ベンチに座っていると木枯らしが僕を追い抜いていった。
手に持ってるホットコーヒーの湯気とともに少しばかりの体温を持っていかれた僕は思わずブルり。ギュッとコートの襟を握りしめた。
コートはちょっと余分かもなーなんて思いつつも羽織ってきた自分、偉いぞ!
ちびり、と早速ぬるくなり始めたコーヒーに口をつけながら仰ぎ見ると大体7割くらい丸くなった月が煌々と輝いてる。
そのまま見上げて十数分ほど経っただろうか。吐く息が真っ白なのを見ながら「あぁ、秋も深まってきたなぁ」なんてぼんやりしてると遠くから汽笛の音が聞こえてきた。やっとだやっと。
立ち上がりすっかり冷えて固まった体をほぐすように体を伸ばす。ついでにちょっと離れた所にある売店のゴミ箱にコップを入れてるとホームに重々しい音を鳴らしながら汽車が停まった。
「おまたせしました!カノカン行です!」
降りてきた若い男の車掌さんがホームで一人ポツンと立つ僕を見てハキハキとそう言う。
「あい、大人一人ね」
「ありがとうございます!...大丈夫です、トの1番にお願いします!」
切符を見せて足早に乗車。マキナタ駅はすっからかんだったけど車内はぼちぼち混んでるみたい。夜行列車なのに結構起きてる人が多いのはきっと車内売店のコーヒーと料理のおかげだろうね。
人と何度もすれ違いながら目的の席へ向かう。やった、端っこの窓際席だ。背中側のお客さんを気にしなくても良いのは気が楽で良い。向かいには窓の外をぼんやりと見つめる白銀に近い薄翠色の長髪のお姉さんが一人。チラッとこっちを見たので軽く会釈をしてから、着替えを数日分詰めた旅行鞄は吊り網の上に乗っけてドッカリと席について一息。すっと息を吸ってみると少し古い布の香り、二席前のハツカネズミの夫婦が食べてる揚げ物の匂い、そしてほんのり香ってくるタバコの煙。どうやらここは喫煙可能車両のようだ。
ちょっとうずうず来てしまったので手持ち鞄からパイプと刻みタバコを入れた布袋を取り出す。そこでふと気づき躊躇いがちにお姉さんの方へ顔を向けると「どうぞ?」と言うように手でジェスチャー。ではではと、小さく鼻歌を歌いながら指一つまみ分のタバコをほぐして詰めていく。祖父から受け継いだパイプはなかなか風味が出ていて、こんな時間が有り余る時のお供には最適なんだ。お店にいる時とかはなんやかんや色々やってるから吸っていないけどね。
マッチを取り出して口に咥えたパイプの火皿に近づける。火がついたのを確認したらタバコを一度平らにしてもう一度火を着ける。後はそのままプカプカ。甘いタバコの香りが心地よい。
「えらく美味しそうに吸うのね」
「えっ……ああ、そうですね。ずいぶん久々なものですから」
「あら、そわそわ準備してたからヘビースモーカーなのかなって思ってた」
「タバコそのものが好きというか……。ゆったりした雰囲気が好きで。なんで何もすることが無い、まとまった時にしか吸わないんですよ。そんなもんだから甘くて軽い奴しか吸えないんですけどね」
ほら、とタバコの銘柄が書かれた袋を見せるとお姉さんはクスリと小さく微笑む。
「ホント。これ確か若い女の子向けのやつじゃない?」
「おっしゃる通りで。まぁ道具は使ってなんぼですから、点検がてらに吸うくらいの人間にはこれくらいがちょうどいいんだ」
バツの悪そうにそっぽを向く僕が面白かったのか、お姉さんは笑みを浮かべたままこちらを見てる。なんとなく心地悪いのをごまかそうと僕は右手を前に差し出した。
「僕の名前はヒムロ。ちょっくらハルハンに向かってるしがない商人です」
「フフッ、私はアザミ。旅芸人よ。カノカンで降りるから短い間だけどよろしくね」
ハクメイとミコチ 二次小説「日々是好日」
「晩秋、汽車にて」
向こうも話好きなのか、しばらく会話のキャッチボールを続けて受け解けてきた頃に「ん……」。どうやらついに口元の火が消えたみたいだ。ブリキの箱に火口をひっくり返してトントン。今日のタバコはお終い。ササっと灰を落とし、話を続けながら手入れを始める。
「……もういいの?」
「まぁぶっちゃけ雰囲気を味わってるようなもんだからね。1タームで十分なんだ」
「ふーん、そう」
「うん、そう。……で、なんだっけ」
「これからあなたの商いの話が始まるタイミングね」
「あぁ、そうだった……。ま、細々とグラス屋を営んでるよ。今日はハルハンに仕入れに行く道中だったんだ」
そういえば、とカタログを取り出して見る?と尋ねる。手に取ったアザミさんはパラパラとめくりながらへぇーと溢す。
「ずいぶんと幅広く揃えているのね。装飾に地域差あって面白いわ」
「でしょ?その場その場の職人の気質が現れてるからね」
「でもこれだけ集めるの相当苦労したんじゃないの?」
「まぁーそうは言っても、趣味の延長線上みたいなものだからね。それにマキナタは旅人の街なこともあって結構方々に伝手があるから……」
「へぇ、なかなか賑やかそうな街。知り合いも居るから今度行ってみようかな」
「多文化で色んな店があるから楽しいよー。食べ物も中々ディープなものがあるから路地裏巡りもオススメだね。アザミさん旅芸人だし、路銀稼ぎながら滞在するのイケそうじゃない?」
「言うは易く行うは難し、よ。……でも久しぶりにあの子に会いたいし、今度のお仕事が終わったら行ってみるわ」
「お!言ってみるもんだね。それじゃ、これ僕の名刺。裏に小さいけど地図が載ってるからお店にも来てみて!。もし地図でわからなかったら蜂蜜館ってとこに来てもらうと楽かも。お店は無いけど僕の家がそこだから。住民もなんだかんだ世話焼きで愉快な人たちばかりだからさ!」
蜂蜜館……?と頭にハテナを浮かべてるアザミさんに、ざっくり言うと住民統治が進んでる集合住宅地だよと伝える。享楽家のオーナーが音楽家とか絵描き・物書き、はたまた無頼の旅人なんかの変わり者を集めた愉快な場所だよ、とも。アザミさんはほのかにはにかみながら「そんな所に来るように言ってくるあなたも変わり者ね」。失礼な、とも言えないのが弱いところだ。
「でも、ずいぶん愉快な所ね」
「それは保証するよ。ただ場所によっては治安がよくなかったりもするから……。」
「そんなのは色んなとこの繁華街で慣れっこよ」
「まぁ初めにお店に入って僕の名前出してくれたらそこの人が僕のこと呼びに行ってくれるからさ。有効活用しちゃって」
「わかったわ。……あら、もうカノカンに着くみたいね」
アザミさんにつられて窓の外を見るといつの間にか白んできていて、ついでに終点のカノカンが遠くに見えている。
「もうそんな時間か……。かなり話し込んじゃったね」
「ほんとね。とても楽しかったわ、ありがとう」
「僕も楽しかったよ。ありがとう。……最後に、コーヒーでもどう?話し相手とタバコの許可のお礼に奢るよ」
「ここのコーヒー、そんなに美味しくないのよね……。」
「ハハっ!確かに味は微妙だよね。でも車内販売の微妙さも旅って感じがして僕は好きなんだ。」
「ふふふっ、わかるわ。私も好きよ。……それじゃあ、ご相伴に預かるわ」
一人静かに過ごすのも良し、誰かと語り合うのも良し。人との出会いもまた旅の醍醐味。
こういうのがあるから僕は自分の足で仕入れに行くのが好きなんだ。これっきりになるかも知れないけど……。それも込みで出会いだよね。
ちなみに僕はこの後カノカンから更に陸路・航路乗り継ぎでハルハンに向かう。楽しすぎて寝るのも忘れて話し込んじゃったけど体力もつかな……。まま、なんとかなるか!
アザミさんは唐突に現れたオリジナルキャラです。出番が今後もあるかわかりませんが割と気に入っております。(拙者お姉さんキャラ好き侍で候)
さて感想にて主人公、ヒムロのプロフィールについて質問があったためこちらにもざっくり記載いたします。質問などあったら追記していくかもです。
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【ヒムロ】
・年齢性別:22歳(♂)
・職業:グラス屋(個人から卸業まで手広く)
・種族:ヒト
・出身地:ハルハン
・好物:燻製などの保存食、お酒(特にウイスキー)
・苦手な物:ゴロゴロした根菜(小さくカットされてると問題なし)
・服装:白の襟付きシャツに黒のバルーンパンツ、小さめレンズの丸眼鏡
Q:種帽子はどうしたの?
A:「なんか帽子は蒸れちゃうから苦手なんだよね……今は大事にしまってる、よ?」
Q:蜂蜜館の印象は?
A:「なかなか愉快なところだよね。色んな所でヤイヤイしてるけど賑やかで楽しいよ。休みの日なんかは偶に高い所で日向ぼっこしながら眺めてるんだけど、飽きないこと飽きないこと。この騒然とした感じはハルハンじゃ中々お目にかかれないね」
Q:グラスの良さは?
A:「グラスの良さ?いっぱいあるよ!例えばこれ!底が大きく丸くて口先に来るにつれて窄まっていくでしょ!これによって入れたお酒の香りがグンとわかるようになるんだよ!こっちは形としては普通だけど口にあたる部分の薄さが……!……ッ!...」
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こんな思い出したかのようにしか投稿しない二次創作にも感想・評価をいただけて非常にありがたいです。いつも本当にありがとうございます。