若草のような君に   作:享郎

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 第六話にお立ち寄り頂き、ありがとうございます。

 男の友情回です。ちょっぴり、あの人のことも……。

 それでは。


第六話 コイバナ

「……え~今日は、お前らに重大発表がある」

 

 いつも通りの、8時からのHRなのだが、キョーコ先生はいつもと違う雰囲気である。

 

「私、結婚するから、今月で学校辞めるわ」

 

 あっけからんとキョーコ先生がそう伝えた瞬間、クラス全体が固まったようになったが、水を打ったように各地から歓声と、どよめきの声が挙がる。

 

「ええ~~~~!!?キョーコちゃん、それ本当~!!?」

「キョーコちゃん、恋人いたんだ~!!」

「今月ってあとちょっとじゃん!!」

「ねぇねぇいつ結婚すんの!?旦那さんどんな人~!?」

 

 あっという間に、クラスはワイワイガヤガヤと騒ぎ始め、中には何人かの男女が思わず立ち上がって、やたらと盛り上がっている。

 オレは、今日のこの発表のことを、HRが始まる前にキョーコ先生から直接呼び出しを受け、事前に聞かされていたので、驚きと祝福の言葉は既に先生に伝えてある。

 先生には恐らく、クラスの学級委員長として、この後始まる一限のためにも、この盛り上がりの歯止め役を期待されているのだろう。

 けれど、クラスの雰囲気と、キョーコ先生の度量を考慮すれば、もう少しだけ、勝手に騒がせておいても大丈夫だろう。

 それよりもオレは、やたら盛り上がっている男女に紛れて、上手く隠してるつもりなのだろうが、何となく普段と違う様子のあいつの心配をし始めている。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……しかし、ビックリしたな。結婚とか、オレ達にゃまだ全然ピンと来ねぇ話だよな~」

「……だな~」

「……そうだな」

 

 今は昼休みであり、オレは楽と集と共に、屋上の柵にひじ掛けでもしながら、キョーコ先生のことについて立ち話している。

 

「キョーコ先生、誰からも人気あったし、淋しくなるんだろうな~」

「そ~だな~、良い先生だったからな~」

 

 ……やはり、集については、どこか変な感じがする。

 

「……オレ達もいずれ結婚とかすんのかね?」

 

 楽が唐突に疑問を投げかける。

 

「どうかな~。楽はその点大丈夫なんじゃね?お前なら小野寺と良い家庭を築きそうだ」

「なんで当然のようにそんな前提なんだ!!?なれるもんならなりてぇけど!!」

 

 集が楽に向かって大げさにグーサインを出し、楽からは勢いのいいツッコミが入る。

 

「そうだな、楽。まずは桐崎さんと橘さんをどうにかしないと」

「なんで樹までその前提でノッてくるんだよ!!」

「「ハハハ」」

 

 つい先日、楽から、集に好きなやつがいるらしい、と聞かされた。

 その時点で既に心当たりがあったが、楽には勿体ぶって言わないでいたら、あまりにしつこく楽から詰め寄られた。

 そこで、楽の好きな奴(小咲のことだが)を一発で言い当てたときの、楽のトマトのように赤くなった顔が、今でも思い出し笑いとして、鮮明に浮かんできてしまう。

 

「……ったく。やっぱズリーだろ、コレ……。いいかげん集も好きな奴教えろよ」

「にょほほほほ、楽が当てられたら教えてやるよ」

 

 ちなみに楽には、事前にその時に、今は好きな奴はいない、と伝えてある。

 オレは問われることはない。

 

「樹は分かるんだろ?集の好きな奴」

 

 すっかり集の好きな人当てゲームみたいなものに翻弄されきった、鈍感な楽は、オレに助け舟を出すように促す。

 ……さすがに、話を進めるか。

 

「集、お前はキョーコ先生のことが好きなんじゃないのか?」

「キョーコ先生……。確かに、集は仲良かったし、いなくなったら淋しいだろ」

「ピンポンパンポン大正解~!!キョーコちゃん美人だし、皆からも慕われてたし、淋しくなるよな~」

 

 そのいつもよりも少しだけ投げやりな表情と声に、集を挟んで向かい側にいる楽もどうやらさすがに気づいたようだ。

 

「……珍しいな。お前今ウソついたろ」

「……ほえ?……なんの事だい、楽……?」

「……たま~~になんだけどよ。分かるんだよ。昔からお前に何かあった時とか、いつもは分かんねえんだけど。たま~~にだけ、『あ、こいつ今ウソついてんな』って分かる時があるんだ」

「小6の時に、集の母親が入院したときとかな」

「ああ、樹の言う通りだ。お前、その時とおんなじ顔してたぞ」

 

 これだけ言われてしまえば、ただ呆気に取られている集も観念するだろう。

 

「……恐ろしいもんだな。幼なじみって奴は」

 

 

 

 

 

 

 

 

 キョーコ先生の寿退社を知り、三人で昼休みに屋上で語った日から、気づけば明日にはキョーコ先生が退職するところまできてしまった。

 今は、授業終わりの休み時間で、オレは楽と二人で、屋上へ向かっている。

 

「やっぱりさ……」

「ん?」

 

 楽が視線を少し横にずらしながら、おもむろに口を開く。

 

「鶫も言ってたんだけどよ、このタイミングで想いを伝えるっていう選択肢は、間違ってんのかな」

 

 楽はこの間にも、鶫さんにも相談しながら、集のことについて真剣に考えていたのだろう。

 楽は人の恋愛感情とかには鈍感なのだけれど、こうして誰かのことをまるで自分のことのように真剣に向き合えるところ。

 そんなところがオレは好きだし、こいつのいい所なのだろう。

 

「間違ってはいないぞ。伝えるも伝えないのも本人の意思の問題なのだし、そのタイミングはたとえ彼氏彼女がいるいない、結婚するかしないかの時のように、どんなタイミングであろうとも、告白ってのは結局は勝手な行為なんだよ」

「そ、そうなのか……」

「ほら、もうすぐ屋上着くぞ」

 

 屋上の扉を開けると、黄昏の空の中、集は柵に前に持たれながら、こちらにも気づいてないだうか、グラウンドの方を眺めたままでいる。

 

「……明日だな、先生が退職すんの」

「……そうだな」

 

 楽の呼びかけに応じたので、こちらの存在には気づいていたようだ。

 いつもとは違い、集の背中には淋しさがくっついているように見える。

 

「……お前は、いつもオレの恋愛を応援してくれるよな」

 

 楽が、集に語りかけるように、言葉を紡ごうとする。

 

「……まぁあんまり応援とは呼べない行動も多々あるが」

「それは言えてる」

「まあまあ」

「……だからオレも、お前を応援するよ」

 

 楽はそのまま集の方へ歩き出していく。

 

「お前が何も言わずに先生を見送るなら、何も言わねぇ事を応援する。…オレに出来る事はそんくらいしかねぇ。だからせめて、先生が行っちまったら、一回くらい、メシおごらせろよ」

 

 最後の方は照れて、明後日の方向へ視線をずらしていたが、楽は楽なりに、親友として集のことを考えたんだなってことが、よく分かる言葉だった。

 

「……オレも、何をどうしようが、集の味方だ。先生が行ってしまったら、楽がメシをおごった後、オレは何時までもカラオケ付き合ってやるよ」

「……サンキューな。楽、樹……」

 

 集は先ほどよりか、背中にくっついていた淋しさも少しは取れ、微笑むくらいには今の間ではあるが、励ますことができたらしい。

 けれど、オレの中では、楽から集に好きなやつがいるらしい、という時点から、依然としてどこか霧がかかったような感情が、胸の内でうごめいている。

 楽と集はお互いの恋愛事情について腹を割って話してくれたのに、オレは彼らに何か話しただろうか。

 それでも、オレは、あいつらのことをそう呼ぶように、あいつらから親友として呼ばれてもよいのだろうか。

 今悩んでいるのは集なのだが、オレはあいつらの力に少しでもなりたい。

 

「ところでさ、集。それに楽」

 

 どうした、と言わんばかりに、二人がこちらへと顔を向ける。

 

「参考程度まででいいんだけどさ、オレの恋バナでも聞くか?」

 

 すると、二人は、さっきまでのややしんみりとした雰囲気は何処へやら、鼻息を荒くして、いかにも興味津々のように食いついてきた。

 

「おお!樹の恋バナなんて、興味ありますな~~!」

「なんだよ、やっぱりあるんじゃねぇか、樹」

「いいか?あくまで、集の今の恋について参考になるかも、って思ったから話すのであって、決して胸キュンのような話じゃないぞ」

 

 既に二人は、なんだ早く教えろよ、と言いたげに、こちらに聞く耳を傾けている。

 

「……そうだな。さて、改めてどこから話そうか……」

 

 そうして大切なあの人との記憶へと、意識を埋没させていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ついに、キョーコ先生の最後の登校日がやってきた。

 最後のHRの後、キョーコ先生に花束やクラス皆の寄せ書きなども渡し終わった。

 今はキョーコ先生が渡されたものを手に抱えながら、グラウンドを通って校門の方へと、教室に手を振り返しながら歩いていくのを、教室からただ眺めている。

 

「キョーコ先生、本当にいなくなっちゃうんだ……。淋しくなるね……」

「……そうだな」

 

 隣にいる小咲が声をかけてくれるが、オレは生返事しか返せない。

 今、この教室に集はいない。きっと屋上の特等席から一人、キョーコ先生のことを眺めているのだろう。

 そういえば、楽の姿も見当たらない。少し辺りを見回すと、廊下で鶫さんと何やら話し込んでいるようだった。

 すると、次の瞬間、楽が突然ハッとしたような表情を浮かべた後、鶫さんの肩にポンと手を置いて一言かけて、廊下の先へと走り出していった。

 

 ……なるほど、そういうことか。これで集は後に引けなくなったな。

 

 オレが一人納得していると、クラスの一人から、机に積まれたプリント類を運ぶようにと、日直に対して呼びかけている。

 確か、今日の日直は……、あの二人か。

 オレは教室前方へ歩き出し、本来の日直係の片割れに声をかける。

 

「集のやつ、多分どっか行っちゃったから、手伝うよ。宮本さん」

「助かるわ、宮森君。……ったく、あのメガネ、どこ行ったんでしょうね」

 

 教室から職員室の道のりの中で、宮本さんは集への愚痴を散々に語っている。

 さすがに今日ばかりは許してほしいな。

 宮本さんには適当な返事をいくつか返していると、正面遠くの角から、急ぐようにして、こちらへ駆けてくる男子生徒の姿が見える。

 

「あ、ちょっと……」

「集!!」

 

 その姿が誰か気づいた宮本さんに小言を言わせないように、普段よりも大きな声を出して、オレは集に呼びかけ、空いている方の通路へ片手を差し出す。

 

「行って来い!!」

 

 集は必死の形相だったけれど、こちらの呼びかけに気づいてくれたのか。

 オレの横を通り過ぎる直前に、あちらも片手を挙げ、すれ違いざまにハイタッチをかまして、そのまま突風のように、廊下の先へと消えていった。

 

「今の……舞子君……?」

 

 宮本さんはこれまで見たことのないだろう、集のあんな姿を見て啞然としている。

 オレも、内心では、あんな集が見れるなんて、想定以上だった。

 

「悪いな、宮本さん」

「え?」

「このプリント類、職員室に届けておくから、もう教室戻っていいよ。それと、今日オレ、このまま学校サボるから。先生にも伝えといて」

「ちょっ……!?ちょっと宮森君まで……!!」

 

 宮本さんのその後の言葉は聞かず、オレはプリント類を全部宮本さんから取り上げ、職員室の方へ駆け足で向かう。

 今日は曇り空。予報ではこれから雨が降り出すようだ。

 

「晴れるといいな、集」

 

 オレはそう呟いて、また駆けるスピードを上げていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 降り出した雨はすっかり止み、雲間からは次々と光が差してきた頃。

 オレと楽、そして集は揃って学校をサボり、たこ焼き屋の前で、先ほど楽のおごりで購入したたこ焼きに舌鼓を打っている。

 

「……サンキューな、楽、樹」

「え?」

「……」

「……スッキリした。オレの趣味じゃないやり方だったけど、悪くないもんだね。こーいうのも」

「……そうか……」

「なら良かった」

 

 集の顔は、すっかりと晴れ晴れとしたものとなっており、安堵の気持ちを覚える。

 

「……んで?楽、お前はどーすんだよ」

「?何がだ?」

 

 急に集は楽の方へと話題を向ける。

 

「まさかオレには告白までさせといて、自分は小野寺に何もしないでいるつもりか?」

「ゴフゥ!!!」

「ごもっともだな」

「ゲホッ……、いや……、それはその……、言いたいことはもっともなんだけど、色々あるっちゅーか……」

「ヘタレだな」

「うるせえ!!」

「ハハッ冗談だよ。いいんじゃない?楽は楽のぺースでさ」

 

 思わず心の声もそのまま出たりしたが、またこの三人の雰囲気も、いつもの感じに戻りつつあるように感じる。

 

「でも、後悔はすんなよ?楽がもし後悔するような選択をしそうになったら、今度はオレがそのケツ蹴飛ばしてやるよ」

「……おう……」

 

 集は照れ臭そうに楽にそう言うと、今度はオレの方へと目を向ける。

 

「樹もさ、もし何かあったらさ、その時は言いなよ。力になるからさ」

「おう、オレもだぞ、樹」

「……ありがとな。集、楽」

 

 どうにもこうにも、普段言わないことや言われないことを言いあってしまう時は、男というのは照れくさくてどうしようにもなく、つい口数が少なくなってしまいがちだ。

 

「よし!たこ焼きも食い終わったことだし~。次はカラオケ行こうぜ!樹!今日は朝までやろうぜ~」

「いいぜ、集。今日は、朝まで付き合おう」

「え、お前らマジで朝までいくの?高校生ってそもそもオールは無理なんじゃ……」

「じゃあ、楽はここで置いてって、オレら二人で行くか?樹」

「そうしよう」

「だーー!!分かったよ!朝まででも何でも行くから、オレも連れてけ~!」

 

 雲は、霧にそれとも水蒸気に変わってしまったのだろうか、空はいつの間にか快晴になっていた。

 

 




 第六話『コイバナ』をご一読下さり、ありがとうございました。

 いかがだったでしょうか?

 集は何やかんや好きなキャラで、少しくらい樹君と絡ませてもみたくなったので、忠実になりすぎましたが、書いてみました。

 それでは、また次のお話で。
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