チチチチチ……
薄らぼんやりとした意識の端に時計のさえずりが引っかかる。
小窓から陽射しが入るのを少しだけ鬱陶しく感じながら、半分ほど落ちているブランケットを完全に剥ぎ取って大きな欠伸を一つ。
「くぁ……」
ベッドサイドのラウンドテーブルに載せていた時計を片手で探し、止めて、体を起こす。
さて、今日の始まりだ。
ハクメイとミコチ 二次小説「日々是好日」
「いちにちのはじまり」
まずはぼさぼさの頭をどうにかしなくては、なんて考えながら未だに眠い目を擦る。
ただでさえ少しぼやけている視界が、眠気と欠伸で出た涙のせいで倍増しでボケボケだ。
陽気が心地いいベッドに後ろ髪をひかれながらも降りて向かうは洗面台。
水瓶に貯めた井戸水を小さな桶ですくう。
歯を磨きながら櫛で寝ぐせのついた髪を梳かし、その後に水にさっと一潜りをしてタオルでしっかりと水気を取る。
そして最後に鏡の前に置いていた丸眼鏡を掛けてひとごこち。「ふぅっ」 ようやく目が覚めてきた。
髪が乾く間に朝食の支度をしよう。台所を物色して、いつも食べているフレークが切れていることに気づく。
しまった。昨日買いに行こうと思ってたのに忘れてた。
朝っぱらから少しだけ憂鬱になりながら、ふと燻製肉が残り少なくなっていたことを思い出し「今日はサンドイッチ作るか」。
普段は面倒くさくて手軽に済ませているが偶にはゆっくり朝食に時間を割くのも良いな。悪いけど店の開店は少し遅れさせてもらおう。
そう思い直し、小さな竈に麻縄をほぐしたものと少しの薪を放り込み火をつける。
竈の上の五徳に小さな鉄フライパンを載せ、温まってきたころに油と燻製肉を投入し焼いていく。その隣でケトルでお湯も沸かしておこう。
肉が焼ける間にスライスしたパンに最近お気に入りの酸味控えめなマスタードをたっぷり塗り、レタスとトマトを載せる。
そんなこんなしている内にいい具合になったので肉をさらに上に載せ、サンドイッチは完成だ。
皿に盛り付け、お気に入りのラウンドテーブルに持っていき、コーヒーを淹れる。
コーヒーがネルからサーバーにポタポタと抽出される音を聞きながら、香りを楽しむ。
いつもよりゆったりとした朝だなぁなんてぼんやり思っていると、にわかに隣の部屋が騒がしくなった。これはよくあることだ。
隣人はわりと多忙なスケジュールをしている癖に、頻繁に寝坊している。いつもはそれを聞きながら僕自身も店に向かうための準備をしているが、今日はのんびりすると決めたのだ。
どたばたとしている様子にククッと笑いを溢して、サンドイッチに齧り付く。咀嚼し飲み込んで一言。
「マスタードつけすぎたな」
燻製の香味よりもマスタードが主張しすぎてまとまりがなんとも……。まずいわけではないけどさぁ……。
どうやら僕もまだ寝ぼけていたらしい。これでは人の事をバカにできないな。
コーヒーの具合はどうだろうかと一口啜ってみて目を見張る。こっちは会心の出来だ。
今日の朝食はいまいちなマスタードサンドに最高のコーヒー、足し引きしたら良い方に傾いたかな。
なんてボケっと考えながら、うっすらと聞こえてくる隣人とその更に隣に住んでいるご近所さんのやり取りを聞きながら、食事を楽しむ。
「あぁ、いい朝だ……」
にしても一人暮らしは独り言が多くなっていけないね。さて、食べ終わったことだし僕も片付けして準備しないとな。