ガープさん発信源ならまずはこの人が来るかなぁ、という。
「あらら、まだまだガキんちょじゃないの。キミが噂のシュライヤかい?」
「え、いや、あの…」
「ガープさんがいいやつ見つけたって言ってたから来てみたけど…コリャおもしろいね」
「いや、えっと…はあ。」
何が、どうして、こうなった!!!
遡ること数十分──
俺はガスパーデを倒して以来、今までと何ら変わりのない、平穏で幸せな毎日を送っていた。
「おにいちゃん、これなぁに?」
「ん?おー、それはな…」
妹のアデルは俺以上に船に興味があるようで、俺が親父のところで勉強していると、自分からひょこひょこついてくるようになった。まあそれが可愛いのなんのって。語りだすと止まらないのでここでは割愛しておこう。
今日も今日とて、造船の勉強に励んでいたわけだが、そんな俺の元へつい先程、変な噂が入ってきた。
──アイマスクをつけた海兵が、港で思いっきり寝ている。
いや、もうね、嫌な予感しかしないんだわ。だって、アイマスクつけてる人なんて一人しか思いつきませんよ俺は。
ガープさんが去ってから早三ヶ月、彼がまたここを訪れることもなかったし、もうこれ以上巻き込まれることはないだろうと安心しかけていたところへこれ。
絶ッッッ対に、死んでも関わらない。そう決意した、が。神様は無情だ。もう俺の元には神様などいないのかもしれない。見捨てられたんだ、きっとそうだ。そうとしか思えない。
「シュライヤー!お前にお客さんだって」
「あー…ね、うん、分かった…。」
幼なじみである近所の飲み屋の息子につれられ、お店に足を踏み入れる。ここで──冒頭の状況が生まれたのだ。そこにいたのはもちろん、あの人。
「あらら、まだまだガキんちょじゃないの。キミが噂のシュライヤかい?」
「え、いや、あの…」
「ガープさんがいいやつ見つけたって言ってたから来てみたけど…コリャおもしろいね」
「いや、えっと…はあ。」
青雉、何故、ここに。
頭の整理がつかないまま、気づいたらカウンターに二人で並んで座ってオレンジジュースを手にしていた。
「あの、貴方は…」
「あー、そうだよね。おれはクザンだ。見ての通り海兵。よろしくなシュライヤくん」
「クザンさん…。よろしく、お願いします」
よろしくは心の底から遠慮しておきたいところである。
それにしても、間近で見るとまあデカいし威圧感も半端ない。彼の"ダラけきった正義"に恥じないくらいにダラけているのかと思っていたが、流石は三大将の一角、そんなことは全くなかった。隣で座っているだけで冷や汗が出てきそうなくらいだ。
「それであの、なんか俺に用、でしょうか…?」
「いやぁ、特に用はないんだけどね、この間ガープさんに会ったでしょ。あの人本部に戻ってから、面白いやつを見つけたってもううるさくて。今本部じゃキミは大注目の存在ってわけ。だからちょっくら見ておこうかと」
あんのじじい…何てことしやがる…!!
会った時から碌なことにならないとは思っていたが、まさかそこまで話が広まっているとは。俺はモンキー・D・ガープという男をなめていたようだ。
俺がオレンジジュースを見つめながら溜め息を溢していると、何を思ったのか、クザンさんは俺の頬っぺたをつついてきた。
…え?何で?
「あの…なんれすか」
「いや、白くてやわらかそうだなァと」
……ちょっとごめん、この人俺には扱いきれないわ。
その後もクザンさんのつんつん攻撃は続き、暫くされるがままでいたが、数分後には飽きたのか、突然、よしっ、と言って席をたった。
「シュライヤくん、手合わせしよう」
「…は!?え、何で!?」
「強いでしょ、キミ。」
ニヤリと笑ってこちらを見るクザンさんの目は、間違いなく本気で。あ、俺今日死ぬのかな、と思ってしまった。
クザンさんに連れられるまま、町の裏山の麓へ向かう。確かにあそこなら多少騒いでも大丈夫だが…。この人が何を考えているのか全く分からない。手合わせしたところで結果は分かりきっているだろうに。
ガスパーデを倒してからの三ヶ月間も癖のように鍛練は続けていたが、とは言え海軍本部大将に敵うわけがない。というか最早相手にすらならないだろう。
「さ、始めようか」
「いや…クザンさんとじゃ勝負にならないと思うんですけど」
「大丈夫よ、おれ手出さないから。そうだな、じゃあシュライヤくんがおれに一発でも入れられたら何かご褒美あげるよ」
「えぇ~…」
そうは言われても、あまりやる気がでないというか、気が進まないというか…。
「ん~困ったなァ。そんじゃ…おれに一発も入れられなかったらキミを海軍本部に連れていく。これでどう?」
「あァ、ちょっとそれは、困りますね」
「はは、やっといい目になったな」
妹と会えなくなるのは、勘弁だ。というかナチュラルに人拐いしようとしてるねこの人。
とりあえず、俺にはこの人に付き合う以外の選択肢はないらしい。手始めに、ワンパンチいっとくか。
武装色の覇気を纏い、クザンさんの腹目掛けて拳を入れる。が、
「いいパンチしてんじゃないの。けど、遅いな」
あっさりと避けられてしまった。まあ、そらそうだ。そう簡単に当たってくれるわけがない。
「じゃあ、こんなのはどうです?」
そう言うと、足元に転がっていた石を顔面目掛けて飛ばし、同時に近づいて彼の右足へローキック。右足をあげて避けたところへ、後ろ手に持っていた木の棒を右の脇腹目掛けて突く。もちろん、それも身体を横にして避けられる。が、こうして完全に重心が左へ寄ったところを──
「よっ、と。ふぅ~~危なかったァ」
「ちぇー、当たると思ったのに」
俺の拳は再び空を切った。左足で踏み切ってバク転して避けられた。この野郎。
「シュライヤ、まだ全速力じゃないでしょ。もっと速くしないと、おれには当たんないよ」
もっと速く、か。
その後も身体を暖めつつ攻撃速度を上げていくが、中々当たらない。というか、そもそも攻撃が当たる範囲に入ることすら難しい。
もっと速く、もっと速く。
「クザンさんの懐に…!!」
思いっきり地面を蹴った瞬間、あ、これだ、と感じた。今まで感じたことのない風圧。あっという間に相手の目の前にいる、この感じ。
「…!やべっ」
「っうぉりゃ!!」
脇腹を、俺の拳がかすった。
「あらら…入っちゃったねコレ」
「うわ…何だ今の…!」
「今のは、海軍では剃って言われてるヤツだ。まさかこんな短時間で物にするとはなァ…やっぱウチ来とく?」
「いや、俺はこの町好きなんで。」
「そう、そりゃ残念」
今のが剃、か。実際にやってみるとなんというか…本当に速度が違う。さっきまでの自分が亀のようだ。
「さ、約束だしなんかご褒美あげるよ。何がいい?」
「え、あー、そうだな。それじゃあ…」
──一時間後。クザンさんは、自転車片手に港に立っていた。
「そんじゃもう行くね、そろそろ仕事しないと怒られそうだし」
「はい、ありがとうございました」
「ま、おれが好きでちょっかい出しに来ただけだから、気にすんな。また遊びに来るわ」
「え、あ、そうですか」
「じゃ、それ大事にしろよ」
そう言うと、海を凍らせキコキコと自転車を漕いで去っていった。
小さくなっていく背中を見送る俺の頭には、黒い帽子。そういえば被ってたなと思い出して、買ってもらうことにしたのだ。クザンさん、意外と選ぶの張り切ってて一時間もかかっちゃったけど。それにしても…。
「また来るのかぁ。あんま関わりたくないんだけどなぁ、俺は」
この出会いが、自称シュライヤの師匠誕生のきっかけとなるのは──まだ、神のみぞ知ることである。
クザンさん、興味本意で来てみたら、あらら、中々センスあるじゃない、ってことで鍛えることにしたらしいぜ。ガープさんのせいでシュライヤくんの噂、とんでもない速度で広まっています。南無南無。
本当は手合わせさせるつもりなかったけど、気づいたらしてた。そして戦闘描写難しい。
なんか、書いてると、あれ今これ何年前だっけ、みんなどういう状況だっけ、ってよく混乱するんですけど、わかりますかこの気持ち(記憶力ないだけ)