ここ、マキナタでは結構な頻度でイベントや祭りが開催される。
今日はそのうちの一つ。収穫祭だ。いつもは店に引きこもっている僕もこんな日は外に出る。
というのも、マキナタは旅人が集まってできた街って言われるだけあって色々な物品も集まるんだ。
そして、そんなのがドカンと放出されるのが祭りの日ってわけ。もちろん、薄氷堂も出店を出してるよ。祭りの期間中だけのアルバイトを雇ってね。
そういうわけでお店はバイトの子に任せて、僕はグラスの仕入れも兼ねて街をぶらついてるのさ。
やっぱり大きなお祭りなだけあって人ごみが凄いのなんの。こんな中で掘り出し物を見つけるのはすっごく骨が折れる……おっ、あれはなかなか良いものかもしれない。ちょっと混んでるけど……まぁいいや!
行列に並んでいる間もあたりを見渡してめぼしいものが無いかさらっとだけどチェックする。後はパンフレットのチェックも欠かせない。
なにせ非公式なものを含めると数千もの店が出店されているんだ。一つ一つゆっくり見て回るのなんて到底無理だからね。
あれは……うーん、たぶん偽物かな。あっちのは……状態が酷いなぁ。お、いつも贔屓にしてくれてる職人さん今日お店出してるんだ。後で挨拶にいかなきゃな。
そんなこんなしている内に僕の番。乱雑に並べられている商品をじぃーっと見て、結局最初に目に入ってきたものを購入。
売り子のお姉さんの「ありがとねーっ!」に軽く返事を返したら早速紙袋から取り出す。
日の光にかざすと金色に光って実に美しい。ホントは一旦自分の店に戻ってからにしようと思ってたけど天気も良いしその場で開けちゃおう。
こりゃあ待ちきれない、とばかりに近くにあった噴水に腰かけていそいそと準備。そして一口。
「うーん、こりゃうまい。バイトの子にも買ってあげるか」
これが毎年毎年ひそかに噂になる梨ジャムか。爽やかな梨の香りと、まだ少し形を残している梨のシャキシャキ感が口の中を楽しませてくれる。合わせて食べている雑穀パンもジャムに負けず香味を発していてシンプルに旨い。
「セットでオススメされるわけだ、納得納得」
あっ、べ、別にサボりではないよ! 目ぼしい品物を探しているついでに、賑わっている他店の様子を偵察しているだけだからね!
……あそこの屋台のチュロスもおいしそうだなぁ。行ってみよう。
ハクメイとミコチ 二次小説「日々是好日」
「収穫祭」
なんて風に、昨日は結局の所しっかりと遊び倒してしまった。もちろん、いくつかの品物はゲットしたさ。
昨日働いてくれてた子たちにはお土産に買っておいた梨ジャムセットと、事前に言ってた金額よりも少しだけ色をつけたお給金を手渡したし問題ないってことで。
流石に遊び過ぎたことだし今日は真面目に勤務してるよ。
今回の収穫祭は厳選な抽選の結果、幸運なことにメインステージにほど近い場所で出店できたから例年よりも結構忙しい。
やること自体は普段とそう変わるわけでも無いんだけど、いかんせん場所が場所だからね。
朝から延々、グラスの説明を一人でこなし続けてたもんだからもうくたくた。
でもまぁおかげさまでいつもよりうーーーんと稼ぎは良い。いつもは中々暇だからね。偶にはこういう日があってもいいでしょ。
お客さんの切れ目に一息ついてると喧騒をかき分けてメインステージの催し物が聞こえてくる。どうやら収穫祭の目玉、今年の歌姫の発表らしい。
ショーケースから売り物のタンブラーを一つ取り出して瓶に中途半端に残ってしまったビールを注ぐ。
軽く一杯くらいなら口の回りが滑らかになるから良いでしょ。
「んくっ……ぷはァ。うーむ甘露甘露」
忙しさで火照っていた体に冷たいビールが心地よい。
どうせしばらくは皆中央広場に釘付けだから休憩休憩。どっかりと椅子に腰かけて風を感じる。
「栄え……歌姫に選ば……は……バー……ジュ!」
少し遠いからか、視界の声が遠い。カウンターから身を乗り出して覗いてみると綺麗な金髪の女性がステージに立っているのが見える。
彼女が今年の歌姫らしい。歓声が上がるのが聞こえてくる。
と思ったらそれが少し期待を込めたどよめきに変わった。どうしたんだろう?
もう一口とビールを口に含みよーく耳を澄ましていると。
「……ミコチ!」
「はぁ!?」
「おぉ!?、ってあぶなっ!」
聞き覚えのある名前と驚き声が耳に飛び込んできて思わずビックリ。体を跳ね上げた瞬間にタンブラーを落としかけて慌てて体勢を整える。
っていうか……
「歌姫が二人って……えぇ……?」
ミコチさんエントリしてたのか……。てかもう一人の人も見覚えがあるような……?
- * - * - * -
あの後は、ステージ帰りのお客さんを何人か捕まえたり、げんなりした様子のミコチさんと愉快気なハクメイさんが立ち寄ってくれたりした。
どうやらノーエントリーだったのに普段の何気なく歌ってるのを聞いてファンになった人たちがいっぱい居て、その人たちに投票されたみたい。
え、普通にすごくない?どんだけ歌上手なんだミコチさん……。
とまぁ、そんなこんなで店仕舞いをして今は夜。一日の疲れをお風呂で洗い流して、今日一日の収支を帳簿につけてようやく自由時間だ。
にしてもなかなか疲れた一日だったなぁ。こんな日はありあわせで手間のかからない晩御飯に限る。
というわけで、帰り道に閉店間際の出店で、最後の掻き込み所だと言わんばかりに叩き売り価格で売られてた乾き物セットを取り出してパックを開ける。
中には燻製されたチーズ・ベーコン・切り分けられた牡蠣、さらには砕きナッツとなかなか豪華なメンツが。ちょっと良い値段しただけあるな。
これらを大皿に並べて、ついでにストックしてたバケットも添える。今日は天気も良いし、外で星でも見ながら晩酌だな。
よいしょよいしょとラウンドテーブルとスツールを部屋に備え付けのベランダにセット。
ウイスキー一瓶、グラス、お皿を何とかバランスを取りながら手に持って、席に着く。
スツールに腰かけてベーコンを一口。しっかり咀嚼したら脂を流すようにウイスキーを舐める。
ただただうまい。ベーコンの風味と燻製香が、塩味の効いたウイスキーによく合う。
「この瞬間のために日々働いていると言っても過言じゃないよなぁ。」
そうぼやきながら、星を見ながら肴と酒を行ったり来たり。良い感じにほろ酔い気分だ。
たまーにお向かいさんの生活模様が窓に映るのもおもしろいね。
なんて独身貴族まっしぐらな、優雅な夕餉を楽しんでいるとお隣さんの部屋からとっても綺麗な歌声が。
最初の方はこりゃええぞええぞと楽しんでたけど、どうやら発声練習のようで次第に飽きてきた。
そういえばここの住人の吟遊詩人が巷で噂になってるらしく、街中でも口ずさんでる人が多いんだよね。
あっ、僕の住んでる所は蜂蜜館っていう、まぁザックリと言えば変わり者ばかりが住んでる集合住宅地でね。ごく偶にそんな凄くクリエイティブな人が現れるんだ。
んで、僕の店の常連さんもすっかりファンみたいで仕入れついでに呑んでいく時にも最近よく歌ってんの。
だから僕もすっかり歌詞とリズムを覚えちゃって。いい気分だし、ちょっと歌ってみようかな。
えっと……確かこんなもんだったかな。
「~~~♪」
ドタタタタタタタッ!バンッ!
激しい足音と共に ご近所さんがベランダに飛び出してきた!
「ちょっと、人が真剣に練習しているところに微妙にズレた音程で被せるのはやめてくださるっ!?」
「何かよくわからないけど、ごめん」
蜂蜜色の髪を靡かせたお隣さんはいかにも不愉快です!といった様相だ。
でもそんなことよりも……
「お隣さん、そんな格好じゃ風邪をひくんじゃないかい?」
「何を言ってらして……あら?」
- * - * - * -
ひとまず、ちゃんと部屋着に着替えた彼女はコンジュさん。
なんと、かの名高い歌姫さんらしい。世界は狭い。てか見覚えあるはずだよな。だってお隣さんだもん。
どうやら結構イケるクチみたいで、「まぁまぁ駆け付け一杯」と言わんばかりに僕がグラスを渡すと「なかなか趣味がいいじゃないの」なんて言いながら飲んでた。
最初は自慢げに歌姫発表会の話とか普段の活動を話してたと思ったらいつの間にか歌おうとしたり、実はもう一人の歌姫は知り合いなんだって伝えたら
「まぁ、あの失礼な女ね!」
なんてプリプリし始めたり。なかなか感情表現が幅広くて表情がコロコロ変わるからおもしろい。
しばらくしたらコンジュのお隣さんも話し声に誘われてベランダに出てきちゃった。その流れで小さな隣人交流会が始まってしまった。
三人ともお酒を飲みながら今日のステージはあーだとか、どこどこの出店の食べ物が美味しかったとかガンガンに話が進むのなんの。
そんな感じで僕も中々ないシチュエーションにおもしろくなっちゃって結構長話してしまったんだけど、そういえば明日舞台で歌うんじゃないの?って聞いたらものすごい勢いで引っ込んじゃった。
まるでつむじ風のようなお嬢さんだこと。
「ふぁ~あ。僕もそろそろお暇しようかな。お休み、お隣さんのお隣さん」
「お休み~」
久しぶりに賑やかな晩酌だったなぁ。ほんとは星空見ながらしっぽりの予定だったけど、人との付き合いの楽しさは何にも勝るからね。
今日はぐっすり眠れそうだ。明日はお祭り最終日。ちゃんと僕も稼がないとね。それじゃあ、お休み!
そういやミコチさんに後日聞いた話だけど、コンジュさんはしっかり風邪をひいちゃってて少し大変だったみたい。恐らく湯冷めが原因かなぁ。
ミコチさんの機転のおかげでのどは直前になんとかなったみたいだけど少しばかり責任感じちゃう。
今度お酒奢らないといけないな……
いつのまにか三か月たってました.
色々影響があってなかなかまとまった時間がとれなかったんです.
ごめんなさい