ルナシアは元天竜人であることがバレた為に悲惨な暮らしを強いられている家族を遠目に見ていた。
彼らはゴミ山に囲まれた掘っ立て小屋に住んでいた。
モルガンズが隣で写真を撮っているが、彼はルナシアが何をしようが口出しはしない。
元天竜人達を殺そうが保護しようが、どっちにしても彼が大好きなスクープである。
一方のルナシアは殺しはないと考えつつも、保護した後にどう使うかで悩ましいが、あることを思いついた。
するとそのとき、1人の子供が泣きながら小屋から飛び出してきた。
まずはお話、聞いてみましょうか――
ルナシアはそう思って、離れた子供の方へ向かった。
泣きじゃくる子供に近づくルナシア、2人から離れて撮影するモルガンズ。
傍目から見ると色々とアレな光景だが、そういうことは気にせず彼女は声を掛ける。
「そんなところで泣いていると、攫われるわよ」
その声に子供は顔を上げて、ルナシアを見た。
子供にも関わらずサングラスを掛けている。
やんちゃそうな印象を彼女は受けた。
「とりあえず……お話を聞かせてくれる? いったい、何があったの?」
ルナシアはそう言って彼に手を差し出した。
その手に困惑した表情を浮かべる彼に対し、彼女は微笑む。
「私はルナシア。あなたの名前は?」
「……ドンキホーテ・ドフラミンゴ」
彼は小さな声で答えた。
「ちょっと歩きましょうか」
ルナシアの提案に彼は小さく頷いた。
住んでいる掘っ立て小屋から、それなりに離れたところまで来るとドフラミンゴはルナシアにぽつぽつと語り出した。
両親が地上で暮らすと言い出したことから始まる悲劇。
これまでの天竜人の悪行への反発が全部、彼ら一家に降り掛かってきた。
それは幼い彼にとってはどうしようもない程に理不尽なことだろう。
ルナシアは話を聞いていて思った。
何で両親はこうなることが予想できなかったんだろう、と。
不思議でしょうがなかった。
「ドフラミンゴ、もし良かったら私のところに来る? 弟も連れて」
「……父上と母上も」
「両親達も連れて行くの?」
問いかけにドフラミンゴは頷いた。
そんな彼にルナシアは今更ながら問いかける。
「私が言うのも何だけど、そんなに簡単に私の言葉を信じていいの?」
「どこだろうとここの暮らしよりはマシだろ!? ゴミを漁って、怯えながら暮らすなんて……! もうイヤだ……!」
そう告げる彼の気持ちがルナシアとしてもよく分かる。
自分も昔はそうだった為に。
「よし、それじゃ助けてあげる。美味いメシと良い教育、その他色々……その対価として、将来は私の為に働いて頂戴」
「望むところだ……!」
ドフラミンゴの力強い言葉にルナシアは満足げに頷いた。
モルガンズもまたスクープが撮れたので、大満足であった。
そしてこれより1週間後、世界経済新聞にまたもやルナシアが載ったが、微妙に記事は変わっていた。
ルナシア、スラム街に暮らす家族を助ける――!
そんな見出しであり、どこにも元天竜人とは書かれていなかった。
世界政府からの情報操作であり、新聞社側は今回は折れた形となる。
モルガンズからすれば弱腰ではないか、と思ったが次は押し通せばいいと思って今回は我慢することにした。
一方、記事を読んで驚いていたのがロジャー海賊団の面々だ。
ルナシアからは助けた家族を自分の拠点に連れて行くという連絡が入っており、合流は遅くなると予想されている。
「やっぱり海賊には向いてないんじゃないか……?」
記事を読み終えてレイリーは軽く溜息を吐く。
ルナシア曰くゴッドバレー事件から3年掛けて拠点を探し、そこから2年は格下の海賊を狩っていたという。
5年の時間は大きい。
その間、ロジャー達は金獅子や白ひげ、ビッグ・マムといった面々と鎬を削っていた。
レイリーが以前に言った、経験を積めば伸びるというのはまさしくそこにある。
もしもルナシアがその争いに加わっていたら、今頃はその再生能力も相まって純粋な殺し合いならロジャーですら勝てるか怪しい化け物になっていたかもしれない。
もしかしたら金獅子や白ひげ、ビッグ・マムすらも傘下に加える程の大勢力になっていたかもしれない。
だが全てはIFの話。
時間は元に戻らない。
今ルナシアは必死に追いつこうとしているが、それでもこうやって船から離れている時間があると、やはり差ができる。
海賊に向いていないとレイリーや他の者が思うのはそういうところも含めてのことだが、おそらく彼女は気づいていない。
「……ロックス海賊団時代も、こうやって船から離れていたのかもしれんな」
それが良いのか悪いのか、レイリーには分からない。
ルナシアがそうしたいと思うのならば、そうすればいいというだけの話で、それで他者と実力に差が出るのはどうしようもないことだ。
それで蹴落とされるなら、そこまでの輩だったというだけのこと。
彼女はこれまで
いかに不死身のような再生能力が凄まじくとも、それを扱う者が研鑽を怠ってしまえば宝の持ち腐れだ。
かといってルナシアのやることをレイリーは否定するつもりもない。
確かに彼女のやり方は堅実で、時間を掛ければ成果が出る可能性は十分ある。
将来的には一大勢力を築き上げることができるかもしれない。
しかし、海賊をやるならば腕っぷしの強さが何よりも重視される。
弱い奴に従う海賊なんぞどこにもいない。
そこらをルナシアは分かっていないのではないだろうか。
推測だが、ロックスが彼女を副船長にしていたのも、再生能力こそ凄いが肝心なところが分かっておらず、なおかつ扱いやすい性格だったから――のような気がする。
実際はどうであったか、ロックスがこの世にはいない以上、真相は闇の中だ。
ともあれ、市民相手にはあの性格はウケが良いだろうが、海賊相手には通用しないのは明白だった。
「自分で選んだ道なら、どういう結果になっても受け入れて欲しいものだ」
とりあえず大物感を出すことから始めた方がいいとレイリーは思いつつ、試練を課してみることにした。
幸いなことに、そういうことにうってつけの強い相手を彼は知っていた。
「白ひげならうまく教えてくれるだろう。アイツはそういう奴だ」
万が一、ルナシアが死んだらそれはそれで仕方がないが――ロジャーがその前に全力で止めにいくことは想像に容易い。
彼が仲間思いであることは船員なら誰だって知っている。
呉越同舟で船に乗っているに過ぎないルナシアであっても、殺されそうになったら助けに入るだろう。
ロジャーや他の船員達に根回しをしておく必要があるが、ルナシアが一皮剥ける為だと言えば納得してくれそうだ。
「問題は白ひげがどこにいるかだが……奴の縄張りをウロウロしていれば出てくるだろう」
レイリーがこんなことをする必要はないように思われるが、たとえ呉越同舟だろうと船に乗っているからには仲間である。
仲間が強くなる為なら協力するのは当然だ。
たとえ、どのような結果を迎えようとも。
レイリーはそう思いつつ、ロジャーと相談すべく彼の下へ向かったのだった。
そして、記事が出てから3週間後。
試練が待ち構えているとは思いも寄らないルナシアはオーロ・ジャクソン号に帰還する。
帰還した彼女を出迎えたレイリーは開口一番に告げる。
白ひげの縄張りにちょっかいを出す。
ルナシア、君は白ひげと単独で戦ってみるといい。
その為に我々が場を整えよう――