海賊らしからぬ海賊   作:やがみ0821

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伝説の終わりと新たな伝説の始まり

 

 

 船へ戻り自分に突き刺さっていた槍を全て抜いてもらったルナシアは、シキに離脱するよう伝えて、彼女は船からすぐに飛び降りて島の中央部へ向かう。

 空から一目で分かる程にあちこちクレーターだらけとなっており遺体が原型を留めている可能性は低かったが、それでも彼女はロックスの遺体を一部でも回収したかった。

 

 たとえ世界最悪の海賊であろうと、ルナシアにとっては教育してくれてメシを食わせてくれた恩人だ。

 

 

 

 幸いにもロックスはすぐに見つかった。

 

 ガープとロジャーが仰向けに倒れた彼の前で佇んでいたからだ。

 少し離れたところにはつるもいるが、他の海兵の姿は見えない。

 

 

「ルナシアか……」

「海賊が海軍に言うことじゃないけど、戦う意思はない」

 

 こちらに気がついたガープにそう答えながら、ルナシアはロックスの傍へ駆け寄って、膝をついた。

 

 ロックスは死んでいるかと思いきや、まだ微かに息があった。

 だが、素人目にも分かるくらいに致命傷で、今この場でできる限りの治療を施したとしても助からないだろう。

 

 彼女はロックスの耳元で聞こえるようにゆっくりと告げる。

 

「ロックス、私を育ててくれてありがとう。あなたには世話になった」

 

 するとロックスは聞こえたのか、血まみれの口元を歪めて笑ってみせる。

 

「クソガキが……言うようになった……」

 

 ロックスは最後の力を振り絞って、ルナシアの頭に手を置いてゆっくりと撫でる。

 

「お前との時間は……悪いもんじゃなかったぞ……」

「色々あったけど、私も楽しかったわ」

 

 ルナシアの言葉にロックスは咳き込みながらも告げる。

 

「さよならだ、ルナシア……好きに生きろ……」

「さよならじゃないわ。またいずれどこかで会いましょう。そのときは私が世界の王になっているかもしれない。覚悟しといて」

 

 ロックスはその言葉を聞いて、満足そうな笑みを浮かべて事切れた。

 ルナシアは溢れ出る涙を堪えつつも笑みを浮かべつつ、彼の身体を抱きしめる。

 

 一部始終を目撃していた3人のうちガープとロジャーは互いに目配せをし、声を掛けることを譲り合う。

 まだ猶予はあるだろうが、それでものんびりしている余裕はない。

 

「……ルナシア、ちゃんと弔いをしてやりな。海軍の私が言うことじゃないだろうけども」

 

 男共は頼りにならん、と思ったつるが口を開く。

 その言葉にルナシアは小さく頷きながら、彼の身体をひょいっと持ち上げる。

 

「それじゃ、お先に失礼するわ。看取らせてくれて、ありがとう」

 

 そう述べて彼女は駆け出して、あっという間に見えなくなった。

 

「あいつはロックスと似ているが違うことをやりそうだ。俺の仲間にしてぇが、全力で戦いてぇ……俺はどうすりゃいいんだ……?」

「お前、少しは空気読めよ……」

 

 ロジャーの言葉にガープはジト目でツッコミを入れながら、拳骨を作る。

 

「ここで俺に捕まれば悩むことはなくなるぞ?」

「あ、そいつはナシで」

 

 ロジャーはそう言うや否や、逃走を開始した。

 ガープは勿論、つるも彼を追うことはしない。

 手負いとはいえ、ロジャーを相手にするには消耗し過ぎてしまった。

 彼が見えなくなったところで、ガープが告げる。

 

「ありゃ強くなるぞ。将来、海軍にとって最大の脅威となる……じゃがなぁ……あんな場面を見せられると……俺は手出しできん」

「それが正解だよ。センゴク、ゼファー、レイリーの3人を相手に一歩も退かなかった彼女を私達だけで仕留められたとは思えないね」

 

 ロジャーのバカはどっちも攻撃しそうだし、と付け加えたつるにガープもまた頷く。

 そして彼は問いかける。 

 

「槍は抜かれていたが、傷の具合はどうだった?」

「出血は止まっていたね。報告によれば刺さっていたときは再生しなかったようだから……」

「能力者である以上、海楼石製の武器ならば有効だな」

 

 ガープの言葉につるは同意とばかりに頷いてみせ、彼女は告げる。

 

「ロックスを倒したけど……これからが大変なことになる。それは間違いない。というか、私達もさっさと逃げるよ!」

「バスターコールに巻き込まれちゃかなわんからな!」

 

 2人もまた走って逃げ出したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、ルナシアはガープ達が見えなくなったところで翼を展開し、空を飛んで船へと戻った。

 ちょうどその頃、バスターコールの為に観艦式でもやっているのかと思える程に多数の軍艦が島の周辺に展開し、砲撃を開始しつつあった。

 だが、空を飛ぶ船を追撃できる者はなく、悠々と戦場から遠ざかっていた。

 

 

「こんなときで悪いが、俺は抜けるぜ」

「おれも抜けるよ。あ、ルナシア。お前との友好関係は継続だからな。これからも仲良くしようぜ」

 

 シキとリンリンがそう言うが、特に止める者はいない。

 ルナシアは2人を含め居並ぶ船員達に告げる。 

 

「ロックス海賊団は彼の海賊団だった。私が後を継いだりはしないわ」

 

 彼女の実質的な解散宣言に異論を唱える者は誰もいない。

 

「とりあえず、どっか適当な島に着くまでは互いに殺し合いをしないという協定を結びましょう」

 

 ルナシアの提案にシキとリンリンも含め、全員が賛同する。

 船員の多くは討たれ、生き残った者達も例外なく消耗していた。

 ルナシアとて海楼石製の槍で刺された部分は表面的には傷が塞がっているが、内部の修復はいつもと違ってゆっくりとしたものだ。

 海楼石製の武器は自分にとって弱点と頭で分かっていたが、身を以て今回体験した形となった。

 

 もっと強くなる必要がある――

 

 彼女がそう思っているとカイドウが問いかけきた。

 

「ルナシア、お前はこれからどうするんだ?」

「色々と考えるわ。カイドウ、あなたは?」

「俺はもっと強くなる! でもって海賊団を作るぞ!」

 

 そう宣言するカイドウにルナシアは肩を竦める。

 何だか彼は単純な強さのみでのし上がっていきそうだ。

 

 見習いに抜かれるのは面白くない――

 

 ルナシアは絶対もっと強くなると決意しつつ、黙っていたニューゲートに声を掛ける。

 

「ニューゲート、私の海賊団に……」

「諦めていなかったのか、クソガキ。お断りだ」

 

 ルナシアは溜息を吐く。

 他の船員達からも海賊団を立ち上げるような声が聞こえ、友好関係にあるリンリンを除けば全員が敵という形になるかもしれない。

 

 ロックスを弔って、バッキン達を回収してから将来のことは考えよう――

 

 ルナシアはそう決めたのだった。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゴッドバレーにてロックス海賊団は船長と船員の多数を失った。

 ロックスが死亡したことで海賊団は解散し、世界政府と海軍、そして民衆は安堵したのだが――そこから程なくしてロックス海賊団に所属していた者達が名を上げ始める。

 元々大物であった者から無名であった者まで様々であった。

 民衆はロジャー、白ひげ、金獅子、ビッグ・マムといったビッグネームに恐れ、世界政府と海軍もまたそちらへの対処を優先していた。

 

 しかし、海軍上層部は訝しんだ。

 ルナシアがそこにいなかった為に。

 

 隠居したのか、それとも何かを企んでいるのか――行方が掴めないルナシアは不気味な存在であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 新世界のとある海域にルナシアはいた。

 この海域には広大な島々が幾つも散在しており、ゴッドバレーでの戦いから3年という月日を掛けて彼女はようやく探し出した。

 

 

 拠点とするに相応しい場所を彼女は一から作ること――すなわち開拓を選んだ。 

 

 なるべく大きな島がたくさんあること、気候が比較的安定していること――その2つを拠点と定めるにあたって譲れない条件としていた。

 また情報によればどの島も猛獣達の巣となっている為、人がいる可能性は低い。

 実際に見聞色の覇気で探ってみれば獣の気配しかしなかったので情報は正しいだろう。

 

 

 強い海賊団という定義は色々あるが、ルナシア個人は経済力があることだと考える。

 

 様々な産業から莫大な利益を安定的に生み出し、それを背景とした経済力でもって多数の兵力を万全に訓練・教育し、全員に最新の装備・兵器を配備して運用する。

 それこそが強い海賊団であると彼女は確信していた。

 故に彼女は自分が好き勝手やる為、開拓という非常に時間と手間と金が掛かる道を選んだのだ。

 

 とはいえ、誰が聞いてもそんなことをするのは海賊ではないと断言するだろうし、彼女も薄々感じてはいる。

 

 

「……海賊らしくないわね」

 

 ルナシアは思わず呟いたが、すぐに思い直す。

 

「私の好きにやらせてもらう……それだけだわ」

 

 彼女は不敵に笑うのだった

 

 

 

 


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