにしてるわ」
心弾むようにニコニコと笑みを浮かべる羽さんを見てると、明日花の事でここまで嬉しそうにしてくれるのが、何故だかオレに誇らしさを感じさせる。
「さて、そろそろオレは出ますよ」
「うん、今日はわざわざ付き合ってもらってありがとね、樹ちゃん」
「こちらこそ、久々に羽さんとこうしてお話が出来て、良かったです」
オレは自分の代金を出すために、財布を取りだそうとバッグの中へと手を伸ばす。
「待って!私が誘ったわけだし、ここは年上に任せて!」
「いいんですか?」
「うん!楽ちゃんの事も話せたし、今日は私の奢りということで」
「……では、ゴチになります」
取り出しかけていた財布を再びバッグの中へとしまいながら、お姉さんオーラ全開で領収書を手に取る羽さんに、オレは軽くお辞儀をする。
羽さんもミルクティーを飲みきり、お互いに帰り支度が済んだところで、オレは最後に羽さんと確認したいことがあった。
「ところで、羽さん」
「うん?」
「何か……気づいてることありません?」
「……そうだね、橋のあたりからかな」
「さすが、叉焼会の首領でいらっしゃる」
羽さんから橋という単語が出た途端、突如として後ろの座席が慌ただしくなるので、逃がさないようにオレは立ち上って振り向く。
「ね、四名のお嬢様方」
背中合わせのところにいた小咲と春は、自分達のバッグを持ち出しかけてわなわなとしている。風ちゃんは、えへへすいませんといった感じで笑みを浮かべ、宮本さんはというと、残りのパンケーキを食べ切ろうとした痕跡が口の周りに広がっていた。
「ご、ごめんなさい、樹先輩!つい気になっちゃって……」
「樹君、ごめんね。羽先生も、すいません……」
ひどく申し訳なさそうに春と小咲の二人が、立ち上がってこちらへと頭を下げる。
「全く……、これで分かったろ。羽さん、面倒かけてしまいすみません」
「私は構わないよ。誤解が解けるならそれでいいし」
羽さんならこう言ってくれると思ったからこそ、敢えて橋からカフェまでの道すがら、彼女達につけられている事と恐らくの理由を、手短に話しておいたのだが。
「にしても、樹ちゃんもモテモテね~!まさか小咲ちゃんやその妹さんから、追いかけられるなんてね~」
「……ええ、有難いことに」
「小咲ちゃん、それに春ちゃん?だっけ。お聞きになってた通り、私は楽ちゃんの事が好きで、樹ちゃんとは友人同士だから、そこは安心していいからね」
「は、はい!お邪魔してしまい、本当にごめんなさい!」
「こちらからも、申し訳ありません……」
ニンマリ顔の羽さんがご機嫌な様子で、とんとんと話を進めていくので、オレは感謝の念を密かに送る。顔から火が出るように真っ赤な小咲と春が、再びお辞儀を返すのを見つめてから、オレは彼女達に声をかける。
「ともかく、勝手に疑われるのは困るが、そう疑わせたオレも多少悪い所があった。二人とも、悪かったな」
「そんな、樹君が謝る事じゃないよ!」
「そうです!私達がそもそも勝手に……」
「駄目。友達同士なら、ふざけるなの一言で済ませるけど、今のオレ達はそういう関係性じゃない。過失があってもなくても、ちゃんと言っておく必要がある」
食い下がってきた二人を押しとどめるように、オレは続けざまに言葉で制す。
「言ったろ?二人の事、真剣に考えるって。待たせる身ながら申し訳ないけど、必ず近い内に答えを出すから。だから、もう少しおとなしくいてほしい」
そこまで言うと、小咲と春は顔の色をさらに濃くさせ、俯いてコクリと首を縦に振るので精一杯のようだ。待ってくれる彼女達のためにも、自分の中で気持ちがもっとはっきりしてくる時が来るのを願う。
「宮本さんも、風ちゃんも。付き合わせてすまない」
後ろで立ち上がったままの二人にもオレは詫びを入れる。二人とも、こちらこそ申し訳ないといった感じで、一言加えて口に出してくれる。
「そしたら、さすがにもう行きますね。明日花も待ってるので。お先に失礼します」
気づくと時刻もいよいよ迫ってきているので、オレは少し早口で捲し立てた後、五人を置いてそのまま店の外へと出た。
小咲と春、二人への答えを出す事。そして、その後どうしていくのか。
明日花に学校の勉強を教えつつぼんやりとでも考えようと、オレは休日のせいで歩行者の数が比較的多い通りをかき分けて進みながら、明日花の下へと足を忙しなく動かした。
第二十二話『ウタガイ』をご一読下さり、ありがとうございます。
いかがだったでしょうか、感想や評価お待ちしております。
それでは、また次のお話で。