海賊らしからぬ海賊   作:やがみ0821

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下準備

 新世界にある海軍のとある支部ではここ数年、変わった賞金稼ぎ達が出入りするようになっていた。

 どこが変わっているかというと、彼女達4人の年齢の低さにある。

 リーダーであるアマンドという少女は10代半ばであり、他のメンバーも彼女と同じくらいだ。

 

 しかし、その実力は確かでやって来るときは多数の棺桶を持ってくる。

 売れるものは全て剥ぎ取られていたが、死体の状態は非常に綺麗であり、心臓を一突きされ、殺されていた。

 

 数千万ベリーの賞金首だけでなく、億を超える者も彼女達は仕留めてくる。

 将来有望な凄腕の賞金稼ぎとして、この海軍支部では知らぬ者はおらず、海軍が払った懸賞金も累計すれば莫大なものとなっていた。

 

 基本的にリーダーのアマンドが海軍側とのやり取りをするのだが、彼女は必要なことしか話さず、用事を終えるとメンバー達を引き連れてさっさと帰ってしまう。

 

 ミステリアスな少女達は海兵達の興味を惹き、元帥直属の秘密エージェントだとか、とある大将の子供達で経験を積ませているとか根も葉もない噂で持ち切りであった。

 

 

 その正体を知れば彼らは自分達が賞金を渡してしまったことを後悔するだろう。

 

 

 

 

 

 

「アマンド、アッシュ、カスタード、エンゼル……お疲れ様」

 

 ルナシアは彼女達を労って、1人1人抱きしめて頬にキスをする。

 ご褒美に喜ぶアマンド達にルナシアは微笑みながら、離れたところで金勘定に勤しむバッキンに視線を向ける。

 

「いくらくらい?」

「事前の計算では今回は12億5000万ベリーだったわ。まだ途中だけど今回もちゃんと海軍は支払ってくれたみたい」

 

 ルナシアと出会った当時と変わらない容姿(・・・・・・・・・・・・・・)のバッキンはそう答えながら、妖艶に微笑む。

 

「ねぇ、ルナシア。そろそろ新作のバッグが出るんだけど……」

「はいはい、それも考慮してお金を渡すから」

「やっぱりあなたについてきて良かったわ」

 

 ルナシアの言葉にバッキンはそう答えつつ鼻歌を歌いながら、作業に戻る。

 ゲンキンな彼女にルナシアは思わず笑ってしまった。

 

 

 

 

 

 ルナシアは目当ての場所を見つけたはいいが、開拓に使える資金は皆無に等しかった。

 元々持っていた20億分の金塊をワノ国で孤児院の運営費用に充ててしまった為だ。

 また島を見つけるまではなるべく騒ぎは起こさないように、出会った海賊を殺して財宝を奪う程度に留めておいたという理由もある。

 

 さて開拓に限らずとも、世の中の大抵のことにはカネが必要だ。

 島を見つけたルナシアは金策に奔走することになったのだが――あることを思いついた。

 

 自分が賞金首を狩って、顔が割れておらず手配もされていないアマンド達に海軍へ届けてもらえれば賞金が貰えるんじゃないかと。

 

 試しに低額な賞金首で実行してみたら年齢の低さから疑われたものの、アマンド達が武装色の覇気を使って見せたらすぐに支払ってもらえた。

 ルナシアの為に役に立ちたい、と物心ついたときから自らを鍛え始めていた彼女達の思いが実を結んだ形だ。

 

 ルナシアはアマンド達をこれでもかと褒めまくり、以後お手軽で稼げる金策手段としてアマンド達は賞金稼ぎを演じることになった。

 彼女達も強くなっているとはいえ、新世界の海賊共を相手に回して一方的に勝利できるほどではない為だ。

 

 とはいえ、戦闘経験を積むためにルナシアは彼女達を賞金首との戦闘に連れて行っている。

 手下がいる場合は彼女達に手下の処理を任せることも多いが、基本的にルナシアの指揮下で戦闘は行われていた。

 ルナシアと戦える賞金首となるとかなり限定され、ロジャー海賊団や金獅子海賊団などの見知った連中ばかりだ。

 

 故にルナシアは簡単に賞金首を刈り取って、安全にアマンド達に戦闘経験を積ませていた。

 そしてこの合間にルナシアは見つけた島々に蔓延る猛獣達を倒して回っている。

 恐竜みたいなのやドラゴンみたいなのがいたときはちょっとびっくりしたが、彼女の敵ではなかった。

 

 

「ルナシア、金は集まってきたけど人や物資の手配はどうするの?」  

 

 バッキンの問いかけにルナシアは任せろと言わんばかりに胸を張る。

 

「一攫千金を夢見る連中をかき集めようと思っているわ。どんな種族や素性、経歴だろうが区別はするけど差別はしない」

 

 ルナシアはそう答えつつ、更に言葉を続ける。

 

「来る者拒まず、去る者追わずという精神でやりたいわ。たぶんそれが一番うまくいくと思う。海軍とか他の海賊のスパイとかそういうのは別だけど」

「それでもまずは最初に力を示しておいたほうがいいと思うわ。あなたのこと、世間は忘れ始めているし」

「ゴッドバレーから5年も経てばそりゃそうよね……」

 

 もう5年か、とルナシアは感慨深い。

 あの時のことは今でも鮮明に思い出せるし、ロックスとの会話も覚えている。

 

 好きにやる為の下準備は大変だけど、楽しいものよね――

 

 世界の王になる為に動いていた時もロックスはこんな気持ちだったんだろうか、とルナシアは思う。

 

「バッキン、金はまだまだ足りない。何事も始める時に費用が一番掛かるものだからね」

「……今、金庫に100億はありそうなんだけど?」

「桁が足りないわ。最低でももう1桁欲しいかな」

「新世界から海賊がいなくなるんじゃない?」

「新世界は広いし、安全に殺せる億超えもいっぱいいるから大丈夫。まあ、改心して私の傘下になりたいっていうなら、受け入れてあげてもいいかもね」

 

 ウィンクしてみせるルナシアにバッキンは思う。

 

 どうしてそういう発想になっちゃうのかなぁ――

 

 もっとも、彼女はルナシアがそう決めたのなら文句はない。

 

「ルナシア、物資の方は?」

「ちょっと伝手があるのよ。安心していいわ」

 

 自信満々にルナシアは答えるのだった。

 そして、この会話をした2週間後――彼女はワノ国に出向いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おでん、ワノ国で食い詰め者がいたら貰っていっていい? あと色々な物資とか設備とか発注したいんだけど」

「おう! いいぞ!」

「いつも通りのおでんだわ……スキヤキ様に許可を貰いに行くから、一緒についてきて」

「おい、どうしてそうなるんだ?」

 

 おでんは納得がいかないとばかりに問いかけるが、ルナシアはけらけら笑う。

 

「ところで以前に立案した計画をしっかりと継続実行してくれて、ありがとう」

「うるせぇ。お前と文官達の計画をやっていったら、色々と良くなったからな……ところでルナシア、そろそろ俺を連れて行け」

「スキヤキ様と康イエ様が許可を出したら前向きに検討を始めるわ」

「それ、お前の断り文句だろ。前に聞いたのを覚えているぞ」

 

 ジト目で見つめるおでんにルナシアは笑ってみせる。

 

「ところで菊の丞はどうするんだ? お前のことを一日千秋の思いで……」

「え? 時折、会いに来ているんだけど」

「……知らんぞ」

「孤児院の様子を見に来た時、ちょうど良く彼も孤児院にいるから、そのまま2人で遊びに出かけたりするのよ。いわゆる逢引ってやつね」

 

 おでんはそう言われて納得する。

 菊の丞は家臣であるが、ルナシアとの逢引を報告する必要性はどこにもない。

 とはいえ、うまくいっているのならばおでんにとっても喜ばしいことだ。

 

「そのとき城に行っても良かったけど、おでん様には内緒でってお菊が言うもんだからね」

「そりゃそうだわな」

 

 おでんは頷いたところでルナシアは話題を変える。

 

「お菊、強くなっているわね」

「おうよ。ありゃお前の為に鍛えているようなもんだからな……お菊を不幸にしたら、俺がお前をぶっ飛ばすからな」

「望むところよ。といっても彼には色々と私のことについて説明して、同意してもらっているから」

「……何を説明したんだ?」

「そりゃもう色々と人前で口には出せないことよ……ところでその口ぶりからすると、あなたの家臣からお菊が抜けることは……」

 

 ルナシアの問いにおでんは頷いて肯定する。

 

「アイツがそう決めたんだ。俺はその意思を尊重する」

「やっぱりあなたって器がデカイわね」

「そんなに褒めるな!」

 

 豪快に笑うおでんにルナシアもつられて笑ってしまった。

 

 その後、彼女はスキヤキに許可を得るべくおでんと共に向かう。

 スキヤキはルナシアを歓迎し、すぐに面会に応じた。

 その場で彼女はこの5年に起こったことや自分が島々の開拓をしようとしていることなどを話す。

 その上で、ルナシアは食い詰め者がいれば連れて行くことと物資などを発注したいことを伝える。

 

 どちらもワノ国にとっては利益しかない為、スキヤキは快諾しつつルナシアに尋ねる。

 

「ルナシア殿はどのような国を?」

「海賊らしく、種族も素性も経歴も、何であろうと区別はされても差別はされない国……かしらね。あと私の考えたことを色々やってみたい」

 

 ルナシアの言葉に感心しつつ、スキヤキは告げる。

 

「ワノ国としてもできる限りのことはしよう」

 

 彼の言葉にルナシアは深く頭を下げ、感謝の言葉を述べる。

 そこへおでんが口を挟む。

 

「人手が欲しいなら俺も行こう。ルナシア、いつ出発する?」

「おでん! お前は九里を治める仕事があるだろうが!」

「……ちょっとだけなら」

「ならん!」

 

 否定するスキヤキにおでんは渋い顔をしながらも食い下がる。

 そんなやり取りを見たルナシアは『色々と大変ねぇ』と思いつつ、のほほんと緑茶を啜るのだった。

 

 


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